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1 内臓器官

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第1章 人体の構造と機能
1
内
臓
器
官
1 内臓器官
A
消化器系
人間は,食物から栄養を得て生きています。しかし,摂取した食物は,そのままの
そしゃく
形態では栄養素として吸収することはできません。そこで,口腔での咀嚼(歯を使っ
か
くだ
ぜんどううんどう
てグチャグチャと噛み砕くこと)や消化管の蠕動運動*などによる器械的消化と,膵
液や胃液などの消化液中の化学成分を用いてドロドロに溶かす化学的消化が行われま
す。これらによって,栄養素は消化管の粘膜を通して体内に吸収されるのです。
このように,消化に関係する器官系を消化器系といい,消化管と消化腺で構成され
ています。
【消化器系の構造】
舌下腺
耳下腺
顎下腺
咽頭
食道
胃
膵臓
肝臓
横行結腸
胆嚢
下行結腸
空腸
十二指腸
回腸
上行結腸
S状結腸
盲腸
直腸
虫垂
肛門
* 蠕動運動
しかん
消化管内の食物の進行方向の平滑筋が弛緩(ゆるむこと)し,その逆方向の平滑筋が収縮するもの
です。つまり,口から摂取した食物を,消化管の収縮によって砕くとともに,この収縮によって肛門
方向(排泄口方向)へと運搬する運動です。
2
第1章 人体の構造と機能
消化管:口腔から始まり,咽頭,食道,胃,小腸(十二指腸,空腸,回腸),大腸
(盲腸,上行結腸,横行結腸,下行結腸,S 状結腸,直腸)を経て肛門に至るまで
の管で,日本人の成人では約 9m にも達します。
消化腺:文字どおり消化液を分泌する腺の総称で,唾液腺(唾液),胃腺(胃液),
肝臓(胆汁),膵臓(膵液)などがあります。
こう
くう
1 口 腔
歯
そしゃく
咀嚼に不可欠なもので,歯肉,歯根膜,歯槽骨,セメント質などの歯周組織によっ
て上下の顎骨に固定されています。乳歯は 20 本,永久歯は 32 本です。
歯槽骨の中に埋没している部分が歯根,口腔に露出している部分が歯冠です。
歯は,外側から順にエナメル質,象牙質,セメント質の 3 種類の硬組織と,歯髄か
おお
ら構成されています。エナメル質は,歯冠の表面を覆う最も硬い層です。歯髄には
血管や神経が通っています。
よろしいかな?
歯冠の表面を覆っている
エナメル質は,体の中で
最も硬い部分じゃよ!
【歯の構造】
歯冠
エナメル質
歯髄
象牙質
歯肉
歯根
歯根膜
セメント質
歯槽骨
血管と神経
した
舌
口腔内の器官で,咀嚼された食物を唾液で混和したり,味覚を感知したりする機能
があります。
ぜつにゅうとう
舌の表面には舌乳頭と呼ばれるブツブツとした小突起があります。この舌乳頭は形
じょうじょう
ゆうかく
態によって糸状乳頭,茸状乳頭,葉状乳頭,有郭乳頭に分類されます。糸状乳頭以
みらい
外のすべての乳頭には,味を感知する味蕾が存在しています。
だえきせん
唾液腺
がっかせん
唾液腺には,耳下腺,舌下腺,顎下腺の 3 つから構成される大唾液腺と,口腔粘膜
しょうえき
に散在する小唾液腺があります。耳下腺からは漿液性の唾液,舌下腺からは粘液性
第1章 人体の構造と機能 3
1
内
臓
器
官
の唾液,顎下腺からはこれらの混合液が分泌されます。
1
唾液はプチアリン(唾液アミラーゼ)を含んでいて,これによってデンプンをデキ
内
臓
器
官
ストリンや麦芽糖に分解します。また,食物を湿らせて滑りやすくし,舌に食物の
味覚を伝える働きもあります。そのほか,リゾチーム等の殺菌・抗菌物質を含んで
いるため,口腔粘膜の殺菌や自浄作用にも働きます。唾液はpH(☞ p.5)の緩衝作
うしょく
用もあるので(ほぼ中性に保っている),齲蝕(虫歯)の発生を予防するうえでも
重要です。唾液の分泌量は 1 日当たり 1~1.5 リットルといわれています。
いん
とう
2 咽 頭
口腔から食道に通じる食物路と,呼吸器の気道が交わる部位です。したがって,咽
頭は消化管と気道の双方に属しています。
咽頭にはリンパ組織が集まってできている扁桃(咽頭扁桃,口蓋扁桃,舌扁桃な
ど)があり,免疫反応によって侵入してくる細菌やウイルスに対抗しています。
3 食 道
咽頭と胃を結ぶ直径1~2cmの管状の器官で,成人は25~30cmの長さがあります。
消化吸収機能はありません(消化液の分泌はない)が,食道の粘膜を湿らせるため
に,少ないながら分泌腺を有しています。
えんげ
嚥下によって食道に食物が入ると,進行方向の平滑筋は弛緩し,その逆方向の平滑
筋は収縮します(蠕動運動)。これによって食物は胃へと送られます。
食道入口部には上部食道括約筋があり,食道と胃の間には下部食道括約筋がありま
す。これらの括約筋は,胃の内容物が口腔や食道へ逆流しないように機能していま
す。
食べ物は,
食道の運動(蠕動
運動)で胃に到達
するのね!
