東北大学大学院医学系研究科 平成26年度 第4回 学際領域ゼミ 日時 平成26年9月3日(水) 17:30~19:30 場所 第2講義室(医学部1号館1階) 演題名 「犬と猫の脳神経疾患 〜獣医学と医学の連携〜 」 日本獣医生命科学大学 准教授 長谷川 大輔 先生 ※講演内容につきましては、添付の抄録をご覧下さい。 ※本ゼミは、医学履修課程2~4年次、障害後期課程2~3年次学生の履修対象科目です。 ①ゼミ(全6回)の出席とブースター申請にて、単位が認定されますので、該当学生は必ず参加ください。 ブースターは現在申請期間中です。(8月25日(月)締切:詳細は要項で確認してください) ②ゼミの出席は、受付で配付するアンケートの提出をもって確認します。 単位履修者はゼミ終了後にアンケート回収箱までご提出ください。 一般講演も兼ねておりますので、 学部生・教職員のみなさまも奮って ご参加ください。 主催 東北大学大学院医学系研究科 大学院合同運営委員会 平成 26 年度東北大学大学院医学系研究科学際領域ゼミ(2014 年 9 月 3 日) 『犬と猫の脳神経疾患 〜獣医学と医学の連携〜』 Brain diseases in dogs and cats: Suggestion for translational research between veterinary medicine and human medicine 長谷川 大輔,獣医師,博士(獣医学) Daisuke Hasegawa, DVM, Ph.D. 日本獣医生命科学大学獣医学部臨床獣医学部門治療学分野 I(神経内科・脳外科) ■ はじめに:獣医学と医学のトランスレーショナル研究 私は獣医大学の教員であり,大学付属動物病院では犬と猫の神経内科・脳神経外科を専門としている臨 床獣医師である.私が今回ここに呼ばれたのは,おそらく私が皆さんと同じ大学院生時代に獣医での脳 外科,特に犬猫のてんかん外科の導入を熱望して犬を用いた実験てんかんを始めた結果がヒトてんかん 学の基礎研究としても貴重な情報になった,という事が大きな要因だろう(それと同時に得られた医師 の先生方との交流がもう一つの要因).これは今回の演題である獣医学と医学の連携,流行の言葉に乗っ かれば「獣医学-医学間のトランスレーショナル研究translational research between veterinary medicine and human medicine (VMTR)」 (私の勝手な造語)ということになる.トランスレーショナル研 究は元々「基礎研究での研究成果を臨床で実現化させるための橋渡し研究」のことであるが(これは当 たり前のことだと思うのだが) ,これを拡大解釈したのがVMTRであり,これは基礎→臨床だけでなく,基 礎医学,臨床医学,基礎獣医学,臨床獣医学が各々双方向性に利益を得る,つまり(win-win)2となること が期待される.獣医学は医学に比べ 10 年,いや 20 年位遅れていると思うし,また研究予算もおそらく 10 倍以上の差があるだろう.獣医学は医学と共同研究することで,より先端的な研究を行えるようにな るであろうし,医学は動物のスペシャリストと一緒に仕事をすることで,より高度な,再現性の高い研 究をサポートしてもらえるだろう.そんな理想像を描きつつ,本講演では私が専門としている犬猫の神 経病分野から優れたVMTRになるであろう/なっている疾患を幾つか紹介する. ■ てんかん Epilepsy てんかんはおそらく全ての哺乳動物で起こりえる脳の慢性機能性の病態生理学的機構であり,ヒトでは 1%,犬では 1-5%,猫でも 0.5%の頻度で認められる医学,獣医学ともに最も一般的な脳疾患である. 犬猫のてんかんも,ヒトの国際抗てんかん連盟(ILAE)の分類に倣って分類され,病因から特発性(素 因性/原因不明)てんかん,症候性(構造的)てんかん,発作型から焦点性発作,全般発作に分類され る.犬では特発性てんかんが多く,猫では症候性てんかんが多い.獣医療においててんかんの診断は, ヒトでゴールドスタンダードである脳波は殆ど行われず,問診と症候学,そして画像診断からの診断と なる.治療は専ら抗てんかん薬による内科的療法であり,ヒトの難治性てんかんで行われるてんかん外 科はない. 