実践内容(主な活動) ◇第1次 テレビ観察と学習課題の把握 大変身近なマスメディア,テレビ。単元開 始 時 ,「 カ ー ド 発 想 法 」 に よ り テ レ ビ の イ メ ージを問い,観察の視点を明らかにする活動 を行った。そして家庭での2段階にわたる番 組観察を経て,分かったこと・さらに調べて みたいことなどを紹介する発表会を実施した。 観察・発表はグループ単位で実施。ジャン ルの異なったテレビ番組を観察した各グルー プの発表を通して,共通する6つの視点「映 像 と 音 」「 カ メ ラ ワ ー ク 」「 笑 い 」「 テ レ ビ 局 」「 視 聴 率 」「 C M 」 を 導 き 出 し た 。 ◇第2次 マスメディアの特性理解 1)C M 分 析 メディアの表現技法を学ぶために,子ども たちがいつも身近で見ているCMの分析を行 った(題材とした2つのCM会社には使用許 諾 を 得 た )。「 宅 配 便 」 の C M に 出 て く る ラ クダについて,実際に空港へ連れて行って撮 影していると思いこんでいた子どもも数名お り,後に映像の合成について学習するきっか け に も な っ た 。「 ビ ー ル 」 の C M で は , 様 々 な映像や音声の技法を複雑に組み合わせて, 視聴者の購買意欲をそそるようにうまく作ら れていることに気づくことができた。 らないよう配慮したかった。そこで,パネル ディスカッションを用い,子どもの正直な考 えを引き出しながら意見交流を進めることに した。つまり,あるバラエティ番組を自分は 「見続けたい」か「もう見たくない」か立場 を明らかにしてその理由を説明するとともに, 立場の異なる意見に耳を傾け,自分の意見と 比較し考えの幅を広げていこうとする活動を 行った。 見続けたい立場の意見例 ■パネルディスカッション前 「視聴者を笑わせようと努力している。 なぐる方もなぐられる方も納得してやっ て い る 。」「 笑 い を 取 る た め に し て い る こと。仕事だからしている。視聴者を楽 し ま せ る の が 目 的 。」 ↓ ■パネルディスカッション後 「見続けたいとか,もう見たくないとか は関係なく,正しい見方や判断ができる ような視聴者になるために,パネルディ スカッションを通して勉強した。今日勉 強したことをほかの番組を見るときにも 役 立 て た い 。」 見たくない立場の意見例 ■パネルディスカッション前 「おもしろければ何をしてもいいのか。 ま ね を し て 人 を 傷 つ け る 。」「 暴 力 や 音 は笑いをとるため。でも,いじめはみん な に 広 が っ て し ま う 。」 ↓ ■パネルディスカッション後 「意外に見続けたい方の理由ももっとも だった。さすがに見る人が多いわけだ。 でも,やっぱりよく見てたら,見る人が 少なくなると思う。あまり深く見ていな かったら,見たいと思うだろうけど,深 く見ていたらいけないとこが見えてくる から,…とぼくは思うけど…。でも,か し こ い 視 聴 者 に な り た い な 。」 2)カ メ ラ ワ ー ク 同じ日の同じクラスの給食場面を4名の担 任が撮影し,二つの作品「楽しい給食」と 「給食時間の手」に編集。制作意図を読みと るために,それぞれの作品にテーマをつける という活動を行った。同じ現象を取材しても, 制作者が何を伝えたいと考えるかによって, 切り取られる映像が全く違うことを学んだ。 3)笑 い と 人 権 写真1 パネルディスカッション 「 情 報 と 人権」につ いて考える 素材として バラエティ 番組の「笑 い」を取り 上 げ た が, その際番組 の是非を問 う展開にな この活動を通して,子どもたちは特定の番 組を見る・見ないという意志決定をしたわけ で は な い 。「 番 組 に 対 す る 見 方 や 考 え 方 は 人 によって違う」という価値観の多様性に気づ いたようである。ちなみに後日,同番組につ いて「見続けたいか見たくないか」をたずね るアンケート調査を再度行ったところ,以前 - 22 - とほとんど変わらない結果が出た。 ◇第3次 ビデオ作品・Webページの制作 と情報発信 1)ビ デ オ 作 品 制 作 ( 6 グ ル ー プ ) 自 分 達 が 伝えたいこ とを絵コン テ に 表 し, 制作に取り 組んだ。