パ イ ロッ ト ム全体の複雑化と電子化が進み、空の がありました。時は流れ、航空システ ひとつにかかっていると言われた時代 空の安全・安心は、パイロットの腕 ました。そこで、事故率ゼロを目指す その数字は下げ止まり傾向となってい か し、 残 念 な が ら 1 9 7 0 年 代 に は り、事故率は劇的に下がりました。し の向上、航空管制施設などの整備によ 航空システムにおいては、もはやパイ ト し た C R M で し た が、 複 雑 化 し た ソース・マネジメント』としてスター くものです。当初『コックピット・リ に取り組む』という形に変化させてい 『個人ではなくチームとしてフライト くのです。 とに焦点を合わせ、安全を確保してい 的かつ理論的に対処するのかというこ にしてパイロットがチームとして具体 第 ❷ 回 交通も過密になってきており、安全・ ために注目されたのが、人間および人 ロット間の行動様式の改善だけでは不 新 しい技 術 、伝える 技 術 安心に対する社会からの要請がますま 間を取り巻く環境にかかわる部分、す 十 分 で し た。 そ こ で C R M は、 客 室 │ す 強 く な っ て い ま す。 そ こ で J AL なわちヒューマンファクターズです。 このヒューマンファクターズへの取 ジメント』に発展してきたのです。」 行っていく『クルー・リソース・マネ めて安全確保のためのマネジメントを 整備士、運航管理者、管制官なども含 乗 務 員 を 含 む ク ル ー 全 員、 さ ら に は、 ンシーに基づく考え方です。運航乗務 ました。そこで生まれたのがコンピテ る、という気運が世界的に高まってき ロットの能力全体を見直す必要があ い く な か で、 原 点 に 立 ち 返 っ て パ イ こういった流れをさらに突き詰めて 世 界の潮 流に基づく 考 え 方 は、操縦技術だけではなく、フライト ノウハウを活用しながら、さらに新し り組みの変遷について、運航本部の靍 はヒューマンファクターズに基づいた アラインで初めて導入しました。これ く、J A L は CRM 訓 練 を 日 本 の エ のパイロット訓練の動向に合わせるべ 「1980 年 代 中 盤、 い ち 早 く 世 界 因( ス レ ッ ト )」、「 や む を 得 ず 発 生 し 考 え に 基 づ き、「 エ ラ ー を 誘 発 す る 要 ラーを完全には撲滅できない」という 理 論 が 採 用 さ れ て い ま す。「 人 間 は エ アンド・エラー・マネジメントという として、2 0 00 年代からスレット・ そのマネジメントの具体的な方法論 に高めていくものです。この取り組み 評価してデータ化し、理論的・科学的 行 動 の 傾 向 を IT 技 術 に よ り 詳 細 に ロット個人および全体の強み・弱みや キ ル の 組 み 合 わ せ 」 と と ら え、 パ イ 事・業務を行うための知識・姿勢・ス イ ロ ッ ト の 能 力 を「 標 準 化 さ れ た 仕 員 に お け る コ ン ピ テ ン シ ー と は、 パ した。今回は、これまでに積み重ねた できるパイロットの育成を進めてきま 中の安全確保に求められる能力を発揮 い も の に チ ャ レ ン ジ す る J AL の 取 谷忠久は解説します。 ライト兄弟が飛行機を飛ばしてから 訓練で『リソースを有効活用してチー たエラー」および「望ましくない航空 安 全 運 航 をマネジメントする り組みについてご紹介します。 100 年 あ ま り。 当 初 は 危 な い 乗 り ムとして安全運航を確保する』ことを は、J A L パ イ ロ ッ ト の 定 期 訓 練 や 事 故 ゼロを 目 指して 物でしたが、航空機の飛躍的な進歩や 機の状態」の 点を対象として、いか ISD で は「 こ の 人 が う ま く い か な かった合理的な理由は何だったのだろ う」と考察します。