インドネシアのヒップスターやインドの IT ディベロッパーは シティ(街)の重要性を低下させる要因となり得るか? 2016 年 11 月 DAVID ALLEN 株式部門 グローバル・ヘッド 論点:シティ(都市)は次の「座礁資 産」となり得るか? 世界最古の都市メソポタミアから始まった人 口の都市移動は、約 1 万年という長期に 渡って継続しているトレンドです。今日、都 市人口は世界の半分以上を占め、人口 5 0万人超の都市は約 1,400 を数えます。 低炭素社会への移行に伴い化石燃料事業が直面する「座礁 資産化(資産の不良化)」リスクは、馴染みがある話題でしょう。 テクノロジーの進化やデモグラフィクス(人口統計)が人々の生 活に大きな変化をもたらしている今日、シティ(都市)はまだ必 要なのでしょうか? AMP キャピタルにおいて開催されたグローバル株式フォーラムでは、シティ(都市) が座礁資産となり得るかという話題を取り上げ、グローバル株式チームによる賛成/ 反対という切り口での討論が繰り広げられました。同レポートでは、各スピーカーの主 な要点、そして AMP キャピタルの社員やクライアントといったフォーラム参加者の意見 を取り纏めています。 都市化は世界的なトレンドであるものの、 北米の都市人口は全体の 80%であるのに 対し、アフリカの都市人口は全体の 40%に 留まるなど、その様相は地域によって様々で す。今回の議論における重要な検討事項 は次の通りです: > デモグラフィクスの変化 日本の就業者数がピークに達したのは 25 年前であり、その他数多くの国でも就業者 数がピークに達した又は達しつつある状況で す。一定の場所に縛られ ずに働く場合、 人々は都市を脱出するのか?それとも、そ の他の理由から都市に滞在し続けるのか? > テクノロジーの進化 テクノロジーの進化は、場所に縛られない働 き方や過疎地への宅配、遠隔治療を可能 にしています。 暫定意見 化石燃料資産の座礁化を議論する上で重要なのは、全ての資産にリスクがあるわけで マット・ホルト はない点です。これと同様に、全ての都市が「座礁化」するのではなく、リスクの度合い グローバル上場不動産 は都市によって異なります。以下は、都市を人口 50 万人以上と定義した場合の考察 共同ヘッド です。 都市は廃墟化する:歴史を見ても明らかな 用の貯蔵設備であり、これが防衛、売買/ つまり、一部の都市は住民のニーズを満たさ 通り、災害に見舞われたり、ニーズを満たさ 貿易、融資/金融といったニーズを生んでい なくなるでしょう。しかし、ここで問うべきポイン なくなった場合には、一度は繁盛した都市も ます。その後には産業革命が起き、今日のエ トは、住民のニーズを満たせるかではなく、住 廃墟化する可能性があります。バビロン、ポ レクトロニクス・レボリューション(電子革命) 民の欲望を満たせるか、です。過去 5 年間 ンペイ、イースター島、カルタゴ、マチュピチュ に至っています。 における豪州のデモグラフィックの変化をみる 等はこの良い例です。ニーズを満たさなくなっ たケースの例には、米国のバッファロー(全 米第 8 位の規模を誇った同市の人口は、 現在 25 万人以下まで減少)、デトロイト (全米第 5 位の規模から、現在は人口 100 万人未満)が挙げられます。 都市の重要性は低下:刻々と変化する経 済環境を受けて、これまで都市が果たしてき た役割の重要性が低下しています。例えば、 戦略爆撃や非対称戦争が広まった今日に おいて、伝統的な防衛手段はもはや機能し ません。貿易そして金融はグローバル化、製 都市が成長する理由:歴史を振り返ると、 造業は移転、そして単純労働は自動化され、 変化する住民のニーズに対応するために、都 ヘルスケアや教育はテクノロジーの活用を通 市は成長しています。最初のニーズは農業 じてより容易にアクセスすることが可能です。 アンディ・ガーデナー グローバル株式 ポートフォリオ・マネージャー と、団塊世代の 5 人に 1 人が大転換を図っ ています。 【まとめ】 選択肢が与えられた場合、人々は都 市を離れる 世界各地でその様相は異なるものの、未来はすでにここにあります。次に挙げる発展 を受けて、都市が「座礁化」するリスクの高まりは、時間の経過とともにより現実味を 帯びるでしょう。 デジタル遊牧民:2035 年までに世界人口は 能エネルギー技術、遠隔医療といった新興分 幅広く活用されており、医療分野では外科医 90 億人、うち労働人口は 60 億人となる見通 野の先駆者的存在です。 のトレーニング、ヘッドセットを活用したうつ治、 しです。この 60 億人の 50%、つまり 30 億人 は、フリーランス形態で働き、3 人に 1 人がオ フィス外から働く「デジタル遊牧民」となると予測 されています。 アフリカでは、チャットボットや電話を経由して医 療サービスや情報の提供を行う遠隔医療は、 相談窓口や軽度の健康問題の治療における 主要な手段として既に確立しています。