授乳中における 放射線科内での検査 長岡赤十字病院 放射線科部 診療放射線技師 新保 綾乃 X線検査を受けたけど被ばくが気になる すべての放射線検査は以下の2つにより成り立つ 行為の正当化 放射線の被ばくによるリスクと利便を勘案して, 放射線被ばくによるリスクよりも利益の方が 上回ると判断できる場合にのみ 検査を行うこと. 防護の最適化 放射線を人体に照射する際には,被ばく線量が少なくなるように, なるべく小さな照射範囲で撮影するなどの工夫すること. はじめに X線を外から 照射する検査 体内に放射性 物質を投与 する検査 X線撮影,CT検査 胃バリウム検査 放射線治療 核医学検査 放射線内部療法 放射線を使わ ない検査 MRI検査 超音波検査 放射線科の検査と授乳への影響 1. X線撮影 での授乳への影響 X線を外から 照射する検査 2. マンモグラフィ での授乳への影響 3. 胃バリウム検査 での授乳への影響 4. CT検査 での授乳への影響 5. MRI検査 での授乳への影響 6. 核医学検査 での授乳への影響 放射線を使わ ない検査 体内に放射性 物質を投与 する検査 X線撮影での授乳への影響 胸部X線検査 骨X線検査 歯科X線検査 腹部X線検査 乳房X線検査 (マンモグラフィ) まとめて 一般撮影 単純X線検査 X線撮影での授乳への影響 X 線検査を受けたからといって,その後 体から放射線を 出すことはありません. 放射線の特徴 1. 物質透過性(ものを通り抜ける)を有する 2. 電離作用(原子から自由電子を切り離す)を有する 3. 蛍光作用(ものを光らせる)を有する → 体を透過した放射線が体内に残留することはない. 「放射線を浴びたものが放射能を有する」というのは間違い (放射線を出す能力) 授乳中にマンモグラフィ検査を受けても大丈夫? マンモグラフィも X 線撮影の一種のため, 同様に 授乳に与える影響はない といえる. しかし,このような注意書きをみたことがある方はいませんか? 次の方は,乳房撮影に適さないため撮影をお断りすることがあります. ・ 授乳中の方 ・ ペースメーカーが埋め込まれている方 ・ 豊胸手術を受けたことがある方 ・ 水頭症VPシャントが埋め込まれている方 授乳中のマンモグラフィ 授乳中は,画像上,乳腺が白っぽく写ってしまう. 欠点 ① 病変は白く写ることが多いため,病変を見つける ことが難しくなる. 欠点 ② 母乳が出ることにより,圧迫が不十分になる. → 自覚症状がなければ,断乳後6ヶ月∼1年 経ってから検査を受けたほうがよい. 生理中のマンモグラフィ検査 また似た表現として, 「 生理前∼生理中のマンモグラフィは痛みが強くなる ため,生理後7∼10日ころに受診してください 」 → 画像上は,授乳中のように大きな変化はない → 痛みの強さや状況に応じて 検査日を選択してください 前処置注射薬 ブスコパンの影響 ブスコパンは胃の蠕動運動を抑制させることができる 副作用:口渇(6.04%),眼の調節障害(2.96%),心悸亢進,顔面紅潮 使用禁忌:緑内障の方,前立腺肥大の方,重篤な心疾患の方 妊婦、産婦、授乳婦等への投与 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には, 治療上の有益性が危険性を上回ると判断される 場合にのみ投与すること. [ 妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.] 下剤の授乳への影響 バリウム便が排泄されず,長時間腸内に残ってしまうと, 水分が吸収されて便が固くなり排泄しにくくなります. そのため,下剤を服用することが推奨されている. → 下剤の成分によっては,母乳に以降し, 赤ちゃんが下痢をしてしまう可能性がある. → 低容量であれば問題ないことが多いが, 心配ならば 24時間程度 授乳を中止する. バリウムの影響 バリウムは体内に吸収されることなく, そのまま体外へ排出されます. 母乳に含まれる心配はありません. CTの造影剤とは CTの造影剤は「ヨード造影剤」と呼ばれるもので,通常,腕の静 脈から注入する.画像上で白く写り,病変が検出しやすくなる. ・ 副作用の発現率は約3%(100人に3人) ・ 副作用として多い症状 吐き気や嘔吐,かゆみ,じんましん 熱感(造影剤注入時に熱い感じがする) ※ きわめて稀だが,1万人中4人くらいの割合で咽頭の浮腫, 血圧低下,呼吸因難などの重い副作用が起こることもある. 授乳中に造影CT検査を行う場合, どのような注意点がありますか? 造影剤は母乳中に移行します.少量であってもアナ フィラキシー反応をきたす可能性や甲状腺機能低下症 を引き起こす可能性が否定できないことから,原則と して投与後2∼3日間の授乳中断を考慮してください. また,造影剤の排泄を促すため水分摂取と断乳中の搾乳 を行うことも一つの方法と考えられます. 母乳中の造影剤が,乳児の血中へ どのくらい移行しますか? 授乳婦への静脈内注入による造影検査を施行後, 母乳への造影剤移行を検討したところ,乳汁中の造影剤 濃度は投与3∼6時間後にピークとなり,緩やかに減少 (半減期15∼52時間)し,注入24時間の乳汁移行量は 母体投与量の約0.5%であったと報告されています. MRI検査での影響 MRI検査では,放射線を使用しませんから,CTと 同様に造影剤を使用しない検査であれば,母乳への影 響はありません. MRIの造影剤使用量は,CT検査の1/10の量. 薬剤添付文書では,その薬理作用から造影MRI検査 後は,24時間授乳を控えるように記載. 放射性物質を体にいれても大丈夫? がん死亡のリスクが徐々 に増えることが明らかに なっている線量 2.1 HP 核医学検査後の授乳停止期間の勧告 RI検査とは ICRP( 1mSv )Publication 1061) HP まとめ • X線検査やCT検査など体外から放射線を照射する検査を受 けても,体内に放射線が残ることはなく,放射能を有するよ うになることもない. • 造影剤や検査の前後に使用する薬などが授乳に影響するこ とがあるので,わからない場合は検査前に確認する. • 核医学検査では,薬によっては数日間∼数週間,体内に放 射能を有する薬が残るので,その間は授乳を控える.
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