循環器疾患への考え

犬の循環器疾患
日 本 獣 医 循 環 器 認 定 医リレ ー
罹患率(%)
20.0
20.2
10.0
循環器疾患の
罹患率の高い品種
品種別罹患率
9.0
8.0
7.3
犬全体平均罹患率(3.4%)
7.3
6.0
5.3
3.9
4.0
3.5
3.7
2.0
トイ・プードル
ミニチュア・シュナウザー
ヨークシャー・テリア
(アニコム家庭どうぶつ白書2012 P59より引用)
シー・ズー
の高い品種を示した。
ポメラニアン
あった犬の罹患率を犬種別に調査し、罹患率
チワワ
期を迎えた犬を対象に、循環器疾患で請求が
マルチーズ
2011年度にアニコム損保の保健契約で満
キャバリア・キング・
チャールズ・スパニエル
0.0
Liaison
[ リエゾン ]
03
Red
Baton
from the WEST
第二走者
平川 篤 先生
November.2013
3rd Runner
第三走者
獣医循環器学会認定医
須崎 信茂
先生
【すざき動物病院】
(香川県)
Te c h n i c a l
JKC登録の犬種別累計
JKC登録の犬種別 2012年
(1999∼2012年)
0 300,000
1
ダックスフンド
2
900,000
1,500,000
0
(頭)
30,000
90,000
150,000
(頭)
1
プードル
93,899
チワワ
937,741
2
チワワ
64,714
3
プードル
796,712
3
ダックスフンド
39,325
4
ヨークシャー・テリア
300,941
4
ポメラニアン
15,937
5
シー・ズー
283,781
5
ヨークシャー・テリア
14,007
6
ウェルシュ・
コーギー・ペンブローク
248,573
6
柴
12,532
7
ポメラニアン
243,040
7
シー・ズー
9,670
8
パピヨン
227,597
8
マルチーズ
8,946
9
ラブラドール・レトリーバー
200,141
9
フレンチ・ブルドッグ
8,026
10
柴
179,513
10
パピヨン
7,705
11
マルチーズ
167,962
11
ミニチュア・シュナウザー
7,331
12
ゴールデン・レトリーバー
165,517
12
ゴールデン・レトリーバー
6,881
13
ミニチュア・シュナウザー
161,118
13
ウェルシュ・
コーギー・ペンブローク
6,267
14
キャバリア・キング・
チャールズ・スパニエル
120,748
14
ラブラドール・レトリーバー
4,894
15
パグ
118,891
15
パグ
4,796
香川県
高松市
1,409,600
※赤字は僧帽弁閉鎖不全症の罹患率の高い品種。
※JKC登録の犬種別 2012で僧帽弁閉鎖不全症の罹患率の高い キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル は17位(3,785頭)。
S WDA 1311 1 1311 5,000
Animal Hospital Report
フランス語で「つなぐ」という意味を表しています
Liaison No.06
循環器疾患への考え(ACE阻害薬へ望むこと、利点、選択理由)
色々な体重の犬にあった錠剤が存在し投与しやすい薬剤です
診断、グレードの評価について
臨床症状が一番大切。検査結果だけを信用しないように
循環器疾患を一言でいうと他の疾患と異なり、症状はないのに病気は存在するということでしょうか。多くの先天
心雑音が聴取された場合、血液検査、胸部X線検査、ECG、心臓超音波検査、血圧測定などを行います。これらの
性心疾患や慢性房室弁疾患の初期症状は、
まったく何も症状がない事がほとんどです。これらの病気を疑うきっか
検査により慢性房室弁疾患(僧帽弁閉鎖不全症)の病態を把握することができます。重症度分類には様々な分類
けの多くは、
ワクチン接種時や健康診断時に何気なく聴診すると心雑音が聞こえるということが多く経験されます。
方法があり近年ACVIMの分類方法も報告されました。
心雑音が聴取された場合にはできるだけ検査を行うように努めます。早期に診断を下し、それに対する治療を行う
事が重要と考えています。
これらの分類方法から感じ取れる事は、従来から存在するISACHC分類も新しいACVIM分類も、臨床症状を非
常に重要視している点です。これらのことより注意深く症状の変化を聞き取ることが重要であることが分かります。
慢性房室弁疾患(僧帽弁閉鎖不全症)での治療は、近年では無症状の症例に対するACE阻害薬の効果は有意で
臨床症状を注意深く聞き取り、それに加え各種心臓検査を考慮してグレードの評価を行うよう心がけています。
はないとする報告が出ています。
しかし無症状ではあるけれど、現時点ではどのような病態を持っているのか、他の
疾患の併発はないのか、