これら デジタル遊牧民とは、インドのジャイパーで働く 技術の普及から、アフリカでは中国の様な密度 IT 開発者やバリのカフェで働くヒップスターなど、 の高いインフラ開発が行われる事はありません。 特定の仕事場を持たないフリーランサーです。 キャパシティ、そして需要が存在しないからです。 2035 年までに 10 億人に達するデジタル遊牧 民の多くを生み出すと見込まれているのは、新 興経済です。 テクノロジーが教育にもたらす変革:大規模 なオンラインの無料学習(MOOCs)は、ユダ 心的外傷後ストレス障害(PTSD)、アル コール依存症の治療などに活用されています。 VR が普及しているエンターテイメントやゲーム 産業では、そのユーザー数が 2020 年代初期 までに 250~300 億人に達する見通しで、余 暇時間の3分の2、余暇出費の 50%を取り 込む可能性を秘めています。 【まとめ】 バーチャル・リアリティや拡張現実、そして シティ、コーセラ、エドエックスによって提供されて デジタル遊牧民は、未来世代の行動を 新興経済におけるイノベーション:新興経済 おり、著名なイェールやハーバードでさえも、世 変化させるものであり、仕事、教育、エン の発展とともに、人口密度の高い都市生活に 界最高水準の教育コースを無料で提供してい 対するニーズは低下する可能性があります。世 ます。自宅学習やオンライン教育は急速に拡 ターテイメントや交流の場というこれまで 界で最も急速にモバイル普及が進むアフリカは、 大しており、バーチャル・リアリティ(VR)が果た 通信、モバイル・バンキング、ドローン、再生可 す役割の重要性が高まっています。VR は既に の都市の役割が脅かされるでしょう。 否定意見 都市は地球の未来であると考えます。この意見は、次の要因に基づくものです。 ジェームス・メイデュー グローバル上場不動産 共同ヘッド 人口拡大の圧力:拡大を続ける世界人口は、 バレーや世界的な金融ハブは、コネクティビティ の有効性を示す良い実例です。 今後 5 年で 380 百万人の増加が見込まれて います 。この伸びに対応するためには、現在か 1 を受けて、都市の繁栄は今後も続く見通しで 都市は各国経済のエンジン:一人当たり ら 2020 年までの間で、ロサンゼルス規模の都 GDP で見ても、国内経済をアウトパフォームし 市を年間 5 つ開発する必要があります。より長 ている都市の例は数多くあります。マドリッドはス 期で見ても、都市生活のトレンドは継続する見 ペインを 30%、ニューヨークは米国を 36%、ロン 通しです。世界資源研究所によると、世界人 ドンは英国を 72%、パリはフランスを 67%アウ 口の約 54%が都市部に住んでおり、2050 年 トパフォームしています 。驚くべきことに、都市 2 には 70%を占める見通しです。この見方は、図 経済は世界 GDP の 80%を占めているのです。 表2で示した国際連合による予想と合致して 生活の質:人口増加の寄与要因は様々です います。 が、これら全ては、人々が生活の質の向上を求 コネクティビティ:都市が選好されるのは、 人々がコネクティビティを重視するからです。コネ クティビティは、リソース、アイデアそして人々を結 ミレニアル世代の台頭:デモグラフィックの変化 す。ミレニアル世代は都市部を好み、77%が都 市中心部に住みたいと考えています。重要なポ イントは、2020 年までにミレニアル世代は労働 人口の 40%を占めるという点です。化石燃料 資産の座礁化は理解できるとしても、都市の 座礁化は道理にかなっているとは言い難いで しょう。 【まとめ】 21 世紀の地球にとって、90 億人に達す めている事に関連しています。世界最高峰の る見通しの世界人口にとって、持続可能 大学は都市に位置しており、一般的に病院も な都市化を図ることが必要不可欠です。 同様と言えます。人々は、カルチャー、ライフスタ ぶ接着剤であり、テクノロジーや金融といった知 イルや施設設備へのアクセスが容易な都市を 識集約型産業の発展において、従業員による 好みます。重度の都市化が既に進んでいる豪 アイデアや経験の共有は不可欠です。シリコン 州でさえも、都市化の進行が続いています。 1 ナイト・フランク、Global Cities 2016 Report 2 ナイト・フランク、Global Cities 2015 Report 図表2:都市的な集積地域の拡大、1950~2025 年 人口(百万人) 1950年 ロンドン (英国) 1975年 カイロ (エジプト) 2000年 ニューヨーク (米国) 2025年 ラゴス メキシコ・シティ (メキシコ) (ナイジェリア) 出所: 国際連合(UN)、World Urbanization Prospects: The 2007 Revision 上海 (中国) ボンベイ (インド) サンパウロ (ブラジル) 東京 (日本) ピーター・ハリス グローバル株式 生産性の低下と財産の縮小というトレンドを巻き戻す上で、都市は人口増加を通じ て重要な役割を担うことになります。