本人の能力レベル のみならず、システムや教材、教官の 教え方にも問題がなかったのかどうか を徹底的に調査・検討し、改良を加え て、 さ ら に 効 果 を 検 証 し て い き ま す。 w e r c i t l u M e s n e c i L t o l i P 乗せたフライトに近い環境の訓練で で は J AL の み が 他 社 に 先 駆 け て 共 イ型の表示装置で、中東を除くアジア 教 室でも実物大のエンジ ンを再現できます。 このように課題を合理的に分析、改善 し て 標 準 化 す る シ ス テ ム が、 現 在 の J AL の訓練の根底にあるのです。 最 先 端の訓 練デバイス 合理的な最先端の訓練デバイスを採 用していくことも、コンピテンシー獲 得、維持、そして向上の具体化の方法 のひとつです。 は、国土交通省航空局の認定に合致し 同開発を進めています。ホロレンズに l a n o i t c u r t s n I n g i s e D m e t s y S そのため、手順を覚えるといった初 すが、そのなかから特徴的な 整備のチャレンジは“飛行機そのものを教室に持ってくること”です。整備士 の技量は飛行機を通じて伝承されてきました。革新的なテクノロジーにより、 いつでもどこでも三次元の“飛行機”に触れ合うことができる環境を作り出し、 安心への思いを込めたベテランのノウハウの伝承を促進していきます。 目的として、パイロットの行動様式を 操縦士昇格訓練の MPL( )でも導入されています。 た能力の高いシミュレーターを活用し よって、シミュレーターを使うことな 例えばシミュレーター。お客さまを コンピテンシーに基づく考え方を実 ます。シミュレーターは操縦技術の修 く、バーチャル空間を作り出すことが 進 化した PDCAサイクル 現していくために欠かせない手法があ 得にはとても効果的な訓練デバイスで り ま す。 そ れ は ISD( できるようになります。 )という教育や訓練の ホロレンズにはユーザーに大きなメ 教育や訓練を進めるうちに、うまく 期訓練でのより効率的な方法を模索し 介します。 開発における P DCA サイクルです。 行 か な い こ と も 出 て き ま す。 例 え ば、 て い ま し た。 そ こ で、 注 目 し た の が 一つ目は非常に精緻なグラフィック リットをもたらす多彩な特色がありま ある訓練生の進捗が芳しくなかったと 「マイクロソフト社のホロレンズ」で が表示されるということです。透明な 点を紹 き、一昔前であれば注意したり励まし す。これはヘッドマウントディスプレ トがかかります。 すが、その維持・運営には多大なコス 3 た り し て 済 ま せ て し ま っ た の で す が、 整備士もホロレンズを活用 それに合わせたパイロットの操縦技術 つる や 審査にとどまらず、機長の養成や、副 靍 谷 忠久(1986 年入社) 3 ディスプレイをとおして見える3Dのコックピット 18 明日の翼 Vol.06 明日の翼 Vol.06 19 運航本部 777 型機 機長 マイクロソフト社のホロレンズ 必要としないので、使用場所を選びま で あ る と い う こ と で す。 外 部 装 置 を 二つ目はスタンド・アローン型装置 の よ う な 3 D コ ン ピ ュ ー タ ー・ グ ラ の空間に、あたかもそこに存在するか の快適さを保ち、最大限のサービスを 影響を極小化する判断を行う。客室内 す。悪天候が予想されていても、その さまにお届けする人財を育てることで え な が ら、J A L ク オ リ テ ィ を お 客 「 最 大 の 目 的 は、 安 全 を 最 優 先 に 考 靍谷は決意を語ります。 を形成します。同じように、初期段階 に学んだことというのは、人格のコア 査企画部の星野信也は「子どものころ パイロット養成にあたる運航訓練審 ムです。 全教育を徹底的に身につけるプログラ MP L は、 訓 練 の 初 期 段 階 か ら 安 返し実践して定着させていくのです。 