地球惑星科学セミナー(2013/5/7)

2013年5月7日(火) 地球惑星科学セミナー,竹下 徹
「岩石の履歴書を作る: 岩石の温度ー圧力ー時間ー変形履歴」
付加体の形成,しかし,堆積物と玄武岩(海洋地殻)はすべて
はぎ取られて大陸プレートに付加するわけではなく,一部は沈み込んで
変成作用を受ける。
このスキームが理解出来ないと,後の話は一切理解出来ないので,
理解出来ない人はここで質問して下さい。
B 平行移動する境界
トランスフォーム断層: もともと大陸の分裂時に形成されていた
割れ目が,後の海洋底拡大の際に横ずれ断層となったもの。
トランスフォーム断層に沿う地震は,海嶺と海嶺の間だけで生じる。
C 収束する境界: 中央海嶺で形成された海洋プレートは,大陸
や島弧の下に沈み込んで行く。沈み込む所には,海溝が形成
される。海洋プレートの殆どは上部マントルに沈み込んでいくが,
その上部の一部(特に玄武岩と堆積物)は,海溝部ではぎとら
れて,付加体として大陸あるいは島弧に付加する。
海洋プレート層序
1 km以上,陸源砕屑物(砂岩,泥岩など)
500 m以下,遠洋性堆積物(石灰岩,チャート等)
1-2 km,玄武岩(枕状溶岩)
海洋地殻
5-6 km, 斑れい岩
ハルツバーガイト(融け残りマントル)
上部マントル
砕屑岩(さいせつがん,例えば砂岩)
はどのように形成されたのか?
その形成過程から話さないと
多くの人は理解出来ない。
海洋プレートの沈み込み帯: 島弧ー海溝系
(1)風化・侵食・運搬作用の過程で大陸を構成している
既存の岩石が砕かれ,ばらばらになり,細かくなっていく。
黒雲母
斜長石
石英
花崗岩: 粒が大きい
1 mm
付加体の砂岩(岐阜県犬山): 1 mm
粒が小さくて角ばっている。
ジュラ紀付加体の砂岩
石英
斜長石
1 mm
細粒砂岩,愛知県犬山市
1 mm
中粒砂岩,愛媛県柳谷村
砂の定義: 1/16 mm<粒の直径<2 mm
砕屑物(砂)が堆積した地層が
どのように石になっていくのか(続成作用)?
(1)最初,堆積した時は砕屑物は水を大量に含んでいてヘドロ状態
水
地層
上載荷重による圧密を受け
地層から水が絞り出される
(脱水作用)。
(2)その後,砕屑物が糊付けされて岩石となる(セメント化作用)。
砂粒
泥質基質
(マトリックス)
泥質基質(マトリックス)に
鉱物(石英,方解石など)が成長
し,砕屑粒子を糊付けする作用。
Expedition 338: NanTroSEIZE Stage 3
Plate Boundary Deep Riser - 2
Co-chief Scientists:
Brandon Dugan
Greg Moore
Rice University
University of Hawaii
Michi Strasser
Kyu Kanagawa
Swiss Federal Institute (ETH) Chiba University
EPMs:
Lena Maeda
CDEX/JAMSTEC
Sean Toczko
CDEX/JAMSTEC
Nankai Trough: Frequent Great
Earthquakes and Tsunami
1300 years of history shows that a major earthquake and
tsunami has occurred on average every 90 - 120 years with
substantial shallow slip offshore
Kii/Kumano
After Hori et al., 2004 and Ishibashi & Satake, 1998
1944 eastern Nankai: up to 9 meter tsunami runup with >
5000 casualties
NanTroSEIZE: The Nankai Trough Seismogenic Zone
Experiment
A multi-stage effort to
sample and instrument the
plate boundary fault zone across
the up-dip end of locking and rupture
Expedition 338
• 3 October 2012 - 13 January 2013
• Riser drilling at C0002, 856-3600 mbsf
Stress Regimes from Breakouts
extensional
Inner prism:
locked plate
interface,
seismogenic zone
strike-slip & compressional, time-varying?
outer prism:
quasi-aseismic
zone?
• Horizontal principal stress axis change is sharp, lies between Sites C0001 and C0002
(less than 10 km gap)
• Consistent with change in relative magnitude of principal stresses
• Does not require a rotation of principal stress orientations
• What will happen to stress orientation & breakouts as we drill deeper?