【食道の構造】
上部食道括約筋
食道
下部食道括約筋
横隔膜
胃
4
第1章 人体の構造と機能
4 胃
1
胃の構造
食道と十二指腸の間に位置し,胃液を分泌して消化機能に重要な役割を果たす臓器
です。
しょうまく
ねんまく
胃壁は,粘膜,筋層,漿膜の 3 層構造をとり,粘膜はヒダヒダに折れ曲がって粘膜
すうへき
皺襞を形成します。また,胃粘膜の表面は円柱上皮細胞で覆われています。この細
胞は表層粘液細胞とも呼ばれ,粘液を分泌することによって胃酸(塩酸)から胃壁
を守っています。
正常な胃では,食物が入ってくるとその圧刺激によって胃壁の平滑筋が弛緩し,胃
の容積が拡張します。これを適応性弛緩と呼びます。
【胃の構造】 食道
胃底
噴門
胃切痕
幽門
小彎
十二指腸
大彎
粘膜 筋層 漿膜
胃小窩
(胃液を分泌)
胃体
胃 液
胃の主細胞が分泌するペプシノーゲン,壁細胞が分泌する胃酸(塩酸),そして副
細胞が分泌する粘液の 3 種類で構成されています。
ペプシノーゲンは蛋白質分解酵素であるペプシンとなり,胃酸はこのペプシンの変
化を促進します。また,粘液は胃酸から胃を守る作用をもっています。
ピーエッチ
胃液は 1 日に 1.5~2.5 リットル分泌され,その pH*は約 1.5 と強い酸性となってい
ます。これによって内容物が腐敗や発酵を起こさないようにする役目も果たしてい
ます。
胃の働き
食道から送られてきた内容物は,胃の運動によって胃液と混和され,かゆ状となっ
て小腸に送り出されます。
この間,内容物は数時間にわたって胃内に滞留することになりますが,滞留時間
* pH
水素イオン指数を意味する記号で,ドイツ語読みでペーハーとも発音されます。溶液の酸性あるい
はアルカリ性の程度を示すものです。pH=7 が中性,pH<7 が酸性,pH>7 がアルカリ性です。
第1章 人体の構造と機能 5
内
臓
器
官
第2章 医薬品に関する基本的な知識
1
医
薬
品
と
は
?
1 医薬品とは?
A
医薬品と医薬部外品
1 医薬品の定義
一般には,病気の治療や予防のために用いられる薬品を医薬品と呼んでいますが,
薬事法による定義では次表のように,厳密なものです。
【医薬品の定義:薬事法第 2 条】
日本薬局方に収められている物
人又は動物の疾病の診断,治療又は予防に使用されることが目的とされている物
であって,機械器具,歯科材料,医療用品及び衛生用品(以下「機械器具等」と
いう)でないもの(医薬部外品〔☞ p.48〕を除く)
人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であ
って,機械器具等でないもの(医薬部外品及び化粧品〔☞ p.206〕を除く)
にほんやっきょくほう
しかし,結局のところ,日本薬局方*(以下「日局」という)に掲載されているも
ののうちで,人の疾病の診断,治療または予防に用いられるものが医薬品,というこ
とです。
2 医療用医薬品の定義
一般に「医師あるいは歯科医師によって使用され又はこれらの者の処方せん若しく
は指示によって使用されることを目的として供給される医薬品」を医療用医薬品と
しています。つまり,病院や診療所,歯科診療所で使っている医薬品と,医師や歯
科医師から処方せんの交付を受け,薬局で受け取ることのできる医薬品が医療用医
* 日本薬局方
薬事法の規定に基づいて,厚生労働大臣が医薬品の性状および品質の適正を図るため,薬事・食品
衛生審議会の意見を聴いて,保健医療上重要な医薬品(有効性および安全性に優れ,医療上の必要性
が高く,国内外で広く使用されているもの)について,必要な規格・基準および標準的試験法等を定
めたものです。ここに収載されている医薬品の中には,一般用医薬品として販売されている,または
一般用医薬品のなかに配合されているものも少なくありません。
46
第2章 医薬品に関する基本的な知識
