イソップ物語

イソップ物語
アリとキリギリス
夏の日、キリギリスは野原を跳び回って 鳴いたり唄
ったりしていました。
そのそばをアリが大層苦労して とうもろこしの実
を巣に運んでいたので、
「ご苦労なこったね、こっちに来て一緒に唄ってはど
うだい」
「冬のために食べ物を蓄えているところだよ。君も働
いた方がいいと思うがね」
「どうして冬のことを心配するんだ。こんなにたくさ
んの食べ物があるのに」
しかし、アリはそのまま仕事を続けました。
冬がやって来ました。
食べ物が見つからず、キリギリスが飢死する間際に
垣間見たのは、アリが夏の間に蓄えたとうもろこしや
穀物を 毎日分け合って食べている姿でした。
猫に鈴
1
昔々、世界中のねずみが集まって 猫の攻撃から身を
守る最善の方法を巡って会議を行いました。いくつか
の提案に議論が戦わされたあと、地位と経験のあるね
ずみが立ち上がりました。
「君たちが賛同して実現してくれれば、今後必ずや
我々を守ってくれる妙案を思いついた。我々の敵であ
る猫の首に鈴をつけるんだ。奴らが近づけばその鈴の
音で危険がわかるという寸法だ」
この提案はみんなから大いに賛同され、採用が決定
されました。その時古参のねずみが立ち上がって言い
ました。
「わしは君の意見に賛成だし、この提案はとてもすば
らしいと思う。しかしちょっと訊くが誰が猫の首に鈴
を付けるんだ」
都会のねずみと田舎のねずみ
都会のねずみがある日 田舎にいとこを訪ねてやっ
て来ました。いとこは素朴で都会の友達を心よりもて
なしてくれましたが、豆にベーコン、チーズにパン。
2
もてなすのはこれがせいぜいでした。それでも好き勝
手には食べられたのです。
都会のねずみは食べ物を前に長い鼻を上に向けて
言いました。
「気が知れないよ、君。こんなまずい食べ物によく我
慢できるものだ。もっとも
田舎じゃこれよりおいし
いものなど想像できないだろうがね。一度一緒に来て
ご覧、都会の暮らしぶりを見せてあげよう。一週間も
都会で暮らしたら、これまでどうして田舎暮らしがで
きたのか不思議に思うことだろうよ。」
早速 その言葉に連れだって出発すると、都会のね
ずみのすまいに夜遅く着くことができました。
「長旅のあとだ、何か食べ物が欲しいな。」
そう言って都会のねずみは田舎のねずみを大きな
ダイニングルームに連れて行きました。そこですばら
しい宴会の余り物を見つけ、二匹はゼリーやケーキを
食べ始めました。何もかもがすばらしい味でした。
突然、唸り声と吠え声が聞こえました。「何だあれ
は。」田舎のねずみが言うと。
3
「タダの犬だよ、この家の。」もう一匹が答えました。
「タダのだって!」田舎のねずみが言いました。「食
事の時にそんな音楽を聴くのは真っ平だ。」
突然、ドアが開け放たれて2匹の番犬が入ってきま
した。二匹は大急ぎで飛び降りて逃げ出しました。
・・・・・
「さようなら。」田舎のねずみが言いました。
「何だって! もう帰るのかい。」
「うん。豆やベーコンでも、安心して食べられる方が、
びくびくしながらケーキを食べるよりいいからね。」
飼い葉桶の犬
昼寝の場所を探していた犬がうまい具合に牛の飼い
葉桶を見つけ、わらの上に飛び乗り昼寝を始めました。
そこに、牛が午後の仕事から戻ってきて、わらを食
べようと飼い葉桶に近付いてきました。せっかくの昼
寝を邪魔された犬は怒って立ち上がり、牛に向かって
唸りをあげ、近付いた牛を噛み付かんばかりの素振り
まで見せました。
4
とうとう牛はわらを食べることをあきらめぶつぶ
ついいながら立ち去りました。
「あーあ、あいつにはわらなど食べられないくせに、
一旦手に入れたら二度と離したがらない奴が世間に
はいるものだ」
薪のたば
一人の年老いた男が死の間際に息子たちを枕元に呼
び寄せ最後の忠告を与えました。
召使いに薪のたばを持ってこさせ、一番年上の息子
に「それを折ってみなさい」といいました。その息子
は何とか折ろうとしましたが、どんなに努力してもそ
のたばを折ることはできません。ほかの息子たちもや
ってみましたが誰も折ることはできませんでした。
「たばをほどいて、めいめい一つずつ持ちなさい」
息子たちがいわれたとおりに持ったところで、「で
は折ってみなさい」と父親が言いました。木ぎれは簡
単に折れました。
「わしの言わんとするところがわかっただろう」
5
