外来化学療法の マネジメント 外来化学療法の マネジメント - medi

外来化学療法の
マネジメント
外来点滴センターを中心とした
体制の実際
取材協力 ●
玉橋 容子氏
聖路加国際病院2階外来ナースマネジャー
近年、化学療法を受けるがん患者
数は増加の一途をたどり、入院から外
来への治療のシフト、2002年の「外来
化学療法加算」の導入にともなって、各
施設で外来化学療法の実施体制整備が加
速化されている状況にある。
聖路加国際病院では、1970年代後半から
外科外来で乳癌の化学療法を開始、1999年
には同院の外来点滴治療を集中化した「外来
点滴センター」へと治療の場を移し、加算適
応に先駆けて外来化学療法と患者ケアの体
制を整えてきた。同センターの設立と
外来化学療法における多職種多部門
のかかわり、現状の問題点と今後の
展望について玉橋氏に伺った。
がん医療マネジメント研究会
外来化学療法のマネジメント
外来点滴センターを中心とした体制の実際
玉橋 容子 氏
聖路加国際病院2階外来ナースマネジャー
点滴の件数増加と
長時間化で
外来処置室が不足
更衣室
(既存)
ユニットバス
診察
(既存)
受付
(新設)
待合 カウンター
聖路加国際病院では、
「来院する患者数
消火栓
に対して病床数が足りない状況にあり、
調剤室
カウンター
点滴
センター
入院加療ではなく外来での治療を行う必
要性に早くから迫られていた」(玉橋氏)
車椅子トイレ
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リクライニングチェアなど
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院内搬送機(既存)
ため、各診療科の外来で短時間の点滴治
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療を行っていた。しかし、外来患者数の
増加とともに点滴件数が増え、外来処置
【図1 聖路加国際病院外来点滴センター(1999年)】
室が不足した。さらに、1990年代中頃に
ほぼ全ての外来の廊下に点滴患者があふ
て国内でも最大の規模であった検査室の
は、循環器ではほぼ一日がかりのドレナ
れ出してしまっていました」と玉橋氏は
縮小が決まった。
「他の診療科や部門も跡
ージによる治療が登場するなど、点滴が
当時を振り返る。
地を利用したいわけですから、なかなか
院内調査によって一日最大約120件(化
一筋縄ではいきません。しかし、院内の
がん患者の化学療法については、米国で
学療法は約30件)の点滴を実施していた
廊下にまるで 林のように 点滴スタン
外来投与が行われていたこと、および入院
ことが明らかになり、外来患者数がさら
ドが立ち並ぶような状況では、安全で快
加療を行いにくい同院の事情を鑑み、1979
に増加する懸念もあったことから、院内
適な点滴治療ができているとはとても言
年から外来で開始した。はじめは乳癌術
の外来点滴業務を集中化したセンター設
えませんでした」
。
後の患者に対する標準的な短時間の点滴
立に対するニーズが高まっていった。
長時間化した。
そこで、点滴センター開設の目的を①
治療、その後は他の癌腫にも対象が広が
外来患者の注射・点滴のスペースを確保
って治療件数が増え、さらに長時間の点滴
する、②点滴治療を受ける患者の快適な
を要する抗癌剤も徐々に登場してきた。
院内全体の点滴件数の増加と長時間化
によって、
「患者が朝に弁当を持って来院
外来患者の点滴治療を
集中化した
点滴センターの開設
環境を整える、③各科外来の注射・点滴
治療と自己血採血の処置を1か所に集中
させて業務の効率化を図る、④医療者が
外来点滴治療のためのスペースを探し
注射・点滴に専念し、患者に十分なケア
外来がデイ・ケアの場になりつつあり、 ていた折、院内検査の一部外注化によっ
を提供できる、と掲げ、院内での調整の
し、夕方までの一日を院内で過ごすなど、
─1─
末、1999年6月、全科依頼型の外来点滴
いては、治療内容の9割を占める外科・
事業部)スタッフ、リエゾン看護師、ケ
センターが開設された。
内科との兼任看護師が標準治療をよく理
ースによってはPCU(疼痛緩和ケア)看
センター内には、点滴用ベッド12床、 解し、投薬を指示する医師との情報共有
護師が一堂に会してディスカッションを
リクライニングチェア4台、袖付き椅子
もできていたことから、
「治療の実施場所
行う。ここが病棟と外来の連携の場とな
8脚を設置した【図1】。設備費節減のた
が点滴センターに移動しただけ」であっ
り、外来治療を開始するにあたって患者
め、
「ベッドは医師の2段ベッドを1段に
たという。センター開設にあたっては、 に必要な支援があれば、他部門への依頼
して並べたり、当直室のものを使ったり
新規施設として院内システムへ組み込む
ができる。患者には入院中に化学療法の
