Overseas Mission of Mexican SOKEIZAI Industry

メキシコ素形材産業海外ミッションについて
経済産業省製造産業局 素形材産業室
1.はじめに
佐
藤
隆
太
(1)Hino Motors Manufacturing Mexico S. A.
de C. V
平成 26 年 10 月 12 日(日)から 19 日(日)までの 8
海外市場での販売戦略を強化しており、中でもメキ
日間、素形材産業メキシコミッションを実施し、グア
シコを含む中南米地域を重要市場と位置づけている。
ナファト州とアグアスカリエンテス州を訪問した。メ
小型トラック「HINO300 シリーズ」の販売でメキシ
キシコへのミッション派遣は今年が初めてであり、現
コ市場に新規参入。メキシコの工場で生産するトラッ
地企業や日系企業の訪問に加え、グアナファト州政府
クはメキシコ国内市場に供給している。工場の生産能
関係機関等も訪問した。
力は年間 1200 台。
工場があるサンタフェ工業団地には 2014 年 9 月末
2.メキシコの概況について
現在で 85 社が進出しており、その内 35 社が日系企
業である。2009 年に進出していた日系企業は HINO
メキシコの人口は約 1 億 2 千万人で日本と同等の人
2
口を有する国であり、国土面積は 196 万 km で日本
社 1 社であり、ここ数年で急激に日系企業の進出が
増えた。
の約 5 倍に相当する。北は米国、南は南米、また、太
進出直後のリーマン・ショックや急激な円高で、事
平洋と大西洋に繫がる湾岸を有しており、リーマン・
業計画が大幅に修正された苦労を乗り越え現在に至っ
ショック以降は、地理的優位性なども活かして、自動
ている。
車メーカーが次々と進出し製造拠点として注目されて
いる。
近年の実質経済成長率は、2007 年は米国経済の悪
化を受け 3.3%、2008 年は 1.2%と低下した。2009 年
は世界的な経済危機の影響により、‑6.2%となったが、
2010 年は 5.5%、2011 年、2012 年は 3.9%と回復して
いる。直近では、第 2 四半期の実質 GDP 成長率が前
年同期比で 1.6%と、18 期連続でプラスとなっている。
2014 年通年では 2.7%の成長と予想されている。
日 本 と は 伝 統 的 に 友 好 関 係 に あ り、2009 年 か ら
2010 年は日本メキシコ交流 400 周年。また、2013 年
から 2014 年は、メキシコと直接貿易を目指した伊達
政宗が派遣した支倉常長慶長遣欧使節団の出帆及びメ
キシコ上陸 400 周年になる。
3.ミッション概要
熱処理、ダイカスト、金型、鍛造など素形材企業等
(2)HAL Aluminum Mexico, S. A. de C. V.
2010 年 6 月にグアナファト州シラオ市(プエルト
インテリオール工業団地)に設立し、事業内容は、ダ
16 名とミッション団を結成し、グアナファト州及び
イカスト製品の製造及び販売。進出の経緯については、
アグアスカリエンテス州を訪問した。派遣期間中では
元々は取引先のメキシコ工場に日本から納めていた
企業、政府機関等を訪問させていただいた。訪問先の
が、現地で作って欲しいと依頼があり進出に至った。
概要と、お聞きした内容をいくつかご紹介したい。
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Hino 社工場内
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メキシコの人材については、定着率が良くなく、離職
政策TREND
率は 4 〜 5%。社員の定着を進めるために、社員と一
メキシコ国内の工場(第一工場、第二工場)の従業
緒に食事をしたり、母の日にポエムを書いたり等の行
員は約 4000 人で平均年齢は 29 歳。従業員は第二工場
事を行っている。進出の際の苦労は、各企業のメキシ
の設立などで約 2 倍に増加した。
コ進出が増えてきた影響で、通訳(公用語が英語では
なくスペイン語のため)の確保が難しかったとのこと。
(4)Training State Institute(IECA)
1980 年設立のグアナファト州が運営する研修機関
で、メキシコ版の職業訓練所。メキシコ国内に 28 か
所ある。訓練分野は、製図、フライス加工、磨き、切削、
金型メンテナンス機械操作(マシニングセンタなどの
工作機械)など、細かくステージごとに分かれており、
研修機関を卒業した人は、数多くの製造現場で活躍し
ている(マツダ、ホンダなどの日系企業も多く活用し
ている)。約 3 割が自動車産業関係であるが、食品関
係なども可能である。2013 年までの卒業生は約 10 万
人で 6 千以上のカリキュラムが行われた。仕事につな
がるための教育をする学校であり、高校、大学のよう
な形式はとっていない。企業の勤務時間に慣れてもらう
HAL Aluminum 社工場内
ために、勉強時間も企業の時間割に合わせている。必
須科目はなく、それぞれの企業に合ったオリジナルの
(3)Jatco Mexico S. A. de C. V.
2005 年に生産を開始した第一工場と合わせ、メキシ
コでの生産能力は年間約 170 万台。メキシコで CVT
の生産を開始して以来、ジヤトコメキシコはすでに累
計 500 万台以上の CVT を生産している。グループ全
体の累計生産台数の約 4 分の 1 を占めている。OEM
メーカーに近いところで、市場のニーズにタイムリー
に応えながら生産を行うため、グローバルな供給体制
を整えている。訪問した工場は、アグアスカリエンテ
ス州にある日産自動車の第一工場近くに立地してお
り、日産自動車との関係を強化する上で重要な役割を
担っている。
IECA の施設内①
入り口にて記念撮影
IECA の施設内②
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政策TREND
プログラムを組んでおり、終了すればすぐに工場のラ
歳と労働人口が豊富な点も魅力の一つである。一方、
インで働ける。授業料は企業が支払っている。
賃金に関しては、ワーカークラスは安いが、マネー
ジャーやエンジニアについては、日本や北米とあまり
4.所感とまとめ
グアナファト州では、労働力需要の高まりにより、少
メキシコは治安悪化の問題が深刻化しているが、メ
しでも給料の高い企業を求めるため、賃金や雇用条件
キシコ全土が劣悪な治安環境におかれているわけでは
で簡単に転職するケースが多く、労働者の定着率が悪
なく、特に今回訪問したグアナファト州やアグアスカ
くなっている問題もある。
リエンテス州など日本人駐在員が多く住む都市の殺人
ここ数年は、労働力と地理的優位性などによる輸出
発生率は高くはない。しかし、ショッピングセンター
製造拠点として日本企業の進出ラッシュが続き、特に、
駐車場での車上荒らしや、駐在員の自宅への空き巣な
自動車メーカーの進出による、自動車部品企業の進出
どは多発している。また、劣悪な事件を起こしている
が増加している。しかし、急激な自動車生産の増加に
麻薬組織が他の州から流れてきているといううわさも
より、鋳造、鍛造、金型などの素形材企業が不足して
あるので、進出の際には、治安問題等のリスクに対す
おり、訪問した企業の多くは、日本や北米などから供
る対策も十分に必要である。
給を受けているとのことである。このようなことから、
メキシコ人労働者については、与えられた仕事に対
する責任感が強く、また、飲み込みも早いので優秀な
人材が多い。さらに、メキシコ国内の平均年齢は 29
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変わらない水準である。近年進出が急激に増えている
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素形材企業のメキシコ進出は、ニーズが高く有望な候
補地であると考えられる。