研究課題「発達の連続性を確保した教育・保育実践を支える教師・保育者の専門性」 研究期間 平成23年度~平成24年度 研究代表 学校教育専攻 講師 香曽我部琢 研究組織 教育実践高度化専攻 教授 木村吉彦 芸術・体育教育学系 准教授 周東和好 附属幼稚園 教諭 罍和弘 学校教育研究科 幼児教育コース 3年 大石悦郎 学校教育研究科 幼児教育コース 2年 石田淳也 学校教育研究科 幼児教育コース H23 年修了生 1 海野摩也子 研究課題「発達の連続性を確保した教育・保育実践を支える教師・保育者の専門性」 プロジェクト A「生活科における教師の専門性-テキストマイニングによる分析より」 1.現状と問題 現代における教師の専門性については、グローバリゼーションの進む現代社会において、 その人材育成を目的とし(深川 2011)1、その目的を遂行するために、学校評価や情報公 開、学力向上などの教育行政施策が示され(芝山 2010)2、その施策に応じた知識や技術 が教師の専門性とされ、それを身につけることが求められてきた。一方、施策が講じられ るたびに、教師に求められる知識や技術が肥大化し、高度化していくことを批判的に捉え、 現代社会の急激で多様な変化に適応するためには、他の組織システム間との協働する力(酒 井 2009)3や、自らの実践における省察的思考(久我 2008)4を持つことが教師に求めら れてきた。この教師の専門性を捉える2つのパラダイムは二項対立の枠組みで捉えられる ことが多いが、その有効性は現代の社会問題によって価値付けられる点で同じ背景を持つ。 つまり、知識や技術にしろ、協働する力や省察的思考にしろ、教師の専門性は常にその時々 の社会的な状況の変化と結びつけられ、その意義が示されてきたのである。 実際に、教師の専門性に関する研究においても、山崎(1994)5が、教師の力量形成が加齢 などの「個人時間」、家族や職業などの「社会時間」、時代の「歴史時間」、以上 3 つの時間 が束ねられていることを示し、教師の専門性が個人的な資質や能力だけでなく、教師の家 族や同僚の教師たち、時代背景からも影響を受けることを示唆した。さらに、Ling & Mackenzie(2001)6は、教師の成長に対して、行政によるカリキュラム改革や、ショーンが 示した「実践の中の省察」に基づく専門家像の転換への社会の潮流が強く影響を与えてい ることを明らかにし、行政施策だけでなく、社会の思想的な傾向の変化からも影響を強く 受けることを示唆している。 とくに、生活科においては、文部科学省が平成20年6月に示した小学校学習指導要領 解説生活編において、 「改善の基本方針」として、(1)人や社会、自然への関心をもち、子ど もが自分自身についての理解などを深める指導、(2)子どもの気づきの質を高め、自然の不 思議さや面白さを実感できる学習活動の導入などと、子どもが自発的に地域社会や自然環 境などの外部の組織や環境と相互作用を活性化させ、学習活動を展開していく力が教師の 指導力として求められている。 そこで本研究では、現代における社会的な状況の変化に対応できる、生活科における教 師の専門性を明らかにするとともに、その専門性を測定する尺度の作成を目指す。 2.研究方法 2年生の生活科授業を撮影したものを3分程度の3本のビデオクリップ(子どもたちの 活動場面・先生と子どもたちの関わり場面・書く活動場面)を作成した。そして、ビデオ クリップを7名の 20 年以上にわたって生活科授業を実践してきたベテラン教師に見てもら 2 い,ビデオ再刺激法により,インタビューデータを得た。 本研究では、インタビューによって収集した言語データをテキストマイニングの手法で 分析を行った。使用したテキストマイニングソフトは KHCoder(樋口 2011)7を使用した。 手続きとしては、まず頻出語を明らかにした上で、対応分析を行い VTR ごとにテキストデ ータの比較し、VTR ごとに分割したデータをクラスター分析を行い、テキストデータをも とに質問項目を作成した。 3.頻出語の抽出 まず、熟練教師の語りにおける「総抽出語数」は 45234 語、「異なり語数」は 2945 語、 文 2176、段落 120 であった。 次に、VTR ごとに頻出語の特徴をまとめた。 さらに、最 小出現数 30 回以上の 51 語を対象に対応分析を行う。集計単位は VTR ごとに行い、VTR 間の比較を行う。 