近畿地区7高専連携による 防災リテラシー教育の試み

日本における防災教育の推進
国立明石工業高等専門学校
-防災士の役割と育成-
鍋島 康之
1
KOSEN: 高専
国立明石工業高等専門学校
国立工業高等専門学校
Koku-ritsu-kou-gyou-KOU-tou-SEN-mon-gak-kou
National Institute of Technology (NIT)
Akashi College
明石工業高等専門学校
2
高専の教育システム
国立明石工業高等専門学校
23+
学士(工学)
22
21
準学士(工学)
20
19
18
17
16
15
3
明石工業高等専門学校
機械工学科
土木工学科
国立明石工業高等専門学校
電気情報工学科
建築学科
4
ロボットコンテスト
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5
防災リテラシー教育の背景
2011年
被害を受けた日系企業の工場
2013年
国立明石工業高等専門学校
タイでの洪水
タイのチャオプラヤー川流域で甚大な被害
を出し、メコン川周辺でも洪水が発生した。7
月から3か月以上続いた洪水で1567億バーツ
(4,000億円弱)に及ぶ被害が発生した。洪水
によって600万ヘクタールの土地が以上が浸水
し、7つの主要な工業団地も最大で3m程度浸水
し、タイに進出していた日系企業の工場が多
大な被害を受けた。
アルジェリアの襲撃事件
2013年1月にアルジェリアの天然学精製プラ
ント建設現場において、イスラム系武装集団
によって日揮駐在員らが殺害された。
高専生に対する防災・
危機管理教育の必要性
アルジェリア襲撃事件を伝える新聞
6
『防災』は工学全体を連携させるキーワード
国立明石工業高等専門学校
日本経済新聞 2016年1月19日(関西版)
○ 制振装置(神栄)
○ 水インフラ事業(三菱電機)
○ 避難警報装置・津波監視カメラ(TOA)
・
・
・
○ 震災関連グッズ開発
○ 梅干し(災害用備蓄食料として販売、和歌山県)
○ 非常用電源燃料電池(アクアフェアリー)
○ 瓦礫を踏んでもパンクしにくい自転車(堺市)
防災に関連した製品開発
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近畿地区7高専連携による防災技能を有した技術者教育の構築
国立明石工業高等専門学校
兵庫県南部地震をはじめとする大規模自然災害から復興した経験を持つ近畿地区7高専が
協働で、国公私立の垣根を越えて、災害時にリーダーとして活動できる防災技能をもった
技術者教育を行い、高専生の特徴である実践的な問題解決力を活かしながら能動的に防災・
減災に取り組み、安全安心まちづくりに中核的な存在として活躍する人材育成を目指す。
申請分野:地域連携
 自然災害に対する正しい理解
 防災学習への動機付け
 自然災害と共存する社会や文化
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教育プログラムの全体像
防災リテラシー教育
コンペティション
これまでに960名の学生が受
講。講義には各高専の地域性
を考慮した授業を実施。防災
リテラシー科目を修了した受
講生は
防災士の受験資格が
得られる。
7高専合同にて、会場を貸
し切った災害時に役立つ乗
り物のアイデアコンテスト
や
防災関連論文発表会を開催。
また、防災関連の著名な
先生方による講演会を
実施した。
救急救命講習
防災リーダー研
修
地元の消防局の協力を得て
被災地住民に対する
実践を取り入れた教育を行っ ヒアリング調査を実施した。
ている。高専生の災害時の対 気仙沼では、被災者の憩いの
応力を高める教育としての試 場として仮設住宅地のウッド
み。
製作を行った。
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「人とのつながり」
再生プロジェクト
明石高専近郊の5つの自治
会で合同避難訓練を実施。
防災ワークショップや防災
マップづくり、防災トーク
カフェを開催した。
災害時緊急無線
災害時にまちのリーダーと
して率先して行動できるよ
う、緊急災害無線のスキル
を習得できる機会を設けた。
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防災リテラシー科目の整備と内容
国立明石工業高等専門学校
 現在、近畿地区7高専は防災の基礎を学習するための科目
整備を進めている。平成26年度より1年生を対象とする「防
災リテラシー」を開講している。エンジニアの教養としての防
災知識が必要と考え、必修科目または選択科目としている。
 講義は自然災害の仕組みや対応策を学べる内容となってい
るが、エンジニア教育の一環としてリスクマネジメントや事業
継続計画(BCP)など、企業就職時に役立つ知識も学べる構
