映画館ビジネスと今後の課題

文教大学情報学部経営情報学科 幡鎌ゼミナール
卒業論文
映画館ビジネスと今後の課題
2012 年 1 月 12 日
A8p21045
小川真央
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目次
第一章:はじめに
・なぜ研究しようと思ったか?
第二章:映画業界のこれまで
・技術革命
・劇場公開
・パッケージ流通
・テレビ、ネット放送
第三章:映画館の現状
・シネマコンプレックス
・デジタル上映
・3D 映画
第四章:映画業界の主な企業
・東宝
・東映
・松竹
第五章:ビジネスの仕組み
・映画館ビジネスの仕組み
・映画の権利販売
第六章:映画館業界が抱えている問題
・1スクリーンあたりの興行収入の減少
・人件費
・テナント料
・割引料金の乱発
第七章:業界の今後、まとめ
・サービス業としての映画館に必要とされることは?
・
「小さなことからコツコツと」で、黒字へ。
・サービス見直しの提案
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第一章はじめに
なぜ研究しようと思ったか
私は、現在映画館でアルバイトをしているが、映画のビジネスの仕組みや歴史など知ら
ないことだらけだ。そして最近では人件費削減に徹底していて、どうも経営状況がよろし
くないようだ。なぜこうなってしまったのか?これからどうすれば映画館は活気を取り戻
すとこができるのか?調べていきたいと思い、今回このテーマを研究してみることにした。
本論文では、まず映画館のこれまでの歴史と現状を調べる。次に業界大手の企業につい
て調べ、日本の映画業界が歩んできた流れを調べる。そして映画館の現状ある問題点を調
べて、解決策を考えていく。
第二章 映画業界のこれまで
これまでの映画の歩みを見ていく。
技術革命
映画は今日までに三つの大きな革命を起こしてきた。1927年にトーキー革命が起こ
る。以前まではサイレント映画といういわゆる音が出ない物だったが、1927年に上映
された映画『ジャズ・シンガー』により「喋る映画(トーキング・ピクチャー)」、つまりトーキーが誕
生した。次にカラー革命が起こる。
「映像に色をつける」という試みはサイレント映画時代
の初期から試みられており、当時は 1 コマ 1 コマ手作業で着色されていた。その後カラー
フィルム自体は 1916 年に 2 原色式テクニカラーが開発されるが、青や黄色が表現できない
など、色彩再現力が不完全であった。1932 年にはそれらの欠点を克服した 3 原色式の改良
版テクニカラーが開発され、ディズニーのシリー・シンフォニー・シリーズの『花と木』
で初めて採用される。
そして近年注目されている3D 革命である。ドリームワークス社による初の 3D アニメ作
品である『モンスターVS エイリアン』を2009年に公開。映画関係者の間では「2009
年=3D 元年」という意識が共有されるに至っている。この革命は、映画界の救世主になる
可能性がある。3D がテレビや DVD などに対する強力な差別化要因になるからだ。入場料
を一般作品よりも高めに設定しても、集客力を保つことができる。また映画館での撮影(コ
ピー)が難しいため海賊版対策にも役立つ。
劇場公開
昭和33年(1958年)
、すなわち高度経済成長期。この年は日本の映画業界にとって
はメモリアルイヤーと呼ばれている。
3
この年、1年間の観客動員数、つまり映画館に足を運んだお客の延べ人数が、11億2
700万人を記録した。当時の日本の人口は約9200万人であるから、その12倍もの
観客動員数ということになる。しかも、以降この動員記録は破られていない。この時代は
映画黄金時代と呼ばれた。この年をピークに映画館の観客動員数は減少し続け、96年に
は約1億2000万人と、ピーク時の9分の1まで落ち込み、それにあわせてスクリーン
数も激減してしまった。入場者数が減っている間も興行収入は増えたが、それは主に単価
の上昇によるものだった。80年代に入ってからは単価も微増にとどまったことから、興
行収入もほぼ横ばいで推移した。この長期にわたる観客動員数の減少傾向は、日本だけで
なくアメリカでも見られることから、原因としてはテレビの普及や庶民の娯楽の多様化な
どが挙げられている。実際に、日本の家庭へのテレビの普及率と映画館の入場者数の推移
を見ると、入場者数は、白黒テレビが普及しはじめた58年から大きく落ち込む。それと
は対照的に、白黒テレビは洗濯機、冷蔵庫とともに急激に普及し、67年には普及率ほぼ
100パーセントとなる。その結果、大衆娯楽であった映画は、特定の趣向を持つ者のた
めの趣向品的な商品に変化したのである。そして96年に転機が訪れる。この年を底に観
客動員数が増加に転じたのだ。07年には1億6300万人余りと、96年に比べ440
0万人も増えている。40年間右肩下がりにあった観客動員数は、この10年余りの間に
飛躍的に増加している。要因はシネコンの普及があげられる。スクリーン数は60年の7
475スクリーンをピークに減少の一途をたどっていたが、93年以降は増加傾向にあり、
07年には3200を超えるまでに回復している。
パッケージ流通
80年代に入ると、家庭用 VTR が本格的に普及し始める。2大企画である VHS とβの
シェア争いも手伝ってプロモーションも活発化、製品も低価格化し、驚異的な販売台数の
伸びを見せた。家庭用 VTR の世帯普及率は、1980年の2・4%から90年代には66・
8%にまで急上昇する。VTR は、テレビ放送を録画しておくだけでなく、過去に映画館で
公開された映画をビデオカセットというパッケージメディアで視聴することにも用いられ
るようになった。しかし、当時映画のビデオカセット1本あたりの価格は1万円程度と高
かったため、購買層は限られていた。そこで、ビデオレンタルという市場が広がったのだ。
かくして、かつては名画座など限られた場所でしか見ることが出来なかった旧作を、気軽
に、自分が望むタイミングで楽しめるようになったのである。
当初、レンタルビデオ店は貸しレコード業者が兼業で始めるケースが多かったが、市場
規模の拡大とともに新規参入が進み、80年代にはビデオレンタル専業の事業者が爆発的
に増え、ピークの90年には全国で約1万3500店を数えた。
パッケージ市場が映画業界に与えたインパクトは大きい。何よりも、劇場での興行収入
に追加してレンタル店にビデオを販売することによる収益が得られるようになった。各映
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画会社は自社の系列ビデオメーカーを立ち上げ、また VTR の売り上げ貢献を名目に、家電
会社やパッケージ販売のノウハウを持つレコード会社も参入するようになる。90年代前
半には、メーカー出荷額の合計が、レンタル向けパッケージメディア(ビデオカセット、
レーザーディスク)による売り上げ1000億円、セル向け1000億円と、計2000
億円に成長した。
市場が大きくなるにつれ、劇場公開の副次収入ではなく、ビデオ販売そのものの収入を
目的とする映画が登場する。これらはビデオオリジナル映画と呼ばれ、映画間では上映せ
ず、ビデオ市場のみで流通を前提とした映画である。
ビデオオリジナル映画が市場に受け入れられた背景には、映画館へ足を運ぶ客層とレン