と言う点において早期の検査を行い診断することが重要であると思っています。病態を把
心臓検査の中で胸部X線検査と心臓超音波検査は特に重要な検査です。さらに心臓超音波検査は診断を行う上
握する事により将来に起こりうる症状への心構えや、食事指導や生活指導を行う事も可能です。その中でACE阻害
で絶対に必要な検査の位置づけになります。
薬(エナカルド等)は一番初めに投与する、言わば軸となる薬剤であります。
しかしながら即効性があり、切れ味のい
い薬剤とは異なるため、長期に投与する必要がありますし、その病態の重症度によって他の薬剤と同時に投与する
臨床症状の細かいチェックとこれらの検査結果を考慮することでその時のグレード評価が可能となります。僧帽
事も多くあります。
弁閉鎖不全症は進行性疾患です。診断やグレードはだんだん変わってくるものです。そのわずかな変化を見逃さな
いように心がけ、その臨床症状や検査結果からより的確な診断や評価をする。そして適切な治療を行うべきである
咳=心臓病、心雑音=僧帽弁閉鎖不全症として診断され、ACE阻害薬を投与されているケースも存在します。中に
と考えています。
はACE阻害薬の投与を中止したら元気になったと言うケースもあるため、ACE阻害薬は確定診断を行わずして投
ACVIM ステージ分類
与して良い薬剤ではないと言う認識を持つべきであると思います。
ステージ
循環器疾患を持つ患者への対応について (飼い主様と愛犬へ)
興奮させないこと、興奮しない環境を作ること。それが一番の治療であるくらい大切です
循環器疾患は程度によって症状が様々です。まったく症状がなく心雑音のみが聴取されたため心臓検査を行う場
合と、すでに重篤な症状を伴っている場合などでは対応が異なります。その中で特に症状がない場合には、飼い主
様は突然心臓が悪いと言われても初めは理解できない事がよくあるため、十分時間をかけた説明を行います。これ
から行なっていく治療の必要性や徐々に進行していく疾患である事を理解して頂き、3∼6ヵ月おきの再検査を推
Stage
A
Stage
B
奨しています。また発咳や運動不耐性などの症状が増加した時などは、再検査の重要性を伝え来院していただくよ
うにしています。
Stage
症状がすでにある場合には、程度にもよりますがまず心臓検査そのもので急変しないよう、注意深くスタッフ全員
C
分類基準
心疾患を生じる可能性がある
現時点では心疾患は認められない
器質的な心疾患を有するが臨床症状はない
Stage B1…臨床症状はない 心拡大はない(≒ ISACHC class Ⅰa)
Stage B2…臨床症状はない 心拡大はある(≒ ISACHC class Ⅰb)
過去または現在臨床症状がある(≒ ISACHC class Ⅰb∼Ⅱ)
で監視します。途中休みながら検査を進めていき、飼い主様にも検査中は院内で待機して頂くようにすることもあり
ます。今後起こるかもしれない肺水腫は危険な病態である事や今肺水腫を伴っているのであれば、早急の治療が必
要である事を理解頂き、
このような病態にならないよう治療や生活指導を行うよう心がけています。
A n i m a l
H o s p i t a l
Stage
D
臨床症状があり標準的な心不全治療に難治的な段階(≒ ISACHC class Ⅲ)
Re p o r t
Report by Shigenobu Suzaki
1
2
Te c h n i c a l
検査に関する説明について(X線検査、心電図、心エコーなど)
飼い主様のコンプライアンス遵守について
難しい検査をできるだけ解りやすく動画を用いて説明するよう努力しています
検査の説明が非常に重要。時間をかけて理解していただくために
心疾患に対する検査は非常に時間がかかり詳細に検査を行う必要があります。
したがって緊急性のある症例以外で
循環器疾患への考えの項でも述べたように、循環器疾患を一言で言うと症状はないのに病気は存在すると
は午前中に来院して頂き、午後の診察開始までの数時間を検査時間としてお預かりしています。そうする事によって時
いうことが多い疾患です。一般的な下痢や嘔吐は症状が治まれば、この薬はよく効くとか、あの先生はすごい、
間を気にせず、落ち着いて検査を行う事が可能です。
となります。しかし心臓病での治療、特に初期治療を開始する時は臨床症状的にも重篤である事は少ない事が
検査の説明では特に超音波検査に力を入れて解りやすく説明できるように心がけています。なぜなら心臓は動いて
療開始する時に十分時間をかけて説明することが絶対に不可欠です。検査の中でも特に超音波検査は動いてい
いる臓器であるため、静止画像だけではなかなか説明することも理解することも困難であるからです。できるだけ
動画を用いて説明するように心がけています。
多いと思います。そんな中、軽度な症状での投薬に疑問をもつ飼い主様も多いのではないでしょうか。そのため治
