金正日体制の除去と韓国による朝鮮半島統一への 施策について 岸 本 建 夫 はじめに Ⅲ.日本の立場―拉致の解決が第一=対北圧力の継続 Ⅰ.北朝鮮はなぜ、拉致や覚せい剤輸出などの犯罪に手 と強化 をそめたのか?―市場経済化への転換失敗による体 Ⅳ.今後の見通し―圧力による金正日体制の除去と南 制行き詰まりの証明 北平和統一 Ⅱ.韓国の立場―交流持続による韓国経済の繁栄の維持 はじめに 義封じ込め政策をとっていた。ベトナムなどではフラン スの植民地主義も“健在”であった。それに対して、中 私は、1960年代後半の学生時代、岡田春夫社会党議員 国も朝鮮もベトナムも、まずは独立であり、覇権の力は (後に衆議院副議長)の仕事を今でいう秘書のinternship 弱く、防衛的だった。そういった状況の下では、アメリ のような形で(朝食会の記録取りなど)手伝ったことが カの覇権的軍事行動を批判し、共産圏への敵視政策では ある。岡田さんは、「平和同士会」のメンバーであり、 なく、社会主義国との国交正常化、友好関係の樹立とい 平和問題にはことさら関心が深かった。岡田さんは、自 う運動を行う事に意味があった。最終的にはアメリカの 衛隊が米韓と秘密裏に、日米韓による対北朝鮮軍事作 ベトナム戦争敗北を踏まえた、ニクソン訪中による対中 戦=「三ツ矢作戦」を研究していたのを、国会で暴露し 政策転換=封じ込め政策の放棄に対応し、日本では田中 政府を追及したが、この秘密作戦の存在は当時社会的に 内閣による日中国交正常化へとつながっていった。 大問題となった。 しかし、中国は、アメリカとベトナムの間に和平が成 私はまた、横田めぐみさんの拉致より、20年近く以前 立した直後、 「‘制裁’戦争」と称して、ベトナムへ侵攻 になるが、父親が横田滋さんと同様、日本銀行に勤務し、 した。さらには、95年、台湾の選挙の際に、自分にとっ 新潟支店に配属されていた時期がある。めぐみさん御家 て好ましくない候補が当選しないよう台湾国民を脅すた 族と同じ新潟市内の社宅所在地に住み(同じ家か隣の めに、ミサイルを台湾付近へ打ち込むなど、武力にたよ 家)、私はめぐみさんが卒業した新潟小学校に、兄はめ る覇権的性格をあらわなものにした。北朝鮮は、日本に ぐみさんが在籍していた寄居中学校へ通っていた。 向けてミサイルの発射実験をするなど、これまた大きな 以上のことから、北朝鮮、とりわけ拉致問題には強い 脅威となるにいたった。 関心を持っている。大学と大学院では、社会主義経済論 社会主義国の政治体制は、政府を批判する言論の自由 を専攻した。おもに中国を対象とし、北朝鮮についてそ も、政治的グループ結成の自由もない、共産党(労働党) れほど詳しく研究はしなかったが、私の見方にも有意義 独裁体制下の、人権蹂躙がはなはだしいシステムであっ な点があると思い、以下のnoteを公にすることにした。 たが―資本主義陣営も独裁国家は多かったが―、経 済体制もまた、政府の計画経済という名の統制・配給経 Ⅰ.北朝鮮はなぜ、拉致や覚せい剤輸出など の犯罪に手をそめたのか?―市場経済化へ の転換失敗による体制行き詰まりの証明 済であり、資本主義市場型経済と比較して劣後している ことが、しだいに明確になっていった。 中国は軍事的には覇権的性格を維持しつつも、経済的 には、プロレタリア文化大革命という激しい権力闘争を 第2次大戦後、ベトナム戦争で明確に現れていたよう へて(「文革」は守旧派の表現であるが)、 小平らの市 に、アメリカは極めて覇権的であり、武力による社会主 場導入派が勝利することで、市場経済化に踏み切り、ア −181− 政策科学 11−2,Jan. 2004 メリカをはじめとした資本主義経済諸国との経済交流を きるということ―これこそ、太陽政策が、ほかになん 進める中で、経済の停滞から脱出する改革・開放路線へ の成果も上げていないにもかかわらず、韓国国民に支持 と転換した。ベトナムはドイモイ政策への転換によって、 されている理由であるが―それと、北に金を落とすこ 同様な制度改革に踏み切った。 とができるということで、北への観光(家族面会訪問) ソ連、東欧では単に市場経済化にとどまらず、政体も 事業はこれからも継続されるだろうが、投資の受け入れ 共産党一党独裁体制を放棄し、議会制民主主義へとまさ 基盤(社会システム)のない北に、韓国経済界が積極的 に体制変革=革命(守旧派からみれば反革命)をなしと に投資をして、北の経済を発展させることなど不可能だ。 