マイコース・プログラム活動報告書 学生番号:0601227491 氏名:田中望美 所属分野名:meiosis and recombination (Institute de Genetique Humaine CNRS in Montpellier, France) 期間:2013.07.18-2013.09.24 活動内容:Identification of interacting domain of PRDM9 減数分裂時に行われる相同染色体組み換えでは、SPO11 による二重鎖切断が DNA 上のどこで起こるかを決 定するたんぱく質として PRDM9 が特定されている。PRDM9 は何らかの機構で SPO11 をその位置 (hot spot) にリクルートすると考えられており、そのメカニズムにおいて PRDM9 と相互作用するとして、マウスと ヒトの両方に保存されている 7 つのタンパク質が候補に挙げられている。わたしは、PRDM9 の持つドメイ ンのうち、どの部分がこれら候補タンパク質と相互作用をしているのかについて yeast two hybrid assay を用いて調べ、PRDM9 のドメインマップを作製した。なお、現在進行中の研究のため具体的な研究内容や 結果に関する記載はここでは避け、酵母菌を用いてタンパク質の相互作用を解析する手技等について概 略的なものにとどめる。 はじめに わたしは、マイコースプログラム期間を利用して、海外の研究室に留学したいと入学時より願っていた。 そこで、放射線遺伝学の武田教授にご紹介いただき、南仏モンペリエにある分子生物学の研究所内の、 Meiosis&Recombination を専門に扱われる研究室への留学の機会を得た。留学前には減数分裂、あるいは 相同染色体の組み替えに関する知識もほぼゼロに等しく、実のある留学ができるのか不安が募った。し かし、今年の 3 月から 4 か月間京都大学の形態形成機構学教室にて基礎実験の手技を学ばせていただき、 さらにモンペリエの研究室の方々に熱心にご指導いただき、幸いにして結果を得ることができ、貴重な 機会を活かすことができた。 実験目的 減数分裂は、有性生物が生殖細胞をつくるために必須のプロセスであり、その一過程として行われる相 同染色体組み換えは、生物の多様性を保つためにも非常に重要である。減数分裂第一分裂にて対合して いる相同染色体の二重鎖を切断する役割は SPO11 が担っているが、SPO11 を適切な場所(hot spot)へと リクルートするたんぱく質として近年 PRDM9 が同定された。PRDM9 はいくつかの異なる役割をもつドメイ ンを有している。今回の実習では、PRDM9 が自身の有するどのドメインにて、interacting proteins と 相互作用しているかを同定することを目的とした。目的を達成するために不可欠であったのが、酵母菌 を用いたアッセイである。 酵母菌を用いた実験について 出芽酵母は、遺伝学的解析を行う上で重要な真核生物である。これは、出芽酵母のもついくつかの特徴によ るものである。まず出芽酵母は、遺伝子破壊や破壊株の凍結保管が容易である。また、2倍体のみならず1倍 体も増殖する。さらに、減数分裂の誘導が試験管内でできる。 Yeast two hybrid (Y2H) assay について Y2H はタンパク質同士の相互作用やタンパク質と DNA の相互作用を検出されるために広く用いられる技法で ある。一般的には、Gal4 という転写活性化因子を用いることが多いが、これは Gal4 の DNA-binding-domain (GBD)と DNA-activating-domain (GAD)が分離可能であるという性質を踏まえてのことである。Gal4 の GBD は 特定の塩基配列に結合し、DAD は転写因子の会合を促進することにより、遺伝子の転写を促す。相互作用の有 無を検出したい二種類のたんぱく質(A,B)について、片方を GBD と融合させ、もう片方を GAD と融合させる。 そして、この二種類の融合タンパク質を同一の出芽酵母細胞の中で発現させる。もしタンパク質 A と B の間に 相互作用が見られれば、Gal4 の転写因子としての機能により、レポーター遺伝子の転写が活性化する。なお、 GBD と融合させるたんぱく質を Bait protein, GAD と融合させるたんぱく質を Prey タンパク質という。 今回わたしが行った実験では、レポーター遺伝子としてアミノ酸のアデニン(Ade2)とヒスチジン(His3) を用いた。