平成26年度 地域づくり海外調査研究事業調査報告書 ノルディックスキーを通した 地域活性化方策 調査地:イタリア ヴァル・ディ・フィエンメ 調査日:平成 26 年 9 月 8 日 平成26年12月 一般財団法人 地域活性化センター 総務企画部 菊池 総務課 崇史 目 次 1.名寄市の現状と課題 P. 1 (1)名寄市の概要 P. 1 (2)名寄市のスポーツ振興 P. 1 (3)名寄市のノルディック施設 P. 2 (4)名寄市の課題と調査先 P. 2 2.イタリア北部 ヴァル・ディ・フィエンメにおける取り組み P. 3 (1)ヴァル・ディ・フィエンメの概要 P. 3 (2)ヴァル・ディ・フィエンメとノルディックスキー世界選手権 P. 4 ①大会開催実績 P. 4 ②国際大会開催の経緯 P. 5 (3)ヴァル・ディ・フィエンメ実行委員会組織 P. 5 (4)開催費用と行政支援 P. 7 (5)施設の改修・整備と維持管理 P. 7 (6)施設と合宿誘致 P. 9 (7)大会開催と観光・交流人口 P.10 3.名寄市への提言 P.10 (1)大会組織体制 P.10 (2)施設の改修・維持管理 P.11 (3)合宿誘致と環境整備 P.12 (4)大会開催・合宿誘致の可能性 P.12 4.おわりに P.13 1.名寄市の現状 (1)名寄市の概要 名寄市は、北緯 44 度、東経 142 度、北海道北部の中央に位置し、市域面積 535 キロ平方 メートル、人口は約3万人の農業を基幹産業とする都市である。明治 33 年に開拓がはじま り、交通の拠点として栄え、サービス業も含め地域の中核的な存在として発展してきた。 また、北海道内陸の盆地特有の気象条件で、夏冬の寒暖差が 60℃以上に及び、夏は、観 賞用やひまわり油の栽培用ひまわりが市内各所で咲き誇り、冬は、雪質日本一として親し まれる「名寄ピヤシリスキー場」 、 「名寄ピヤシリシャンツェ」、道立公園内の「カーリング ホール」など寒さを活かしたスポーツ施設を備えているほか、国内最大級となる口径 1.6 mの望遠鏡を設置したなよろ市立天文台「きたすばる」があり多くのスポーツ、文化交流 施設を有している。 さらには、ICUや感染病棟をはじめ、ドクターヘリポートを備え道北医療の基幹的な 役割を果たし、地域センター病院にも指定されている「名寄市立総合病院」 、保健・医療・ 福祉における専門知識を養い地域に貢献できる人材を養成している日本最北の公立大学 「名寄市立大学」や日本最北の陸上自衛隊名寄駐屯などが設置されており、旭川以北の中 心地としての都市機能を集積した都市となっている。 (2)名寄市のスポーツ振興 名寄市は、平成 24 年3月に新名寄市総合計画(1次)後期基本計画を策定し、その 中の基本目標の一つ「創造力と活力にあふれたまちづくり」の観点から「観光の振興」 の方策として、より具体的な戦略事業として、名寄市観光振興計画を策定した。 観光振興計画では、人や自然、施設をはじめとして、地域が有するあらゆる魅力を資 源として活用し、交流人口の拡大、移住・定住促進による地域の活性化を目指している。 その一つが、スポーツの振興とスポーツを活かした交流人口の拡大であり、名寄市の 大きな特色の一つである冬の寒さ、恵まれた雪資源を活かしてスキー場、ジャンプ台(サ マージャンプ対応)、クロスカントリーコース、屋内カーリング場等を整備することに より大会・合宿等の誘致を行ってきた。 とりわけスキーの大会開催実績が多く、過去にノルディックコンバインドのワールド 1 カップを2度、冬季スキー国体を2度開催しているほか、全日本スキー選手権や全日本 スキー連盟公認大会、インターハイや全国中学スキー大会も複数回開催している。 来年度は全国中学スキー大会、再来年度からは複数年JOCジュニアオリンピックカ ップノルディック種目の開催が決定しているほか、新種目の開催も検討している。 (3)名寄市のノルディック施設 名寄市には、ノーマルヒル、ミディアムヒルのジャンプ台があり、それぞれSAJ(全 日本スキー連盟)公認、サマージャンプ対応仕様となっている。ノーマルヒルジャンプ 台は日本国内に数基しかなく、北海道内でも札幌市(宮の森)と名寄市にしか存在しない。 