1.臨界近接(KUCA 実験テキスト) Ver.7-2.0 付録 1C: 2群拡散理論による臨界計算 ここでは、事前レポートの課題である2群拡散理論による臨界計算について述べる。 以下の説明では、炉心は直方体で、その周りを反射体が取り囲んだ体系を対象として、2群拡散方程 式を解き、臨界寸法及び中性子束分布を求める。 1C・1 バックリングを用いた拡散方程式の1次元化 テキスト中で説明したように、反射体付きの均質原子炉における2群拡散方程式は、炉心部、反射体部 について、それぞれ2つ、合計4つの方程式の組からなる。各方程式の、各項の物理的意味をもう一度確 認しておいて欲しい。 炉心、第1群: D1 c∇ 2 φ1 c − (Σ1 ac + Σ1 →2 c )φ1 c + ενΣ 2 f φ 2 c = 0 (1C-1) 炉心、第2群: D2 c∇ φ2 c − Σ 2 ac φ 2 c + Σ1 →2 cφ1 c = 0 (1C-2) 反射体、第1群: D1 r∇ φ1 r − (Σ1 ar + Σ 1→ 2 r )φ1 r = 0 (1C-3) 反射体、第2群: D2 r∇ φ 2 r − Σ 2 arφ 2 r + Σ1 →2 rφ1 r = 0 (1C-4) 2 2 2 まず、次のことを仮定する。 中性子束 φ ( x, y, z ) は x 、 y 、 z それぞれに変数分離でき、 φ ( x, y, z ) = φ ( x)φ ( y )φ ( z ) とかけ る、 さらに、y および z 方向の中性子束分布は、コサイン分布で表される、すなわち、y および z 方向の 炉心寸法を b 、 c とおいて、次のようにかける。 π π φ ( x, y, z ) = φ ( x )cos( y )cos( z) b c (1C-5) 今、反射体付きの炉心を対象としているので、上の「炉心寸法」として、実際の体系の寸法を、外挿距 離 δ で補正した値、 b = y0 + 2δ 、 c = z 0 + 2δ 、 (1C-6) (1C-7) を用いる。 このとき、中性子漏れの項に現れる ∇ 2 φ = ∇ 2φ ( x , y, z) は、簡単な計算により d 2φ ( x) π π 1 1 2 ∇ φ= − + x y π φ ( ) cos 2 2 2 y + 2δ cos z + 2δ y + z + δ δ ( 2 ) ( 2 ) dx o o o o 2 z (1C-8) 1-44 1.臨界近接(KUCA 実験テキスト) Ver.7-2.0 と表される。ここで、垂直方向(y、z方向)のバックリングを 1 1 B⊥2 = π 2 + 2 2 ( z o + 2δ ) ( yo + 2δ ) (1C-9) と定義すると、(1C-8)式は π d 2φ ( x) π ∇ 2φ = − B⊥2φ ( x) cos y cos 2 dx y o + 2δ z o + 2δ z (1C-10) となる。(1C-10)式を2群拡散方程式に代入し、y、z 方向を示す cos の項を消去すると、x のみを変数 とした次の式が得られる。 d 2 φ1c ( x) − (Σ1 ac + Σ1 →2 c + D1c B⊥2 )φ1c ( x ) + ενΣ 2 f φ 2 c ( x ) = 0 dx 2 d 2φ 2c ( x) D2 c − (Σ 2 ac + D2 c B⊥2 )φ 2c ( x) + Σ1→ 2cφ1c ( x) = 0 dx 2 d 2φ1r ( x) D1r − (Σ1ar + Σ1→2 r + D1r B⊥2 )φ1r ( x) = 0 2 dx 2 d φ 2 r ( x) D2 r − (Σ 2 ar + D2 r B⊥2 )φ 2 r ( x) + Σ1→2 rφ1r ( x) = 0 2 dx D1 c (1C-11) (1C-12) (1C-13) (1C-14) これらの式は、3次元空間に対する式であった元の2群拡散方程式(1C-1)~(1C-4)式と比較すると、 2 x に関する1次元の式であることと、左辺第2項に、 DB⊥ という項が付加されていることがわかる。 2 2 この DB⊥ という項は、y、z方向への漏れを表すものであり、 DB⊥ が左辺第2項に加えられているという 物理的意味は、漏れによる体系からの消滅を、仮想的な吸収と見なしていることに相当する。この考え方 2 にたって、 DB⊥ を擬似吸収項と呼ぶ。すなわち、垂直バックリングを導入することにより、陽に扱わない方 向の漏れを、吸収、あるいは散乱による除去といった消滅と同一視して扱っていることになる。 以下、連立方程式(1C-11)~(1C-14)を解く。 1C・2 炉心部の中性子束 まず、簡単のために、 Σ1c = Σ1ac + Σ1→2 c + D1c B⊥2 (1C-15) Σ 2 c = Σ 2 ac + D2 c B (1C-16) 2 ⊥ とおく。 