こうもりと鳥とけものたち
鳥とけものたちの間で一大戦争が起ころうとしてい
ました。
両方の軍団が自分たちの仲間を集めましたが、こう
もりはどちらにつこうか迷っていました。
止まり木の上を飛んできた鳥が言いました。「我々
の仲間に来ないか」 しかしこうもりは「僕はけもの
だよ」
今度はけものが下を通りすぎながら上を見上げて
言いました。「こっちの仲間に来ないか」 しかしこ
うもりは「僕は鳥なんだよ」
幸い、平和がやってきて、戦いが止みました。そこ
でこうもりは鳥たちのところに行き、仲間に入れて貰
おうと思いました。しかしみんなそっぽを向いてしま
うのでそこを去るしかありませんでした。
次にけものたちのところに行きました。しかしすぐ
にそこも逃げ出してしまいました。さもなくば袋だた
きにされてしまったことでしょう。
6
「ああ」こうもりが言いました。「無理もないか」
犬とオオカミ
やせこけたオオカミが腹ぺこでたまらないでいると、
飼い犬がそばを通りかかりました。
「おや、兄弟」 犬が言いました。
「やくざな生業(な
りわい)をしなければそんな目にはならなかっただろ
うに。どうだい ちったあ堅気の仕事をしてみちゃあ。
そうすれば食いっぱぐれなしさ」
「仕事にありつけるのなら」オオカミが言いました。
「お安い御用だ、ご主人様のところに連れてってやろ
う。儂の仕事を分担してもらえばいい」犬が言いまし
た。
そこで、オオカミと犬は連れ立って街を目指して行
きました。道すがらオオカミは犬の首の部分がかなり
すり減っているのに気がつきました。それでどうして
そうなっているのか尋ねると。
「なあに、たいしたことじゃない」犬が言いました。
「タダの首輪の跡だ。夜になると儂をつなぎ止めてお
7
くことになっててな。少しすりむけるが、すぐに慣れ
っこさ」
「とんでもない」オオカミが言いました。「そんなこ
となら おさらばだ、お抱え犬君」
太った奴隷より、飢えても自由の方がすばらしい
鷹と矢
一羽の鷹が高い岩の上にとまって、獲物とするウサギ
の動きに目を凝らしていました。そこを一人の射手が
身を隠した場所からこの鷹を見つけ矢を放つと、矢は
鷹に命中し致命傷となりました。
倒れた鷹が心臓に当たった矢を見ると、その矢には
鷹の羽が矢羽根として飾られていました。
「こんな情けないことはない。自分の羽で飾られた矢
に斃れるとは」と鷹は悲痛な叫びをあげました。
漁師と小魚
漁師が丸1日釣りをした挙げ句、ようやく小魚を1
匹釣り上げました。
8
「お願いです。私を放して下さい。私はまだ小さくて
とてもあなたのおなかの足しにはなりません。もしも
河に帰していただけたら、すぐに大きくなって、あな
たのお腹を満たすほどの材料になります」 と小魚が
言いました。
「とんでもない。おまえは今俺の手の中にあるんだぞ。
もし手放したら再び手にはいるかどうかわかったも
のではない」
掌中の小は、将来の大に優る。
狐と山羊
運悪く一匹の狐が深い井戸にはまり抜け出せなくな
りました。
そこに山羊が通りかかり、そんなところで何をして
いるのか尋ねました。
「おや、聞いてないのかい。これからひどい干ばつが
始まるんだよ。だから自分で水が飲めるここに跳び込
んでるんだ。どうだい君もここに降りてきたら。」
9
山羊はこの忠告をよく考えた挙げ句、井戸の中に跳
び込んでしまいました。
しかし、狐はすかさず山羊の背中に跳び乗ると、そ
の角を足場にして一気に井戸の縁に跳び上がり、「あ
ばよ」と言いました。
今後の戒め。
「苦しい立場に追い込まれている者の忠告を信じて
はいけません」
狐と葡萄
午後の昼下がり、1匹の狐が森の中を歩いていました。
高い木の枝からぶら下がっている一房の葡萄の下
で立ち止まると、
「おや、喉の渇きを癒すのにちょうどいいものがあっ
たわい」
そこで、やや後ずさりをすると、狐は葡萄めがけて跳
び上がりました。だがもう少しのところで届きません。
もう一度、更に二三歩後ろから葡萄に向かって飛びつ
きました。やはり届きません。
10
終いに狐はあきらめて、元の道を歩き出しました。
「あれはきっと酸っぱかったのさ」
人は手に入れられなかったものを簡単にけなすも
のです。
狐とコウノトリ
ひと頃は狐とコウノトリはお互いに行き来するよう
な仲でとてもいい友達でした。
ある日、狐はコウノトリを食事に招待し、悪ふざけ