薬品ということです。
医療用医薬品の効能効果の表現は,通常は診断疾患名(例えば,胃炎,胃・十二指
腸潰瘍など)で示されています。
3 一般用医薬品の定義
一言でいえば「医療用医薬品として取扱われる医薬品以外の医薬品,つまり処方せ
んがなくても薬局やドラッグストアで買える医薬品」ですが,薬事法では「医薬品
のうち,その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって,
薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用さ
れることが目的とされているもの」と定義されています。一般用医薬品は,OTC
医薬品 *とも呼ばれます。つまり,軽度な疾病の症状の改善をするための医薬品
で,一般の人が自分の判断で使用するものです。医療用医薬品に比べれば,副作用
などのリスクは相対的に低くなっていますが,副作用が出現した際は,使用を中断
することによる不利益よりも,重大な副作用を回避することが優先され,その兆候
が現れたときには基本的に使用を中止することとされています。
一般用医薬品では,注射などの侵襲性の高い使用方法は用いられません。また,人
体に直接使用されない検査薬においても,検体の採取に身体への直接のリスクを伴
* OTC 医薬品
OTC は,over the counter の略で,店頭販売医薬品あるいは処方せんなしで購入できる医薬品を
意味しています。薬局あるいは薬店のカウンター越しに手渡されることもあるため,このように呼ば
れます。
第2章 医薬品に関する基本的な知識 47
1
医
薬
品
と
は
?
うもの(例えば,血液を検体とするもの)は,一般用医薬品としては認められてい
1
ません。
医
薬
品
と
は
?
医療用医薬品の効能効果の表現は診断疾患名で示されていますが,一般用医薬品で
は,一般の人が判断できる症状(例えば,胃痛,胸やけ,むかつき,もたれ,な
ど)で示されています。
効能効果表現は
医療用医薬品は診断疾患名
一般用医薬品は症状名
4 新一般用医薬品
既存の一般用医薬品と有効成分,分量,用法用量,効能効果等が明らかに異なる一
般用医薬品のことで,スイッチOTCとダイレクトOTCの2つがあります。一般用医
薬品の分類については p.208 を参照してください。
既存の医薬品と明らかに異なる有効成分が配合されたものがダイレクト OTC で,
医療用医薬品において使用されていた有効成分を一般用医薬品において初めて配合
したものがスイッチ OTC です。
新一般用医薬品は,承認後の一定期間は第一類医薬品に分類されますが,その間の
副作用の発生や適正使用の状況等に関する情報を収集・評価した結果に基づいて,
第二類医薬品または第三類医薬品に再度分類されることがあります。
5 医薬部外品
薬事法では,「吐き気その他の不快感又は口臭若しくは体臭の防止,あせもやただ
れ等の防止,脱毛の防止や育毛又は除毛,の目的のために使用される物であって機
械器具等でないもの。人又は動物の保健のためにする,ねずみ,はえ,蚊,のみそ
の他これらに類する生物の防除のために使用される物であって機械器具等でないも
の」を医薬部外品として規定しています。ただし,医薬部外品はその効能効果があ
らかじめ定められた範囲内であって,人体に対する作用が緩和であることを要件と
して,医薬品的な効能効果を表示・標榜することが認められています。
この医薬部外品のなかには,ビタミン剤,健胃薬,整腸薬など,飲用するもの(内
服剤)もあります。
医薬部外品を製造販売する場合には,製造販売業の許可が必要であり,品目ごとに
承認を得なくてはなりません。なお,販売等は医薬品のような販売業の許可は必要
なく,一般小売店において販売等することができます。
48
第2章 医薬品に関する基本的な知識
プラス
α
「医薬部外品」てどんなもの?
