環境先進国 ドイツ

Generalkonsulat
der Bundesrepublik Deutschland
Osaka-Kobe
大阪・神戸ドイツ連邦共和国総領事館
環境技術から市民のくらしまで
環境先進国
ド イツ
2002年9月発行
発行
取材・執筆
翻訳
編集
写真提供
大阪・神戸ドイツ連邦共和国総領事館
〒531−6035大阪市北区大淀中1−1−88−3501 梅田スカイビル・タワーイースト35F
TEL : 06−6440−5070 FAX:06−6440−5080
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Internet : http://www.german-consulate.or.jp
下記のURLでこの冊子の最新版をご覧頂けます。
http://www.german-consulate.or.jp/jp/umwelt/index.html
Willi Späth
Reinhard Ludwig
Annette Schöner
Claus Schreier
Daniel Hawellek 林 哲祐
大谷恵子
多田亜希子
赤松恒樹
大谷恵子
杉岡数幸
多田亜希子
表紙中央・左下,P2,6,20:連邦環境・自然保護・原子炉安全省
表紙右上,P27,28,29,30,36下:デュアルシステム・ドイチュラント社
P7,8,19左中央・右上・右下,37右下:Bundesbildstelle
P14,34,37左,42左・右:ドイツ観光局(DZT)
P43:Bundesbaugesellschaft
P38,39:ドイツ農産物振興会(CMA)
P47中央左・右下・右上:Stadt Freiburg im Breisgau
この用紙は再生紙100%を使用しています。
序
文
環境先進国ドイツに対して日本で大きな関心が寄せられていることを実感しています。
環境保護テクノロジーと環境ノウハウは、今日では国際的にドイツ経済のシンボルとして定着した感が
あります。
世界市場でも環境関連製品のほぼ 5 分の 1 はドイツ製品です。
ドイツからの環境技術関連の輸出額は 180 億ユーロ(約 2 兆円)に達します。
ドイツでは中小企業を中心に約1万社がこの分野で操業しており、どんな問題に対しても必ず何らかの
解決法を見い出してきています。
環境保護関連の特許申請件数も、ここ 10 年でほぼ 4 倍になっています。
ヨーロッパ特許庁に提出される特許出願の約半分はドイツからのものです。
中でも特に進んでいるのは、環境保護技術では古典ともいえる廃棄物と下水に関する技術です。
ドイツ廃棄物処理産業同盟(BDE)は 2005 年までに、売上高が 1,000 億ユーロ(約 12 兆円)に伸びる
ことを見込んでいます。
風力発電機などを用いた再生可能エネルギーの分野では、5,000 人が従事し、売上も 5 億ユーロ(約 600
億円)に上ります。
ドイツの環境関連企業とのコンタクトをご希望される方には東京のドイツ商工会議所と大阪のドイツ連
邦共和国総領事館がお手伝いを致します。
1996 年にライプツィッヒに設立された国際環境技術移転センター(ITUT)も海外との橋渡し役を担って
います。
本冊子は、ドイツの環境政策と環境技術における重要な推移を分かりやすくまとめたものです。
主要な環境プロジェクトに関してはホームページアドレスを掲載していますので、日本からドイツに環
境関連の視察に出かける際のガイドブックとしてもご利用頂けます。
ドイツ総領事館のホームページにある本冊子のインターネットヴァージョンは、随時更新されています。
日本とドイツ両国は、人類が生き延びていくためには欠かすことのできない環境という重要なテーマに
関するより深い協力関係への決意を新たにしたところです。
本冊子がこの協力関係に役立つことを願ってやみません。
ヨハネス プライジンガー
大阪・神戸ドイツ連邦共和国総領事
ラルフ ヴィルデ
在日ドイツ商工会議所
会頭
1
環境先進国 ドイツ
序文
1
ドイツの環境保護の歴史と 3 つのファクター
ドイツの持続可能性戦略
3
4
エネルギー
ドイツが脱原発を選ぶ理由
7
再生エネルギー倍増へ
8
未来のエネルギー
ソーラー発電 ── 10 万戸の屋根
9
風力発電 ── 追い風を受ける風力発電
11
バイオマス ── エネルギー供給源として
14
地熱発電 ── 地中からのエネルギー
16
温暖化防止
京都議定書の実施に向けて
17
ドイツの環境税制改革
18
環境に優しい交通システム
22
屋上緑化
23
循環経済
循環型社会の構築と拡大生産者責任
24
デュアルシステム・ドイチュラント(DSD) 27
日常の環境保護
ドイツ人と日本人の環境意識
ブルーエンジェル
35
オーガニック農業
37
水質保全管理
環境を意識した「新」首都
環境首都
フライブルク
32
40
ベルリン
42
45
ドイツの環境保護の歴史と3つのファクター
環境保護の目的
1994年ドイツ政府は国民に対し重大な約束を
しました。それは国が「次世代のために自然を守
る責任がある」
ことをドイツ基本法(日本の憲法に
相当)第20条aに加え、保証したことです。国民
にとって非常に重要なこの条項は、その後のドイ
ツ環境保護政策の方向性を明示したといっても過
言ではありません。
ドイツがいわゆる
「環境先進国」と言われるきっ
かけにもなった最近の廃棄物処理をはじめとした
自然・景観保護、温暖化防止、水質保全、土壌保
全、大気汚染防止、危険防止、騒音防止、放射線
関連法の制定は、環境保護の真の目的である「自
然はもとより、人間や動植物の生活基盤と地球環
境を守り次世代につなげる」
ための手法なのです。
「持続可能な発展」──ドイツの対応
ドイツは世界的に見てもハイレベルな環境保
護政策を実行しています。その契機となったの
は、まず1969年から70年にかけてルール工業地
帯で発生した煤煙による大気汚染でした。ブラン
ト政権は選挙用スローガンの
「ルールに青空」を推
進、これを機に環境保護運動が国内に広がりまし
た。ドイツ連邦政府は1970年に動植物の生態を
守ることを決めた 「環境保護計画」を発表しまし
た。
「環境保護計画」 では、第一に人間が健康と
人間らしい生存のための環境を守る、第二に大気・
土壌・水質・動植物の世界を人間の乱獲から守る、
第三に人間の乱獲による破壊や損失を排除すると
いう内容でした。
次に、1972年にストックホルムで開催された
国連環境会議でローマクラブ編纂の「成長の限界」
が発表されてから環境に対する意識は変わりまし
た。世界の人口は増加の一途をたどり、環境は汚
染され天然資源が減少するという状況下では、今
後100年以内に地球上の経済成長が限界に達する、
と予測したローマクラブの報告は、少なからず欧
州の政治家や市民、そして経営者に衝撃を与えま
した。それに加えて、深刻な大気汚染が国内で報
道されはじめたことも国民の意識を環境保護、及
びエコロジー的な生活基盤の形成へ向かわせまし
た。しかし、当時はまだエコロジーはエコノミー
の対極に位置して、むしろ経済成長にブレーキを
かける
“やっかいもの”という認識が強く残ってい
ました。
一方的な自然収奪を繰り返す経済活動ばかりで
なく、その経済活動の中にエコロジーを組み込ん
で行く、いわゆる「エコロジーとエコノミーの共
生」が可能であることに人間が気付くまでに20年
ほどの歳月を要しました。私たちは、今、天然資
源を最小限の利用にとどめながら、環境汚染を低
減していくことを求められています。
20年後の1992年にそうした内容を「持続可能な
発展」という言葉で表し、リオデジャネイロで開
催された国連環境開発会議の共同宣言として発表
しました。これは各国がその実施に共同責任を持
つという世界に対する政治的なアピールでした。
これを受けてドイツ連邦政府は1970年初頭以
降、主要な環境保護分野の9項目において徐々に
進めてきた環境保護の法体系をさらに整備・強化
しました。
1. 大気汚染防止(二酸化硫黄、窒素酸化物排出、
地表近くのオゾン)
2. 地球気候変動の防止(CO2効果ガス)、オゾン
層の保護
3. 危険防止(危険物質からの保護、設備の安全
確保)
4. 廃棄物処理と物質循環(廃棄物の発生回避・
リサイクル、環境適正処理、廃棄物の越境
処理)
5. 土壌保全と既存負荷の除去
6. 河川と海洋保護(水域保全の基本、地上の水
域、地下水、河川氾濫防止、海洋保全)
7. 自然保護、景観保護、森林保護
8. 騒音対策
9. 原子力安全・放射線保護、放射性物質の供
給と処理(核の安全性、放射線防護、放射性
廃棄物の処理)
この9項目における環境保護を経済、エネル
ギー供給、農林、漁業、運輸などの分野で実施す
ることが、
「持続可能な発展」
を促進するのです。
重要な3つのファクター
「持続可能な発展」を実現させるためには、エコ
ロジーに配慮した社会システムの構築と適度な経
済成長、そして充実した社会保障システムに基づ
く社会の安定化という三本柱の調和が重要なファ
クターとなります。
3
現代社会は経済的基盤がなければ成り立たない
のはもちろんですが、今は経済活動のあり方が問
われているのです。産業界は環境保全を企業の経
営に取り入れるいわゆる“環境経営”を実践して、
経済成長と環境保護をリンクさせ、さらに地球環
境を守る技術や手法を提供します。国は法規制で
それを誘導し、消費者は環境行動でサポートしま
す。
経済活動は、もう一つの要素である社会の安定
化にも大きく寄与しています。社会の安定化には
医療・介護保険の整備、年金制度の確立と資金の
確保、雇用の確保など社会保障制度の充実に加え、
犯罪の防止など多くの要因があります。現代社会
が安定し、成熟していかなければエコロジーへの
対応どころではなくなり、経済成長最優先型の社
会構造から脱却できません。地球温暖化で先進国
と途上国の間で論争になるのはまさにこの点です。
今まで20 %の人口を占める工業国が地球の資
源の80 %を利用して得た繁栄を、今度は途上国
が同じように繁栄や生活の向上を追求するのも当
然なことです。解決策を見つけるのは容易ではあ
りませんが、途上国への環境保全のための資金援
助以外に、環境技術機器の提供は問題解決に有効
です。
エコロジー
エコノミー
社会の安定化
この三つの要素のどれが欠けても、持続可能な
発展は実現しないため、それぞれを巧みに誘導し
なければなりません。
ここで明らかなように、ドイツの環境政策の目
的は、厳しい法規制によって企業に環境保全への
対応を迫り、ドイツ独特の社会的市場経済の中で
エコロジーとエコノミー、それに社会の安定化を
一体化させることです。経済活動のすべての段階
に、環境保護の考え方がインテグレートされてい
ることがその特徴です。このようなプロセスを経
て
「持続可能な発展」
が段階的に実現するのです。
ドイツの持続可能性戦略
1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催
された国連環境開発会議で持続可能な発展に関し
て話し合いが行われました。会議には178カ国が
参加し、さらに環境団体や学界・財界の代表者も
同席しました。アジェンダ21の採択によって政
治の分野での行動を勧告する「森林保護に関する
原則表明」と「生物多様性条約」
それに「気候変動枠
組み条約」も採択されました。気候変動枠組み条
約を受けて、1997年に京都で開催されたCOP3(気
候変動枠組み条約第3回締約国会議)で京都議定
書が採択されました。アジェンダ21に調印した
国は2002年のヨハネスブルク・サミットまでに
独自の国レベルの持続可能性戦略を提示する義務
を負うということになっています。
ドイツでは2002年4月17日に「ドイツの見通し」
という国としての持続可能性戦略を採択しまし
た。1994年には持続可能性という原則がドイツ
基本法(日本の憲法に相当)に国家目標の一つとし
て確固たる位置付けを得ました。持続可能性戦略
は、個々の運営規則と21の指標、それに達成度
をチェックするための定期的なモニタリングで構
成されています。この戦略は、経済・エコロジー・
社会の安定化の分野で応用されることになってい
ます。
ドイツの持続可能性戦略には、政治的および社
会的に持続可能性のある行動が記されており、要
点としては世代を超えた正当性、生活のクオリ
ティー、社会的結束、国際的な責任という項目を
挙げることができます。世代を超えた正当性とい
うのは、資源やエネルギーの節度ある消費と国家
債務レベルの維持のことを指し、高い生活クオリ
ティーの維持とは、正常な環境、充分な職場確保、
国際的な開発支援・貧困の絶滅、自由貿易などを
意味します。
再生可能な天然資源を利用する際は、長期的に
利用量が再生量を超えてはいけません。再生不可
能な天然資源を利用する際は、長期的に代替機能
でカバーできる量を超えてはいけません。エネル
ギーや物質を廃棄する際は、長期的に自然環境が
順応できる許容量を超えてはいけません。
長期的な目標が設定されている重要な分野は次
の通りです:エネルギー・資源の生産性、温暖化
防止、再生可能エネルギー、土地利用、流動性、
大気の質、種の保存、土地開発、農業。
4
資源を節約するためには、2020年までにエネ
ルギー・資源の生産性(一次エネルギー消費に対
するGDPの割合など)を倍増する必要があります。
生産性向上の推移を見ますと現状からしてこの目
標設定はかなり現実的であるといえます。ここ数
年のエネルギー効率向上の要因としては、発電所
での省エネ対策、暖房用エネルギー消費の減少、
それに運輸部門でのエネルギー消費の減少を挙げ
ることができます。資源の生産性は1994年以降
伸び続けており、2000年には93年レベルの112%
に到達しています。しかし効率の伸び率は目標値
を明らかに下回っています。また、資源の生産性
に大きく貢献するのは循環経済システムです。
温暖化防止の分野で連邦政府は、CO2と有害ガ
スの排出量を2005年までに90年レベルの25 %削
減を目標に努力を続けています。2000年の時点
でCO2排出量は15 %以上削減できました。1990
年からの推移を見てみますと温暖化防止の目標値
達成は現実味を帯びてきました。ここで大切なの
は代替エネルギー開発の促進と交通・建築・製造
業の分野での排出量の削減努力です。
屋根 ── ソーラー電力促進プログラム」という
具体的な措置を通じてこの目標を達成することに
なっています。
これに加えてまた、2020年までの宅地開発と
道路建設の伸び率を大幅に抑えることになってい
ます。土地を有効に利用する建築法、土地の再利
用、団地の撤退などの政策が考えられていますが、
このためには土地を有効に利用できるインフラ整
備と土地利用マネージメントが不可欠になります。
運 輸 の 分 野 で も 連 邦 政 府 は、2020年 ま で に
1999年に比べて貨物輸送を5%、自家用車の移動
を20 %削減するよう努力しています。また、鉄
道を利用した貨物輸送を2015年までに倍増し、
国内の河川輸送を40 %増やし、同時にまた自家
用車を持たない人の割合を増やすことが考えられ
ています。その決め手となる要因は、環境税と高
速道路料金の導入と鉄道に対する助成金です。
さらなる目標は、2010年までに有害物質の排
出量を1990年比で70 %削減することです。1999
年の時点で既に47.8%削減を達成しています。農
業でも窒素肥料の過剰使用を減らし、有機農法耕
地の割合を2010年までに20 %まで増やすことが
目標に掲げられています。
持続可能性戦略には、生物の多様性の維持も含
まれており、特定の動物の生息状況が指標になっ
ています。現段階で既に国土の4%が特別保護区
に指定されています。
持続可能性戦略でもう一つ重要なのは、再生可
能エネルギーです。一次エネルギー消費および電
気の消費において再生可能なエネルギーの割合を
2010年までに2000年レベルの2倍に引き上げる
ことが目標として掲げられています。また長期的
な目標として両方の割合を2050年までに50 %に
引き上げる「再生可能エネルギー法」と「10万戸の
6
ドイツの持続可能性戦略は、長期的なプロセス
のガイドラインとなっています。連邦政府は、こ
の戦略の進捗状態を把握するため、誰がどの分野
で何を行い、どのような変化が現れ、何らかの明
確な指標が認識できるかどうかをまとめた報告書
を2年ごとに作成することを決定しました。
エネルギー
ドイツが脱原発を選ぶ理由
10年以上に及ぶ議論の末、ドイツは原子力エ
ネルギー利用を廃止することを決めた改正原子力
法を2002年4月に施行しました。この法律により
新規の原子力発電所建設・操業の許可が禁止され、
既存の原子炉についてはドイツ全国の総発電規制
値を達成した後に操業許可が消滅することが定め
られました。ドイツの原子力発電所は、許可後最
長32年、今後平均12年弱で閉鎖されることにな
ります。さらに法律では、2005年以降に放射能
を帯びた燃料を再処理のために移送することを禁
止しています。重大な事故が起こる危険性の高さ
が、ドイツが脱原発を決断した主な理由でした。
国民の85%が原子力技術を危険とみなしており、
主要な世論調査ではドイツ人の4分の3が脱原発
に賛成していました。しかし原子力エネルギー推
進派は、安全技術上の知識を得るために原子力エ
ネルギー研究に投資するべきであり、さらにCO2
の排出が少ないため原子力エネルギーの利用は環
境保護にも役立つとしています。
ドイツで操業中の19ある原子力発電所(2002年
現在)は2020年までに終了する予定です。2030年
までに、放射性廃棄物は中間施設に移されること
になっています。その後必要となる最終処理場は、
一般市民、環境団体、そして関連団体などが参加
する透明性のある選考手続きをもって選ばれる予
定です。
ベルギー、スウェーデン、スイス、オランダ、
ブルガリア、リトアニア、イギリスも原子力エネ
ルギー利用の廃止を計画しており、再生可能エネ
ルギーに重点を移したエネルギー政策をとろうと
しています。
核分裂に代わる技術とされる核融合も将来的に
利用の可能性があるエネルギー源です。この分野
においては、ドイツはEUの枠内で国際熱核実験
炉(ITER)と実証融合発電所(DEMO)の二つの研究
プログラムに参加しており、2050年をめどに最
初の民間核融合炉の開発をめざしています。ITER