平成 19 年に財団法人日本オリンピック委員会スキー競技強化センターに認定され、人工 降雪機3基を導入したことから、暖冬で雪不足の年であっても 12 月上旬から中旬に行われ る大会、国内外問わず合宿の受け入れを安定的に実施することが可能となった。名寄市は 11 月上旬に初雪、11 月下旬から 12 月上旬にかけて根雪になる地域ではあるが、仮に雪が 降らなくても、11 月下旬には朝晩の気温が氷点下になるため、人工降雪機を稼働させシー ズンはじめの安定的な大会開催、合宿の受け入れが可能となった。 また、市内にはFIS(国際スキー連盟)公認クロスカントリーコースが常設コースと して整備されており、ジャンプだけではなく、クロスカントリー、コンバインド合わせた ノルディック施設として整備されている。 写真:名寄ピヤシリシェンツェ 図:名寄健康の森クロスカントリーコース図 (4)名寄市の課題と調査先 名寄市は、これまで多くの大会開催実績があり、今後も多くの大会開催が予定されてい るが、競技人口の減少や大会開催のための役員の減少と高齢化が進んでいるため、今後ど のように地域住民と協力、連携して大会を成功に導いていくかが課題となっている。 また、度重なるFIS基準の変更により、施設の改修・維持管理の問題も深刻になって いるほか、合宿誘致を行うための宿泊施設を含めた環境整備、観光と絡めた交流人口の拡 2 大のために施設などの資源をどう活かしていくのかが課題となっている。 そこで、本報告書では、調査地であるイタリア北部トレンティーノ=アルト・アディジ ェ州トレント自治県ヴァル・ディ・フィエンメのノルディックスキーを通した地域活性化 について調査することで、名寄市で活用できるエッセンスを抽出し、それを踏まえて市に 対する提言を行うこととする。 2.イタリア北部 ヴァル・ディ・フィエンメにおける取り組み (1)ヴァル・ディ・フィエンメの概要 ヴァル・ディ・フィエンメは、イタリア共和国の特別自治州 トレンティーノ=アルト・アディジェ州トレント自治県の北東部 に位置する谷である。世界遺産ドロミーティの山岳地帯に含まれ る地域で、11 の基礎自治体(コムーネ)から構成され、人口は約 2万人。1991 年、2003 年、2013 年にノルディックスキー世界 選手権を開催しており、ノルディックスキー関係者には有名な地域 で、ヴァル・ディ・フィエンメのコムーネで世界選手権など各種ノ ルディックスキー大会実行委員会事務局の事務所があるカヴァレー 図:イタリア共和国トレンティーノ= アルト・アディジェ州トレント自治県 ゼ、ジャンプ競技会場のプレダッツォ、クロスカントリー競技会場 のテーゼロで視察を実施した。 この地域は、イタリアとオーストリアの国境に近く、古くから激しい戦闘が展開され、 正式にイタリアの領土となって 100 年程度であり、ドイツ語とイタリア語を共に公用語と した歴史もあり、大幅な自治が認められる特別州に認定されていて、税制面でも優遇を受 けている。 今回の視察にあたり、現地でご対応いただいた方は、ヴァル・ディ・フィエンメ世界選 手権実行委員会事務局の中心的な役割を担っている7名で、ノルディック大会を開催する 上で、それぞれ多くの課題が散在しているため、その問題についてそれぞれの目線で意見 交換できることは、大変有益であると快く視察を受け入れていただいた。 はじめに、対応いただいた各セクション責任者について説明したい。まず、一人目は実 行委員会の事務局長で全体をコーディネートするだけではなく、委員会のマーケティング の責任者で、地域(ヴァル・ディ・フィエンメ)の観光局の局長でもあることから、組織 全体広報、プロモーションまでも手がけている。給料は出向元が負担している。次に、こ の組織で2名しかいない専任プロパー職員である、渉外担当者と財務会計担当者。その他、 クロスカントリーコース整備責任者とジャンプ担当責任者。更にイタリア警察からの出向 者で競技委員長として現場を指揮するFIS公認のTD(テクニカル・ディレクター)資 格を有し、クロスカントリーイタリア代表コーチも歴任した専門家。そして自他ともに最 3 も重要なポストと認めるボランティア責任者。以上の7名に聞き取り調査を実施した。 (2)ヴァル・ディ・フィエンメとノルディックスキー世界選手権 ①大会開催実績 ノルディックスキーといえば北欧というイメージが先行するが、イタリア北部のヴァ ル・ディ・フィエンメは、これまで世界選手権を3回も開催していて、ヨーロッパでも有 数のノルディックスキーが盛んな地域である。ノルディックスキーの関係者の中では、4 年に1度のオリンピックよりも2年に1度開催される世界選手権や毎年世界を転戦しポイ ントを競うワールドカップの方が真の王者を決定する大会とも言われており、その世界選 手権を 1991 年、2003 年、2013 年と3度にわたり開催し、その度に発展を遂げていること からファンや関係者から高い評価を得ている。 また、世界選手権の開催で注目されているが、ワールドカップやユニバーシアード、世 界ジュニア選手権のほか、長距離クロスカントリースキー大会の国際連盟ワールドロペッ ト公認の大会であるマルチャロンガを 1971 年から毎年開催している。ヴァル・ディ・フィ エンメは夏もローラースキー大会のワールドカップを開催するなど、年間を通して延べ 130 回ほど国際的なノルディックスキー大会を開催した実績がある。 写真:テーゼロ クロスカントリー会場 写真:プレダッツォ ジャンプ会場 ②国際大会の開催の経緯 ヴァル・ディ・フィエンメのノルディックスキーの国際大会開催のきっかけは、約半世 紀前にさかのぼる。1968 年グルノーブル五輪クロスカントリー種目に地元出身者が出場し、 見事金メダルを獲得したことで、地元のノルディックスキーへの関心が一気に高まりをみ せたことから始まった。そして、国際的な長距離クロスカントリースキーレースであるワ ールドロペット大会を地元でも開催するため、実行委員会を組織して 1971 年からマルチャ ロンガを開催し、現在まで毎年開催をしている。 毎年国際的な大会を開催すること同時に、ミッキーマウス大会(ジュニアの大会)など も開催することで、ジュニアの育成含め、次世代の選手及び協力者の育成も同時に行なっ てきた。 4 継続的な大会開催により、各種ノルディックスキー大会を開催するためのノウハウの蓄 積及び経験値が向上し、自信と意欲を持ってワールドカップや世界選手権の開催もできる ようになった。この下地があり、1989 年に 1991 年ノルディック世界選手権候補地に立候補 し大会誘致をすることとなった。FISに対して大会誘致のロビー活動を実施する際、地 元出身のオリンピックメダリスト及び元イタリア代表で国際大会経験豊富な実行委員会の 方々に協力をいただいたこと、マルチャロンガを毎年開催している実績により、アルプス の南で開催する初のノルディックスキー世界選手権開催地に決定した。 しかし、その時点でメインスタジアムはもちろん、FIS公認のジャンプ台やクロスカ ントリーコースなども存在しておらず、決定後、各競技施設を急ピッチで整備をしたのと 同時に、多くの選手・関係者、メディアなど多くの来場者が訪れることが想定された為、 山間地域の渋滞緩和と円滑な大会開催に向け、州がジャンプ台とクロスカントリーコース 連絡道路を整備した。 ヴァル・ディ・フィエンメの概要で触れたが、イタリア北部のトレンティーノ=アルト・ アルディジェ州は、特別州であり財政的な優遇措置がとられている。イタリアの税金は通 常政府に入り、貧しい南部に流れてしまい北部にはなかなか配分されないが、特別州は市 税の9割が州に残り、州の裁量によって予算措置をすることができる仕組みになっている。 そのため、州のスピーディで大きな決断、支援があり連絡道路の整備が進められた。結果 として、この州の支援をいただき連絡道路を整備したことが世界選手権成功の鍵となった と関係者は語っていた。 大会開催決定による、経済効果は競技施設の整備だけにとどまらず、大資本の投資によ るグレードの高いホテルが建設され、地域の宿泊施設や飲食店などが増えると同時に、雇 用の増加にもつながり地域経済発展に大変大きな効果があった。また、大会開催を境に、 夏季の観光客や合宿受入数も右肩上がりに推移し、大会開催前と比べると2倍以上の入込 数となったという。 1991 年に世界選手権を開催し、その後もワールドカップやワールドロペットを継続して 開催していく中で、2003 年、2013 年に再び世界選手権を開催することとなった。 (3)ヴァル・ディ・フィエンメ実行委員会組織 ヴァル・ディ・フィエンメは大会誘致・運営をするにあたり、自治体(州・県・市町村) 、 観光協会、ホテル組合、商工会、スキークラブ、スキー連盟などの集合体として実行委員 会(非営利団体)を組織し、その下部に各種委員会を作っている。しかし、実際は税務・ 法律などの側面から、統括、競技運営、金融、マーケティング、プロモーション、ボラン ティアなどの委員会(非営利)の下にも、運営会社(有限会社)を組織して、その運営会 社が実働しているのが特徴である。 実行委員会には、地域のコムーネすべて(11 市町村)の首長が協力して実行委員会に入 5 っているほか、県の観光連盟会長、ホテル協会の会長など有力者が名を連ねている。スキ ー以外の話や、金銭負担の話が出なければ、実行委員会の目的がはっきりしており、世界 選手権開催後も最低5年くらいは大会開催による様々な効果を実感できていることから、 有力者が集まっても意見もまとまり、ともに行動できている。 また、下部委員会、運営会社の役割は、全体戦略、プロモーションなど実行委員会の決 定のもと、実働部隊として活動するものである。組織は大変大きいが、より多くの方に責 任感を持って活動してもらうことを目的に、実行委員会の会長以下、ディレクター、マネ ージャー、小委員会の責任者など細部にわたり役割分担を明確にし、実行委員会組織図に 名前を記載している。当日の競技運営だけではなく、事前の準備の段階から責任感と誇り をもっていただく工夫をしている。小委員会の責任者は各運営会社の責任者も兼ねており、 スタッフ約 100 名を束ねているが、すべての人がボランティアであり、必要に応じで会議 を開催している。世界選手権のような規模の大きな大会における会議開催目安は、3年前 は半年に1回程度、2年前は3か月に1回程度、1年前は毎月1回、6か月前からは月に 2回程度である。 数ある委員会の中で最も重要であるのはボランティア委員会であり、財政面含め大会運 営を大きく左右することになると話をしていた。 主要メンバーが休暇をとって直前の事前準備を行う際は、実費を支出しているが、基本 的に報酬は無く、少ない経費で大会を開催する上でボランティアスタッフは必要不可欠で ある。軍や警察などのセキュリティ関係は国が派遣してくれるが、それ以外のスタッフを 地元住民のボランティアで賄えないことになれば宿泊費や交通費を支払い、スタッフを確 保することになり財政上大変厳しい状況になることは明確である。従って、いかに地元住 民の理解、協力を得るかが重要になる。そのため、ボランティア委員会では 1991 年から継 続的に協力してくれている方は勿論であるが、責任者が信頼できる方に直接依頼をして参 加してもらうことも多々あるようである。 ヴァル・ディ・フィエンメのボランティアスタッフは、平均年齢が 46 歳(学生は別集計) 、 25%が女性で、高校生にも協力してもらっていている。通常の大会では、350 から 400 名の ボランティアスタッフに協力してもらっていて、2013 年世界選手権では 1,400 名以上(内 学生が約 150 名)の地元住民ボランティアに協力してもらい大会を開催した。 ボランティアスタッフの条件は、期間中の昼食とスタッフユニホーム(スキーウェアなど) を配布することから、12 日間の大会日程のうち最低5日以上参加できることとし、所定の 応募用紙に職業、特技、能力、貢献したい職種などを記載して応募をいただいたが、応募 が多すぎて、募集期間内に募集停止にいたる事態となった。 ボランティアスタッフに応募した方の属性は多種多様で、自治体職員は勿論、会社員や 弁護士といった現役世代から年金生活者まで、幅広い年齢層の地元住民が参加をしている。 また、各家庭最低1名以上は参加していて、家族総出での参加や休暇を取っての参加も 相当数いたことから、地元住民の世界選手権開催への関心の大きさとボランティアに参加 6 することへの誇りの大きさ、ノルディックスキーと関わることが地域の文化となっている ことを物語っている。 実行委員会では、ボランティアスタッフが大会成功の鍵と考え、大会前の一年間、各国 の選手・関係者・観客に対してスムーズな応対をするために、希望者に対して無料の英会 話教室を実施するなど、ホスピタリティの向上のため努力している。 