げた。 そんな効率の悪いところに、投資していたのでは(例え、 それに対して、唯一北朝鮮だけが、市場経済化勢力が 台頭せず路線転換に失敗した。なぜ、失敗したのかとい いくら労賃が安くとも)、これまで苦労して築き上げて 来た韓国企業の国際競争力は失なわれてしまう。 えば、資本主義である韓国との厳しい敵対関係が続く中 一方、拉致のような犯罪行為は、「もう新しい拉致は で、社会主義「計画」経済の優越性を強調せざるをえな 止めたから、問題解決であり、これ以上追求するな」と かったとともに、市場経済化への転換は、東ドイツと西 いう性質のものではない。まだ、不明の被拉致者が、数 ドイツとの関係でそうであったように、それは、韓国に 多く残っているわけで、拉致そのものが、終わったわけ よる北の吸収合併につながるとみられたため、それまで ではない。拉致問題が解決しなければ、日本の援助はも の権力を維持しようとした勢力が頑強に反対してきたた はやありえない。拉致や覚せい剤の密輸など、国家によ めであった。 る犯罪行為の実態が究明されれば、犯罪を行ったその統 しかし、統制と国際的孤立の政策を維持すれば、市場 治者のlegitimacy (正当性)は消失する。北の改革・開放 の論理は排除しつづけざるをえず、外資・技術の導入が 路線への転換は、金正日が放逐されなければありえない。 できないため、国際競争力をもった輸出産業が育たない。 東条英機が戦後も政権をつかさどることは、ありえなか その結果、南の体制を混乱させるために、その要人暗殺 ったのと、同じである。 を試みたり、外貨獲得には偽ドル札や覚せい剤を輸出せ ざるをえなくなり、一方、新しい技術・知識を有する人 材の育成もままならないため、人材を拉致してこなけれ Ⅱ.韓国の立場―交流持続による韓国経済 の繁栄の維持 ばならないような状況に追い込まれた。こうやって、国 金大中以後、韓国政府とそれを支持してきた韓国国民 家そのものが犯罪に手をそめてしまうようになった。 それでは、これからでも、市場経済化に舵を切ること は、とにもかくにも、北を経済支援でなだめつつ―結 は、できないのか? そして、国際社会の責任ある一員 果的には、北の国民にはまったくか、ほとんど、まわら として参加することはできないのであろうか? それは ず金体制の延命に役立っているだけであるが―、問題 金正日体制の下では、もはや手遅れだろう。まず、金体 をこれ以上悪化させずに、おとなしく、友好的に振舞っ 制にはその気がないし、能力もない。金大中大統領時代 てもらえるならば、南北友好→南北統一という誰にとっ に開始された韓国の太陽政策の下で、大胆な市場経済へ ても魅力的な金看板を下げることなく、南北間の離散家 の転換は行われなかった―これは北に与えられた絶好 族を含んだ人的交流と経済的交流を活発化させることを のChanceであったはずだ―。援助はただ政権の延命、 通じて、北を軟化・変化させることができると考えている。 現状維持の役割しか持てなかった。韓国は、今でも食料 同時に、韓国と朝鮮半島全体の安定をAppealするこ 支援で、北の体制をほそぼそと支えていこうとしている とで、韓国への先進国からの投資、支援(97年のような が、北へのエネルギー供給は、中国、アメリカに頼るし 金融・経済危機においては)を確保しつつ、また、中国 かない。韓国経済界は金大中の北への訪問にからんだ金 (ロシア)との投資、貿易を安定的に発展させていくこ 正日への不正賄賂送金が発覚した後、送金責任者である とで、これまで築いてきた経済的な繁栄を維持していき 財閥領袖の自殺へと事態が進展する中で、もはや北への たいと、考えているようである。そのためには、北とい 市場経済化支援の力を失なっている。 う暴力団におとなしくしていてもらうために、援助とい 南北の同一民族が、まったく不十分であるが、交流で う上納金を差し出すことを厭わない、という姿勢を変更 −182− 金正日体制の除去と韓国による朝鮮半島統一への施策について(岸本) 裁を実施し、金体制の崩壊を早める政策―その方が北 しないできている。 しかし、北は韓国のその意図を見透かし、危機を挑発 の人々にとっても、よいことなのだが―への転換を期 的に故意に演出することで、揺さぶりをかけ、韓国から 待しても無理だろう。