タルで済ます客層の違いがある。映画館で映画を見る層は20~34歳の女性、35~4
9歳の女性と、女性が中心であるのに対し、レンタルは20~34歳の男性、35~49
歳の男性と男性向けの作品のニーズが高かったのである。
結果として、ビデオオリジナルはヤクザもの、アクション、エロティックサスペンスと
いったジャンルが主流となり、テレビドラマより過激な描写をウリとする映画が量産され
るようになった。たとえば「修羅がゆく」(95年)や「ミナミの帝王」(92年)といっ
たヒット作はシリーズ化され、それぞれ続編が映画館で公開されるまでになっている。
劇場公開することで映画情報誌や新聞で取り上げられ、作品の認知度が上がるのは言う
までもない。よって、近年では小規模ながら劇場公開するビデオオリジナル作品も珍しく
なくなった。
90年代には、VTR の普及率が落ち着くとともにレンタル市場も成熟期に入った。当然、
レンタル店は過当競争に陥ることになる。品ぞろえやレンタルの仕組みでの差別化が激し
いことから、価格競争が進んだ結果、収益性が低下し、多くのレンタル店が淘汰されてい
った。
現在のレンタル店舗数は7500店(実質5000店)程度、つまりピーク時の約半数
となっており、その大半は仕入れのスケールメリットを享受でき、経営ノウハウがしっか
りした大手チェーン店が占めている。最近のトピックとしては、立地に左右されないイン
ターネットと宅配を利用したオンラインレンタルという業態の出現が挙げられる。
2000年3月の PS2 発売をきっかけに、パッケージメディアはビデオカセットから
DVD への移行が急激に進んだ。製造コストが安いうえに高画質・高音質、取り扱いもしや
すく省スペースと大いに利便性が増し、また、これに伴う MPE フォーマットへの転換は、
その後のネット流通(ダウンロード販売)への対応を容易化するものとなった。
レンタル市場の頭打ちからセル市場の開拓を狙っていたメーカーの思惑もあいまって、
セル市場は爆発的に拡大し、05年のメーカー出荷額はセル向けだけで2600億円にま
で成長した。なお、レンタル向けにおいても同様に、売上金額は1000億円前後と横ば
いのままだが、こちらもカセットから DVD にメディア交換が進んでいる。
セル市場では、ビデオカセット時代に主に専門店や CD ショップで売られていた映画ソ
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フトは DVD 化とともに販路が広がり、家電量販店やディスカウントストア、総合スーパー
などでも販売されるようになった。
さらに、作品によってはコンビニエンスストアにも置かれるようになり、その結果、ヒ
ット作はより一層ヒットするという流通の構造が出来上がっている。また、通販になじみ
やすいメディアであることから、ネットショップが大幅に躍進している。
テレビ放送・ネット配信
53年に NHK が地上波放送を開始してから13年後の67年、白黒テレビの普及率が9
7%に達した。また、それをリプレイスする形で、78年にカラーテレビの普及率が97%
に達している。この間、NHK に続き民間放送会社も相次いで開局し、地上波はチャンネル
を増やしながらやがてお茶の間の娯楽として君臨した。映画もマスマーケットを対象とし
た重要なコンテンツとして番組表にラインナップされ、民放では各局ともに毎週プライム
タイムに「映画番組表」を設けるようになった。特に、洋画については日本語吹き替えを
行い、より多くの視聴者が楽しめるような形で放送していた。
平成に入ると、テレビの多チャンネル化が進む。89年には NHKBS が本放送を開始し、
CATV 向けに CS 放送もはじまった。91年には民間衛星放送局の WOWOW が、96年に
は日本発のデジタル放送として CS を使った「パーフェクト TV!」
(現・スカパーフェクト
TV!)が開局する。
また、もともと山間部の山や都市部の高層ビルによる難視聴対策として50年代から普
及していたケーブルテレビも、95年ごろから多チャンネル化の影響を受け番組メニュー
も強化。ほぼ同じタイミングで出現した MSO(CATV を統括・運営する会社)により広域
化され、プロモーション力も向上し、地上波を受信できる家庭でも CATV を導入するケー
スが増えた。2000年代には BS デジタル、地上波デジタル、携帯端末向け地上デジタル
(ワンセグ)も次々と放送が開始され、多チャンネル化の流れはさらに加速している。
こうした流れはさらなるコンテンツ需要を生み、そのなかで映画に対するニーズも多様
化。細分化した。幅広い視聴者を想定し、カット版、吹き替え版での放送が主流だった洋
画は、地上波の深夜帯や BC ではコアなファン向けにノーカット・字幕版で放送されるよう
になった。また CS やケーブルテレビではアニメ、時代劇、ミステリー、ホラーなどの専門
チャンネル化が進んだ。
数字で見ると、06年には地上波、BS だけでも2169作品が複数回にわたって放送さ
れている。これはその年の封切映画810作品のおよそ2.7倍にあたる数字である。
また、ブロードバンドの普及を背景に、インターネットでの映画鑑賞(ネット配信)も
一般化し、確実に視聴者を増やしている。PC や携帯電話での視聴にくわえ、STB を利用し
たインターネットテレビのサービスも増えており、多チャンネル化はさらに加速すると思
われる。
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第三章
映画館の現状
この章では、現在の映画館で主流となっているものを紹介する。
シネマコンプレックス
シネマ・コンプレックス(以下「シネコン」)とは、複数の映画館(10 スクリーン前後)
によって構成される、複合映画館である。シネコンは最近では、再開発ビルや、駐車場が
完備された郊外の大型ショッピングセンターの中に導入されることが多く、集客強化のた
めの娯楽施設として注目されている。
以前は映画観賞は「映画を見る目的で映画館に行く」いわゆる独立したレジャーだった
が、再開発ビルや大型SC(ショッピングセンター)に併設されることによって、例えば、
買い物・食事・遊びといった目的の「ついで」に「映画を見る」
、副次的な行動として映画
館観賞が可能となった。もちろん、その逆で「映画を見たあと」に食事・買物という行動
もある。来館者がこうした複数の行動を行うことによって施設内における滞留時間が延び、
施設の活性化を図ることができる。再開発ビル・SCとシネコンの組み合わせの利点と言
える。また、女性が一人でも入れるような清潔感(例えば、明るいロビー、清潔な洗面所、
ゆったりとした座席等。
)もシネコンの良い点である。
デジタル上映
近年、長年続いていたフィルムによる映画上映が少しずつデジタルで行われるようにな
ってきています。デジタル上映には利点が多く、フィルムの運搬や上映フィルムの検査の
手間が大幅に軽減され、フィルムの焼き増し費、輸送費、保管費、廃棄費の節約ができま
す。さらに上映による劣化もないため、常に同じ画質を維持する事が可能となります。
だがメリットばかりではありません。デジタル上映館の建設設備コストは、フィルム上映
館のそれを二割ほど上回ります。だが将来を考えれば、デジタル化することは結果的には
コスト削減につながるので、導入が進んでいる。
デジタルシネマが増えてきたことによりイベントを映画館で上映する「ライブビューイ
