震災と学校 - 宮城教育大学

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2012年
VOL.34
月号
掲載
今回の震災ではデータ的に見ましても
また、先生方が口をそろえておっしゃって
「学校」が果たした役割は大きかったと思い
いたのが、情報が伝わってこなかったという
ます。安全な場としての学校 という認識
ことと、子どもたちが学校外にいる時に災
も今後は定着してくるでしょうし、それにと
害が起きた場合はどうするのかということ。
もなって行政や地域とどこまで役割分担を
登下校の途中、塾や習い事へ向かう途中に
するかというすり合わせも必要になってく
何かあったら…。これがとても難しいんで
ですから、学校という場所を信頼して、
です。保育所や子ども園についてはまだ手
元にデータがありませんので断言はでき
ませんが、お母さん方には「学校はかなり
安全だ」ということを知っていただきたい
です。
また、先生方の生の声を聞いて驚いた
のが、子どもたちは地震や津波を怖がって
泣く、混乱するというよりも、お母さん、お
父さん、きょうだいを気にする。我が身より
も家族のことを心配して泣いていた子が
先生の声から考える
多かったということ。この事実もお母さん
宮城教育大学・教育学コース
田端 健人
震災と 学校
先生
は、あなたが大丈夫じゃなければ、お母さ
んも心配するよと話して学校の指示に従
博士(教育学)。都留文科大学、横浜国
立大学、聖路加看護大学、東京大学等
の非常勤講師を経験。2001年より宮
城教育大学教育学部准教授。人間学
や哲学の手法を用いて教育実践研究を
行っている。著書に「『 詩の授業 』の現
象学」
(川島書店・2001年)
などがある。
東日本大震災からまもなく1年を迎えようとしています。
うように指導したそうなんです。だから、日
ごろから、親御さん方が「私は大丈夫だか
ら」
としっかりお子さんに伝えておくことも
大事なのではないでしょうか。
調査を進めてみますと、岩手県釜石市と
いう地域はやはり特別だったと思いますね。
震災での教訓を明日へ活かそうとさまざまな取り組みが進められていますが、
「学校」はどうなるのでしょうか。
「教師たちの3・11−学校現場の記憶−」と題し、被災地の先生方に聞き取り調査を行っている
宮城教育大学の田端健人先生に詳しいお話を伺いました。
学 校を信 頼する
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方にぜひ知っていただきたいです。先生方
学 校の力 、先 生の力 、子どもの力
学校の判断を認めてあげる。幼稚園もそう
るかと思います。
す。
この部分を重点に置いた防災教育も考
学校の対応能力は限られています。避難
えていかなければならないと思います。
所の管理運営など、当面は先生方が対応し
家庭でも同じことが言えます。精神的に
ても、行政や地域本部に移行するのが本来
震災と向き合うことがお辛いというご家庭
のあり方です。
しかし震災では、地域本部が
もあるでしょうが、もう大丈夫だというお宅
立ち上がらなかったり行政も手いっぱいと
では、いち早く防災マップを作っていただ
いうケースがあり、現場の先生方は本当に
きたいです。万が一の場合、お父さんはこ
ご苦労なさったようです。
こに行くよ、お母さんはここで待ってるよ、
聞き取りをしていますと、先生たちって
という風にお互いの行動を確認してみてく
本当に頑張るんですよ。教育者として子ど
ださい。遊園地で楽しむのもいいですが、
もたちを守るのはもちろんですが、地域の
地図を囲んで防災を考える、
シミュレーショ
中の学校 だからと地域のために黙々と頑
ンすることも十分に実りのある休日の過ご
張っていました。仙台市内のある小学校で
し方なのではないでしょうか。もしかする
は、多数の帰宅難民が押し寄せて、それを
と、
「うちの子はこんな風に考えているの
先生方が切り盛りしたんですが、想像を絶
か」
とお子さんの意外な一面を発見できる
するような体験談でした。
かもしれませんよ
(笑)。
学校外にいた小中学生の避難率が100%
それに毛布が足りないとなれば、カーテ
意外、と言えば、震災時に子どもたちの
で、避難の成功例として 釜石の奇跡 など
ンで代用する。おむつがないときも給食着
意 外な面を知ったという声も聞きました
と言われています。
これは群馬大の片田敏
などで簡易版を作る。紙コップがないから
ね。子どもたち同士が励まし合ったり、避難
孝教授(災害社会工学)
と釜石市と学校が
プリント用紙を折って作る。先生方はその
所では大人に混ざって積極的にお手伝いを
協力し合って、数年前から防災教育、訓練を
ようなことまでできるのかと非常に関心し
したり。子どもたちはいつも明るく、
しっか
徹底していたからこそ。学校で習得した防
ましたね。たくさんの人たちが来たら色分
り振舞っていたと。その姿を見て地域の大
現在行っている調査は、宮城県を中心と
調査にご協力いただいている先生は十
災教育や訓練を家庭で伝える、
また、僕は僕
けをしてグループ化する、管理する。中には
人たちが励まされ感銘を受けたと、たくさ
した被災地の小・中学校、高校の先生方を
数名。ですから一人ひとりの先生の声を大
で逃げるから、お母さんはお母さんで逃げ
子どもの靴のサイズまで把握していた先生
ん聞きました。そしてふだんは頼りなさそう
対 象に、震 災 当日から数ヶ月間 の 体 験を
事にするスタンスで、量と言うよりも質的
て、
といった共通理解があったことが、功を
もいたそうです。つまり先生たちは大きな
に見える子どもでも、実はこんな力を秘め
語っていただくというインタビュー形式の
な内容になっています。先生方の地域や立
奏したんだと思います。
ところから細かなところまで対応できるの
ていたのか、そ の 力を教 育 現 場でもっと
調査です。先生方が何を体験し、子どもた
場もさまざまで、体験も千差万別ですが、
震災をきっかけに、改めて家族でコミュ
です。これは日ごろから子どもたちを個々
もっと引き出してあげたいと、多くの先生
ちと地域住民をどのようにケアし、どのよ
調査全体を通して感じたことは、先生方の
ニケーションをしっかり図っておくことが
で、集団で、対応しているからこそ。
「 先生」
方がおっしゃっていました。
うな社会的責務を果たしたのか、その貴重
機転と行動力により、多くの子どもたちと
必要なのではないかと思いますね。
という職業は、やはり専門性と能力が高い
あの震災からまもなく1年を迎えますの
な体験を記録・整理しています。被災地の
地域の方々が救われたということです。
んだなと改めて感じました。
で、これらの貴重な声をいったんまとめる
先生方には共感と励ましのメッセージを送
一部の学校管理下での惨事がクローズ
今後も今回のように避難所の運営まで
つもりです。そして今後も継続的に研究し
り、被災地外の先生方には、学校教諭が果
アップされ、学校という場所は批判されが
学校が担うことになるのであれば、それな
ていき、危機管理に関する学校や行政のシ
たす役割や責任についてより広く深く理
ちですが、圧倒的多数は、学校にいたから
りのマニュアルや訓練、研修、補償などいろ
ステム改善に役立てていただきたいと思い
解していただき、今後の災害時に活用して
こそ助かっていたことがわかりました。そ
いろな面を充実しなければならないと思い
ます。
いただくことを目的としています。
れは数値にも出ています。
ます。
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