韓国にとっては金正日体制崩壊ま より多くの譲歩と経済支援を得ようと画策している。そ で、現在のやり方をほそぼそと続けていくしか、ほかに れに対し、韓国政府は友好が演出できなければ、太陽政 方法はないのだろう。 策の破綻が誰の目にもはっきりしてしまうため、ユニバ ーシアードでも、北を参加させるために、また中途で帰 国させないためにも、北の理不尽な振る舞い=意図的な Ⅲ.日本の立場―拉致の解決が第一 =対北圧力の継続と強化 挑発に対して、一方的に謝罪し、とにもかくにも、表面 日本の立場には劇的な変化が出てきている。以前は、 的でしかない友好的交流を保とうと腐心しているのだ 自民党の金丸・野中(旧田中派)、外務省や朝日新聞そ が、この姿は哀れにさえ見えてくる。 そこにまた、韓国の歪んだNationalism=民族優先主 して、社会党、共産党の社会主義政党は、拉致やその他 義も、からんでいる。同盟国よりも敵である北を優先す の脅威・犯罪行為を無視・隠蔽することで、国交回復を るかのような態度である。民族分断は米ソが主導した冷 急ぎ、多額の援助開始によって、冷戦の最終的終結実現 戦の結果でもあるが、それについて韓民族は一方的な被 の名誉と援助にからむ利権の獲得という実利をえようと 害者ではなく、かれら自身にも要因がある。だからこそ、 考えてきた。また、それが、過去日本が侵略した北への 米ソの冷戦が終わり、東西ドイツは統一したにも関わら 償いの道であると主張してきた。 ず、朝鮮半島は分断したままになっている。そこには、 しかし、拉致の事実が、被害者家族の長期にわたる地 冷戦以外の朝鮮固有の理由があるからだ。アメリカより 道な努力の結果、しだいに国民に認識されるようになり、 も北が信用できるならば、ただちに、米軍の撤退を要求 これまで、野中や外務省などが、拉致を無視・隠蔽して すればよいだろう。アメリカ兵が事故(故意や攻撃では きた事実がしだいに明らかになってきた。かれらは、拉 ない)で、少女2名をひき殺したことを問題にするが 致のごとき“小さいこと”で、東アジアの平和実現とい ―それ自体は痛ましい事件であるが―、朝鮮戦争休 う大義(と自分の利益)を見失ってはならない、と信じ 戦後、北は一体何名の韓国人や日本人を故意に殺してい ていたようだ。 るのだろうか? その数を数えたらよいだろう。ノ・ム そして、拉致問題顕在化の後も、国交回復と援助によ ヒョン大統領は自身のかつての米軍撤退の主張を撤回し って、拉致問題も解決できるなどという、何の保証もな ている。アメリカに依存しながら、本質的に敵である北 い妄想を持ち続け、それが外交というものであり、プロ と無原則に友好をうたうことは、同盟国を裏切っている の世界の話だ、信じて疑わなかったようだ。しかし、世 事を知るべきである。アメリカ(軍事的抑止力)と日本 論の圧力によって、外務省も拉致を無視できなくなった。 の協力(経済援助の潜在力)がえられない時、韓国には 世論はすでに拉致の実態を認識し、その棚上げを許さ なくなっている。一般の日本人にとって、現在一番重要 ほとんど北との交渉力はない。 太陽政策は、結果として北の核開発を阻止できなかっ なことは、拉致および覚せい剤密輸などにみられる個人 たし、韓国の拉致問題も(これを韓国政府は無視・隠蔽 のレベルに迫る北朝鮮の脅威である。それを棚上げして してきたわけだが)、北の人権状況も改善できず、脱北 の国交回復や経済援助は、もはや、ありえない。われわ 者も続々と発生している。北への不正送金が暴露され、 れは犯罪者を対等な交渉・対話の相手にはできない。基 韓国経済界はこれ以上、北への肩入れをつづけるわけに 本的には要求であり、圧力である。日本としては、北の は行かなくなっている。もはや、韓国には、北を経済的 脅威を根底に据え、核、拉致、その他の問題に対処(= にこれ以上支える余裕はない。北への観光を少々企画し 対話ではなく圧力)をしていく姿勢しか、ありえない。 たところで、北の外貨事情の好転にはまったく役立たな いだろう。北の経済の現状維持は困難である。太陽政策 の破綻はもはや誰の目にもはっきりしている。韓国は当 事者能力を失いつつある。しかし、韓国政府に、経済制 −183− 政策科学 11−2,Jan. 2004 Ⅳ.