トレーニング理論 - 下井研究室

トレーニング理論
国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科
下井俊典
朝原宣治選手(100m sprint)の
トレーニングは何ねらいか?
200m + 100m rest 1’30”
運動(筋収縮)時のエネルギー源
運動(筋収縮)時のエネルギー源
ATPの使われ方で4種類に分類される
ATP分解
• 非乳酸系
• 無酸素系
CP分解
• 乳酸系
• 有酸素系
乳酸-ATP系
酸化-ATP系
ATP分解
運動初期2~3秒の筋収縮用エネルギー
ATP → (ATPase) → ADP + Pi + エネルギー
ATPの高エネルギーリン酸結合を酵素(ATPase)による
加水分解によりエネルギー(7kcal /mol)発生
CP分解(ATP-CP系, ローマン反応)
ADP + CP → (CK) → ATP + Cr + Pi
CP(クレアチンリン酸)がCK(クレアチン・
キナーゼ)によりCr(クレアチン)とPiに
分解され、ADPからATPを再合成する
運動開始30秒
ATP分解とローマン反応の関係
筋が繰り返し収縮してATPが消費されると、
ローマン反応によりATPの不足が補われる
energy
ATP
ATPase
Pi
ADP
Pi
CP
CK
Cr
乳酸-ATP系
解糖作用によるATP再合成
筋運動が激しくなるとATPの消費が増加し、
解糖作用によるATP供給が必要となる
ブドウ糖 + 2ADP + 2Pi → 2ATP + 乳酸
+ 2(2H)
(2C3H4O3)
(C6H12O6)
アセチルCo-A
運動開始60~90秒(40~50秒で最高)
酸化-ATP系
脂質(脂肪酸)の酸化作用によるATP再合成
脂質 + ADP + O → CO + H O + ATP
2
2
2
(脂肪酸)
二酸化炭素と水に分解される
運動開始3分以上
TCA回路と電子伝達系からなる
TCA回路
解糖や脂質(脂肪酸)のβ酸化によって
生成するアセチルCoAがこの回路に組み
込まれ、ATPを再合成する
乳酸-ATP系
脂肪酸
アセチルCo-A
乳酸
(2C3H4O3)
+ 2ADP + 2Pi +6H2O
→ 2ATP + 6CO2 + 10(2H)
電子伝達系
水素から酸素への電子の転移(伝達)により
水とATPを再合成する
6O2 + 34ADP + 34Pi + 12(2H) → 12H2O + 34ATP
CP分解、乳酸-ATP系、酸化-ATP系の
反応式の左辺、右辺をまとめると
どのような反応式ができるか?
ブドウ糖
+ 6O2 + 38ADP + 38Pi
(C6H12O6)
→ 6CO2 + 6H2O + 38ATP
• ブドウ糖1分子から38分子のATPが再合成される
• CP分解、乳酸-ATP系、酸化-ATP系により、
ブドウ糖は6CO2 + 6H2Oに完全に酸化( 6O2 )
される
呼吸商が1.00となる
呼吸商
呼吸商=
単位時間あたりのCO2排出量
単位時間あたりのO2消費量
解糖による呼吸商
:1.00
脂質の分解による呼吸商 :0.71
脂肪酸(CnHmCOOH)中に酸素原子が少なく,
分解するときは多くの酸素消費が必要
(O2消費量の割にはCO2産生量が少ない)
重量あたりの熱量は三大栄養素中最大(9.3kcal/
g )で、エネルギーを保存する場合に
適した栄養素
運動(筋収縮)時のエネルギー源
ATP分解
• 非乳酸系
• 無酸素系
CP分解
• 乳酸系
• 有酸素系
乳酸-ATP系
酸化-ATP系
筋内のATP濃度の著しい減少を避けるために
ATPを再合成するメカニズム
毛
細
血
管
筋収縮時のATP産生経路
乳酸-ATP系
グリコーゲン
ブドウ糖
脂肪酸 CO2
酸素
アセチルCo-A
乳酸
水素
酸化-ATP系
ローマン反応
クレアチン
ATP
エネルギー
クレアチンリン酸
水
ADP
筋収縮
競技種目別
無酸素性
有酸素性
100m走