Σ1c 、 Σ 2 c は、吸収、散乱(によるエネルギー減少)、漏れにより、それぞれ、第1群あるいは第2群 から除去される断面積である。 1-45 1.臨界近接(KUCA 実験テキスト) Ver.7-2.0 次に、 φ1c ( x) 、 φ 2 c ( x) が、次のような形で表されるとする。 d 2φ1c ( x) + B x2φ1c ( x) = 0 dx 2 d 2φ 2 c ( x ) + B x2φ 2c ( x) = 0 2 dx (1C-17) (1C-18) これを用いると、(1C-11)式と(1C-12)式はそれぞれ次のように表される。 − D1c B x2φ1c ( x) − Σ1cφ1c ( x) + ενΣ 2 fcφ 2 c ( x) = 0 (1C-19) − D2 c B x2φ 2 c ( x) − Σ 2 cφ 2 c ( x) + Σ1→ 2cφ1c ( x) = 0 (1C-20) (1C-19)式、(1C-20)式を行列で表すと次のようになる。 φ1c ( x) 0 = − D2 c B x2 − Σ 2 c φ 2c ( x) 0 ενΣ 2 fc − D1c B x2 − Σ1c Σ1→2 c (1C-21) この連立方程式が、自明な解(中性子束=0)以外の解を持つためには、行列式=0、すなわち、 (− D1c B x2 − Σ1c )(− D2 c B x2 − Σ 2 c ) − ενΣ 2 fc Σ1→2 c = 0 (1C-22) 2 でないといけない。これを整理すると、次の B x に関する2次方程式が得られる。 D1c D2 c ( B x2 ) 2 + ( D1c Σ 2 c + D2c Σ1c ) B x2 + (Σ1c Σ 2c − ενΣ 2 fc Σ1→2 c ) = 0 (1C-23) B x2 の2つの解を µ 2 、 − λ2 とおくと、2次方程式の解の公式より、 µ2 = [ ] 1 − ( D1c Σ 2c + D2 c Σ1c ) + ( D1c Σ 2c + D2 c Σ1c ) 2 − 4 D1c D2c (Σ1c Σ 2c − ενΣ 2 fc Σ1→2c ) 、 2 D1c D2c (1C-24) [ ] 1 − λ2 = − ( D1c Σ 2 c + D2 c Σ1c ) − ( D1c Σ 2 c + D2 c Σ1c ) 2 − 4 D1c D2 c (Σ1c Σ 2 c − ενΣ 2 fc Σ1→2 c ) 、 2 D1c D2 c (1C-25) となる。よって、 φ1c ( x) の一般解は、 d 2 X ( x) + µ 2 X ( x) = 0 2 dx 1-46 (1C-26) 1.臨界近接(KUCA 実験テキスト) Ver.7-2.0 d 2Y ( x ) − λ2Y ( x) = 0 dx 2 (1C-27) φ1c ( x) = AX ( x) + CY ( x) (1C-28) をみたす X ( x), Y ( x) の線形結合 で表される。同様に、 φ 2 c ( x) の一般解は、 φ 2c ( x) = A' X ( x) + C ' Y ( x) (1C-29) となる。 ここで、 X ( x), Y ( x) は x=0 に対して対称であるという条件から、 X ( x) = cos( µx) Y ( x) = cosh(λx) (1C-30) φ1c ( x) = A cos( µx) + C cosh(λx) φ 2c ( x) = A' cos( µx) + C ' cosh(λx) (1C-32) (1C-31) であり、 (1C-33) と表される。 ここで、 A と A' 、 C と C ' との関係を求めるために、(1C-32)式と(1C-33)式を(1C-20)式に代入して、 整理し、次の式を得る。 Σ1→ 2c A' = A D2 c µ 2 + Σ 2 c Σ1→ 2c C' = S2 ≡ C − D2 c λ 2 + Σ 2 c S1 ≡ (1C-34) (1C-35) ここで得られた S1 、 S 2 は結合係数と呼ばれ、第1群の中性子束と第2群の中性子束との関係を示すパラ メータである。 1C・3 反射体部の中性子束 次に、反射体部における中性子束の表式を求める。 炉心部における扱いと同様、簡単のために、 Σ1r = Σ1ar + Σ1→2 r + D1r B⊥2 (1C-36) Σ 2 r = Σ 2 ar + D2 r B (1C-37) 1-47 2 ⊥ 1.臨界近接(KUCA 実験テキスト) Ver.7-2.0 とおく。 Σ1r 、 Σ 2 r の定義は炉心部のものと同一である。 次に、第1群に対する方程式、(1C-13)式 d 2φ1r ( x) D1r − Σ1r φ1r ( x) = 0 dx 2 (1C-38) d 2φ1r ( x) − κ 12r φ1r ( x) = 0 2 dx (1C-39) κ 12r ≡ Σ1r D1r (1C-40) を と表す。