左記の定義では今一つはっきりしません。そこで,実際の商品で見てみましょう。
吐き気や胃もたれには液キャベコーワ A(興和)
,オーラルケア用品ではモンダミン
(アース製薬)やリステリン(ジョンソン・エンド・ジョンソン),体臭防止の 8×4
(花王)や Ban(ライオン),いわゆるベビーパウダー(和光堂,ピジョン,ジョンソ
ン・エンド・ジョンソンなど),各種の育毛剤や育毛トニック〔ただし,リアップ
(大正製薬)は第一類医薬品で,カロヤンアポジカ Σ(第一三共)は第二類医薬品で
す〕,家庭用殺虫剤のキンチョール(金鳥)やアースノーマット(アース製薬),ビタ
ミン剤のキューピーコーワゴールド A(興和)やチオビタドリンク(大鵬薬品),健胃
薬のエビオス錠(アサヒ)や新タカジア錠(第一三共),わかもと整腸薬(わかもと
製薬)や新ビオフェルミン S 錠(武田薬品)などが医薬部外品です。
B
医薬品の効果
医薬品の多くは,人体に取り込まれて作用し,効果を発現します。しかし,医薬品
といえども人体にとっては異物(外来物)であることに変わりありません。また,
医薬品が人体に及ぼす作用は複雑かつ多岐にわたるため,そのすべてが解明されて
いるわけではありません。したがって,医薬品は必ずしも期待される有益な効果
(薬効)だけでなく,好ましくない反応(副作用)を生じることもあるのです。
さらさ
殺虫剤(☞ p.191)などの人体に対して使用されない医薬品のなかには,誤って曝
されれば健康を害するおそれがあるものもあります。また,検査薬は検査結果につ
いて正しい解釈や判断がなされなければ,適切な治療を受ける機会を失うおそれが
あり,結果として人の健康に影響を与えるものと考えられます。
医薬品は,購入者に対して効能効果,用法用量,副作用等の必要な情報が適切に伝
達されることによって,初めて適切に使用することができ,その役割を十分に発揮
できるものなのです。
医薬品も人体には異物
副作用を生じることもある
C
医薬品の品質と安全性
医薬品は,人の生命や健康に密接に関連しているので,当然,高い水準でかつ均一
第2章 医薬品に関する基本的な知識 49
1
医
薬
品
と
は
?
な品質が保証されていなければなりんせん。
1
したがって,医薬品は市販後にも医学・薬学等の新たな知見や使用成績などに基づ
医
薬
品
と
は
?
いて,その有効性と安全性などの確認が行われ,それらの結果を踏まえてリスク区分
(☞ p.208)の見直しや,承認基準の見直し等が行われています。
医薬品の品質については,本章のp.76にも記載がありますので,参照してください。
頻出過去問 チェック!
□1
医薬品とは,日本薬局方に収められている物である。
□2
一般用医薬品は,通常,重大な副作用を回避することよりも,その使用を中断す
ることによる不利益を回避することが優先される。
□3
一般用医薬品の用法として,それを使用する一般の生活者による自己注射が認
められているものがある。
□4
一般用医薬品の効能効果の表現に関しては,一般の生活者が判断できる症状で
記載されている。
□5
人体に直接使用されない医薬品については,使用する人の誤解や認識不足によ
り使い方を誤っても有害事象につながることはない。
□6
新一般用医薬品は,その承認を受けてから薬事法施行規則に定める期間は,第一
類医薬品に分類される。
□7
医薬部外品を製造しようとする場合は,原則として品目ごとの承認を得る必要
がある。
□8
□9
医薬部外品の販売を行うには,薬局または店舗販売業の許可が必要である。
医薬品は,多くの場合,人体に取り込まれて作用し,効果を発現させるものであ
るが,本来は,人体にとって異物(外来物)である。
□ 10 医薬品が人体に及ぼす作用は,そのすべてが解明されているため,十分注意して
適正に使われれば,人の健康を害することはない。
□ 11 医薬品は,その効能効果,用法用量,副作用等,必要な情報が適切に伝達される
ことを通じて,適切に使用され,初めてその役割を十分に発揮するものである。
解答
1○薬事法による医薬品の定義である。2×使用を中断することによる不利益よりも,
重大な副作用を回避することが優先される。3×一般用医薬品では,侵襲性の高い注
射等の使用方法は用いられない。4○
は一般小売店でできる。9○
5×つながることがある。6○
8×販売
10×すべてが解明されているわけではなく,好ましく
ない反応を生じることもある。11○
50
7○
