半導体マイクロマシン技術 (1) 半導体マイクロマシンの歴史

半導体マイクロマシン技術
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●半導体マイクロマシン技術
(1) 半導体マイクロマシンの歴史
マイクロマシンという呼び方は日本でよく使われるが,欧米ではMEMS(MicroElectro Mechanical
System)と呼ばれることが多い.MEMSは通常は半導体集積回路の加工技術を用いて作られたデバイスを
指すが,マイクロマシンには広義には微細加工技術を追求して従来の機械を微小化したものも含まれる.
日本ではこの方向の研究も多いため,マイクロマシンという言い方が好んで使われている。
マイクロマシンは小さな機械で、なかには運動機構を含む場合もある。高度な機能を備えようとすると、
従来の機械加工の延長では実現不可能であり、集積回路で培われたフォトファブリケーションを中心とし
た微細加工技術によって製作される。フォトファブリケーションを電子システム以外の機械システムなどの
製作に用いる微細加工技術はマイクロマシーニングと呼ばれます。
1970年頃からスタンフォード大学・電気工学科で、シリコン上に薄いダイアフラムを形成した圧力センサ
ーや、ガスクロマトグラフの分析装置をシリコン上に集積化する研究が行われており、これがマイクロマシン
の先駆けとなった。ガスクロマトグラフの開発はNASA(米国航空宇宙局)の委託で行われ、アクチュエータ
であるサンプリングバルブやセンサー(熱伝導検出器)をガス流路と一体化・集積化して宇宙船用に用い
た。
1980年代後半にはカリフォルニア大学・バークレー校のR.S.Muller や東北大学の江刺正喜などからマ
イクロマシニング技術が発表され一躍注目された。これを契機にMEMS(micro electoro mechanical
systems)という言葉が生まれ各国で研究され始めた。当初は微小電気機械システムが中心であったが、1
990年代に入ってからは光技術の導入も始まった。情報通信分野における光情報通信の接続・交換のあ
らゆる場面でマイクロマシニングの応用が始まろうとしている。
加工技術としては当初、結晶異方性ウェットエッチングが主に使われていたが1980年代後半には表面
マイクロマシニングが開発され、さらに異方性ドライエッチング、マイクロヒンジによる折り曲げ構造、型取り
構造など立体化するための技術が次々と開発されている。材料についてもシリコンだけでなく誘電体材
料、化合物半導体、高分子材料、金属、セラミック、生体機能材料などさまざまな材料が使われるようにな
ってきた。
1989年にはマサチューセッツ工科大学やカリフォルニア大学で、直径100µm(ロータの厚さ2µm)の静
電マイクロモータが実際に回転することを示した。当時ニュースで見て驚いた記憶がある。わが国では経
済産業省の産業科学技術研究開発制度により平成3年度から10年計画で始められたマイクロマシンプロ
ジェクト(産技プロ)が平成13年度に終了している。前期のの研究開発では、世界最小の直径1.2ミリの発
電機や直径5.5ミリの自走型配管検査マシンといった世界的にも最高レベルの成果が生まれている。後期
には、経路が複雑な脳血管にも容易にカテーテルを挿入させ、組織の異常を診断するマイクロセンサー
カテーテル、直径15~22ミリの配管内を移動して管内の異物、亀裂を認識する管内自走環境認識用試
作システム、デスクトップサイズで微小な部品の加工などを行うマイクロファクトリー試作システムを完成さ
せている。この10年間で530件の特許を出願している。
マイクロマシン技術は基礎研究段階から実用化応用研究の時代に入り、「いかに作るか」から「何を作る
か」の時代に入った。台湾では昨年MEMSのファウンドリ事業が立ち上がっている。日本では大日本印
刷がMEMSの受託加工ビジネスを始めると発表している。
マイクロマシンでいつも思い出すのが中学時代に見た映画 「ミクロの決死圏」 だ。われわれの生活・社
会を大きく変えるであろうマイクロマシン技術は今まさに産業の米と言われてきたLSI(大規模集積回路)か
