TMI 中国最新法令情報 ―(2014 年 4 月号)

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TMI 中国最新法令情報
―(2014 年 4 月号)―
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皆様には、日頃より弊事務所へのご厚情を賜り誠にありがとうございます。
お客様の中国ビジネスのご参考までに、「TMI 中国最新法令情報」をお届けします。記事
の内容やテーマについてご要望やご質問がございましたら、ご遠慮なく弊事務所へご連絡下
さい。バックナンバーについては、弊事務所のウェブサイトに掲載させていただきますので、
併せてご利用下さい。(http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/china/index.html)
目次
一.中国最新法令
1. 中央法規
(1) 「中華人民共和国税関加工貿易貨物監督管理弁法」の執行に係る問題に関する公告
(2) 国外投資プロジェクト認可及び届出管理弁法
(3) 「輸入食品不良記録管理実施細則」の公布に関する公告
(4) 改正後の「中華人民共和国商標法」の執行に関する問題の通知
2. 司法解釈
(1) 商標法改正決定執行後の商標事件の管轄及び法律適用の問題に関する解釈
二.連載
中国企業法実務/第六弾:知的財産権
(第 3 回
外観設計専利(意匠))
三.中国法務の現場より
1. 居留許可延長手続の運用状況(北京・上海)
2. 活況を呈する上海法務会
1
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一.中国最新法令(2014 年 3 月中旬~2014 年 4 月中旬公布分)
1.中央法規
(1) 「中華人民共和国税関加工貿易貨物監督管理弁法」の執行に係る問題に関する公告1
税関総署
2014 年 3 月 24 日公布
同日施行
① 背景
今年 3 月 12 日に、税関総署が「中華人民共和国税関加工貿易貨物監督管理弁法」2(以
下「管理弁法」という。)を公布・施行し、同時に、税関総署が 2004 年 2 月 26 日に第
113 号令で公布し、その後の 168 号令、195 号令で改正した「中華人民共和国税関による
加工貿易貨物の監督管理弁法」 3(以下「旧弁法」という。)は廃止された。
本公告は、管理弁法の一部条文の具体的な運用及び執行を明確化し、管理弁法と共に、
中国の税関による加工貿易貨物に対する監督管理及び税関処理の手続に関する新たな制
度を構成している。
② 主な内容
管理弁法は、総則、加工貿易貨物手帳の作成、加工貿易貨物の輸出入及び加工、加工
貿易貨物の照合制度並びに附則の合計 5 章 50 条で構成されており、旧弁法に比べると、
内容及び構成の面において大幅な変更が見られる。
本公告は、加工貿易届出(変更)、外注加工、深加工結転、余剰原材料の監督移管(余
料結転)、輸出入照合、加工貿易貨物放棄の許可等の業務について、「中華人民共和国行
政許可法」に基づく従来の行政許可の手続の執行を中止し、これらの手続の名称を加工
貿易手帳の設立、外注加工届出、深加工結転申告、余料結転申告、輸出入照合申告に名
称変更するとともに、加工貿易貨物放棄の許可手続を廃止することを明確化した。また、
管理弁法第 33 条等の規定に対して、本公告は、企業が加工貿易手帳の有効期間内に保税
原材料及び部品又は完成品の国内販売への切り替えなどの税関手続を行わなければなら
ないことなどを定めている。
また、本公告は、管理弁法第 6 条(加工貿易貨物の抵当)、第 10 条(加工貿易貨物の
管理)、第 23 条(深加工結転業務 4)、第 24 条(外注加工業務5)、第 27 条(原材料・部
品の使用)、第 29 条(原材料・部品の返品・交換等)、第 33 条(輸出から国内販売への
切替)、第 35 条(余剰原材料・部品等の処理)等の執行について制度や規制を具体化・
明確化している。
(2) 国外投資プロジェクト認可及び届出管理弁法 6
1
《关于执行〈中华人民共和国海关加工贸易货物监管办法〉有关问题的公告》(海关总署公告 2014 年第 21
号)
2
《中华人民共和国海关加工贸易货物监管办法》(海关总署令 2014 年第 219 号)
3
《中华人民共和国海关对加工贸易货物监管办法》(海关总署令 2004 年第 113 号)
4
「深加工結転」とは、加工貿易企業が保税輸入原材料・部品を加工した製品を別の加工貿易企業に移転し
て更に加工した後に再度輸出する経営活動をいう(管理弁法第 42 条第 8 号)。
5
「外注加工」とは、経営企業が下請会社に加工貿易貨物に加工を加えることを委託し、期限内に加工した
後の製品を最終的に輸出する行為をいう(管理弁法第 42 条第 10 号)。
6
《境外投资项目核准和备案管理办法》(国家发展和改革委员会令 2014 年第 9 号)
2
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国家発展改革委員会
2014 年 4 月 8 日公布
2014 年 5 月 8 日施行
① 背景
2004 年 10 月に国家発展改革委員会が公布した「国外投資プロジェクト認可暫定管理
弁法」 7(以下「暫定弁法」という。)では、中国企業による国外投資の認可期間及び権
限、認可手続、プロジェクト申請報告、認可条件及び効力等が定められていた。また、
