I ICG Report

I
ICG Report
2013年05月01日発行 第355号
発行:ICGインベストメント
ICGレポート編集部
沢井智裕/山本信幸/藤居玲子
世界的な生命保険危機時代を迎える
~予定利率の逆ざやが生保の体温を奪う~
何が起こっているのか?
4月中旬の金価格の急落後、香港の銀行や金行(ゴールド販売店)には金を買い求める顧客で
長蛇の列ができた。中国本土でも状況は同じで、ある記事によると南京市のゴールド販売店で
は金を買うまでに1時間待ちとなり、客の一人は現金290万人民元(約4640万円)を持ち込んで
現物を購入し持ち帰ったという。
どう対処すべきなのか?
金融機関の運用難
金価格は 4 月 15 日のロンドン市場で 1 オンス= 1350 ドル近辺まで売られた。理由は様々であ
る。例えば中国の経済統計が発表されて第 1 四半期の成長率が 7.7 %に減速したことで、中国人
の消費に悪影響を及ぼし金の購買余力が減退した。株式市場が好調のため商品売りの株買いが先
行した。またキプロス危機が深刻化していたために、キプロスが保有金 16 トンを売却して現金
化し決済に充てたというものであった。
しかしながら中国の景気減速は昨年末から予想できた話であるし、世界の株式市場は年初から
好調であった。キプロスの金売却に関しても「わずか 16 トン」であり、数年前に国際通貨基金
(IMF)が 200 トンの売りを出した際にはインドの中央銀行が一手に買い取っている。つまり市場
が吸収できないような量ではない。しかもこの際、IMF に「買いを打診していた」中国の金融当
局がインドに先を越され、不満の意を表したことは記憶に新しい。どの理由もとってつけたよう
で、まったく説得力に欠ける。
香港市場におけるもっぱらの噂は、欧米の金融機関の資金繰りの問題である。商品相場の下落
によって資金繰りに窮した金融機関が、資金捻出のためにゴールドを売却したとの見方である。
日本の為替市場で「円売りドル買い」を行い 10 億ドルの利益を出したヘッジファンドの総帥
ジョージ・ソロス氏は別として、大抵のヘッジファンドは運用難に陥っていた。以前のようにマー
ケットの乱高下を突いて儲けていたヘッジファンドや投資銀行にとって「マーケットの変化率
(ボラティリティ)が高いこと」が収益を上げるうえで必須である。しかし超低金利で国債を始
めとした債券価格は高値で安定し、ボラティリティの高かったイタリア債やスペイン債も危機が
遠のいたことで、収益が上がるボラティリティを臨むことが難しくなった。欧米の株式市場も商
品相場もボラティリティが低くなり、収益機会が減少したことは間違いない。
世界的な生命保険危機
金価格は 2011 年 9 月に一時 1 オンス= 1900 ドル台に乗せてから、今年の 3 月までジリジリと
値を下げていた。つまり値動きが緩慢な状況、低ボラティリティの状況に陥っているため、欧米
系の金融機関はヘッジファンドへの融資をためらっている。
米連邦準備理事会(FRB)、ヨーロッパ中央銀行(ECB)、日本銀行(BOJ)の 3 大中央銀行が揃っ
て超低金利政策を続けているため、ヘッジファンドや投資銀行だけでなく、一般の商業銀行や生
命保険会社も運用難の時代に突入した。アメリカの 10 年物国債で運用してもせいぜい年率 1.6
%前後、イギリス国債で運用してもせいぜい年率 1.7 %前後、日本の国債に至っては年率 0.6 %
1
前後という異常な利回りになっているのに対し、欧米の生命保険会社の予定利率は 6 - 7 %程度
となっており逆ザヤが大きく拡大している。しかし生命保険会社にも予定利率を確保する手段が
