Embargoed Advance Information from Science The Weekly Journal of the American Association for the Advancement of Science http://www.aaas.org/ 問合せ先:Natasha Pinol +1-202-326-6440 [email protected] Science 2014 年 4 月 11 日号ハイライト 体を横に傾ける方向転換はハエの強み より正確な星形成率が示唆された 卵子のおかげで遺伝子の進化が速まる 犠牲結合による靱性の付加 体を横に傾ける方向転換はハエの強み Banked Turns Are Flies’ Saving Grace ハエたたきをした経験のある人なら誰もがこの小さな昆虫が空中を飛び回る速さにどれほど イライラさせられるかを知っている。今回、新しい研究により、一般的なミバエである Drosophila melanogaster が危険を回避すべく瞬時に方向転換して飛べる仕組みが判明し、ミ バエのこの技が予想外のものであったことが明らかになった。Florian Muijres らは高速度カ メラと羽付きロボットを用いて、ハエが迫ってくる危険に対してすばやく数回羽ばたきする だけで瞬時に体を傾けて方向転換していることを示した。彼らによると、ハエは、航空機が 尾部のラダーを利用して小さく軌道修正する際に行うヨーイングではなく、ピッチングとロ ーリングを同時に行って瞬時に危険から脱出するという。このような方向転換は、ハエがま ず一方向に体を回転させ、次に逆向きに回転させていることを意味し、これには大きな回転 力と逆方向の回転力が必要である。ただ、このように体を横に傾けて「逃げる」という方向 転換は、ハエが普通に飛んでいる時の方向転換よりも 5 倍近く速いという。Muijres らは、 結論を導き出すために、ミバエの 92 種類の危険回避飛行から 3,566 の個々の羽ばたきを詳 しく記録し、羽ばたき飛行を行う小さなロボットでその多くを再現した。その結果を基に、 ミバエは特別な感覚運動回路の集まりを利用してわずか一瞬で危険に対処していると考えら れると彼らは述べている。 Article #8: "Flies Evade Looming Targets by Executing Rapid Visually Directed Banked Turns," by F.T. Muijres; M.J. Elzinga; J. Melis; M.H. Dickinson at University of Washington in Seattle, WA; J. Melis at Delft University of Technology in Delft, Netherlands. より正確な星形成率が示唆された Study Suggests More Accurate Star Formation Rates Jouni Kainulainen らの新しい研究は、宇宙の最も基本的な過程のひとつである「星の形成」 を制約するのに役立つという。この天体過程は、主として個々の分子雲(この雲から新しい 星が生まれる)の密度分布に支配される。しかし、こうした雲に関する十分なデータがなか ったため、これまでは密度分布を推定する場合も理論モデルに限られていた。今回、 Kainulainen の研究チームは、電磁放射がダスト(塵)やガスによって散乱する様子を観測し た「ダスト減光マップ」を用いて、星形成雲全体の密度分布を決定する方法を提示した。彼 らが算出した密度分布を、分析モデルで予測される星形成率を従来提供してきた代表的な体 積密度の確率密度関数(ƥ-PDF)に当てはめたところ、観測データに基づく星形成の密度分 布の閾値を割り出すことに成功した。その結果、閾値を超す密度分布をもつ分子雲の星形成 効率を測定できるようになった。彼らは ƥ-PDF を用いて、地球から 260 パーセク以内にある 16 の近傍分子雲について、密度構造と星形成活動を調べた。興味深いことに、彼らが割り 出した星形成の閾値は、理論的に予測される値よりも著しく低かった。今回の新しい方法に よって、いずれは天の川銀河のような銀河全体の星形成率について理解が深まるだろうと、 彼らは述べている。 Article #10: "Unfolding the Laws of Star Formation: The Density Distribution of Molecular Clouds," by J. Kainulainen; T. Henning at Max-Planck-Institute for Astronomy in Heidelberg, Germany; C. Federrath at Monash University in Melbourne, VIC, Australia. 卵子のおかげで遺伝子の進化が速まる Because of My Eggs, My Genes Evolve Faster 1 つの種の卵細胞と精細胞がどのように形成されるかは、その種の遺伝子がいかに速く進化 するかに影響を及ぼす可能性があることが、新たな研究から示され、それによれば生殖細胞 が形成されるある仕方が種の進化に関連するようである。生殖細胞(オスの精子とメスの卵 子)は、重要な遺伝情報を後の世代に伝える。