はEU、日本、ロシアがその他の参加国と協同し
て進めている計画です。EUでは90年代終わりに
100億ユーロ(約1.2兆円)近くが核融合研究に投
じられました。ドイツでは近年、年間およそ1億
3,000万ユーロ(約156億円)が連邦の予算として
核融合研究に充てられています。ちなみに再生可
能エネルギーの研究開発費として使われた連邦予
算は、2000年に1億5,300万ユーロ(約184億円)で
した。核融合炉と核分裂の大きな違いは、核融合
炉では制御不可能な核臨界が本質的に起こり得な
いことです。しかし核融合技術の推進派も、競合
する他の技術を使った場合に比べ、核融合での発
電費用は高くなることを認めています。
7
エネルギー
再生エネルギー倍増へ
の12.5 %および一次エネルギー消費の4.2%に相
当します。
ドイツ政府は、電力供給全体に占める再生可能
エネルギーの割合を高めることを環境政策におけ
る大きな目標の一つに掲げています。化石燃料は
実質発電量の半分以上(2001年度は60%)を占め
ており、現在最も大きなエネルギー源です。電力
の30 %は原子力発電所で発電されており、再生
可能エネルギー(ソーラー、風力、バイオマス、
地熱、水力)
の占める割合は2001年にはわずか7%
に過ぎませんでした。
この目標を達成するため多くの基盤が整えられ
ましたが、その核となるのが2000年4月1日に施
行された再生可能エネルギー法です。これは、電
力事業者に対し、送電網に供給された再生可能
エネルギーを買い上げることを義務付けたもので
す。買取価格は発電施設の性能と電力の種類に応
じて決められます。風力の場合は、
立地や風況
(風
に恵まれているかどうか)も判断基準になります。
買取は20年間保証されていますが、費用を下げ
るためのインセンティブとするために、買取価格
は早い時期ほど高く設定されています。初期買取
価格は2002年現在で、5MWまでの水力発電に対
して6.65セント(約8円)/kWhから、ソーラー発
電に対して48.1セント(約58円)/kWhに設定され
ています。
再生可能エネルギー法が定められて2年後、す
でに効果が現れています。供給された電力量は
1999年の7,900GWhに対し2001年現在17,800GWh
と倍増しました。特に風力、太陽光発電、バイオ
ガスの割合が増加しています。
しかしドイツ政府は、電力消費および一次エネ
ルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を
高めることを持続可能性戦略で目標の一つに掲げ
ています。その中では2050年に50 %を再生可能
エネルギーでまかなうことを謳っています。段階
的には、2010年までに2000年に比べその割合を
倍増させることを目指しており、これは電力消費
再生可能エネルギーからの実質発電量
18
16
14
1,000 GWh
12
10
8
6
4
2
0
1991
出展:Umwelt 9/2002
8
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
エネルギー ── 未来のエネルギー
ソーラー発電 ── 10万戸の屋根
太陽熱エネルギー・太陽光エネルギーは風力や
水力とならんで重要な再生可能エネルギー源です。
太陽エネルギーには様々な利用形態があり、太陽
光のパッシブ利用、ソーラー集熱器を使った太陽
熱利用、あるいは太陽電池
(太陽光発電)でのエネ
ルギー変換などが可能です。
太陽は基本的に尽きることがないエネルギー源
であり、熱や電気に変換する際にも有害物質を出
さず、さらにどこででも手に入ります。化石燃料
と比較するとその利点は明白です。ただ、そのソー
ラー技術にも限界があります。ドイツ全土のエネ
ルギー需要を太陽電池でまかなおうとすると、い
くつかの州を覆い尽くすほどの面積の電池が必要
になってしまいます。ドイツでは日照時間が短く、
また日照強度が低い、そして冬には入射角が小さ
いことも欠点です。
しかしドイツ政府はソーラーエネルギーを重視
してその利用と開発を促進しており、ドイツ企業
は世界有数のソーラー技術を有しています。
ドイツには現在4,200万m2以上のソーラー集熱
器が設置されています。
大きさにより、エネルギー
性能は1.5�200MWh/aです。ソーラー集熱器は
特に家庭、学校、屋外プールなど比較的小さな規
模で設置されていますが、町全体のエネルギーな
ど大口供給には不向きです。
太陽熱を利用するのがソーラー集熱器であれば、
太陽光を電気エネルギーに変換するのが太陽光発
電です。再生可能エネルギーである太陽光の利用
を促進するため、ドイツ政府は「10万戸の屋根 ─
─ ソーラー電力促進プログラム」を始めました。
これはドイツ全土で、とりわけ低利融資などを通
じて、約10万基の太陽光発電設備(定格出力合計
300MW)を設置しようというプログラムです。ま
た、個人、団体、協会、中小民間企業などが太陽
光発電設備を設置あるいは拡充する際に、最大出
力1kWpから補助を受けることができます。補
助限度額は5kWpまでで最大6,239ユーロ(約75万
円)
、金利は融資終了まで一貫して1.9%です。
住宅建設(暖房エネルギー)の分野では、ソー
ラーエネルギー利用が特に重要なポイントとなり
ます。エネルギー消費全体の40%近くは建物で
消費されており、そのうち住宅で消費されるエネ
ルギーの4分の3は暖房に使われるからです。CO2
排出量についても、暖房と温水供給で排出される
量が全体の25%を占めています。ですからドイ
ツ政府は、暖房エネルギー消費を引き下げると同
時に再生可能エネルギーでまかなう努力をしてい
るのです。
ドイツでは1979年、暖房エネルギー消費につ
いての基準を厳しくし、年間1m2あたり250kWhか
ら100kWhにすることを熱保護政令で定めました。
2002年2月に発効した省エネ政令では、これをさ
らに70kWhにまで下げることが求められています。
これは低エネルギーハウスの基準に該当しますが、
今日では低エネルギーハウスも従来工法と大きく
違わない費用で建てられるようになりました。さ
らにエネルギー効率が著しく改善されたことで、
パッシブハウス、ゼロ暖房エネルギーハウス、プ
ラスエネルギーハウスが生まれています。
パッシブハウスでは暖房エネルギー消費が約
15kWhに過ぎません。これは断熱効率を高めた
こと、つまり窓の断熱や、換気システムからの放
出熱の抑制などによって達成されました。
エネルギー消費が11�15kWhにまで下がると、
プラスエネルギーハウスと呼ばれます。プラスエ
ネルギーハウスでは、ソーラー電力モジュールで
自家発電をし、余剰電力は送電網へ供給されます。
この余剰電力は、2000年施行の再生可能エネルギー
法で定められた価格で電力会社が買い取ります。
そしてゼロ暖房エネルギーハウスは、基本的に
はパッシブハウスの性能をさらに高めたものであ
り、太陽熱を冬まで蓄える温水貯蔵装置が暖房エ
ネルギーを供給するしくみです。
これらの例をみれば、中欧・北欧でもソーラー
エネルギーがうまく利用できることがわかります。
その最も良い例がソーラー都市フライブルクで
しょう。
しかし、ソーラー設備を南の国に設置すれば、
さらに効果が高く経済的です。ドイツ産業界は太
陽光発電機器で25%の世界シェアを持っていま
すが、うち大部分が輸出されています。
開発途上国で最も有力視されているソーラー
電力は、パラボラ型ソーラー収熱器による発電で
す。すでに80年代末には、350MW以上の出力を
もつパラボラ型ソーラー発電所がカリフォルニア
でいくつも建設されました。
ドイツのフラベック・
ソーラー・インターナショナル社(FLABEG Solar
International GmbH、当時はピルキントン・ソー
ラー社[Pilkington Solar])はこのプロジェクトに反
射鏡を供給し、今では反射鏡の世界市場で大き
なシェアを持っています。またエアランゲン市の
ソーラー・ミレニアム社(Solar Millenium AG)は
ヨルダンに130MWの発電所建設を計画していま
す。この発電所は2005年に稼動し、ヨルダンの
9
エネルギー ── 未来のエネルギー
ソーラー発電:総発電量
200
180
160
140
120
MWpH
100
80
60
40
20
0
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
出展:Umwelt 09/02
エネルギー需要の10%を供給する予定です。
また2002年2月から、ドイツ政府はドイツの高
温太陽熱利用技術を世界に発表するために100万
ユーロ(1.2億円)を投資しています。その支援を
受けて、ソーラー・ミレニアム社では太陽熱を利
用したパラボラ発電への投資コストを25�35%
下げるプロジェクトを進めています。その他に
もフラベッグ・ソーラー・インターナショナル
社、マインツ市に本社を置くショット・グラス社
(Schott Glass)、シュトゥットガルトのシュライ
ヒ・ベルガーマン・アンド・パートナー社(Schlaich
Bergermann und Partner)、 ド イ ツ 航 空 ・ 宇 宙 交
通 セ ン タ ー(das Deutsche Zentrum für Luft-und
Raumfahrt [DLR])などが助成を受けており、いず
れもソーラー技術の大手として知られています。
DLR、シュライヒ・ベルガーマン・アンド・パー
トナー社と、シュトゥットガルトに本社を置く
フィヒトナー・ソーラー社(Fichtner Solar GmbH)
、
そしてフラベッグ・ソーラー・インターナショナ
ル社は現在ギリシャ、スペイン、イスラエルの5
つの会社・団体と「ユーロスルー(Eurotrough)
」
と名づけられた共同プロジェクトを進めています。
これは太陽熱発電用のパラボラ型ソーラー収熱器
の開発および品質検査を目的としたもので、EU
の支援を受けて進められています。
太陽電池の分野でも、ドイツ企業は最新の研
究レベルを誇ります。フライブルクのフラウン
ホーファー・ソーラーエネルギーシステム研究
10
所(Fraunhofer-Institut für Solare Energiesysteme in
Freiburg)では、太陽電池の効率を高める研究をし
ています。現在の効率は14%ですが、研究所内
では24%という世界記録を達成しています。
今日のソーラーエネルギー技術はまだ比較的高
価なものですが、投資する価値はあります。ソー
ラー産業はドイツ企業にとって重要な輸出産業で
あるばかりでなく、発展途上国で不足しがちなエ
ネルギーを供給することに貢献できるものでもあ
るのです。
10万戸の屋根 ソーラー電力促進プログラム
www.100000daecher.de
フラベック・ソーラー・インターナショナル社
www.flabeg.com
ソーラー・ミレニアム社
www.solarmillennium.de
ショット・グラス社
www.schott.com
シュライヒ・ベルガーマン・アンド・パートナー社
www.sbp.de
ドイツ航空・宇宙交通センター
www.dlr.de
フィヒトナー・ソーラー社
www.fichtner.de
ユーロスルー
www.eurotrough.com
エネルギー ── 未来のエネルギー
風力発電 ── 追い風を受ける風力発電
風力エネルギーは、化石燃料や原子力エネル
ギーの代替となるものです。ドイツは世界有数の
風力エネルギー大国であり、風力を使った発電量
世界一を誇ります。世界で行われている風力発電
量のおよそ3分の1がドイツで発電されており、
約33,000人以上が直接的・間接的に風力発電産
業に従事しています。2030年までに風力エネル
ギーの割合を20�24 %にまで高めるという長期
目標を達成することを目指して、ドイツ政府は風
力エネルギー利用を促進しています。とりわけ再
生可能エネルギー法は投資促進のインセンティブ
となりました。
CO2排出量を削減すること、一次エネルギー消
費に占める再生可能エネルギーの割合を高めるこ
とをいわば環境対策の二本柱として進めるため、
ドイツ政府は関連事業に助成をしています。
なかでもオフショア・ウィンドファーム(洋上
風力発電)は、今後さらに利用が進むものと思わ
れます。しかし、この風力エネルギー利用にも反
対の声がまったくないわけではありません。風力
発電機が風景を台無しにすると非難する人もいる
ため、特に保護価値の高い地域では風力発電機の
設置が法律で禁止されています。
2001年にはドイツ全土に定格出力合計8,750MW、
11,440基の風力発電機がありました。これは2000
年に比べ2,659MWの伸びであり、世界の風力発
電量の3分の1以上、EU圏内の風力発電量のおよ
そ半分がドイツで生産されている計算です。しか
し風力発電機の数も
「飽和状態」に近づきつつある
ため、年間の新設発電機数は今後減少する見通し
です。これを引き続き伸ばしていくために、立地
の良い既存の発電機をより性能の高い機種に置き
かえる措置(リパワリング)がとられます。2000
年には総発電量のうち2%、12,000MWhが風力
によるものであり、2002年にはこの割合は3%に
上昇するものと予測されています。
発電量をさらに増加させるためには、風力発電
機の立地を順次、海上に求めていくことも必要で
す。いわゆるオフショア・ウィンドファームは海
岸から15─40km沖に設置されるもので、2030年
には風力エネルギーの60%、総発電量の15%を
オフショア・ウィンドファームでの発電が占める
見込みです。オフショア・ウィンドファームには、
海上のため風況が良く、また住宅地などに影響を
与えないという利点があります。
海上での風力エネルギー開発を進めるためには、
十分な海底ケーブルおよび地上送電網との接続が
必要です。長期的には、風力発電機は助成を受け
なくても競争力がつくと考えられています。
一方、風力発電機の設置に適さない地域もあ
ります。オフショア・ウィンドファームの設置に
あたっては、自然保護(沿岸自然保護地域、干潟、
鳥類保護地区等への影響、また海洋生物学などの
観点から)
、さらに船の航行に影響がないかを考
慮しなければなりません。このようにして、他に
与える影響が少ない、将来的に風力発電に適した
地域が選ばれています。北海では510km2、発電
容量にして2,550�5,100MW分の用地が選出され
ています。バルト海では135km2、675�1,350MW
風力発電の伸び
(単位 メガワット)
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
出典:BWE 2002
11
エネルギー ── 未来のエネルギー
分の用地が選ばれています。
加えて、沿岸の各州は海岸近くの12海里地域
にウィンドファームを設置することを計画してい
ます。これらの計画では2010年までに合わせて
3,425�6,650MWが新たに発電される予定です。
この沿岸地域のほかにも、技術的・経済的実現性
がクリアされることが前提ではありますが、中長
期的に利用可能と見られている地域があります。
これらすべての地域を合わせると、2030年まで
に開発できる見通しのある地域は3,574km2、潜
在的総発電量は17,870�35,740MWとなります。
2001年末の時点ですでに、排他的経済水域(海
岸から12�200海里)内へのウィンドファーム設
置許可申請が28件(16申請者)連邦航海水路庁へ
提出されています。ドイツで初めてのこのような
オフショア・ウィンドファームは、プロコン・ノ
ルト社
(PROKON Nord Energiesysteme GmbH)
がボ
ルクム市の北部約45kmの海上に設置する予定で
す。これは遠浅の浜辺ではなく海底30mに建つ世
界で初めてのウィンドファームになります。建設
の終わる2010年には、208基の風力発電機が設置
され、合計およそ1,000MWを発電することにな
ります。プロコン・ノルト社のこのプロジェクト
にも、航行の安全を確保し環境への影響を最小限
に抑えるため、非常に多くの条件が課せられてい
ます。例えば日中・夜間の検査、有害物質の使用
を抑制した腐敗防止措置、建築時・操業時の防音
対策、
廃棄物対策、
使用終了後の撤去義務などです。
風 力 発 電 機 メ ー カ ー と し て は、 こ の ほ か ハ
ンブルクに本社を置くリパワー・システムズ社
(REpower Systems AG)、ノイマルクト市のプフ
ライデラー・ウィンド・エナジー社(Pfleiderer
Wind Energy GmbH)、アウリッヒ市のエネルコ
ン社(ENERCON GmbH)などが挙げられます。と
りわけエネルコン社はドイツで35%以上のトッ
プシェアを持っています。現在、北海に面した多
くの都市がオフショア・ウィンドファーム産業の
中心地としての立場を確立しようとしており、例
えばブレーマーハーフェン市では、投資家は最高
28%までの融資を受けることができます。
ボルコム市近郊のウィンドファームのすぐ隣に
は、ブレーメンに本社を置くエネルギーコントア
社(Energiekontor AG)が80基、プラムベック・ノ
イエ・エネルギー社(Plambeck Neue Energien AG)
が30基の風力発電基の建設を計画しています。
さらに2002年末までに、3 ヵ所の風力発電適地
にオフショア研究プラットフォームが設置される
予定です。ドイツ政府には2003年までに3,000万
ユーロ(約36億円)を再生可能エネルギーの促進
に投じる
「将来への投資プログラム」があり、上記
12
プロジェクトはこのプログラムから420万ユーロ
(約5億円)の助成を受けて行われます。プロジェ
クトの目的は、オフショア風力エネルギー利用お
よび個々の海洋風力プロジェクトの評価に必要な
学術的情報を、許認可手続に関わる連邦各機関に
伝えることです。
再生可能エネルギー法は、風力エネルギーの開
発に非常によい影響を与えていると見られていま
す。風力発電所からの電力買上げ価格には立地に
よって地域差が設けられていますが、海岸地域は
風況が良いため買上げ価格の低さもカバーでき、
一方で風況のあまり良くない場所に風力発電機を
設置しても、買上げ価格が比較的高く採算が合う
