リスクマネジメント最前線「平成23年中の交通事故の特徴」

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2012-1
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平成 23 年中の交通事故の特徴
平成 23 年中の交通事故に関するデータ1が警察庁より
発表された。交通事故による死者数2は、4,611 人で 11
年連続の減少となった。交通事故発生件数や負傷者数も
7 年連続で減少、発生件数は、前年より約 3 万 4 千件少
ない 69 万 1,932 件となり、平成 4 年以来 19 年振りに
70 万件以下となった(図1)。
ともに、高齢運転者の事故の特徴を整理し、注意すべき
点などを確認したい。
1.高齢者が半数を占める交通事故死者数
交通事故死者数に占める高齢者(65 歳以上)の割合
は、高齢者人口の増加などに伴って、昭和 50 年代前半
から増加傾向を示し、平成 5 年には若者(16~24 歳)
を上回った(図2)
。
図2.年齢層別死者数の推移
図1.交通事故発生件数・死者数・負傷者数の推移
出典:警察庁交通局
「平成 23 年中の交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取り締まり状況について」
出典:警察庁交通局
「平成 23 年中の交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取り締まり状況について」
近年の交通死亡事故の特徴として以下の3点をあげる
ことができる。
① 死者数は、高齢者(65 歳以上)の占める割合が
高く、他の年齢層に比べ減少率が低い。高齢者
の死者数の内訳を見ると、歩行中が 49.6%と半
数近くを占めている。
② 運転者(原付以上運転者を指す)が第1当事者
となる死亡事故でも、高齢者の占める割合が最
も高く、減少率が低い。
③ 運転者が第1当事者となる事故で、悪質・危険
性の高い違反(
「飲酒運転」や「最高速度違反」)
は減少しているが、
「漫然運転」や「脇見運転」
による事故がなかなか減らない。
平成 23 年中の交通死亡事故については、高齢者の死
者数が前年比 7.7%減と、平成 13 年から 22 年までの平
均増減率 2.5%減と比較すると、大きく減少しているこ
とが特徴となっているが、依然として高齢者が占める割
合が高いことに変わりはない。
本稿では、①、②の高齢者に関する動向に着目すると
1
「平成 23 年中の交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取締
り状況について」警察庁交通局 2012 年 1 月 26 日
2
「死者数」とは、交通事故発生から 24 時間以内に死亡した人
数をいう
交通事故死者数における高齢者の増加は、高齢者人口
の増加と関連が深いものの、全人口に占める高齢者の割
合(高齢化率)が 23.1%であるのに対して、死者数に
占める割合は 49.1%と 2 倍を超える比率となっており、
高齢化率の増加だけが原因とは言えない(図3)
。
(%)
60
50
交 通事故死者数に占め る高齢者の割合
47.5
40
30
36.8
37.8
40.4
41.4
42.6
48.5
49.9
50.4
49.1
44.2
高齢化率
20
20.8
23.1
20.1
22.8
19.5
22.7
19.0
22.1
18.5
21.5
18.0
13年
14年
15年
16年
17年
18年
19年
20年
21年
22年
23年
10
0
図3.高齢化率と交通事故死者数に占める高齢者の割合の推移
出典:警察庁統計、総務省統計より東京海上日動リスクコンサルティング(株)作成
これは、欧米諸国と比較しても明らかで(図4)、日
本の高齢者の交通事故死者数に占める割合は、顕著に高
い値を示している(図 3 は 24 時間以内死亡者、図 4 は
30 日以内死亡者のため数値は一致しない)。
こうした中で、平成 23 年中の交通事故死者数では、
高齢者の減少幅が近年になく大きかったことから、この
Copyright 2012
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社
傾向を維持することができれば、今後の交通事故死者数
の更なる減少が期待されるところである。
22.7
日本
51.2
12.8
アメリカ
15.7
20.4
ドイツ
26.6
高齢化率
16.4
イギリス
交通事故死者数に占める高齢者数
の構成率
18.5
0
10
20
30
40
50
(%)
60
図4.高齢化率と高齢者交通事故死者数の構成比の国際比較
(2009 年)
出典:内閣府「交通安全白書」平成 23 年版より
東京海上日動リスクコンサルティング(株)作成
注:1.数値は、IRTAD 資料による