今後の見通し―圧力による金正日体制 の除去と南北平和統一 れておこなうテロだが、もし北朝鮮が日本国内でサリン をまけば、それは明らかにテロ攻撃という戦争行為であ る。この場合でも、北の仕業であることが判明すれば 韓国に北朝鮮援助の余力がなく、日本が援助しなけれ (日本の公安は既に監視体制を強めているだろう) 、日米 ば、中国の負担は増える。中国は一方では、北の市場経 安保条約の規定からいっても9・11以後のアメリカの反 済化転換による支援の負担軽減を望んでいるだろうが、 テロ戦争政策からいっても、アメリカは直ちに報復攻撃 他方、北は資本主義に対する防波堤でもある。したがっ (=結果として北の壊滅)するだろう。そのためには、 て、北の本格的な体制変換は望んでいない。中国は北に 日本政府はこのような攻撃は日米安保条約発動の対象で 核開発を放棄させる見返りにアメリカや日本からの体制 あることを言明しておくべきだ。そうしておけば、北は 延命の経済援助を望んでいるだろう。 そのような行為には出られない。 現在、日本からの経済援助はほとんど停止された状態 あまり追い詰めると暴発するのではないかと、腰が引 になっている。時間が経つにつれ、北の体制の崩壊が近 けた対話交渉をするのではなく、拉致問題解決要求を前 づくだろう。韓国とアメリカの食料援助で、食糧事情は 面に出し、具体的な圧力をかけていくのが、正しい交渉 改善しているとの話もあるが(韓国政界筋)、脱北者が の仕方だ。これによって、北が6カ国協議に出席しなか とまらない現実は、それを十分裏付けしているとは思わ ったり、その席を中途で蹴って帰国したところで、援助 れない。ともかく南北友好が、韓国の安全保障と経済の への道筋が遠のくことによって困るのは、北でしかない。 安定につながると信じる韓国政府に対し、北は故意に国 アメリカに拉致問題を日本とともに全体協議のテーブル 境での小競り合い的武力行使や拉致で、脅威を作り出し から外さないことを他の4か国に要求することを要請す てきた。それに対し、韓国は抗議よりも、なだめようと、 べきだ。日米が圧力をかけ続け(援助しない/拉致問題 経済援助を貢いでいる。 解決要求)、政権崩壊の危機が近づけば、金正日はあき 経済援助が北の経済改革に役立つのならば意味がある が、たんなる延命でしかない。北は援助がほしいから、 らめ亡命の道をとり、暴発はないだろう。南北の平和的 統一は不可能ではない。 脅威を作り出しているわけで、拉致などの非正規で、隠 アメリカ政府の関心は核放棄だが、核がアメリカ本国 れた戦争はしても、通常の本格的な戦争をしかけるつも の脅威とでもならないかぎり、アメリカは先制攻撃など りはない。いわゆる暴発の心配はない。 はしない。アメリカはテロ撲滅を大義名分に、フセイン 北自体がそのようなリスクをとる可能性はない。もし 政権打倒のためにイラクを攻撃、占領したが、イスラエ 戦争をはじめれば、それこそ金正日体制の終焉でしかな ルへの脅威の除去(イラクは反イスラエルの有力国家) い。日本を仮に核攻撃すれば、日本には多くのアメリカ とアメリカの安全保障に直接かかわる石油資源の確保が の兵士・民間人が住んでおり、かれらの多くが犠牲にな 本音である。北朝鮮は東アジアという、それ自身を除け るだろう。9−11で示されたように、アメリカは必ず報 ば、比較的安定している地域にあり、石油資源もない。 復する。 アメリカが先制攻撃をしなければならないほど重要な国 さらに、すすめて、アメリカの報復を計算にいれ、い ではない。核放棄がなければ援助はしないし、核放棄の ずれにしても体制崩壊だと運命をさとった金正日が自分 見返りとして、これまでの悪事に褒美を与えるような経 と心中させるために、戦争をはじめる危険はないだろう 済支援をする可能性は低いと思われる。 か? それは、ありえないと思うが、可能性を完全に排 しかし、核の開発をやめれば、政権の存続を許し、し 除するのであれば、あらかじめ亡命受け入れを示唆して ばらく後に経済援助するという条件をアメリカ政府は出 おけばよいだろう(エネルギー供給などの負担で、北の す可能性がないとは言い切れないかもしれない。この案 体制を支えきれなくなった中国に最後は金一派を引き取 は周辺国すべての政府(日本では外務省)が歓迎する案 らせれば、よい)。 である。その結果、援助が始まる可能性がある。しかし、 一般に核の脅威が問題にされているが、実は核は、上 で述べたように、それほどの脅威ではない。