85
15
800m走
50
50
10000m走
5
95
マラソン
1
99
各エネルギー変換による運動の持続時間
ATP分解
非乳酸系
CP分解
無酸素系
乳酸-ATP系
酸化-ATP系
2秒
30秒
60~90秒
3分以上
毛
細
血
管
急激に強強度の運動を行った場合
グリコーゲン
ブドウ糖
脂肪酸 CO2
酸素
アセチルCo-A
乳酸
水
水素
酸化-ATP系
クレアチン
ATP
エネルギー
クレアチンリン酸
ADP
筋収縮
酸素負債(oxygen debt)と酸素借
酸素摂取量
酸素借
酸素負債
酸素摂取量
運動
短時間強強度の運動パフォーマンスを
向上させるには
酸素摂取量
最大酸素借の向上
運動
最大酸素借の向上(改善)方法
緩衝能力
フォスフォフルクトキナーゼ(PFK)
無酸素性解糖によるATP産生を調整する酵素
筋内PHの低下により活性が低下(ATPの生産能力が低下)
方法:乳酸を高いレベルまで生産する高強度トレーニング
毛細血管網
酸化-ATP系能力向上による乳酸生成の抑制
代謝産物(乳酸、水素イオン)らより多く放出し、筋疲労を
遅らせることができる。
方法:持久力トレーニング
活動筋量
筋量が増えると、筋中のATP、PCrの量も増えることから
、無酸素性エネルギーの供給量をふやすことができる。
方法:ウェイトトレーニング
ATP分解
非乳酸系
CP分解
無酸素系
乳酸-ATP系
酸化-ATP系
2秒
30秒
60~90秒
長時間低強度の運動パフォーマンスを
向上させるには
最大酸素摂取量の
向上
運動
運動強度を漸増させた場合
低強度
酸化-ATP系でATP産生
中等度~強強度
酸素供給が間にあわなくなる
解糖-ATP系によるATP
乳酸の蓄積(筋疲労)
AT(anaerobic threshold)
Ananerobic Threshold (AT)
嫌気性代謝閾値、換気性代謝閾値、
無酸素性作業閾値(Wasserman and Mclloy, 1964 )
増加する運動強度において、有気的エネルギ
ー産生に無気的代謝によるエネルギー産生が
加わる直前の運動強度(酸素摂取量)
ATの調査方法
乳酸性作業(代謝)閾値
(Lactate Threshold;LT)
血中乳酸値から調べる
負荷上昇とともに血液中の乳酸
濃度が上昇し、1~2 mmol/lで
屈曲点が出現
3~4 mmol/l付近で急激な屈曲
(OBLA ; onset of blood lactate
accumulation)
換気性作業(代謝)閾値;
Ventilatory Threshold;VT
呼気ガス分析、呼気ガス採集で
調べる
酸素摂取量に対し二酸化炭素}
(または換気量)の急激な上昇が
起こる地点がVT
VTの測定
Heart Rate Threshold;HRT
心拍数から推定する方法
(最大心拍数 - 安静時心拍数)×係数+安静時心拍数
例) (200 - 45)×0.8 + 45≒170
ATの臨床的意義・有用性
AT=VO2max×50%からATからVO2max推
定が可能。VO2maxのcriteriaであるVO2の
leveling offが出現するまでclientに高負荷を
かけなくても良い。
重症度判定
治療効果判定
運動処方の目安
心不全と呼吸不全の鑑別
AT level以下の運動の特徴
•
•
•
長時間持続可能
組織の疲労低(疲労物質lactateの持続的
上昇がない)
血中catecholamineの顕著な増加がない
※ catecholamine
心臓に作用する自律神経系(副交感神経)
亢進を示す物質で心臓負担量が低いことを示す
•
運動強度増加に対する心機能応答が
保たれている
※ 心疾患patientはAT level以上でEF低下を示す
例が多い
ATを越えた運動強度の反応
•
息切れの出現
CO2呼出量の増加による
心疾患例で左室駆出率の低下
健常者で交感神経活性が副交感神経活
性よりも亢進
血中norepinephrine濃度上昇