以下はその考察です。 シニア・アナリスト アジア人口の優勢:世界経済において 低下を招き、デフレを加速させるもので、 市化の歴史や信頼性の高い見通しを考慮 アジアの重要性は今後も高まる見通し 経済成長の足枷となるでしょう。 すると、テクノロジーやデモグラフィックの変化 であり、アジアの都市は引き続き拡大す を受けて都市が廃墟化するという考えは、信 ると見込まれます。例えば、北京広域部 じがたいものです。ジャカルタ、ムンバイ、深圳、 の人口は 2030 年までに 130 百万人に ラゴスに代表される世界のメガ都市は、拡大 達する見通しです。 都市は拡大を続けている:35,000 年の都 が継続しています。ラゴスに関しては、2050 年までに人口が 30 百万人に達する見通し > > 電や蓄電技術の進展は、顧客の集積 です。豪州の都市化はここまで劇的ではな 化を促すものです。都市の密度が高い いものの、主要都市において人口増加が見 込まれています。 都市化の加速と都市機能の効率化をもた らす 4 つの世界的メガトレンド: > エネルギー革命と気候変動:太陽光発 程、CO2 排出が削減されるからです。 > テクノロジーを受けた生産性の低下: 日々高度になるテクノロジーや自動化 技術を受けて、より混雑した都市でも移 人口の高齢化:医療は、全国に拡散 動やリモート接続が容易に可能となりま するよりも都市部に集束される可能性が す。道路や公共交通機関の利用増加 高いでしょう。ホリスティックなヘルスケアを に伴って、インフラの生産性も向上する 提供する都市に、人口が集まるでしょう。 見通しです。しかし、テクノロジー、ロボッ 生産性拡大の減速:人口増加の加速によ る生産性拡大の減速が予想されます。人口 拡大に向けた都市間の競争がみられるで しょう。人口や移民の獲得競争で優位に立 つ都市こそ、その資産価値が高まります。 【まとめ】 繁栄する都市とそうでない都市と、その 様相はまちまちとなるでしょう。その鍵 となるのは、移民獲得に向けた政府の 能力です。カルチャー、施設設備、サー ビス等、都市が住民に提供する「オ ファー」が好ましい内容であれば、その 都市の人気は高まります。 トや自動化の技術の進展は、生産性の 参加者の意見: 洗練された都市生活を好む参加者のバイアスからか、シティ(都市)は次の「座礁資産」となり得るか?という論点に対し、参加 者の多くは否定意見を唱えました。 重要事項:この⽂書に含まれる情報は⼀般的な情報の提供のみを⽬的として AMP Capital Investors Limited(ABN 59 001 777 591, AFSL 232497)(以下「AMP キャピタル」とい います。)が作成したものです。これは現地において適⽤される法令諸規則や指令に反することとなる地域での配布または使⽤を意図したものではなく、かつ、特定の投資ファンドまたは投資戦略への 投資を推奨、提案または勧誘するものではありません。読者は、この情報を法的な、税務上の、あるいは投資に関する事項の助⾔と受け取ってはなりません。読者は(この情報を受領した地域を含 む)特定の地域において適⽤される法令諸規則その他の要件に関して、並びにそれらを遵守しなかったことにより⽣じる結果について、専⾨家に意⾒を求め、相談しなければなりません。この⽂書の 作成に当たっては細⼼の注意を払っていますが、AMP キャピタルあるいは AMP リミテッドのグループ会社は、予測を含むこの⽂書の中のいかなる記述についても、その正確性または完全性に関して表 明⼜は保証をいたしません。脚注に⽰される通り、この⽂書中のいくつかの情報は、当社が信頼できると判断する情報源から取得しており、現在の状況、市場環境および⾒解に基づいています。 AMP キャピタルが提供した情報を除き、当社はこの情報を独⽴した⽴場で検証しておらず、当社はそれが正確または完全であることを保証することはできません。過去の実績は将来の成果の信頼で きる指標ではありません。この⽂書は⼀般的な情報の提供を⽬的として作成したものであり、特定の投資家の投資⽬的、財務状況または投資ニーズを考慮したものではありません。投資家は、投資 判断を⾏う前に、この⽂書の情報の適切性を考慮し、当該投資家の投資⽬的、財務状況⼜は投資ニーズを考慮した助⾔を専⾨家に求めなければなりません。この情報は、その全部または⼀部で あるかを問わず、AMP キャピタルの書⾯による明⽰の同意なく、いかなる様式によっても、複製、再配布あるいはその他の形式で他の者が⼊⼿可能な状態に置いてはなりません。
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