る心臓を動画で説明する事が病態を理解するための近道です。
病態が進行すると肺水腫などを併発し、非常に苦しむ事になるとい
超音波検査の動画はコンピュータの前での説明
でなく超音波診断装置の前で行います。その時に心
臓の模式図を見ながら超音波画像や動画と模式図
を見比べながら説明を行なっています。そうする事に
うことを十分に理解していただくよう、これから開始する治療の重要性
をご理解頂くように務めています。またACE阻害薬はその中でも治療
開始初期より投薬を開始し、病態が進行した場合でも投与は必要である、
いわば中心的薬剤である事も理解して頂くよう努めています。
より超音波検査を把握しやすくなり、その後の説明も
理解しやすくなります。そのようにすると通常ひとり
の飼い主様への説明は1時間程度もしくはそれ以上
かかることがほとんどです。
循環器疾患患者へのスタッフの対応について
獣医師、動物看護師ともに自分の役割をしっかり認識することが重要
心臓検査を受ける動物の中には状態が非常に悪い動物も時に遭遇します。動物にとっては見慣れない動物病院と
いう環境の中での不安や興奮などから状態が更に悪化する事もあります。スタッフひとりひとりが検査中の状態を把
握し、小さな異常など変化が見られた場合はすぐに獣医師と連携が取れ、処置や治療ができるよう心がけています。
また循環器疾患にかかわらず、来院した緊急性のある患者の見極めをスタッフ全員が迅速に行い、待合室または
処方薬剤について
病態の進行によりひとつの薬剤だけでなく多剤併用が必要になります
初期の慢性房室弁疾患の時には、まずACE阻害薬(エナカルド等)の処方から開始します。当院では数種類の
ACE阻害薬を使用していますが、基礎研究が豊富で効果が一定している事、また剤形が豊富であることからエナ
カルドをよく使用しています。
内服薬は長期投薬が必要となりますが、臨床症状の変化を感じなくても3∼6ヵ月毎の心臓検査を実施します。
そのようにすることで早期に病態の再評価や治療薬の見直しが早期に行えます。原則的にうっ血所見が確認され
るまではループ利尿薬は使用しませんが、利尿作用というよりむしろ心筋の線維化を抑制する目的として比較的
早期にACE阻害薬とスピロノラクトンを併用します。
車の中からでも導けるように心がけています。なぜならその時の行動の仕方ひとつで動物の命を左右するからです。
緊急患者への血管確保や気管挿管、薬剤の準備、DCカウンター、人工呼吸器の準備など迅速に効率よく行うことが
患者を救命できるかどうかの分かれ道です。院内スタッフは他人事であっては決していけません。みんなで協力して
救命するという意識が大切です。獣医師、動物看護師とも自分自身の役割分担をしっかり認識することが救命率を
向上させる近道であると思います。
シニアケアへの取組みについて
老齢犬ではかなり高い確率で循環器疾患を抱えています
近年、動物医療の向上と飼い主様の意識が高まって動物の寿命も長くなったと思います。それに伴い心疾患を
慢性房室弁疾患の治療はうっ血が起こるまでの期間を出来るだけ長く、またとにかく薬剤でコントロールする
含む多くの老齢性疾患が増加したことは疑う余地もありません。そこで当院では老齢犬における健康診断を積極
事が重要であると感じています。心拍数や血圧の測定によりβブロッカーやカルシウムチャンネルブロッカーの追
的に推進しています。特に慢性房室弁疾患は老齢性変化として高齢化が進む中で特に発生が多いため、注意して
加も行います。うっ血が確認された場合にはピモベンダンの投薬を開始します。必要によりフロセミドやトラセミド
診察をすすめる必要があります。また老齢犬に麻酔下による処置や手術が必要な場合も多々あり、術前管理や麻
を使用します。うっ血が起こる時期に入ると常に肺水腫を意識して状態の悪化が見られれば入院治療も積極的に
酔管理を行う上で心臓検査は極めて重要であると考えています。麻酔手術を行う上で、安全に行うことが可能か
行います。
どうかを評価するためにも積極的に検査を実施するべきです。
A n i m a l
H o s p i t a l
Re p o r t
Report by Shigenobu Suzaki
3
4
Te c h n i c a l
VCSS(獣医心臓外科研究会)の紹介
勤務医時代から先天性心疾患をもつ動物、また老齢で弁膜症を持つ動物達を数多く見送ってきました。もし心
臓外科を行う事ができれば多くの動物を助ける事ができたという思いがありました。そんな思いで当時心エコー
を教えて頂いた先生と一緒に心臓外科を志しましたが、あまりにも多くの困難と試練にぶつかり、心が折れる事も
数多く経験しました。そんな時、自分のまわりの獣医師仲間が手を差し伸ばしてくれ今に至っています。心臓外科
は非常に長時間の手術であり、更に術後は徹底した管理が不可欠です。また執刀医や助手を含めた手術を行う
