シスコはなぜデパートになりがたるのか?

ネットワークエンジニアが世界を変える③
シスコはなぜデパートになりがたるのか?
---------「なぜ素人の俺にもわかることを、きみたちプロが提案できないんだ?」
アメリカン航空のバイスプレジデントは、シスコシステムズ CEO のジョン・モーグリッジ
を激しく非難した。
「クッシェンドの奴らは、これからはスイッチングハブの時代だ、ネットワークのはしか
らはしまでスイッチを導入しろと言う。いっぽうで君たちは、ネットワークを安定稼動す
るためにはルーターをなるべくたくさん使ったほうがいいと言う。最適なデザインは、ル
ーターとスイッチを適材適所に配置することじゃないのかい?」
* * *
こんな会話があったとか、なかったとか。
1993 年頃の話です。
1984 年にアメリカのサンフランシスコで創業したシスコシステムズは、その後に本社をシ
リコンバレーに移転し、ルーターの専業メーカーとして着実な成長をとげていました。
しかし、当時のシスコは数種類のルーターを販売するだけの小さな会社であり、アメリカ
ン航空のネットワーク更新案件は社運を左右するほどの重要な商談でした。
ちょうど同じ時期、スイッチングハブをいち早く市場に出荷し、飛ぶ鳥を落とす勢いで急
成長していたのがクレッシェンド社でした。クレッシェンドは、スイッチングハブはルー
ターよりも高速で低価格であることをアピールし、シスコの得意客から次々とビジネス機
会をうばっていたため、アメリカン航空の商談でも両者は激しく競合していました。
このとき冒頭のような会話があったかどうか定かではありませんが、シスコの現 CEO であ
るジョン・チェンバースは、アメリカン航空からの要望でクレッシェンド社を買収したこ
とを認めています。
また、これがシスコの歴史上はじめての買収でもあります。
現在のシスコは、ルーター、LAN スイッチ、ワイヤレス LAN、セキュリティ、ユニファイ
ド・コミュニケーション、データセンター基盤製品と、まるで「デパート」のように幅広
い製品ラインナップをそろえており、最近ではサーバーの販売までも始めています。
なぜルーター専業メーカーだったシスコが、買収を繰り返しデパートになる道を選んだの
でしょうか?
それには、IT 業界でよく使われる「ソリューション提案」という言葉の意味を正しく理解
する必要があります。
私の解釈では、ソリューション提案は販売のテクニックではありません。精神論でもあり
ません。
売り上げを最大化するための、実績のある「営業プロセス」です。
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売り手が売りたいものを売りつけようとすると、
顧客が偶然それを必要としていたときだけ商談が成立します。
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従って商談の成功確率は低くなります。
(顧客が必要としていないものを売りつけるのは、営業ではなく詐欺になりますのでご注
意を!)
それに対して、まず顧客の話をよく聴き顧客のビジネスを深く理解したうえで、顧客にと
って役立つものを提案すれば、商談が成功する確率は高くなります。
これがソリューション提案の本質であり、テクニックや精神論ではなく、まず顧客の課題
を理解するという「プロセス」が重要なのです。
しかし、社長がどんなに立派なことを言っても、現場の営業マンは販売目標を達成しなけ
れば評価されないのが現実です。だから顧客の話に耳を傾けようとせず、
「今期の注力商品」
のような自分にとって都合のよいものを売りつけようとしてしまうのです。
この問題を解決するためにシスコが選んだ方法が「デパート」になること、だったのだと
思います。
つまり、専業メーカーだと自社で提案できる製品が限られているので、いくら「ソリュー
ション提案をしろ!」と言っても、現場は売りたいものを売りつけようとし、結果的に顧
客からの信頼を失って売り上げは低下してしまう。
しかし、デパートのように品揃えが豊富なら、営業マンは顧客の目線に立って、最も役に
立つ商品を提案することができる。
冒頭の話で言えば、シスコがクレッシェンドを買収することによって、営業マンはルータ
ーとスイッチを適材適所に配置した最適なネットワークを提案できるようになるわけです。
だからといって、皆さんに「シスコ製品を使ってください」とお願いしているわけではあ
りませんよ。
この話を教訓にして、自分にできる「ソリューション提案」とは何か、を考えてみていた
だければよいと思っています。
大事なことは
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顧客(または利用者)が本当に必要としているものが何かを理解し、
自分に可能な範囲で顧客に役立つ提案をする
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という進めかた・考えかたであり、それが長期的には自社の売上向上や自分自身の成長に
繋がっていくのです。
Written by Keiichi Takagi.
as of Nov 13,2009