ング」が増えている。収録した公演を再編集して上映するケースもあるが、特に注目が集
まっているのは生中継。福山雅治や宇多田ヒカルなどのライブ、お笑いの舞台、さらには
スポーツなどさまざまなジャンルのイベントが生中継されている。
TOHOシネマズでは、09 年にライブビューイングの担当部門を設置。2010年には、
27 のイベントを生中継した。興行サイドは「観客数が少ない平日の対策、また、映画館に
足を運んでいない人を呼ぶために本格的に取り組む。映画に次ぐ柱」と考えている。
そしてユニークなのが、金額設定だ。映画の 1800 円とコンサートの 1 万円の間の価格帯
で自由な価格がつけられている点だ。本当は映画料金と一緒でも十分に利益は出るのだが、
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1 回限りのライブコンサートを同時視聴という付加価値があるので、限りなく、コンサート
価格に近い価格設定でもファンにとっては、見れるだけで幸せな価値を見出している。こ
れは、アーティスト側にとっても、得がたいビジネスモデルだ。東京ドームを満杯にして
も、一回、5 万人以上入れることは無理だ。物販を展開しても、その人数以上に販売するこ
とはできない。しかし、全国各地の映画館で「ライブビューイング」が展開されることに
よって、映画館も、通常の映画興行よりも、より料金の高い観客を動員することができる
ようになった。 映像面での進化も続く。ソニーは、テニス大会「ウィンブルドン選手権」
を3D映像で世界各国へ配信する。映画館のスクリーンと音響で生中継イベントを楽しむ、
そんなスタイルが定着しそうだ。
3D 映画
『アバター』の大ヒットで 3D 映画ビジネスに加速が付いてきた。
『アバター』公開に合わせて、シネコン各社が急ピッチで3D上映システムを導入したこ
とで、3D映画が一気に日本で定着した。
日本に導入されている方式は4つ。「Real
D」「Dolby
3D」「XpanD」
「IMAX 3D」だ。
図1 4つの3D メガネの特徴
出所:モノクロ13D映画ビジネス より(日経 TRENDY, 2010/05 号, 62~64 ペー
ジ掲載)
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右目と左目に微妙に異なる映像を見せ、目の錯覚によって立体感を認識させる。だが、そ
の手法は上映システムにより違う。
Real
Dを導入しているのがワーナー・マイカル・シネマズとユナイテッド・シネ
マ、Dolby
3Dがティ・ジョイ、XpanDがTOHOシネマズ、MOVIX、1
09シネマズなど、IMAX 3Dが109シネマズ。各社の方式が分かれているのには、
それぞれの事情がある。
ワーナー・マイカル・シネマズが最初にReal
Dを導入したのは 05 年冬。初めて製
作された3Dデジタル映画『チキン・リトル』の公開に合わせてだ。当時はReal
D
しかなかったため、選択の余地はなかったという。
「3Dシステムを増やしていくに当たり、
ほかの方式も検討したが、メガネが軽く、シルバースクリーンを使うので明るくなるとい
うReal Dの利点を重視した」
(ワーナー・マイカル・シネマズ番組企画部の小林直也
次長)
。
ティ・ジョイは2000年に日本で初めてデジタルシネマ上映設備を備えたシネコンを
広島にオープン。以降も全サイトにデジタルプロジェクターを導入し、フィルムを使わな
いデジタルシネマの時代を見据えて先手を打ってきた。07 年冬に初めて導入した3Dシス
テムは、デジタルプロジェクターがあれば運用できるDolby製にした(当時Xpan
Dはなかった)
。
だが、Dolby
3Dは上映スクリーンの大きさに制限がある。そこで『アバター』
公開に合わせて、上映スクリーンの大きさに制限のないXpanDを3サイト(施設)に
導入。2010年3月 19 日にオープンしたシネコン「横浜ブルク 13」でもXpanDを採
用した。
今日本で最も普及している方式が、XpanDだ。主なシネコン6チェーンを見ても、
ワーナー・マイカル・シネマズを除く5チェーンが導入しており、その総数は 81 サイト 155
スクリーンに上る。
最大の理由は、上映スクリーンを変更できるから。客の入りが多ければ、大きなスクリ
ーンに変えたり、その逆も可能。ほかのシステムは変更できないため、これがXpanD
の強みだ。弱みはメガネが重く、ずれやすいこと。メガネに液晶シャッターという機能や、
これを動かす電池が入っているため、どうしても重くなる。導入スクリーン数が最も多い
TOHOシネマズでは、アジャスターを付けるなどの工夫を凝らしている。
IMAX
3Dは109シネマズが2009年6月に日本で初めて導入した。導入コス
トは最もかかるが、スクリーンが最も大きく、映像が鮮明なことから観客には大人気。な
かでも109シネマズ川崎での『アバター』の興行収入は、全国で1位、2位を争うほど。
料金は一般2200円で、ほかの3Dシステムより高いものの「不満の声はほとんど聞か
ない。
『IMAXはほかの3Dシステムと別物』と捉えてもらえている。ブランドを大事に
保っていきたい」
(東急レクリエーション劇場運営部の久保正則次長)という。
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第四章
映画館業界に関わる主な企業
ここでは映画の製作、宣伝・配給、興行を行う大手映画会社を紹介する
東宝
「世界の中心で愛を叫ぶ」のブレイクに象徴される“邦画ブーム”をけん引してきたの
が東宝である。事業内容は、映画やテレビ番組及び演劇の製作・興行に加え、不動産経営
なども。映画制作を行う東宝映画、洋画配給の東宝東和、シネコンを展開する TOHO シネ
マズなどをグループ内に持つほか同社自体は阪急電鉄、阪神電気鉄道を擁する「阪急阪神
東宝グループ」の中枢企業でもある。
日本が誇る巨匠・黒澤明監督作品やゴジラシリーズ、ドラえもんシリーズで知られる東
宝の歴史は、阪急電鉄の創業者・小林一三が、1932年8月、演劇・映画の興行を行う
東京宝塚劇場を設立したことに始まる。旧・日比谷映画、旧・有楽座、旧・日本劇場、帝
国劇場など、現在にもつながる日比谷一帯の映画街を作った後、43年12月に東宝映画
を合併。社名を「東宝」と改め、映画・演劇の製作・配給・興行の一貫経営をスタート。
“日本映画の黄金期”といわれる50年代には、「七人の侍」「隠し砦の三悪人」などの
黒澤作品が大ヒット、三船敏郎をスターダムに押し上げたほか、日本の怪獣映画の金字塔、
「ゴジラ」も誕生。スクリーンを席巻した。この流れは60年代も続き、黒澤作品では「用
心棒」「椿三十郎」
、怪獣映画では「モスラ」などの傑作が生まれた。さらに、植木等主演
の「無責任」シリーズや加山雄三主演の「若大将」シリーズなど、コンスタントにヒット
作を輩出し続けた。60年代はテレビ放送開始の影響を受けて日本映画の斜陽化が始まっ
た時期でもあるが、同社はニッポン放送、文化放送、松竹、大映とともにフジテレビに資
本参加し、テレビ界にも進出を果たす。
70年代に入ると映画の斜陽化も深刻に。黒澤監督の「羅生門」を生み、市川雷蔵を擁
した大映が倒産。石原裕次郎、小林旭のアクション映画で一時代を築いた日活が「ロマン
ポルノ」に路線変更するなど、業界の状況は激変。東宝も経営方針を切り替えるほかなく、