このような場合には、形質転換した酵母をアデニンとヒスチジンの欠失した培地に蒔くことにより、 両タンパク質をどちらも発現し、かつそれら二つが相互作用している細胞を選択することが可能となる。 図1 図2 出芽酵母には、他の真核生物と同様に、一組の染色体をもつ一倍体と二組の染色体をもつ二倍体の世代があ る。一倍体には a 細胞とα細胞という二種類の性(接合体)が存在する。そこで、まず a 型の一種である Y187 株に、leu2 と GAD fused prey protein を含むプラスミドを、またα型の一種である AH109 株に Trp1 と GBD fused bait protein を含むプラスミドを形質転換させる。それらをそれぞれ、トリプトファン欠失選択培地、およ びロイシン欠失選択培地で培養する。一倍体がコロニーを形成するまでには、30℃で 2-3 日を要する。培養 した一倍体の酵母を、ロイシン(L)およびトリプトファン(W)欠失選択培地上にて交配させる。なお、酵母 菌を用いたこれらの実験はすべて無菌状態で行うことを原則とする。交配し、二倍体を形成した酵母のみが LW 欠失選択培地にてコロニーを形成できる。2-3 日後、形と色の適当なコロニーを一つ爪楊枝でピックアッ プし、LWH(ロイシン・トリプトファン・ヒスチジン)欠失選択培地、および LWHA(ロイシン・トリプトファ ン・ヒスチジン・アデニン)欠失選択培地に蒔く。また同時に、LW 欠失選択培地にて蒔くことにより、二倍 体のコロニーを purify することにより、同じクローンのコロニーを新鮮に保つ。 Prey protein と Bait protein が相互作用をしていれば、二倍体の酵母は LWH あるいは LWHA 欠失選択培地 にて生育することができる。相互作用の程度が強ければ、LWHA 欠失選択培地でも生育することができる。 なお、実験のポジティブコントロールとして、すでに相互作用があることが検証されている Rec114 と Mei4 を 用いた。 また、タンパク質間の相互作用を見る前に、タンパク質のセルフアクチベーション活性を除外するための実 験を行うことが多い。今回は PRDM9 のドメインマップを作ることが目的であったため、PRDM9 の持つドメイン それぞれについてのセルフアクチベーション活性を検出する必要があった。セルフアクチベーション活性とは すなわち、GAD と GBD との融合がない状態でも転写活性作用を示してしまう状態である。この活性を調べるた めには、図 3 のようなハプロイド(一倍体)を掛け合わせる。すなわち、GAD をどのタンパク質とも融合させ ずに Y187 に形質転換する。そうすると、もし PRDM9 のあるドメインがセルフアクチベーション活性を持って いた場合、本来ならば生育するはずのない LWH/LWHA 欠失選択培地で育つ。そしてこのセルフアクチベーショ ン活性試験の結果、陽性(すなわちセルフアクチベーション活性を有する)ドメインに関しては、何らかの措 置を施して活性を除去することで、最終的に純粋なタンパク質間相互作用の結果を得ることができるのである。 なお、セルフアクチベーション活性の除去のためには、3-Amino-1,2,4-triazole(3-AT)を含む選択培地を 用いるなどする。 図 3 上記の Yeast two hybrid assay により、PRDM9 のどのドメインが、どの interacting protein candidate と相互作用をするかについてのデータを得た。次に行ったのは、タンパク質が発現しているかどうかの確認で ある。 SDS PAGE/Western Blot を用いたタンパク質の発現確認 もしも酵母が適切にタンパク質を発現していなければ、タンパク質間の相互作用がたとえあったとしても、 コロニーは選択培地上にて発育することができない。そこで、SDS PAGE および Western Blot を用いて、相互 作用がネガティブであるという結果の得られた酵母菌がタンパク質を発現しているかどうか検証した。なお、 SDSPAGE を行う際のタンパク質量を標準化するために OD を、内的コントロールとして tubulinβを用いた。 Dilution Assay を用いた相互作用の程度の検出 Yeast two hybrid assay を用いたドメインマップの作成をする際、タンパク質間相互作用の強さの程度を見 るために dilution assay を行うことがある。