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数学の面白さが分かる発展的教材の研究< VI >
–区分求積を使わないで面積を求める方法の研究–
2010/ 8/ 3
第 92 回全国算数・数学教育研究(新潟)大会
高校部会 基礎・自由研究
筑波大学附属駒場中・高校講師
吉田 昌裕
[email protected]
教育テスト研究センター
阿部 大輔
1 はじめに
1.1 研究を始める切っ掛け
ある研究会の懇親会で、渡辺公夫先生(元筑波大学、現早稲田大学)から、
「放物線と直線で囲まれる部分の面積を、積分
を使わないで求めろ.ただし『y = x2 と x 軸、x = 1 で囲まれる部分の面積が 1/3 であること』と『カバリエリの原理』は
使ってよい」という問題を出された.(この問題を使った実践は駒野誠(2005)がある.) カバリエリの原理や比の考え
方は中学生でも分かるので、この問題は中学生の発展課題にも使えると考えた吉田は『 y = x2 と x 軸、x = 1 で囲まれる部
分の面積が 1/3 であること』も区分求積を使わないでカバリエリの原理や比の考え方を使い中学生に考えさせることができ
ないかと考え、自分で解いてみることにした. これがこの研究を始めた切っ掛けである.
1.2 研究の目的
研究の目的は、以下の3つである.
1.
問題「y = x2 と x 軸、x = 1 で囲まれる部分の面積、区分求積を使わないで求めろ、ただしカバリエ
リの原理を使ってよい.」(以下【問題1】)を解くこと.
2.
【問題1】が解けたらそれを一般化した問題「曲線 y = xn (n ∈ N) と x 軸、直線 x = 1 で囲まれた部
分の面積が 1/3 となること示せ」(以下【問題2】)を、区分求積を使わないでカバリエリの原理など
を用いて求めること.
3.
問題や教材の共有化をはかる.そのため【問題1】、【問題2】が解けたなら、そこで使われている数
学を吟味し直し、中学、高校のどこで扱うのが適しているか考え、必要に応じて解法や証明を改良し、
問題にあった学年の授業で使えるように授業案を考えること.
1.3 先行研究について
先行研究は福谷敏(2008)による、y = x2 − 1 と x 軸で囲まれた部分の面積が 4/3 であることをアフィン変換で求めたも
のがある.
1.4 今回発表する研究の内容
【問題1】は吉田が、【問題2】は阿部がそれぞれ解くことができたので、今回はこの2つの解法について発表する.
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2 【問題1】について
2.1 はじめに考えた方法 – 等積変形その1
始めに考えた方法は『y = x2 と x 軸、x = 1 で囲まれる部分』を図形 F として、3つの図形 F で面積1の正方形になるよ
うに、図形 F をカバリエリの原理で上手く等積変形する方法だった.
具体的に話すと F を2つ、図 1 のように正方形に配置し残りの1つを等積変形して間の形
にできないかを考えた.しかし、この方法では上手くいかなかった.(現在でも上手くできて
いない)
2.2 次に考えた方法 – 等積変形その2
図1
2つの図形 F (放物線)の配置を図 2 のように変えてみることにした.それぞれの y の値を足したものが図 3 である.
図2
図3
この方法でも上手くいかなかったが(現在でも上手くできていない)図形を見ていると、相似な図形が見えてきた.
2.3 等積変形をやめる – 相似を利用する
図 3 を見ていて次の方法が思い浮かんだ.
(
)2 (
y = x2 (0 ≤ x ≤ 1) を x 軸方向 − 1/2 平行移動した y = x + 12
−1/2 ≤
)
2
x ≤ 1/2 のグラフ(このグラフを G1 とする)と、y = x (−1 ≤ x ≤ 0) を x 軸
)2 (
)
(
−1/2 ≤ x ≤ 1/2 のグラフ(このグラ
方向 1/2 平行移動した y = x − 21
フを G2 とする)の 2 つのグラフについて考える.この2つのグラフの x が同じ
ときの y の値をそれぞれ足し合わせたグラフを G1+2(図 4)とする.
上からグラフ G1+2 の式は、
1
y = 2x2 + .
2
図 4 と上の式より、図形 F 2つ分の面積は、
「1/2 × 1 の長方形」と「図形 F と
図4
相似で相似比 1/2 倍の図形2つ分」の面積の和に等しい.つまり、図形 F の面積
を S とすると、
2S =
1 1
+ S × 2.
2 4
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よって、
S=
1
.
3
この方法を拡張し【問題2】を阿部が解いた.
2.4 等積変形をやめる−相似と無限等比級数を使う
y = x2 上の点 P (1, 1) での接線 y = 2x − 1 と x 軸との交点を A とすると A(1/2, 0).また、B(1, 0) とする.図
形 F の 1/2 ≤ x ≤ 1 の部分から△ P AB を取り去った残りは図形(以下図形 G) は、対称性を考えれば y = (x − 1)2 から
△ QAO を取り去った図形と合同.ただし、Q(0, 1), O(0, 0).直線 QA の方程式は y = −2x + 1 なので図形 G は y =
(x − 1)2 − (−2x + 1)、つまり、y = x2 (0 ≤ x ≤ 1/2) と合同.
図5
図6
よって、図形 F から△ P AB(面積 1/4)を取り去った図形の面積は、y = 2x2 (0 ≤ x ≤ 1/2) と同じでこの図形は図形 F と
相似で相似比 1/2.これより、同様な作業を繰り返せば、
S=
1 ( 1 )2 ( 1 )3 ( 1 )4
+
+
+
······
4
4
4
4
S=
1
.
3
3 【問題2】について
図7
別紙参照
4 今後の課題
【問題1】も【問題2】もまだ生徒に提示していない.2つの問題とも、普段の授業にそのまま使うのは難しいかも知れ
ないが、発展学習などには使える教材であると考えている.今後は中・高どこでどのように生徒に提示すればいいかを考え
て教材化し、実際に生徒が考えたときに出てきた問題点や別解も分析していきたい.
3/4
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5 参考文献
駒野誠.2005.
「多角的な視点に立った教材研究」.日本数学教育学会誌.第 87 巻第3号.pp.12-19
福谷敏.2008.
「「放物線と直線の間の面積」を積分計算なしで求める」.名古屋大学教育学部附属中高等学校紀要.V.52.
pp.123
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