ある。それはヘッジファンドへの投資比率を高めたり、株式市場への資金配分を高めるという手
段である。債券投資ならば、より格付けの低いもの(例えばジャンク債)に投資して運用すれば、
予定利率の6-7%確保も夢ではないだろう。しかし中には運用失敗によって、経営が困難になる
ところも出てくるだろう。
米国債の利回りが最低でも4-5%あった時代なら、多少のリスクを負って予定利回り6-7%の
確保も可能だっただろう。しかし1%そこそこの利回りで、6-7%を保証して顧客に支払うのは
無理がある。世界の金融機関の経営不振と言えば銀行や証券に限定されていたものが、今後は生
命保険会社に危機が飛び火する時代が来る。次の危機は生命保険会社から始まる可能性が高い。
アジアへのパラダイムシフト
世界の金融システムは健全化に向かうどころか、金融緩和政策、量的緩和政策により一層不安
定な方向に向かっている。緊縮財政を取らざるを得ないユーロ圏は、今年の後半から来年に掛け
て景気は底割れするだろう。日米欧の国民(消費者)は、ゼロ金利預金という大型間接税を徴収
されている。しかるべき時に金融機関を統合して健全化しなかったために金融機関救済目的で低
金利政策を導入せざるを得ず、本来なら日米欧の国民の懐に入るべき3-4%程度の利息が、毎年
金融機関に流れている。
不労所得が増加しないのだから日米欧共に景気回復は非常に難しい。各国中央銀行がお金をば
らまいても需要が出て来ないのは、国民に直接「利息が付かない」からだ。
ここで冒頭の話に戻るが、香港や中国では目に見える形でゴールドを購入している。中国人が
冠婚葬祭でゴールドが必要な事も背景にある。景気低迷によるヘッジの意味もあると思う。しか
し時折、マーケットではバングラディシュ、フィリピンの中央銀行がゴールドを購入したといっ
た噂話を聞くことがあるが(特別版でも既報)、アジア各国の中央銀行の外貨準備に占めるゴー
ルドの保有比率は、ユーロ圏の中央銀行の保有率の70%前後と比較して極端に低い。中国の1.6
%(2009年)を筆頭に、シンガポール(2.7%)、タイ(4.5%)、インド(9.8%)、フィリピ
ン(13.1%)(以上2011年)はあまりにも低すぎる。だからアジアの中央銀行は、次の危機に備
えてゴールドを買わざるを得ないのだ。
世界の貿易黒字の大半がアジア諸国に集中し、その外貨準備高は今後も増加を続ける。ゴール
ドを購入する割合はもっと増えるはずである。
日本がアベノミクスで日銀に金融緩和をさせたことでECBが目を覚ましたかもしれない。これ
まで政策金利を0.75%で誘導しており、3大中央銀行の中では政策金利がもっとも高い。そして
最近、日銀の金融緩和政策を強烈に批判していたが、日銀がまったく相手にしなかったことによっ
て、ECBもさらなる緩和に走ると見られている。金融緩和競争が最終的には生保や金融機関を救
済どころか、破綻に導く。当面は株式市場も「景気回復期待」で夏頃までは好調を持続するだろ
う。しかし実体経済と株式市場の乖離が認識された時は、大きな調整があるはずだ。当面は各中
央銀行の金融政策を見守るしかないが……。
2
Q&A
Q. 為替の100円到達寸前ですが、その後はどうなりますでしょうか?
A. 短期の動きを予測するのは難しいですが、メディアは無理やり円安を演出したいようですね。
国債の利回りが一時0.315%に低下する中、運用難の生保資金300兆円の運用資産の一部で外債を
購入することになるでしょう。長期では円安トレンドに入っていると思います。
Q. 香港HSBCから新しいATMカードが届きました。どのようにアクティベート(稼働させる)する
と良いですか?
