渡航関連感染症について

渡航関連感染症について
健康な方が仕事や休暇を利用してリゾート地や大都市に滞在する場合は、ある程度
の注意を払えば感染症のリスクはそう高くはありません。しかし、目的地が発展途上
国や、冒険旅行を目的とされる方の場合には、それなりの注意が必要となってきます。
海外の感染症には日本でもありふれたものもありますが、東南アジア、中南米、アフ
リカなどの熱帯地方には地域特有の感染症があります。これらの感染症から身を守
るには、正しい知識を持って予防することが大切なことです。
海外に行かれた場合に、感染症にかかるリスクは以下の要素を基準とします。
<低リスク>
旅行先
滞在期間
滞在地
旅行形態
旅行目的
宿泊地
<高リスク>
先進国
発展途上国
短期
長期
都市部
郊外
団体旅行
個人旅行
ビジネス ・ 一般の観光
冒険旅行 ・ 生態調査
ホテル
民宿 ・ キャンプ
(日本医師会 海外旅行必携ハンドブック より)
また、海外で問題となる主な感染症は次のような経路で引き起こされます。
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水や食品
昆虫や動物
性行為
皮膚から直接
ヒトからヒト
<水や食品で感染する病気から身を守るには>
水分は生命維持の上で非常に大切なものです。特に熱帯地方に旅行したときには、
気温や湿度の関係から脱水症状にならないために、こまめな水分補給は大切なこと
です。しかし、大切な水が不衛生であったり、飲用に適さないものであったりすると下
痢を起こし、場合によっては重傷の感染症になってしまうおそれがあります。食品で
も同様です。生野菜やカットフルーツなどは不衛生な水で洗われている可能性があり、
ジュースに入っている氷も不衛生な水で作られているかもしれません。発展途上国へ
の旅行者の半数以上が渡航先で 5 日以内に下痢を起こすと言われています。これを
旅行者下痢症と言いますが、すべてが感染症であるわけではなく、過労やストレスに
よる場合もあります。
主な感染症
 感染性腸炎 (Infectious enterocolitis)
旅行者下痢症の原因として最も多い。原因菌では病原性大腸菌が最多。
 A型肝炎 (Hepatitis A)
潜伏期は2~7週、発熱、倦怠感、黄疸が特徴。先進国でも魚介類には要注意。特
効薬はなく治療は安静、対症療法のみ。通常は約1ヶ月で自然治癒。予防接種可
能。
 腸チフス (Enteric fever)
潜伏期は2~4週、消化器症状よりは発熱や発疹が特徴。抗菌薬で治療。予防接種
は国内未認可。
 細菌性赤痢 (Shigellosis)
潜伏期は通常3日以内、発熱を伴う水様性下痢、血便が特徴。抗菌薬で治療。
 コレラ (Cholera)
潜伏期は通常1日前後、米のとぎ汁のような激しい下痢が特徴。抗菌薬で治療。予
防接種は国内未認可。
 腸管寄生虫症 (Parasite infections)
潜伏期は大半が数日から数週、生野菜、生魚には要注意。一般的に緊急を要するこ
とは少ない。
<昆虫や動物で感染する病気から身を守るには>
日本においても昆虫や動物と接する機会は多いと思います。日本では安全と思われ
がちですが、海外ではこれらの動物に刺されたり、噛まれたりすることによって発症
する病気が少なくありません。特に熱帯地方では、蚊に刺されることによって感染す
る病気の流行が目立ちます。多くはこれらの動物と接触しないことが一般的な対策と
なりますが、現実は不可能に近いことと思われますので、予防を含めた病気や媒介
動物に対する知識が重要となってきます。
例えば次のようなものです。
・ マラリアを媒介するハマダラ蚊は、田園地帯に生息、夜間吸血性がある。
・ デング熱を媒介するネッタイシマ蚊は、都市部に生息、昼間吸血性がある。
・ 狂犬病は発症すると100%死亡するといわれているため、開発途上国でイヌ以
外でも疑わしい哺乳動物(注)に咬まれた場合は直ちに病院に行って処置を受け
る。(予防接種済みでも、病院で診察を受けられると安心です)
(注)疑わしい哺乳動物