2013 年 11 月に国務院が公布した「政府認可の投資プロジェクトの目録(2013)の公布
に関する通知」 8(以下「2013 年通知」という。)では、国外投資について、「中国側が
10 億米ドル以上を投資するプロジェクトで、センシティブな国又は地域、センシティブ
な業界に関わるプロジェクトは、国務院投資主管部門が認可するとされ、前項の定め以
外の中央管理企業の投資プロジェクト及び地方企業が 3 億米ドル以上を投資するプロジ
ェクトは、国務院投資主管部門に届け出る」などと定められている。
近年の中国企業による海外への投資が年々増加する傾向に対応し、2013 年通知の内容
を取り入れ、暫定弁法による規制を変更するために、国家発展改革委員会は、
「国外投資
プロジェクト認可及び届出管理弁法」(以下「本弁法」という。)を公布した。なお、本
弁法の施行と同時に暫定弁法は廃止される。
② 主な内容
暫定弁法に比べると、本弁法は、以下の特徴があると見られる。
ア
認可が必要なプロジェクトの範囲の縮小
暫定弁法では、国内各種法人が海外で支配する企業又は機構を通じて海外で実施す
る投資プロジェクトは認可の範囲内に含まれていたが、本弁法では、海外で設立され
た中国系企業が海外で実施する再投資プロジェクトについて、融資又は担保等の方式
を介さなければ、本弁法で定義された投資主体に該当しないとされているため(第 2
条)、認可又は届出の手続が不要となる。
イ
法的責任の明確化
暫定弁法では、違反した場合の罰則は用意されていなかったのに対し、本弁法では、
法的責任に関する章(第 5 条)が新たに追加され、国家改革発展委員会の職員に職権
を濫用し、職務を軽んじるなどの行為があった場合(第 27 条)、国外投資プロジェク
トを実施する企業・組織が、許可を得ずにプロジェクトを実施し、又は許可された内
容どおりにプロジェクトを実施しなかった場合(第 28 条)等の法的責任が定められた。
ウ
その他
上記以外に、本弁法は、2013 年通知における国外投資に関する内容を取り入れ、暫
定弁法に比べ、国外投資プロジェクトの認可及び届出手続並びにこれらの条件等の
様々な面について、手続の簡素化、明確化及び規範化を行っている。
(3) 「輸入食品不良記録管理実施細則」の公布に関する公告 9
国家質量監督検査検疫総局
2014 年 4 月 14 日公布
2014 年 7 月 1 日施行
① 背景
食品安全問題は、近年の中国社会において環境問題と並んで中国当局を悩ます重要な
7
8
9
《境外投资项目核准暂行管理办法》(国家发展和改革委员会令 2004 年第 21 号)
《国务院关于发布政府核准的投资项目目录(2013 年本)的通知》(国发[2013]47 号)
《关于发布〈进口食品不良记录管理实施细则〉的公告》(国家质量监督检验检疫总局公告 2014 年第 43 号)
3
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社会問題の一つである。これまでは、中国国内で生産、製造、加工又は提供される食品
が当局監視・監督の重点対象であったが、「輸入食品不良記録管理実施細則」(以下「実
施細則」という。)の制定及び公布により、中国当局は国内の食品のみならず、輸入食品
に対する監視・監督も強化し、着々と包括的な食品安全管理体制を構築しようとする動
きが見られる。
「中華人民共和国輸
実施細則は、
「中華人民共和国食品安全法」10及びその実施条例11、
出入商品検疫法」 12及びその実施条例 13、「輸出入食品安全管理弁法」 14 及び「輸出入化
粧品検査検疫監督管理弁法」15に基づいて作成され、今年 7 月 1 日より施行される。
② 主な内容
本実施細則は、輸入食品の海外製造者及び輸出者、中国国内の輸入者、代理業者(「輸
入食品企業」と総称される。)の不良記録の使用管理に適用される(第 1 条第 2 項)。ま
た、国家質量監督検査検疫総局(以下「質検総局」という。)が全国の輸入食品の不良記
録管理の主管機関であり、関連するコントロール措置を制定・公布する機関であるとさ
れている(第 1 条第 3 項)。
また、本実施細則では、質検総局及び各レベルの検査検疫機構は、輸入食品の検査検
疫監督管理の業務の中で発見した食品安全の情報、国内のその他の政府部門から通報さ
れた、又は業界団体、企業及び消費者から寄せられた食品安全の情報、国際組織、海外
政府機関、海外の業界団体、企業及び消費者から寄せられた食費安全の情報等の情報等
から、検討の上、輸入食品企業の不良記録を作成するとされている(第 2 条)。
さらに、本実施細則には、別紙 1(不良記録がある企業の輸入食品管理及びコントロ
ール措置)及び別紙 2(不良記録が全国又は地域に関わる輸入食品の管理及びコントロ
ール措置)が添付されており、リスク警報及びコントロール措置の関連規定が設けられ
ている。
(4) 改正後の「中華人民共和国商標法」の執行に関する問題の通知16
国家工商行政管理総局
2014 年 4 月 15 日公布
同日施行
① 背景
「全国人民代表大会常務委員会による『中華人民共和国商標法』の改正に関する決定
(2013)」 17によれば、改正後の「商標法(2013 年改正)」は 2014 年 5 月 1 日(以下「施
行日」という。)から施行されることになる。本通知では、改正前の商標法と改正後の商
標法の運用について定めている。
② 主な内容
本通知では、施行日前に商標局に提出した商標登録の関連事項(商標登録の出願・異