その他、独立した委員会は無いが、いつでも救急対応ができるように、赤十字、白十字、 県立病院に協力要請し、医師を確保しており、県の中核都市であるトレントからドクター ヘリが7分で来る契約を締結するなど、安全・安心な大会運営に備えている。 (4)開催費用と行政支援 大会開催における収入について、イタリア政府からの補助金などは無く、州・県・市町 村負担金が2〜3割程度、残りは放映権・広告などでテレビ局の放映権の収入が最も大き く、次いでスポンサー料である。その他、チケット収入や関連グッズ収入も開催期間中は あるが、それほど大きな比率を占めてはいない。テレビ放映権は競技により異なるが、 ノ ルディックスキーの種目ではジャンプ競技が最も高額で、ノルディックコンバインド、ク ロスカントリーはイタリアでは人気があまり無く放映権が安い。しかし、ノルディックコ ンバインド競技はジャンプ種目とクロスカントリー種目の両方で放映権が入ること、クロ スカントリー競技は賞金が少ないことなどから問題なく開催できている。 自治体負担金についてであるが、11 市町村の総人口は2万人程度であるため、財政規模 は極めて小さく、負担割合が低いとしても議会・住民の理解を得ることは簡単ではない。 しかし、ボランティア含め地域が一体となって協力していることや、事務局はもちろん、 自治体の真摯な対応並びに丁寧な説明により理解を得ている。 (5)施設の改修・整備と維持管理 1991 年の世界選手権開催時に大規模な施設整備を実施したおかげで、2003 年の世界選手 権開催の際には、ジャンプ台の国際基準の変更に伴う改修、人工降雪システムの増強や夜 間照明設備、コース整備機器(圧雪車)の更新など大会を開催するにあたり必要最低限の 改修にとどめたわけだが、大会終了後の利活用を念頭に置いた改修を実施した。大会開催 後、メインスタジアムはスケート場に、管理棟・会議室はレンタルスキーやスキースクー ル事務所、カフェやレストランへ、その他ワックスルームや更衣室も転用し施設の有効利 活用を図っている。 さらに、会場周辺に多くの太陽光パネルを設置し、可能な限り再生可能エネルギーで電 気を賄うことで、環境認証「ISO14001」を取得し、世界選手権では初となる環境 に配慮した大会を開催した。 7 次の 2013 年の世界選手権までの間に、ワールドカップのほかに、2005 年に障がい者のノ ルディックワールドカップも実施している。カーブや下りの斜度などを障がい者対応に変 更するといった競技運営面の対応は比較的スムーズに行えたが、競技前の対応に戸惑った という。 空港から会場、ホテルからコースまでの移動など、すべてにおいて車いす対応が必要と なり、宿泊先の調整や専用のミニバスの確保など、通常より多くの確認事項やスタッフ確 保が求められ、大会実行委員会は準備に追われたわけだが、結果として障がい者対応の多 くのノウハウを得ることとなった。 2013 年の世界選手権に向けてのハード整備は、メディア・報道センターの整備が中心と なった。競技中継をテレビ、インターネットを通じてリアルタイムに全世界へ配信するた め、町全体が巨大な光ファイバー基地となるべくインターネット環境の整備を行った。イ タリア北部の山間地であるにも関わらず、町全体のインターネット環境が充実し、日本か らでも競技運営ができるほど整備が進んだ。また、クロスカントリーコース管理棟の地下 にある、人工降雪機や圧雪車を格納する施設を拡大し、2,000 平方メートル以上の中継車駐 車スペースを確保したほか、ジャンプ管理棟内にはフロントが全面ガラス張りのVIPル ームや実況中継室を4区画用意し、多言語対応できるよう配慮している。また、配線レイ アウトの変更自在な床下光ファイバー網を整備したプレスルーム、カメラマン専用スペー スなどを整備するなど、メディアへ配慮した整備を進めた。 競技施設関係では、ジャンプ台の人工降雪機を増設したほか、その後の夏季の有効活用、 合宿誘致のために、ジュニア期に使用できる 20 メートル、30 メートル、大会に利用する 70 メートル、90 メートル級のジャンプ台をすべてサマージャンプに対応できる整備を実施 した。 その他、2013 年世界選手権大会開催における特徴は、障がい者への対応である。