医学におけるてんかんの基礎研究は,主にラット,マウス,猫を実験動物として,キンドリングモデ ル(ラット,猫),カイニン酸モデル(ラット,猫),ペンチレンテトラゾール投与やペニシリン塗布モ デルなどの人為的に作成した発作モデルと EL マウスや遺伝性てんかんラットといった遺伝性てんかんモ デルによって発展してきた.しかしながら,人為的モデルは発作モデルであり,真のてんかんではなく, またラットやマウスの遺伝性モデルは脳回がなく,脳サイズも小さい.そのような背景の下,最近我々 は「自然発生性家族性てんかん猫 familial spontaneous epileptic cat (FSEC)」の家系を発見し,猫で 初めての遺伝性てんかんモデルとして分離した.FSEC のてんかんは常染色体性劣性遺伝であると推測さ れ,発症個体同士の交配によって出生した F1 もてんかんを発症する.発作型は典型的な自発性の辺縁系 発作(扁桃核-海馬に起始する複雑部分発作)とその二次性全般化および前庭刺激誘発性の全般発作であ る.FSEC はヒトで最も一般的な難治性てんかんである内側側頭葉てんかんの自然発生モデルとして有用 であるとともに,中型動物であることから,基礎研究のみならず,様々なてんかんの臨床研究にも対応 できるものとして期待している. 一方,犬でも進行性ミオクロニーてんかん(ラフォラ病)や良性家族性てんかんの遺伝子( LGI2 の mutation)が発見され,ヒトのモデルとして利用されつつあり,さらには犬てんかん患者がヒトてんか んの自然発生モデルになるとする論文も多く公表されている.また最近になって欧州より電位依存性カ リウムチャネル(VGKC)に自己抗体を有する辺縁系脳炎のてんかん重積猫症例も発見された.これらは てんかん分野における VMTR を実現化しつつある. ■ ライソゾーム病 Lysosomal storage diseases(LSDs) ライソゾーム病 (LSDs)は細胞内ライソゾーム中の加水分解酵素が遺伝的欠損することで代謝基質が細胞 内に蓄積する疾患であり,細胞内蓄積は全ての臓器で生じるものの,他の臓器に比べ細胞の turn-over が殆ど無い神経系の症状が表出するため,医学では小児科・小児神経科,獣医学では神経科が主に担当 することになる.LSDs は一般に常染色体性劣性遺伝の致死性変性性疾患であり, ファブリー病を除く LSDs は厚労省で難病指定されている.ヒトでは約 50 疾患が同定されているが,動物では 30 程度しか同定さ れていない.本講演では演者と動物における LSDs の第一人者である大和修先生(鹿児島大学獣医)を中 心とした共同研究者,臨床獣医師が診療・研究を進めてきた日本において確認された犬猫の GM1 ガング リオシドーシス,GM2 ガングリオシドーシス0バリアント(Sandhoff 病) ,および神経セロイドリポフス チン症(Batten 病)について紹介する. ■ 認知症 Dementia (Cognitive dysfunction) 高度経済成長・少子高齢化に伴って人々の愛玩動物への考え方が変化し(番犬・飼い犬から伴侶(家族) 動物へ) ,それに呼応した小動物(犬猫)臨床の高度医療化によって犬や猫の寿命も延長し,老齢性疾患 も増加している.その代表格が医学で言う認知症dementia,獣医学で言う認知機能不全症候群cognitive dysfunction syndrome(CDS)である.犬も 12 歳を超える頃になると,多くは白内障や加齢性難聴を伴 いつつ,しつけ(トイレやコマンド)の忘却,見当識障害,徘徊(無目的な強制歩行),昼夜逆転,無目 的な咆哮,多食,運動失調,姿勢異常と進行性の認知症徴候を呈し,最終的には起立不能,死亡という 経過を辿る症例が比較的多く診られる.またヒトと同様に,CDSに罹患した動物のオーナーには介護疲れ, 介護うつがみられるようになる.これらの動物の脳をMRIで観察すると,全脳性脳萎縮(特に前頭葉や海 馬で顕著)や多発性の微小出血痕が認められる.犬のCDSがヒト認知症,特にAlzheimer病に類似するこ とは以前から指摘されおり,様々な病理組織学的研究が行われてきている.