第2章 医薬品に関する基本的な知識
第2章 医薬品に関する基本的な知識
2 薬の働く仕組み
A
体内での薬の吸収と代謝・排泄
医薬品の作用には,全身作用と局所作用の 2 つがあります。
全身作用は,主に薬の内服(飲み薬)によって有効成分が消化管で吸収され,循環
血液によって全身に運ばれて効果をもたらすものです。したがって,効果が現れる
までには少々時間がかかります。
局所作用は,医薬品を局所に適応(塗り薬や貼り薬など)するもので,効果も局所
に限定されるものがほとんどです。ただし,全身作用に比べて効果の発現が比較的
早いというメリットがあります。
1 薬の吸収
内服による消化管吸収
上述したように,内服薬(いわゆる飲み薬)は,有効成分が消化管(主として小
腸)から吸収されて循環血液中に移行し,全身作用を現すものです。
一般に,消化管からの吸収は,消化管が積極的に医薬品の成分を取り込むのではな
く,濃度の濃い方から薄い方へと拡散していくことによって消化管に浸み込んでい
く現象です。
吸収量や吸収速度は,消化管の内容物や他の医薬品の作用によって影響を受けやす
くなっています。
ざ ざ い
坐剤による粘膜吸収
坐剤は,肛門から挿入し直腸内で溶ける薬剤です(腟内に入れるものも坐剤といい
ます)。
直腸内壁の粘膜は薄いので,薬の有効成分が粘膜下に存在する豊富な静脈に容易に
入るため,全身作用は内服よりも速やかに現れます。また,これらの部位を通って
いる静脈は肝臓を経由しないので,循環血液中に入った成分は,肝臓で代謝を受け
ることなく全身へ運ばれます。
皮膚吸収
塗り薬や貼り薬などの皮膚に適応する医薬品は,適応部位に対する局所的な効果を
目的とするものがほとんどです。
第2章 医薬品に関する基本的な知識 51
2
薬
の
働
く
仕
組
み
第3章 医薬品とその作用
1
精
神
・
神
経
に
作
用
す
る
薬
剤
1 精神・神経に作用する薬剤
A
かぜ薬
1 かぜとインフルエンザは異なる疾患
か
ぜ
かぜは,多種多様な病原体によって生じる上気道のカタル性炎症(粘膜表層の炎
症)の総称です。したがって,医学的にはかぜ症候群と呼ばれます。
原因のほとんどはウイルスの感染ですが,細菌の感染や,まれに冷気や乾燥,アレ
ルギーのような非感染性の要因による場合もあります。
症状は,くしゃみ,鼻水(鼻汁),鼻づまり,咽頭の発赤,発熱,頭痛,関節痛な
どですが,ほとんどは数日~1 週間程度で自然寛解します。
これらのかぜの症状は,喘息,アレルギー性鼻炎,リウマチ熱,関節リウマチ,肺
炎などと症状が類似しているので注意が必要です。
おしん
おうと
発熱や頭痛を伴って,悪心 ・嘔吐 ,下痢などの消化器症状が現れることを一般に
「お腹にくるかぜ」などと呼びますが,これらはかぜの症状でなく,ウイルス性胃
腸炎の症状です。
インフルエンザ
インフルエンザウイルスの増殖によって,発熱,鼻炎,咽頭炎,嘔吐,下痢などの
症状を来すもので,流行性感冒のことです。かぜとは区別されています。
2 かぜ薬の働き
かぜは,生体にもともと備わっている免疫機構によってウイルスが排除されれば自
然に治癒します。したがって治療の基本は,安静にして休養し,栄養と水分を十分
と
に摂ることです。
かぜ薬(総合感冒薬とも呼ばれます)は,咳や発熱などのかぜの諸症状の緩和を目
的として用いる医薬品で,ウイルスの増殖を抑制したり,これらを取り除くもので
はありません。
かぜで,発熱,咳,鼻水など症状がはっきりしている場合には,症状の緩和を図る
ために,総合感冒薬ではなく,それぞれ解熱鎮痛薬,鎮咳去痰薬,鼻炎用内服薬な
88
第3章 医薬品とその作用
どを用いるべきです。
なお,抗体産生は体温が高いと促進されます。発熱はこの目的のための正常な反応
であることが多いので,解熱薬はむやみに用いるべきではありません。
3 かぜ薬の主な配合成分
かぜ薬には,解熱鎮痛成分(☞ p.93),くしゃみや鼻汁を抑える抗ヒスタミン成分
(☞ p.97)や抗コリン成分(☞ p.103),鼻粘膜充血を和らげ気管・気管支を広げる
アドレナリン作動成分(☞ p.158),咳を抑える成分(鎮咳成分☞ p.108),痰の切れ
は
を良くする成分(去痰成分☞ p.109),炎症による腫れを和らげる抗炎症成分,漢方
処方製剤,鎮静成分,胃酸を中和する制酸成分,などの多くの成分が配合されていま
す。それぞれの詳細は,当該項目のページで説明しますが,ここでは抗炎症成分と漢