ら主役を奪おうとしている。なぜなら、情報通信を支える光通信ネットワークや高密度記録装置など市場が
要求する分野においてマイクロマシンは欠かすことのできない高機能集積システムを提供できるからであ
る。
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(2) 半導体マイクロマシンの応用分野
マイクロマシンの国内市場規模は、2010年には3兆円以上に達するとの試算がある。マイクロマシンの
応用分野は、医療機器、家電・情報機器、産業・プラント、環境機器、自動車、航空・宇宙機器、計測機
器、ホビー機器など広範囲に及んでいます。特に大きな市場が期待されているのが産業用と医療用であ
る。産業用における利用としては、各種プラントの配管系統や航空エンジンのメンテナンスなどに、また医
療用としては、人間の体を切開せずに診断や治療を実現するものとして期待されています。
カメラやはさみ、レーザーなどを組み込んだ極細のカテーテル(管)が実現できれば、切開部を最小限に
抑えながら手術するマイクロサージェリーが可能になる。微量の液体を送り出すポンプは、糖尿病の治療
に使うインシュリンの注射針として要望が強い。
マイクロマシンの駆動方法には用途に応じていろいろ使い分けられている。シリコンをベースにした小出
力用の静電駆動、大出力用の電磁駆動、動作が遅いが大出力の形状記憶合金、また化合物半導体をベ
ースにした光熱駆動、太陽電池などを利用した光起電力、ピエゾ効果を使う圧電素子などいろいろな駆
動法がある。
●センサ ・・・ センサは対象となる物理量(エネリギ)を電気信号に変換するデバイスである。現在、圧
力センサ、車速センサや加速度センサなどが製品化されている。モトローラ社やアナログ・デバイセズ社は
1980年の初期のころからマイクロマシン・センサーの開発に取り組んでいる。加速度センサーについては
1993年アナログ・デバイセズ社より初めてマイクロマシン・センサが製品化された。アナログデバイセズ社
の加速度センサーは多結晶シリコンの重りをバネで支えた構造である。ボールセミコンダクタ社では1mm
のシリコン球とそれを覆う外郭(シェル)の間に隙間を設けた構造で加速度センサーを実現している。(球
面半導体については、特許私考22を参照)
マイクロマシン技術で作ったセンサの最大の利点は、それが極めて小さいことと言える。集積回路と同じ
バッチ処理で大量生産できるため量産規模が大きくなりコスト低減が容易である。
●アクチュエータ ・・・ アクチュエータは電気信号(エネルギ)を物理量に変換するデバイスであ
る。電気信号を微小な機械的変位や高速の運動に変換できる。ミクロン単位の変位は光の波長領域なの
で光学的なアクチュエータとしても使える。また、シリコンを原料に使っているので、摩擦や機械的内部損
失が少なく、構成部品が微小なため余分なエネルギーを必要としないため低消費電力で、高効率のエネ
ルギー変換が可能です。アクチュエータは流量制御や光制御と組み合わせて使うことがほとんどである。
マイクロアクチュエータに影響する支配的な力は、原子間吸引力(ファンデルワールス力)と粘性抵抗で
す。駆動させるエネルギは、電磁エネルギーよりも静電エネルギーのほうが向いている。それは静電エネ
ルギーが表面積に比例するからです。駆動方法としては静電駆動のほかに形状記憶合金を使う方法、ピ
エゾ効果を使う方法、熱膨張を使う方法、表面張力(マランゴニ効果)を使う方法などいろいろなタイプが
提案されています。
●質量流量制御 ・・・ 極微小の流体を扱う技術は今までなかった。マイクロマシン技術の発達で
それが可能になり、それを応用した製品が数多く製品化されている。例えばインク・ジェットプリンター・ヘッ
ドがいい例である。最近のプリンターの宣伝ではインク粒の小ささ(例えば4ピコリットルとか4pl)を争って
いる。ノズルから排出するインクは何らかの圧力で押し出されて紙に印刷される。圧力の方法としてインク
を加熱して極部的に蒸発させて圧力を発生させインクを吐出させる方法と圧電薄膜などで直接圧力を発
生させて吐出させる方法とがある。
先ほども少し触れましたが、糖尿病の治療に使うインシュリンの注射針で微量の液体を制御して送り出