その結果,犬や猫のCDSにお いてもβアミロイドが脳実質(老人斑) ,血管壁(脳血管アミロイド症)に沈着し,また過リン酸化タウ の蓄積および白質のミエリン減少などが確認されており,ヒト認知症患者の病理組織象と共通した病態 生理現象が生じているものと考えられている.しかしながら,Alzheimer病のもう一つの特徴的所見であ る神経原線維変化 neurofibrillary tangle(NFT)は犬猫において検出されないことから,今の所,犬 猫のCDSはAlzheimerの名を冠していない(犬猫にNFTがみられないのは,寿命の違いからではないかとい う説が有力であり,その事から犬のCDSはヒトAlzheimer病の相同疾患であるとみる研究者も多い).もち ろん,ヒトで解決していない(根治的治療法のない)認知症であるため,当然犬猫のCDSにも有効な治療 手段はない.DHAやEPAといったω3系脂肪酸,抗酸化剤を含む療法食やサプリメントが中心的に用いら れているが,薬物療法としてアメリカでは塩酸セレギリン(MAO B 阻害薬;パーキンソン治療薬)が用い られている.またヒト認知症治療薬である塩酸ドネペジル(アリセプト)などが利用されつつあるが, まだエビデンスを得る程の大規模研究は行われていない.本講義では犬のCDSの臨床徴候と私が見出した CDSの特徴的な画像所見について簡単に紹介する. ■ 脳腫瘍 Brain tumors 認知症と同様,動物の高齢化・獣医臨床の高度医療化に伴い犬猫の脳腫瘍も生前診断・治療が行われる ようになった.犬の脳腫瘍は 10 万頭に 14.5 頭であり(ヒトは 10 万人に 12.8 人というデータがあり, 犬の方が発生率が高い) ,犬の全腫瘍のうち 1.9%を占めるという.猫の頻度は報告によって差があり, 0.0035〜2.2%と一定しない.犬で最も多いのは髄膜腫,次いで星状膠細胞腫,希突起膠腫,脈絡叢腫 瘍・・・と続く(下垂体を除く.但し下垂体腫瘍,特に微小腺腫は犬において非常に多い) .猫ではやは りトップは髄膜腫,次いでリンパ腫,星状膠細胞腫/希突起膠腫である.犬ではおよそ7歳以上(中央 値9歳) ,猫では 11 歳以上(中央値 11 歳)で認められる.診断は主に MRI が用いられ,治療法は対症療 法(積極的治療を望まないオーナーが多い;海外では診断直後に安楽死されるケースも少なくない),外 科手術,メガボルテージ治療器(LINAC)による放射線治療,化学療法,およびそれらの組み合わせが一 般的である. 現在,私の大学では主に 3 テスラ MRI を用いた画像診断学的研究(拡散強調画像,拡散テンソル画像, 潅流画像,MR スペクトロスコピーなど)を行っている.犬猫の脳腫瘍に対する外科手術,放射線治療, 化学療法といった治療法はまだ歴史も浅く,ヒトに比べると大幅な遅れを取っているが,ヒト脳腫瘍の 自然発症モデルとしての価値が高いものと思われるため,本講義で紹介する.現にナビゲーターを用い た手術法,non-thermal irreversible electroporation (N-TIRE)法,convection-enhanced delivery(CED) 法,遺伝子療法などの基礎研究に犬の自然発生グリオーマが用いられている. ■ その他の期待される VMTR 本講義では時間の関係上,紹介しきれない VMTR が期待される疾患がまだ多くある.私の専門はてんかん であり,それ以外の疾患各々について深い知識があるわけではないが,幾つか列挙しておくので,興味 がある方はご一報いただければ専門の獣医を紹介できる(かもしれない). ● 先天代謝異常症 Congenital metabolic disorders(inborn errors of metabolism) ライソゾーム病と同様,ジヒドロピリミジナーゼ欠損症,グルタル酸尿症 II 型,L-2-ヒドロキシグ ルタル酸尿症,メチルマロン酸尿症,カナバン病,メイプルシロップ尿症などの先天代謝異常症がタ ンデムマススクリーニングや尿のガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー(GC/MS)など で発見されるようになってきている. ● 脊髄小脳変性症 Spinocerebellar degeneration・白質ジストロフィーLeukodystrophy ヒトの脊髄小脳変性症に類似する疾患として,小脳皮質アビオトロフィーcerebellar cortical abiotrophy や神経軸索ジストロフィーneuroaxonal dystrophy と呼ばれる遺伝性の変性性疾患が犬, 特に本邦ではパピヨンやパピヨン雑種で散見されている.