方処方成分について解説しておきましょう。
抗炎症成分
は
文字どおり,鼻粘膜や喉の炎症による腫れを和らげることを目的として配合される
成分です。
1.塩化リゾチーム
のど
炎症を来した鼻粘膜や喉の組織を修復するほか,痰の粘りけを弱めたり,気道粘膜
の線毛運動を促進して痰の排出を容易にする作用をもっています。
まれにアナフィラキシーショック(☞ p.64),皮膚粘膜眼症候群(☞ p.64),中毒
第3章 医薬品とその作用 89
1
精
神
・
神
経
に
作
用
す
る
薬
剤
性表皮壊死症(☞ p.65)などの重篤な副作用を来すことがあります。
1
精
神
・
神
経
に
作
用
す
る
薬
剤
鶏卵の卵白から抽出した蛋白質であるため,鶏卵アレルギーがある人には使用を避
ける必要があります。
2.セミアルカリプロティナーゼ,ブロメライン
セミアルカリプロティナーゼは,体内で産生される炎症物質(起炎性ポリペプタイ
ド)を分解する作用をもっています。また,炎症浸出物を分解して浸出物の排出を
促進し,炎症による腫れを和らげると考えられているほか,痰の粘りけを弱めて痰
を切れやすくする働きも有するとされます。
ブロメラインも消炎作用を有する蛋白質分解酵素で,作用等はセミアルカリプロテ
ィナーゼと同じです。
セミアルカリプロティナーゼとブロメラインは,血液凝固異常(出血傾向)の症状
がある人では,出血傾向を悪化させるおそれがあるので,使用に際しては医師また
は薬剤師に相談するべきです。
3.トラネキサム酸
体内での炎症物質の産生を抑えることで炎症の発生を抑え,腫れを和らげる抗炎症
成分です。
止血作用を有するので,現に血栓のある人(脳血栓,心筋梗塞,血栓性静脈炎な
ど)や,血栓を起こすおそれのある人が使用すると,血栓が分解されにくくなる可
能性があるのため,医師または薬剤師に相談するべきです。
4.グリチルリチン酸二カリウム
グリチルリチン酸の二カリウム塩のことで,生薬のカンゾウ(甘草)にも含まれる
カリウム塩です。
比較的緩和な抗炎症作用を有するほか,アレルギーの原因成分の放出を抑える作用
もあります。眼粘膜,鼻粘膜,口腔粘膜,歯周組織,皮膚の炎症を和らげることを
目的に配合されます。
グリチルリチン酸を過剰摂取すると,偽アルドステロン症*を生じることがあるの
で注意が必要です。
* 偽アルドステロン症
高齢者や浮腫のある人,あるいは心臓病や腎臓病などの診断を受けた人は,グリチルリチン酸の過
剰摂取によってアルドステロン過剰症状(高血圧,低カリウム血症など)を生じることがあります。
したがって,グリチルリチン酸の 1 日最大服用量が 40mg 以上となる製品およびカンゾウ(原生薬換
算)の 1 日最大服用量が 1g 以上となる製品については,医師または薬剤師に相談するなど,その適否
を慎重に考慮する必要があります。なお,医薬品ではグリチルリチン酸の1日摂取量が200mg を超え
ないように用量が定められています。
90
第3章 医薬品とその作用
塩化リゾチームは,鶏卵アレルギーのヒトには避ける
グリチルリチン酸の過剰摂取は,偽アルドステロン症を来す
漢方処方製剤
かぜ薬には,以下に挙げた漢方処方製剤が用いられます。ただし,すべて構成生薬
にカンゾウを含むため,上述した偽アルドステロン症に注意が必要です。また,葛根
湯,麻黄湯,小青竜湯にはマオウが含まれるため,心臓病,高血圧,糖尿病,甲状腺
機能障害の診断を受けた人には,使用を控えるべきでしょう。
かっこんとう
1.葛根湯
かぜのひき始めの頭痛,肩こり,筋肉痛,手足や肩の痛みなどの諸症状に適すると
されます。ただし,虚弱な人や胃腸の弱い人,発汗傾向の著しい人では,悪心や胃
部不快感等の副作用が現れやすいなどで不向きとされています。
まれに副作用として重篤な肝機能障害を生じることがあります。構成生薬は,カッ
コン,マオウ,ケイヒ,シャクヤク,カンゾウ,タイソウ,ショウキョウです。
まおうとう
2.麻黄湯
さむけ
かぜのひき始めの,寒気,発熱,頭痛,体のふしぶしの痛み,などに適するとされ
ます。ただし,胃腸の弱い人や発汗傾向の著しい人では,悪心,胃部不快感,発汗
過多,全身脱力感等の副作用が現れやすいなど,不向きとされています。
構成生薬は,マオウ,ケイヒ,キョウニン,カンゾウです。
しょうさいことう
3.小柴胡湯
かぜをひき始めてから数日が経過し,症状が少し長引いている状態での,疲労感,
食欲不振,嘔気(吐き気)などに適するとされます。また,胃腸虚弱や胃炎のよう