しくみです。
風力エネルギーの利用は、地球温暖化対策とし
て挙げられているCO2排出量の削減にも効果があ
ります。2001年には約1,000万トン、つまり1999
年の総排出量の1%にあたるCO2が削減されまし
た。2010年までに風力利用で削減されるCO2排出
量は、年間約2,000万トンに上る見通しです。
日本にも、ドイツの風力産業が進出していま
す。ドイツのヴァイガンズハイン市に本社を置
くファーレンダー社(Fuhrländer AG)は、すでに
30MW分の発電機を日本に供給しました。プロ
ジェクトの実現に際しては、NEICジャパン社と協
力しています。エネルコン社は47基を供給、リ
パワー・システムズ社は2002年2月に明電舎と風
力発電システムの日本国内販売で提携しています。
リパワー社は明電舎と提携したことで日本市場へ
すばやいアクセスが可能になりました。現在はド
イツで製造した設備が日本に輸出されていますが、
次段階では明電舎が設備を日本でライセンス生産
することも予定されています。
プロコン・ノルト社
www.prokonnord.de
プフライデラー・ウィンド・エナジー社
www.pfleider.com
エネルコン社
www.enercon.de
エネルギーコントア社
www.energiekontor.de
プラムベック・ノイエ・エネルギー社
www.plambeck.de
ファーレンダー社
www.fuhrlaender.de
リパワー・システムズグループの業務展開
■
■
■
■
■
風力発電機の製造・販売
アフターサービス
ウィンドパークのプロジェクト開発
ターンキープロジェクト開発
技術ライセンス事業
出力600―2,000キロワットの様々な種類の発電機を製造しています
お問い合わせは日本での提携先、明電舎へ:
明電舎
〒103−8515
東京都中央区日本橋箱崎町36−2 リバーサイドビル
電話 03−5641−7965 FAX 06−5641−7964
エネルギー ── 未来のエネルギー
バイオマス ── エネルギー供給源として
バイオマスからのエネルギーの生産は将来性の
あるテクノロジーの一つといわれていますが、実
際に利用する資材や方法には様々な可能性があり、
技術改革にもかなりの幅があります。バイオマス
は発電や温水供給やコージェネレーション、それ
に燃料としても利用することができます。
ドイツでは2001年6月、「再生可能エネルギー
法」に基づき、バイオマス政令「バイオマスⅤ」が
施行されました。バイオマスⅤでは、バイオマス
の定義から活用法それに環境基準に至るまで詳細
が定められています。
エネルギー源としてのバイオマスが一次エネル
ギーに占める割合は0.8 %ですが、ドイツにおけ
る潜在的可能
性 は5 % か ら
10%と見られ
ています。エ
ネルギー源で
あ る 燃 料 は、
固 体・ 液 体・
気体に区別さ
れます。バイ
オマスの例を
挙げると、木、
穀 物、 堆 肥、
糞尿、飼料か
す、農業ゴミ
( 藁、 ト ウ モ
ロコシ、ビー
ト、雑草)、さらには屠殺場などでの生ゴミを挙
げることができます。
ドイツでは年間約1,000万トンの不用になった
材木や廃材が出ますが、これらを燃焼して小型
のボイラーを大型のセントラルヒーティングに
接続して熱を利用するのが最も一般的な利用法
です。これらの燃料となる木は、間伐材、製材所
の木、リサイクリングウッド、エネルギーウッド
(成長が早い木を特別に栽培したもの)などといっ
た様に種類分けされています。間伐材は現在のと
ころは放置されたままになっています。しかし、
2005年からは間伐材の放置ができなくなり、熱
エネルギーとして利用されることになります。
ペレットも焼却に適しています。ペレットとい
うのは、工場で加工され規格化された質の高い燃
料で、輸送や貯蔵が容易です。
また、農業の残留物
(水肥)から成るバイオガス
も同じように発電に用います。
14
2001年にはドイツのバイオガス施設は1,650 ヶ
所に上りました。1992年にはその数は139 ヶ所
でしたから、その後の増加率は1,000%を超える
ことになります。バイオマス、バイオガス、ゴミ
埋立地や浄水施設で集められるメタンガスなどを
併せた2000年の総発電量は、1,500GWhに達しま
す。2010年までの目標値は8,000GWhです。
しかし、バイオガスはそのままでは限られた
用途しかありませんが、適切な加工をすれば都
市ガスと同レベルの品質を得られるので、これに
よってエネルギー生産用のモーターを稼動するこ
ともできます。ドイツはバイオディーゼルの生産
では世界の先端を行っており、2001年の時点で
バイオディー
ゼル生産施
設の年間キャ
パシティーは
48万 ト ン に
達 し ま し た。
2002年 中 に
は、総キャパ
シティーを90
万トンに増や
す予定です。
現 在、 北
ドイツのシュ
レースヴィヒ
北部にあるノ
ルトルフ市に
ファーマティック・バイオエネジー社(Farmatic
Biotech Energy AG)が都市ガスと同レベルの品質
のバイオガスを産出するために12万トンのバイ
オマスを加工できる大規模施設を建設中です。バ
イオガス(植物油も含む)は、将来はこれまでの燃
料に取って替わるエネルギーとして期待されてい
ます。
バイオマスエネルギーは再生可能でしかも無限
です。風力や太陽エネルギーとは反対に天気の影
響を受けることもありません。バイオマスエネル
ギーは多岐に渡り広範囲に利用することができま
す。さらにはCO2もなく、温暖化の要因にはなり
ません。よって、温暖化防止の観点からもこの技
術のさらなる開発と推進は非常に意味があるとい
えます。
しかし、燃焼の過程では一酸化窒素をはじめ環
境に悪影響を与える気体が発生します。空気中に
放出される有害物質の量は燃料の種類によって変
エネルギー ── 未来のエネルギー
わります。防腐剤を塗布した木の場合は有害物質
の濃度も高く排気を浄化する必要があります。バ
イオマスエネルギーのもう一つの欠点は、技術面
でコストが高くつく点にあります。将来的には輸
送コストを節約するためエネルギー供給の地域分
散が意味を持つことになります。
熱と電気を同時に効率良く、しかも環境に優し
く生産する一つの方法としてコージェネレーショ
ンを挙げることができます。従来の技術では蒸気
タービン、燃焼エンジンとガスタービンでしたが、
新技術では燃料電池とステアリングモーターが用
いられます。発電施設では、モーター、ガスター
ビン、燃料電池を用いて発電機を稼動させます。
この際に出る排気熱とモーターの熱を熱交換器で
フィードバックします。
再生可能なエネルギーの市場には企業にとっ
て長期的に幅広い可能性があります。バイオマ
スからのエネルギー産出の分野でもドイツでは重
点的に投資が行われています。MVVエネルギー社
(MVV Energie AG)
は、バイオマス発電施設を5 ヶ
所に建設するために2億5500万ユーロ(約306億
円)
の投資を予定しています。
の校舎などに熱エネルギーが供給されています。
プラムベック・ノイエ・エネルギー社
(Plambeck
Neue Energien AG)やウムヴェルトコントア社
(Umweltkontor Renewable Energy AG)もバイオマ
ス発電施設に投資を行っています。ウムヴェルト
コントア社は、ザクセン州のローテンブルク市に
6.5MWの発電所を建設しました。また最近では
ザクセン・アンハルト州のマンスフェルト市で出
力5.5MWの木材発電所が稼動したところです。
ファーマティック・バイオエネジー社
www.farmatic.de
ウムヴェルトコントア社
www.umweltkontor.de
プラムベック・ノイエ・エネルギー社
www.plambeck.de
MVVエネルギー社
www.mvv.de
MVVエネルギー社は2000年にルアポルディン
グ市に最初のバイオマス暖房熱供給施設を建設し
ました。これによって流水プール、市営プール、
アイススケートリンク、多目的ホールそれに学校
ドイツの環境リンク集
政府機関
連邦政府
連邦環境・自然保護・原子炉安全省
連邦環境庁
http://www.bundesregierung.de
http://www.bmu.de
http://www.umweltbundesamt.de
環境関連学部のある大学
リューネブルク大学
マンハイム大学
ブレーメン大学
シュトゥットガルト大学
グライフスヴァルト大学
コトブス工科大学
ベルリン自由大学
ハンブルク大学
http://www.uni-lueneburg.de
http://www.uni-mannheim.de
http://www.uni-bremen.de
http://www.uni-stuttgart.de
http://www.uni-greifswald.de
http://www.tu-cottbus.de
http://www.fu-berlin.de/ffu/
http://www.uni-hamburg.de
※ドイツの各市町村のURLはhttp://www.都市の名前.deです。
(ベルリンの場合、http://www.berlin.de)
15
エネルギー ── 未来のエネルギー
地熱発電 ── 地中からのエネルギー
地熱発電装置の発電量は世界規模でみると、今
日では風力とソーラー発電を合わせた発電量を
上回っています。しかし、ドイツでは地熱発電が
エネルギー供給に占める割合は0.02 %にすぎず、
大規模な地熱利用施設も24しかなく、総熱量は
50MWサーモにしかなりません。
これらの施設は全てが発電のためという訳では
なく、中には熱をそのまま利用するための施設も
あります。地熱発電装置は、風力やソーラー発電
施設とは逆に、季節や時間に左右されることなく、
しかもCO2などの有害物質を排出することもない
環境に優しい施設です。中には地下に設置された
施設もあります。ドイツでは、地質学的要因によ
り主に北部と南部で地熱が利用されています。
地熱を利用するためには鉱泉ボーリングを行い
ます。地下水の温度は100mごとに3度ずつ上昇
します。地下水は熱交換機にエネルギーを供給し
た後、地下に再び押し戻され、ここで得られるエ
ネルギーは温水供給網を通じて消費者のもとへ届
けられます。
地熱の別の利用法は、地熱を電気エネルギーに
変換する方法です。発電には二通りの方法があり、
一つはORC方式で、地下に貯えられた高温の熱水
を利用する蒸気発電です。
もう一つはホットドライロック(HDR)方式と
呼ばれるもので、地下にある乾燥した熱い岩盤を
用いて電気と熱を生産します。乾燥した熱い岩盤
に直接ボーリングを行い、高圧で水を注入します。
地下5kmほどの深さでは岩盤には髪の毛ぐらいの
細かい亀裂があり、約200度の温度を持っていま
す。その岩盤に水を注入し、温水器と同じ要領
で水温を上げます。今のところ、ドイツにはHD
R方式の発電所はありませんが、シュヴェービッ
シュ・アルプ地方のバート・ウーラッハではHD
R方式の研究プロジェクトが進行中です。
ドイツでは地熱利用はほとんど普及していな
いというのが現状ですから、連邦政府は将来性の
あるテクノロジーとして支援を行っています。連
邦政府は、
「将来への投資プログラム」に地熱発電
の研究プロジェクトを採用しました。同プログラ
ムでは2600万ユーロ(約31億円)の総予算が15の
プロジェクトに配分され、バート・ウーラッハの
HDR方式の研究プロジェクトには650万ユーロ
(約7.8億円)が割り当てられています。
地熱発電が再生可能エネルギー法に採択された
ことにより投資家にとっても安全な経済基盤がで
きたことになりました。
16
EUもまた前向きなプロジェクトを支援してい
ます。
ジンバッハとブラウナウはドイツとオーストリ
アの国境線であるイン川をはさんで向かい合う町
ですが、2000年の夏に国境を超えた温水供給網
の構築とボーリングがここで始まりました。この
プロジェクトに、EUは補助金を供出しています。
この施設が完成した時には、一帯の学校や病院や
工業団地の他に250戸以上の家庭に地熱が供給さ
れる予定です。これによって両市は、CO2排出量
を年間8,500トン減らすことができます。
バイエルン州のシュトラウビングという町にも
地熱を利用する施設があり、市役所・博物館・市
民会館・市営プールそれに100戸を超える住宅に
熱を供給しています。1999年にドイツ国内では、
4,719基のヒーター用熱ポンプが売れました(主
に一軒家や二軒家用に)。1998年の販売個数は約
3,400基でしたから、1年間で8 %増えたことに
なります。ポンプは、地中30mから100mの深さ
に埋められたゾンデと組み合わされています。
ドイツの中でも地熱利用で先頭を走っているの
はノルトライン・ヴェストファーレン州です。同
州では、地熱技術および業界イニシアチブ団体が
発足しました。この団体は業界の見通しを立て、
新たな雇用創出の橋渡しも担う予定です。現在ノ
ルトライン・ヴェストファーレン州では地熱利用
に関する複数のプロジェクトが進行中で、ヴェル
ネ市のフュルステンホーフという所では130本近
くのゾンデをボーリングしたヨーロッパ最大規模
の地熱利用施設があります。将来的にはこの施設
が123戸に温水を供給することになっています。
またこれに類似した施設がドルトムント市のリッ
タースホーフにあります。ここでは地熱を利用
した熱ポンプ付きの省エネハウス90戸の建設が
予定されています。アーヘン市では地熱を利用し
た学生サービスセンター「スーパーC」(Student
Service Center - RWTH-Aachen - Super C)の設置が
予定されています。
ドイツでは地熱の利用はまだ初期段階ですが、
有意義で効率良い利用を可能にしてくれそうなプ
ロジェクトが進行中です。
学生サービスセンター スーパーC
www.superc.rwth-aachen.de
温暖化防止
京都議定書の実施に向けて
温室効果ガスの増加により、21世紀には気候
変動がさらに進むと予想されています。石油燃料
の燃焼によって生じるCO2などが大気中に排出さ
れることにより、今後100年間で気温は1.4�5.8
度上昇し、海面も平均8�88cm上昇するとみられ
ています。氷河が溶け、生物多様性が脅かされ、
洪水と台風の危険が迫っています。
ドイツ政府は、人類が引き起こしたこの気候変
動を、私たちの時代の環境政策に突きつけられた
最も大きな挑戦の一つと認識しています。京都議
定書により、ドイツはCO2排出量を2005年までに
1990年の水準から25%削減することを目指して
います。2002年までに16%の削減が達成されま
したが、目標達成には旧東独地域の老朽化した工
場を多く閉鎖したことがプラスに働きました。京
都議定書に定められた6種類の温室効果ガスに対
しては、ドイツ政府は2008年から2012年の間に
21%を削減することを予定しています。今日ま
でにすでに18.7%の削減が達成されましたが、こ
れにとどまらず、残された時間でさらに多くの取
り組みをしていかねばなりません。
高く掲げた目標を達成するため、ドイツ政府は
2000年10月に地球温暖化防止のための国家プロ
グラムを決議しました。その中では、以下の4点
が定められました。
・ 京都議定書に定められた温室効果ガスの排出
抑制
・ 再生可能エネルギー利用の倍増
・ コージェネレーションの拡充
・ エネルギー効率の改善
コージェネレーション
の 拡 充 を 通 し て、2005年
までに1,000万トン、2010
年までに2,300万トンの温
暖化ガスの排出を削減で
き る 見 通 し で す。 ま た エ
ネルギー効率改善の領域
で は、 新 築 の 建 物 の エ ネ
ルギー消費を2010年まで
に30%抑 制 す る こ と が 目
標 で す。 老 朽 化 し た 建 物
の改築でさらに500�700
万トンの温暖化ガス排出
を抑制することをめざし
て、 断 熱 材 や 断 熱 効 率 の
良い窓を入れる等の対策への補助金に2003年ま
でに2億ユーロ(約240億円)が充てられています。
さらに、燃料電池など温暖化対策に役立つエネ
ルギー源の開発にも年間5,000万ユーロ(約60億
円)を割いています。3リッターカーや5リッター
カー(100kmあたり3�5リットル)などの低燃費
車に対しては自動車税が軽減されています。ドイ
ツ経済界もCO2の排出量を2005年までに1990年
の水準の28%、2012年までに35%削減するとい
う自主規制を課し、対策に協力しています。この
ような対策によりエネルギーと産業の分野ではす
でにある程度の成果が見られる一方、残る一般家
庭や交通などの対策が急がれています。
一般家庭・交通分野では2000年にやっとCO2排
出量が減少傾向に転じたところです。しかしこれ
らの分野でも地域レベルで数多くの活動が行われ
ているため、排出量は今後さらに抑制されるはず
です。
ヨーロッパのおよそ1,000市町村は、ヨーロッ
パ事務局をフランクフルトにおくいわゆる「気候
同盟」に加盟し、団結して対策を進めています。
ドイツだけでも402の自治体がこの同盟に参加し、
ハンブルク、ミュンヘン、フライブルクなどが熱
帯雨林のある国々と姉妹都市関係を持っています。
地球温暖化防止戦略を実行に移すための対策とし
て、気候同盟ではとりわけ略奪伐採による熱帯材
の使用を止めること、また市民の意識を高め、情
報を与えるための活動やキャンペーンを行ってい
ます。
大気汚染物資(有害物質)の減少
120
100
80
60
40
20
0
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 目標
2010
二酸化硫黄、酸化窒素、揮発性の有機炭化水素とアンモニウム ( 1990 = 100%として)
出典:Umweltbundesamt
17
温暖化防止
ドイツの環境税制改革
ギー税)
の引き上げは着実に実行されています。
石油と電力エネルギーに対する課税と年金保険
料の引き下げをリンクさせたドイツの「環境税制
改革の導入に関する法律」が1999年4月1日に施行
されてから3年が経過しました。石油と電力の消
費に課税することで、一方では環境負荷の低減を
図り、他方、その税収を年金基金の補助金に充て
ています。それが給与所得者と企業の双方が負担