Site C0002: Deep
plate boundary
~ 6 casing strings required to
reach TD of ~7000 m
Final configuration to include
long-term observatory:
o pore fluid pressure
o BB seis + short-period
array
o strainmeter
o tiltmeter
o temperature
CHALLENGES:
- Kuroshio current
- Budget and time
- Temperature at depth
Expedition 338 Science Party
Group A
Group B
Co-Chief
G. Moore, M. Strasser, B. Dugan B. Dugan, K. Kanagawa, G. Moore
Structure
T. Takeshita
Structure/Sed
J. Geersen,
Structure/PP
I. Song
K. Oohashi
PP/Downhole/Hydro
A. Huepers
H. Kitajima
Sedimentology
K. Pickering, A. Schleicher, R. K. Milliken, K. Heirman, S.
Mishra
Ramirez
Logging-Structure
S. Webb
D. Wilson, H-Y. Wu
Logging-PP
K. Olcott
R. Skarbek
Logging-Sed
M-J. Jurado Rodriguez
J. Tudge
Gas/PW Chem
S. Hammerschmidt, H. Rashid
T. Toki, H. Masuda
O. Fabbri
A. Yamaguchi
S. Yehua, L. Esteban
Paleo
K. Kameo, I. Motoyama (onshore)
P-Mag
T. Kanamatsu (on call)
プレート収束境界: 島弧ー海溝系はその典型
付加体
海洋地殻=玄武岩・
はんれい岩
札幌
海溝
返り
行き
東京地底
低温高圧型の変成岩が出来る所
変成作用と変成岩
A 変成作用:
岩石が高温・高圧条件に長時間おかれると,岩石を構成していた既存
の鉱物は分解して新しい条件で安定な鉱物が再結晶する。この再結晶
作用を変成作用と呼ぶ。
広域変成岩:海洋プレートの沈み込みや大陸の衝突により,岩石が広
域的に変形・変成(広域変成作用)を受けて形成される。広域変成帯は,
造山帯と同義に用いて良い。広域変成作用により結晶片岩や片麻岩等
の鉱物が一定方向に並んでいる岩石が形成される。
四国中央部三波川変成岩(典型的な高圧型変成岩)の地質図
CPO Interpretation
鉱物の定義:
(1)一定の化学組成
(2)一定の結晶構造
を持つ。非晶質の場合(例えばガラス)
は鉱物と呼ばない。
C =
C
(石墨) (ダイヤモンド)
x 10 [kb]
NaAlSi3O8=NaAlSi2O6 + SiO2
(曹長石, (ひすい輝石) (石英)
アルバイト)
Al2SiO5鉱物:
らん晶石(密度=3.59)
珪線石(密度=3.25)
紅柱石(密度=3.14)
鉱物の相転移と変成条件
傾き=1/地温勾配
地下の圧力(計算方法)
北海道大学
地表
岩石柱にかかる力の釣り合い
1m
1m
岩石柱
岩石柱の堆積=1x1xh
岩石柱の質量=岩石の密度xh
岩石柱にかかる重力=重力加速度x岩石の密度xh
=岩石荷重圧(圧力)
圧力=9.8 [m/s2]x2700 [kg/m3]x104 [m]
= 2.646x108 [kg/ms2]=2.646x102 [MPa]=2.646 [kb]
[kg/ms2]=[kgm/s2 /m2]=[N/m2]=[Pa]圧力の基本単位
hm
重力
Newtonの運動方程式
F = m x 
[N] = [kgm/s2]
105 Pa=1000 hPa=1 bar=1気圧
岩石荷重圧 x 面積
h = 104 m
の場合の
圧力は,
約3 kb。
地球内部の温度構造
1000
oC
温度
5000
1000 oC
oC
リソスフェア=プレート
プレート: 熱は
伝導で伝わる。
100 km
アセノスフェア
マントル
100 km
深さ
境界条件