制作部門を外部に切り離し、自社では外部の企画作品・委託配給作品に注力することとな
る。
あくまでも“映画会社”として自社映画にこだわり続けた東映や松竹と違い、早々に配
給・興行会社として経営の合理化を進めたことは、当たり外れの大きい映画製作というリ
スクを切り離し、計画的な資金運用を可能にした。その結果、他社に先んじて映画館の設
備改善を行うことができ、興行網の優位性を維持。さらに、外部制作会社との連携強化は、
時代を反映した企画・柔軟性のある番組編成をもたらし、「ユーザーが見たいと思う作品が
並んでいる」という、現在の業界トップの地位につながった。
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80年代以降は「ゴジラ」シリーズを含む年数本を除き、ほとんどが外部プロダクショ
ンやテレビ局主導の制作によるもの。人気テレビアニメ「ドラえもん」「クレヨンしんちゃ
ん」「名探偵コナン」「ポケットモンスター」の劇場版他、宮崎駿作品の「千と千尋の神隠
し」「ハウルの動く城」フジテレビ制作の「踊る大捜査線」シリーズや日本テレビ制作の
「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズなどが大成功を収めた。
03年には、ヴァージン・シネマズ・ジャパン(現・TOHO シネマズ)を買収し、出遅
れたシネコン市場に本格参入した。06年、支社内の映画興行部門を会社分割して TOHO
シネマズに承継。もともと好立地だった興行網をさらに強化し、他社を大きく引き離した。
東映
「仁義なき戦い」シリーズ、
「仮面ライダー」シリーズなどで知られる東映は、映画の製
作・配給・宣伝・興行のほか、テレビ番組の制作等も行っている映像エンターテインメン
トの総合企業だ。グループ会社には、「ONE PIECE」ほかアニメ製作の東映アニメーショ
ン、ビデオソフト制作・販売の東映ビデオ、シネコン経営のティ・ジョイなどがあり、映
像関連事業を幅広く手がけているほか、テレビ朝日の大株主(現在第2位)としても知ら
れる。
同社の歴史をさかのぼってみると、全身は1949年10月設立の東京映画配給。この
東京映画配給が51年3月、東横映画と大泉映画を吸収合併する形で「東映」がスタート
した。50年代には片岡千恵蔵、市川右太衛門、中村錦之助らを主役に控えて時代劇ブー
ムを牽引。60年代には、鶴田浩二/「博奕打ち」、高倉健/「網走番外地」、藤(現・富司)
純子/「緋牡丹博徒」らによる仁侠映画路線、70年代には、シリーズに代表される実録や
くざ映画の大ヒットで当時の映画市場を席巻きした。
テレビ放送の普及により、60年代半ばから始まった映画の斜陽化の際しても東映の対
応は早かった。時代劇の衰退に伴い、撮影所の縮小などの大規模なリストラを敢行。時代
劇の活路をテレビに求めたほか、71年に社長に就任した岡田茂(現・東映名誉会長、映
画産業団体連合会長)は、テレビでは決して放送されないジャンル(実録やくざ、エログ
ロ路線)を開拓し、他者の追随を許さなかった。京都撮影所の一部を「東映太秦映画村」
としてオープンさせたのもこの頃(75年)
。テレビ朝日株を早々に取得したのも、来るべ
きテレビ時代を見越しての動きだった。ちなみに、80年代後半からのレンタルビデオ市
場の活況に際しても、
「東映 V シネマ」というビデオオリジナル映画ブランドを投入し、こ
のジャンルのパイオニア的存在としての地位を確立している。
70年代後半から80年代は、
「セーラー服と機関銃」など、角川春樹が率いた当時の角川
書店との提携でヒット作を連発した。80年代後半からは「極道の妻たち」
「ビー・バップ・
ハイスクール」などの人気シリーズも生む。
「風の谷のナウシカ」など、初期の宮崎駿作品
を配給したのも同社である。90年代から2000年代前半にかけては、
“洋高邦低”の市
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場が際立ち、
「バトル・ロワイヤル」などの意欲作を送り出すものの、
「東映アニメフェア」
のアニメ作品や特撮ヒーロー作品への依存が顕著になったが、近年の“邦画”ブームの流
れに乗り、06年には「大奥」
、08年には「相棒‐劇場版‐」を大ヒットさせている。
一時期は、劇場施設の老朽化が課題となっていたが、00年8月のティ・ジョイ設立皮切
りにデジタル上映可能なシネコンを展開することで、この問題にも徐々にクリア。98年
には衛星放送の東映チャンネルを立ち上げ、またネットでの動画配信ビジネスにもすでに
取り組むなど、劇場以外での映像展開を積極的に進めている。こうした展開に加えて、早
くから着目した特撮ヒーロー、アニメ作品のキャラクター版権ビジネスも堅調。リスクを
抱えながらも、自社の強みを活かした独自の事業展開には、同社のこだわりが感じられる。
松竹
山田洋次監督の「男はつらいよ」
、西田敏行主演の「釣りバカ日誌」の両シリーズで人気
を博す松竹は、映画や演劇の製作・配給・興行を一貫して行うほか、テレビ番組制作、不
動産経営など事業は幅広い。なかでも歌舞伎では、現在、そのほとんどの興行をてがける。
創業から実に100余年、映画業界における老舗企業の一つといえる。グループ会社に、
お笑いタレントや新喜劇で有名な松竹芸能、シネコン「MOVIX」を経営する松竹マルチプ
レックスシアターズ、CS・CATV 放送「衛星劇場」
「ホームドラマチャンネル」の衛星劇場
などがある。同社は1895年、大谷竹次郎が京都阪井座を買収して興行主となったこと
で創業。1902年、竹次郎が兄・白井松次郎とともに設立した松竹合名会社により「松
竹」がスタートする。20年には松竹キネマ合名社として映画製作へ参入。31年には日
本で初めての本格的トーキー「マダムと女房」を発表。50年代には日本映画として初の
カラー長編作品となる「カルメン故郷に帰る」ほか、ラジオドラマの大ヒットから派生し
た『君の名は』三部作、
「二十四の瞳」などでヒットを収め、さらに「東京物語」で小津安
二郎を日本映画の巨匠に押し上げ、一時代を築いた。60年代半ばから映画の斜陽化が始
まる中、大島渚、吉田喜重、篠田正浩の“松竹ヌーヴェルヴァーグ”と呼ばれた監督たち
の作品が新風を巻き起こす。69年には記念すべき「男はつらいよ」シリーズ第一作が公
開。おお盆とお正月興行の定番作品となり、95年まで全48作品が作られる人気シリー
ズとなる。斜陽化の一因でもあるテレビに対しては、東宝、大映などとフジテレビ設立に
参加して参入。テレビ番組では「必殺仕事人」ほか「必殺」シリーズや「鬼平犯科帳」な
どのヒットシリーズを生み出している。
70年代後半から80年代前半にかけては、サスペンス「八つ墓村」「砂の器」、人情ド
ラマ「幸福の黄色いハンカチ」
「蒲田行進曲」が大ヒット。88年には人気シリーズ「釣り
バカ日誌」が生まれる。しかし、急成長したレンタルビデオの影響による映画館離れや洋
画人気もあり、邦画興行は厳しい時期に。この状況を打開すべく、当時のバブル景気を背
景に。従来のトーンを打ち破る斬新な映画製作と事業の多角化に乗り出す。他業種との共
同制作や外部出身監督による問題作を次々と発表し、89年の「その男、凶暴につき」で
12
は北野武を監督に抜擢、97年の今村昌平監督作「うなぎ」では第50回カンヌ国際映画
祭グランプリ受賞。ただ、作家性。話題性の高い作品を連続してリリースするこの取り組