議申立て・変更・譲渡・更新・取消・抹消・許諾届出等の申請手続時の法律適用及び審
10
11
12
13
14
15
16
17
《中华人民共和国食品安全法》(主席令第 9 号)
《中华人民共和国食品安全法实施条例》(国务院令第 557 号)
《中华人民共和国进出口商品检验法(2013 修正)》(主席令第 5 号)
《中华人民共和国进出口商品检验法实施条例(2005)》(国务院令第 447 号)
《进出口食品安全管理办法》(国家质量监督检验检疫总局令第 144 号)
《进出口化妆品检验检疫监督管理办法》(国家质量监督检验检疫总局令第 143 号)
《国家工商总局关于执行修改后的〈中华人民共和国商标法〉有关问题的通知》
《全国人大常委会关于修改〈中华人民共和国商标法〉的决定(2013)》(主席令第 6 号)
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査期限の計算)及び施行日前に商標評議審査委員会に申し立てた不服申立てに関する事
項(商標登録出願の却下、異議裁定、登録商標に関する紛争及び取消再審査申請及びそ
の審議期間の計算)について定めている。
また、商標法の 2013 年改正により、生産者及び経営者は、
「著名商標」の文字を商品、
商品包装もしくは容器に使用し、又は広告宣伝、展示会及びその他の商業活動で使用す
る行為が禁止されたが(第 14 条第 5 項)、本通知は当該規制に関する定めを置いている。
具体的には、本通知によれば、「著名商標」の文字を商品、商品包装又は容器に使用し、
かつ 2014 年 5 月 1 日前に流通市場に入った場合には、改正前の商標法を適用する。また、
「著名商標」の文字を商品、商品包装又は容器に使用した場合、著名商標の所有者が違
法責任を負わなければならず、その住所地の工商行政管理部門が処理する。住所地以外
の工商行政管理局が上述の違法行為を発見した場合、住所地の工商行政管理部門に移管
して処理する。住所地が中国国外にあり、又は管轄権に関する争いがある場合には、国
家工商行政管理総局が指定する工商行政管理部門が処理する(第 3 条第 2 項)。
2.司法解釈
(1) 商標法改正決定執行後の商標事件の管轄及び法律適用の問題に関する解釈 18
最高人民法院
2014 年 3 月 25 日公布
2014 年 5 月 1 日施行
① 背景
2013 年 8 月 30 日に公布された「全国人民代表大会常務委員会による『中華人民共和
国商標法』の改正に関する決定(2013)」及び同決定に基づいて新たに公布された「中華
人民共和国商標法」19、並びに「中華人民共和国民事訴訟法」20及び「中華人民共和国行
政訴訟法」 21等の法規定に基づいて、最高人民法院は、商標事件に関する管轄及び法律
適用の問題について、本解釈を制定・公布した。
② 主な内容
本解釈は、人民法院が受理する商標関連の 12 種類の案件を明確に例示している(第1
条)。また、本解釈は、裁判管轄について、商標評議審査委員会が下した再審査決定又は
裁定に関する行政事件及び国家工商行政管理総局商標局が下した商標関連の具体的行政
行為事件は、北京市の関係中級人民法院が管轄するとし(第 2 条)、第一審商標関連の民
事事件の場合、中級以上の人民法院及び最高人民法院が指定する基層人民法院が管轄し、
著名商標の保護に関する民事、行政案件については、省、自治区人民政府所在地の市、
計画単列市、直轄市管轄の区の中級人民法院及び最高人民法院が指定するその他の中級
人民法院が管轄するとしている(第 3 条)。
さらに、本解釈第 5 条から第 9 条までは、様々な局面において、改正前又は改正後の
商標法のどちらが適用されるべきかについて明確に示している。
(彭濤、莊凌云・中国弁護士)
18
19
20
21
《最高人民法院关于商标法修改决定施行后商标案件管辖和法律适用问题的解释》(法释[2014]4 号)
《中华人民共和国商标法(2013 修正)》(主席令第 6 号)
《中华人民共和国民事诉讼法(2012 修正)》(主席令第 59 号)
《中华人民共和国行政诉讼法》(主席令第 16 号)
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二.連載 中国企業法実務
第六弾:知的財産権(第 3 回/全 8 回)
第1回
2014 年 2 月号
発明専利(特許)①
第2回
2014 年 3 月号
発明専利(特許)②
第3回
2014 年 4 月号
外観設計専利(意匠)
第4回
2014 年 5 月号
実用新型専利(実用新案)
第5回
2014 年 6 月号
商標 ①
第6回
2014 年 7 月号
商標 ②
第7回
2014 年 8 月号
著作権
第8回
2014 年 9 月号
不正競争防止法による保護
第3回
外観設計専利(意匠)
1.概要
本連載の第 1 回、第 2 回では、専利法の枠組みをご紹介した上で、中国における特許(発
明専利)制度について解説した。本連載の第 1 回でも述べたように、中国では、意匠(外
観設計専利)も特許と同様に専利法によって規定されているが、その性質上、特許と相違
する点が多いため、本稿では、専利法及びその他の関連法規における意匠権にまつわる規
定について紹介する。
なお、2014 年 3 月 12 日、国家知識産権局より、「国家知識産権局の『専利審査指南』
の改正に関する決定」 22が公布され、専利出願・専利を審査・審理する際のガイドライン