2900 km
核
6400 km
アセノスフェア:
熱は対流で伝わる。
温度構造の時間発展(1次元)の計算
dT(z, t)/dt =*d2T/dz2 + UdT/dz + A
温度変化
熱伝導項
熱移流項
放射性発熱項
T, 温度; z, 深さ; t, 時間; U, 岩石の上昇速度; A, 放射性発熱; , 熱拡散率
T(温度)
d2T/dz2は傾き( dT/dz )
の変化率=曲率
dT/dz
z(深さ)
平衡地温分布
プレート
アセノスフェア
=U x dT/dz(地温勾配)

U
沈み込み帯の温度構造(東北日本の東西断面の例)
地殻熱流量=
岩石の熱伝導率x地温勾配
ウエッジマントル中の
コーナー流れにより
背弧側から高温物質
が上昇し,火山下の
岩石を融解させる。
定常状態であれば,
沈み込み帯の温度は一定
の地温勾配を持つ。
地下の温度=深さx地温勾配
地温勾配:
単位深さ
あたりの
温度増加。
例えば,
地温勾配=
30 oC/km
プレート収束境界: 島弧ー海溝系はその典型
付加体
海洋地殻=玄武岩・
はんれい岩
札幌
海溝
返り
行き
東京地底
低温高圧型の変成岩が出来る所
岩石の圧力(Pressure)ー温度(Temperature)ー時間(time) 履歴
例えば,以下は時計廻りP-T-t履歴(パス)と呼ばれる。
どうやって,各点におけるP, T, tを決めるのか。
圧力(P)=深さ
最高圧力=最大深度
t3年前
沈み込み t2年前
t4年前
のパス
最高温度,
平衡地温
最大深度で達成
t1年前
t5年前 されない時もある。
上昇のパス
海底での
堆積時, t0年前
t0>t1>t2>t3>t4>t5>t6
t6年前
温度(T)
T
変成岩が経験した温度・圧力は
どのようにして求まるか: 熱力学計算
反応の駆動力=反応に伴うギブスの自由エネルギーの変化( G )
A(反応物)=B(生成物), G=GBーGA ここで,GはPおよびT
に依存する。 G=H−TS,T: 温度,H:エンタルピー,
S:エントロピー
G<0 反応は進行, G=0 化学平衡, G>0 反応は生じない。
化学反応に伴うギブスの自由エネルギーの微小変化,dG(全微分)
dG= -SdT + VdP + idni(Gは化学組成にも依存)dG=0, 化学平衡
V:モル体積,P:圧力,i:i化学成分が1モル変化した時のG
の変化量(化学ポテンシャル),dni: i化学成分の微小変化量
最近は分析装置が発達して来て,組織が視やすくなっております.
EPMA測定により得られたヒマラヤ変成岩中のガーネット(Ca, Fe, Mg, Mn)3Al2Si3O12
の化学組成累帯構造(Jessup et al., 2008): ガーネットは常に周囲の鉱物(黒雲母)と
化学平衡を保ちながら成長した.相平衡熱力学を用いて成長時の温度・圧力条件
およびその履歴を推定することが可能(同様の研究を昨年の今山D論で実施)
化学組成のラインプロファイル
岩石の温度ー圧力履歴はどうやって調べるの?
最も有効な手段: 鉱物の化学組成累帯(ゾーニング)構造を調べる。
例えば,以下の例ではアクチノ閃石(薄緑)がNa角閃石(青紫色)に
オーバーグロースされているので,圧力増加時に成長したことがわかる。
放射年代の原理: 放射性元素の壊変
親元素(Parent)=娘元素(Daughter) + 素粒子
例:
40Kが40Arと40Caに崩壊
238Uが206Pbの崩壊,235Uが207Pbに崩壊
dN/dt= -N,
N:残存する親元素の量, -: 壊変定数, t: 年代
dN/N=-dt(変数分離形の微分方程式)
ln N = -t + 積分定数
t = 1/ ln (D*/N + 1), D*:放射壊変によって出来た娘元素の量
閉鎖温度の概念
温度
冷却過程
鉱物中に蓄積される娘元素
: 娘元素
ta時間後
Tc :閉鎖温度
鉱物中の
娘元素の量/親元素の量
Tc
tb時間後
ta
t
tb
経過時間
娘元素は
鉱物中に
蓄積
娘元素は
拡散で
鉱物の
外に移動
SHRIMPによる
ジルコンのU-Pb年代学
(今山ほか, 2012)
原生代の砕屑性コア(Core)と
新生代の2重の変成リム(IrとOr)
が識別出来る(SEM-CL像)。
2重の変成リムには,中新世の
年代を示すものの他に,漸新世の
年代を示すものが今回発見された。
ヒマラヤ山脈を構成する高度変成岩は,
いつどのように形成されて上昇したのか?