実際には使 日本の援助の規模は大きくはならないだろう。いずれに しても、引き続き拉致問題は解決しない。 えない兵器であるからだ。むしろ恐いのは、かれらが隠 −184− そうなれば、やはり、日本の世論がさらに硬化し、 金正日体制の除去と韓国による朝鮮半島統一への施策について(岸本) (韓国でもこれまで政府がまったく拉致を無視してきた 中国が自分の息のかかった市場経済派の者に政権をと が、韓国の拉致被害者家族も活発に活動し始めた)、援 らせようとするかもしれないが、同一言語、同一民族の 助は継続できなくなるだろう。 統一のなかで、南北の市場の統一化が実現し、韓国の主 そうすると、上の圧力のシナリオに戻る事になる。圧 力かける、すなわち援助せず、兵器や麻薬の密輸なども 動力が強まり、中国の影響力は小さいものにとどまるだ ろう。 その時、北軍の一部が抵抗しないだろうか? 独裁者 厳しくとりしまる政策が、再び取られる事になる。さら に、経済制裁の実施へと進むだろうし、進めるべきである。 が亡命した軍隊が、戦うことは考えられない。脱北者 その間、北は拉致被害者およびその家族の解放を条件 (難民)が現在すでに続々と発生しているということは、 に身代金を要求するなど、さまざまな揺さぶりをかけて 北の住民は外のことを知っており、少なくとも、南の方 くるだろう。金額がたいしたことなければ、応じてやっ が北よりもBETTERだと思っているわけであるから、韓 てもいいかもしれない。北の体制を肯定し、延命させる 国軍が進駐すれば住民は歓迎しても、抵抗する気はない ようなやり方や金額であってはならないが、はした金で ことを示している。(イラクとは違う。アメリカのイラ 被害者が早期に解放されるのなら、それでもよいかもし ク先制攻撃と占領はまったくの失敗である。イラクでは、 れない。わずかな金額の身代金なら、北の体制の崩壊を 国民は自由に制限はあったが、石油産出国で基本的に豊 妨げない。 かであり、飢餓も難民もなかった。フセインは降伏も亡 拉致被害者をなかなか、解放しない場合は、圧力をど んどん高めていく必要がある。被害者とその家族の苦し 命もしていないし、国民はアメリカ軍占領後も難民とな るのではなく、占領に抵抗している。) みはますます深まるわけであるから、北は事態を悪化さ 金体制崩壊時に難民が大挙して周辺国に流れ出るかも せていることに他ならない。状況が判明している家族の しれない。それによって周辺国は困るなどとの見方があ 即時解放を要求し、それに応じなければ、直ちにより強 る。そうなれば、確かに周辺国は困る。バルカン半島で 硬な措置、例えば、万景峰号の来航阻止、送金禁止など、 は難民が大挙して流出した。周囲は困るし、難民化は大 を取らねばならない。 きな人権問題ともなった。そのため、NATO軍が介入し 数年の内に体制崩壊するように、さらに手立てを講じ 独裁者を排除した。金体制が崩壊し、難民が大挙して発 る必要がある。まず、上でのべたようなより一層の圧力 生するという事態は、すでに国内の統治機能が麻痺して をかけ続けることである。それによって、北の中に潜む いるということであるから、その時こそ、韓国軍が介入 体制改革派が姿をあらわし(北から亡命した黄労働党書 し、韓国による朝鮮半島統一を実現すればよい。統治機 記長は、 「いないわけでない」 、と言明している)金正日 構がほとんど麻痺状態の下で、北軍の抵抗はありえない。 を倒す情勢を生まれやすくする、同時に、日本とアメリ 韓国軍は北の住民にとって、ベトナムやイラクの住民に カが金一派の亡命を仕掛ける―つまり、中国に受け入 とっての米軍のように、ゲリラ戦をしてでも抵抗する相 れさせる―、ことでかれらを亡命させ、金体制を崩壊 手であろうか? させる。独裁者の亡命はフィリピンのマルコスのハワイ 朝鮮半島が韓国によって統一される、その時になって、 亡命など、多くの例がある。その時点で、韓国と国際社 日本は大規模な経済支援をする方が、今するより、よっ 会が改革のために、官民の人材を送りこみ、改革を実施 ぽど効果的である。過去の清算を遅らしているのは、金 すればよい。 正日であって、日本ではない。 2003.9.7. −185−
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