な消化器症状にも用いられますが,体の虚弱な人には不向きとされています。
まれに重篤な副作用として間質性肺炎や肝機能障害を生じることがあります。構成
生薬は,サイコ,オウゴン,ハンゲ,ニンジン,カンゾウ,ショウキョウ,タイソ
ウです。
小柴胡湯による間質性肺炎については,1991 年 4 月以降,使用上の注意に記載さ
れていましたが,その後,小柴胡湯とインターフェロン製剤の併用例による間質性
肺炎が報告されたことから,1994 年 1 月にはインターフェロン製剤との併用を禁
忌とする使用上の注意の改訂がなされました。しかし,それ以降も慢性肝炎患者が
小柴胡湯を使用して間質性肺炎が発症し,死亡を含む重篤な転帰をとった症例もあ
ったことから,1996 年 3 月に,厚生省(現在の厚生労働省)から関係製薬企業に
対して緊急安全性情報(☞ p.225)の配布が指示されました。
さいこけいしとう
4.柴胡桂枝湯
かぜのひき始めから数日を経過した,微熱,寒気,頭痛,嘔気などのかぜの後期の
第3章 医薬品とその作用 91
1
精
神
・
神
経
に
作
用
す
る
薬
剤
第4章 薬事関係法規と制度
2
医
薬
品
の
取
扱
い
2 医薬品の取扱い
A
医薬品の範囲
1 医薬品の範囲に関する基準
一般の生活者からみると,経口的に摂取される物が医薬品に該当するか否かが,必
ずしも明確でない場合があります。このため,昭和46年(1971年)に厚生省薬務局
長が,無承認無許可医薬品の指導取締りの一環として,医薬品の範囲に関する基準
(「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」の別紙)を通知しました(次表を参照)。
【医薬品に該当する要素】
もっぱ
成分本質(原材料)が,専ら医薬品として使用される成分本質を含むこと(食品添加物
と認められる場合を除く)
医薬品的な効能効果が標榜又は暗示されていること(製品表示や添付文書によるほか,
チラシ,パンフレット,刊行物,インターネット等の広告宣伝物等による場合も含む)
アンプル剤や舌下錠,口腔内噴霧剤等,医薬品的な形状であること
服用時期,服用間隔,服用量等の医薬品的な用法用量の記載があること(調理のために
使用方法,使用量等を定めている場合を除く)
2 医薬品の販売
おさ
販売,授与,製造,輸入,貯蔵,陳列してはならない医薬品を,「日本薬局方に収
められている医薬品であって,その性状又は品質が日本薬局方で定める基準に適合
しないもの。その全部又は一部が不潔な物質又は変質若しくは変敗した物質から成
っている医薬品。異物が混入し,又は付着している医薬品。病原微生物その他疾病
の原因となるものにより汚染され,又は汚染されているおそれがある医薬品」と規
定しています。
また,「医薬品は,その全部若しくは一部が有毒若しくは有害な物質からなってい
るためにその医薬品を保健衛生上危険なものにするおそれがある物とともに,又は
これと同様のおそれがある容器若しくは被包(内包を含む)に収められていてはな
らず,また,医薬品の容器又は被包は,その医薬品の使用方法を誤らせやすいもの
204
第4章 薬事関係法規と制度
であってはならない」とし,容器等に関しても規定しています。
3 医薬品と食品との違い
2
食 品
「食品とは,医薬品及び医薬部外品以外のすべての飲食物をいう」と食品安全基本
法および食品衛生法で定められています。
ただし,外形上,食品として販売等されている製品であっても,その成分や効能効
果の標榜内容が医薬品とみなされる場合には,製造業の許可等を受けずに製造され
た医薬品(無承認無許可医薬品)として法律に基づく取締りの対象となります。
とくべつようとしょくひん
特別用途食品
乳児,幼児,妊産婦,高齢者または病者の発育または健康の保持,あるいは回復の
ために用いることが適当であることを医学的・栄養学的表現で記載し,用途を限定
した食品で,しかも健康増進法に基づいてその表示が許可された食品です。
消費者庁(かつては厚生労働省)の許可マークが付けられます。
とくていほけんようしょくひん
特定保健用食品
身体の生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含む食品であり,健康増進
し
むね
法に基づいて特定の保健の用途に資する旨の表示が許可されたものです。
ただし,現行の特定保健用食品の許可の際に必要とされる有効性の科学的根拠のレ