2.交通事故死者数は、交通事故から 30 日以内に死亡した人数
3.アメリカの人口構成は 2008 年数値
また、全年齢平均に比べ、高齢者運転者に多い事故と
して、車両単独の事故もあげられる(表1)。これは、
法令違反別で見たときに「運転操作不適」が多いことと
関連していると考えられる。運転者の年齢と操作事故率
との関係を分析した研究3によれば、特に「ペダル踏み
間違い」の事故率(ペダル踏み間違い事故件数÷全交通人身
事故件数)は、75 歳以上で極めて多く、64 歳以下が 1%
程度であるのに対して、65~74 歳では約 2%、75 歳以
上は約 3%となる。「ペダル踏み間違い」事故は、死亡
率(死亡運転者÷事故に関与した全運転者数) も高く全ての
交通人身事故平均の約 17 倍にもなるといわれており、
高齢運転者にとって、注意したい事故のひとつといえる。
表1.事故類型別に見た高齢者自動車等運転者の特徴
2.高齢運転者の死亡事故割合も高い
運転者(第1当事者)による死亡事故件数は、平成
18 年に高齢者が若者を上回って最も多くなった(図5)。
第1当事者 高齢者(65歳以上)
構成率
事故類型別
人対車両
209
24.1
正面衝突
123
14.2
追突
45
5.2
車 出会い頭
168
19.4
両
追越時等
7
0.8
相
3
0.3
互 左折時
右折時
53
6.1
その他
22
2.5
計
421
48.5
車両単独
231
26.6
列車
7
0.8
合計
868
100.0
全年齢
構成率
1,473
447
294
560
51
52
238
143
1,785
840
20
4,118
35.8
10.9
7.1
13.6
1.2
1.3
5.8
3.5
43.3
20.4
0.5
100.0
出典:警察庁統計より東京海上日動リスクコンサルティング(株)作成
注 :1.数値は、自動車等運転者が、第1当事者となった死亡事故件数
2.「列車」とは、列車が当事者となった踏切上の事故をいう
3.黄色のハッチングは、全年齢と比較して特徴的な構成率を示す
高齢者に
多い違反
図5.運転者の年齢層別死亡事故件数の推移
出典:警察庁交通局
「平成 23 年中の交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取り締まり状況について」
高齢運転者による死亡事故は、運転免許保有者数が
10 年間で約 1.7 倍に増加していることなどを背景に、
年齢層別で見たときの高齢者が占める割合も増加し、平
成 20 年以降、20%台が続いている(図6)。
図7.自動車等運転者の主な法令違反別死亡事故件数(構成率)
(%)
出典:警察庁交通局
「平成 23 年中の交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取り締まり状況について」
30
20
交通死亡事故 件数に占める
高齢運転者事 故の割合
13.5
10
10.1
14.7
14.9
15.7
10.8
11.3
11.8
16.9
12.4
17.9
17.9
13.1
13.9
20.6
20.3
14.7
15.4
21.2
21.1
15.7
16.2
運転免 許保有者数に占め る高齢者の割合
0
13年
14年
15年
16年
17年
18年
19年
20年
21年
22年
23年
図6.免許保有者数と死亡事故件数に占める高齢者の割合の推移
出典:警察庁統計より東京海上日動リスクコンサルティング(株)作成
3.高齢運転者の事故の特徴
高齢運転者の事故の特徴を事故類型別で見ると、車両
相互の事故が多く、特に「正面衝突」と「出会い頭」事
故が多い(表1)。
次に、法令違反別で見ると、「漫然運転」や「運転操
作不適」、
「脇見運転」が多いが、高齢者以外の運転者と
比較すると、
「最高速度違反」の割合が低い一方で、
「一
時不停止」や「優先通行妨害」が高くなっている(図7)。
高齢者は、加齢に伴う身体的な変化から、周囲への注
意が十分でなかったり、ブレーキやハンドル操作などの
反応が遅れてしまったりといった運転になり、それが事
故の原因になることが多いといわれている。加えて、高
齢運転者が一時停止標識を見落としたり、きちんと一時
停止を行っているつもりでも、実際には完全に止まって
いなかったりと、法令遵守が不十分なため事故にいたる
ケースも少なくない。
「いつもの慣れた道だから安全だろう」などと、注意
を怠ることなく、一時停止などの法令をしっかり守るこ
とで、死亡事故の加害者になるという最悪の事態を避け
ることができることを、これらのデータは示している。
交通事故ゼロに向けて、まず法令遵守からはじめるこ
とを、この機会にぜひ再認識したい。
3
「運転操作の誤りを防ぐ」ITARDA INFORMATION86 (財)交通
事故総合分析センター 2010 年 12 月
Copyright 2012
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社