二輪車事故の特徴 - 交通事故総合分析センター

ITARDA
Institute for Traffic Accident
Research and Data Analysis
(財)交通事故総合分析センター
イタルダ・インフォメーション
No.
0
91
2011
NOVEMBER
10,000
20,000
30,000
40,000
死傷者数(人)
出会い頭
30% 40,258人
右折時
19% 25,546人
二輪車死傷事故の
左折時 12% 15,956人
49
(65,804人)
%が
追突 8% 11,072人
「出会い頭」と「右折時」
路外逸脱・転倒 5% 7,085人
で発生している
正面衝突 3% 3,199人
工作物等 2% 1,892人
その他 21% 27,791人
事故類型別二輪車死傷事故
特集
二輪車事故の特徴
−
−「見落とし」に注意!−
−
Institute for Traffic Accident Research and Data Analysis
ITARDA
INFORMATION
91
財団法人 交通事故総合分析センター
イタルダ・インフォメーション
2011 NOVEMBER
0
10,000
20,000
No.
30,000
40,000
死傷者数(人)
右折時
二輪車死傷事故の
左折時 12% 15,956人
追突 8% 11,072人
路外逸脱・転倒 5% 7,085人
二輪車事故の特徴
−
−「見落とし」に注意!−
−
交通事故による被害者数は年々減少してき
ています。しかし、2010年における死亡重傷
者数は56,391人であり、依然として多くの方
が被害に遭われています。その中で二輪車乗
出会い頭
30% 40,258人
19% 25,546人
特 集
49
(65,804人)
%が
「出会い頭」と「右折時」
で発生している
車中の死亡重傷者数が16,500人と全体の約3
分の1を占めています。
今回のイタルダインフォメーションでは、
この二輪車事故に焦点を当て、事故の特徴に
ついて考えてみます。
正面衝突 3% 3,199人
工作物等 2% 1,892人
その他 21% 27,791人
事故類型別二輪車死傷事故
CONTENTS
主な内容
1
2
3
4
2
ITARDA INFORMATION 91
はじめに
二輪車事故の特徴
事故事例の紹介
まとめ
二輪車事故の特徴
特集
-「見落とし」に注意!-
CTION
SE
はじめに
1
交通事故による死者(事故後24時間以内の死
者。以下同じ。
)は、2001年には8,747人でしたが、
と2010年では歩行中(1,714人 35%)が最も多
く、次に四輪乗車中(1,602人 33%)
、二輪車
2010年には4,863人と45%減少しています。また、
二輪車乗車中の死者を見てみると、
1,566人から
乗車中(871人 18%)
、自転車乗用中(658人
14%)となっています(図2)。二輪車乗車中の
871人へとほぼ同じ割合で減少してきています
(図1)
。さらに、当事者の状態別死者数を見る
死者数はその他の状態に比べ多くはないように
思えます。
10000
合計
歩行中
■ 四輪車乗車中
■ 二輪車乗車中
■ 自転車乗用中
■
9000
■
8000
7000
死者数(人)
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
2001 年
2002 年
2003 年
2004 年
2005 年
2006 年
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
図1 状態別死者数の推移[2001〜2010年]
(%)
100
90
80
70
60
50
自転車乗用中
658 人 14%
二輪車乗車中
871 人 18%
四輪車乗車中
1,602 人 33%
40
30
20
10
0
歩行中
1,714 人 35%
2010 年
図2 状態別死者数
91 ITARDA INFORMATION
3
特集
二輪車事故の特徴
-「見落とし」に注意!-
しかしながら重傷者数を見ると、この状況は
一転します。二輪車乗車中の重傷者数は、2001
(図3)。重傷者数を当事者の状態別で比べると、
2010年では二輪車乗車中(15,629人 30%)が
年には24,814人でしたが、2010年には15,629人と
37%減少しています。しかし、2005年から二輪
最も多く、次に四輪乗車中(14,524人 28%)
、
自転車乗用中(11,317人 22%)
、歩行中(998
車乗車中の重傷者数が一番多くなっています
人 19%)となっています(図4)。
30000
合計
歩行中
■ 四輪車乗車中
■ 二輪車乗車中
■ 自転車乗用中
■
■