地球表層部で最も大規模な
衝突テクトニクス
インド大陸の衝突によるヒマラヤ山脈と幅広い変形帯の形成
Red River
Fault
地震探査より推定されたヒマラヤーチベット造山帯の地下構造
テチス堆積物
STD
高ヒマラヤの変成岩
MCT
低ヒマラヤの変成岩
STD:南チベット正断層
MCT:主中央衝上断層
結論: (1)インドのプレート
はアジア大陸の下に沈み
込んでいる。
(2)高ヒマラヤの変成岩
はインド大陸の中部地殻
からもたらされた。
After fig. 8 of
Beaumont et al.
(2004, JGR)
実際の岩石の流動特性を考慮した数値実験
Beaumont et al.
(2004, JGR)
沈み込み開始から
30 Myまでの変形
の様子。 My=100万年
簡単な変形学(1次元)
変形前
lo
変形後
l
e=(l - lo) / lo e =elongation
=伸びた長さ/元の長さ
=伸びた割合
典型的な歪速度:
100万年に10%伸びる(縮む)
de/dt(歪速度)=0.1/100万年=10-15/s(秒)
*課題レポートで計算
7500万年後にインド
大陸の地殻中部に
チャネル流れが生じ,
大変形した地殻中部
(変成岩)が現在の中
央衝上断層の直上
(赤枠)に突入していく。
return flow
S: 沈み込みポイント
(subduction point)
リターン流れ等によっ
て,岩石はどのように
変形するか(以下に続
くスライド)。
チャネル流れによる岩石の変形
単純剪断(ずれ変形)
変形後
変形前
下図のような流れは,殆どの部分で
上盤側が下盤側に対して相対的に
左に動く流れになるので,左図に示した
ような単純剪断流れになる。
それでは,現実はどうか?
境界条件:
流動する地殻中部は
上下のプレートと完全に固着
上昇(リターン)流れ
速度ベクトル
沈み込み流れ
下盤プレートの速度ベクトル
変形微細構造の対称性をに基づき,天然で生じた変形が
剛体回転のない純粋剪断(pure shear)的変形か
剛体回転を伴う単純剪断(simple shear)的変形なのかを
明らかにすることが出来る。
単純剪断,非対称変形
(スタンフォード学派)
純粋剪断,対称変形
(バークレー学派)
四国中央部三波川変成岩(典型的な高圧型変成岩)の地質図
非対称石英c軸ファブリックパ
ターンで示されるずれのセンス
(上盤の移動方向で示す)。
解析の結果,例外なく上盤が
西に移動するずれセンスを
示していることがわかった。北
部地域の,乱れたずれ方向・
センスについては本講義で解
説しない。
Takeshita and Yagi, 2004,
Geological Society, London,
Special publications, 227, 279-296.
N
Subduction channel
結論: 上盤西ずれの
剪断センスになるはず。
Takeshita and Yagi (2004, Geol. Soc. London, Special publications)
ヒマラヤの高度変成岩中の
温度ー圧力履歴
2009年度の今山君の博士論文
Imayama et al. (2010, 2012)
極東ネパールヒマラヤの変成岩岩石学と放射年代学に基づくテクトニクスの研究
(今山武志, 2010JMG, 2012lithos,竹下研博士論文)
Tamor-Ghunsa section,
アイソグラッド
および試料採取位置図
地質平面概念図
地質断面図
個々の岩石の移動のパスと対応するP-Tパス(ヒマラヤ変成岩)
最終的な
上昇地点
N
S
温度
温度
ヒマラヤ変成岩
の時計廻りP-T履歴
が再現出来た。
圧力
Jamieson et al.
(2004, JGR)
もともと,500 km以上
離れていた岩石が,現在
主衝上断層の所で接合
している。
織り姫と彦星のような話
だね。
高ヒマラヤ変成岩
に属する岩石
低ヒマラヤ変成岩
に属する岩石
最終的に岩石が
上昇して来る所。
まるで掃除機の
吸い口のようだね!
P-T履歴
の接近
各々の変成ゾーンで鉱物組み合わせおよび
鉱物化学組成から推定されたP-T条件
P-T path discontinuity across the MCT:
The lowermost HHCS with a clockwise
P-T path thrust over the LHS,
which caused loading on the LHS.
The juxtaposition of these
two sequences occurred during
the thrusting, and then both
sequences were exhumed together
very rapidly, perhaps resulting in
Isothermal decompression P-T paths.
Imayama, Takeshita and Arita, 2010,
JMG, 28, 527-549.
P-T path by
pseudosection
method
P-T path by
the Gibbs
method