する年金保険料額を軽減させ、結果的に企業によ
る雇用創出が可能になりました。こうした環境負
荷の低減を雇用促進と結び付けるこのシステムは
「二重の配当」
と呼ばれています。
策定当時から評価の分かれる制度でしたが、連
立与党、及びドイツ環境・自然保護連盟(BUND)対
野党及び産業界という対立の構造は変わらず、現
在も議論が続けられています。しかし、問題を内
包しながらもすでに第4段階(2002年1月1日)まで
進み、2003年末で終える全5段階の環境税(エネル
環境税と年金保険料
環境税の対象になるのはガソリン、ディーゼル、
暖房用軽油の石油精製品と天然ガス、液化ガス、
それに電力です。1999年の第1段階から2003年の
第5段階まで例外はありますが、毎年加算されて
います(表参照)。
石油税
ガソリンとディーゼルには一律6ペニヒ(約3.6
円)/リットルが課税され、これが毎年加算され、
5年間で合計30ペニヒ(約18円)/リットルとなっ
ています。暖房用軽油、天然ガス、液化ガスは第
1段階でそれぞれ4ペニヒ(約2.4円)/リットル、
0.32(約0.2円)ペニヒ/kWh、2.5ペニヒ(約1.5円)
環境税一覧(第1〜第5段階)
環境税額
課税対象
現在の税額
(第1段階)
1999/4/1
(第2段階)
2000/1/1
(第3段階)
2001/1/1
(第4段階)
2002/1/1
(第5段階)
2003/1/1
石油税
ガソリン
98
ペニヒ/ℓ
+6
ペニヒ/ℓ
+6
ペニヒ/ℓ
+6
ペニヒ/ℓ
+3
セント/ℓ
+3
セント/ℓ
石油税
ディーゼル
62
ペニヒ/ℓ
+6
ペニヒ/ℓ
+6
ペニヒ/ℓ
+6
ペニヒ/ℓ
+3
セント/ℓ
+3
セント/ℓ
暖房用燃料税
(軽油)
8
ペニヒ/ℓ
+4
ペニヒ/ℓ
−
−
−
−
天然ガス税
0.36
ペニヒ/kWh
+0.32
ペニヒ/kWh
−
−
−
−
液化ガス税
5
ペニヒ/kg
+2.5
ペニヒ/kg
−
−
−
−
電力税
−
(新税)
+2
ペニヒ/kWh
0.5
ペニヒ/kWh
0.5
0.26
ペニヒ/kWh セント /kWh
0.26
セント/kWh
環境税収
−
85億マルク
5,100億円
172億マルク
1兆円
224億マルク
1.3兆円
143億ユーロ
1.7兆円
172億ユーロ
2兆円
年金保険料
(対GDP %)
軽減率(対
前年比、%)
19.5%
19.3%
19.1%
19.0%
18.8%
20.3%
-0.8%
-0.2%
-0.2%
-0.1%
-0.2%
* 2002 年1月 1 日よりユーロ導入。 最小単位はセント 1 ユーロ= 100 セント
1ユーロ= 1.95583 マルク
(1 マルク= 100 ペニヒ)
18
温暖化防止
/kgが課税されましたが、それ以降の課税は免除
されています。
電力税
新税として第1段階で2ペニヒ(約1.2円)/kWh
を課税、第2から第5段階まで毎年0.5ペニヒ(約
0.3円)/kWhを加算し、合計で4ペニヒ(約2.4円)
/kWhとなります。
こ れ ら の 税 収 額 は 初 年 度 が85億 マ ル ク( 約
5,100億 円 )、 次 い で172億 マ ル ク( 約 1 兆 円 )、
224億マルク(約1.3兆円)、143億ユーロ(約1.7兆
円)
、172億ユーロ(約2兆円)となり、最終的に
総額560億ユーロ
(約6.7兆円)
に達する見込みです。
用燃料税は0.8ペニヒ(約0.5円)/リットル、電
力税は0.4(約0.2円)ペニヒ/kWhとかなり軽減
されます。
還付規定
・製造業の企業が支払う環境税額が年金保険料の
減額分の 1.2 倍を超える場合、その差額が還付
されます。(環境税負担と年金保険料減額分は
ほぼ同額とします。)
例外措置
・ 年間を通して稼働率が 70 %以上のコージェネ
レーション設備では石油税が免除
・水力、風力、太陽光、地熱などの再生可能エネ
ルギーは電力税を免除。(再生可能エネルギー
からの電力を直接、最終消費者として利用する
ことと、再生エネルギーからの電力を提供する
企業から供給をうける場合のみ)
・ 上限0.7MWの定格出力装置が生産する電力は
電力税を免除
──軽減措置:
・1999 年 4 月 1 日以前に設置された夜間電力を利
用する蓄熱式暖房設備が消費する電力には、通
常の 50%の 1 ペニヒ(約 0.6 円)/kWh を課税
・工場内交通と登山鉄道を除く鉄道とトロリーバ
スが消費する電力に対して通常の 50 %の 1 ペ
ニヒ(約 0.6 円)/kWh を課税
・ 製造業者と農林漁業事業者に対して、年間の電
力税(例えば 50,000kWh 以上)と暖房用燃料税
が 1,000 マルク(約 6 万円)を超えた分に対して
は通常の税率の 20%。この場合この部門の暖房
このように多くの免税および軽減措置が規定さ
れているのは、ドイツ産業の競争力がエネルギー
コストの急上昇で阻害されることを恐れた産業界
の激しい抵抗に連邦政府が配慮したためです。そ
れでも、新税と税の引き上げがもたらす初年度の
環境税の予想収入は113億マルク(約6,780億円)で
したが、これは前年のエネルギー税による税収840
億マルク
(約5兆400億円)
の13.5%を占めます。
環境税制改革に基づき、税収を年金保険料に充
当すると、同改革導入前まで20.3%だった労使双方
の年金負担率は徐々に減少し、第5段階までに1.5%
ポイント減の18.8%に下がります。その他に2億�
3億マルク(約120�180億円)を再生エネルギー開発
への助成金とすることが決まっています。
19
温暖化防止
環境税の効果
環境税導入後から現在までの3年間である程度
の効果が現れています。まず、2001年上半期の
ガソリンの消費が対1999年上半期比で12 %減、
また、対2000年上半期比で8%減少しました。同
期のディーゼルの消費は対1999年上半期比で2%
減少、また、同期の燃料全体の販売量は対1999
年上半期比で5%減少しました。
2001年上半期の車両同乗者斡旋センターの利
用は、対前年比で25%増加しました。1リッター
車(100kmあたり1リットル)の開発が促進され、
環境負荷の少ない天然ガス車や低燃費車(100km
あたり3�5リットル)、再生可能エネルギーが
ブームとなっています。2000年の低燃費車の総
新車登録台数に占めた割合はそれぞれ0.51 %、
1.66%でした。同2000年の鉄道利用客は2%増加、
また同年の軌道交通機関による輸送量が7.9 %増
となり、減少傾向に歯止めがかかりました。
このように、課税される燃料の消費が減少する
とともに、燃費のよい車や効率的な輸送手段への
シフトが見られました。省資源と環境保全への効
果ともう一つの
「配当」である年金基金向けの税収
確保も予定通り進展しています。
2002年1月に第4段階の環境税制改革が実施さ
れ、対前年より29億ユーロ(約3,480億円)上乗
せとなり、143億ユーロ(約1.7兆円)の税収が見
込まれています。1999年から2003年の間に総額
560億ユーロ(約6.7兆円)が確保されることにな
り、ドイツ連邦大蔵省と環境庁は、年金保険料の
引き下げと制度の安定化が経済と環境に著しい効
果を与えたと評価しました。例えば、環境税を導
入しない場合のシナリオと比較すると、導入によ
り60,000人弱の雇用創出に貢献しました。とり
わけ、燃料への課税は2002年で700万トンのCO2
排出削減に効果がありました。2006年までの試
算によれば、90,000人の雇用創出と900万トンの
CO2の排出削減が可能であるといわれています。
ベルリン・ドイツ経済研究所は2005年までに2�
3 %、2,000万トンから2,500万トンのCO2の排出
削減が期待でき、環境税による経済への悪影響も
少なく、むしろ長期的には250,000人の新規雇用
が期待できると予想しました。
年金保険料は5段階で1.5%の引き下げ率になり
ますが、環境税を導入しなければ逆に1.7 %増と
企業と一般家庭の負担大となり、その効果を評価
しています。税収のもう一つの行き先である再生
可能エネルギー開発への助成金ですが、当初2億
�3億マルク(約120�180億円)を想定していまし
たが、実際には約5億ユーロ(約600億円)が提供
されているようです。
1990年から1998年までの期間でエネルギー、
工業、サービス部門のCO2の排出絶対量は多いも
のの、全体に対する割合は段階的に減少してきま
した。反対に一般家庭が6%、運輸で11%も増加
していたことが、ドイツの消費者と生産者の行動
を転換する誘導策としての環境税制改革導入の
背景でした。製造業への過度な優遇措置が批判さ
れていますが、EU諸国との間に税負担格差が歴
然と存在する現状ではやむを得ない措置です。課
税対象から外れている石炭についても、東部ドイ
ツへの補助金政策の事情もあり、一律徴収となら
ない状況です。連邦政府はこの環境税制改革の導
入に関する法律を2003年までの時限立法として
いますが、与党や環境団体から期間延長の声も強
まってきています。
環境税(Ökosteuer)
www.oekosteuer.de
20
WWW.ICGS.DE
異文化研究
法律・経済
環境科学
生命科学
物質構造・物理学
工業数学:モデリングとシミュレーション
ドイツ・ヨーロッパに関する研究
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温暖化防止
環境に優しい交通システム
交通は環境に対する負荷を与える主な阻害要因
の一つで、CO2排出量の21%を占め、地球温暖化
の一因となっています。その他の排ガス(NOxな
ど)は森林の破壊やスモッグをもたらします。こ
れ以外にも、騒音やゴミそれに道路建設による動
植物の生息圏の分断など様々な問題があります。
ドイツでは平均すると二人に一人が自家用車を
所有してます。2000年の場合、人の移動はほと
んど(83.6%)が自家用車で、鉄道や航空機等の公
共交通機関の利用者は6分の1にすぎませんでし
た。貨物輸送もほとんど(77%)がトラック輸送
でした。
ドイツ政府は交通量の緩和と環境に優しい交通
システムの実現に努力していますが、その実現に
はかなりの措置が必要です。
環境税、公共交通機関への助成金によって交通
量の緩和と交通手段の変化が現れてきています。
燃料の技術的開発においてはドイツ政府は産業界
の協力を必要としています。環境に優しい交通シ
ステムの研究開発と競争能力を維持するための投
資は自動車業界にとっても大きな関心事です。
連邦政府の措置の一つとしてガソリンに対する
環境税の導入を挙げることができます。これによ
り2000年にはガソリンの消費量が減少し、公共
交通機関の利用者が増えました。また天然ガス車
と低燃費車(100kmあたり3�5リットル)も増え
ました。
連邦政府はまたドイツ鉄道に対して2001年か
ら2003年にかけて、毎年10億ユーロ(約1,200億
円)の助成を決定しました。2003年1月からは新
たな高速道路料金の導入が予定されており、12
トンを超えるトラックに対してkmあたり15セン
ト(約18円)が課せられることになります。
ダイムラー・クライスラー社の一部署であるデ
ビス・モビリティー・サービスではドイツテレコ
ム社と共同でテレマチックシステムの「トール・
コレクト」という料金徴収システムを開発しまし
た。
航空機の分野では、技術革新によって1990年
から2010年までの間に燃料の消費量を20�25 %
削減できるものと見られています。
連邦政府は自転車専用道の設置と補修に対する
予算を倍増して1億ユーロ(約120億円)にすると
共に、2001年4月には「国内自転車道プラン2002
�2012」を採択しました。これは交通量を緩和す
22
ると共に環境に優しい交通手段に推移させるため
の施策です。
環境に優しい新技術で重要なのはガソリンや
ディーゼルに替わる排ガスの少ないエネルギー
の開発です。具体的には天然ガス、電気、バイオ
ディーゼル、燃料電池それに水素を使った自動車
を挙げることができます。これと平行して従来通
りの燃料で100kmを3�5リットルで走れる低燃
費車の開発も進んでいます。
天然ガスが化石燃料より優れている点は入手
が楽で、多様性があり、しかも炭素含有量が少な
い点にあります。また天然ガスは世界中のどこで
も石油より長期間に渡り確保することができます
し、ガソリンやディーゼルのエンジンより有害物
質の排出が少なくてすみます。天然ガスエンジン
は、ガソリンエンジンに比べて炭化水素が20%、
一酸化炭素に至っては75 %も排気が少なくてす
みます。またディーゼルエンジンと比べた場合、
煤塵の排出が99%も削減することができますし、
価格もガソリンやディーゼルより40�50 %安く
済みます。従来の自動車より高い購入費用に対し
て国から支援プログラムが用意されています。現
在では天然ガス車の税金は少なくすみ、94年に
は200台だったのが2001年には12,000台にまで増
えました。
もう一つ注目されている代替燃料は植物油から
作るバイオディーゼルです。
ソーラー技術を日常生活でそのまま車に用いる
ことは困難ですが、電気自動車は地域の限定され
たコミュニティーレベルの範囲での使用には適し
ています。電気自動車は静かで排気もありません。
ただし、電気がどのように作られるかを考えます
と環境に悪影響を与える要因がゼロとはいえませ
ん。
これ以外に将来性があり、広範囲に応用できる
技術として水素技術を挙げることができます。こ
れは強大なエネルギーを用いて水を水素と酸素に
分解(電気分解)する技術です。また将来的には南
国のソーラー施設で水素を産出する技術も可能性
として残されています。
自動車業界では燃料電池が将来を示唆する重点
技術とされています。この技術も電気分解を応用
したもので、水素と空気をエネルギーと熱と水に
変換します。
ド イ ツ を 代 表 す る 企 業 で あ るBMW、 ダ イ ム
ラ ー・ ク ラ イ ス ラ ー、 オ ペ ル も 水 素・ 燃 料 電
温暖化防止
池 の 技 術 開 発 に 投 資 を 行 っ て い ま す。 こ れ ら
の企業はまた、リンデ社(Linde AG)やMAN
社(MAN Nutzfahrzeuge AG)やアラール社(Aral
Aktiengesellschaft & Co. KG)などと共に2002年に
ベルリンで「クリーンエネルギーパートナーシッ
プ」というイニシアチヴの旗揚げを行いました。
2003年からは30台前後の試験車を日常生活に近
い条件でテスト走行し、実用性や顧客の反応それ
に燃料補給に関する新技術などをチェックします。
テストプロジェクトの期間は5年の予定です。
ダイムラー・クライスラーはNECAR5というテ
スト車を使ってアメリカで3,000マイルの試験走
行を行いました。NECAR5はメタノール・燃料電
池車です。メタノール変換物質を用いて必要な水
素を産出するもので、300マイルごとに補給の必
要があります。燃料タンク部を担当するのはメタ
ネックス社(Methanex Corporation)ですが、ダイ
ムラー・クライスラーと同社のスポークスマンは
NECAR5の実用性は日常生活の中で充分に満たさ
れている旨を明確にしています。
燃料電池車を最初に市場に送りこもうとして
いるのはBMWで、同社はデルフィ・オートモー
ティブ・システム社(Delphi Automotive Systems
Corporation)と共にガソリンを使った燃料電池車
を開発しました。
燃料電池に関しては様々なプロジェクトが進行
中ですが、ミュンヘン空港では空港内の輸送用に
MAN社が水素を用いた燃料電池プロジェクトを
進めています。
リンデ社
www.linde.de
MAN社
www.man.de
アラール社
www.aral.de
メタネックス社
www.methanex.com
デルフィ・オートモーティブ・システム社
www.delphi.com
f-cell2002(燃料電池の学会と見本市)
www.f-cell.de
屋上緑化
建造物緑化の利点
屋上緑化には多くのメリットがあります。屋上
の断熱効率が改善され、エネルギー消費が抑制で
きるばかりか屋根の損傷が少なくなり耐用年数も
延びます。建物の建設により失われた緑の一部は
植物や小動物が活発に生息する空間として生まれ
変わり、緑化は環境を保持するために極めて大切
な措置といえます。塵埃を屋上の植栽が吸収し局
地的な気候が改善します。さらに緑化した屋上は
設計次第では利用する人の憩いの場になり景観も
改善されます。コンクリートやアスファルトで保
水機能がほとんどないため水が利用されることな
く流出する場所では、屋上緑化により保水機能が
改善し、上下水道や浄水施設の負担も軽減されま
す。屋上緑化は雨水利用システムと組み合わせて
利用されることもよくあります。このような利点
は壁面緑化にも一部見られます。
促進策
建物の緑化の優れた利点が認識されたため、今
では都市計画で大きなウエイトを占めていますし、
促進に向けて資金的に支援をする自治体も多々あ
ります。そればかりか、ドイツでは屋上緑化は広
く普及し、その合理化に向けて技術が進歩し価格
競争力が高まる事で、建設コストと省エネに関す
る長期的な費用対効果は好ましい状況にあります。
環境に配慮した建築上の多くの規定も屋上緑化
の追い風となっています。企業は環境保護策とし
て要求された最低条件を満たしているだけではあ
りません。更なる措置をとって職員の福利厚生、
とりわけ企業イメージの向上に屋上緑化を利用す
る企業も多く見られます。
歴史
個別の物件に関しては屋上緑化に既に長い歴
史がありますが、ドイツで大きなトレンドになっ
たのは60年代でその傾向は今でも続いています。
それに伴い経験が蓄積され技術も進歩し、これを
基盤として今日の細かいガイドラインが打ち立て
られています。これに従うことで、一定の技術基
準が保障されトラブルも回避されます。公的機関
や企業の建物だけではなく、一般家屋でも緑化が
進み、日照地区では屋上緑化が今やソーラー設備
と競合するまでに至っています。
23
循環経済
循環型社会の構築と拡大生産者責任
循環型社会の構築
廃棄物法成立の経緯
1972年に初めて連邦レベルの廃棄物を規制す
る
「廃棄物処分法」が制定されました。これによっ