多くの脊椎動物において、生殖細胞の形成は、 多能性細胞に様々なシグナルが作用する、後成と呼ばれるプロセスを通じて行われる。しか し、その他の脊椎動物では別の方法が発達した。それは、生殖細胞質内で生殖細胞が形成さ れる、前成と呼ばれるプロセスである。このプロセスは、脊椎動物の進化において繰り返し 登場してきたが、科学者はその理由を十分明らかにできていない。今回、この問題に光をあ てるために、Teri Evans らは、前成のプロセスを用いる脊椎動物種におけるタンパク質コー ド配列を、後成を用いる姉妹種と比較した。後成により生殖細胞を形成するサンショウウウ オと、前成により生殖細胞を形成するカエルとを比較したところ、Evans らはカエルのほう が遺伝子の進化が速いことを発見した。この結果から、遺伝的制約が強い時期である胚発生 の早期に、遺伝子に対する制約を生殖細胞質が除去するという仮説が裏付けられる。したが って、Evans らの研究結果は、科学者が系統樹において生物を比較研究する方法に影響を与 える可能性がある。 Article #14: "Acquisition of Germ Plasm Accelerates Vertebrate Evolution," by T. Evans; C.M. Wade; A.D. Johnson; M. Loose at University of Nottingham in Nottingham, UK; F.A. Chapman at University of Florida in Gainesville, FL. 犠牲結合による靱性の付加 Sacrificial Bonds for Extra Toughness 最新の研究により、エラストマーという衝撃吸収材の用途がオートバイのシートやタイヤ等 に広がる可能性が出てきた。エラストマーはゴムに似た材料で、激しく引っ張られても割れ ることなく元の形状に戻るため、工業分野では広く利用されている。ほとんどの未充填エラ ストマー(2 番目に固い粒子を内部に持たないもの)は、力学的強度に欠ける。しかし、ポ リマーネットワークを充填するとエラストマーの強度は増すが、加工が難しくなるため用途 も限られる。そこで、研究者らはこのポリマーネットワークを充填せずにエラストマーの靱 性を改善し、非常に高い強度を示すサンプルを作り出している。これまで研究者らはこれを 行うために様々な手法を試していたが、今回 Etienne Ducrot らは、ハイドロゲルの強度を上 げるための方法に転換したことで進展を得た。ハイドロゲルは、2 つの異なるポリマーネッ トワークを内部に入れることで強化されている。これは、材料が引っ張られた後に 1 つのネ ットワークがエネルギーを分散し、もう 1 つのネットワークがこの材料を元の形状に戻すこ とができるためである。1 つ目のネットワーク結合を犠牲にすることで、ハイドロゲルは高 い靱性を得る。そして、進行経路に負荷が少ない 2 つ目のネットワークは跳ね返ることに集 中できる。Ducrot らは、このダブルネットワーク手法をエラストマーに応用した。彼らは 2 つ目を作る前に、1 つめのネットワークを製作し、事前にそれを引き伸ばした。さらには、 最初のネットワークを、その結合が壊れた際に発光するような分子から作ることで、サンプ ルが引き伸ばされて壊れたときに、破裂が起こるまでの時間を追跡できた。Ducrot らのこう した研究は、高靱性のエラストマーという新たな部類の開発に道を開く可能性がある。なお、 Perspective では本研究をさらに掘り下げて考察している。 Article #11: "Toughening Elastomers with Sacrificial Bonds and Watching them Break," by E. Ducrot; C. Creton at École Supérieure de Physique et de Chimie Industrielles de la Ville de Paris (ESPCI) ParisTech in Paris, France; E. Ducrot; C. Creton at CNRS in Paris, France; E. Ducrot; C. Creton at Sorbonne-Universités in Paris, France; E. Ducrot; C. Creton at Université Pierre et Marie Curie (UPMC) in Paris, France; E. Ducrot; C. Creton at Université Paris in Paris, France; Y. Chen; R.P. Sijbesma at Eindhoven University of Technology in Eindhoven, Netherlands; M. Bulters at DSM Ahead in Geleen, Netherlands. Article #3: "Materials both Tough and Soft," by J.P. Gong at Hokkaido University in Sapporo, Japan.
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