成としている。
 座学以外にもクロスロードゲームやまち歩きによる防災マッ
プづくりなど演習系の授業も取り入れており、学生自身の能
動的な学習を促している。講義とは別に、地元消防局の協
力を得ながら救命救急の講習も行っており、高専生の災害
時の対応力を高める教育を試みている。
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防災リテラシー科目の整備
国立明石工業高等専門学校
2015年度
高専名
講義名称
授業形式
対象
開講時期 形式・単位数
受講生
数
明石高専
防災リテラシー
必修
1年生
通年
講義
168名
舞鶴高専
防災リテラシー
選択
1年生
後期
e-learningと
講義
124名
奈良高専
防災リテラシー
選択
1年生
集中講義 集中講義
26名
和歌山
高専
(1)防災学概論
(2)防災リテラシー
(1)必修
(2)選択
1年生
後期
(1)40名
(2)126名
大阪府立大
高専
防災リテラシー
選択
全学年
集中講義 集中講義
66名
神戸市立
高専
高専生のための
防災・減災入門
選択
1年生
前後期
講義
前後期
各120名
近畿大学
高専
防災リテラシー
必修
1年生
通年
講義
160名
(1)講義
(2)e-learningと講義
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「防災リテラシー」科目の柱
国立明石工業高等専門学校
エンジニアの教養
高専生の特徴である専門的な技能習得に先立ち、低学年層に対して教育プログ
ラムを実施。安全安心まちづくりのために、公共団体や企業などで防災・減災
の中核的な存在として活躍する人材育成プログラムを構築。
社会の中で役立つ防災知識
リスクマネジメントや事業継続計画(BCP)等を構成。
災害時、自分や周囲の人々の「身を守る」知識を習得し、就職後、社会人とし
て社会の中で実践的に行動できる人材育成ををめざす。
学生の能動的な学習
地元消防局の協力を得て実施する救命救急講習を実施。
クロスロードゲームや防災マップづくりなど座学以外の演習授業を取り入れた。
実践的な問題解決力を活かしながら能動的に行動できる人材の育成科目とした。
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防災リテラシー科目の特徴
国立明石工業高等専門学校
2014年度から近畿地区7高専において,防災リテラ
シー科目を開講している。
 1年生に防災リテラシーを設置している。
各高専の状況に併せて,必修科目・選択科目の設
定している。
講義内容は各高専の地域性を考慮している。
2015年度は近畿地区7高専で900名以上の受講者が
いる。
受講生は防災士の受験資格が得られる。
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防災士とは
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 社会の様々な場で防災力を高める活動が期待され,そのため
の十分な意識と一定の知識・技能を修得したことを,日本防災
士機構が認証した人です。
 防災士は、それぞれの状況に対応して,リーダーシップを発揮
し、防災活動の中核となることが期待されます。また,進んで
地域・職域で救援・支援活動に取り組みます。
 防災士は各自の所属する地域や団体・企業の要請を受け,避
難,救助,避難所の運営などにあたり、地域自治体等の公的
な組織やボランティアの人達と協働して活動することも期待さ
れる。
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防災リテラシーの授業項目
☆これから学ぶこと ☆大震災の後のできごと
☆地震の話 ☆津波の話
☆震災と住宅 ☆ライフラインの被害と復旧
☆南海トラフの地震と津波
☆台風,豪雨災害、その他の自然災害
★災害情報 ★火災 ★エネルギーと地球温暖化対策
★エネルギーと地球温暖化対策
★原子力と災害
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主担当
☆太田
★松野
<演習>クロスロードゲーム
☆復興計画および復興まちづくり
○地域防災計画(地域の防災を学ぶ)
<演習>地域の防災マップづくり
★リスクマネジメント ★事業継続計画
○災害と法(外部講師)
<演習>災害に立ち向かう:ワークショップ
災害直後から復興までの減災に向けたサイクルのすべてを対象とし、また、
ハザードのみでなく、人間社会での課題や対応も網羅している。
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演習系の防災教育
救急救命講習
クロスロードゲーム