2005 年 に障がい者のノルディックワールドカップを開催した経験があることと、イタリア国内の 法律でホテル含む各施設で障がい者への対応が義務付けられていることから、車いすなど の障がい者の方が観客として来場する際、事前連絡があれば駐車場まで迎えに行き、席ま で案内することや、食事もボランティアが補助サービスを実施するなどの対応を行った。 宿泊施設も基本的には、障がい者に対応できる状況であったが、再整備の必要な場所がな いか、自信をもって推薦できるかを検査・検証を実施し、厳格な基準を満たした車いす対 応認証を受けて実施したのである。 このように、世界選手権大会開催ごとに、環境、障がい者対応など、必要性は理解され ているが、これまで導入されていなかったことを積極的に導入し開催することで、ヴァル・ ディ・フィエンメは世界のノルディック関係者、ファンから大きな信頼と賞賛を得ている のである 今後の展望については、これまでの大会を総括することで改善点を洗いだし 2017 年のワ ールドカップを成功に導くこと、2023 年前後に再び世界選手権候補地として立候補するこ 8 とも念頭に、PR資料作成についても検討をはじめると語ってくれた。 図:環境認証PR 図:環境認証証書 図:障がい者(車いす) 対応マーク 写真:プレスルーム 写真:人工降雪機 写真:人工降雪機 (6)施設と合宿誘致 ヴァル・ディ・フィエンメは、メインスタジアムや管理棟の維持管理は勿論、ジャンプ 台やクロスカントリーコースといった競技施設は、FIS基準の変更に伴う改修やメンテ ナンスはその都度実施することで、ワールドカップやワールドロペッドといった国際大会 を継続的に開催してきた。この地域におけるノルディックスキーの重要性を県が認識し、 継続的な大会開催と合宿誘致を推進するために、関連施設の大規模改修時の補助のほか、 維持管理費用の一部も補助をするといった支援を行っている。 世界選手権開催時は大規模改修・施設整備を実施するわけだが、大会終了後の合宿誘致 に向けて、施設の利活用を十分検討した上で整備を行っている。まず、ジャンプ台は4基 すべてがサマージャンプ対応仕様で、ジュニアからシニアまで男女を問わず、トレーニン グできる環境を整えており、日本代表も夏季合宿を実施している。 クロスカントリーコースのメイン会場付近を除き、農家の畑を借りてコース設営してい ることから、夏季に使用することはできない。しかし、周囲の山間地に幅3メートル、全 9 長 40 キロ以上の自転車専用コースを県が整備したことから、自転車トレーニングは勿論、 ローラースキーコースとしても活用できている。 冬季の合宿受入は、サマージャンプ仕様から冬季仕様への変更やクロスカントリーコー スの借地契約の関係もあり 12 月からで、人工降雪機を活用してコースメイキングを行って いる。人工降雪機を活用するために、人工湖、地下配管を整備し、高圧電源を確保するな ど計画的に整備しており、ジャンプ会場に8基、クロスカントリーコース上に 15 基の人工 降雪機を設置している。さらに、会場付近には最も大きな人工降雪機を設置し、想定外の 雪不足への対応にも余念がなく、外気が氷点下 2〜5度前後になればすべての人工降雪機を フル稼働させ、大会、合宿対応を行っている。 夏季のヴァル・ディ・フィエンメは施設利用料金やホテルの宿泊料金を低く設定したり、 ノルディック競技施設だけではなく自転車専用道路やプール、ウェートトレーニング施設 を充実することで、総合的なトレーニング環境を整えている。そのため、今では世界中か らジュニア、シニアを問わず多くの選手、関係者が合宿に訪れ、視察時も世界 17 か国から 12 歳から 17 歳のジュニア選手が集まり合同合宿が開催されていた。また近年、FIS協力 のもと、リトアニア、エストニア、ウクライナ、グルジアなどヨーロッパの新興国などを 対象に、より良い環境と選手育成プログラムを提供する新たな形態の合宿も実施している。 (7)大会開催と観光・交流人口 ヴァル・ディ・フィエンメは、大会開催後の合宿誘致を意識した施設整備をすることで、 施設の利活用及び交流人口拡大において一定程度成果を上げている。合宿も成果を上げて いるがそれ以上に、ノルディックスキーの世界的な大会の開催によりメディア露出の機会 が増加し、知名度が上がり、結果として夏冬問わず観光客増加につながったのである。