25000
重傷者数(人)
20000
15000
10000
5000
0
2001 年
2002 年
2003 年
2004 年
2005 年
2006 年
2007 年
2008 年
図3 状態別重傷者数の推移[2001〜2010年]
(%)
100
90
歩行中
9,988 人 19%
80
70
60
50
40
自転車乗用中
11,317人 22%
四輪車乗車中
14,524 人 28%
30
20
10
0
二輪車乗車中
15,629人 30%
2010 年
図4 状態別重傷者数
4
ITARDA INFORMATION 91
2009 年
2010 年
CTION
SE
二輪車事故の特徴
2
(1)二輪車の7割は第2当事者
図5に二輪車及び四輪車が第1当事者又は第2
も軽い者で、第2当事者とは最初に事故に関与
した者のうち過失がより軽い者又は過失が同程
当事者として関わった乗車中死傷事故の当事者
順位別の割合を示します。第1当事者とは最初
度の場合には人身の損傷程度が重い者です。二
輪車は四輪車に比べて第2当事者の割合が多く、
に事故に関与した者のうち過失の最も重い者又
は過失が同程度の場合には人身の損傷程度が最
7割を占めています。このことから、二輪車は事
故の被害者となる場合が多いことが分かります。
(%)
100
■ 第2当事者
■ 第1当事者
90
80
38%
70
70%
60
50
40
62%
30
20
30%
10
0
二輪車乗車中死傷事故
四輪車乗車中死傷事故
図5 当事者順位別死傷事故[2010年]
(2)出会い頭事故と右折時事故が多い
二輪車事故はどのような事故が多いのでしょ
故、右折時事故の順に多くなっています。
また、二輪車の出会い頭事故と右折時事故の
うか。図6に事故類型別二輪車死傷事故を、図
7に事故類型別四輪車死傷事故を示します。四
輪車事故では追突事故、出会い頭事故の順に多
第2当事者の比率を見てみると、出会い頭事故
で72%、右折時事故では87%となっており、こ
れらの事故では、二輪車が被害者(第2当事者)
くなっていますが、二輪車事故では出会い頭事
となる場合が多いことが分かります。
(人)
(人)
50,000
45,000
死傷事故件数
死傷事故件数
35,000
30,000
72%
20,000
5%
15,000
0
70%
87%
10,000
5,000
■ 第2当事者
■ 第1当事者
405,000
400,000
40,000
25,000
500,000
■ 第2当事者
■ 第1当事者
95%
28%
13%
出会い頭 右折時 左折時
47%
58%
100%
100%
追突 路外逸脱 正面
・転倒
衝突
工作物
等
その他
図6 事故類型別二輪車死傷事故[2010年]
50%
250,000
200,000
36%
150,000
100,000
53%
30%
42%
350,000
300,000
50,000
0
64%
25%
50%
28%
72%
9%
91%
出会い頭 右折時 左折時
53%
100%
47%
追突 路外逸脱 正面
・転倒
衝突
100%
工作物
等
75%
その他
図7 事故類型別四輪車死傷事故[2010年]
91 ITARDA INFORMATION
5
特集
二輪車事故の特徴
-「見落とし」に注意!-
(3)二輪車が第2当事者の場合、
相手(第1当事者)は9割が四輪車
いろいろな相手と事故を起こしていますが、二
輪車が第2当事者の場合は約9割が四輪車との事
それでは、二輪車はどんな相手と事故を起こし
ているのでしょうか。図8に二輪車が第1当事
故であることが分かります。二輪車が第2当事
者の場合、相手の9割は二輪車より重い四輪車
者の場合と二輪車が第2当事者の場合の相手種
別を示します。二輪車が第1当事者の場合は、
との事故であることから、二輪車側の被害がよ
り大きくなっていると考えられます。
(%)
100
90
24%
2%
2%
5%
■ その他
■ 単独
■ 歩行者
■ 自転車
■ 二輪車
■ 四輪車
80
70
60
50
40
11%
20%
12%
91%
30
20
10
0
33%
二輪車が第 1 当事者の場合
二輪車が第 2 当事者の場合
図8 相手種別二輪車死傷事故[2010年]
(4)出会い頭事故、右折時事故の
人的事故要因は8割強が「発見の遅れ」
二輪車事故で多い出会い頭事故と右折時事故は
どんな原因で起きているのでしょうか。図9は
二輪車が第2当事者の場合の第1当事者の人的事
故要因を示しています。全体の8割強が「発見
の遅れ」であることが分かります。さらに「発
見の遅れ」の詳細を図10に示します。
「発見の
分かります。安全確認は行ったが発見が遅れた
ということは、二輪車は見落とし易いというこ
とではないでしょうか。イギリスにおける二輪