すポンプが、マイクロマシンで実現できれば患者の負担が軽減される。 医療分野での期待はたいへん大
きい。
●光制御 ・・・ この分野ではディスプレー関係とネットワーク関係への応用が多い。近年、インター
ネットの高速化に対応するため光ファイバーによるネットワーク網が広がっています。そこで必要になるの
が光スイッチや光アッテネータ、高密度波長分割多重(DWDM: dense wavelength division multiplexing)
技術などです。マイクロアクチュエータやマイクロミラーの寸法は1~100µmである。光の波長と同程度の
動作距離や大きさを有するので、マイクロマシンは光ときわめてよく相互作用をする。半導体マイクロマシ
ン技術では、たくさんのデバイスを反復して多数並べることが容易で、高速に制御することが可能である。
マイクロミラーに基づくデバイスは、非線形光学効果や熱光学効果に基づく固体デバイスに比べ、特性が
波長に依存しない。また温度特性も安定している。
例えば、テキサス・インスツルメント社が開発したデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)と呼ばれる投射
ディスプレー用マイクロマシンでは、画素数に対応する何百万もの微小可動ミラー(15µm角)をビデオR
AM上に作り、ミラーーの向きを高速(10µs程度)に変えて反射光を高速に制御し、反射する時間の長さ
で画素の明るさを調節している。
光スイッチでは金蒸着したマイクロミラーをアクチュエータと組み合わせて光の通路を遮ったり通したりす
ることで光信号のスイッチができる。マイクロミラーでなくシリコンオイルを使って光のスイッチングをする方
法も報告されています。シリコンオイルの制御は局所的な熱による表面張力の変化(熱毛細管現象)を利
用しています。
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(3) マイクロマシン加工技術
シリコン等の半導体を使ってマイクロマシーニングする場合、その製造法には大きく分けて2種類ある。1
つはバルク・マイクロマシーニングで、これはウェーハの段階でバルクのシリコン等の半導体に溝・穴・構造
物などを化学処理によって製造する方法。この方法では反応性イオン・エッチング(RIE)などで深くエッチ
ングしたり、あるいは陽極接合によるガラスの張り合わせなどをして立体的な構造を実現している。構造の
自由度が大きいという特徴がある。
もう1つは、サーフェイス・マイクロマシーニングで、シリコン等の半導体基板の上に層を作り特定の部分
をエッチングして必要な構造を作っていく方法で従来のLSIプロセスが生かせるので、いろんな面で適合
しやすい。。機械的に動く構造やちょうつがいで立てられる構造も作れる。
下図の片持ちはりは大きく変形させても壊れずほとんど理想的な弾性変形をする。一般に強度は材料
の表面や内部の欠陥に依存するが、シリコン単結晶の場合は無欠陥で完全性が高いと強度はかなり大き
い。単結晶シリコンの引っ張り強度は約13GPaであるが、これは鋼鉄の15倍以上の強度である。マイクロ
マシンで単結晶シリコンを使えば優れたバネ材料が得られることになる。
下表に、各種マイクロマシンの加工法を示した。
この中で紹介されているLIGAプロセスについて解説します。このプロセスはアスペクト比(加工幅と深さ
の比)の大きな形状を作る技術で、ドイツで開発されました。数百µmの感光性フィルムを用い、透過性の
よい硬X線でパターンを転写することで深い孔を作り金属メッキして作ります。
下図にそれぞれの主な加工技術の例を示した。
各種マイクロマシン加工法の特徴と応用例
マイクロマシンの応用例
圧力センサーの感圧
膜 , 平滑ミラー , 光ファ
イバー固定用V溝
マイクロアクチュエータ ,
各種立体構造
各種センサー , アレイ
化システム
スキャナー , 空間光変
調器 , 各種スイッチ
マイクロアクチュエータ ,
精密な立体マイクロ構
造
材 料
加工法
特
徴
単結晶シリコ 結晶異方性ウ 単結晶 Si の結晶面で決まる
ン・水晶