A. 香港のATMを通すのが通常のやり方ですが、日本国内では「UnionPay」(銀聯)のマークが記
されているATMでアクティベートすることが可能です。1日の引き出し限度額も設定できるように
なっています。
Q. 今からアジア株ファンドを購入しても遅くないでしょうか?
A. アセアン諸国株には高値警戒感が出ていますが、先進国株の上昇によりアジア株ももう少し
上がありそうです。短期投資にはお薦めできませんが、相場が落ち着くのを見極めて長期投資を
行うのが良いでしょう。
NEWS
香港ドルペッグの矛盾
1米ドル=7.8香港ドル以下の1%の範囲内に、ドルに対して香港ドルの変動が認められている。
これは香港ドルと米ドルのペッグ制と呼ばれる為替システムで、中央銀行にあたる香港金融管理
局(HKMA)は、発券銀行であるHSBC、中国銀行、スタンダードチャータード銀行の3行に紙幣を
発行させるか、外貨準備高として蓄積している米ドルを売り買いして、為替変動を調節する。従っ
て香港の金融政策は米国の金融政策の影響をもろに受ける。2000年頃まではそうであった。
しかし香港と中国の経済が密接になるにつれて、人民元高・ドル安が香港経済に深刻な悪影響
を与えるようになった。「人民元高・米ドル安=人民元高・香港ドル安」に直結し、香港は恒常
的にインフレに悩まされるようになった。食糧品やサービスの高騰は、不動産の賃貸料の高騰を
招き、投資利回りが高くなった不動産はさらに高騰する。そして金融政策はアメリカのコピーで
あるから、不動産価格が高騰する中でも、さらに金融緩和を続けなくてはならなくなる。2月に
は景気がスローダウンしているにもかかわらず4.4%のインフレ率を記録し、昨年4月以来の高イ
ンフレに逆戻りした。
金融当局も見るに見かねて、香港の金融機関に対して新規の住宅ローンに関しては、15%の引
当金準備金を積み立てさせた。そして200万香港ドル以上の物件の売買に関しては、印紙税を15
%徴収する措置を講じた。
最近になって不動産価格は下落に転じているものの、過度の引き締めは不動産価格の急落を招
きかねず、香港当局は非常に難しい舵取りを迫られている。(ICGアジア 沢井智裕)
中国バブルは崩壊しない
第1四半期の成長率が7.7%と景気減速が懸念されている中国経済だが、海外からの直接投資は
順調のようである。3月の海外からの直接投資額は前月比で+5.65%の124億米ドルとなった。8
か月連続前月比割れの後の2月の+6.3%に続く増勢である。
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第1四半期のトータルでは前年同期比1.4%増の299億米ドルとなった。日本からの投資は前年
同期比で10.5%増の22億9000万米ドルで、アメリカからも前年同期比で18.5%増の10億6000万米
ドルとなっている。
しかし注目はユーロ圏からの直接投資額が45%増の20億5000万米ドルとなったことだろう。ユー
ロ圏では景気の低迷が続いており、中国がユーロ資本の逃避先となっている可能性が高い。ユー
ロ圏の不況が中国には神風になっているのかもしれない。
資本の投資先も高付加価値商品の製造やサービス、そしてハイテク産業への投資が多い。特に
テレコミュニケーション、コンピューター、電子機器の製造が前期比12.1%増で、輸送機器の製
造が29.3%の大幅増となっている。中国政府の思惑通りに個人消費を喚起すべく外資に対して国
内でのビジネス環境を整えたり、規制を緩和している事が奏功しているようだ。景気回復への道
筋を示すことは大事なことだが、人民元高を背景とした消費型経済への移行は長期的なテーマで
最も重要である。(香港在住
チャイナウォッチャー)
ドル高で最も憂慮すべきこと
2012年4月からシンガポールの政策金利(短期金利)は0.38%に低め誘導されている。そのた
めにシンガポール域内は、カネ余りで不動産価格が高騰し、インフレに悩まされており、2月の
インフレ率が4.9%に達し、シンガポールの過去20年間の平均インフレ率の1.9%を遥かに上回る
水準に達した。
一方で世界経済の不振による需要低迷で、輸出にブレーキが掛かっている。2月の船荷量は前
年同月比30.6%の大幅な落ち込みで、工業製品の出荷量も2月までの12か月で前期比16.6%の大
幅減となった。シンガポール金融管理局(MAS)はこれまで通貨政策でシンガポールドルを決済
通貨である米ドルに対して高め誘導して、国内のインフレを抑制してきたが、日本円と韓国ウォ
ン安による昨今のドル高に頭を悩ませ始めている。
3月中旬にはシンガポールドルが1ドル=1.25Sドル台にまで下落した。輸出が不振な折なので
シンガポールドル安は喜ばなければならないが、外需が不振なことで輸出の急増は望めない。そ
して何と言っても国内に輸入インフレを懸念する声が大きくなっている。
当面は許容範囲内のインフレが株価を押し上げるが、日本円や韓国ウォンが過度に安くなると、
米ドルの高騰を招き、シンガポールドルにも通貨安の圧力がかかり始めるという反作用も起こる
だろう。諸外国からの資本の流入はさらに国内インフレを加速する恐れがある。アセアン諸国も
概ね同じような境遇にあり、ドル高が加速するようだと、現地の景気を引っ張りかねない状況で
ある。(シンガポール 証券系投資顧問会社)
仕組み債商品が時限爆弾
リーマンショック後、仕組み債商品の販売額は一気に落ち込んだ。2010年には世界で500億米
ドルもの仕組み債商品が販売されていたが、販売額は2010年をピークに減少を続けている。とこ
ろが一方で、仕組み債商品の設定数は2009年を底に増加の一途にある。2009年には年間6000件に
満たなかった商品数が、2012年には1万件を突破した。
投資銀行やヘッジファンドが自らの顧客(投資家)に仕組み債商品を販売していたのだが、近
年は販売ルートを拡大させることが多くなった。金融機関でも大手の銀行や証券、生命保険会社
に販売ルートを拡大させて、これらの金融機関が彼らの顧客に販売するシステムに変わってきて
いる。
悪い言い方をすると「売りづらくなった仕組み債商品」を他の金融機関というオブラートに包
んで新規顧客に販売する手法である。今や日本の銀行でも海外の投資信託を販売しているが、窓
口で商品の背景について詳細を訪ねると、納得のいく答えが返って来ない場合がある。増してや
仕組み債商品の場合、金融機関のトップでさえも理解することが難しくない場合が多い。それら
が個人投資家に出回っているのである。ユーロ危機は終わっていないが、金融危機も終わってい
ないのだろう。(邦銀 信託系金融機関)
4
FUND
株高で不安材料はないのか?