獣医師、麻酔を管理する獣医師、人工心肺装置を操作する獣医師、術中の血液検査などを行う獣医師と多種の
仕事をこなす必要があります。そのような事から現在、県内の心臓外科に興味のある先生方を中心に仕事を細
分化しチームとして手術や管理を行っています。
VCSSの主な活動は心臓疾患に関連した手術、月に一回の勉強
【すざき動物病院】
〒761-1705 香川県高松市香川町川東下1300 -1
循環器疾患患者への配慮・対応
会、更に年間数回の循環器疾患を中心とした講習会を講師の先生
をお招きして四国内外で開催しています。まだまだ手探りの状況
来院・受付時、状態の悪い緊急性を要する患者は飼い主様
ではありますが、この医療が四国で確立されるようチーム全員で
の申告に加え、
スタッフの眼で状態の確認を行い早急な処置
用法用量を分かりやすく記載したり、飼い主様に処方する薬
を行うように心がけております。状態の悪い患者に対して素
を見せながら説明したり、一緒に確認してもらうようにしてい
早く対応するために、手のあいているスタッフは獣医師・看護
ます。また、飼い主様との会話の中で獣医師に伝えられなかっ
師に関係なく、気道確保や血管確保の準備をします。また、興
た事や心配な事などがあれば詳しく聞き、
後で獣医師にも伝え
奮しやすい患者は、待合室ではなく、車での待機をお願いし、
るようにしています。
安静を保つようにしています。状態の安定している場合には、
力を合わせています。
服薬が複数になることが多いため間違えることのないように
内服のみ取りに来られる飼い主様もいらっしゃいますが、その
スタッフ間の配慮
都度症状などを確認するよう努めています。症状の変化が
ある場合は、心臓検査を積極的に勧めています。また、内服薬
の種類が増えると投薬が難しくなってくるため、そのご家族に
経験の浅いスタッフもいるので、担当スタッフ以外もみん
合わせた処方の方法を考えるようにしています。
なで患者の状態を観察します。検査中や預かり中に状態が急
変しそうなほど状態の悪い患者もいるため、
スタッフ全員で
情報を共有するように心がけています。また、一人一人が無
シニアケアについて
駄なく適切に行動できるように常に声を掛け合うようにして
います。
高齢になってくると心疾患や内分泌疾患、腎臓病など様々
な病気を発症することが多くなります。動物は人よりも速い
スピードで歳を取っていくため、病気の早期発見・早期治療が
今後の課題
大切になってきます。そのため飼い主様とのコミュニケーショ
獣医循環器認定医のご紹介
ンを大事にし、
少しの変化にも気付けるように意識しています。
続いては公益社団法人動物臨床医学研究所、鳥取県の山根動物病院院長の高島先生をご紹介いたします。
高島先生は私が病院を開業する前から倉吉の動物臨床医学研究所に月に一回のカンファレンスでお世話になって
いた時に、色々教えて頂いた先生です。心臓外科も数多くこなし、多くの研究や学会でのご発表、
ご講演
をされている日本を代表する獣医師のひとりです。そんな高島先生ですが、いつも非常ににこやかで人柄
の 良い 先生でもあります。数多くの循環器疾患の症例もお持ちでまた色々な手技も熟す先生です。
非常に興味のある内容になる
高齢動物が増加し、進行した循環器疾患、
また腫瘍などそ
れ以外の病気を抱えた動物が増えています。
この様な高齢動
最近では飼い主様の動物に対する意識が高く、ペットを
物のQOLを向上させるため緊急時など、様々な状況に対応
家族として大切にされる方が増えてきています。そしてペット
する必要があります。どのような場合でもそれぞれが同じレベ
の病気に対して理解しようとする方が多いと感じています。
ルで対応できるようにさらなる個々のスキルアップを図ること
高齢になれば様々な病気を発症し、今後の余生をその疾患と
が必要だと感じています。
ともに生きていかなくてはならないケースが増えてきます。
長期に渡る治療や定期検査が必要な場合、飼い主様に十分
その必要性を理解してもらえるように飼い主様の立場に立っ
た診療を行うように心がけています。
倉吉動物医療センター山根 動物病院
ことと思います。
鳥取県倉吉市八屋209−1
髙島 一昭 先生
院長 獣医師への配慮
心エコーやX線撮影時に患者を安心させ、状態を常に観察
し、変化があれば獣医師に伝えます。心臓病の患者は長時間
にわたる検査で体調を悪くしてしまうことがあるので、
スムー
ズに検査を行えるように検査機器の準備をします。また、内
A n i m a l
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Re p o r t
Report by Shigenobu Suzaki
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