て対応する。それを訓練のなかで繰り 起こり得るスレットとは何かを分析し 育から中心に据えています。その日に ド・エラー・マネジメントを最初の教 回復に焦点を当てたプログラムの準備 せん。 ご提供できる環境を整える。お客さま で学ぶ安全教育をパイロットのコアに 安 全 教 育 を 初 期 段 階から そして三つ目であり、最も優れてい にとってベストなフライトができるパ 育てていかなければなりません」と話 つながる訓練の質を高めています。 るポイントと言えるのが、複数のユー イロットであるために、これまでに蓄 します。 ディスプレイをとおして見える目の前 ザ ー が 同 時 に 利 用 で き る こ と で あ り、 積したノウハウは絶対に失わないよう ている意味とは、想定外の事態が起き レーターをフルに活用することも 最先端の技術革新でできたシミュ 最 先 端の技 術 実践段階で教えていたスレット・アン また、かつてであれば基礎教育後の らこれを身につけるようにしています。 が進んでいますが、MPLでは最初か 今 後 開 発 し て い き た い 機 能 で す。 各 にしながらも、私たちは新しいものに たときでも安全を保つためです。例え M P L の特徴です。 フィックを合成して表示します。 ユ ー ザ ー は 同 じ 3D グ ラ フ ィ ッ ク を チャレンジし続けていきます。」 たりすることができるので、眼前のグ ば世界では、航空機の異常姿勢からの 人間が今でもパイロットとして乗っ 共有して自身の位置から見たり操作し ラフィックは、もはや仮想というより 異 常 姿 勢 の 回 復 で あ れ ば、 ま ず シ ました。こうした経験は、クルー間におけるコーディ ネーションなど、さまざまな形で日頃の運航に良い影 響が出ていると思います。母子ともに支えてくださる 皆さまの気持ちに応えるためにも、今後もこれまで以 w e r c i t l u M い、 「人と人とのつながり」を強く実感するようになり いきたいと考えています。 e s n e c i L t o l i P 自分自身のレベルを高めることで安全運航につなげて も現実に近いものとなります。 ミュレーターを使って手順を十分に理 さまの協力を得ながらでないと乗り切ることはできな 日 本 初の訓 練プログラム する」と目標をひとつ掲げて毎回のフライトに臨み、 相互理解が重要な航空機システムで 解したうえで、実際の航空機で体験し がします。復帰してからは、大変なときは周囲の皆 航空機は電子化が進み、空の交通量 て乗っていただくために、「このフライトで必ず成長 は、共通の体験をどこでも提供できる ます。危険を伴う科目であっても、教 ない」という思いが強く、何でも背負い込んでいた気 も過密になりました。安全なフライト 副操縦士になりたてのころは、 「自分で頑張るしか つのフライトを大切にしています。お客さまに安心し 2 た今では、常に感謝の気持ちと謙虚さを持ち、一つ一 ホロレンズの活用が非常に有効だと考 育訓練効果を下げない範囲で高い教育 ました。 を実現するためには、機長と副操縦士 より再びお客さまを乗せてフライトできるようになり けた経験もあるため、2015年12月に副操縦士となっ えています。 効 果 を 得 て い ま す。 教 育 と は、 失 敗 もたくさんの励ましや支援をいただき、2015 年 11 月 再開されることとなりました。一度は夢をあきらめか はかつてと比べて細かく連携すること す る 場 で す。M P L で は シ ミ ュ レ ー ターなどの活用によって、実際の航空 機ではできない失敗を経験する機会を 十分に用意しています。 また、近年の航空業界で研究が進ん で お り、M P L で も 既 に 導 入 し て い 初予定されていた中断期間は大幅に短縮され、訓練が 人体制のフライトで、相手が るのが、人に対するモニタリング教育 てくれました。地上スタッフや復帰訓練の教官方から です。 