ェットエッチング 正確な立体構造
異方性ドライエ
ッチング
多結晶 Si 薄 表面マイクロマ
膜・各種薄膜 シーニング
マスクパターンに応じた自由
な形を持つ立体構造
CMOSプロセスとの適合 , 極
微細構造の製作に向く
薄膜マイクロ構造をひんじか
多結晶 Si
ひんじ構造
ら折り曲げて立体構造を実現
多結晶 Si , LIGA , 射出形 X線リソグラフ , ドライエッチン
金属 , プラス 成 ,ヘキシル構 グ等での立体的な型をもとに
チック
造
複製が可能。
シリコン
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(4) 半導体マイクロマシンの特許
MEMS技術はマイクロの領域(100万分の1メートル)からより小さいナノの領域(10億分の1メートル)に
拡大しつつある。特許検索してみて驚いたのは、マイクロマシンやナノマシンの応用分野が幅広くしかも
電気、半導体や機械に関する企業だけでなく多くの企業が特許出願していることでした。
最近燃料電池の話題をよく聞きますが、自動車用だけでなくパソコンや携帯電話用の燃料電池も数年
後に製品化されると言われています。固体高分子型の燃料電池用にマイクロマシニーングで製造したマ
イクロリアクタ(小型燃料解質器)でH2を生成しながら使う技術やカーボンナノチューブを使ったH2の貯蔵
技術などマイクロマシンへの応用は計り知れない。
カーボンナノチューブは1991 年に発見され、1992 年にNEC から世界初の製法特許が出願された。翌
年より製法特許件数は増加を示し、1995 年に、カーボンナノチューブの優れた電子放出機能に関する特
許出願や論文発表を受け、更に製法特許や応用特許件数は増した。1999 年にはCRTディスプレイの電
子銃に置き換わるデバイスとしてカーボンナノチューブを用いた表示装置が発表されるに至り、カーボン
ナノューブの製法や応用に関する技術開発は、特許面および研究開発面で注目されている。
カーボンナノチューブは、典型的なナノサイズおよびナノサイズ効果の物性を有した稀にみる優れたナ
ノ構造材料であり、やがてシリコンに並ぶ[産業の米]になる可能性があると期待されている。カーボンナノ
チューブは、新規技術としての応用技術(ブラウン管に替わるカーボンナノチューブを利用したディスプレ
イ用の電子銃、燃料電池での水素吸蔵材料、SPM での探針や新規コンポジット材料等)での利用に供給
されるべく量産化技術開発の最中にあり、日産数百gの量産が可能になっている。
下表に 日本での出願・特許例をいくつか示しました。興味ある方はどうぞ。
マイクロマシンに関する各社の特許例
特許番号
出願人
特開平05
富士電機 ㈱
-091691
特開平05
カシオ計算機 ㈱
-106615
特開平05
三菱電線工業㈱
-180206
特開平05
三洋電機 ㈱
-228858
特開平05
㈱ 安川電機
-231101
特開平05
日本電信電話㈱
-268782
特開平05
-272457
特開平06
-000190
特開平06
-038410
特開平06
-038561
特開平06
-046584
特開平06
-061509
特開平06
-112509
特開平06
-350105
特開平07
-203689
特開平07
-281614
テルモ ㈱
㈱ 島津製作所
三洋電機 ㈱
松下電器産業㈱
富士通 ㈱
テキサス・
インスツルメンツ
沖電気工業 ㈱
日本電気 ㈱
タ イ ト ル
マイクロマシンの軸受構造
バブルアクチュエータ
自走型マイクロマシン
マイクロマシン
アクチュエータ
マイクロアクチュエータ
マイクロポンプおよびその製造方法
マイクロマシン通信装置
マイクロマシンにおけるエネルギ供給システム
静電型マイクロウォブルモータ
マイクロマシン駆動装置
加速度検出のための構造及びそのセンサ素子の製造
方法
ミクロマシンの製造方法
マイクロマシンとその製造方法
積水化学工業 ㈱
静電アクチュエータ
オリンパス
光学工業 ㈱
マイクロマシンを利用した表示装置
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