Science 2008 年 3 月 28 日号ハイライト

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Science 2008 年 3 月 28 日号ハイライト
統合失調症には多数の希少な突然変異が関与か
イカのくちばしの謎:取手のないナイフ
いざというときの嗅覚
ラットは抽象的規則を学習する
Science は米国科学振興協会(AAAS)発行の国際的ジャーナル(週刊)です。以下に記載す
る次号掲載予定論文に関する報道は、解禁日時まで禁止します。
論文を引用される際には出典が Science および AAAS であることを明記してください。
統合失調症には多数の希少な突然変異が関与か
Many Rare Mutations May Contribute to Schizophrenia
統合失調症には、ひとつひとつは希少な遺伝子変異が多数かかわっている可能性があること
が報告された。統合失調症のような複雑な疾患は、家系で遺伝する傾向がみられるが、ひと
つの遺伝子がこの疾患に関与しているとは考えにくい。統合失調症に対する遺伝子の影響は
現在「common disease/common allele」モデルで仮定されている。この仮説では、それぞれ
がわずかに影響を及ぼす高頻度に存在する突然変異が組み合わされることによって、同疾患
が起るとしている。Tom Walsh らは、統合失調症を発症させる突然変異はそれぞれ希少では
あるが影響力が大きく、単発の症例または家系固有のものでもあるとする新たなモデルを提
案した。著者らは、統合失調症患者 150 人から採取したゲノム DNA を健常者 268 人のもの
と比較した。その結果、統合失調症患者には、小さな DNA 配列の重複あるいは欠失といっ
た形のいずれもきわめてまれな多数の突然変異が、健常者群に比べて約 3 倍高い頻度で発生
していることがわかった。この種の変異は、18 歳までに発症したヒトの場合には 4 倍以上
の頻度で発生していた(この突然変異は、対照群の約 5%、統合失調症患者群の 15%、若年
期に発症した群の 20%に存在していたことになる)。突然変異が起きた遺伝子は、神経シ
グナルと脳の発達をコントロールする経路にかかわっている傾向があった。
論文番号 25:"Rare Structural Variants Disrupt Multiple Genes in Neurodevelopmental Pathways in
Schizophrenia," by T. Walsh; J.M. McClellan; A.S. Nord; S.M. Stray; C.F. Rippey; E.E. Eichler; M.K.
Lee; M-C. King at University of Washington in Seattle, WA; S.E. McCarthy; M. Kusenda; D.
Malhotra; A. Bhandari; P. Roccanova; V. Makarov; B. Lakshmi; J. Sebat at Cold Spring Harbor
Laboratory in Cold Spring Harbor, NY; A.M. Addington; T. Stromberg; N. Gogtay; P. Butler; K.
Eckstrand; L. Noory; P. Gochman; R. Long at NIH/National Institute of Mental Health in Bethesda,
MD; M. Kusenda at State University of New York, Stony Brook in Stony Brook, NY; R.L. Findling at
Case Medical Center in Cleveland, OH; L. Sikich at University of North Carolina in Chapel Hill, NC;
B. Merriman; Z. Chen; S.F. Nelson at University of California, Los Angeles in Los Angeles, CA; S.
Davis; P.S. Meltzer at NIH/National Cancer Institute in Bethesda, MD; A.B. Singleton at
NIH/National Institute on Aging in Bethesda, MD.
イカのくちばしの謎:取手のないナイフ
Squid’s Beak Mystery: A Knife Without a Handle
ある生物材料の謎が解明された。鋭くナイフのようなくちばしを持つイカは、くちばし周辺
の筋肉に損傷を与えることなく、どのようにして捕獲物を行動不能にすることができるので
あろうか。自らを傷つけることなく、取手のないナイフをどう使うのかというのと同じであ
る。アメリカオオイカ(Dosidicus gigas)のくちばしは、既知の全有機物の中で最も硬いも
ののひとつであり、くちばしによる攻撃によって、その衝撃が柔らかい周辺組織に伝わる。
Ali Miserez らによれば、イカのくちばしはこの衝撃に対処できるという。くちばし先端は硬
く頑丈で鋭いが、柔らかい筋肉組織に接触する部分に近づくにつれ、しだいに柔軟になるか
らである。研究者らは、苦心してくちばし各部位の特殊な化学組成を調べ、各部位ごとのく
ちばしの機械的特性と適合させた。硬さの度合いは、キチン、水、およびアミノ酸のヒスチ
ジンおよびドーパと呼ばれる化合物に多く含まれるタンパク質の割合を変えることで調整で
きる。関連する Perspective 記事で Phillip Messersmith は、他の生物学的構造にみられるドー
パの役割や、なぜ研究者らが生物材料の特性に似た合成素材からなる化合物の利用に関心が
あるのかについて考察している。
論文番号 16:"The Transition from Stiff to Compliant Materials in Squid Beaks," by A. Miserez; T.
