教育と文化の相互理解から平和を

ACCU プログラム
日韓教職員交流プログラム
教育と文化の相互理解から平和を
文:李 三悦 ( サミュエル・リー、韓国ユネスコ国内委員会事務総長)
私は長い間、どうすれば日本と韓国
職員約500人が日本を訪問す
が過去の「恨」と対立を克服し、互いに
るという多大な成果をあげて
平和に共存することができるだろうかと
いる。韓国の教職員たちは2
考えてきた。元来、隣接する国家間に友
週間、日本の小、中、高校と教
好は成立しがたい面があるのも事実で
育委員会を直接訪問し、学生
ある。隣接しているがゆえに、争いごと
たちや教職員に会い、授業を
も多かったのだろう。歴史的に韓国には
参観し、日本の伝統文化に接
「恨」と反目の溝が深く刻まれている。
し、韓国の伝統文化を紹介す
今後もこのような歴史が繰り返されるの
ることで両国の教育と文化を
であれば、反目を平和へ転じ得なかった
深く理解するというよい機会
我々の世代は、未来の世代に対し、最善
に恵まれた。
2006 韓国教職員招へいプログラムで国立科学博物館を訪問中
の筆者 ( 東京 )
し、2007年からは日本に招く教師を大幅
を尽くしてきたと言えるだろうか。
しかし、2度も人類の歴史上まれに見
今年も1月11日から24日にかけて、前
に増やす計画であるという。吹けば消え
る世界大戦を経験したヨーロッパが、ひ
教育部長官であった敦 熙民族史観高校
るような心もとないスタートであったが、6
とつの共同体を作るために協力している
校長が団長となって、98人の韓国人教職
年が経った今では、まるで燃え盛る炎に
ではないか?東アジアとは比べ物になら
員が日本を訪問した。東京に5日間滞在
なったような感じがする。
ないほど、多くの戦争と反目を重ねてきた
し、日本の教育全 般について説明を受
ヨーロッパ国家の、今の姿をみると、東ア
けた後、歌舞伎の公演など日本文化に接
今、韓国にはこのプログラムに参加し
ジアにも希望の光が見えてくる。
し、その後1週間、北海道、滋賀県、鳥
て、日本を好きになり、本当の友情を分
ヨーロッパの場合、ジャン・モネ、アデ
取県、熊本県の4つの道県に分かれて学
かちあおうとしている教職員たちが、全
ナウアー、ドゴールのような偉大な政治
校訪問をし、再び大阪で合流して京都の
国津々浦々で活躍している。彼らはお互
指導者がひとつのヨーロッパへの道の
金閣寺や清水寺などの日本の伝統文化
いにインターネットを通じて日本を訪問し
先導者となり、エラスムス計画 やソクラ
遺跡を訪問し、報告会を開いた後に帰国
た感想を語り合い、授業を通じて学生
テス計画※2 のような学生と教授、教職員
した。
たちに経験を伝えている。日本を訪問し
の相互交流プログラムを作り、他国へ赴
このような日本の努力に応え、韓国も
た教職員たちのインターネット共同体が
いて教えたり、学んだりできるようにする
2005年から日本の教職員20人を毎年韓
活性化している姿は、ヨーロッパとは違
ことで、長期的な平和のための礎を作っ
国に招待して、小、中、高校の訪問と韓
う、先端方式の新しい日韓教職員交流
た。教育を通じて「ヨーロッパ市民」とい
国の伝統文化遺産を紹介する事業を始
が進行しているという点で、注目すべき
う共同体意識を形成したのである。
めた。日本の努力が湖に広がる波紋のよ
であろう。
うに韓国に届き、相互交流として結実し
私は今後、韓国側でもより多くの日本
東アジアでは、日本が先にこのような
たのだ。
の教職員を招き、将来、日韓教職員交流
努力を見せた。2000年3月、当時の中曽
2005年に韓国を訪問した日本の教職
プログラムが決して消えない炎となって
根弘文文部大臣が韓国を訪問し、当時
員たちは、ソウル−安東−慶州−浦項−
燃え続けるようにがんばっていきたいと
の文 鯲鱗教育部長官に、両国間の教職
釜山というスケジュールを通じて、現代の
考えている。また将来、両国で育ちつつ
員交流を提案した。この提案は常に緊張
韓国と歴史・伝統にいろどられた韓国を
ある次世代たちが本当の友人になれるよ
関係にある両国関係を考えると、ひと吹
あまねく体験し、大元外国語高校、釜山
う、このプログラムをいっそう発展させる
きすれば消えてしまうような、先行き不
国際高校、浦項製鉄小学校など特色あ
ために努力していこうと思っている。
安なスタートであった。
る学校を訪問した。報告会の席では日本
しかしその後、両国間の教職員交流
の教職員たちの多くが、韓国に対し、よ
事業はこれまで、両国の政治的な障壁に
り友好的な見方ができるようになったと
も関わらず、2001年から2006年まで6回
話していた。
にわたり着実に進行し、今まで韓国の教
日本でもこの事業の成果を高く評価
※1
ムン・ヨンリン
14
ACCUニュース No.355 2006.5
イ·ドンヒ
(原文は韓国語)
※ 1 エラスムス計画:1987年に開始された当時のEC加
盟国内の学生交流を含めた大学間交流促進計画。
1995年からソクラテス計画の一部に統合された。
※ 2 ソクラテス計画: 1995年より5か年計画で開始され
たEUの総合教育計画。2001年からは第2次ソクラ
テス計画( 5か年)が実施されている。