である専利審査指南が改正された(以下「2014 年改正」という。)。当該改正は同年 5 月 1
日に施行される。今後、本特集において専利審査指南の条項を引用する際は、断りのない
限り、2014 年改正後の条項を引用する。
2.意匠権の取得
(1) 意匠の定義
専利法では、意匠は、「製品の形状、図案又はそれらの組合せ、及び色彩と形状、図
案の組合せにより作り出された美感に富み、且つ工業上の応用に適した新しいデザイン」
23
と定義されている。
中国では、意匠は製品を媒介とする必要があり、農・畜産品、自然物等は媒介として
の製品と認められず、かかる意匠は意匠権の保護対象から除外されている 24。「製品」
の概念について、法律上、明確な定義はないが、専利審査指南によれば、独立して販売
又は使用できない部分(例えば、靴下のかかと、パズルの一ピースなど)については、
意匠権の保護対象から除外されている 25。ただし、部品であっても、独立して取引の対
22
23
24
25
《国家知识产权局关于修改〈专利审查指南〉的决定》(国家知识产权局令第 68 号)
専利法第 2 条第 4 項
専利審査指南第 1 部分第 3 章 7.1
専利審査指南第 1 部分第 3 章 7.4 の第 3 号、第 4 号
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象になりうるものは、製品として認められる。
また、工業上の応用に適したデザインであることも求められており、量産できない工
芸品や図面に重大な欠陥があり意匠を実施できない場合は、この要件を満たさないと判
断される。
なお、日本意匠法では、腕時計の液晶画面や携帯電話機の画面等、物品の操作の用に
供される画像であり、当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示されるもの
(いわゆる「画像デザイン」)が意匠法の保護対象とされている 26。中国では、通電し
た後に現れる画像の意匠は、意匠権保護を受けることができなかったが 27、専利審査指
南の 2014 年改正により、一部のグラフィカルユーザーインタフェース(GUI)が意匠権
の保護対象に加えられた28。本決定は、2014 年 5 月 1 日から施行される予定である。
(2) 意匠の保護要件
意匠権登録をするには、かかる意匠に新規性及び創作の非容易性が求められる。これ
らの要件は、専利法第 3 次改正により整備された29。
新規性とは、従来意匠に該当せず、また、いかなる機関又は個人も同様の意匠を出願
日前に出願しておらず、かつ、出願日後に公告された専利文書に記載されていないこと
を意味する 30。従来意匠とは、出願日前に中国国内外において公衆に知られた意匠をい
う31。
創作の非容易性とは、意匠が、従来意匠又は従来意匠の組合せと比較した場合、明ら
かな区別があることを意味する 32。従来意匠又は従来意匠の構成要素の転用及び組合せ
であり、容易に創作されたものである場合、当該要件を満たさないと判断される。転用
とは、従来意匠を他の種類の製品に応用することをいうが、自然物、景色又は製品を媒
体としない形状、図案、色彩等の構成要素を他の製品に使用することも、転用に該当す
る。例えば、従来意匠を他の製品の包装、装飾品、玩具等に転用することや、単純な幾
何学の形状、自然風景、有名な建築物をそのまま製品に利用することは、転用に該当す
る。組合せとは、2 つ以上の意匠もしくはその特徴を寄せ集めて一つの意匠とすること、
又は一つの意匠の中の特徴を他の特徴に置き換えることを意味し、同一の意匠又はその
特徴を繰り返し再現することにより作られた意匠は組合せに該当する。ただし、転用及
び組合せにより、独特な視覚的印象が作り出された場合は、例外として、創作が容易で
ないものと認められる 33。
26
日本意匠法第 2 条第 2 項
2014 年改正前の専利審査指南第 1 部分第 3 章 7.4 の第 11 号
28
2014 年改正後の専利審査指南第 1 部分第 3 章 7.4 の第 11 号では、「ゲームのインターフェース、及び人
と機器のインターアクション又は製品の機能の実現と関係のない製品のディスプレイ装置で表示される図
案(例えば、電子スクリーンの壁紙、電源スイッチ画面、ウェブサイト・ウェブページの図表や文章のレイ
アウト)のみが除外されている。例えば、iPhone の通電後の画面は、ユーザーの操作に用いられ、携帯電話
の機能を実現する画面であるため、2014 年改正後は意匠権の保護対象となった。
29
第 3 次改正前は、出願日前に、国内外の出版物において公開発表されたことがあり、又は国内で公開し
て使用されたことがある意匠と非同一又は非類似であり、かつ他人が先に取得した合法的な権利に抵触しな
いことが要件とされていた(第 3 次改正前の専利法第 23 条)。
30
専利法第 23 条第 1 項
31
専利法第 23 条第 4 項
32
専利法第 23 条第 2 項
33
専利審査指南第 4 部分第 5 章 6
27
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また、出願された意匠は、他人が出願日前に取得した合法的な権利に抵触してはなら
ないと定められている 34。合法的な権利としては、主に商標権、著作権、企業名称権(商
号を含む。)、肖像権等が挙げられる35。
さらに、主に標識としての役割を果たす平面印刷物には意匠権を付与しないこととさ