撮 影した映像 を見返しな がら編集・ 追取材を繰 写真2 ビデオ作品中間審査会 り返し行う ので,自己評価は無意識のうちに実施してい た。しかし,それをサポートするチェックカ ードも有効に活用できた。またWebページ 班の取材を受けることで,番組制作の意図を 自ら問い直す場面にも出合い,相互評価の作 用が働いた。こうした活動を通して,自分達 の伝えたい内容をより明確に表現したビデオ 作品に仕上げることができたと考えられる。 下 村 健 一 氏 ( 元 T B S ), 堀 田 龍 也 氏 ( 静 岡大)などの専門家・研究者や内外の教員・ 保護者を招いての審査会。子ども自身がグル ープごとに「評価項目」を決め,評価カード を用意。作品を上映しながら全員がそのカー ドに記入をしたり,質疑応答を繰り返したり して,自分たちの伝えたいことをより明確に 表現するための工夫について評価し合った。 その後ビデオ制作班の子どもたちは,この 日の評価活動を経て,意図がより明確に伝わ る作品を仕上げていった。 2)W e b ペ ー ジ 制 作 ( 12グ ル ー プ ) 前述したが,ビデオ制作班に対して「見る 人 に 何 を 伝 え た い の か 」「 そ の た め に ど ん な ことを工夫しているのか」などということに 焦点を当てた質問を投げかけながら繰り返し 取材を行い,ビデオ制作班の取材意図を明確 にする役目を果たしたグループもあった。1 学期からの学習を振り返ってまとめる班は, ワークシートなどを綴ったファイルをめくっ たりインターネットを活用して新たに情報収 集したりしながら,学習履歴のディジタルポ ートフォリオを作り上げる活動を展開してい っ た 。 ( http://nob-taka.press.ne.jp/ ) 3)学 習 成 果 を 評 価 す る ペ ー パ ー テ ス ト 単元を通して,子どもたちに「育てたい資 質・能力」を想定し学習を展開してきた成果 がどのように現れているのか。総括的評価を するためにペーパーテストを実施した。 *ペーパーテストの設問例(一部) ・あるローカルニュース番組で「町おこし」 を取り上げて放映したVTRを視聴した後 1)番 組 制 作 者 が 伝 え た い こ と は 何 か 。 2)そ の た め に ど ん な シ ー ン が あ っ た か 。 3)こ の 番 組 を 見 た 人 は ど う 思 う か 。 ・ある化粧品のCFを視聴した後 1)だ れ に 見 て も ら う た め に 作 っ て い る か (性別,年齢,職業) 2)何 の た め に 作 ら れ た か 。 3)こ れ を 見 た 人 は ど う 思 う か 。 4)現 実 ば な れ し て い る の は ど ん な と こ ろ か 。 例えばこれらの設問は,情報の科学的な理 解を生かした「読み解く力」を実践的に評価 するものである。そして全体的な傾向を見る と,非常に高い正答率をあげることができた。 第1次で「テレビ観察」をした際,番組を 分析的に見ることができず記録用紙に「おも し ろ か っ た 」「 ○ ○ と い う 芸 能 人 が 出 て い た」など,表面的な事実しか書けない子ども が多数いた。このことと比較すれば,単元を 通して子どもの「情報を読み解く力」は相対 的に著しく向上したと考えられる。 ◇まとめ 単 元 最 終 時 間 の ワ ー ク シ ー ト に ,「 学 習 開 始前と比べたテレビ番組に対する見方や考え 方の変容」を記述する欄を設けた。すべての 子どもが「変わった」と書いている。また 「人を傷つける番組は見ないと決めるのでは なく,自分で判断し,人の気持ちを考えなが ら 見 れ ば よ い 」「 テ レ ビ は し ょ せ ん た だ の 箱 。 ぼくたちがその前で何を考えるかが問題」な ど,価値観の多様性や各自の判断力の重要性 を指摘する子どもも多かった。これらを大人 の先入観で見て「きれいごとを言っている」 ととらえては,学習評価は成立しない。大い に賞揚し,他者がその価値付けをすることに より,こうした見方や考え方が内省化され, 学力として定着すると考える。 本単元の学習成果は,すべてポートフォリ オとして綴っていった。学習記録の保存・振 り返り無くして,学習評価は実現できないも のであると改めて感じた実践であった。 - 23 -
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