みは、注目・評価を高めたものの興行的には大成功と言えず、創業100周年事業として
大船撮影所跡地に95年に開場したテーマパーク「鎌倉シネマワールド」と併せ、業績不
振の大きな要因となった。
その後、事業の見直しを図った同社は、98年に鎌倉シネマワールドを閉鎖。続く99
年には、子会社の松竹富士が行っていた洋画配給事業を本体に集約。採算が低下していた
自社製作本数の削除と併せ、大規模な合理化を行った。92年に八足の衛星劇場や96年
より展開するシネコン事業(MOVIX)で、ユーザーの鑑賞環境の強化を進める一方、近年
の邦画活況を受けて、2006年の「武士の一分」、07年の「ゲゲゲの鬼太郎」「東京タ
ワー オカンとボクと、時々、オトン」
「大日本人」などがヒット。近年、映画製作の好調
さも目を引いている。
第五章 ビジネスの仕組み
映画館のビジネスの仕組みと映画の権利販売について以下で説明していく。
映画館ビジネスの仕組み
興行収入
映画館の最大の収入は、言うまでもなくボックスオフィスで発売したチケットの売り上
げ金額の集積、つまり興行収入である。わが国では世界一高額な入場料金を徴収するもの
の、その興行収入のうち、およそ半分あるいはそれ以上を配給会社に支払わなくてはなら
ない。そこで映画館にとって大切になるのが、本業たる映画興行以外の収入の確保である。
コンセッション収入
昨今では映画を鑑賞するときに、ポップコーンとコーラまたはビールを口にしながらと
いう、アメリカンスタイルが定着してきた。このポップコーンこそが、現代の映画館にと
って重要な収入源なのである。原価が安くて、必要な時に必要な分だけ作ることができ、
短期間なら保存も利く。フロアにこぼしても清掃がしやすいし、上映中に食べても音がし
ない。昨今では各シネコンとともに、コンセッションでのオリジナルメニューの開発や、
地元食材を使った商品の販売、熱心なところではバックヤードに厨房を設けて、一つ一つ
のオーダーに専門の調理人が対応しているところさえ存在する。またこうしたコンセッシ
ョンの売り上げが、大手興行チェーンでは、年間興行対比 20~25 パーセントを占めるとい
う。映画館、とりわけシネコンにとっては、きわめて重要な収入源であることが、わかる。
ショップ収入
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ボックスオフィス、コンセッションと並んで、一般観客を対象に現金取引を行うのが「シ
ョップ」と呼ばれるコーナーだ。個々の主力商品は、昔ながらのパンフレット。ただしパ
ンフの場合は仕入れ価格そのものが高く(場合によっては映画館側が買い取るケースもあ
る)
、映画館にとっては決して高い利益を上げる商品ではない。ところがアニメ映画のよう
に、特定のファンがすでについている作品の場合、パンフや関連商品の売れ行きはすこぶ
る良く、興収対比50%以上を占めることもあるという。
シネアド収入
他に映画館の収入源はといえば、映画本編上映前に、スクリーンに映写される企業コマ
ーシャルやインフォメーションの類。これを総称して「シネアド」と呼んでおり、このシ
ネアド上映の収入も、映画館の売り上げとしてもカウントされる。ただしシネアドと予告
編のトータル上映時間は、興行会社単位で決められていることから、何でもかんでも上映
するわけにはいかず、その収入にも上限がある。なお配給会社から提供される予告編は、
映画館としては無料で上映しており、それ自体は売り上げに貢献しない。
その他(雑収入)
映画館のキャッシュフローは、このように興行収入という柱を中心に、その付帯収入で
あるコンセッション収入、ショップ収入、シネアド収入と、その他の雑収入の計5つに大
別される。肝心なのは、この5つの収入源が連鎖していることだ。つまりヒット作を上映
し、多くの観客が映画館に来客すれば当然興行収入も上がり、コンセッションやショップ
の売り上げも増えることになる。しかしそうでない場合、つまり上映作品がこけてしまっ
た場合は連鎖倒産よろしく、すべての収入が上がらなくなってしまう。とにかくひとがこ
なくては、映画館のあらゆるビジネスは成立しないのである。
もうひとつ映画館の収入と聞いて思い浮かべるのが、「特別鑑賞券」、通称「前売り券」と
呼ばれるチケットの存在だ。
この前売り券。映画館の窓口で購入することから(もちろんプレイガイドでも手に入る
が)、映画館が発行しているチケットと思われているが、実はそうではない。「現在前売り
券を発行しているのは配給会社です。映画館のボックスオフィスをプレイガイド代わりに
使っているだけです」とは、ある興行の関係者。確かに以前は映画館が独自に前売り券を
印刷し、発行していた。ところがこの数年はシネコンの増加のよって、取り扱う前売り券
の数も激増。現在では映画館が独自に前売り券を発行することはなく、配給会社が作成し
た「全国共通券」が主流になっている。
とにかく映画館にとって前売り券は、仮に窓口で販売して売れたとしても、取扱手数料
として、定価の3~5%程度が収入になるだけで、あとはすべて配給会社に送金しなくて
はならない。その上流通経路が複雑で管理が大変なことから、シネコン・チェーンによっ
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ては、この前売りを一切販売していないところもあるほどだ。映画館にとって前売り券は、
配給会社から預かっているだけにすぎないのだ。
図2:興行収入を中心に連鎖する収入源
映画の販売権利
映画ビジネスではひとつのコンテンツを、劇場公開→パッケージ(DVD、VTR)販売→
ペイテレビ→フリーテレビと、期間をずらしてメディアを変えながら長い期間にわたって
鑑賞・視聴する(これをウィンドウと呼ぶ)市場環境がすでに整備されている。つまり、
ひとつのコンテンツが、さまざまなウィンドウを通じて継続的に収益を生んでいるのだ。
映画の流通は、コレクションとして手元に残るパッケージ販売を除き、タイミングが遅く
なるに従って鑑賞の価格が安くなるようにできている。もちろん、すべての映画が一律の
タイミングで流通するわけでなく、
「デスノート」のように、フリーテレビでの放送がパッ
ケージ販売の前に行われた例もある。それに加えて、最近ではインターネット配信による
映画視聴も市場として確立しつつあり、また、コンテンツによってはノベライズ権やキャ
ラクターのマーチャンダイズ権のライセンス、あるいは劇場公開権、テレビ放送権を海外
に売る事で収益を得ているものもある。映画のセラーは、こういったウィンドウ戦略に基
づいて、メディア毎に権利を販売するのである。また、新しいメディアが登場するたびに
そのメディア向けの権利が発生する。
「映画」には13もの権利行使が考えられる。
① 劇場権
35mmまたは16mmのフィルム、もしくは DJP 方式やビデオグラム(VHS カセット、
DVD、HDDVD、ブルーレイディスクなど)を利用したプロジェクター上映などにより、
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映画上映を主たる業務とする施設において、映像を上映する権利。
② 非劇場権
35mmまたは16mmのフィルム、もしくは DLP 方式やビデオグラムを利用したプロジ
ェクター上映などにより、劇場以外において映像を上映する権利。
③ 公共ビデオ権