これは酵母菌の希釈液を作成し、選択培地上にて培養するとい 7 6 5 4 3 うものである。今回私は 5 段階の希釈液(10 ,10 ,10 ,10 ,10 cells/ml)を作り、それぞれを LWH,LWHA 欠 失選択培地に蒔いた。高い希釈率でも選択培地上で生育できたものはそれだけタンパク質間相互作用が 強いと判断した。 これらの実験を行うことで、PRDM9 のドメインマップを作製した。 また、酵母を用いた実験と並行し、invitrogen の gateway system を利用した DNA のクローニングも行 った。PCR で増幅させた DNA を BP 反応にてプラスミドに組み込み、大腸菌に形質転換する。これを選択 培地上で一晩培養し、生育したコロニーを液体培地で増やし、そこから DNA を取り出す。この時点で DNA のシークエンスが正しいかどうか確認してから、LR 反応にて別のプラスミドに組み込んで再び大腸菌に 形質転換する。この大腸菌を増やし、DNA を抽出することで、目的の DNA をクローニングする。 留学について(生活) ² モンペリエについて:モンペリエは、地中海にほど近い学生の町である。フランス第八番目の町で あり、大きな大学がある。そのうちモンペリエ第一大学は医学部であり、ヨーロッパでも有数の歴 史を有するとのことである。町は旧市街を中心に郊外まで広がっているが、トラム(路面電車)が 4 本走り、町のほぼどこにでも簡単にアクセスできる。旧市街は徒歩で回ることもできるこじんまり としたものであり、とても町並みが美しい!ということもないが、活気のある若者の町だった。治 安の面でも、戸締り・手荷物に気を付けるなど、スリや置き引き対策さえすれば特に危険を感じる 場面もなかった。活気にあふれたメインの広場(コメディー広場)の近くには大きなオペラ座、デ パート、美術館、映画館などがあり、そこを中心に大学町らしい建物や下宿が並んでいる。また、 郊外に最近大きなショッピングモールができ、駅も改装中と、これから開発がどんどん進んでゆく のだろうなという印象もあった。 若者の街らしく、夏の間はイベントごとにあふれていた。7 月には音楽祭、Radio france がモンペ リエで開催され、二週間街のあちらこちらでジャズやクラシックのコンサートが開催されている。 無料のプログラムも多く、気軽に楽しめた。また、8 月から 9 月半ばにかけての金曜の晩は、旧市街 にてワイン試飲祭りが開かれ、ジャズの野外コンサート、夜店もたくさんあり、活気に満ち溢れて いた。 ² 交通:わたしは日本から KIX 発、CDG(Paris)乗り継ぎの Air France 便でモンペリエのメディテラニ 空港に着いた。行きは駅まで研究室の院生の方が車で迎えに来てくださったが、自力で街中までア クセスするのも難しくない。空港から一時間に 1,2 本シャトルバス(1.6 ユーロ)が出ていて、それ に乗れば 15 分で街中まで出る。シャトルバスの到着駅の前にトラムの駅があり、大変便利だった。 Montpellier St.Roch 駅はそれほど大きな駅ではないが、TGV が停まるためパリまで 3 時間半である。 今回私は滞在中に飛行機を使うことを避けたので、フランス国内線についてはわからないが、鉄道 で南仏の町を日帰りで巡るにはとても便利な街だと思う。駅の構造もややこしいところはなく、電 車が大幅に遅れるというのも、全体の1割程度だった。フランスの鉄道の切符は、現地についてか ら sncf というサイトにて入手した。フランスではホテルにせよ列車の切符にせよ早割制度があり、 予定が決まり次第予約するのがよいと思う。けれども、あらかじめ日本国内でフランスレールパス を購入してゆくのがなおよいと思う(あるいはスペインやドイツ、スイス等にゆくならユーレール パスなど)。わたしはそれほど予定を決めて行かなかったのだが、それが功を奏し、週末に研究所内 の大学院生が車で遠足に行くというのに何度か参加させてもらったり、ホームパーティーに呼んで もらったりした。遠出したい国や場所があるならば、実習の前か後にまとまった時間をとる方がよ いかもしれない。 街中での交通にも不便はなかった。トラムが4本あるほか、バスもよく見かけた。少し郊外にあ る観光名所へもバスでアクセスできた。わたしは基本的にトラムしか使わなかった。乗り方も簡単 で、各駅にチケット販売機があるので、切符を購入(1 回券 1.4 ユーロ・10 回券 12 ユーロ)し、ト ラム内の刻印機に通せばよい。