でスープを入れた底の浅い皿だけを置きました。これ
は狐には容易にぺろぺろ舐めることができましたが、
コウノトリには長いくちばしの先をほんの少し湿ら
せるだけのもので、コウノトリはお腹をすかしたまま
食事を残すことになりました。
「スープはあなたのお好みではないようで相済まな
かったね」狐が言いました。
「お謝りになることはありません」コウノトリが言い
ました。「ぜひ、このお礼に今度は近いうちに我が家
においでになってね。粗食を差し上げるわ」
11
狐が訪問する日取りとなったその日、二匹がテーブ
ルを挟んで座ると、狐の前に細口で首の長い水差しに
入れた食事だけが置かれました。水差しに狐の鼻は入
らず、その外側を舐めること以外なすすべがありませ
んでした。
「この食事の件であなたには謝れないわ」コウノトリ
が言いました。
「悪事にはその仕返しが当然ですもの」
蛙と牛
ねえ、お父さん」ちびの蛙が池の畔に座っている大き
な蛙に呼びかけました。
「こんなにすごい怪物を見たんだよ。山のように大き
くてさ、頭には角があって、それに蹄が二つに分かれ
てるやつだったよ」
「ちぇっ、なんだ坊主」老いた蛙が言いました。「そ
いつはホワイトさんちの牛じゃないか。ちっとも大き
くはないわ、わしよりもちいとばかり背が高いという
だけだ。わしだってあれくらいはすぐに大きくなれら
あ、見てな」
12
で、蛙は大きくお腹をふくらませました。更に続け
てうんと、うんと大きくお腹をふくらませました。
「どうだ、これくらい大きかったか」
「んにゃ、もっと大きかったよ」幼い蛙が答えました。
そこでもう一度、老いた蛙は大きくお腹をふくらま
せ、その牛はこれくらい大きかったかききました。
「もっとだよ。お父さん。もっと大きかったよ」答え
が返ってきました。
「もっと、もっと。お父さん」
更に蛙は力一杯息を吸い、お腹をこれでもか、これ
でもかとふくらませました。お腹はどんどんふくらん
でいきました。蛙は言いました。
「絶対、その牛はこれほど大きくはあるまいて」。し
かしその時お腹が破裂してしまいました。
自惚れは身の破滅
王を望む蛙
13
蛙たちがじめじめした湿地で幸福に暮らしていまし
た。
そこはとても過ごしやすい場所で、誰はばからずし
ぶきを上げて遊び回ることができ、迷惑を持ち込むよ
うなよそものもいません。しかし、この環境に物足り
ない蛙がいて、王を奉って規則を作るべきだと考え、
ヨブに希望を叶えてもらうよう請願に行くことにし
ました。
「全能のヨブ様、我々を支配する王をお遣わしになり、
我々に秩序をもたらしてください」
ヨブは彼らの不満を笑い、沼に大きな丸太を投げ込
みました。それが落ちる時には沼一面に大しぶきが立
ち、蛙たちは沼の真ん中に発生した大騒動に肝をつぶ
して全員土手へと逃げ込み、とてつもないこの怪物を
みていました。
しかし、しばらくして、それが動かないのをみると
怖いもの知らずな一,二の蛙が勇敢にも丸太に近づき、
恐る恐る触れてみました。動きません。次に英雄的な
蛙が丸太に飛び乗りその上で踊り始めました。全部の
14
蛙もやってきて同じことをしました。そのうち、蛙た
ちは沼の中にいる新しい丸太の王など目もくれずに
毎日を過ごすようになりました。
やはり、これでは満足できません。そこでもう一度
ヨブにお願いに行き
「私たちは本当の王がほしいのです。本当に私たちを
統治してくれる王をお遣わしください」
今度はヨブが怒りました。ヨブが彼らの中に大きな
コウノトリを送ると、すぐにのどを鳴らしながら蛙を
食べてしまいました。蛙たちが後悔した時には既に手
遅れだったのです。
苛政よりも無秩序の方がまし
金の卵を産むアヒル
ある日、田舎者が自分の飼っているアヒルの巣に行く
と、全体が黄色く輝いている卵を見つけました。
手に取ってみると鉛のように重く、狐にだまされて
いると思い、遠くへ投げてしまおうかと考えましたが、
15
待てよと思い直し、兎も角家に持って帰ってよくみる
と、なんとそれは純金の卵だったのです。
それから毎朝、毎朝同じことが起こり、男はその卵
を売って大金持ちになりました。金持ちになると欲が
出て、アヒルが生む金を一度に手に入れようと考えま
した。
アヒルを殺してお腹を裂いてみましたが、結局何も
見つかりません。
欲は行き着くところまで行くものです。
多くの友を持つうさぎ