お客さまや皆さまのご理解とご支援をいただき、当 人がチー 帰を決めました。 が重要になってきており、 えていくことができました。機長の方々にも、私が訓 ムとして機能することを前提とした初 と言われたときに、「過去の話にしたくないな」と復 J A L クオリティを 届 けるために 日、子どもに「ママは飛行機に乗っていたんだよね?」 も目の前の仕事に精一杯取り組もうと気持ちを切り替 期 教 育 が 必 要 に な っ て い ま す。 そ の 見て、1日でも早い訓練再開を実現するために、自分 答 え と な る の が、MPL( れるだろうか」と眺めていたのを覚えています。ある こ れ ま で ご 紹 介 し て き た よ う に、 す。子どもたちを寝かしつけながら「私はあそこに帰 )で す。 欧 米 で も 徐 々 に ました。家から外を見上げると飛行機が目に入りま J A L は「 合 理 性 」「 客 観 性 」「 科 学 的 療期間も含めて産休・育休で 6 年間、フライトを離れ した。 普及が進んでいる最新のプログラム 練中断を告げられたときは、目の前が真っ暗になりま アプローチであること」を常に求めて もに恵まれました。その後、双子も出産し、当初の治 で、 日 本 で は J AL が 初 め て 導 入 を を過ごしていましたが、所長にJALの経営破綻と訓 おり、ふさわしいと判断すれば新しい 間にも及ぶ不妊治療。何度もトライしてようやく子ど 決めました。 しいと診断され、本格的な治療に専念しました。2 年 フォルニア州ナパにあった訓練所で充実した訓練期間 星野 信也 め、2008年にJALに入社しました。アメリカ・カリ (1987 年入社) 副操縦士になって 7 年目のことです。自然妊娠は難 運航訓練審査企画部 777型機 機長 子どもの頃からの憧れだったパイロットになるた ものを貪欲に取り入れ、安全・安心に V O I C E 余裕を持って作業できているかどうか 年先の未来を 上に安全運航を心掛けていきたいと考えています。 などをモニタリングし、さらに、これ 人でモニタリングしながら計画 から先、自分たちがどうなるかについ ても を 修 正 し て い き ま す。 こ れ に 対 し て 年、 教育をしていくこと自体が新しいこ となのです。 未 来に向 けて J AL で は 航を実現できるパイロットの育成に今 対応できるたくましさを持ち、安全運 J A L は、 さ ま ざ ま な こ と に 柔 軟 に に 運 び、 無 事 に 戻 っ て く る こ と で す。 も、お客さまやクルー、航空機を安全 とは、たとえどんなことが起ころうと 「パイロットにとって最も重要なこ 星野は言います。 専門家をつくるという狙いもあります。 と同時に、次世代の安全の基礎教育の で、彼ら自身の能力開発にもつなげる として教育プログラムへ参画させること にも注力しています。副操縦士も教官 また、基礎教育にあたる後進の育成 続けており、M P L もその一環です。 つくりあげていくというチャレンジを ら、安全でより良い教育プログラムを 考 え、 最 先 端 の も の を 取 り 入 れ な が 40 後も取り組んでいきます。 」 た、ご近所の方々や園の先生方まで復帰をサポートし していただいたことがとても励みになりました。 夫は仕事を時短勤務に切り替えてくれました。ま 練生だと知って言葉をかけていただくなど、温かく接 長谷川 千春(1998 年入社) 谷 田 海 博孝(2008 年入社) 30 20 明日の翼 Vol.06 明日の翼 Vol.06 21 日本に戻ってからは中部国際空港で地上勤務。日本 での研修中に訓練が中断した仲間が頑張っている姿を 2 み 777 運航乗員部 副操縦士 767 運航乗員部 副操縦士 た や パイロットとしても 母としても成長したい 訓練中断のときも 前向きに取り組む 2
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