ただしヒトで認められるようなポリグルタ ミン凝集は確認されていない.またアレキサンダー病に類似した白質ジストロフィーも犬において報 告されている. ● 筋萎縮性側索硬化症 Amyotrophic lateral sclerosis (ALS) 犬,特に高齢のジャーマン・シェパードやウェルシュ・コーギーといった犬種では変性性脊髄症 degenerative myelopathy (DM)と呼ばれる慢性進行性運動失調〜不全麻痺〜死を呈する疾患がある. この疾患は原因遺伝子?としてスーパーオキシドジスムターゼ1遺伝子(SOD1)の変異が確認されて いる.ヒト家族性 ALS の一部でもまた SOD1 変異が認められており,犬の DM がヒト ALS の自然発症モ デルになり得るとのことで研究が進められている. ● 椎間板疾患 Intervertebral disk diseases 椎間板ヘルニアを代表とする椎間板関連の疾患は犬において最も多い脊椎疾患である.ヒトと同様, 頚部,頚胸移行部,胸腰移行部,腰仙部に多い.ヘルニアのタイプも主として髄核逸脱型(獣医療で は Hansen I 型という)と線維輪の膨隆・突出型(Hansen II 型)がある.この他,尾側頚椎や腰仙 椎において動的変化を生じるタイプ,靱帯が肥厚するもの,脊椎奇形に関連するものなど多数存在す る.併せて脊髄損傷およびその再生医療に関する研究に犬は多く用いられている. ● 水頭症 Hydrocephalus およびくも膜嚢胞 Arachnoid cyst 犬,特に人気犬種(おそらく繁雑なブリーディングによって)では先天性の水頭症が良く認められる. 獣医療においても脳室−腹腔(VP)シャントが用いられている.バルブは固定圧が良いのか,可変式 が良いのか,動物でサイフォン機能は必要なのか,などがよく議論されているが,未だ標準化されて いないのが現状である.また神経内視鏡による第三脳室底開放などは殆ど報告がない.また一定の犬 種(マルチーズやペキニーズ)では四丘体槽にくも膜嚢胞が頻発している.くも膜嚢胞についても嚢 胞−腹腔シャントや嚢胞切開術などが施行されている. ● キアリ奇形ー脊髄空洞症 Chiari malformation –Syringomyelia 特にキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル(80%以上!)において,ヒト Chiari 奇形 I 型 に類似した小脳虫部尾側縁の脊柱管内陥入と,それに併発した脊髄空洞症が認められている.中齢以 降で発症することが多く,頚部や体幹の掻痒感から頚部痛,知覚過敏,重度となれば側湾症,不全麻 痺が認められる.内科的治療に加え,大後頭孔拡大術や空洞−くも膜シャント術等が用いられるが, 成績はそれほど良くない. ● 大脳皮質形成障害 Cortical dysplasia 犬において,滑脳症,裂脳症,多小脳回,異所性灰白質などの大脳皮質形成障害が極まれに報告され ている.大脳皮質形成障害は症候性てんかんとしても良く認められるため,演者は現在,これらの症 例収集を行っている.また大脳皮質形成障害とは少し異なるが,脳梁欠損を伴う全前脳胞症などもま れに認められる. ● 免疫介在性/自己免疫性髄膜脳脊髄炎 Immune-mediated/Autoimmune meningoencephalomyelitis 犬において,おそらくてんかん,脳腫瘍と同じくらい頻発する脳疾患が,免疫介在性/自己免疫性の 脳炎/髄膜脳脊髄炎である.代表的なものに自己アストロサイト,特に GFAP に自己抗体を有する壊 死性脳炎 necrotizing meningoencephalitis(NME)と遅延型アレルギーが疑われている肉芽腫性髄 膜脳脊髄炎 granulomatous meningoencephalomyelitis(GME)とがある.