ノ ルディックスキーは、イタリア国内より国外で人気があることから、ドイツ、チェコ、ポ ーランド、ベルギーなどのヨーロッパ諸国及び北欧からの入り込み数が伸びている。特に ドイツからは、スキー観光客だけで開催前年比 50%以上も増加している。 大会、合宿、観光を含めた交流人口の拡大の効果が、データはいただけなかったが、大 会開催期間中だけではなく、その後5年間くらい継続することから地域住民の理解を得て 継続的な開催を目指していけるのである。 3.名寄市への提言 (1)大会組織体制 名寄市は、北海道内のノルディックスキー大会だけではなく、全日本公認大会や全国中 学スキー大会、JOCジュニアオリンピックカップなど、全国規模の大会開催が決定して いる。これまでは、陸上自衛隊名寄駐屯地の協力を頂きながら名寄地方スキー連盟が中心 10 となり、スキー愛好者などのボランティアの協力のもと大会を開催・運営をしてきたが、 名寄地方スキー連盟会員数の減少や高齢化が進んでいるため、大会運営をしていくための 組織体制について検討が必要である。 ヴァル・ディ・フィエンメのノルディックスキー大会実行委員会のように、大会組織委 員会をスキー連盟だけではなく、行政は勿論、大会開催に関係してくる観光協会、商工会、 ホテル業界、飲食業会など幅広い団体に参加していただくことで役員不足を補っていく必 要があると考える。現在の状況から委員会の傘下に株式会社を作って実働していくことま では難しいと思われるが、まずは組織委員会の見直しについて検討していくべきである。 また、大会組織図にも記載されるボランティア委員会を設置し、責任と参加した満足感 が得られるような役割を、地元住民や大学生、高校生にも担っていただくことで、地域が 一体となって大会開催ができるのではないだろうか。 さらに、ヴァル・ディ・フィエンメのように障がい者へ対応する委員会までは設置でき なくても、ノルディックスキー会場は積雪の状態によっては、車いすが動かなくなる可能 性が十分に考えられるため、兼務としてでも障がい者に対応できる人員配置をしておく必 要もある。 (2)施設の改修・維持管理 スキー競技施設は、頻繁に改正されるFIS基準を満たし、初めて国際的な大会開催が 可能となる。比較的簡易な改修であれば対応できても、大規模改修となれば地方自治体単 独で対応することが困難になり、施設を取り壊す自治体もあるのが現実である。 しかし、名寄市がスポーツによるまちづくりを進めるためには、 「着雪期間が長い」、 「朝 晩の気温が低い」 、 「良質な天然雪」という名寄市の特徴と、 「国内、北海道内でも数少ない 競技施設の保有」という条件、強みを活かし、冬季スポーツ、中でもノルディックスキー 競技を中心に推進していくことが最良と考える。従って、全国規模の大会を数年続けて開 催することが決定しており、ノルディックスキーの拠点となりうることから、名寄市とし ても関係施設の整備を一般会計はもとより、過疎債などの有利な起債を活用するなどして 推進していく必要があると考える。 また、名寄市は内陸の盆地に位置しており、最低気温は低いが、晴れる日が多く、比較 的長い日照時間が確保できることや森林バイオマスや林地残材の賦存量が豊富であること から、太陽光発電パネルの設置や木質バイオマスの活用など新エネルギーの活用を組み合 わせた施設整備をすることで、環境認証を取得した日本では数少ない競技施設として整備 すること、更には国内だけではなく、ワールドカップなどの国際的な大会開催や次期冬季 五輪(平昌五輪)やアジア大会の事前合宿の誘致なども絡めることで、小規模自治体だけ では限界がある施設の大規模改修や、維持管理を、各省庁や北海道、SAJ、JOCなど の支援を受けることも可能となるのではないだろうか。 11 (3)合宿誘致と環境整備 合宿誘致を推進するためには、競技施設を含む周辺のトレーニング環境、価格、食事、 その他のサービスを含め、他の合宿候補地と競争しなければならない。 名寄市は、ジャンプ台のサマージャンプ仕様やクロスカントリーコースにチップを敷き 夏季はランニングコースとして仕様でき、そこに陸上競技場を併設しているが、まだまだ 夏季の合宿受入環境が整っているとは言えない。