ここで である。 (1C-39) 式を満たす解のうち、無限遠で 0 となるものは F を任意定数として φ1r ( x) = Fe −κ 1r x (1C-41) とあらわされる。 次に、第2群の方程式、(1C-14)式 D2 r d 2φ 2 r ( x ) − Σ 2 r φ 2 r ( x) + Σ1→2 r φ1r ( x) = 0 dx 2 (1C-42) を Σ d 2φ 2 r ( x ) − κ 2 r φ 2 r ( x) + 1→ 2 r φ1r ( x) = 0 2 D2 r dx (1C-43) κ 22r ≡ Σ 2 r D2 r (1C-44) と書く。ここで、 である。 次に、 φ 2 r ( x ) = F ' e −κ x 1r + Ge −κ 2 r x (1C-45) と表されると仮定し、これを(1C-43)式に代入して整理して、 (κ 12r F ' − κ 22r F ' + Σ1→2 r −κ x F )e 1 r = 0 D2 r (1C-46) を得る。 (1C-46) 式が任意の x について成り立つためには、 κ 12r F ' − κ 22r F ' + すなわち 1-48 Σ1→2 r F =0 D2 r (1C-47) 1.臨界近接(KUCA 実験テキスト) Ver.7-2.0 F ' Σ1→2 r D2 r = 2 F κ 2 r − κ 12r S3 ≡ (1C-48) が成り立てばよい。この S 3 は、第3番目の結合係数であり、反射体部の第1群中性子束と第2群中性子束 とを結びつけるものである。 1C・4 臨界行列式 以上の結果をまとめると、炉心、反射体部における中性子束は φ1c ( x) = A cos( µx) + C cosh(λx) 、 φ 2c ( x) = S1 A cos( µx) + S 2 C cosh(λx) 、 (1C-49) φ1r ( x) = Fe −κ (1C-51) 1r φ 2 r ( x) = S 3 Fe x (1C-50) 、 −κ 1 r x + Ge −κ 2 r x 、 (1C-52) と表される。 ここで、 (1C-49)式~(1C-52)式に対する境界条件を考える。すなわち、炉心と反射体部の境界におい て、第1群および第2群の中性子束と中性子流 J = D dφ dx がそれぞれ連続であるという条件を課す。 簡単のために、炉心の寸法を 2a とし、中性子束の導関数をプライム(’)をつけて表すと、この境界条件 は次のように表される。 φ1c (a) = φ1r (a) D1cφ1c ' (a ) = D1rφ1r ' (a) φ 2c (a) = φ 2 r (a) D2 cφ 2 c ' (a) = D2 rφ 2 r ' (a) (1C-53) (1C-54) (1C-55) (1C-56) これを計算して、次の方程式の組を得る。 A cos( µa) + C cosh(λa) = Fe −κ1r a − AD1c µ sin( µa) + CD1c λ sinh(λa) = − FD1r κ 1r e −κ1r a S1 A cos( µa) + S 2 C cosh(λa) = S 3 Fe −κ 1 r a + Ge (1C-57) (1C-58) −κ 2 r a − S1 AD2c µ sin( µa) + S 2 CD2c λ sinh(λa) = − S 3 FD2 r κ 1r e (1C-59) −κ 1 r a − GD2 r κ 2 r e −κ 2 r a A, C , F , G を未知数と見なして、(1C-57)式~(1C-60)式を連立方程式として行列表示すると、 1-49 (1C-60) 1.臨界近接(KUCA 実験テキスト) Ver.7-2.0 − e −κ 1 r a cos( µa ) cosh(λa ) D1c λ sinh(λa ) D1r κ 1r e −κ 1r a − D1c µ sin( µa ) − S 3 e −κ 1r a S 2 cosh(λa ) S1 cos( µa ) − S D µ sin( µa ) S D λ sinh(λa ) S D κ e −κ 1r a 2 2c 3 2 r 1r 1 2c A 0 C F = 0 −κ 2 r a −e D2 r κ 2 r e −κ 2 r a G 0 (1C-61) となる。 (1C-61)式が自明な解( A = C = F = G = 0 )以外の解を持つためには、 A, C , F , G の係数で作られ る行列の行列式が0であること、すなわち、 cos( µa ) − D1c µ sin( µa) S1 cos( µa ) cosh(λa ) D1c λ sinh(λa) S 2 cosh(λa ) − e −κ 1 r a D1rκ 1r e − S3e 0 −κ 1 r a 0 −κ 1 r a − e −κ 2 r a − S1 D2 c µ sin( µa ) S 2 D2c λ sinh(λa ) S 3 D2 r κ 1r e −κ 1r a =0 (1C-62) D2 rκ 2 r e −κ 2 r a であることが必要である。