太陽と芸術の国イタリアで留学生活をして

太陽と芸術の国イタリアで留学生活をして
海老名グリーンロータリークラブの皆様こんにちは。私は 2003 年9月から
2006 年4月まで約2年半、国際ロータリー財団親善奨学生としてイタリアで音
楽、特に声楽、オペラの分野の研究で留学をさせて頂きました志摩 大喜と申し
ます。どうぞ宜しくお願いいたします。
約2年半のヨーロッパ生活の中で自ら体験したことをお話ししていく中で、
時間が許す限り特に印象的な出来事、面白く楽しい体験談、エピソードを皆様
にご披露したいと思っております。また卓話の後には1,2曲イタリアの歌も
歌わせて頂きたいと思います。
留学の目的
①語学の習得、②行動範囲の拡大(新しい人との出会い)、
③帰国後の報告とレポート、音楽芸術を通じた奉仕活動。
演劇的社会
改めて留学生活を振り返ってみますと、実に多くの新しい体験と発見の日々
だったと実感しています。ホストRC及びスポンサーRCの方々のお力添えに
より沢山の出会いがあったことで、学業面にプラスして何事にも代えがたい貴
重な経験を得ることができました。
イタリアは演劇的社会「Societa spettacoli」と言われるように、職業を通じ
て街の人々一人一人がまるで役を演じ振舞っているかのように感じました。レ
ストランに入ればウエイター、ウエイトレス、会計係、支配人という風に自分
の職業に合ったユニフォームを着てそれが実に様になって見えます。まるでそ
のままオペラ、演劇の舞台に出てきそうなキャラクターが本当にその役を演じ
ているように見えました。そして皆いかに生活を楽しむかと言うことに情熱を
注いでいるように見えました。イタリア人は話し声が大きく自分の主張をはっ
きり相手に説得するように話します。一見怒っているかのようにも見えるので
すがサッカーなどを見ていても熱中しやすい国民性だなと思いました。
またイタリアはとても信仰心に厚い国だと感じました。私はミラノから電車
で南東に50分くらい行った街、ピアチェンツァというところに住んでいまし
た。その人口10万くらいの小さな街にも教会が65個もあり、にぎやかな通
りから少し入ると静かなところで皆お祈りしています。先ほどの怒っているレ
ストランのおじさんが、午後になって教会にちょっと出かけて、静かにお祈り
をしている。そういう姿を見ると、イタリアはカソリックの国なんだなと強く
感じました。
文化を体験するにはミラノスカラ座や劇場に足を運びます。一歩踏み入れれ
ばヨーロッパ文化をすぐさま感じることができます。ここでもチケットの受付
のお姉さんやプログラムを配る係りなど、皆一人一人が役を演じているかのよ
うでした。
ある歴史学者との交流
次に、目的の2番目の新しい人との出会いということについてお話をした
いと思います。
イタリアでの新しい出会いといえば Luigi Muratori さんとの交流です。
2003 年の 12 月、とても寒い冬でしたがミラノ行きの電車の中で隣に座ってい
た 80 歳くらいのイタリア人のおじいさんに切符の事に関してイタリア語で質問
をしましたら、なんと逆に日本語で返事が返ってきたのです。
「どうぞ、日本語
で話しかけてクダサイ」と。「私は日本語がワカリマス」えっ、と思いました。
「私の名前はムラトーリと言います、漢字では村鳥と書きますネ」最初は面白
い人だなあ、冗談を言っているのではあるまいか?と思ったのですが、念のた
めいつも持ち歩いている電子辞書の百科事典で「ムラトーリ」 を引いてみた
ら… 驚いたことにその名前が載っているではありませんか!
ムラトーリ(1672~1750)
イタリアの聖職者、歴史家。ミラノ、モデナの図書館研究員として中世古文書
の編集に当たり、多くの論文を発表。主著は「イタリア史料集成」
「イタリア中
世史論集」など。
つまりルイージさんはこのムラトーリさんの子孫であり、遠いご先祖様はイ
タリアを代表する歴史家という訳です。ミラノまでの 50 分間ずっとお話をしま
した。
ムラトーリさんは今からおよそ 60 年前、1953 年に船に乗って日本にいらし
たそうです。そして東京に 10 年近くお住まいになっていました。目的はキリス
ト教の布教のためと言っていましたが、大学でも教えていたそうです。イタリ
アに帰国してからはミラノで日本の貨幣や武具についての研究論文を発表され
ました。現在はパルマの大学で歴史学を教えています。日本美術にも大変造詣
が深い方です。話しているうちに、私の住んでいるアパートから3分くらいの
ところに住んでいらっしゃることが分かったのでムラトーリさんの家にも呼ん
でいただき、イタリアの歴史や戦時中のお話を聞くことができました。ムラト
ーリさんはイタリア人なのですがアイリッシュティーが大好きで、行く度にア
イリッシュティーを頂いたことを昨日のように思い出します。
日本語を美しく、明瞭に
私はイタリア語を勉強しようと思ってイタリア語でムラトーリさんに話しか
けようとするのですが、ムラトーリさんは懐かしいと思って日本語を話したい
らしく、知らない人が客観的に年が大きく離れた我々二人を見ていると面白い
構図に映っただろうと思われて思わず思い出し笑いをしてしまいます。