ビデオグラムにより、ビデオシアターやそれに類する施設において映像を上映する権利。
④ ホームビデオ権
映像をビデオグラムに複製し、これを個人視聴を前提として頒布する権利。
⑤ 商業ビデオ権
ビデオグラムにより、劇場以外の施設(公民館、図書館、バスなど)において映像を上映
する権利。
⑥ 地上波放送権
地上波により映像を送信し、配信する権利。
⑦ CATV 権
同軸ケーブルまたは光ケーブルにより映像を送信し放送する権利。
⑧ 衛星放送権
放送衛星または通信衛星により映像を送信し放送する権利。
⑨ PPV(ペイ・パー・ビュー)権
永住的住居またはその他の一時的住居において、放送局によって指定された時間に、テレ
ビによる視聴を目的に、映像を暗号化された信号で送信し、視聴者に対し、その映像の視
聴を可能にする権利。
⑩ VOD(ビデオ・オン・デマンド)権
永住的住居において、視聴者によって選択された時間に、テレビによる視聴を目的に、映
像を暗号化された信号で送信し、視聴者に対し、その映像の視聴を可能にする権利。
⑪ IP 放送権
インターネット・プロトコルを用いた配信サービスを行う権利。
※(主にブロードバンド回線上の)専用の IP 網により放送の再送信や VOD などの配信サ
ービスを専用の受信機器を用いて一般のテレビ・ラジオで視聴可能となるサービス。
⑫CCTV 権(限定施設内上映権)
船舶内上映権:船舶内で映像を送信し、上映する権利。
ホテル内上映権:ホテルなどの宿泊施設内で、映像を上映する権利。
⑫ 付随的権利
機内上映権:飛行機内で映像を上映する権利。
上記以外にも、映画に付随する権利として、「原作権」、その原作の「映画化権(リメイク
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権)
」
、映画のキャラクターに関する「マーチャンダイズ権」などがある。
新たに映画のリメイク版を制作する場合には、その原作の映画化権を獲得する必要があ
り、原作の著作権者はその権利を販売する事が可能となる。日本で大ヒットした「リング」
(98年)や「呪怨」
(99年)がハリウッドでリメイクされたのは、この権利の行使によ
るものだ。特に「The Grudge」
(呪怨のリメイク版)は全世界で興行収入200億円を超
える大ヒットとなった。これは、製作費の18倍相当の興行収入を上げた計算になる。ま
た、日本のキャラクターのなかで、世界セールスに成功した例としては、
「ポケットモンス
ター」が挙げられる。96年にゲームボーイ用ソフトとして発売され、翌年にはテレビア
ニメ化。以来、劇場映画はじめ、トレーディングカードゲーム、コミックなど多様な分野
で商品展開しながら、世界で通用するコンテンツへと成長した。
第六章
映画館が抱えている問題
映画館が現在抱えている問題点を述べていく。
1スクリーンあたりの興行収入の減少
映画ビジネスというと、一見華やかなイメージがあり、億単位の金銭が、湯水のごとく
乱れ飛んでいるように感じる人も少なくないと思うが、実際のところはどうなのだろうか。
観客に映画を見せることで経営が成り立っている映画館という存在は、まさしく「億単
位の金銭が湯水のように流れ飛ぶ」現場と認識されてもおかしくないだろう。「興行収入○
億円突破!!大ヒット!!」などと書かれたコピーを見れば、映画館というビジネスは、
それほど儲かるのだと思ってしまう。ところが、実際のところはそうでもない。
1999年 8232万1027円
2000年 6769万4929円
2001年 7742万9014円
2002年 7467万9317円
2003年 7581万4621円
2004年 7465万9823円
2005年 6772万3855円
2006年 6627万4984円
2007年 6160万9128円
2008年 5800万4186円
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図3 1スクリーンあたりの興行収入
出所:映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか? より
図4 映画館のスクリーン数と入場人員数の推移
出所:映画業界の改革は映画館から より
この数字は映連が発表している各年の興行収入を、その年のスクリーン数で割ったもの。
つまり1スクリーンあたり年間どれだけの興行収入をあげたか、その平均値がこの数字で
ある。過去10年間における、この「1スクリーンあたりの興行収入」だが、これはあく
まで平均値である。平均よりも高い興行収入を稼ぎ出す映画館もあれば、低いところもあ
る。さる映画業界の社長の言によれば、
「年間を通して1スクリーンあたり9000万円の
興行収入をあげることが理想」とのことだが、これまたその会社にとって、という前提に
すぎない。経営する企業やスケール、あるいはビジネス・スタイルの違いから考えて、平
均値はあくまで平均値にすぎない。
仮に「1スクリーンあたりの年間興行収入9000万円」という尺度ですべてを測れば、
これはもう、日本中の映画館すべてが落第ということになってしまう。とりわけここ数年
は、スクリーン数の増加とヒット作のバランスがすこぶる悪く、1スクリーンあたりの平
均年間興行収入は、ついに5000万円台にまでダウンしてしまった。
例えば外資系シネコン上陸以前の、1993年の年間スクリーン数は、史上最低にあた
る1734スクリーン。年間興行収入は1637億円であった。だが1スクリーンあたり
の興行収入は9440万5998円と、前述の社長が理想とする9000万円をクリアし
ていた。即ち、マーケット・サイズとヒット作のバランスがとれていたのだ。ところがシ
ネコンが増え始めた今世紀初頭から、このマーケットとヒット作のバランスが崩れ始める。
2000年の全国スクリーン数は2524.対する年間興行収入は1708億6200万
円。1スクリーンあたりの興行収入は、実に6769万4929円だ。
今、日本の映画館は儲かっていないのである。
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人件費
シネコンで複数の作品を上映する事によって、映画間のビジネス・チャンスは確かに拡
大した。スクリーン数が多ければ多いほど、ヒット作を上映するチャンスも増えるわけだ
が、スクリーン数が多くなれば経費も増加するのは当然のこと。映画間サイドが支払う「支
出」のうち、
「映画料」と並んで比重が重いのが「人件費」である。
12スクリーンのシネコンを通常営業するためには、1日あたり実に101名のスタッフ
が必要と言われている。あるシネコンの場合、早番・遅番込みで、チケットを販売するボ
ックスオフィスに20名、そしてコンセッションに30名、映写に9名、ショップに6名。
さらに、電話による問い合わせへの回答やインフォメーション、デスクワークを行う事務
所スタッフも6名。清掃や場内案内、出札などのフロアには30名のスタッフが必要とい
う。こうしてみると、シネコンの運営は多くのマンパワーで成り立っていることがわかる。
これが8スクリーン程度のシネコンになっても、1日の運営には、やはり50人前後の人
員が必要なのだそうだ。
現在のシネコン・チェーンでは、正社員は支配人やエリアマネージャーのみで後はすべ
てアルバイトが主要な労働力だ。ところが昨今各地のシネコンで頭が痛いのは、このバイ
