ー 児童生徒用書の説明

5 てるてる姫と八手観音
l児童生徒用書の説明
伝説名は「てるてる姫と八手観音」です。「法華経」のなかに「観音経」という経典があります。それ
によると、観音菩薩は救われんとする衆生の機に応じて化身(神仏が形をかえて人間としてこの世に現れ
ること)或いは長者(年上の人・徳の優れた人など)・比丘尼(女の僧)など合わせて33の姿に身を変じ
て現れるといいます。そして、この世で利益をかなえてくれるのです。聖観音や千手観音・十一面観音な
どがよく知られています。
「八手観音」は一般的ではありませんが、安芸郡熊野町や呉市神山あたりで耳にすることがあります
働き者の何でもできる女房のことで、「手八T」から釆ているのでしょう。昔の庶民は男も女も子どもで
さえも働かねばならなかったのです。当時、男性の側から見てよい女性の条件は、よく働く人だったの
ll道徳内容項目との関係(例)
2(2)だれに対しても思いやりの心をもち、相手の立場に立って親切にする。
2(5)日々の生活が人々の支え合いや助け合いで成り立っていることに感謝し、それにこたえる。
4(5)父母を敬愛し、家族の幸せを求めて、進んで役に立つことをする。
lll補足資料
1「てるてる姫と八手観音」のあらすじ
むかしむかし、このあたりの村におくめという信心深い女がいた。おくめは貧しかったが与助という心
のやさしい息子と楽しく暮らしていた。
与助も嫁をもらう年頃となったがしたくの金がないので都に出稼ぎに行ってしまった。おくめは毎朝毎
晩村の観音様に、与助に似合いの心のやさしい娘を嫁にもらえるようお参りを続けていた。
二年たっても三年たってもよい話はなかったが、おくめは観音様のおぼしめしを信じていた。
ある寒い夜ふけ、おくめの家を若く美しい旅の娘が訪れ、一夜の宿を貸してくれるよう頼んだ。おくめ
は喜んでもてなし、娘はそのまま家にとどまった。そして台所仕事、掃除、洗濯、針仕事、山仕事や畑
事、織り物にも精を出し、たきぎや布を町に売りに出ては、大金をもうけてもどる日もあった。娘の仕事
ぶりは何をやっても手早く、いっの間にしたのかわからないほどであった。
やがて娘の仕事ぶりのはやさのことが村中に知れわたり、村の年寄り久兵衛とおくめは山仕事に行く娘
のあとをつけてみることにした。しかし山に入ると娘の姿は消え、たきぎだけがバッサバッサと積み上
られては運ばれていた。腰を抜かした二人の前に金色の光がさして、八手観音様が現れ、あたりは日が
も出たはどに明るくなったという。
そしておくめの家は長者となり、都の与助ももどって心やさしい嫁をもらったということである。
今も、久兵衛の建てた観音堂が残っており、村人は大切にお参りをしているという。このあたりでは、
きりょうがよく仕事ぶりの早い娘のことを、八手観音の手伝いの、み光が照らされた娘として、てるて
姫と呼ぶという。
てるてる姫の話はいっ聞いても、仕事がしたくなる話である。
参考資料
黒瀬町教育委員会 黒瀬の民話 黒瀬町民話集編集委員会 昭和63年4月1日発行
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2 御伽草子との関係
御伽草子の時代は南北朝から江戸時代の初期までのおよそ300年です。この間は、南北両朝の対立・抗
争、応仁の乱、戦国時代、関ヶ原の戦いと、全国各地で戦争の絶え間ない不幸な時期でした。中央の公家
はその権威を失い、都は焦土と化したのです。それに反比例して地方の豪族や庶民の中には著しく台頭す
る人も出てきました。いわゆる「下剋上」の時代です。
それは社会だけでなく、文芸などの面にもみられることでした。在来の低い階級に属した人々の社会的
地位や日常生活の上昇を示し、新しい読者の要望に応えて作られた御伽草子がそうです。「てるてる姫」