映像一 映像二 映像三 子ども .116 子ども .105 書く .122 畑 .094 言う .084 思う .079 自分 .075 先生 .067 生活 .067 行く .071 行く .064 先生 .065 苗 .062 子 .060 見る .047 市 .056 生活 .059 作文 .026 子 .055 作る .052 終わる .025 活動 .050 持つ .045 時間 .024 育てる .047 人 .042 気付く .022 野菜 .045 聞く .042 シート .021 表1:頻出語 VTR1、VTR2 では「子ども」、VTR3 では「書く」が.1 を超えた。また、VTR1と VTR 2の比較では、「自分」という言葉が示すように、VTR1 では、自主性、自発性に関する語 りが多く、VTR2 では、「先生」や「人」など他者とのかかわりに関する語りが多くみられ た。 3 思い 作文 2 育てる 畑 話 お金 書く 考える 時間 円 市 1 0 来る 気付く 場合 活動 自分 願い 最初 多い 映像三 子ども 思う 探検 植える 人 使う 見る 授業 出る 出す 行く 一番 買う 先生 教師 担任 野菜 大事 生活 持つ 作る 言う 子 一緒 今 聞く 学校 映像二 苗 -1 成分2 (18.62%) 終わる 前 映像一 -2 単元 違う -2 -1 0 1 2 成分1 (81.38%) 図1:対応分析の結果 対応分析の結果、映像1と映像2との間では、「植える」「買う」「野菜」「行く」などの 単元における子どもの体験のあり方に関する言葉が多く用いられていた。また、 映像2と 映像3との間では、「教師」「生活」 「言う」「作る」「一緒」などの先生と子どもの関係のあ り方にかかわる言葉が多くみられ、 映像1と映像3との間では「考える」 「前」 「時間」 「自 分」など事前の活動における子どもの内面を示した言葉が多く見られた。 また、映像1と2、3の中心的な概念として、「子ども」「子」「人」「自分」という言葉 が見られ、さらに、その周辺的な概念として、 「探検」「活動」「見る」 「作る」「思う」など の子どもの主体性を尊重しながら、その中で子どもの体験や体験と連動して現れる思考に ついて強く意識していることが明らかになった。共起ネットワークによる分析の結果から も同様のことが理解できる。 4 出る 持つ 作る 先生 生活 500 自分 子ども 行く 思う 言う 活動 子 円 人 見る お金 野菜 聞く 掲示 貼る 発表 写真 読む 買う 探検 場所 畑 苗 探す 支援 図2:共起ネットワーク図 以上の結果から、生活科学習において、教師が子どもの主体性を中心概念としながら、 子どもの経験における思考や注意、情動などの概念について意識していることが示された。 さらに、テキストマイニングによるクラスター分析によって、41 項目の質問を作成し、 現在、質問紙調査を実施することを予定している。今後、この質問紙調査の結果から、生 活科学習における教師の専門性を測定することのできる心理尺度の作成を目指す。 本項では、プロジェクト A の一部の研究成果について記載しました。この他にも、保育 士を対象にしたインタビューデータの分析については、随時、学会に投稿したり、大学の 紀要に投稿する予定です。 5 引用文献 深川八郎(2011)子どもたちの変容と学校づくりの課題.摂南大学教育学研究 7.pp.1-10 芝山明義(2010)教職の専門性と教師教育の課題:教師のキャリアと力量形成との関連に ついて.鳴門教育大学研究紀要 25.pp.159-165 3 酒井朗(2009)「越境する教師」への教師の専門性再構築に向けての一考察:メディア・ リテラシー論と高等教育の射程から.山形大学高等教育研究年報:山形大学高等教育研究 企画センター紀要 3.pp.48-53 4 久我直人(2008)教師の専門性における「反省的実践家モデル」論に関する考察(2):教師 の授業に関する思考過程の分析と教師教育の在り方に関する検討.鳴門教育大学研究紀要 23.pp.87-100 5 山崎準二(1994)教師のライフコース研究:その分析枠組みに提起.静岡大学教育学部研 究報告.人文・社会科学篇 43.pp.177-192 1 2 6 Ling, L.M. and Mackenzie, N (2001). The Professional Development of Teachers in Australia. European Journal of Teacher Education. 24(2) 87-98 樋口耕一(2011)分析機能を柔軟に改変・追加できる計量テキスト分析の環境「KH Coder」 日本行動計量学会大会発表論文抄録集 38、110-111 7 6
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