れている 36。これは、専利法第 3 次改正後に追加された規定であり、商品に貼りつける
ラベル、シール、瓶の蓋等、主に商品の標識として使用される平面印刷物が意匠権の対
象から除外されている。製品生産者や商品名称等の商品の標識としての明確な情報のみ
ならず、図案、色彩及びその組合せにより、商品の標識として認識される平面印刷物は
全て除外される。
(3) 意匠出願手続の流れ
中国における意匠出願は国内直接出願ルートと優先権ルートの 2 つのルートがある。
優先権ルートを通じて出願する場合、外国における基礎出願の出願日、すなわち優先日
から 6 ヶ月以内に行わなければならない37。
意匠出願は、下記図に示されたフローで行われる。
出願
却下
受理(出願
番号付与)
補 正
せず
不備あり
不服審判
自発補正
初歩審査
不備なし
不備あり
補正
不備あり 拒絶査定
不備なし
登録査定
通知書
登録公告
① 出願
意匠出願を行う際に、意匠出願人は、願書に必要事項を記載して、図面又は写真及び
意匠に関する簡単な説明等の書類とともに提出しなければならない 38。
図面又は写真は、意匠の権利範囲を確定する書面であるため、意匠の保護を求める製
品の意匠を明瞭に示したものである必要がある 39。立体物に係る意匠の場合、通常、六
面図を添付しなければならない 40。また、色彩を意匠の要素として出願する場合、意匠
に関する簡単な説明において色彩について説明をし、カラーの図面又は写真を提出する
34
35
36
37
38
39
40
専利法第 23 条第 3 項
専利審査指南第 4 部分第 5 章 7
専利法 25 条第 1 項第 6 号
専利法第 29 条第 1 項
専利法第 27 条第 1 項
専利法第 27 条第 2 項
専利審査指南第 1 部分第 3 章 4.2
8
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必要がある 41。意匠に関する簡単な説明は、意匠の保護範囲を確定する際に解釈に用い
ることができるため 42、意匠権の無効審判や侵害にかかわる事件において、重要な判断
材料になる。
また、中国において経常的な住所又は営業所がない外国人、外国企業又はその他の組
織が中国で出願する場合、中国国内の専利代理機構を通じて出願手続をしなければなら
ない 43ため、かかる代理機構に対する委任状も併せて提出する必要がある。また、優先
権を主張する場合、出願の際にその旨を表明したうえ、出願日から 3 ヶ月以内に優先権
証明書44を提出しなければならない 45。
所定の出願書類を中国特許庁に提出し、受理されると、意匠出願番号が発行される46。
なお、出願人は、出願日より 2 ヶ月又は受理通知書を受領した日から 15 日以内に出
願費用及びその他の費用を納付しなければならず、出願費用を期限どおりに満額支払わ
ない場合、出願が撤回されたものとみなされる47。
② 自発補正
意匠出願人は、出願日から 2 ヶ月以内に、意匠出願の内容に関する自発補正をするこ
とができる 48。ただし、意匠出願に関する補正は、元の図面又は写真で表示された範囲
を超えてはならない 49。なお、専利審査指南では、2 ヶ月の期限を超えた場合において
も、補正が出願の不備を解消し、それにより、意匠権付与の見込みがある場合、例外と
して、補正を認めてもよいと規定されている 50。
③ 初歩審査
中国特許庁は、出願の受理後に初歩審査を行う。初歩審査では、出願書類及び図面又
は写真、意匠に関する簡単な説明等の添付書類の有無及び様式や、出願人の適格等の形
式的要件を審査するほか、新規性等の一部の実体要件についても審査対象となる51。
意匠の新規性についての判断は、従来の実務では、明らかに従来意匠を複製したもの
などの非正常出願に対する審査を除き、通常、審査官は従来意匠の有無について、検索
を行わず、出願書類の内容及び一般消費者の常識のみから判断するだけでよいとされて
いた52。しかし、意匠出願件数の増加、同一意匠の重複登録等の原因により、2013 年 9
月の専利審査指南の改正 53において、通常検索を行わず、出願書類の内容及び一般消費
者の常識のみから判断してよい旨の規定が削除され、審査官は、積極的に検索その他の
手段により情報を取得して判断することが求められるようになった。
④ 登録査定及び拒絶査定
41
専利法実施細則第 27 条第 1 項
専利法第 59 条第 2 項
43
専利法第 19 条第 1 項
44
優先権証明書とは、基礎出願の出願申請書類の副本を指す。
45
専利法第 30 条
46
専利法実施細則第 38 条
47
専利法実施細則第 95 条
48
専利法実施細則第 51 条第 2 項
49
専利法第 33 条但書
50
専利審査指南第 1 部分第 3 章 10.1
51
専利法実施細則第 44 条第 1 項第 3 号
52
専利審査指南第 1 部分第 3 章 8
53
《国家知识产权局关于修改〈专利审查指南〉的决定》(第 67 号)第 3 条(国家知识产权局令第 67 号)第 3
条
42
9
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初歩審査の結果、意匠出願に拒絶理由が発見されない場合、中国特許庁は意匠登録査
定を下す。一方、意匠権登録要件を具備していないと審査官が判断する場合、補正命令
(形式的要件を満たしていないと判断された場合)又は拒絶理由通知書(明らかに実体
的要件を満たしていない場合)を発送する 54。補正命令又は拒絶理由通知書に対する応