車の事故分析では、他の道路利用者が二輪車を
知覚することは容易でないことが報告されてい
ます。このことからも、二輪車乗車中は四輪車
から見落とされているかもしれないと注意をし、
防衛運転に徹することが重要です。
遅れ」の約7割が安全確認不十分であることが
(%)
100
90
5%
10%
1%
12%
80
70
■ その他
■ 操作上の誤り
■ 判断の誤り
■ 発見の遅れ
60
50
40
80
27%
29%
70
60
85%
87%
30
20
20
10
10
出会い頭
右折時
(二輪車が第2当事者の場合の第1当事者の人的事故要因)
ITARDA INFORMATION 91
■
■
■
■
前方不注意
–内在的
前方不注意
–外在的
安全不確認
安全確認
不十分
50
40
図9 二輪車の出会い頭事故と
右折時事故の人的事故要因[2010年]
6
1%
4%
100 2%
3%
90
30
0
*内在的とは居眠りや漫然運転など、外在的
とはオーディオ・ナビなどの操作や脇見など
(%)
0
68%
出会い頭
66%
右折時
図10 「発見の遅れ」の詳細[2010年]
(二輪車が第2当事者の場合の第1当事者の人的事故要因)
(5)昼間は出会い頭事故、
夜間は右折時事故が多い
比率は約7対3で変わらないことが分かります。
さらに、二輪車死傷事故についてどんな事故が
昼間と夜間で二輪車事故にどんな違いがある
のでしょうか。図11に二輪車と四輪車の昼夜
多いのか昼夜別に調べたものが図12です。昼
間は出会い頭事故が多く、夜間は右折時事故が
別死傷事故を示します。両方とも昼夜の事故の
多いことが分かります。
(%)
100
90
80
28%
26%
72%
74%
二輪車乗車中
四輪車乗車中
■夜
■昼
70
60
50
40
30
20
10
0
図11 昼夜別四輪車死傷事故[2010年]
(%)
100
90
80
70
60
20%
23%
1%
2%
5%
8%
2%
2%
■ その他
■ 工作物等
■ 正面衝突
■ 路外逸脱・転倒
■ 追突
■ 左折時
■ 右折時
■ 出会い頭
5%
9%
14%
8%
50
40
17%
26%
30
20
33%
25%
10
0
昼
夜
図12 昼間と夜間の事故類型別死傷事故[2010年]
91 ITARDA INFORMATION
7
特集
二輪車事故の特徴
-「見落とし」に注意!-
(6)原付は出会い頭事故が、小型・軽二輪車は
出会い頭事故と右折事故が多い
二輪車の車種によって違いはあるのでしょうか。
図13に二輪車の車種別死傷事故を示します。
下)では出会い頭事故と右折時事故が多いこと
が分かります。また、原付二種(50cc超125cc
以下)、原付自転車(50cc以下)では出会い頭
事故が多いことが分かります。
小型二輪(250cc超)、軽二輪(125cc超250cc以
(%)
100
90
22%
23%
80
1%
70
60
50
20%
23%
1%
3%
8%
1%
2%
5%
1%
2%
5%
5%
7%
11%
9%
11%
9%
2%
13%
11%
12%
17%
40
20%
23%
23%
30
20
34%
10
0
22%
小型二輪
23%
軽二輪
27%
原付二種
原付自転車
図13 二輪車種別死傷事故[2010年]
8
ITARDA INFORMATION 91
■ その他
■ 工作物等
■ 正面衝突
■ 路外逸脱・転倒
■ 追突
■ 左折時
■ 右折時
■ 出会い頭
(7)「ヘッドライト昼間点灯」により
出会い頭事故が減少
ヘッドライト点灯の割合が若干小さくなってお
り、出会い頭事故に会う確率が低くなっている
昼間の二輪車の発見し易さの向上を目的とした
施策「ヘッドライト昼間点灯」が1998年から実
可能性があります。
次にこの施策の実施状況を見てみます。図15
施されていますが、実際に事故は減っているの
でしょうか。図14にヘッドライトの状態別(点
に二輪車死傷事故のヘッドライト点灯・消灯の
割合を示します。全体の36%はヘッドライト消
灯、消灯)の事故類型別二輪車死傷事故を示し
ます。右折時事故はヘッドライト点灯と消灯で
ほとんど変わりませんが、出会い頭事故では
灯状態で事故に会っています。
「ヘッドライト
昼間点灯」を徹底することにより事故は削減さ
れる可能性があると思われます。
(%)
100
90
20%
20%
80
70
1%
1%
3%
3%
5%
5%
8%
8%
14%
13%
60
■ その他
■ 工作物等
■ 正面衝突
■ 路外逸脱・転倒
■ 追突
■ 左折時
■ 右折時
■ 出会い頭
50
40
16%
17%
30
20
32%
34%
点灯
消灯
10
0
図14 昼間におけるヘッドライトの状態別事故類型別二輪車死傷事故[2010年]