Schneberk; C. Sun; F.W. Zok; J.H. Waite at University of California, Santa Barbara in Santa Barbara,
CA.
論文番号 4:"Multitasking in Tissues and Materials," by P.B. Messersmith at Northwestern
University in Evanston, IL.
いざというときの嗅覚
Smelling in the Clutch
ヒトの嗅覚は、異なるにおいを嗅ぎ分ける際に不快な電気ショックが与えられると、並外れ
て鋭敏になり得ることが、新しい研究により示された。この研究結果は、情動体験は知覚に
影響し、危険回避の学習にも重大な影響を及ぼす可能性があることを示唆している。条件付
け研究の大半では、生物がどのように知覚刺激への反応を学習するかに焦点が当てられてい
る。それに対し、Wen Li らは、この学習過程によって刺激の知覚自体が実際に変化するか
どうかを調べた。Li らは、同じ分子構造を持つ鏡像異性体同士を対にして、自ら志願した被
験者にそのにおいを嗅がせた。鏡像異性体同士は通常、概ね同じにおいがする。同じ物質が
入った瓶 2 本、その鏡像異性体が入った瓶 1 本の計 3 本のにおいを被験者は嗅いだが、初め
はにおいの差を嗅ぎ分けることができなかった。条件付けで、1 つのにおいを嗅いだ後に弱
い電気ショックを与え、その鏡像異性体のにおいを嗅いだ後にはショックを与えなかった。
再度、その 3 本でテストしてみると、においの差を嗅ぎ分ける能力は向上していた。Li らは
また、被験者の脳の活動を観察し、嗅覚が鋭敏になるときには嗅覚皮質の活動パターンが変
化していることを確認した。Li らは論文の最後に、不安障害の一部は、真の危険信号である
刺激と、似てはいるが重大ではない刺激を見分ける能力の低下がかかわっているのではない
かとの推測も記している。
論文番号 21:"Aversive Learning Enhances Perceptual and Cortical Discrimination of
Indiscriminable Odor Cues," by W. Li; J.D. Howard; T.B. Parrish; J.A. Gottfried at Northwestern
University, Feinberg School of Medicine in Chicago, IL.
ラットは抽象的規則を学習する
Rats Can Learn Abstract Rules
新たに行われた研究から、簡単な規則を学習しそれを新しい状況に応用するというこれまで
ヒトの思考の要と考えられていた能力が、ラットにもあることが明らかになった。特定の経
験から抽象的な規則を導き出し、その規則に基づいて新たなパターンを作り出すことは、例
えば幼児が言語を学習するのと同じである。乳児、ヒト以外の霊長類、さらには鳥類の一部
もある種のパターンを学習することは、これまでにもいくつかの研究で示唆されているが、
ヒト以外の動物が実際に規則を学習することができるかどうかについてはこれまで明らかに
されていなかった。Robin Murphy らは、ラットに視覚を利用する合図(明かりの点滅)ある
いは聴覚を利用した合図(音の高低)のそれぞれ 3 パターンを体験させた。一定のパターン
のときに限りラットにエサを与え、それ以外は与えなかった。その後、聴覚的合図の音の高
低の変化パターンは保持しながら、変化する速度を変えた。ラットがエサを期待して給餌箱
に頭を入れた総時間から判断すると、ラットは既に学習している規則に基づいて聞こえてく
るパターンを判別していると考えられる。
論文番号 23:"Rule Learning by Rats," by R.A. Murphy; E. Mondragón; at University College
London in London, UK; V.A. Murphy at University of Oxford in Oxford, UK.