答(補正又は意見陳述)の期間は、当該文書において指定されるが、通常、当該文書の
受領日から 2 ヶ月以内である。出願人が指定期間内において応答しない場合、出願が撤
回されたものとみなされる 55。実務では、六面図の不一致等、図面に関して補正命令を
受けることが多いが、補正により不備が解消されるケースは少なくない。補正又は意見
陳述後もなお不備があると判断された場合、中国特許庁は拒絶査定を下す。
出願人は、上記拒絶査定について不服がある場合、拒絶査定の通知を受け取った日よ
り 3 ヶ月以内に専利復審委員会に対して不服審判請求を申し立てることができる56。ま
た、出願人は、専利復審委員会により下された審決について不服がある場合、審決通知
を受けた日より 3 ヶ月以内に、人民法院に対して審決取消訴訟を提起することができる
57
。審決取消訴訟の一審は専利復審委員会の所在地を管轄する北京市第一中級人民法院
が管轄し、二審は北京市高級人民法院が管轄する。
⑤ 意匠権登録及び存続期間
意匠出願については実体審査が行われないため、初歩審査を経て、意匠登録査定を受
けた場合、出願人は通知を受けた日から 2 ヶ月以内に登録手続をし、当年分の年金を支
払わなければならない。中国特許庁は、登録手続が完了した後、意匠権証書を発行し、
かつこれを公告する 58。当該公告と同時に意匠権が成立する59。
意匠権の存続期間は、出願日より 10 年であるが、年金を納付しなかった場合や、権
利を放棄した場合には、期間満了前に権利が消滅する 60。
[応用編]多意匠一出願
中国の専利法では、原則として、一件の意匠について、一件の出願が行われなければな
らない。ただし、同一製品において、複数の類似意匠が含まれている場合、又は同一種類
に属し、かつセットで販売又は使用する製品(以下「セット製品」という。)に関する複
数の意匠の場合、当該複数の意匠について、一件の出願で保護を求めること(以下「多意
匠一出願」という。)ができるとされている 61。
同一製品に関する類似意匠とは、意匠の簡単な説明で記述された意匠の特徴と類似する
意匠を意味する。例えば、同一シリーズ商品の包装は、基本的なデザインが同様であり、
製品名、色彩又は細部の図案だけ微細な区別がある場合、類似意匠と認められる。ただし、
一件の出願の中の類似意匠は 10 件を超えてはいけない 62。
54
55
56
57
58
59
60
61
62
専利法実施細則第 44 条第 2 項
専利法実施細則第 44 条第 2 項
専利法第 41 条第 1 項
専利法第 41 条第 2 項
専利法実施細則第 54 条第 1 項
専利法第 40 条
専利法第 42 条、第 44 条
専利法第 31 条第 2 項
専利法実施細則第 35 条第 1 項
10
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また、セット製品は、複数の同一大分類に属する各自独立した製品により構成され、各
製品の設計思想が同一で、各自独立した使用価値を有するが、組み合わせて使用すること
により更なる使用価値を体現できるものを指す。例えば、コーヒーカップ、コーヒーポッ
ト、ミルクピッチャー、シュガーポットからなるセットは、セット製品として認められ、
かかる複数の意匠について、一件の出願を行うことが認められる 63。
このような多意匠一出願の場合においては、全ての意匠について、図面(立体物の場合
六面図)又は写真を提出する必要がある。
また、一件の出願の中のある意匠が非類似と判断された場合には、中国特許庁は拒絶理
由通知書を発行する。これに対しては、当該複数の意匠について、分割出願 64で対応する
ことが可能である。
多意匠一出願は、出願手続が便利であり、また、意匠権の管理も容易になるというメリ
ットがある。一方、意匠権については厳格な実体審査がないため、非類似意匠が同一の意
匠権として登録される可能性があり、その場合、意匠権の権利行使が困難になる可能性が
あると考えられる。
3.無効審判
前述したとおり、意匠権登録には、原則として実体審査がなく、公告されると同時に意
匠権が成立する。したがって、専利法に定められた意匠権の登録要件に符合しない意匠が
登録された場合、第三者による意匠の実施の妨げになり、また、第三者の合法的な権利を
侵害する恐れがある。このような弊害に対応する制度として無効審判制度がある。
(1) 無効審判の手続
ある意匠権に後述する無効理由のいずれかが存在する場合、当該意匠権が公布され、
成立した日より、何人も、専利復審委員会に対して無効審判請求書及び必要な証拠を提
出することによって、無効審判を請求し、当該意匠権について無効宣告を行うように申
し立てることができる 65。請求人は、無効審判請求書を提出してから 1 ヶ月以内に無効
理由や証拠を補充することができる66。
専利復審委員会は、無効審判請求の受理後、無効審判請求書及び関連文書の副本を被
請求人である意匠権者に送付し、被請求人に対して指定期間内 67に意見陳述を行うよう
に求める 68。なお、無効審判が提起された場合、被請求人はかかる意匠について補正を
行うことができないとされている 69。
専利復審委員会は、無効理由の有無について審査した後、無効審判審決を下す。意匠
権が全体的に無効である場合は、全部無効審決が下される。一つの意匠権として登録さ
れた複数の類似意匠の一部が無効と判断された場合は、一部無効審決が下され、当該一