(%)
100
調査不能/他 4%
90
80
消灯 36%
70
60
50
40
30
点灯 60%
20
10
0
昼間
図15 ヘッドライト状態別二輪車死傷事故[2010年]
91 ITARDA INFORMATION
9
特集
二輪車事故の特徴
-「見落とし」に注意!-
CTION
SE
3
事故事例の紹介
事例1 出会い頭事故
【概要】
【要因】
午前9時ごろ普通乗用車A(55歳 男性)は往復2
車線の道路に面した駐車場から右折で出ようと
Aは安全確認が不十分であったため、Bを見落し
てしまいました。Aが一時停止せずに徐行した
しました。出る際、徐行しながら右方を一瞥し
たところ、右方からの車両はないので、一時停
まま安全確認を行ったことも見落しにつながっ
たと考えられます。また、
Bはヘッドライトを
止せずに右折を開始しました。車体前部を道路
に出したところで、右方から約40km/hで進行
してくる原付二種B(75歳 男性)を発見し停止
消灯していたことにより見落された可能性もあ
ります。
しましたが、
Bの進路を塞ぐように停止したため、 【対策】
停止直後にBがAの右側面前部に衝突しました。
道路へ出る際には必ず一時停止して、しっかり
と左右の安全確認を行うことが重要です。また、
【人身傷害程度】
ヘッドライトの昼間点灯を行い見落とされない
Bはヘルメットを正しく着用していたので頭部
への損傷は有りませんでしたが、胸部を路面に
ぶつけ肋骨骨折の重傷を負いました。
ようにすることも大切です。
現場状況図
B
A
10
ITARDA INFORMATION 91
事例2 右折時事故
【概要】
午前6時ごろ軽乗用車A(30歳 男性)は往復4車
【要因】
Aは安全確認が不十分であったため、Bを見落と
線の道路を進行して、T字路を右折しようとし
ました。方向指示器を右に出し、減速しながら
してしまいました。Aは駐車中の大型貨物や右
折側道路からの車両等に気を奪われていたこと
対向車線を見たところ、交差点奥右側の対向第
1車線に大型貨物車が駐車していた以外に進行
も原因の一つだと考えられます。
中の対向車両がいなかったので右折を開始しま
【対策】
した。そのとき、同乗者は大声で「危ない」と
右折時は一時停止して対向車線の安全確認を確
叫びましたが、対向車線を約40km/hで進行し
実に行う慎重さが必要です。また、二輪車も見
て来た軽二輪車B(41歳 男性)と衝突しました。 落されているかも知れないと注意することも必
要だと思われます。
【人身傷害程度】
Bはヘルメットを着用していましたが、事故の
2日後に亡くなりました。
現場状況図
駐車トラック
B
A
91 ITARDA INFORMATION
11
Institute for Traffic Accident Research and Data Analysis
二輪車事故の特徴
-「見落とし」に注意!-
CTION
SE
4
ITARDA INFORMATION
特集
まとめ
イタルダ・インフォメーション
【二輪車事故の特徴】
1 二輪車事故の7割は第2当事者
2 出会い頭事故と右折時事故が多い
3 二輪車が第2当事者の場合、相手(第1当事者)は9割が四輪車
4 出会い頭事故、右折時事故の人的要因は8割強が「発見の遅れ」
*
「発見の遅れ」の約7割が安全確認不十分
5 昼間は出会い頭事故、夜間は右折時事故が多い
6 原付は出会い頭事故が、小型・軽二輪車は出会い頭事故と右折事故が多い
7「ヘッドライト昼間点灯」により出会い頭事故が減少
2011
NOVEMBER
91
No.
四輪車運転者の注意点
①右折時には、できるだけ一時停止し、
確実に対向車線の安全確認を行い
ましょう。車両の影や路肩から進
行してくる二輪車にも注意しま
徹することが必要です。
②「ヘッドライト昼間点灯」を行いま
しょう。
②駐車場出口や交差点通過では、でき
しょう。
23
11
-
るだけ一時停止し、確実に安全確
認を行いましょう。発見しにくい
二輪車でも止まってから慎重に安
全確認を行えば、二輪車を発見で
きるはずです。
発 行 (財)交通事故総合分析センター
発行月 平成 年 月 〒102 0083 東京都千代田区麹町6 6 麹町東急ビル 階
二輪車運転者の注意点
①二輪車は見落され易いことが知られ
ています。駐車場出入口や交差点
では、相手車両から「見落されて
いる」と常に注意し、防衛運転に
-
5
事務局
〒102-0083 東京都千代田区麹町6-6 麹町東急ビル5階
TEL03-3515-2525 FAX03-3515-2519
つくば交通事故調査事務所
〒305-0831 茨城県つくば市西大橋6 41-1
(財)日本自動車研究所内
TEL029-855-9021 FAX029-855-9131