4月の最初のスタートが肝心であった。毎年、欧米では「4月は買い、5月は売り、6月は逃げる」
という投資行動が定着していたからだ。昨年後半から続く本格的な株高が今後も続くのかどうか?
4月は「セオリー」が当てはまるのかどうかがポイントであった。
NYダウは3月初旬に07年10月に付けた14146ドルの史上最高値の水準を抜けた。S&P500も何度も
高値をトライしてもたつく場面もあったが、07年10月に付けた史上最高値の1565ドルをようやく
3月28日に抜けた。日本株もアベノミクスが息切れしたとしても好調な海外株高にようやく追随
できそうだ。NYダウは1万5000ドルが心理的な上値抵抗線となるが、夏頃までに前回高値から10
%程度高い1万5560ドル近辺まで上昇が見込めそうだ。
中国とインドの経済動向が気になるが、景気の底割れは回避できた模様で、このところの株高
で両市場の下値不安も後退しており、徐々に株式市場への資金の流入も期待できそうだ。
Pictet Premium Brand Fund USD
短期★★★★★
日米欧の金融緩和政策でもっとも潤っているのが富裕層。株高、債券高は富裕層の消費を一層押
し上げる傾向にある。4月23日までの3年間で40.06%のパフォーマンスを上げている。年初から
は+5.84%。
長期★★★★★
国籍は、アメリカ、フランス、スイス、イギリス等の欧米企業が多いが、収益の柱になりつつあ
るアジアに注力するブランド物の企業が多い。高級ブランドものと食糧品で投資比率が50%強を
占める。
総評★★★★★
TOKYO
OSAKA
ICGファンドの運用成績
GoldNugget Fund
Jan
2008
2009
2010
2011
2012
2013
Feb
Mar
-6.86%
5.20% 1.91% -2.24%
-2.51% 2.35% 0.43%
-6.94% 5.07% 1.56%
10.81% 0.21% -5.90%
-0.52% -5.46% 0.57%
Apr
-6.39%
-4.92%
5.31%
6.37%
-1.11%
May
1.66%
13.13%
1.54%
-1.69%
-6.03%
Jun
4.59%
-6.33%
2.35%
-3.22%
1.79%
Jul
-3.11%
1.06%
-5.94%
6.80%
0.86%
Aug
Sep
Oct
-9.07% 3.10% -19.72%
0.79% 5.67% 2.45%
6.78% 4.89% 3.03%
8.99% -11.26% 5.36%
2.02% 7.15% -3.27%
Nov
Dec Year-to-date
12.17% 8.28% -17.89%
11.28% -6.08% 21.75%
3.02% 1.72% 24.75%
0.45% -10.17% -1.30%
-0.58% -3.84% 0.73%
May
0.00%
-2.73% -1.71% 1.30% 1.03% -10.54%
3.45% -1.66% 2.42% -3.59% -5.73%
5.28% -0.71% -3.46% -5.06% -6.70%
4.21% -3.37% -1.01%
Jun
-0.70%
-2.16%
-1.92%
1.89%
Jul
-0.33%
4.30%
-5.35%
-7.20%
Aug
Sep
-0.86% 0.25%
-4.31% 6.56%
-8.96% -15.17%
2.42% -0.45%
Nov
-0.46%
-4.97%
-3.63%
0.23%
CleanTechFund
Jan
2009
2010
2011
2012
2013
Feb
Mar
Apr
Oct
-2.03%
-2.06%
-0.67%
-0.64%
Dec Year-to-date
-0.57% -4.62%
3.60% -12.17%
-6.45% -39.19%
5.92% -9.09%
本レポートは十分に注意深く編集していますが、完全に誤りがないことを保障するものではあり
ません。本レポートはあくまで投資決定上のひとつの材料とお考えください。
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