ベルに達しないものの,一定の有効性が確認されるものについては,限定的な科学
的根拠である旨の表示をすることを条件として許可されます(条件付き特定保健用
食品)。
消費者庁の許可マークが付けられます。
【食品の許可マーク】
<特別用途食品>
<特定保健用食品>
<条件付き特定保健用食品>
えいようきのうしょくひん
栄養機能食品
特定の栄養分を補うことを目的とした食品です。
1 日当たりの摂取目安量に含まれる栄養成分量が,厚生労働省の定める上・下限値
の規格基準に適合して含有されている場合には,法律に基づいてその栄養成分の機
能の表示を行うことができます。
第4章 薬事関係法規と制度 205
医
薬
品
の
取
扱
い
栄養成分の表示に関しては,厚生労働大臣の許可は要しません。
けんこうしょくひん
健康食品
2
「健康食品」とは,法令で定義された用語ではなく,単に一般的に用いられている
医
薬
品
の
取
扱
い
に過ぎません。栄養補助食品,サプリメント,ダイエット食品などと呼ばれること
もあります。要するに一般の食品と何ら変わりません。
健康食品のなかには,特定の保健の用途に適するなどの効果が表示・標榜されてい
る場合や,製品中に医薬品成分が検出される場合は,いずれも無承認無許可医薬品
として薬事法に基づく取締りの対象となります。
食品とは,医薬品および医薬部外品以外のすべての飲食物をいう
特定保健用食品は健康増進法に基づいて表示が許可される
健康食品は法令で定義された用語ではない
4 医薬品と化粧品との違い
化粧品とは?
化粧品は,「人の身体を清潔にし,美化し,魅力を増し,容貌を変え,又は皮膚若し
とさつ
くは毛髪を健やかに保つために,身体に塗擦,散布その他これらに類似する方法で使
用されることが目的とされている物で,人体に対する作用が緩和なもの」と定義さ
れており,医薬品的な効能効果を表示・標榜することは一切認められていません。
化粧品の製造・販売
化粧品を製造販売する場合には,製造販売業の許可が必要ですが,医薬品のように
品目ごとの承認を得る必要はありません。
また,化粧品を販売する場合には,販売業の許可は必要なく,一般小売店で販売す
ることができます。
薬局や医薬品の販売業において,医薬品と併せて,食品(保健機能食品を含む),
医薬部外品,化粧品等の販売が行われる場合には,医薬品と他の物品を区別して貯
蔵または陳列することが求められています。
化粧品は,医薬品的な効能効果を表示・標榜することは一切認め
られない
化粧品の販売には,販売業の許可は必要ない
医薬品,食品(保健機能食品を含む),医薬部外品,化粧品等を
販売する場合は,医薬品と他の物品を区別して陳列する
206
第4章 薬事関係法規と制度
B
毒薬,劇薬,生物由来製品
2
1 毒薬,劇薬
定 義
毒薬および劇薬とは,「毒性(劇性)が強いものとして厚生労働大臣が薬事・食品
衛生審議会の意見を聴いて指定する医薬品」です。
一般用医薬品で毒薬または劇薬に該当するものは,一部の殺虫剤等に限られていま
す。
管 理
業務上,毒薬および劇薬を取り扱う者は,それらを他の物と区別して貯蔵,陳列し
�
�
ほどこ
なければならず,特に毒薬を貯蔵,陳列する場所については,かぎを施さなければ
ならないとされています。
毒薬および劇薬は,14 歳未満の者その他安全な取扱いに不安のある者に交付する
ことは禁止されています。
毒薬または劇薬を一般の生活者に対して販売または譲渡する際には,「当該医薬品
を譲り受ける者から,品名,数量,使用目的,譲渡年月日,譲受人の氏名,住所及
び職業が記入され,署名又は記名押印された書類の交付を受けなければならない」
と規定しています。
毒薬または劇薬については,店舗管理者が薬剤師である店舗販売業者または営業所
管理者が薬剤師である卸売販売業者以外の医薬品の販売業者は,開封して,販売等
してはならないとされています。
表 示
毒薬を収める直接の容器または被包には,黒地に白枠をとって,当該医薬品の品名
および「毒」の文字が白字で記載されていなければなりません。
劇薬を収める直接の容器または被包には,白地に赤枠をとって,当該医薬品の品名
および「劇」の文字が赤字で記載されていなければなりません。
【毒薬,劇薬のマーク例】
毒薬
劇薬
第4章 薬事関係法規と制度 207
医
薬
品
の
取
扱
い
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