て、廃棄物の処理は自治体・州の責任であること、
指定の場所での処理・処分、廃棄物処理による公
共福祉の侵害の回避などが決められましたが、環
境保護の実効性は期待したほど表れませんでした。
同年にデンマークで、ドイツからのワンウェイ
容器に入ったミルクの販売が禁止されましたが、
その理由は、デンマークではすべてリターナブル
容器を使用する法律ができたためで、ドイツ産業
界からの提訴を受理した当時の欧州裁判所は、環
境保全が貿易摩擦に優先すると英断的な判決を下
し、ドイツの業界は大きな打撃を被りました。こ
の“デンマーク事件”を契機としてドイツではリ
ターナブル容器が市場で急速に普及していきまし
た。
1986年になり、「廃棄物処分法」の第4次改正案
として、近代的な内容を伴う法律となった「廃棄
物法」が制定されました。近代的とあえて言う理
由は、まず廃棄物の発生をゼロにするという考え
方と、次にリサイクルすることが初めて盛り込ま
れたからです。最後に残さ物を無害化して適正処
理することが決められました。
大きな効果を狙った法律でしたが産業拡大のテ
ンポに追いつけず、「循環経済・廃棄物法」を施行
するに至りました。
「循環経済・廃棄物法」
は「廃棄物法」の全面的な改
定法(第5次改正案)として1993年に策定されまし
た(成立は1994年、施行は1996年)。これはリオデ
ジャネイロの国連地球開発会議の翌年で、ドイツ
では
「持続可能な発展」の土台になる循環型社会構
築に必要な法の施行が急務だったと想像できます。
循環型社会構築の基礎となる循環経済・廃棄物法
循環経済・廃棄物法は名前が示すとおり、廃棄
物を捨てずにマテリアルとして社会で循環させる
ことです。それは人や動物の体内を循環する血液
に似ています。天然資源の保護を最優先させ、次
にマテリアルの循環経済の促進、そして残留物は
環境に無害な方法で処分することを主眼にしてい
ます。
同法は廃棄物法同様、廃棄物の発生回避と抑制
24
を最優先させています。回避も抑制も削減も同じ
ように聞こえますが、厳密には
「発生回避」という
言葉には廃棄物をゼロにするという意識が働いて
います。
それでも発生する廃棄物はリサイクルします。
それには材料(素材)リサイクル・原料リサイクル
(ケミカルリサイクルを含む)・エネルギー獲得を
目的としたサーマルリサイクルの三通りの方法が
あります。
循環経済・廃棄物法を効果的に機能させるため
の政令は二つの個別政令群に分類されます。
第一個別政令群には廃棄物処理事業者の資格、
廃棄物の種類の欧州内統一、廃棄物処理証明など
7つの政令と一つの要綱が属しています。第二個
別政令群では製品責任を規定しており包装廃棄物、
廃車、廃家電、
廃電池などがその代表的なものです。
同法のもう一つの特徴は企業に対してこの製品
責任を強化したことです。製品責任は欧州では拡
大生産者責任として認知されていて、ドイツの循
環型社会構築に重要な役割を担うことになります。
ドイツの製品責任・拡大生産者責任
拡大生産者責任の定義
拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility
=EPR)は1990年代はじめにスウェーデン・ラン
ド大学のリンドクビスト教授が提唱、「生産者に
製品のライフサイクルにおける責任を課すことで、
製品から発生する環境負荷の低減を目指す戦略で
ある」と定義、「生産者が設計段階で環境負荷 低
減できる立場にいるから全責任ではないが、根本
的な責任について生産者が負うべきである」と説
きました。
経済協力開発機構(OECD)は拡大生産者責任に
関するガイダンスマニュアル策定を1994年から
開始、2001年3月に完成させ、加盟国に配布しま
した。
EPRの目的
OECDは汚染発生者に生産段階における環境汚
染の除去、及び原状復帰コストを負担させる汚染
者負担の原則(PPP)
を1972年に導入しました。
EPRはこの範囲を超えるもので、「生産者に製
品使用後の段階まで生産者責任を拡大する」こと
を意味しています。
循環経済
それによって、第一に廃棄物処理における財政
的(リサイクルコスト)、及び物理的責任(処理方
法など)
を自治体から生産者に移行させました(官
から民への移行)。
第二に製品使用後の責任は設計段階までさかの
ぼって製品開発することを促し、結果的に製品の
全ライフサイクルにおいて環境負荷の低減を生産
者に課しました(責任範囲の拡大)
。これは、設計
過程から生産過程、消費過程、そして廃棄過程ま
で生産者に責任があるとした考え方で、責任範囲
が拡大したため
「拡大生産者責任」と呼ばれていま
す。
OECDが推進するEPRの基本的な考え方は「誰が
廃棄物処理を実行するかではなく、処理費用を誰
が負担するか」であり、生産者に費用負担させる
ことを想定しています。そして従来、自治体が手
数料と税金で処理してきた廃棄物を「自治体・住
民負担」から「生産者と消費者負担」へ移行させま
した。
生産者は一時的に負担し、製品価格に上乗せす
ることで消費者に転嫁することによって、ここに
市場での健全な自由価格競争の余地が生まれるの
です。
ドイツのEPR
欧州のEPRを具現化した政策として、ドイツの
包装廃棄物政令は先駆的な事例です。政令では、
包装廃棄物は生産者と流通業者の責任として、回
収・リサイクル義務を課しています。しかし、そ
れを第三者に委託できることから、民間企業のD
SD社が各家庭や事業所から包装廃棄物を回収・
リサイクルするデュアルシステム・ドイチュラン
ト社
(DSD)
を立ち上げました。
使用済み包装材に対する責任は基本的に包装材
メーカー、製品の中味メーカー、販売業者に課さ
れていますが、最も効率的に包装材を削減し、回
収・リサイクルに対応できるのが製品の充填メー
カーであるため、通常ここがDSDと契約を締結し
ています。契約企業が支払う「グリューネプンク
ト(Der Grüne Punkt。DSDと契約した企業が当該
包装材に印刷する矢印の付いた緑色のライセンス
マーク)
」のライセンス料は回収・分別コストに充
てられています。
同マークの費用は製品価格に上乗せされ、最
終的に消費者が負担します。ここにEPR特有の廃
棄物処理の「自治体・住民負担」から「生産者・消
費者負担」への転嫁が見られます。重要なことは、
無料の回収・リサイクルシステムが消費者の手元
まで届いていることです。
EPR導入分野は、包装材の他に廃車、廃バッテ
リー、廃家電、廃建材と広がりを見せています。
理念的性格から具体性のある手法へ
EPRの概念で生産者が実行する責任の範囲は決
められました。しかし、環境保全投資コストが企
業経営を圧迫するならば、循環型社会の構築もま
まなりません。したがって企業経営的視点から確
実に経済性が見込まれるツールが必要です。
目下のところドイツ産業界は、環境保全を製品
に統合することと同時に、生産プロセスへの環境
保全技術の投入を実行し、さらにそれが経済的な
メリットを生む手法に注目しています。
製品・生産プロセスに統合された環境保全
注目されるPIUSとは
ドイツは環境汚染に対して、1970年代には付
加的な環境保全(エンド・オブ・パイプ)で対応し
てきました。80年代に入りそれに生産工程の副
産物と使用済み製品のリサイクリングが加わり、
90年代後半からさらに製品と生産プロセスに環
境テクノロジーを導入して、製品であれば有害物
質排出の少ない、耐久性のある、リサイクル対応
の構造と材料を使用したエコ製品作りを進めてい
ます。同時に、生産工程では廃水や大気汚染の少
ないプロセス、有害物質の少ない燃料や原材料の
導入、省資源を実行しています。
この二つの環境保全を同時に生産プロセスで実
行して、なお採算性を高めていく手法をドイツで
は「製品・生産プロセスに統合された環境保全」=
PIUSと命名し、実績をあげています。
PIUSの目的
PIUSの目的は天然資源の節約と有害な環境負荷
の回避です。とりわけ生産工程に統合された環境
保全にこそ、持続可能なエコロジー的な意味があ
り、経済的な採算性を見込め、環境負荷を削減す
ることに関するキーが存在しています。
成功のポイントは、必要に応じた投資が短期間
のうちに償還できることです。さらに生産工程に
統合された環境保全は、機械・プラントにおける
イノベーションのきっかけを提供し、それによっ
て、環境保全技術分野における競争で優位性を確
立でき、環境技術がセットされた機械・プラント
の輸出の強化につながります。
25
循環経済
中期的に、生産工程に統合された環境保全は従
来の付加的な環境技術による対策を軽減するか、
取って代わることになるでしょう。全体的に見る
と環境保全と経済性のメリットだけではなく、イ
ノベーションの促進とエコ製品及び技術開発も同
時に発生します。
EPRの導入をスムーズにするPIUS
━━トータルなエコバランスを作成
PIUSの理念に基づき、企業のマテリアルとエネ
ルギーの分析、及びバランスの作成、コスト評価、
マテリアル・エネルギーコストの最適化を実施
します。そして維持可能な環境保全と経済性のコ
ントロールシステムを確立します。また原料・資
源・エネルギーを対策導入以前との比較で、コス
トパフォーマンスを環境会計の収支で明示し、マ
テリアルとエネルギーの過剰消費、少量消費の明
確化、長所/短所分析、コスト/メリット分析を
実行し、結果的にエネルギー及び原料・資源の消
費を80 %まで削減、操業コストを3�8 %削減さ
せることが可能です。
ドイツは生産者にEPRの実践を強く迫る循環経
済・廃棄物法で、廃棄物量の少ない、排出したマ
テリアルをリサイクルする循環型社会の構築を目
指しています。その実現に
「持続可能な発展」は必
要不可欠な政治目標です。また、その前提になる
のがエコロジー・エコノミー・社会の安定化とい
うバランスのとれたトライアングルの形成です。
これがEPRを基礎としたドイツの目指す循環型社
会のグランドデザインです。そして最終目的は、
地球環境保全──人類動植物の生き残りです。
ドイツ環境保護リンク集
研究機関
国際環境技術移転センター(ITUT)
アルフレッド・テプファー自然保護アカデミー(NNA)
フライブルクエコ研究所
ドイツ気候コンピュータセンター
エコロジック研究所
フラウンホーファー研究所
ヴッパータール気候環境エネルギー研究所
ハイデルベルクエネルギー環境研究所
http://www.itut.de
http://www.nna.de
http://www.oeko-institut.org
http://www.dkrz.de
http://www.ecologic.de
http://www.fraunhofer.de
http://www.wupperinst.org
http://www.ifeu.de
財団
ハインリッヒ・ベル財団
ヨーロッパ自然遺産財団ユーロネイチャー
エコロジー・農業財団
http://www.boell.de
http://www.euronatur.de
http://www.soel.de
再生可能エネルギー
気候同盟
ソーラーエネルギーポータルサイト
バイオマス情報センター
ヨーロッパソーラーエネルギー協会
プリマクリマ・ワールドワイド
http://www.klimabuendnis.org
http://www.solarserver.de
http://www.biomasse-info.net
http://www.eurosolar.org
http://www.prima-klima-weltweit.de
その他
ドイツ環境自然保護連盟(BUND)
ドイツ環境保護情報
ドイツ環境情報ネットワーク
ヨーロッパ青年と環境
クリーナー・プロダクション・ジャーマニー
(環境技術移転について)
グリーン・オーバル
(ドイツの 12 の自然空間をバーチャル体験できる)
26
http://www.bund.net
http://www.umweltdeutschland.de
http://www.gein.de
http://www.ecn.cz/yee
http://www.cleaner-production.de
http://www.gruenesoval.de
循環経済
デュアルシステム・ドイチュラント(DSD)── グリューネプンクト
製品責任のためのサービス
課題
ド イ ツ の「 包 装 廃 棄 物 政 令 」
(1991年 発 効、
1998年改訂)の主旨は、企業に製品責任を持たせ
る点にあります。生産、流通、販売会社には使
用済みの輸送梱包材、販促用包装材(例えば歯磨
きの外箱)
、販売包装材(例えば接着剤や歯磨きの
チューブ)を回収し、リサイクルする義務があり
ます。この政令では販売包装の再利用率について
素材ごとに規定されています。そして企業がこれ
を代行するシステムに参入して当該義務から免除
されることも認められています。
デュアルシステム・ドイチュラント社(Duales
System Deutschland AG。以下DSDと表記)は上記
政令で定められたメーカーや販売店の回収・再利
用義務を代行するために1990年に設立されまし
た。この目的を遂行するためにドイツ全域に渡っ
てDSDは各地区ごとで使用済み販売包装の回収・
分別・再利用を図ります。なおデュアル(二元)と
いう言葉ですが、自治体が行なう廃棄物処分とは
別に二つ目の措置がある事を意味します。つまり、
包装材のリサイクルは企業(DSDが代行)
、
「ごみ
の最終処分」(埋め立て、焼却)は自治体が責任を
負うという意味です。
DSDは自治体(537の市町村や郡)との合意に基
づき、廃棄業者に使用済み包装材の回収を委託し
ます。ドイツに様々な回収方式があるのは、ひと
えにDSDが各自治体の既存のシステムに合わせて
業者に回収を委託するからです。使用済みのガラ
ス包装材については、ガラスの色ごとにコンテナ
に「持ち込む」方式が確立しています。紙、ボール
紙、ダンボールでは
「引き取り」、「持ち込み」両方
式があり、道路わきの紙用のコンテナに「持ちこ
んだり」
、或いは家の外に束にまとめて出したり、
ブルーのコンテナに入れて
「引きとって」もらいま
す。新聞・雑誌は紙の包装材と同様に取り扱われ、
DSDに対して自治体から一定の手数料が支払われ
ます。プラスチック、ブリキ、アルミ、複合材と
いった軽包装材は大半が黄色の専用容器(袋、コ
ンテナなど)に入れられ、消費者のところで回収
されます。DSDの委託を受けた業者はこのような
軽包装材を回収し、再利用に向けて分別・加工施
設に持ち込みます。業者はここで収集・分別した
資材の再利用を保証するメーカーや二次資源リサ
イクル専門業者に引き渡します。
27
循環経済
DSDの契約企業
2001年年末までに約19,000社がDSDと契約を
締結しています。2001年度には1,272社が新規に
契約を結びましたが、そのうち約3分の1は外国
企業です。数多くの合併や破産、倒産にもかかわ
らず取引先の数は高水準を保っています。外国の
契約企業も増え、今では4,571社を数えます。
実績
ドイツでは2001年に前年の567万トンに匹敵す
る547万トンのガラス、紙、ボール紙、ダンボー
ル、プラスチック、ブリキ、アルミや複合材か
らなる使用済み販売包装材が回収されました。こ
のような包装材にはグリューネプンクト(Der Grü
ne Punkt。DSDと契約した企業が当該包装材に印
刷する矢印の付いた緑色のライセンスマーク)が
記されています。混入部分を考慮すればドイツで
はDSDを通して630万トン(2000年:640万トン)
、
一人あたり年間76.6キロ(同78.3キロ)回収した事
になります。軽包装材(アルミ、プラスチック、
ブリキ、複合材)が2001年に比べて3.6%伸びて
いるのに対して合計では2.1 %と若干減少しまし
た。これは市場がガラスからペットボトルに変わ
りつつある中で、回収総重量に関してガラスの減
少分ほどペットボトルが増えていないためです。
DSDは2001年にも包装材令の規定をクリアし
ています。2001年におけるリサイクルの個々の
結果は右表の通りです。
DSDは回収・再利用実績を「物流リスト」で公表
していますが、このリストの基礎となるのはDSD
から再利用について受託した個々の業者が毎月発
表するデータで、これを見れば販売包装材の回収、
分別状況が判明します。個々の廃棄物処理業者は
選別施設で受け付けた販売包装の具体的な再利用
の結果を公表します。個々のデータを集計すれば
全体の物流量が判明、これをDSDが毎年州の当局
に提出します。
財政状況
非営利企業DSDの資金は、加入企業がグリュー
ネプンクトの使用に関して払うライセンス料に
よって賄われています。店頭で初めて行なわれ
るサービス包装についてはそれぞれの包装材メー
カー、輸入業者や卸業者が払います。マーク使用
契約を締結してライセンスを受けた企業は申し込
んだ包装材の上に明確にマークを記します。
28
販売包装上のグリューネプンクトはそのメー
カーや商社がこのシステムに参加している事を示
します。ドイツで販売される商品の包装について
のみライセンス料が請求されます。
ライセンス料は包装材の容積、重量、リサイク
ルの難易度によって決められます。このようにラ
イセンス料は実際のリサイクルコストであり、包
装自体の費用と共に製品市場価格に反映されます。
DSDのライセンス料金表を見れば、「環境に正直
な価格」という原則に従った効率的で実証済みの
成功例であることが一目瞭然です。
この料金体系は包装材を節約し、有効利用を図
ろうとする動機づけにもなりますし、様々な包装
材の間での公正な競争を促すものにもなります。
コスト
販売包装の廃棄と再利用のためのDSDのコスト
は2001年に18.45億ユーロ(約2,214億円)でした。
DSDはグリューネプンクト使用料を更に下げる事
ができました。DSDの取引先は2001年に約1.3億
ユーロ(約156億円)
のライセンス料を節約、分別・
再利用技術の進歩や業務の合理化により95年か
ら2001年の間にコストを5分の1削減できました。
循環経済
プラスチックの再利用においては著しい進歩が見
られ、1998年に比べてトンあたりの費用は75ユー
ロ(約9,000円)もカット、過去3年間で21%減少
したことになります。
このようにDSDの支出は2000年に比べて2%増
えましたが、これは例えば飲料品包装の強制デポ