この行列式を臨界行列式と呼ぶことがある。行列式を計算するために整理して、 1 1 1 0 − D1c µ tan( µa ) D1c λ tanh(λa ) − D1rκ 1r 0 S1 S2 S3 − S1 D2 c µ tan( µa ) S 2 D2 c λ tanh(λa ) − S 3 D2 rκ 1r 1 − D2 rκ 2 r =0 (1C-63) これを計算すると、 µ tan( µa ) = (− D1r D2 c S 2κ 1r + D1c D2 r (κ 2 r ( S1 − S 3 ) + κ 1r S 3 ))λ tanh(λa) + D1r D2 r ( S1 − S 2 )κ 1rκ 2 r D1c D2c ( S1 − S 2 )λ tanh(λa ) + D1r D2c S1κ 1r + D1c D2 r ( S 3 (κ 2 r − κ 1r ) − S 2κ 2 r )) (1C-64) を得る。式(1C-64)をこれ以上解析的に解くことはできない。よって、適切な数値計算により a を求め、臨 界寸法を 2a として求める。 なお、より実際的な解法として、 λ の値、および、 a の近似値に基づいた近似解法がある。表 1-3 の定 数を(1C-25)式に代入すると、 λ は 0.6 程度の値となる。また、 a の概略値として、たとえば事前レポート1・ 4・3[a]の臨界近接実験のシミュレーションで得られた臨界寸法の 1/2 を採用すると、 tanh(λa ) ≅ 1 として もよいことがわかる(註:具体的に数値を代入して確認せよ!)。すると、(1C-64)式は µ tan( µa ) = (− D1r D2 c S 2κ 1r + D1c D2 r (κ 2 r ( S1 − S 3 ) + κ 1r S 3 ))λ + D1r D2 r ( S1 − S 2 )κ 1r κ 2 r D1c D2 c ( S1 − S 2 )λ + D1r D2c S1κ 1r + D1c D2 r ( S 3 (κ 2 r − κ 1r ) − S 2κ 2 r )) (1C-65) 1-50 1.臨界近接(KUCA 実験テキスト) Ver.7-2.0 となり、 a の近似解は a= 1 (− D1r D2 c S 2κ 1r + D1c D2 r (κ 2 r ( S1 − S 3 ) + κ 1r S 3 ))λ + D1r D2 r ( S1 − S 2 )κ 1rκ 2 r arctan µ D1c D2c ( S1 − S 2 )λ + D1r D2c S1κ 1r + D1c D2 r ( S 3 (κ 2 r − κ 1r ) − S 2κ 2 r )) µ 1 (1C-66) で求められる。この近似解は、arctan の計算ができる関数電卓などがあれば、煩雑な数値計算を行うこと なしに求められる11ことが大きな特徴であり、(1C-64)式を数値計算で解く際の初期値として使うと良い。 1C・5 中性子束分布 高速及び熱中性子束を求めるためには、 (1C-49)式~(1C-52)式に現れた定数 A ~ G の値を決定す る必要がある。しかし、原子炉が臨界の場合には、臨界行列式が成り立っているため、(1C-57) 式~ (1C-60) 式は互いに独立ではなく、定数 A ~ G を決定することができない。このため、4つの定数のうち、 ある一つを未知のままとして、残りの3つを未知定数を用いて表すことにする。ここでは、他の定数を A で 表すことにしよう。たとえば、 (1C-57)式と(1C-58)式、 − C cosh(λa) + Fe −κ 1r a = A cos( µa) CD1c λ sinh(λa) + FD1r κ 1r e −κ 1r a = AD1c µ sin( µa) より、 F を消去して、 C = −A D1rκ 1r cos( µa) − D1c µ sin( µa) 、 D1r κ 1r cosh(λa ) + D1c λ sinh(λa ) (1C-67) (1C-68) (1C-69) が得られる。以降、 (1C-57)式~(1C-60)式を適当に組み合わせて、 F および G を A を用いて表すこと ができる。 なお、中性子束分布をプロットする際には、中性子束を表す(1C-49)式~(1C-52)式において、適当な 規格化(例えば炉中心において φ1c ( x = 0) = 1 )を行うこと。 11 今回の臨界近接実験で扱う体系の場合、この近似解は十分な精度をもっている。 1-51
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