部のみが無効とされ、その他の部分は有効な意匠権として存続する。無効理由がないと
63
64
65
66
67
68
69
専利審査指南第 1 部分第 3 章 9.2
専利法実施細則第 42 条第 1 項
専利法第 45 条、専利法実施細則第 65 条第 1 項
専利法実施細則第 67 条
専利審査指南第 4 部分第 3 章 4.4.1 では、当該指定期間は 1 ヶ月と定められている。
専利法実施細則第 68 条
専利法実施細則第 69 条第 2 項
11
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判断された場合、意匠権を維持する審決が出される 70。無効を宣告された意匠権は初め
から存在しなかったものとみなされる71。
上記無効審判審決に対して不服がある場合、審決通知を受けた日より 3 ヶ月以内に、
北京市第一中級人民法院に対して、審決取消訴訟を提起することができる72。
(2) 無効理由
主な意匠権の無効理由としては以下のものが挙げられる 73。
ア
意匠の保護対象ではないもの(専利法第 2 条)
専利法で定められた意匠の定義(2(1)参照)に符合しないものは無効と判断され
る。
なお、無効審判の判断対象となる意匠は、出願された意匠の図面又は写真及び意匠
の簡単な説明により確定される 74。
イ
新規性又は創作の非容易性が認められないもの(専利法第 23 条第 1 項、第 2 項)
新規性や創作の非容易性の判断は、意匠権にかかる製品の一般的な消費者の知識水
準及び認知能力を基準に行うべきと定められている 75。一般的な消費者とは、出願日
前に同種又は類似の製品の意匠及びその常用設計方法(例えば、転用、組合せ、置換
えなどの方法)について常識程度の認識を有し、意匠製品同士の形状、図案及び色彩
の区別について一定の識別力を有するが、些細な変化については気が付くことができ
ない者を指す76。
当該消費者の概念は、末端消費者のみならず、対象製品を購入した製造者、修理者
等を指す事案も多く見られるため、日本法における「需要者」 77の概念に近いと考え
られる。
なお、対象製品によって、一般的な消費者の概念が限定されるケースがある。例え
ば、スポーツ多機能車(以下「SUV 車」という。)に係る意匠について、最高人民法
院は、自動車全般の消費者ではなく、SUV 車という特定種類の自動車の消費者を一般
的な消費者と解した上で、当該消費者を基準に判断を行った78。
ウ
他人の合法的な権利と抵触するもの(専利法第 23 条第 3 項)
エ
図面又は写真が意匠の保護範囲を明確に示していないもの(専利法第 27 条第 2 項)
前述したとおり、意匠権の保護範囲は、図面又は写真及び意匠の簡単な説明により
確定される。したがって、図面又は写真により意匠を明確に示さなかった場合、意匠
権の保護範囲を確定することができないため、かかる意匠は無効とされる。
70
71
72
73
74
75
76
77
78
オ
最初の図面又は写真で示した範囲を超えた補正(専利法第 33 条)
カ
法律又は公序良俗に違反するもの(専利法第 5 条)
専利審査指南第 4 部分第 3 章 5
専利法第 47 条第 1 項
専利法第 46 条第 2 項
専利法実施細則第 65 条第 2 項
専利審査指南第 4 部分第 5 章
専利審査指南第 4 部分第 5 章 4
専利審査指南第 4 部分第 5 章 4
日本意匠法第 24 条第 2 項
中华人民共和国最高人民法院行政判决书(2010)行提字第 3 号
12
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キ
主に標識としての役割を果たす平面印刷物(専利法 25 条第 1 項第 6 号)
4.権利行使
模倣品に対する意匠権を含む専利権の権利行使については、既に本特集第 2 回(本誌 2014
年 3 月号)の 6 で紹介したが、ここでは、「最高人民法院による専利権侵害をめぐる紛争
事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」(以下「法釈[2009]21」という。)
79
において示された意匠権侵害の判断基準について紹介する。なお、前述のとおり、意匠
権の侵害(意匠権の保護範囲)は、図面又は写真に示された製品の意匠を基準とし、簡単
な説明も、解釈に用いることができる80。
法釈[2009]21 によれば、(a)意匠製品と同一又は類似の製品上に、(b)意匠権を付与さ
れた意匠と同一又は類似の意匠が採用されている場合、当該製品上の意匠は意匠権の保護
範囲に該当するものとして意匠権侵害が認定される81。
(a)製品の種類が同一又は類似であるか否かは、意匠製品の用途に基づき認定する82。
(b)意匠の同一性又は類似性の判断は、無効審判における新規性や創作の非容易性の判断
と同様、意匠製品の一般消費者の知識水準及び認知能力を基準とする 83。また、意匠権を
付与された意匠及び意匠権侵害の主張を受けている意匠を比較し、それぞれの意匠全体の
視覚効果が同一又は実質的に差異がないといえるか否かという観点で判断を行う84。
(瀋暘・中国弁護士)
三.中国法務の現場より
1.居留許可延長手続の運用状況(北京・上海)
昨年 7 月 1 日施行の「出入国管理法」、9 月 1 日施行の「外国人入境出境管理条例」に
基づき、公安当局における外国人居留許可の延長・切替等に要する期間が、従来の 5 営業
日程度から 15 営業日(約 3 週間)へと大幅に延長されたことについては、以前にお伝えし