切符を刻印していない人もちらほらいたが、たまに検閲官がチェッ クすることがあり、罰金は高いらしい(わたしも 4,5 回検閲された)。トラムは昼間は 5 分に一本 ほど、22 時以降も 10-15 分に一本のペースで走り、午前の 1 時ころが終電である。市内バスはわた しは利用しなかった。交通機関の時刻表はウェブで簡単に検索できたが、フランス語のためはじめ は少し苦労した。 ² 宿舎:留学中の宿舎については、いくつか選択肢があった。わたしが選んだのは、研究所の向い(徒 歩約 5 分弱)に建つ短期/長期滞在用の studio だった(Maison Universitaire International de Montpellier)。ここは清潔感のあるアパートメントで、やや値段が高いけれど、水道代や光熱費、 インターネットの接続など全て込みで不自由なく生活できた。(750 euro/month) 冷蔵庫、電子レン ジ、二口コンロ、換気扇など全て備えられている。ドライヤーと冷房はなかった。大きなスーパー マーケットが徒歩 10 分の距離にあり、生活用品は食材も含めそれほど高くない。食器などの設備は 部屋により異なる(退居者が置いていくため)けれど、わたしは運よく買い足す必要がないほど整 っていた。宿舎には備え付けの自動販売機、コインランドリーがあり、洗濯にも困らない。一回 3.5 ユーロで洗濯できる。乾燥機もあったが、モンペリエは乾燥しているため部屋に干していても生乾 きになることなく簡単に乾いた。 この宿舎は人気が高いので、早めに予約をすることを薦める。宿舎のマネージャー(若い女性で、 とても明るく優しい方)にメールを送り、だいたいの日にちと滞在期間を知らせ、部屋を空けてお いてもらう必要がある。わたしは 7 月半ばからの 70 日の滞在を 4 月の頭に知らせ、6 月の半ばにも う一度リマインドメールを送った。支払いは到着日の翌日、現金で済ませた。メールを送れば簡潔 に、すぐに返事がもらえたので、滞在中も特に困ることはなかった。 ほかの選択肢として、ホームステイもあった。モンペリエは学生の多い町のため、市営のホーム ステイ紹介ウェブサイトがある。ウェブサイトはフランス語だが、英語で研究所の最寄り駅 (occitanie)から 30 分以内/英語が通じる家庭など条件を送れば紹介してくれるとのこと。ただ、 わたしは未経験なのでどのようなシステムかわからない。なお、フランスは書類仕事が日本ほど早 くないのでこちらも早めにアプローチしたほうがよいと思う。 ² 食生活:旧市街にはレストランやカフェがたくさんあるが、研究所の周りにはほぼ見当たらない。 駅の購買は研究所の向かいにある。また、歩いて 5 分強のところに病院があり、そこの購買も利用 できる。けれど、スーパーマーケットの食材が安いので、わたしは基本的には朝昼晩自分で用意し ていた。研究室のメンバーが集まってお昼ご飯を食べることがほぼ毎日だったので、昼休みに下宿 に帰ることはせず、簡単なお弁当を作って持っていった。また、飲料水は宿舎の水道水は沸騰前は 一切飲まず、ミネラルウオーターを買った。けれど、研究所内に清潔な給水器があり、平日は空の ペットボトルを持って行ってそこに汲んで帰ったのでそれほど困らなかった(そうしている人がけ っこう多かった)。 ² お金:わたしは visa カードを持っていたが、場合によっては対応していないこともあった(トラム の切符を買う際など)。海外どこでも使える、というクレジットカードなら大丈夫らしい。食費は、 自炊していたこともあり週に 10-20 ユーロほどだったので、週末どれくらい旅行をするかによって 費用は変わると思う。なお、可能ならばユーロの小銭を用意しておいた方が洗濯の際にも困らない かと思う。 ² 気候:7 月、8 月にかけてモンペリエはかなり暑い。湿気は全くないので朝や夜は過ごしやすいが、 日中は陽射しがとても強い。衣類は T シャツやタンクトップで十分だし、研究所内でもラフなサン ダルで許された。平日は日中ラボにいるのでそれほど感じないが(冷房がきいている)、休日に近隣 の町へ出かけたときも厳しい暑さだった。夏の間は 21 時過ぎまで明るい。9 月に入ると過ごしやす くなり、中旬を過ぎると朝夕は肌寒かった。日暮れも 20 時過ぎとなった。それでも T シャツにカー ディガン 1,2 枚、ストールなどあれば十分。また、今年は夏が終わるのが早かったとのこと。 ² ラボでの生活:IGH はそれほど大きな研究所ではないが、設備は十分整っていて清潔だった。