ト・スタッフがなかなか思うように集まらないことである。確かに映画間のバイト代は、
他の業種と比べて高いとは言えず、拘束時間も長く、立ち仕事ゆえ肉体的にも辛く、なん
と言っても繁忙期と閑散期の差が激しく、またそれが予想できないときている。経営者の
立場とすれば、出来る限り人件費は少なくしたいと考えがちだが、このところ客足が良く
ないからといって、苦労して集めたバイト・スタッフを、安易に解雇するわけにはいかな
い。各シネコンではバイト・スタッフを登録し、常時100人ほどの労働力を確保してい
るというが、これまた繁忙期には多くの人手が必要となり、閑散期には逆に少人数での運
営が理想的となる。それでも前スクリーンで営業するのであれば、ある程度の人数が必要
であり、観客への便宜を考えた場合、どうしても多めにスタッフを配置せざるを得ない。
この人件費がなかなか思うようにいかないのである。
テナント料
映画館、とりわけシネコン経営者たちが最近、最も頭を抱えているのが「家賃」
、即ちテ
ナント料の問題である。
シネコンの場合、大半が既存の商業施設の一部を賃借して営業していることから、自社
ビル等を除いて家賃負担が発生する。テナント料の支払い方法は、毎月固定額を払うか、
売り上げに応じて歩合で払うか、様々な方法があるが、そこまでテナント料が負担になっ
ている理由は簡単で、それに見合う収入が確保できないからだ。最近では大ヒット作が少
ないことから、主収入たる興行収入が伸びず、それに輪をかけて割引料金の乱発によって
実勢価格は下降の一途をたどっている。観客数が少なければ、当然付帯収入も上がらない。
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さらには近隣のシネコンの影響もある。作品の興行力や市場動向によって収入が変動する
映画業界という業種にとって、テナント料は確かに負担になっているのである。
ではなぜ、こうした契約をデベロッパー、オーナーとの間で締結してしまったのか?
これは前世紀末から21世紀にかけて、外資系、国内系入り乱れてのシネコン出店競争
が繰り広げられた際、
「この地域にうちが出店しなければ、他社が出店してくる」ことに危
機感を抱いた興行者が、多少の無理を承知で契約条項を承諾してしまったことが最大の理
由である。ではその契約条項は改められないのかと言えば、シネコンのテナント契約は、
短いものでも15年。通常20年前後という期間が設定される。中途解約にはもちろん違
約金が発生するわけで、やむを得ず営業を維持しつつ、家賃交渉を続けているシネコンも
少なくない。TOHO シネマズのように、ローカルの不採算サイトを地元興行者に譲渡する
動きもあり、今後も現在のような状況が続けば、このテナント問題はシネコンの経営をさ
らに圧迫していくだろう。
割引料金の乱発
現在の映画館の入場料金は1800円である。だが、私たちは実際に1800円も払っ
て映画を見ることはほとんどないと思われる。それは割引料金制度によるものである。こ
の割引料金制度の多様化に従い、実質的な入場料金は下がってきている。日本映画制作者
連盟が発表した、2008年における、わが国映画館の平均入場料金は1214円である。
この平均入場料料金は、1998年の1264円をピークに、年々下降を続けている。つ
まり割引料金の存在を知る人にとっては、安い値段で映画が楽しめる時代になったのだ。
ただし、これはあくまで「実勢価格」であって、建前としての入場料金は、未だ「大人 1800
円」との値札が掲げられている。その理由はと言えば、映画間を経営する興行者にとって
「当日窓口料金を下げると、二度と値上げする事は出来ない」という危機感、恐怖感が根
強く存在していることだ。たくさんの割引料金制度をつくるくらいなら、いっそ当日窓口
料金を値下げすればいいのだが、興行者は「それで値下げ前より、観客が来なかったらど
うする?」
「一度値下げしたら、次に値上げするとき、反発が大きい」と言い、窓口料金値
下げに踏み切る様子はないようだ。こういった「希望価格」と「実践価格」の二種類の料
金がはびこり、割引料金の存在を知る者だけが低い料金で映画を楽しみ、そうでない者た
ちにとっては、
「映画は高い」という強固な先入観のもと、敬遠されてしまっている。果た
してこのまま行って、映画人口は増えるだろうか?
第七章
まとめ
今後の考察
サービス業としての映画館に必要とされることは?
このように、現在我が国の映画館を取り巻くビジネス環境は、混沌を極めている。マー
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ケットの拡大によってスクリーン数が増加したまでは良かったが、肝心のヒット作の数が
減少。それにつれ、1スクリーンあたりの年間興行収入もダウンするばかり。人件費、テ
ナント料、映画料などの経費はいっこうに下がらず、さらには3D 映画やデジタル上映の
ための設備投資が迫られる。国内で営業しているシネコンの大半が、利益が上がらず赤字
を抱えて苦しい状況に追いやられているのは、こうした事情によるものだ。
しかし問題は、それだけだろうか?基本的な収入構造が、興行収入に大きく依存してい
ること。あるいはヒット作の不足といった外的要因もさることながら、事態をここまで悪
化させてしまった根本原因は、映画興行におけるサービス業としての自覚の欠如ではない
かと思われる。
安易な割引競争に走った結果、本来得られる興行収入を自分の手で減少させてしまい、
それが配給会社や製作サイドにも大きな損失を与えてしまっている。安易な価格競争は、
一時的に歓迎はされるものの、行きつく先は共倒れであることは、他の業種を見ても明ら
かだ。
「映画の評価」と「映画館の評価」は異なるものである。「最良の映画館」とは、「今日
見た映画はつまらなかったけれど、映画館には満足した。今度もここで見よう」という評
価を、観客から得られる映画館である。
まずはサービス業としての位置づけを再度見なおし、おのおのの自覚を高める事が、現
状を打破するための第一歩ではないだろうか。
「小さなことからコツコツと」で、黒字へ。
住友商事系列のシネコン・チェーン「ユナイテッド・シネマ」が2009年3月末の決
算において、それまでの赤字から黒字へと転換した。ところが売上高そのものは、前期比
微減だという。では黒字化の最大の要因は何かと言えば、まず固定費の見直しを徹底的に
行ったことだそうだ。例えば2フロアあるシネコンでは、営業開始時に両方のフロアの電
気をつけていたものを、それぞれのフロアが必要な時に付けるという方法に変更するなど、
総じて水道光熱費を節約し、コストコントロールを徹底した成果とのこと。無論他にも試
みたことは数あれど、無駄なコストを削減し、体質改善を行ったことが黒字化につながっ
たというわけである。
「小さなことからコツコツと」も、全国規模のシネコン・チェーンで
実施する事によって、そこまでコストが削減できるのであれば、他社にも改善の余地は大
いにありそうだ。
サービス見直しの提案
以下のサービス見直しは、
「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」の本の中の
映画館チェックリストに自分の意見を付け加えたものである。
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(1)ネット予約
・インターネットによる座席予約は可能か?