た(http://www.tmi.gr.jp/wp-content/uploads/2013/10/chinanews_201309.pdf)。
また、当該記事では、実務上の所要期間が地方によって異なる見込みであることを紹介
したが、このたび弊事務所弁護士の居留許可を延長するにあたって、北京と上海の実務運
用の違いを身をもって体験したため、ご報告させて頂きたい。
北京の場合、北京市公安局出入境管理部門に申請書を提出する際に、パスポート原本を
預ける必要があり、法令どおり 15 営業日経過後に、ようやく居留許可の貼られたパスポー
トを返却してもらうことができる(2014 年 4 月時点)。従来、北京では発行されていなか
った顔写真入りの預かり証(受理回執)については、今回、窓口で特に要求しなくても、
当然に発行してもらうことができた。なお、手続期間中の労働節に国内旅行の予定がある
79
80
81
82
83
84
《最高人民法院关于审理侵犯专利权纠纷案件应用法律若干问题的解释》(法释〔2009〕21 号)
「専利法」第 59 条第 2 項
法釈[2009]21 第 8 条
法釈[2009]21 第 9 条
法釈[2009]21 第 10 条
法釈[2009]21 第 11 条
13
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ことから、利用予定の各空港、高鉄(新幹線)の駅に電話照会したところ、「当該預かり
証をもって搭乗することに問題はない」との回答を得ることができた。
これに対して、上海の場合、上海市出入境管理局電子政務平台というウェブサイト
(http://crj.police.sh.cn/jx_type.jsp)において事前申請し、指定された日に出入境管理局にパ
スポートを持参すれば、当日 2 時間程度で、居留許可の貼られたパスポートを受け取るこ
とができる。受取指定日は、人によって申請後 7 営業日~10 営業日程度の差があるようだ
が、いずれにしても、パスポートを 15 営業日も返却してもらえない北京のサービスとは雲
泥の差である。
上海では、パスポートを預ける必要がないにもかかわらず、顔写真入りの預かり証が発
行されるため、ご参考までに北京と上海両方の預かり証(下掲の写真)をご紹介したい。
北京市公安局の担当者曰く、北京は「全国統一様式の預かり証」を発行しているとのこと
だが、上海の預かり証とは形式が異なるようである。
(野中信孝・弁護士)
2.活況を呈する上海法務会
4 月 23 日、上海法務会で、約 1 年半ぶりに発表の順番が回ってきて、「中国進出企業撤
退の実務」と題して発表を行った。
上海法務会とは、上海在住の弁護士と
企業の法務担当者を主たるメンバーと
する自主的な勉強会であり、原則として
毎月 1 回、勉強会と懇親会が行われる。
幹事は持ち回り制であり、任期は 3 か月
である。今年の 4 月から 6 月までの幹事
を、当事務所が担当している(主担当:
今村俊太郎)。
いつ誰が法務会を設立したのかは正
確には分からないが、10 年ほど前から
存続している会であると聞く。
14
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法務会は、競争関係にある法律事務所や企業に属する法律人が、事務所や企業の枠を超
えて、新しい法令や制度を勉強し、また、実務上の経験を共有できる、大変有意義な団体
である。日本ではなかなか経験できない、上海ならではのものであるといえる。なお、北
京にも北京法務会という団体があり、3 か月に 1 回程度集まって、同様の活動をしている
と聞く。
私は、2008 年 9 月に上海に赴任後まもなく上海法務会に入会した。当時、新入会員は、
会員の紹介により、会員全員にメールが流され、異議がなければ入会が認められる慣習だ
った。当時はメンバーも少なく、私が初めて発表した 2009 年 1 月の勉強会は、参加者 10
数名のこぢんまりとしたものであった。また、その頃のメンバーは日本人男性が大半で、
法律事務所か企業の駐在員がメインであった。
それが、いつのころからか、入会時の異議伺いのプロセスがなくなり、幹事に申し込め
ば、基本的に誰でも参加できるようになった。現在の名簿では、会員数は 200 名を超えて
いる。名簿には、既に帰国または別の都市に転出された方々も掲載されているが、今回の
勉強会でも 40 人ほどの申込者がおり、以前と比べて、規模が大幅に拡大している。また、
メンバーも、日本人と中国人が半々となり、女性も増えている。近時、特に中国の法律事
務所に所属する方(中国弁護士のほか、勤務や研修をする日本人もいる)や、上海に留学
している日本の弁護士も目立つ。そうなると、勉強会としてのみならず、交流会としても
積極的に機能するようになり、上海法務会は益々その存在価値を高めているといえる。
なお、以前は、1 年にほぼ 1 回は幹事又は発表が回ってくるという状態であったが、現
在ではその心配はないので、本稿の読者で、ご興味を持たれた方は、お気軽に参加された
い。
(山根基宏・弁護士)
TMI 中国最新法令情報―2014 年 4 月号―
発
行:TMI 総合法律事務所
監
修:何連明・外国法事務弁護士
編集主幹:山根基宏、今村俊太郎・弁護士
発 行 日:2014 年 4 月 30 日
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