しました。また、デイ・ケアでの快適環
際のこまかな取り決めなど治療以外の点
オリエンテーションを行い、説明を実施
境作りや抗癌剤の安全投与などについて
で苦労もあったという。
した病棟看護師は点滴センターでの初回
研究目的で購入した備品を活用し、設備
指導を行う外来看護師に患者の状況を報
の約8割は院内各所から既存のものを調
告することになっている。外来治療にお
達してきました」という。
スタッフは、センター長を兼務する血
液内科医1名、看護師1名、薬剤師1名
がん患者のケアでは
術後のカンファレンスで
病棟と外来をつなぐ
いては、院内の多職種多部門による支援
体制が構築されている【図2】。
を専任、内科・外科からの看護師数名を
同院では、入院患者や術後のがん患者
兼任とし、1日の患者数に応じて看護師
の治療に関して多職種によるカンファレ
5〜7名で勤務する体制をとった。
ンスを行っている。カンファレンスでは、
外来化学療法を支える
多職種のかかわり
依頼型センターのため、他部門との調
医師、病棟看護師、外来看護師、薬剤師、
外来通院が始まると、患者は所定の検
整やルール作りも行った。化学療法につ
ソーシャルワーカーなどSSD(医療社会
査を受け、診療科医師の診察を経て点滴
センターで治療を受ける。医師は当日の
患者の状態にもとづいて、投薬内容の決
病院の理念
患者の権利
院長
救急チーム
スタットコール体制
(救命)
外来
がん専門医
がん看護師
事務
皮膚科チーム
血管外漏出管理
点滴センター
治験スタッフ
薬剤師
化学療法看護師
ハートセンター
チーム
心疾患管理
放射線医
がん診断医
治療医
放射線看護師
がん患者
家族
病棟乳癌専門医
病棟看護師
緩和ケア
ペインコントロールナース
リソース部門
精神科医・疼痛管理ナース
リエゾンナース他
定や指示の変更を行う。
倫理委員
治療・研究管理
外来での初回指導は主に点滴センター
の看護師が行い、医師の指示にもとづい
形成外科医
看護師
安全管理委員
リスク管理
て点滴治療を実施する。外科・内科から
点滴センターへ来ている兼任看護師は
麻酔科医
手術室看護師
病理医
感染委員
感染管理
「診療科から器材を持って患者とともに点
滴センターへ移動し、投薬を実施する」
こともある。実施化学療法は乳癌が約7割
コメディカルスタッフ
社会資源指導
医事課スタッフ
を占め、外来治療の実績も長いが、抗癌
剤の取り扱いには細心の注意を要するた
め、投与を行う看護師は院内の静脈注射
【図2 院内がんチーム支援体制】
研修プログラムを終了して認定を受けた
─2─
NEWSLETTER
者のみとなっている。
看護師は、旅行や家族との行事の日程
No.4
献している。
また、精神的な
や、治療費の問題など患者の訴えを聴き、 悩みを抱える患者
治療効果に影響のない範囲で投与日の変
にはリエゾンナー
更を医師と相談する窓口にもなっている。 ス、費用や転院の
また、
「患者は治療に対する自分の意思を
問題に関しては
専門家である医師に相談したい半面、医
SSDへの紹介が行
師への相談は最後にしたいという気持ち
われるなど、患者
もあり、点滴センターの看護師によく話
個別のニーズに多
を聴いてもらうことで気持ちや考えを事
くの職種が対応し
前に整理することも多い」という。その
ている。
ため、看護師は意思決定のコーディネー
ターの役割も担う。
化学療法ではリスクの高い薬剤を扱う
【図3 患者説明用資料】
患者の日常生活に関しては、脱毛時の
ル・システムも整備されている。
かつら、乳癌患者のブラジャー、化粧に
外来治療によって患者の社会生活の維
ついてなど、切実であるが看護師にとっ
持が可能になった一方で、医療者が傍ら
ため、薬剤師の関与も非常に重要である。 ては提供メーカーとの板ばさみになってし
にいない時間も長くなった。そのため、
投薬前の看護師とのダブルチェックはも
まうこともある。そのため、乳癌患者会 「外来での個別的指導により、自己管理の
ちろんのこと、薬歴管理を通じて「前回
の訪問ボランティアの助けを借り、術後
意識を高め、患者の自己判断のあやまり
の治療と違うのでは」という薬剤師の疑
患者への情報提供や悩みの相談に応じて
を予防するよう努めている」というが、
念から誤投与を防止できたケースもある。 もらうことで解決をはかっていることも多
また、調剤や薬歴管理にとどまらず、肺
い。
緊急時や夜間休日に患者がいつでも来院
できるよう、救急部との連携も強めてい
癌患者に対しては薬剤師が初回指導を行
る。連携当初は、外来患者が 気づいた
っている。薬剤に関する豊富な知識に臨
ら翌日入院していた ケースもあったこ
とから、救急部への相談や来院があった
冊子を看護師と協力して制作するなどの
円滑な外来治療を
支える多くの部門
取り組みも活発になっているという。
「患
外来化学療法中、血管外漏出について
救急部から外来へ渡し、その後の経過を