ラボの メンバーは夏の間は入れ代わり 2-4 週間のバケーションをとっていたが、どの方も親しみやすく、 温かかった。年上の研究員の方々とは、人見知りが出てそれほど積極的に話せなかったが、20 代の メンバーもいて、仲良くしてくれた。日本からの手土産を持っていくと喜んでくださった。 ² 言語:研究室内では英語がどこでも通じた(皆本当に堪能だった)。私は残念ながらフランス語が話 せなかったが、朝と帰宅時に皆にあいさつするように心がけた。笑顔で挨拶をすることを徹底する ことが大切だと感じた。時間に余裕があれば、もちろんフランス語を少し勉強していくほうがよい と思う。研究の内容などは日本人の院生の方に指導していただいたので、問題なかった。日常生活 でも、フランス語が話せた方がなおよいが、話せなくても大きく困ることはなかった。 ² 週末の旅行:研究所の近所に住む院生が、自宅でホームパーティーをすることが何度かあり、声を かけていただいてお邪魔した。みな親切で楽しい人々なので、無理に話そうと気を張らずとも、積 極的に参加するとフランス人の生活スタイルや考え方も知れて楽しかった。フランスは親日家がか なり多く、巻きずしを皆で作ることもあった。週末に一人で旅行へ行くときは、sncf のサイトで切 符を予約し、研究室の印刷機で印刷をしたり、駅の自動発券機で発券したりと困ることはなかった。 列車はほぼ時間通りに来るので、St.Roch 駅に発車時間に合わせて行き、切符に刻印をして乗車した。 何度か大幅に遅れることもあったため、あまり遅い時間の切符を取らない方が無難だと思う。駅か ら最寄のトラムの駅は徒歩 2 分ほどのため、アクセスも不便はなかった。南仏には古代ローマの遺 跡がたくさん残り、世界遺産や美術館も多いため充実したショートトリップができた。パリ、リヨ ン、ボルドーなど少し遠い町にも行った。モンペリエからバスに乗って、フランスの美しい町 100 選に選ばれている Saint Guilhem le desert や Aigue Mortes にも行けた。モンペリエはすぐ地中海 に近く、海水浴もできる。ただ、南仏の町はどこもやはり雰囲気が似ているため、交通時間が長く なければ北フランスなども行きたかった。 ² 実験の様子:留学前に研究室で扱う研究テーマについていくつか論文を送っていただいたが、実際 に現地に行って実験を始めるまで、具体的に理解するのは難しかった。トータルで 8 週間の実験生 活であったが、初めの 1 週間は基本的な手技の習得、試薬などの位置、自分のまかされる研究テー マについての理解で必死だった。私はイーストを用いたアッセイのほかにクローニングを 3 つさせ ていただいたが、それらの記録はすべて英語で書くように、とデータの整理も含めノート記入を任 されたため、スーパーバイザーの方に実験結果をその都度報告をし、結果の分析や先の方針などを 相談しながらも、なるべく自分で作業をしようと心がけていた。教授とは二週間に一度一対一で 1 時間半ほどミーティングをし、その二週間に行った実験や得られた結果を説明することを求められ た。はじめはスーパーバイザーに言われたことをやるという意識だったので、このミーティングの 際に細かい質問などもされるため、理解が追い付くまでは少し重かった。けれども、適当なことを 言えない代わりに(すぐに切り返して質問されて答えに窮する)わからないと伝えればきちんと初 歩から説明してくださるので、すぐに前向きに臨めるようになった。ベルナルド教授には、イース トを使っての実験の意味や結果の分析の仕方、コントロールを用いる意義、実験がうまくいかない 際の方針の立て方など本当にたくさんのことを教えていただいた。はじめはほぼゼロといってもよ いくらいの知識不足に不安だったが、その点は一度も驚きや軽蔑のような態度を取られることもな く、その代り、教授の与えてくださったアドバイスを次回までに活かせていない場合にはもう一度 指導され、反省することもあった。インターネット環境も整っており、自分の机とパソコンを与え られ、データの解析ソフトなども使い方を教えてくださるので困ることはなかった。実験上で細か な失敗することも多々あったが、気づいたときにすぐスーパーバイザーに伝え、指示を仰いだ。そ のため、幸い大きな失敗をすることもなかったし、取り返しのつくうちは失敗に入らない、といつ も言ってくださったおかげで、めげることなく実験が続けられた。 最大の難関は、実習期間の最後にあるラボミーティングでのプレゼンテーション(30 分程度)だ った。