【パラダイム】 グローバル化と国際化 北海道大学大学院教授 宮脇 淳 グローバル化は国際化と異なる。国際化が国の枠組みを前提として国家間のあり方を検討す る問題であるのに対し、グローバル化はいかに国家の枠組みと国家間の壁を取り払い、資金、 人、技術などの資源が自由に移動できる制度を形成するかの問題である。そこで、国や地方自 治体等の行政は、国家あるいは国家の中の限定された枠組みにおいて活動するため、グローバ ル化を求める流れからはその存在が閉鎖的・硬直的として批判される。小泉政権でも日本経済 のグローバル化の推進は、重要な政策課題に位置づけられている。その実現に向けては、国家 の枠を前提に形成されてきた規制の見直し、国家の枠を超えた情報の流通を実現するIT化な どが不可欠の条件となる。 郵政事業においては、郵便貯金、簡易生命保険が金融市場のグローバル化の中に位置するば かりでなく、郵便事業も国際的物流企業の成長により通信業の市場開放同様、グローバル化の 大きな波に直面している。このため、郵政三事業の従来の独占的形態をグローバル化の面から いかに改革するかが争点となる。しかし、同時に求められるのは、アメリカンスタンダードと も言われる今日のグローバル化の実態(グローバル化の中でアメリカのみが国家の枠組みを維 持する実態)の中で、ローカルスタンダードとして国家の枠組みを強固に形成し、グローバル 化の波から切り離しても維持すべきセーフティネットとしての機能が郵政事業の中に存在す るか否かについての議論である。そうした機能が存在するのであれば、民営化したり全ての規 制を排除することは不適切となる。 グローバル化の中でも国家の枠組みを残し、ローカルスタンダードとして守るべきセーフテ ィーネットの有無とその内容が議論されなければならない。そのことは、市場原理・競争原理 の導入を図りつつ、市場原理・競争原理がもたらす失敗に対して設けるべき安全装置は何かと いう議論にも通じる。この点は、グローバル化の中の地方自治体のあり方を考えるに際しても 重要な点である。グローバル化は、国家の枠組みすら取り払おうとする本質を持つ。このため 徹底したグローバル化では、地方自治体の枠組みも弊害となる。規制緩和やIT化をグローバ ル化の本質の中で再整理し、地域の枠組みとして残すべき価値観と機能は何か、それを担う上 での地方自治体の役割は何かを真剣に問わなければならない。経済・金融のグローバル化が避 けられないことを踏まえつつ、単純なグローバル化が地域の均一化を進め地方分権と異なる結 果をもたらす側面を持つことに留意すべきである。グローバル化の中で地域の経済と生活を維 持して行くには、IT化などにおいても明確なローカルスタンダードの形成に取り組む必要が ある。それが、グローバル化の中で地域を生き残らせるための戦略に結びつく。 「PHP 政策研究レポート」 (Vol.4 No.53)2001 年 9 月 1
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