ジット制の導入を想定するなど、リスク回避に向
けた積立金のためです。
年間の収支バランスは取れてはいますが、個々
の包装材のライセンス料には大きなばらつきがあ
ります。ガラス、ボール紙、紙、ダンボールにつ
いては減収(ブリキもわずかながら減収)
、一方プ
ラスチック類では増収となっています。
資源のバランスシート
将来の廃棄物経済が資源保護にいかに寄与す
るのか具体的に明示する必要があり、DSDはグ
リューネプンクトのついた包装材が再利用され
る際の環境効率について、資源バランスシート
を使って完全に透明化することにしました。この
資源のバランスシート化が初めて行なわれたのは
2000年でしたが、DSDはまずグリューネプンク
トのついたプラスチックのリサイクルによって具
体的にどれだけエネルギーが節約されたか数値化
しました。エネルギー効率の分析は環境のバラン
スシートにしたがっており、プラスチックのリサ
イクルにおいて全ての素材の流れをもれなく計算
に入れています。回収から分別、再利用に至るま
で、包装材リサイクルの各段階において、資源の
消費と有害物質の排出について、合計537の廃棄
地区、210の分別機、78の解体機、そして105の
リサイクル施設で調査が行なわれました。この計
算では各部門でのトラック走行距離も考慮されて
います。
包装材再利用と環境との関係について総合的に
分析するために、DSDは2001年に全ての軽包装
材(アルミ、プラスチック、ブリキ、複合材)のリ
サイクルによってどれだけ温室効果ガスが削減で
きたのか調査しました。その結果、このリサイク
ルにより2001年にはドイツでCO2が約40万トン
節減、年間約2,000リットルの軽油を使う一般世
帯に換算すると64,000世帯分(ポツダムやハイデ
ルベルク規模の中都市クラス)相当のエネルギー
消費量が節約された計算になります。同時に軽包
装材のリサイクルを通して約330億メガジュール
の一次エネルギーが節約できたことにもなります。
29
循環経済
数年後にはDSDはこのような資源バランスシー
トを、全ての回収した包装材(ガラスや紙を含む)
や更なる湖沼河川の水質汚染にもつながる富栄養
化や土壌の酸性化といった環境指標にも拡大して
適用しようとしています。
DSD持続可能性についての評価
バーセルのプログロス研究所がDSDの持続可能
性について総合評価を下しています。これによる
と、DSDはドイツの持続可能な発展のために明確
にして計量可能な貢献をしており、その貢献度は
更に高まるものと予想されます。
「DSD:持続可
能性の評価と展望」と題した調査論文ではDSDの
強さとして革新性、投資へのインセンティブ、社
会的認知そして雇用効果が挙げられています。同
時にDSDの体制の現在での弱点として、コスト水
準と堅実性に問題がある点が指摘されています。
いても紹介されています。この調査では経済、環
境、社会面に同じように重きが置かれています。
調査対象の分野は、とりわけ資源の使用、温室効
果ガスの抑制、コストの効率化、並びに社会的な
認知です。結論として、環境面で、廃棄物の焼却
や包装リサイクルのない経済に比べて、DSDには
明らかに先進性があるとされています。いずれに
しましてもドイツでグリューネプンクトが導入さ
れたことで、包装材の消費と経済成長がはっきり
と分けて議論されるようにもなりましたし、包装
材を作るための資源の消費も一段と減りました。
DSDが持つ将来の持続可能な発展の潜在力を評
価すべくプログロス研究所は5つの発展のシナリ
オを描いていますが、共通しているのは、DSDの
実績・ノウハウが蓄積され稼働率が上がるほど、
DSDの持続可能性への影響力が今後とも高まると
いう点であります。
DSD社の概略より
この調査論文では実際のDSDの持続可能性への
貢献とともに、様々な今後の発展のシナリオにつ
30
日常の環境保護
ドイツ人と日本人の環境意識
ドイツ人の環境意識は高く、国も「環境先進国」
として各国の模範とされています。高い環境意識
を持つ国民は有権者として政党にプレッシャーを
かけ、政権政党は厳しい環境関連立法で主として
産業界に規制をかけています。そうしたドイツ社
会における環境意識は実は国内の環境汚染の歴史
と無縁ではありません。
最初の大きな環境汚染は戦後の経済復興の拠点
となったルール工業地帯から排出される煤煙でし
た。それは晴れた日でも青空が見えないほどの状
況であったと言われています。
当時、野党党首だっ
たブラントは1961年の選挙戦で初めて「ルールに
青空を」のスローガンを掲げ、1968年に政権に就
き環境保護政策に着手しました。
国内の環境汚染はその後もセベソ事故によるダ
イオキシン汚染、酸性雨被害、チェルノヴィリ原
発事故と後を絶たず、国民の環境問題への関心や
環境意識に大きな影響を及ぼしました。結果的に
それが政府と企業に対して環境保全への対策を迫
る原動力となったのです。
1970年代は原発反対に代表される市民運動が
盛んになった時代でした。この時代感覚を代表す
るのが
「緑の党」でした。原発反対と自然保護を党
是とした緑の党が州議会で躍進し、1983年には
連邦議会に27議席を獲得、2002年の総選挙では
90年同盟と統一会派を構成し、55議席を獲得し
ました。現在では、環境政策に関して政党間に大
きな差異はなく、保守系、革新系のどちらが政権
に就いても厳しい法規制で対応しています。
環境意識高揚の契機
1970年のアンケート調査によると41 %の国民
が「環境法の言葉が何を示すかわからない」
、また
60%が「環境保護について聞いたことがない」と
回答するなど、環境保護はまだ社会に広く浸透し
ているとは言えませんでした。
しかし、環境保護政策の黎明期といえる1971
年に連邦政府は2つの画期的な通達を出していま
す。一つは、動植物の生態を守ることを決めた「環
境保護計画」です。それは第一に、健康と人間ら
しい生存のために必要なきれいな環境を人間が守
る。第二に、大気・土壌・水質・動植物の世界を
人間の乱獲から守る。第三に、人間の乱獲による
破壊や損失を除去するという内容です。同計画は
危険予防の原則、汚染原因者責任の原則、協力の
原則を決めており、その後の環境関連法令の基礎
となりました。
もう一つの通達は
「環境教育計画」です。これは
32
連邦政府が各州に対して、小学校から環境教育
の実施を求めたものです。小学生として環境教育
を受けた“環境戦士”は着実に増えつづけ、80年
代以降、現在までの世論を形成する重要な核に成
長しています。このように環境教育の洗礼を受け
た世代の問題意識、そして彼らが形成する世論に
後押しされた連邦政府による法規制の策定を通し
て、ドイツ社会では環境保護が定着していきまし
た。通達の効果は早い時期から表れ、1971年に
実施したアンケート調査では、前回「環境保護に
ついて聞いたことがない」と回答した国民の割合
は60%から8%に激減しました。
2002年の環境意識
80年代には廃棄物問題の発生、環境汚染や地
球温暖化の進行に伴い、環境意識も高揚しました。
1986年に制定されたリサイクルを主眼にした近
代的な「廃棄物法」と同法14条に準拠して策定さ
れた「包装廃棄物政令」が施行されたことで国内の
環境問題は国民にとって非常に身近な存在になり
ました。
1996年のアンケートでは、「環境保護に対する
自己責任」という設問に対して実に75%が「他人
はどうであれ、自分は可能な限り環境適正行動を
する」と答えています。「場合による」
が21%、
「環
境行動はしない」は4%でした。このことから国
民は政治、行政、産業だけの責任ではなく個人の
責任であることを強く認識していることがわかり
ます。80年代から90年代にかけて個人主義が一
層浸透し、人生を享受する傾向が強まったとされ
ていますが、環境保護の重要性と行動の必要性は
依然として存在し、さらなる進展を見せているの
が特徴です。
ドイツ連邦環境庁は1991年から定期的に社会
の環境意識調査を外部に委託、2002年の調査結
果もすでに発表しています。その中で、環境保護
は高い失業率と低迷する経済状況の中にあっても
「重要」
、
「極めて重要」と回答した人は90%にも
達し、テーマ別ランキングでは第4位につけてい
ます。環境行動やクオリティについて、「極めて
よい」と「よい」が91年の55%から82%に拡大しま
した。環境全般に対する市民の考え方に大きな変
化はありません。「積極的に環境適正生活を営み、
率先して実行」37 %(2000年:49 %)、「極端は
よくないが、環境保護は国民の義務」と見ている
のが42%(同37%)と、合わせて80%以上が肯定
的で国民の環境意識に陰りは見えません。
しかし、市民の環境意識の中で直接家計に波及
日常の環境保護
ドイツ人の消費行動
消費者も汚染者であるという
意識が生まれています。
2002 年の結果
勿論する
多分する 多分しない
しない
4)「生活が不便になってもか
高くてもエコ製品
10%
51%
29%
10%
まわない」、「エコ製品は高く
を購入する
(12% )
(59% )
(24% )
(5%)
ても購入」、
「課税してもよい」
環境保護のために
8%
37%
36%
19%
の項目で日本とドイツの消費
高い税金を払う
(13% )
(47% )
(26% )
(14% )
者はほぼ同じで、価格よりも
環境保護重視の傾向が見られ
環境保護のために、
9%
49%
33%
9%
ます。「環境団体を支援する」
現在の生活レベル
(10% )
(55% )
(29% )
(6% )
ではドイツの方が高く、これ
を下げられる
は確立された環境団体がある
(
)
内の数字は2000年
ためでしょう。日本の若年層
する質問に対しては躊躇が見られます。
ではすべての負担に消極的なのに対して、ドイツ
2000年との比較で、2002年ではすべてにおい
では若年層が受け入れています。
て環境消費行動の後退が顕著です。これは環境意
5)環境問題の解決者として日本とドイツは共通
識の低下というよりも、低調な経済状況による生
して「行政」、「企業」、「個人」の順に選択、行政
活防衛意識が働いた結果でしょう。
への期待は特に日本で顕著です。
これについて早稲田大学の寄本勝美教授は「日
本の自治体と市民は独立したパートナーとして一
ドイツ人と日本人の環境意識と行動
定の距離を保たず、役割分担という意識よりも、
数々の調査結果から、日本人の環境意識は極め
自治体がすべてをおこなうべきという考え方をし
て高く、時にはドイツ人を超えることが明らかに
ています。その理由は、日本では市民は税金を払
なっています。しかし、環境意識と実際の行動の
えば、社会貢献の義務はないと考えられているか
間には大きなギャップが生じていることも指摘さ
らです。これに対してヨーロッパは税金も社会貢
れています。特に日本人は意識先行型でドイツ人
献(できることは分担して行う)も義務と考えられ
は行動先行型という見方があります。ではなぜ、
ています。両者の差異は市民権を自動的に入手し
こうした格差が顕著になるのか、国立環境研究所
た日本と、戦って市民権を獲得したヨーロッパの
が1999年にまとめた「地球環境問題をめぐる消費
違いではないでしょうか」
と説明しています。
者の意識と行動が企業戦略に及ぼす影響」と題し
また「政党・政治家」への期待はドイツで高く、
た日本とドイツの消費者の比較データをもとに原
日本では極めて低い数字が出ています。
因を探りたいと思います。
●消費者の環境行動
●消費者の環境意識
1)省エネ・省資源的な行動で日独の差はほとん
1)「消費者が深刻と考える環境問題」では日本と
どありませんが、異なるのは「消費電力量の少
ドイツの消費者は大気汚染とオゾン層破壊で共通
ない製品選び」がドイツでは徹底している点で
していますが、化学物質の影響と地球温暖化は日
す。これはイメージで購入する日本の消費者と
本の消費者が深刻に受け止め、ドイツの消費者は
徹底的に吟味して購入するドイツ消費者の性格
熱帯林の減少や酸性雨、野生生物種の減少を憂い
の違いかもしれません。
てます。日本は COP3 の開催や環境ホルモン、ダ
2)環境商品の選択では「使い捨て容器を使用し
イオキシンの問題が大きく影響しています。これ
た製品購入を控える」など、全項目でドイツの
に対してドイツの場合は、
危険性に対して“グロー
ポイントが高く、これは日本で選択できる製品
バルに考え、地域的に行動”することを教える 環
が市場にあまり提供されていないためだと考え
境教育の効果が現れています。
られています。
2)「環境問題が 10 年のうちに深刻化する」こと
3)消費者のグリーン度を知る項目として「省燃
では日本人もドイツ人も肯定していますが、より
料と CO2 削減のため、地場産の商品の購入」、
「エ
明確な危機意識は日本が 70%、ドイツは 40%と
コマーク付き商品の購入」、「環境対策を行うメー
差がでました。これは前項目同様、環境ホルモン
カーの製品を購入」、「環境に配慮した店で購入」、
やダイオキシン含有の報道が原因です。特に若年
「高くてもエコ製品を購入」でドイツはすべてに
層にこの傾向が強く現れています。
おいて 65%から 70%が実行しています。これに
3)
「環境問題を引き起こしている責任」は「企業」
対して日本は 35%から 40%程度と顕著な差が発
が日本では 55 %、ドイツでは 70 %、
「私たち一
生しています。こうした大きな格差も前項と同じ
人一人」は日本が 77 %、ドイツが 82 %と回答、
く、マテリアル循環型社会の構築を強く目指す市
33
日常の環境保護
場の存在との差でしょう。
日本人の環境意識
日本では1960年代後半から4大公害訴訟に代表
される大気・水質汚染が社会問題化し、政府もそ
の改善に努力しました。これはドイツが環境汚染
を契機として法規制を強化したのと似ています。
この時が日本が環境先進国になるチャンスだった
のでしょうが、その後、環境保護全体にかかわる
法規制の強化も、市民レベルの環境保護運動の動
きもありませんでした。それには欧州のように、
空も川も接している地理的状況から必然的に“グ
ローバルに考え、地域的に対応”という考え方が
定着せず、長期的な視野で環境保護を捕らえる必
要性がなかったことが上げられるでしょう。さら
にドイツで国民の環境意識の高まりを吸い上げて
国政に反映させる「緑の党」が70年代後半から台
頭してきましたが、日本にはそうした組織が生ま
れなかったことも影響しました。
そうした日本に環境意識が高まる時期が訪れま
した。ある市民の環境意識に関する研究によれば、
高度成長期の1971年には「環境問題を深刻に受け
止めていない」人が50.8%もいましたが、1998年
には「地球温暖化防止のために何らかの取り組み
をしたい」と答えた人は74.1%に達しました。こ
の変化の理由は二度のオイルショックとバブル崩
壊後の長引く不況が生活の価値観を変えたと研究
では考察しています。さらに「高くてもエコ製品
を購入する」と答えた人は91年よりも増えている
こともわかりました。
この結果から推察すると、日本人とドイツ人の
34
環境意識とその望む行動の間には大きな差はあり
ません。しかし、実際の行動となると両者には開
きが見られます。その原因は、環境行動をするた
めの受け皿やインフラ、すなわちエコ製品市場、
組織化された環境団体、環境保護を重視した政治
システム等が整備されていないことが考えられま
す。このことは逆に消費者を意識した日本の社会
システムが整備されれば、すでに存在する消費者
の高い環境意識が十分に反映されることを示して
います。
しかし、日本的な特徴も見られます。日本人は
身近で発生する環境汚染に大きな危機意識を抱き
ます。特に日本の若年層の環境危機意識は、環境
汚染の情報源がセンセーショナルな報道に傾倒し
がちなテレビや新聞に集中しているために77 %
と極めて高い反面、行政が実行すべきだとしてす
べてを任せ何も行動していないのが現状です。
これに対して、環境危機意識が40 %と低くて
も、ドイツの若年層の50 %以上は積極的な行動
をしています。これは環境教育の一つの効果で
しょう。
ドイツ人の環境意識の原点
環境教育を充実することで、環境保全的な世論
の形成を通して政治に厳しい環境法規制の施行を
働きかけます。また教育は環境の情報源の多様化
を促し、全体像を伝えるとは限らないメディアの
偏りを専門誌からの情報で是正することを可能に
します。そして環境団体の組織率を高め、肯定的
な意味での圧力団体に発展させ社会システムの変
革を促すことがドイツでは実行されています。
日常の環境保護
ブルーエンジェル
ドイツのエコマーク
(ドイツ語でUmweltzeichen)
は、そのラベルが青色であることから、一般に「ブ
ラウアーエンゲル」(Blauer Engel。青い天使とい
う意味で、以下英語式に
「ブルーエンジェル」と表
記)
と呼ばれています。
このブルーエンジェルの歴史を振り返れば、
1977年に環境問題を担当していた連邦・州の大
臣がこのエコマークの導入を世界に先駆けて決定、
1979年には48の商品が初めて認定されました。
以来20余年の歳月を経て現在では環境・消費者
保護を重視した商品・サービスのロゴとして国内
外の800社にものぼる製造業の約3,700品目にブ
ルーエンジェルが付与されています。
ブルーエンジェルのラベル所
有権はドイツ連邦環境・自然保
護・ 原 子 炉 安 全 省 に あ り、具
体的な対象品目の基準案作成や
専門的評価、審査、ラベルの使
用契約締結などについては、連
邦 環 境 庁(Umweltbundesamt)
・ドイツ商品安全表示協会
(RAL:Deutsches Institut für Gü
tesicherung und Kennzeichnung
e.V.)・環境保護表示審査委員会
(Jury Umweltzeichen)などがそ
れぞれ役割を分担しながら運営
にあたっています。なお、環境保護表示審査委員
会の委員の任命権はドイツ連邦環境・自然保護・
原子炉安全省にありますが、産官学はもとより消
費者・環境保護団体、労働組合、ジャーナリスト
など各方面の代表によって構成されており、独立・
中立性は確保されています。
ブルーエンジェルは、環境に優しい商品や企業
の環境に対する姿勢等を消費者が知るための重要
な指標のひとつです。
商品の生産から廃棄にいたるまで、あらゆる工