ローラースキー専用コースや自転車専用 コースを整備することは難しいと思われるが、ウェートトレーニング設備やプール施設の 充実は最低限必要である。 場合によっては、必要な設備を完備した宿泊施設の整備について、価格設定含めて検討 していくことで、全国規模の大会開催時の懸案事項である宿泊収容数が足りず近隣市町村 に宿泊する関係者がいる問題の解決にも繋がるとともに、ノルディックスキーの拠点とし て競技施設を含むトレーニング環境が充実した合宿地として、関係者に情報発信していけ るのではないだろうか。 新たな施設整備が難しいのであれば、春、秋も朝晩の気温が低い気候の特徴を活かし、 冬季のシーズン中からシートやチップを用いて雪を保存し、5月・6月まで雪上トレーニ ングを可能とすることや、11 月から人工降雪機を稼働させ早めのシーズンインを可能とす ることなど、雪上トレーニング期間を延ばすことで、他の地域との差別化を図ることも、 一つの方策として検討できると考える。 また、競技関連施設以外の施設を、併せて利用いただくことも考えてはどうだろうか。 例えば、名寄市が保有する国内最大級の観測レンズとデジタルプラネタリウムを備えた天 文台の活用である。中学、高校生の合宿団体には理科教育も可能であるが、プラネタリウ ムをリラクゼーション施設としても活用してもらうなど、他の合宿候補地と差別化を図り 合宿誘致を進めることも考えられるのではないだろうか。 (4)大会開催・合宿誘致の可能性 これまで、自治体、スキー連盟などが中心となり、大会誘致・開催を行ってきたが、ヴ ァル・ディ・フィエンメのように地元住民のノルディックスキーへの関心を高め、大会誘 致・開催及び合宿誘致を進めていくことが重要である。しかし、地元住民の気運が高まる のを待つばかりではなく、マーケティングをしっかり行い、SAJやJOC、国内外のチ ームに対して、情報発信してもらえるアドバイザーの導入を検討してもよいのではないか。 長期的には継続的に大会を開催すると同時にジュニア育成にも力を入れ、将来的にノルデ ィックスキーに関わる人材の育成を図るとともに、地元出身のオリンピックなどの国際大 会に出場する選手を誕生させることで、大会開催や合宿誘致を地域が一体となって推進し ていく気運の盛り上がりを期待したい。 また、今後も継続的な大会開催や合宿誘致を行うことができれば、選手、関係者、観客 12 はもとより多くノルディックスキーのファンに名寄市に訪れていただき、地元住民との関 わりや食文化にも触れていただくことで、大会、合宿終了後も再度訪れていただくことや、 名寄市のファンとなる可能性があると考える。更に言えば、複数回にわたり、興味のある スポーツ環境を有した地に一定期間滞在し、地元住民と関わりを持つことは、長期的には 移住先の候補となる可能性もあると考える。 このように、ノルディックスキー大会、合宿誘致による交流人口の拡大は、一時的な経 済効果だけではなく、その後の観光入込数の増加や移住候補者獲得といった長期的な効果 も期待できる。 ヴァル・ディ・フィエンメのように世界的なノルディックの拠点となることは簡単なこ とではないが、名寄市がスポーツを通したまちづくりを推進するうえで、名寄市の特色と 強みを活かした、ノルディックスキーを中心としたまちづくりを地域活性化のための選択 肢の一つとして今後も検討していく必要があるのではないだろうか。 4.おわりに 今回、イタリア北部のヴァル・ディ・フィエンメに訪れ取材を行ったことで、大会開催 における実行委員会の組織体制や合宿誘致を含めた施設整備について学ぶことができた。 名寄市では今後連続して全国規模のノルディックスキー大会の開催が決定しているので、 行政職員としての業務ではなく、地域住民として、名寄地方スキー連盟のスタッフとして、 大会運営や大会組織体制の検討にも関わっていきたいと思う。 最後に、調査研究にあたり視察を受け入れていただき、競技施設まで案内していただい たヴァル・ディ・フィエンメ実行委員会事務局長の Mariano Valentino VINACCIA 氏をはじ め、対応いただいた実行委員の皆様に心より感謝申し上げ、本報告書の結びとさせていた だきたい。 13
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