また海外生活で最大の課題が語学の習得ですが、美しいイタリア語といえば、
私が大学受験の時、イタリア語の発音を学ぶため、当時東京の御茶ノ水女子大
学に留学し、日本文学を専攻していたナポリ出身の Carolina Negri さんのこと
を思い出しました。彼女はナポリ東洋大学で源氏物語を始め日本文学を勉強し
ていたのですが、彼女の話す日本語はとてもきれいで正確でした。さらに我が
家に飾ってある掛け軸の漢字を初見でぱぱっと正しく読み発音したのには驚き
ました。普段何気なく使っている母国語を、外国人がその国の人以上にきれい
に話すことには感動を覚えます。ですから私も母国日本の文化をもっとよく知
り、まず日本語を美しく明瞭に話せるように心がけたいと海外で生活してみて
改めて感じました。この話をよくホストRCの卓話のみならず、親しくなった
イタリアの友達に話しますと皆さん、近寄ってきて握手を求めてきて下さった
りしました。
ロータリアンの方々との思い出
ホストロータリアンの方々とのお付き合いも多く、イタリアでも何回かロー
タリーの例会に出席させていただきましたが、その街では大体夜に例会があり
ます。それも8時くらいから始まります。そうしますとお酒が入ってくる。声
も大きくなって、ちょっと1曲歌ってみろとか言われます。建物も天井が高く、
大聖堂のようなホテルでしたので、声が響いてきます。そういった所でもヨー
ロッパの石の文化と、日本の木の文化の違いも感じました。
ロータリアンの方はいつもバッジをつけていらっしゃるのでオペラ劇場に出
かけていったときにもすぐ分かり、オペラやクラシックの演奏会を愛好する年
配のロータリアンの方々にとって、オペラ劇場というのは上流社会の社交の場
なのだと思いました。
ホスト顧問カウンセラーの Garilli 氏は音楽院の学長でもあり、モーツァルト
の研究家でもありました。2004 年 12 月 7 日は、ミラノスカラ座が大掛かりな
改築工事を経て約 3 年ぶりに再オープンし、
先述した A.Salieri のオペラ”Europa
riconosciuta”で幕を開けましたがその最終リハーサルで Garilli 氏夫妻とお会い
し,サリエリとモーツァルトの関係について質問しましたが、サリエリは素晴ら
しい教育者でもあったと仰っていました。
また私が留学中に日本からロータリーの新奨学生が 1 人入学してきたので、
自分のできる限りのアドヴァイスやお手伝いができるよう心がけました。自分
が学びえたことを次のロータリー奨学生に引き継いで行きたいと思っています。
RC活動において留学中を振り返ってみますと、Rotact の集まりに多く出席
したことが一番印象に残りました。毎月 1 回のペースで同世代の若手イタリア
人の中に入って、様々なコミュニケーションを楽しむことができました。具体
的に挙げるならばまず、自己紹介からですが僕が「イタリアの国立音楽院で声
楽を学んでいる。
」と言うと決まってその場で歌うことになります。ピアノ伴奏
なしのアカペラで歌い始めると、先程まで賑やかだった店全体がシーンとなり、
集中して聴いている様子。高音とともに最後歌い終えると、割れんばかりの拍
手をしてくれる。アンコールの掛け声まで上がるといった調子で毎回場所を変
えてもこのような反応で「イタリア人ってノリが良い!」のかそれとものせる
のが上手いのか、とたんにその後は仲良くなってしまうのです。参加して間も
ない私に「きれいなイタリア語だねえ」
「どうやってイタリア語を覚えるの?」
はたまた「君のお父さんはサムライだったのか?」「君は仏教徒か」「漢字で
Marco Polo ってどう書くの?」今まで聞かれたことのない質問を辞書を引きな
がら真面目に答える僕を見て、ますます話題が広がって行きました。やはり東
洋人がすぐその場でイタリア語でイタリアの有名な歌を歌う、というのは逆に
考えるとイタリア人が日本人の集まりの中で「♪ああ~川の流れのように~」
みたいな日本の懐メロを歌いだしたら、まずビックリするのと同じなのかなあ
と思いましたが、こと芸術において上手いか下手かを見極める、聴き分けるイ
タリア人の鑑識眼(耳)は鋭いなと感じました。生活の中に文化の厚みが見ら
れました。
Rotact のメンバーFrancesca は誕生日に見渡す限り周り一面にブドウ畑が広
がる彼女の別荘に招待してくれました。お礼に”♪Tanti auguri a te!♪”(
「Happy
birthday to you」の伊語版)を歌ってあげたらニコニコととても喜んでくれま
した。
まだたくさんいろいろなエピソードがあるのですがこのようにロータリー奨
学生プログラムを通じて、多くのロータリーの活動、Rotact との交流、カウン
セラーの Garilli 氏からのオーディションや仕事の機会を与えて頂き、他の奨学
金制度では得られない貴重な体験、素晴らしい方々との出会いに恵まれました。
このような機会を与えて下さった神奈川RCの皆様、スポンサーカウンセラー
の方々、スポンサー地区 2780 地区の皆様、ガバナー事務所の方に心から感謝の
気持ちを送りたいと思います。
本日は皆様本当にありがとうございました。
志摩 大喜