程での環境への評価はもとより、同一の用途・機
能の他商品と比較して、省エネ等において優秀で、
しかも商品の有用性や安全性が保証される商品な
どに、ブルーエンジェルは与えられます。また、
このラベルの使用認定有効期間は原則として3年
間で、基準の見直しもまた行われています。
実際に、ブルーエンジェルは例えば次のような
商品に付けられています:
・有害物質(重金属・溶剤等)の含有・排出量を
最小限に抑えた商品:塗料・暖房設備・フロン
不使用の冷蔵庫等
・使用済製品からのリサイクル再生紙
・再生プラスチック製品
・再利用可能な製品:何回も使用できる瓶や容器
・資源節約に貢献する製品:節水設備等
・騒音の少ない製品:騒音の抑制された芝刈り機
や建設機械等
・リサイクルのためにメーカーに回収義務のある
製品:コンピュータ・コピー機等
・省エネ商品:冷蔵庫・暖房設備・コンピュータ
等
ブルーエンジェルが付与されている代表的なも
のとして、たとえば紙が挙げられます。
コンピュー
タ化の進展にもともない、紙の消費は増える一方
であり、「ペーパーレス・オフィ
ス」は錯覚であったことがわか
りました。紙の利用は資源消
費や排水・廃棄物間題とかかわ
るものです。このような問題を
大幅に改善するには、使用済み
の紙をリサイクルした再生紙を
利用することが必要です。最近
では多種多様の再生紙が販売さ
れていますが、全ての再生紙が
環境保護の要請に応えているわ
けではありません。ブルーエン
ジェルは環境保護の厳格な基準
を充足する製品にのみ与えられています。
従来のコピー機は電力消費量が多く、しかも
室内空気をオゾンなどの有害物質で汚染する弊害
がありました。これに対しブルーエンジェルを取
得したコピー機は、オゾン、埃、騒音が最小限度
に押さえられ、トナーの成分も環境と健康に配慮
したものになっています。もちろんそのようなコ
ピー機では再生紙も使えます。更にメーカーは古
い機種を回収し、環境保護に適った廃棄処理をし
ています。
また、ブルーエンジェルは、企業・家庭にお
いて節水を促す機器にも付与されています。飲
料水として使える上質の水は世界的に減少しつ
つあり、水の浪費と化学物質による汚染がその
原因となっています。トイレ用の節水フラッシュ
では、タンクの量が6�9リットルで、更に水が
少なくてもよい場合に水量の調整ができる近代的
な設備にブルーエンジェルが付与されています。
また、このような水量調節器は旧式タンクにも
35
日常の環境保護
員会は、
「有害物質排出抑制建材」の基準を決め、
パーティクルボード・合板・ファイバーボード
の三種において、テストルームにおけるホルムア
ルデヒド放出濃度が0.05ppmを超えず、しかもホ
ルムアルデヒドの代用接着剤であるフェノールあ
るいはイソシアン酸塩の放出も大幅に削減されて
いる製品にブルーエンジェルが与えられることと
なりました。また木材防腐剤・防虫剤やハロゲン
有機化合物(防火剤)を使用した建材にブルーエン
ジェルは付与されません。こうして消費者は室内
空気を殆ど汚染しない建材を選ぶことができるよ
うになりました。
安く取り付けることができます。また、節水アダ
プターを、台所、洗面所、あるいは風呂場の蛇口
に装着して水量を抑えることもできます。蛇口か
らは通常1分間に8�12リットルの水が流れますが、
空気の泡を混入することにより実際よりも多くの
水を使用している感覚が得られます。このような
節水機器にもブルーエンジェルは付与されます。
再生タイヤ は廃棄物リサイクル製品として極
めて好評です。ビード、カーカス、スチールベル
トなど、タイヤの80%がリサイクル可能です。再
生タイヤのメリットは、価格が安い上に品質も新
しいタイヤに劣らないことであり、ドイツではゴ
ム処理中央手工業連盟がこの再生タイヤの品質を
保証しています。
新しい水溶性塗料が開発され環境や健康への被
害が減少しつつありますが、塗料に含まれる溶剤
の割合が僅少であり、そして環境汚染の原因とな
る重金属や危険物質をほとんど含まない塗料には
ブルーエンジェル表記があります。また、ブルー
エンジェルは環境に優しいだけでなく、同時に高
品質の塗料に付与されており、このような塗料は
取り扱い・環境保全への点でも優秀なテスト結果
を得ています。
ブルーエンジェルは、環境保全に配慮した製品
の自発的・積極的な開発・生産を促進させ、同時に、
消費者が適切な情報を得ることで日常の消費生活
において環境への意識を高めることに重点に置い
ています。実際、
ブルーエンジェルは消費者やメー
カーの意識向上にも成果を挙げているのです。
パーティクルボードは家具や内装、その他様々
な用途に使われますが、室内におけるホルムアル
デヒド放出の最大の原因はこのパーティクルボー
ドであり、頭が重いあるいは頭痛、目が痛い、涙
が出る、喉の炎症や咳など、様々な症状を引き起
こしています。1995年5月、環境保護表示審査委
36
ブルー・エンジェル
www.blauer-engel.de
ドイツ商品安全表示協会
www.ral.de
日常の環境保護
オーガニック農業
ドイツの農産物・飲食料品
ドイツの農業・食品産業は、質の高い飲食料
品を提供することで、世界中の消費者市場を満た
しています。ドイツは、今日世界4大農産物輸出
国のひとつで、農業・食品産業はドイツで第5位
の輸出産業に成長しています。また、今日では、
3,000を超える輸出企業が10万種以上の製品を供
給しています。
生産
ドイツには、自然農法の考えに沿って作られた
農産物、加工品に長い伝統があります。この伝統
の流れを作ったのは、人智学の創始者ルドルフ・
シュタイナーで、彼の提唱により、1924年に生
態系の保護を重視した目然農法の環境開発が始ま
りました。人智学とは、生命のプロセ
スを単に物質的連関の中で捉えるだけ
でなく、生物環境と非生物環境との間
の多様な相互作用も考慮しながら、生
命の保全と促進を図ることを目標に据
えた学問のことです。
実際にドイツの自然保護的考え方に
基づいて活動する農業従事者たちは、
この目標を追及してきました。彼らは
環境を損なうことは極力避けようと努
め、化学合成の農薬や近代的農産業で
広まった化学肥料の使用を控えました。
動物を飼育する場合も、ホルモン強化
剤、肥育用補助剤あるいは予防的抗生
物質といった人工的な注入物を使わず
に、それぞれの種族に最も適した自然
育成法を頑なに守ってきました。
加工
ドイツでは農産物が本来もつ重要な成分を保つ
ために、加工法にも非常に神経を使っています。
生産物の純度を限りなく高く保つために、加工業
者たちは化学合成添加物や加工助剤を使用するこ
とを一切やめています。ドイツでは一般的な加工
技術と加工衛生にも極めて厳格な基準が設けられ
ています。加工業者たちもまた、原材料の持つ自
然の旨味を最大限に引き出す方法の研究と開発に
絶えず取り組んでおり、原材料と加工法の最も適
正な関係を見出すための長い間の試行
錯誤の繰り返しを通じて、多くの経験
を積んできました。また彼らの多くは
未だに、地元中心に一般的なオーガニッ
ク産物の加工品を地道に供給する、手
工業的な事業体としての業態を貫いて
います。
販売
ドイツは、年間売上高約20億ユーロ
(約2,400億円)に達するヨーロッパ最大
のオーガニック生産物市場を形成して
います。また、世界全体でもアメリカ
合衆国に次いで第2位の規模を誇ってい
ます。ドイツで生産されたオーガニッ
ク生産物の市場シェアは今も拡大傾向にあります。
37
日常の環境保護
管理
オーガニック製品の規格基準のベースとなる
法律は1991年に告示されたEU法2092です。この
法律では、食用とされる畑作オーガニック農産物
の「生産」
「加工」「輸入」「検査」について定めら
れています。この法律基準を満たしていない製品
を、オーガニックと称してEU内で表示、販売す
ることは禁止され、罰則規定が定められています。
1999年8月に同法の改訂が行なわれ、遺伝子組換
え農産物およびそれらを用いた製品に関する規制
が設けられ、2000年8月には、畜産物に関する基
準も発効しました。ドイツの各オーガニック生産
者協会が個別に設けている規格基準は、EUの基
本基準を原則としてすべて満たしており、品目に
よっては、更に厳しい基準をクリアしています。
たとえば、同一事業体における部分的なオーガ
ニック事業は認められていません。事業者は、す
べてをオーガニックに転換しなければならず、こ
れによって安全性の確保に万全が期されています。
この規格基準に準拠しているかどうかの監視
業務は、ドイツ政府によって認可・監督されてい
る民間の専門機関に委託されています。ドイツの
オーガニック生産物やその加工品は、国内でこの
ような包括的な監視体制が徹底されているからこ
そ、常にその品質の高さが保証されているのです。
今日、ドイツでオーガニック生産物の加工に従事
している企業はおよそ2,000団体に上っています。
オーガニック製品認証ラベル
ドイツでは、オーガニック製品に貼付される
38
認証マークが数多く存在しています。このなかで
特に重視されているのが、オーガニック生産者協
会(AGÖL)に属する7団体とビオラント(Bioland)、
デメター(Demeter)のものです。2001年9月、連
邦消費者保護・食糧・農業省大臣によって、はじ
めて国家認定の統一オーガニック認証マーク「ビ
オ・ジーゲル(Bio-Siegel)」の導入が発表されまし
た。この認証マークは、国外の製品も含め、EU
基準を満たすすべてのオーガニック製品に貼付す
ることが認められます。統一マークの導入により、
消費者が商品選択をする際に、オーガニック製品
であること、オーガニック製品として必要な安全
基準が満たされていることがより明確に表示され、
市場の健全な育成に役立つものと期待されていま
す。
オーガニック農畜産物の生産
現在、ドイツで総生産に占めるオーガニック生
産比率が最も高いのは、もともとオーガニック農
法への適合性の高い豆類です。また、オーガニッ
ク製品への消費者ニーズの高い野菜や果実の比
率も高めになっています。(乳製品、牛肉は、多
くの牧草地がオーガニックに転換しても経営効率
を悪化させないため平均値以上となっています。)
オーガニックによる豚肉の需要は、急速な拡大が
ごく最近起きてきたため、生産量は今のところ低
水準にあります。
オーガニック食品の売上高および販売チャンネル
2001年のドイツにおけるオーガニック生産品
目の売上高は、およそ30億ユーロ(約3,600億円)
日常の環境保護
ドイツにおけるオーガニック食品の売上高および販売チャンネル
2001年�市場規模�約30億ユーロ
その他
5億ユーロ
オーガニック専門店
12億ユーロ
一般小売店
7億ユーロ
農家などの直販
6億ユーロ
出展:BNN
に達するとみられています。これは、ドイツの
飲食料品総売上高1,700億ユーロ(約20.4兆円)の
約3%に相当するもので、販売チャンネルによる
内訳は、オーガニック専門店を通じたものが最
も多く約40%・12億ユーロ(1,440億円)
、農家や
市場などでの直接販売によるものが約20%・6億
ユーロ(約720億円)、一般小売店を通じたものが
約25%・7億ユーロ(約840億円)
、その他の専門
店、通信販売、大口需要家向けが約15%・5億ユー
ロ(約600億円)、などとなっています。ドイツで
は、一般小売店でオーガニック食品が取り扱われ
るようになったのは比較的遅かったにも関わらず、
既に25%以上がこれらの店を通じて販売される
に至っています。一般小売店では、オーガニッ
ク食品が総売り上げに占める割合は現在のところ
0.5%と低い数値ですが、今後急速且つ大幅な伸
張が予測されています。
CMA�日本事務所 「ドイツのオーガニック食
品・手工業的品質と伝統のある特産物」より
オーガニック生産者協会
www.agoel.de
ビオラント
www.bioland.de
ビオ・ジーゲル
www.bio-siegel.de
デメター
www.demeter.de
CMAとは�
ドイツ農産物振興会(本部:ドイツ・ボン)
のことで、1969年に連邦法に基づいて設立
され、ドイツの農業・食品業界の出資により
運営される機関です。ドイツの農業・食品産
業界を代表する公的な市場調査機関として、
先進的なマーケティングによってドイツ産の
農産物や加工飲食料品の販売促進を国内・国
外で行うことを目的としており、自ら製品の
販売活動を行うことのない非営利の機関です。
CMAは、ドイツの農業、食品産業の各部門
の輸出利益を代表しており、輸出促進の窓口
となっています。
ドイツ農産物振興会(CMA)�日本事務所
〒100�0014
東京都千代田区永田町2�14�3
赤坂東急ビル 7階
Te l : 03-3580-0169, 0160 Fax: 03-3580-0458
www.cma.de
39
日常の環境保護
水質保全管理
「命の水」という趣旨に従い、連邦政府は1957
年に法律大綱で水、特に地下水の保全を最優先課
題としました。つまり、ドイツの水域は全て国家
主権の下にあり、水に関しては持続性の原則に従
うというものです。地理的条件に恵まれドイツに
は水不足の問題がないだけに水の供給における中
心課題は地下水の水質保全です。水質は過度の肥
料、空気中の有害物質の流入、工業排水など様々
な影響を受けますが、ドイツの河川の水質、並び
に飲料水の供給にはここ20年に大幅な改善が見
られます。これもひとえに法律の規定が厳しくな
り、オーガニック農業が普及し、更に汚水処理技
術が向上したことによります。
ドイツの河川の水質
ライン川、エルベ川などドイツの河川の水質は
過去10年で著しく改善し、特に重金属や肥料に
よる汚染が軽減した結果、生体系が再生してきま
した。水質が改善した理由として、高性能の浄水
施設が建設され、製造業でも環境に配慮した機器
に置き換えられたこと、更には工場自体が閉鎖し
たこと等が挙げられます。ドイツでは公共の上水
道普及率は99%で、下水道は95%の世帯で完備
しており、公共の浄水施設と接続している世帯は
91%にものぼります。それでも東部ドイツを中
心に幾つかの河川の水質は
「著しい汚染」としてラ
ンク付けられているのが実情です。将来的には連
邦政府は肥料や農薬の使用の抑制を中心に対策を
とるものと思われます。
ライン川アクションプログラム
ライン川はヨーロッパで最も多岐に利用される
河川です。19世紀には49種類もの魚が生息して
いましたが、60年、70年代には農地からの肥料
や工場からの重金属が流入し、23種にまで減少
していました。1987年には「ライン川アクション
プログラム」がスタート、周辺諸国が47の物質に
ついて5割削減を目標とし、重金属や肥料の水中
濃度を下げるべく一連の対策を立てました。15年
経過し好ましい成果が見られます。当該物質の半
分以上については濃度が落ちて、特に対策も必要
とされなくなりましたし、それ以外の監視してき
た物質についてはそれ以来減少しています。企業
や地域住民からの河川への汚水流出を減らし、地
域の浄化施設を改善し、農業の集約化を抑えるな
ど様々な対策がとられてきた結果、生息する魚も
45種類にまで回復してきました。
40
ドイツにおける飲料水の質と排水処理
日本では毎日一人あたり約380リットルの飲料
水が使われていますが、ドイツでは90年代の最
初から順次減少し、今では160リットル程度にな
りました。ドイツの飲料水は7割が地下水からの
もので、政令で飲料水用として求められている極
めて高い基準をクリアしています。泉や湖沼河川
の水も飲料水のために利用されます。昨年ドイツ
では連邦、州、市町村で、下水道や浄化施設の整
備、新設のために約21億ユーロ(約2,520億円)が
投入されました。水質を保つためにはできるだけ
自然の営みに従うべく、このような浄水施設では
換気、通風に配慮して、砂や砂利のフィルターを
用いた物理的な洗浄によって水中の不純物を取り
除く作業が行なわれます。浄化施設、特に生物学
的な下水処理施設の普及率が増えてきましたが、
節水効果により家庭や企業における水の使用量は
10年前よりも減少しております。
水質の測定方法
一般家庭や企業からの下水の水質を解析するた
めに様々な方法がありますが、ドイツのティント
メーター社(Tintometer GmbH)の「Lovibond(ロ
ビボンド)
」などで測定されるCOD(化学的酸素
要求量)やBOD(生物化学的酸素要求量)は水の汚
れ具合を示す代表的な指標です。両者の違いは水
中の有機物が分解される時の酸化プロセスにより
ます。CODは有機物を化学的に酸化させる時に
必要な酸素量を表わします。具体的には水に強い
酸化剤を入れて熱することで水中の有機物を酸化
させます。つまり水中の有機物が酸化剤の中の酸
素をどれだけ消費するかを酸素量で数値化したも
のです。一方BODでは生物学的な方法だけによっ
て水中の有機物を分解させます。即ちBODは水中
の有機物(汚れ)
が微生物
(バクテリア)で酸化分解
される際に消費する酸素の量を数値化したもので
す。
このCODとBODとの関係が水質にとり重要な指
標といえます。この値が小さいほど有機物で分解
する比率が高く、水質が良いということになりま
す。
41
日常の環境保護
環境を意識した「新」首都
ベルリン
人口300万人を抱えるベルリンはドイツ最大の
都市であり、再びヨーロッパのメトロポリスへ
と発展しています。1990年のドイツ統一に伴い、
首都はボンからベルリンへと移り、経済的にも再
び魅力的な町になりました。多くの都市計画が実
行に移される中で、新しいものが生まれ、古いも
のが新しく修復されている光景が展開しています。
GSW ビル
ベルリンではこの建築ラッシュを機に、地球温
暖化防止への取り組みが強化されました。連邦政
府の省エネプログラムとは別に、ベルリン州政府
は一人当たりのCO2排出量を2010年までに1990
年に比べて25%削減する環境基準を新たに設け、
この基準をクリアするために様々な環境対策を講
じています。
まず第一に、ベルリン州は周囲のブランデンブ
ルク州と共同で貨物輸送の課題に取り組んでいま
す。その一環として、行政当局はできるだけ道路
を使わずに大きな資材を輸送することを建設会社
に条件づけています。このような環境に配慮した
ベルリンの資材輸送政策が、ヨーロッパ最大の建