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防災マップづくり
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ステークホルダーとの協働
国立明石工業高等専門学校
質保証システムの構築
・防災士(NPO防災士機構が主催)の取得:300名以上の防災士が近畿地区7高専に誕生
防災リテラシー科目受講修了生には、学習の到達目安の一つとして防災士の資格試験を推奨
→ 社会的・客観的に見て十分な防災教育が行われていることを判断
・ 教員の防災士の資格取得:49名の教員が防災士の資格を取得
→ 専門技術をもち、かつ防災知識を有した教師の確保による質の高い教育プログラムの提供
→ 防災マップ作成等のアクティブラーニングなどの支援が可能となった
・ 本事業開始時からの学生の理解度調査の実施
・ 有識者懇談会やステークホルダーからのヒアリングの実施
積極的な連携体制(代表的な事例)
・代表校は明石市と包括協定を締結
・防災リテラシー科目では、明石市総合安全対策局をはじめ、地方自治体などのステークホル
ダー
が非常勤講師として講義を担当
・御坊市からの参加協力依頼により地域住民に対して津波や液状化の実験等の防災教育を実施
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アンケート・ヒアリングの分析結果
国立明石工業高等専門学校
各高専からのアンケート結果を受けて
・ 防災教育においては地域で対象とする自然災害が異なるため、地域のニーズを
取り入れた講義内容を取り入れ改善している。
・ 舞鶴高専での遠隔地講義システムを利用した授業では、スマートデバイスを利用し
て
映像を閲覧してる学生が多いことがわかった。
→ 動画配信時間を短くしてほしいとの要望があったので、ICT活用講義として
発展すべく、映像を編集して10分程度の短い配信にするように改善を検討してい
る。
・ 授業を受けて、90%以上の学生が防災・減災に対する関心が高まったと回答した。
→ さらに今後も授業内容を充実させていくため、テキストの内容について
連絡協議会にて7高専で協議し、修正・加筆を行っている。
完全オリジナルテキストの作成
・ テキストは来年度に向けて、森北出版より教科書として
出版を予定している。(2016年2月に出版)
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遠隔地講義システムによる講義連携
国立明石工業高等専門学校
明石高専で行われた「防災リテラシー」の講義は校内サーバに蓄積。
遠隔地講義システムを利用し、講義映像を近畿地区の7高専に配信している。
e-learning
+ 直接授業の実現
(舞鶴高専の例)
専門教員が不足していることから、明石高専の講義を映
像にて配信して受講できるように構築。ICT教育の先駆け
として実績を活用する予定。ログから解析から、スマホ
から映像を見ている学生が多いことが確認できた。
ICT教育への貢献の可能性がある。
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授業アンケート分析結果
国立明石工業高等専門学校
2013年度「防災リテラシー」科目受講者アンケートより
1. 災害に関する事前知識について分析の結果,地域により差があった。
2. 新入生は防災・減災に関する関心が受講前から高い。
3. 専門的内容は、事前の理解度が低い傾向がみられた。
4. 「被災地」出身校の方が理解度が高い傾向があったが、授業を受けた後、
差はほとんどなくなった。
5. 授業後の理解度と試験の点数には相関が見られた。
6. 土木系・建築系学科の学生に防災に関する関心の高さが見られた。
7. 防災リテラシーの受講後、防災・減災に対する関心度は全ての高専で高
まった。
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資格取得 防災士
国立明石工業高等専門学校
 2014年度から明石高専の防災リテ
ラシー授業は防災士試験の受験資
格がある授業として日本防災士機
構の認定を受けた。
 明石高専が提供する夏期集中講義
を実施した奈良高専、大阪府大高
専では、10月に41名、12月に3名
が受験し、全員が合格した。
 明石高専では3月3日に約90名が受
験する予定である。
平成27年度合格者 201名
これまでの合計人数 336名
奈良新聞 2014年10月29日
21
防災士 資格取得教員数







明石高専
舞鶴高専
奈良高専
和歌山高専
大阪府立大学高専
神戸市立高専
近大高専
計
16名
6名
2名
4名
4名
13名
4名
49名
国立明石工業高等専門学校
明石高専の防災士
これだけの防災士がいるのは
近畿地区7高専の強み