アジアでは、イヌ・ネコ など。
アフリカでは、イヌ・ネコ・ジャッカル など。
中南米では、イヌ・コウモリ・コヨーテ など。
北米では、コウモリ・アライグマ・キツネ・ネコ など。
ヨーロッパでは、キツネ・ネコ など。
主な感染症
:媒介動物
 狂犬病 (Rabies) :哺乳動物
疑わしい哺乳動物に咬まれた場合は、傷口をよく洗い、直ちに病院へ行き処置を受
ける。発症した場合はほぼ 100%死亡する。予防接種可能。
 マラリア (Malaria) :蚊
診断、治療が遅れると致命的になる場合がある。抗マラリア薬で治療。予防接種は
研究段階だが、予防内服は可能。
 デング熱 (Dengue fever) :蚊
発疹を伴う発熱、激しい頭痛、筋肉痛が特徴だが自然治癒する。2度目にかかると重
症化するといわれている。特効薬はなく対症療法のみ。予防接種なし。
 黄熱 (Yellow fever) :蚊
流行地域への渡航には、入国に予防接種証明書(イエローカード)が必要。予防接種
可能。
 日本脳炎 (Japanese encephalitis) :蚊
東南アジアの農村部へ滞在する場合は要注意。感染しても無症状のことが多い。予
防接種可能。
 ウエストナイル脳炎 (West Nile encephalitis) :蚊
北米渡航の際には要注意。感染しても無症状のことが多い。予防接種なし。
昆虫や動物によって媒介する感染症は、特に地域によって流行状況が異なりますの
で、不明点は医師にご相談下さい。
<性感染症から身を守るには>
性感染症とは、性行為によって感染する病気の総称です。海外旅行という普段とは
異なる心理状況でついハメをはずし、行きずりの性行為や不特定多数の人との性行
為を持つ旅行者も少なからず存在します。性感染症で問題となることは、次のような
ことがあげられます。
・ 感染しても無症状で、知らないうちに他人に感染させる可能性があります。
・ エイズのように、ゆっくりと発症するものがあります。
・ 帰国後の検査で、すぐに陽性にならないものがあります。
・ 世間体から早期の受診をせず、進行してから受診して治りにくいことがあります。
主な感染症
 クラミジア感染症
若年女性を中心に世界で最も増加している性感染症。潜伏期は1~3週で、男性は
尿道炎症状、女性は自覚症状が乏しい。咽頭炎の原因となることもある。抗菌薬で
治療。
 梅 毒
感染の機会後、3週間で症状出現。放置すると神経系の異常(神経梅毒)が出現。妊
婦では先天感染を起こす。抗菌薬で治療。
 淋菌感染症
感染の機会後、1週間で症状出現。男性は尿道炎症状、女性は自覚症状が乏しい。
咽頭炎の原因となることもある。抗菌薬で治療。
 B型肝炎
数週間の潜伏期の後、黄疸、倦怠感などの症状が出現。劇症肝炎になると致命的。
性交渉以外にも、途上国で輸血、手術などの医療行為を受ける際には注意が必要。
予防接種可能。
 HIV感染症 ・ エイズ
血液、精液、膣分泌液、母乳によって感染。感染の機会後すぐにエイズを発症するわ
けではなく、平均10年の潜伏期がある。抗HIV薬で治療するが、現段階では、ウイ
ルスを完全に排除することはできない。
<皮膚から直接感染する病気から身を守るには>
海外では日本では味わえないような大自然と触れ合う機会も多いことと思います。し
かし河川や湖沼に足を入れたり、泳いだりすることで感染する病気や、怪我をしてし
まった時に傷口から感染する病気があるので注意が必要です。
主な感染症
 住血吸虫症 (Schistosomiasis)
河川や湖沼に生息する幼虫が皮膚から直接侵入。消化器系の症状を起こすものや
血尿など尿路系の症状を起こすものがある。抗寄生虫薬で治療。
 レプトスピラ症 (Leptospirosis)
レプトスピラという病原体に感染した、動物の尿で汚染された水や土からの経皮感染。
河川や湖沼で泳いだ時に経口感染することもある。黄疸や筋肉痛が特徴。抗菌薬で
治療。
 破傷風 (Tetanus)
破傷風菌は全世界の土壌中に存在。傷口に付いた土から破傷風菌が体内へ侵入し
て、開口障害を特徴とする神経症状を発症する。予防接種可能。