うさぎはほかの獣たちの人気者で、みんなの友達でし
た。
ある日猟犬が近づいてくる声を聞いたので、うさぎ
は友達の助けを借りて逃げようと考えました。
先ず馬のところに行き、その背中に乗せて逃がして
くれるよう頼みました。「今、ご主人様の大切な仕事
があるんでな」と馬に断られました。「きっと、ほか
のみんなが君を助けてくれると思うよ」
16
そこでうさぎは雄牛のところに行き、その角で猟犬
を追い払ってくれるよう頼みました。
「すまないねえ、
女主人と約束したことがあって。友達のヤギは君の望
みを叶えてくれると思うよ」
ヤギは「俺の背中に乗ったら君がケガをしそうだ。
羊に頼むのがいいんじゃないか」
そこで羊のところに行き事情を話しました。羊は
「ほかのことだったらなあ。今は君らの間に割り込み
たくはない。だって彼奴らはうさぎも羊も食べるって
言うからなあ」
うさぎは最後の望みとばかり子牛のところに行き
ました。子牛は「本当に申し訳ないが、自分がその任
にあたるのは嫌だ。それにしてもほかの多くの年かさ
の動物たちが君を助けないのは残念だ」と言いました。
もうこの時には猟犬がすぐそばに迫っていました
ので、うさぎは足を蹴って辛くも逃げ延びました。
多くの友を持つ者は一人も友を持たないということ
だ。
17
うさぎとかめ
ある日、うさぎが「もしもしかめよカメさんよ、世界
のうちでおまえほど・・・どうしてそんなにのろいの
か」と嘲りました。うさぎは笑いながら「なんとおっ
しゃるうさぎさん、そんならおまえとかけくらべ」。
かめはうさぎの無鉄砲な考えを侮り提案に同意し
ました。動物国際規約に則りきつねを立会人としてコ
ースとゴールを決め、レースの当日、二匹は同時にス
タートを切りました。
かめは一瞬たりとも歩みを止めません、ひたすらゴ
ールに向かって遅くとも確実に進んで行きました。
うさぎは道端で「ここらでちょっと一眠り」すぐに
昼寝を始め。「おっとしまった、しくじった」目を覚
まして懸命に走りましたが、亀はとっくにゴールに着
き、疲れでぐっすり寝込んでいました。
遅くとも堅実な歩み、これが成功のもと
うさぎと蛙
18
うさぎはほかの獣たちから迫害を受けていて、どこに
行けばいいかわかりませんでした。たった一匹の動物
が近づいて来ても、彼らは大急ぎで逃げ惑っていたの
です。
ある日、彼らは野生の馬の一団が暴走して来るのを
見つけました。うさぎたちは大混乱に陥り、池のすぐ
そばまで大急ぎで逃げ延び、こんなにいつもいつも怖
がって暮らしていくくらいなら、いっそのこと池に飛
び込んだほうがましだと考えました。
しかし、彼らが池の淵に近づくと、蛙の一団が、今
度はうさぎの大群が近づいて来るのにおびえて池の
中に一斉に飛び込みました。
「なあんだ」一匹のうさぎが言いました。「物事はみ
かけほど悪くはないのさ」
『世間には自分たちより条件が悪いのはたくさんい
るものだ』
牡鹿と猟師
19
ある日、牡鹿が池で水を飲みながら、水面に映った自
分の気高い姿に見とれていました。
「ほお、どこでこんな高貴な角を見ることができるだ
ろう。それに素晴らしい枝ぶりだ。それに引き換え、
この足ったら。角に見合うようにもう少し立派だった
らいいのに。細くてか弱く見えるのはなんとも情けな
い。」
その時、猟師が近づいてきてヒューと矢を放つ音が
聞こえました。
危ないっ!素早く身を翻し、軽快な足のおかげで猟
師から遠く離れることができました。
しかし、気付かないうちに林の中に入り込んでしま
い、下に垂れ下がった枝に鹿の角が絡みついてしまい
ました。そのため猟師に追いつかれてしまい、牡鹿は
悲しい叫び声を上げるばかりでした。
「私たちは、しばしばもっとも役立つものをけなし勝
ちだ」
カケスと孔雀
20
いつも孔雀が屯している野原をカケスが歩いている
と、羽根の生え変わりに抜け落ちたたくさんの孔雀の
羽根を見つけました。カケスは落ちている羽根を全部
自分の尾羽根に縛り付け、孔雀の間を気取って歩くこ
とにしました。
ところがカケスが近づくと、孔雀たちはすぐにその
嘘を見抜き、大股で寄って来てカケスを突っつき借物
の羽根を毟り取ってしまいました。
それで、カケスは遠くから見ていた自分の仲間たち
のところに戻るしかありませんでしたが、仲間たちは
一様に迷惑顔をして言いました。
「立派な鳥にしてくれるのは、立派な羽根だけじゃな
いんだよ」
21