特に GME は囲管性細胞浸潤 (主として T 細胞とマクロファージ)が群をなして多発性の肉芽腫を形成したり,播種性に脳脊髄白 質に炎症像を引き起こす.治療は免疫抑制療法であるが,長期的予後は不良である.GME はヒトの多 発性硬化症 multiple sclerosis(MS)の近縁疾患ではないかと考えられている. ● 炎症性ニューロパチー Inflammatory polyneuropathy 犬および猫において,まれではあるが,炎症性多発性ニューロパチー(急性 or 慢性多発性神経根炎) が認められる.ヒトの Guillain-Barre 症候群に類似する疾患と考えられている.自然寛解するまで 支持療法を行うか,あるいは回復を早める目的で免疫抑制療法が行われているが,血漿交換療法や免 疫グロブリン療法も考慮されている. ● ナルコレプシー Narcolepsy 犬では家族性および孤発性のナルコレプシー,特にカタプレキシー(情動性脱力発作)cataplexy が まれに認められる.家族性のものはドーベルマンでコロニー化され,スタンフォード大学/秋田大を 中心に研究が進められている.家族性のナルコレプシーは常染色体性劣性遺伝でありヒポクレチン2 受容体(Hcrtr2)遺伝子の変異である. ● 脳血管障害 Cerebrovascular disease 犬と猫の脳血管障害はヒトに比べ少ない.また原因を特定できることも少なく,あまり多くの研究が 行えていない.その中でも小脳梗塞 cerebellar infarction は犬において時折認められる脳血管障害 であり,特に前小脳動脈(ヒトで言う上小脳動脈 superior cerebellar artery)の梗塞が多いよう である.また高齢動物ではラクナ梗塞 lacunar infarction が偶発的に見つかることは比較的多い. 一過性虚血性発作 transient ischemic attack(TIA)も認められるが,詳細な研究は行われていな い. ● 重症筋無力症 Myasthenia gravis 犬と猫でまれに重症筋無力症が認められる.ヒトと同様,特徴的な臨床徴候に加え,抗アセチルコリ ン受容体抗体の測定,反復刺激試験,テンシロン(エドロホニウム)試験で診断する.局所型,全身 型,激症型もあり,また猫では胸腺腫との関連も認められている. ● 筋ジストロフィー Muscular dystrophy 犬と猫でも筋ジストロフィーが認められる.犬の多くは X 染色体連鎖性の Duchenne 型でジストロフ ィン遺伝子の異常によって発現する.様々な犬種で認められるが,ゴールデンレトリーバーの家系か ら人工交配によって作出されたビーグルの X 染色体連鎖性筋ジストロフィーが国立精神・神経センタ ーで系統維持され,様々な研究が行われている.また猫では肥大型筋ジストロフィー(ジストロフィ ン異常,X 染色体連鎖性)やラミニンα2欠損型筋ジストロフィー(常染色体性劣性)も認められる. ■ おわりに この様に,神経疾患だけでも人獣共通疾患,VMTR が行えるであろう疾患は紹介しきれないほど数多くあ り,当然神経分野以外の領域にも多くの共通疾患が存在する.最近は『Zoobiquity』(翻訳本:「人間と 動物の病気を一緒にみる:医療を変える汎動物学の発想」 (ホロウィッツ,バウアーズ著,インターシフ ト出版) )なる書籍も発行され,ベストセラーになっている. (もともと比較医学 comparative medicine という学問が存在しているのだが・・・).医学研究者は,もちろんラット・マウスでの研究も重要であ るが,一度犬や猫などの中型動物,特に獣医領域での臨床・研究内容にも眼を向けてみてはどうだろう か.齧歯類や人工モデルでは不可能な研究アイディアが浮かんでくるかもしれないし,ブレイク・スル ーを引き起こすような成果が得られるかもしれない. 何かご相談できることがあれば,お気軽にメールをしてみて下さい:[email protected]
© Copyright 2024 Paperzz