は昔話■伝説ですが、こうした御伽草子と内容や性質について共通する点を多くもっているのです○
これまでの文学作品は、公家の生活する京都を中心に、とくに宮廷や公家の邸宅で、話が進行するのが
普通でした。御伽草子も、都は依然としてあこがれの的であったのですから勿論登場します0しかし、地
方を舞台にする作品も少なくありません。
登場人物も公家に限定されることなく、武家や僧侶や農民などあらゆる階層に及んでいます○動植物を
擬人化した作品もかなりあるようです。内容もかっての恋愛中心から抜け出して復讐談・怪異談・立身成
功談や笑話など多彩です。とはいえ、一面すこぶる類型的であることも否定できません。例えば、全体の
筋には、いくつかの型があったし、風景や人間の描写も、型にはまった表現が多いのです○語彙や文句に
も決まったものがあります。
ここでは庶民に関する御伽草子を中心に、少し補足してみます。庶民に関するものに、まず笑話・寓話
とよぶべき性質を持った作品があります。「福富草子」、「常磐の娠」などです。二番日に恋愛・求婚談が
あります。「ものぐさ太郎」や「一寸法師」です。三番日には立身出世(致富成功)談で代表的な作品は
「文正草子」です。「ものぐさ太郎」やト寸法師」も、こうした側面をもっています○共通することは、
「めでたしめでたし」で終わったり、そうした気持ちを持たせることであったりします。また、希求する
ものは富ですが、公家貴族への昇格や郡へのあこがれをも捨てきれていないことです0そして彼らがしば
しば神や仏として現れることも特徴的です。「てるてる姫」もこうした範疇にはいるだけでなく、同じ性
質を共通して持っていることを付け加えたいのです。なお、御伽草子は読み本であるとともに観て楽しむ
本でもあったのです。しかし、黙読より音読したものであり、人に朗読してもらって聞いた場合が多かっ
たようです。耳から入る文学は、短編にならざるを得ないし、耳慣れた常套的な語句、感動的な語句を必
要とし、時には繰り返しも必要だったのです。
参考資料 日本古典文学大系38 御伽草子 岩波書店
昭和44年9月15日発行
lV 道徳学習指導案
主題名「てるてる姫と八手観音」
1 内容項目
2−(5)日々の生活が親子の支え合いや夫婦の助け合いで成り立っていることを学び取りそれに感謝
する。
4一(5)父母を敬愛し、家族の幸せを求めて、進んで役立つことをする0
2一(2)相手に対する思いやりの心をもち、親切にする。
2 資料名
①「てるてる姫と八手観音」の民話(黒瀬町の民話集より)
②ビデオ「てるてる姫」子ぐま絵本の全編
一24一
3 ねらい
てるてる姫の民話は熊野町から黒瀬町、呉市神山あたりにまで広がっている話である。働き者のお
くめと与助の親子のところへよく働く娘てるてる姫が来て幸福になる話である。それはそのまま熊野
の女性を表しているのに気づかせ、労働の大切さを知らせたい。
4 学習過程
学 習 活 動
支援と指導上の留意点
導 1「てるてる姫」を読んで、姫の働きを発
入
・「てるてる姫と八手観音」を読み聞かせ
る方法も考えられる。
表する。
2どうして「てるてる姫」を「八手観音」
・民話は各地に広がり、そこで郷土の民話
と呼ぶのか。
になることが多い。また、卿土の伝説や
・学習課題を立て解決する。
由来などと結び付きも多いことを説明す
展
開
るのがよい。
3自分の親が働いている様子を思い浮かべ
・熊野町は筆つくりが、多くの女性の手に
「八手観音」と似たところがないか話し
まかされていて、観音の役目をしている。
合う。
多くの親はこれと同じようによく働いて
いる。
終 4この民話が働く女性の尊さを観音にたと
未
・民話は何かにたとえて表現していること
を説明する方法もある。
えたのだということに気づく。
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