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全学的な防災教育
国立明石工業高等専門学校
 『防災』は工学全体を連携させるキーワードになる。
 入学時の専門分野に係わらず、『防災』に興味を持つ学生
はいる。
 各専門分野を活かしたアイディアを出せる授業科目があれ
ば『防災リテラシー』の内容が活用できる。
 例えば、学生の自主活動から創作された『防災学習ゲー
ム』がある。
動画をご覧ください。
 高学年との連携ができれば、もっと専門的なものができる
かもしれない。
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Co+work(2~4年)
「多様な環境」の中で、「チームワーク力を発揮し」、「創造
性を養う」ことを目的とするカリキュラムを、2016年度より
新規開講授業として実施し、すべての学生に自立、協働、
創造の能力を養成することを目的とする。
2016年度新規授業
5年
国立明石工業高等専門学校
機械工学科
電気情報工学科
都市システム工学科
建築学科
卒業研究
卒業研究
卒業研究
卒業研究
4年
3年
防災
Co+work
2年
1年
防災リテラシー
アクティブラーニング
グローバルスタディーズ
24
人とのつながり再生プロジェクト
国立明石工業高等専門学校
地域との連携による
防災活動
金ヶ崎自治会
錦浦小学校区:防災アンケート
魚住地区 防災まつり
25
2015年度シンポジウム
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26
2014年度
災害時に役立つ乗り物コンテスト
出場チーム
高専名
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学生氏名
ルーフストレッチャー
明石高専
高橋由多,田中昂大,三浦文也,三宅昂平
ロープでダウンアップ
舞鶴高専
貝澤 諒,杉本裕貴,中山拓海,西村夏帆,
林田遼太郎
ベンチdeハコブネ
和歌山高専
亀井 渉,中出裕也,西井健吾,光定佑真
災害時の利用を想定した電
気自動車
大阪府大高専
岡本剛秀,岩田啓吾,東 哲詩,山下 穰
サスペンションなリアカー
神戸高専
竹内勇輝,紀洲谷暢,飯田 諒,岡﨑和満,
是井昭人,山際 哲
合体ストレッチャー
近大高専
諏佐南津樹,秋山隼人,菊山和紀,
奥村拓飛,三島明晃
最優秀賞
最優秀賞
優秀賞
優秀賞
優秀賞
27
災害時に役立つ乗り物コンテスト
「ルーフストレッチャー」
「合体ストレッチャー」
国立明石工業高等専門学校
明石高専
近畿大学高専 「ベンチdeハコブネ」
和歌山高専
28
防災リーダー研修
被災地住民に対するヒアリング調査の実施
仮設住宅地のウッドデッキ制作
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神戸新聞
2013年5月31日
29
ステークホルダーとの連携
 明石市総合防災訓練
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開催(2014年11月8日)
30
成果発表
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 第3回国連防災世界会議(2015年3月14~18日)
国連防災世界会議は,国際的な防災戦略について議論する国連主催の
会議であり,第1回(1994年横浜),第2回(2005年神戸)の会議とも日本
で開催されました。
近畿地区7高専連携共同教育事業からは,現在の取
り組みや活動の内容をポスターで紹介しました。
日時:2015年3月14日~18日
場所:東京エレクトロンホール
宮城501・502展示室
パブリック・フォーラム
ポスター展示をしました。
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まとめ
国立明石工業高等専門学校
 『防災リテラシー』教育を始めてから4年(実質3年)
が経過し、近畿地区7高専ではある程度認識され、2015
年度末には修了生が約2000名に達した。
 『防災リテラシー』を学ぶことにより、土木・建築以外
の専門分野においても『防災』をキーワードにした教育
や研究が発生する可能性がある。
 『防災リテラシー』は専門共通科目であり、高専内の
様々な活動へと継続・発展することができる。『防災リ
テラシー』で学んだことを活かせる科目を創設すること
で、活動の場が広がった。
 高専生の更なる活躍が期待できる。
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国立明石工業高等専門学校
感謝您的關注!
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