・いつアクセスしても、すんなりログイン出来るか?
・予約締め切りは、当日か?前日か?何時間前か?何分前か?
・上映スケジュールのアップデイトは何曜日か?
・座席のピンポイント指定が可能か?
・手数料が発生しないか?
・カード決算以外の方法があるか?
・座席のダブルブッキングなどのトラブルが発生しないか?
・すべての座席がネット予約可能か?
・溜まったポイントを使って座席予約が可能か?
・2名以上予約の場合、ポイントはそれぞれのカードに反映されるか?
・各種割引に対応しているか?
・座席を選ぶ際、他の座席の混雑状況や残席数はわかるか?
・発行機の数は適切か?
(2)駐車場、アクセス
・映画館利用に、駐車場チケット発行や割引等のサービスがあるか?
・駐車チケットをはっこうしてくれるものの、1時間だけ有効だったりしないか?
・駐車場が混雑している時、近隣の駐車場に案内できるか?
(3)ボックスオフィス
・当日券が、上映スタート直前まで購入できるか?
・観客の希望を聞かず、ボックスオフィスのスタッフが一方的に座席を決めてないか?
・「前のほう・・・」「通路際で」といった、漠然としたオーダーにも、的確に応じてくれ
るか?
・2名以上での鑑賞の場合、まとまった列に座席を確保してくれるか?
・スクリーンサイズや座席数などを案内し、その上で意思決定をサポートしてくれるか?
・前日までの窓口での事前購入で、すべての座席が購入可能か?
(4)コンセッション
・コンセッション前にやたらと長い列ができていないか?
・スタッフの手際が悪く、また釣り銭の用意がなく、観客を待たせていないか?
・ワゴンサービス、場内販売など、フォローのためのサービスを実施しているか?
・セットメニューが、お得感のある価格設定になっているか?
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・ドリンク類が場外よりも高い価格に設定されてないか?
・館外からの飲食持込みを、厳重に禁止・制限していないか?
・やたら凝ったメニューのあまり、作るのに時間がかかっていないか?
・コーラとポップコーンを入れるケースの耐久性は万全か?
・コーラなどを持ち運ぶトレーは用意されているか?滑り止めなどの対策はされている
か?
・自動販売機とコンセッションの代金に、著しい差がないか?
・持ち帰りの袋は用意しているか?
(5)スクリーン・館内環境
・スクリーンの設置位置が低くて、前を人が歩くと画面が欠けたりしないか?
・逆にスクリーンの位置が高くて、前後中程の席でも見上げることになっていないか?
・スクリーンの大きさをオフィシャルサイト、劇場内で公表しているか?
・どの位置の座っても、しっかりとスクリーンが見えるか?
(6)サウンド・システム
・定期的に音響チェックを行っているか?
・音が籠っていないか?
・上下のフロア、または左右のシアターのサブウ―ハーが響いてこないか?
・静かなシーンの時、外部の音が聞こえてこないか?
(7)シート
・座り心地は快適か?
・前の座席との距離は、十分にとっているか?
・カップホルダー、傘立て、バックかけの「三点セット」は完備されているか?
・バックかけが外れているなどの、メンテナンス不備はないか?
・カップホルダーがゴミおきや、吸い殻入れに使われた形跡はないか?
・前に座った人の頭が、ヘッドレストから出て、スクリーンにかかっていないか?
・指定されている座席・列の番号などが、わかりやすいか?
・シートが汚れていないか?
(8)入場料金
・割引料金の存在は、事前にアナウンスされているか?
・3D 映画など、割引対象外の作品については、その理由について納得できる説明がなさ
れているか?
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(9)ロビー、トイレ
・単に通路に椅子を置いただけで「ロビー」と称していないか?
・チラシなど印刷配布物は、きちんとキレイに置かれているか?
・雰囲気や空気にも配慮されているか?
・上映時間まで、楽しく過ごすことが出来るか?
・ロビー利用者の数より、椅子の数が著しく少なくないか?
・ロビーで、上映スタート、開場インフォメーションが確実に聞き取れるか?
・トイレは、清潔さはもちろん、匂いなどにも配慮されているか?
・子供のおむつ替えなどの設備はついているか?
・トイレの設置個所は多いか?上映スクリーンから遠くないか?
・便座ウォーマーあるいはシャワーに対応しているか?
・洗面台の水とびなどが、マメに清掃されているか?
(10)インフォメーション、その他
・電話での対応は、テープまかせ、業者委託をせず、スタッフ自ら対応しているか?
・イベントなどの告知を、ウェブ、ロビー、館周りだけでなく、近隣やビル内にもおこな
っているか?
・作品の上映スタート時間変更などのアナウンスが、スムーズにインフォメーションされ
ているか?
・子供の同伴、ペット連れ込みなどについて、チケット購入時にしかるべき対応をしてい
るか?
・上映終了日程を、1週間以上前にウェブや新聞の日載などで告知しているか?
・車いすのお客様を、スタッフがハンディキャップ・シートまで案内しているか?
これらのサービスをしっかり行っていくには、バイトではなく社員の力が必要である。
前述の通り、現在のシネコン・チェーンでは、正社員は支配人やエリアマネージャーのみ
で後はすべてアルバイトが主要な労働力だ。アルバイトと社員では、やはり気の持ちよう
が違うので、バイトを削って社員を増やしていくべきなのではないだろうか。
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参考文献
斉藤守彦「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」
(2009 年ダイヤモンド社)
フィールドワークス「映画・映像業界大研究」
(2008 年産学社)
「シネマコンプレックスとディジタルシネマ(2. 映画館の現状)(<小特集>ディジタ
ルシネマ)」岡田雄介
映像情報メディア学会誌 : 映像情報メディア 55(7), 943-944, 2001-07-20
「生の醍醐味を映画館で満喫」
(日経 TRENDY, 2011/08 号, 191 ページ掲載)
「モノクロ1 3D映画ビジネス」
(日経 TRENDY, 2010/05 号, 62~64 ページ掲載)
「CLOSE UP デジタル3D映画」
(日経 TRENDY, 2009/09 号, 84~85 ページ掲載)
やと~「映画に関する疑問」
(やと~氏の HP「やと~ on the Web」から)
http://www.mars.dti.ne.jp/~yato/data/movie/qa.htm
神田敏晶「そうだ!映画館に"ライブ"を観に行こう!ライブビューイングのビジネスモデル」
(JAPANESE IT Journalist s Japanese blog 神田敏晶エンパワーメントコラム
2011 年 6 月 11 日の記事)
http://knn.typepad.com/knn/
三宅洋一郎,松尾未亜「映画業界の改革は映画館から」
(日経ビジネスオンラインの記事)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20070827/133235/
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