英語での発表は初めてだったのでとても重荷に感じていた。ただ、幸運なことに期間中にク リアな一連の結果が得られたため、フィギュアづくりも余裕をもってできた。スーパーバイザーが 直前に発表スライドと原稿を見てくださったおかげで、ラボミーティングでも自信をもって(開き 直って)発表できた。クローニングのほうは、3 つ並行していたうち 1 つは完成できなかったのが残 念だった。全体として、真面目に取り組めば実習生としてはきちんと評価されるのだと感じた。も ちろん結果が出ることはラッキーなことだが、失敗続きでもスーパーバイザーや教授の指示を聞き、 次の方針として示されたことを理解し丁寧に実験すれば、たとえ失敗してもネガティブな言葉をか けられることは一度もなかった。また、わからないままに放っておくとよいことはないので、理解 できるまで繰り返し質問することもあったが、それに対しても好意的に教えてくださり、本当に助 かった。プレゼンテーションのほかに、8 週間のうちに出たデータはすべて引き継ぎ、すべて実験を まとめたレポート英語で作成してベルナルド教授に提出するという課題もあったため、不明な点を なくしておいてよかったと感じた。なお、実験手技については留学前の 4 か月間、京都大学形態形 成機構学の萩原先生の研究室にて、助教の小林先生に丁寧に指導していただいたおかげで大腸菌を 用いてのクローニングやウェスタンブロットなど、プロトコルは違うものではあったがそれほど戸 惑うことなく進められた。イーストを扱うのはモンペリエに着いてからであったが、はじめはやや 慣れないながらも、何とか作業できた。8 週間は長いようで短いため、内容は全く異なった研究室で も、日本にいる間に基礎実験の操作に少し慣れておいて本当によかった。 最後に マイコースプログラムでの今回の留学は、前期の最終試験が終わって二日後の出国、まったくの準 備不足だったが引き返すこともできず飛び込んだようなものだった。実験内容の理解も追いつかず、 フランス語は全く話せない状態でかなり不安が大きかった。けれども、準備不足も知識不足も自分 の責任なので、何も知らないことを研究室の方にあきれられても、めげずに学ぼうと思っていた。 研究室への受け入れを許可してくださった Bernard de Massy 教授、スーパーバイザーとして指導し てくださった今井裕紀子さんのお二人が辛抱強く熱心に指導してくださったおかげで、なんとか 8 週間の間に、与えてくださった内容を理解し、実験を終えることができた。モンペリエの研究室の 皆さんは、研究所の外でも温かく、大変お世話になった。特に、今井裕紀子さんには準備の段階か ら帰国の日まですべて相談に乗っていただき、彼女の力なしではこの留学はこれほど実のあるもの にならなかったと心から思う。また、モンペリエへの留学が決まったあと、京都大学の形態形成機 構学の萩原先生の研究室に 4 か月通わせていただき、助教の小林先生に丁寧に基礎実験の手技を指 導していただいた。留学先での研究内容を知らされていない状態だったのに、指導を引き受けてく ださり、ゲートウェイシステムを導入した大腸菌を用いてのクローニング、ウェスタンブロットの 手技を教わった。それが、偶然にも練習したことをそのままモンペリエで活かすことができ、8 週間 という短い期間だったため事前に指導していただいて本当に助かった。萩原先生の研究室の皆さん、 モンペリエの Meiosis&Recombination チームの皆さんが温かく接してくださったおかげで、どちら の研究室でも意欲的に取り組むことができた。そして、このモンペリエの研究室とのご縁をくださ った武田先生のお力がなければ、このような素晴らしい経験を得られなかった。 振り返ってみると、3 月から始まり約半年間、本当に人の縁に恵まれた。直接ご指導いただいた多 くの先生方、研究室に迎え入れてくださった方々には感謝しきれない。また、スーパーバイザーの 今井さんから最高によいタイミングで実験を分けていただいたおかげで、偶然にも研究室にとって 少しでもプラスとなる結果を得ることができた。すべての幸運を謙虚に受け止めたい。武田先生、 形態形成機構学の研究室のみなさん、そしてモンペリエの皆さんに教わったことをこれからの自分 の糧にして、前向きに学ぶ姿勢を忘れずにいたい。かかわってくださったすべての方々、本当にあ りがとうございました。
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