設現場であるポツダム広場で適用されたことは注
目に値します。ポツダム広場の投資企業体はこの
建設現場に鉄道や水路を引き込み、一日当たり4
万kmのトラック走行を削減し、渋滞緩和にも役
立ちました。
交通面だけでなく、建設計画にも環境への配慮
が盛り込まれています。ベルリンの新しい中心地
ポツダム広場にあるダイムラーシティーは、7万
m2の敷地に19のビルを持つ複合商業施設です。
ダイムラーシティーとソニーセンター
こ の ダ イ ム ラ ー シ テ ィ ー(DaimlerChrysler
Immobilien GmbH)のビルでは窓の開閉を可能に
し、風を取り入れることによって温度調節を行い、
また太陽光を部屋に取り入れ、人工照明の使用を
最小限に抑えています。
また、
ダイムラーシティー
のビルの大部分は屋上緑化されており、周囲の気
温を調節する役割を担っています。総面積5万m2
の屋上は雨水を集め、その一部を屋上の植栽用に
使っています。そして大部分は地下の貯水槽に貯
められ、ポンプによってビル内を循環し、トイレ
や人工池、庭に使われ、また水が循環することに
よって館内の温度を調節していま
す。この雨水の利用により年間約
2,000万リットルの水の節約が可能
になりました。
昔のチェックポイント・チャー
リ ー 近 く のGSWビ ル(Gemeinnü
tzige Siedlungs- und Wohnungsbaugesellschaft Berlin mbH)は、両
面ガラス張りで薄い本を立てたよ
うな形ですが、このユニークな形
のおかげで、自然換気と自然光の
有効利用が可能になりました。西
側外壁の約1m内側にはもう一枚の
ガラスファサードが設けられてい
ます。このダブルスキンの内部に
できる暖気の上昇に伴って発生す
42
日常の環境保護
る低圧力により室内の空気が排出され、反対に東
側から新鮮な空気を取り込むようになっています。
このGSWビルでは基本設計においては蓄熱をは
じめエネルギーの有効利用がコンセプトとなって
います。たとえば夏の間は夜間の冷気を内部に貯
え、日中の室内温度を下げる役割を担っています
し、ビルの東側にはもう一枚のガラスシートがあ
り、断熱効果を発揮します。コンピュータが換気
口を制御して外気を取り入れますが、必要に応じ
て職員が換気のために窓を自ら開閉することもで
きます。冬は5℃以下になると、自動的にこの換
気口が閉まり、セントラル・ヒーティングによっ
て暖められた空気が館内を循環し、各部屋から排
出される暖気は熱交換器を通り再び使われます。
また、西側のダブルスキン内に取り付けられた
様々な赤色系の日除けプレートは、訪問者の目を
楽しませるだけでなく、太陽光の量を調節するた
めに使用者が個々に調節できるようになっていま
す。東側ダブルスキン内にはブラインドが設置さ
れています。
1997年 に 稼 動 し た ベ ル リ ン・ ミ ッ テ 発 電 所
(Heizkraftwerk Berlin Mitte)は世界で最も進んだ、
効率の高い天然ガス発電所です。発電プロセスは
3段階に別れ、ガスと蒸気タービン両方を使用し
ています。第一に、天然ガスを燃焼させることに
よってタービンを回し発電し、その次にこのガス
タービンに付属するボイラーから発生した水蒸気
が蒸気タービンを回し、発電します。最後に蒸気
タービンから放出された水蒸気は熱交換器を経由
して延べ84kmのパイプラインを通り、約500の
公共施設や企業、約6万世帯へ給湯しています。
この一連のプロセスでエネルギー効率は90 %に
高まり、年間100万トンものCO2排出が削減され
ました。
民間だけでなく、政府の建物にも環境政策が見
られます。特にライヒスターク(Reichstag。旧帝
国議事堂)を改修したドイツ連邦議会議事堂はそ
の象徴です。
まず、この建物でもっとも目につくのがガラス
のドームです。このドームを通して新鮮な空気が
議場を換気し、また鏡効果により太陽光線は拡散
され、議場の照明の役割も果たしています。
さらに、発電システムは菜種油を燃料とする小
型のコージェネレーションです。この発電の際に
出る排熱は、そのまま冷暖房に使われ、またその
一部は水を温め、地下300mにある自然の地層を
利用した保存庫に貯蔵されます。ここには70 ℃
のお湯が保存されており、冬にはこの湯をくみ上
げて暖房に利用しています。また、地下60mの保
存庫には冬の間に貯められた5 ℃の冷水があり、
夏の温度調整に使われています。このコージェネ
レーションによって建物の電力の約8割がまかな
われています。
ベルリンでは今後数年の間に環境負荷軽減プロ
グラム(UEP)を通して環境がさらに改善されます。
このプログラムの目的は、第一に経済成長と資源
消費を切り離して持続的な地域の発展を図ること
です。そして、都市インフラにおける環境技術の
近代化、社会エコ的な都市開発の促進、さらには、
ライヒスタークのエココンセプト
43
日常の環境保護
雇用の確保と創出も目的の一つです。このUEPの
前身とも言うべき環境助成プログラムが適用され
たプロジェクトの中に、旧東ベルリンにある復活
教会があります。
老朽化によりこの教会は再建を迫られていまし
たが、再建の際に増築した約2,000m2の内1,000
m2を環境をテーマにした展示場に、もう1,000m2
をオフィス空間に割り当てることで、
「エコセン
ター」として新しく生まれ変わりました。この建
物の北西側と新築部分には、太陽光を取り入れる
ために、
「ソーラーハニカム」と呼ばれる蜂の巣状
の特殊な構造をした外壁が使われています。この
ソーラーハニカムは厚さ5cmのダンボールの断面
をガラスで覆ったもので、その特徴は、太陽の位
置が低いほど、つまり日中よりも朝夕、夏よりも
冬に、太陽光線は奥へ差し込み、熱を貯める効果
があります。その内側には断熱材があり、断熱層
の役割をも果たしています。それ以外にも、ビル
内に張り巡らされた温水パイプを使って、温度調
節を行っています。
また天然ガスを用いたコージェネレーションや
ボイラー発電と並んで、太陽光発電も行われてい
ます。実に屋上の約3分の2にあたる120m2にソー
ラーパネルが敷設され、残りの40m2は外部への
広告用に用いられています。
上記以外にもベルリンには環境を考慮した建築
物が多く建設され、町の緑化にも努めています。
889km2にも及ぶベルリンの総面積の17.5 %が森
林、6.5 %が湖や川といった水辺、約6%が農地
です。このようにベルリンでは自然と都市の共生
が文字通り実践されているのです。
ベルリン州
www.berlin.de
ベルリン州都市開発局
www.stadtentwicklung.berlin.de
ダイムラーシティー
www.potsdamerplatz.de
GSW
www.gsw.de
ベルリン・ミッテ発電所
www.bewag.de
ライヒスターク
www.reichstag.de
復活教会
www.umweltforum-berlin.de
連邦建設公社ベルリン
(Bundesbaugesellschaft Berlin mbH)
www.bundesbaugesellschft.de
日本での販売代理店募集中
ナチュラルオイルで健康な住宅を
再生原料ベースの、環境に配慮した塗料を使って、環境にやさしく、
ナチュラルな木材塗装を――これが私達のモットーです。
お客様の心地よい生活のために、そして私たちが未来へ貢献するために。
木材の自然な美しさを自然な方法で引きだします。
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PNZ-Produkte GmbH • Eichstätter Str. 2-4a • D-85110 Kipfenberg
44 Telefon +49-84 65-2 14 • Telefax +49-84 65-36 16
日常の環境保護
環境首都
フライブルク
地理的位置と気候、町の特色
フライブルクはドイツ南西部のバーデン・ヴュ
ルテンベルク州に位置し、黒い森(シュバルツバ
ルト)の入り口にあたります。温暖な気候と美し
い自然でドイツ国内でも観光都市・保養地として
非常に人気の高い町です。近郊のライン川沿いで
作られる白ワインも良く知られ、また人口約20
万人のうち3万人が学生という大学の町でもあり
ます。町のシンボル、ミュンスター(大聖堂)を
中心に広がる旧市街地には歴史的な街並みが再現
され、ベヒレと呼ばれる水路が流れる市民の憩い
の場となっています。
環境首都
フライブルクは日本でも
「環境首都」として知ら
れています。これは、ドイツのNGOドイツ環境
支援協会(Deutsche Umwelthilfe e.V.)が行った環
境首都コンテストでフライブルクが1992年に最
高点を得て「環境首都」の称号を得たことに始まり
ます。このことが日本でも多方面で紹介され、今
では環境首都フライブルクという呼び名がよく聞
かれるようになりました。
環境首都として認定されるためには、上記NGO
が主催するコンテストで、交通、農林業、河川、
廃棄物など、各分野について設定された質問に
答えて偏りなく高得点を得なくてはなりません。
1992年度には、ドイツ全土で200以上の自治体が
コンテストに参加しています。このコンテストは
ドイツ環境基金(Deutsche Bundesstiftung Umwelt
e.V.)の補助を受けて2001年まで行われました。
交通政策
フライブルクは優れた交通政策を取っていま
す。1984年に市内への自動車乗り入れ制限に踏
み切って自動車の交通量を制限する一方、総合的
な交通システムを拡充させて市民の生活基盤を確
保しました。ハード面では市電・市バスの拡充が
行われ、ソフト面では1984年にバーゼルの例に
ならった環境保護券、さらに1991年にはそれを
改定したレギオカルテと呼ばれる地域環境定期
券の導入が行われました。これは1枚で地域内の
公共交通機関がほぼ乗り放題となる定期券で、月
36ユーロ(約4300円)で市電、市バス、近郊のド
イツ鉄道、さらに私営バスも利用できるものです。
無記名のため貸し借りも自由、休日には家族も一
緒に利用できます。
さらに、郊外から市内へ入る車両数を少なくす
るために、P&R(パーク・アンド・ライド)も導
入されています。市電の駅前には広い駐車場が用
意されており、通勤・買い物などで市内へ向かう
人のために車から公共交通機関への乗り換えを容
易にしています。その一方で市内に入れば駐車料
金は高く設定されており、できるだけ市内に車を
乗り入れないようにするしくみです。
また見本市、サッカーの試合など、多くの人が
集まる催しが行われる時には、入場券を提示すれ
ば無料で行き帰りに公共交通を利用できます。
こ の よ う な 対 策 が 奏 功 し て、1987年 に の べ
3,660万 人 だ っ た フ ラ イ ブ ル ク 交 通 株 式 会 社
(Freiburger Verkehrs AG)の全路線の年間利用者は
2001年までの14年間で6,810万人にほぼ倍増しま
した。
エネルギー
70年代に近郊の町ヴィールで起こった原発建
設計画に対する大きな反対運動を経験したフラ
イブルクは、その後1986年に市議会で原子力発
電からの脱却を決議し、再生可能エネルギーを
促進しつつ省エネを進めるという道を選びまし
た。さらに1992年以後は市有地に建設する建物
に低エネルギーハウスの基準を満たすことを義
務付けました。1999年には市が主体となってエ
ネルギーエージェント・レギオ・フライブルク社
(Energieagentur Regio Freiburg GmbH)を設立し、
建設・改築による省エネ等について相談を受け付
けるようになりました。温暖化対策では、2010
年までにCO2排出量を25%削減することを目指し
ています。
電気、ガス、水道など生活のインフラを市民
に供給するフライブルクエネルギー・水供給会社
(Freiburgische Elektrizitätswerke:FEW)は、長年
様々な環境対策をとってきました。省エネランプ
の普及、ソーラー発電の補助、ごみ埋め立て場か
ら出るメタンガスを利用したドイツ最大級のコー
ジェネレーション発電所の建設、水源地の保全な
どです。エネルギー市場の民営化の流れを受けて
会社が近隣の5社と合併し、2001年8月にバーデ
ノーヴァ社(badenova)が設立されてからも、環
境に配慮したエネルギーを供給するという方針は
変わっていません。
フライブルクとその近郊の南バーデン地方に住
む人々は、日々の生活に使う電気の発電源を選び、
再生可能エネルギーを支えています。水力、バイ
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日常の環境保護
オマス、
ソーラー(2003年からは風力も導入予定)
のみで発電された電力を選んで購入できます。料
金は原子力・火力発電の電気料金よりも高めです
が、余剰分は再生可能エネルギーでの発電費用に
充てられることもあり、1999年6月現在で約1万
世帯が再生可能エネルギーを選択しました。サッ
カースタジアム
(ドライザムスタジアム)の屋根を
使って発電所をつくり、パネル一枚ごとに株主を
募る試みは大きな反響を呼びましたが、ここで発
電された電力もこの料金システムで購入すること
ができます。
フライブルクは今やソーラー技術のメッカと
言われています。世界的に有名なフラウンホー
ファー・ソーラーエネルギーシステム研究所、キー
ペンハウアー太陽物理学研究所、太陽エネルギー
の国際的組織である国際ソーラーエネルギー学会
(ISES)の本部などがあり、太陽エネルギーについ
ての技術が集積しています。
この他にもエコ研究所、国際環境自治体協議会
(ICLEI)の欧州事務局が置かれるなど、フライブ
ルクは学術的な面でも高い存在価値を誇る町です。
住宅
市民の高い環境意識を反映して、ドイツの各地
でエコロジカルな新しい住宅をつくる取り組みが
進められています。フライブルクではとりわけ先
進的な住宅が建てられ、注目を集めています。冷
戦後の1992年に駐留フランス軍が撤退したのを
受け、その跡地が住宅地として生まれ変わりまし
た。約34ヘクタールの分譲地には2006年までに
約2,000戸のエコ住宅が建つ予定で、既に50%以
上が完成、2,500人が生活を始めています。
ソーラーパネルを備え、エネルギー効率が高い
ために消費電力よりも発電電力の方が多いという
「プラスエネルギーハウス」も建設が進んでおり、
フライブルク市内のソーラー団地では2004年ま
でに140戸が完成することになっています。
ユニークなところでは、ヘリオトロープと名づ
けられた回転型ソーラーハウスがあります。ソー
ラーパネルが常に太陽の方向を向いて回転する仕
組みで、熱利用効率を高め、雨水利用、生ごみの
コンポスト化などを組み合わせた革新的なエコロ
ジー建築のデモンストレーション的建造物です。
観光
環境意識の高まりを受け、観光業界でも環境を
重視するところが増えています。中央駅近くにあ
る125年の歴史を持つホテルヴィクトリア(Hotel
Victoria)では、エネルギーエージェント・レギオ・
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フライブルク社の指導のもと、
ヨーロッパ初の
“ゼ
ロエミッションホテル”を目指して数々の対策を
取っています。1998年からコージェネレーショ
ンを導入、省エネランプやセンサーで省エネを図
るほか、宿泊客にホテルの自転車を貸出し、レギ
オカルテを無料で提供して公共交通を使いやすく
するなどの工夫をしています。
環境をテーマにした視察やセミナーを企画する
企業も現れました。1998年に設立されたフトゥ
アー社(Freiburg Futour)は再生可能エネルギー、
交通、都市計画、廃棄物などのテーマに添って視
察旅行をコーディネートし、ドイツ国内に限らず
海外からの視察も受け入れています。
フライブルク市
www.freiburg.de
ドイツ環境支援協会
www.umwelthilfe.de
ドイツ環境基金
www.dbu.de
フライブルク交通株式会社
www.rvf.de
エネルギーエージェント・レギオ・フライブルク社
www.energieagentur-freiburg.de
バーデノーヴァ社
www.badenova.de
フトゥアー社
www.freiburg-futour.de
ホテル・ヴィクトリア
www.Hotel-Victoria.de
問合せ先:
OSMインターナショナルコンサルティングサービス
フライブルク市・フライブルク市経済観光公社
日本・アジア地区業務代行
前田成子
Wilhelmstr.1d
79098 Freiburg i. Br.
Tel: ++49- 761- 702289
Fax:++49- 761- 75622
Email: osm.maeda@t-online.de
日常の環境保護
▲ パーク・アンド・ライド ── 車を降りれば目の前に市電の停留所
▲ フライブルクの「レギオ・カルテ」
▲ 駐車場への誘導システム
空き駐車スペースを表示した案内で、
車を最寄の駐車場へ誘導。
フライブルク市内は、4つのゾーンに
分かれています。まず、最寄の駐車ゾー
ンへ誘導し、その後さらに空きのある
駐車場へと誘導します。
▲
サッカースタジアム
太陽光発電パネルが屋根に設置
されています。
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成功する企業のために
企業の経済性を追求するなら、常に最短距離を選ばな
くてはなりません。
企業の環境対策についてもこれは同じです。
資源の節約、廃棄物削減、そしてリスク軽減のための
アクティブな環境対策への近道は、機能性ある環境マ
ネジメントシステムです。
ISO14000の認定を受けてより良い企業イメージを得る
ためにも役立ちます。
企業の環境対策に関してのお問い合わせは
www.jpn.tuv.com、または、下記の連絡先まで。
テュフ
ラインランド
ジャパン株式会社
〒222-0033
横浜市港北区新横浜3-19-5 新横浜第二センタービル9F
TEL 045-470-1850 FAX 045-473-5221
Mail [email protected]・Web www.jpn.tuv.com