者説明用の冊子は、既存のものや、薬剤
は皮膚科、心臓毒性についてはハートセ
外来から救急部へフィードバックするよ
別ならば製薬会社が提供しているものも
ンターの協力を仰いでいる。協力科では
うにした。また、
「外来検討会」には救急
十分使えます。薬剤師が積極的に関与す
これら化学療法関連のデータを収集・解
部からの参加も加え、実施中の主な化学
るようになった現在では、施設独自のも
析することで、エビデンス構築の一端を
療法、白血球数と発熱、患者に持たせて
のも作りやすくなってきました」という
担っている。また、患者の急変時には
いる薬、診療科医師の24時間連絡先など
床経験が加わることで、患者向けの説明
【図3】。また、以前は医師が中心であっ 「外来点滴センタースタット」と館内放送
患者の状況や対応内容を記した連絡票を
の情報共有にも努めている。
た新規薬剤導入時の勉強会も、現在は薬
をすると、3分以内にICUや救急部など
入院は不要だが痛みの問題がある患者
剤師が開催し、スタッフの知識向上に貢
から医療チームが駆けつけるスタットコー
対しては、緩和ケア外来への紹介が可能
─3─
NEWSLETTER
No.4
である。抗癌剤治療は外来から在宅にも
及び、最近では持続静注ポンプを体内に
専門外来
(看護師外来)
埋め込んで数日間の持続投与を在宅で行
点滴センター
化学療法
うFOLFOX などの治療法も登場してい
る。そのため、訪問看護科のスタッフが
医療社会事業部
SSD
治療方法や機器管理について勉強する機
会を設け、在宅患者への訪問時に治療管
患者相談窓口
医療安全室
訪問看護科
退院調整看護師
理状況のチェックを行っている。
リエゾンナース
がん患者
家族
さわやか
学習センター
病棟
緩和病棟
また、最新の治療を支える部門として、
乳癌患者会
がんと共に生きる
救急外来
倫理委員会やプロトコル委員会では、行
われている治療が倫理面で問題がないか、
また海外の最新のガイドラインや院内規
【図4 外来・在宅がん患者を支える多部門】
定に沿ったものであるかを審議している。 め、患者の次回来院時の受け持ちを決め
さらに、乳癌を中心に治験も活発に行わ
て患者との対話を行っている。必要な患
今後の展望
れているため、治験スタッフが常駐し、 者にはリエゾンナースへの予約を入れた
専任看護師の協力のもと収集データや
フォローの漏れを防いでいる。
り、SSDへ同席を依頼することもある。
点滴センター設立後のさらなる点滴件
また、患者の自己学習の場として、外
数の増加とともに、2005年には設備を増
来の廊下に「さわやか学習センター」を
やし同センターを拡張したが、現在1日
設置し、疾病に対する理解を促す場とし
に化学療法を約60件(その他輸血等70件)
今、外来の場で
起こりつつある問題
ている。近年整備された「患者相談窓口」 実施し、ベッド不足のため診察日の調整
は、化学療法による積極的治療の限界に
なども必要となっている。そのため、現
治療の外来化にともない、点滴センタ
達した患者の悩みを拾い、相談内容に応
在、化学療法治療室と診察室を同じブー
ーに通院している場面で有効な治療選択
じた専門部門に紹介するための窓口となっ
スにもつ、オンコロジーセンターとしての独
肢がなくなる、あるいは病状が悪化して
ている【図4】。
立した部署の設置が検討されている。
終末期への移行を余儀なくされる、とい
「今はまだ、終末期目前で 入院か在
ったケースが増えつつある。外来治療を
宅か の判断を迫られる時点で初めて自
継続中の患者にどのタイミングでどのよ
「治
分の病状の悪化を知る状況にありますが、 多部門の連携が必要であるとともに、
うにその状況を説明するのか。また、患
将来的には、最初の治療が始まる段階で、 療の標準化によってどの施設でも同じ治
者がそれを受け止めていくまでの意思決
今後悪いニュースを知らせて欲しいか、 療を受けられれば、特定の病院に患者が
定をいかに支援するのか、課題は多い。
どのような生活設計を考えているかなど、 集中せずに済み、地域連携によって更な
また今後、入院−外来−在宅のトータ
ルケアを提供していくためには多職種、
現在、約90名のターミナル患者がリス
患者のライフプランを確認しておくような
る医療の恩恵を受けられるようになるの
トアップされ、医療スタッフでのディス
取り組みも必要になってくるでしょう」と
ではないでしょうか」と玉橋氏は最後に
カッションによって患者ごとの目標を定
玉橋氏は言う。
語ってくれた。
─4─
2006年5月作成
制作
がん医療マネジメント研究会
[代表幹事]
[運営事務局]
株式会社シナジー内
〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台3-4-2 日専連朝日生命ビル6F
TEL. 03-5209-1851 FAX. 03-5209-1855 [email protected]