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IT業界の構図
日経パソコン発行人
渡辺 洋之
今日お話しすること
† IT業界の構図
† 半導体産業の現状
† コンピューター産業の現状
(ハード、ソフト、インテグレーション)
† デジタル家電の現状
半導体産業の現状
† 組み立て産業としての半導体産業
† 先端製造業としての半導体産業
† 生き残りの道は
半導体産業はピークアウト!?
†半導体産業の過去30年の成長率は18∼
19%というが・・・
†1995年以降は1∼2%の成長
†市場は既に成熟化?
組み立て産業としての半導体
† 汎用品はコストがすべて
† サムスンに追い抜かれ、中国に迫られる
† 生き残り策は特化型か完全受注型かしかない
† しかし、特化型もカスタムLSIも市場が小さく逃げられ
ない
† さらに悪いことに・・・
集約される連合
† 65ナノ以下は4グループ
† インテル
† サムスン
† IBM-ソニー-東芝連合
† アイメック-TSMC
→市場が成熟している上に、物理的に製造すら限定され
た世界
液晶もピークアウト!?
† 学会発表が減少。イノベーションは終わりか?(まるで
15年前のCRT業界)
† 有機ELが今はピーク
† 液晶の進化が5G以降は「目に見えない」ところまで来
た
† 液晶のホットな話題は「光源」。蛍光管からLEDへ(た
だし、あと1∼2年)
† サムスン、LG、シャープ、台チーメイあとプラス台湾
メーカー1社の5社に集約
SEDは?
†40インチが1000ドルの時代にコストで見合う
か?
†表示の問題4スミにズレガ生じる。それが個々
の問題として内臓。(日立との提携話があった
がその問題で成り立たなかった)
リアプロの評価
† リアプロが日本で拡販されるが、競争品と比較してリ
アプロの評価は?
† リアプロ=高温ポリシリコン、DLP、 LCOS
† DLPはコストという点で優位に立てるが、現時点では
高精細という点で劣る。今、リアプロならば高温ポリシ
リコン。
† 中長期的にはDLPがいつ高精細化するか
† いずれにしても現時点では50インチ以上はリアプロ、
40インチ以下が液晶という認識
リアプロがもたらす市場の構造転換
† DLPは装置から素材への市場構造の転換を図る。
DLPの重要なものはフィルムとレンズと光学装置と
いった材料。
† 半導体市場ではこれまで投資の7∼8割が半導体製
造装置。残りが素材。しかし、液晶は6割が素材。2割
が製造装置。しかも月産1万枚のウエハーラインで
DLPの世界需要が賄える。
† DLPかLCOS(エルコス、日立-ビクター-松下連合)
か?エプソンの高温ポリシリコンはテレビとして汚い
† 某大学が間もなく新しい光学を発表。これが普及のト
リガー!?
海外メーカーとの比較
† 海外の競合メーカー(米国、台湾、韓国等)をよりク
ローズアップしてお話いただき、日本のメーカーがどの
ように優位性を保っていけるのか
† コストの問題。ファブかファブレスか?
† NECの失敗。株価対策のためにファブレスを徹底でき
なかった。
† ファブといっても厳しい。NECは関西の工場で0.25ミ
クロンのドライバーICが好調。とはいえ、年収100万
円のブラジル人でラインを賄っている状況。いつまで
持続可能?
半導体産業の生き残り
† カスタムも最先端も組み立てを中心とした形で
は生き残るのは厳しい
† それ以外の道とは・・・
† 現状の答えは「材料」
† ナノテクを使った半導体に使う素材こそが重
要
ただIBMのPC事業から考える
コンピューター産業の現状
パソコン業界の現状
† 最も使いにくいが、最も普及した機器がパソコ
ン
† 依然として成長し続けるパソコン市場
† 当面、成熟化しない
パソコン市場の動向
† 2004年には世界では前年比15%成長の1億7500
万台の見通し、市場は年間2億台へ
† この先も世界的な視野では順調に成長、2010年に
はパソコンユーザーは現行の6億5000万人から10
億人へ
† 日本もコンシューマー市場も2004年後半から回復
パソコン市場の構造
† OSはWindows、CPUはインテルという「ウインテル
連合」が寡占
† 加えてグラフィックスチップもエヌビデアの寡占化が急
進
† 各種部品の標準化も大きく進展
† 製造はほぼ90%以上が中国、台湾
† 最も大きな部品コストはWindows(40ドル∼60ド
ル)とCPU(数十ドル∼百数十ドル)。パソコン製造に
占める人件費の割合は10分の1以下。
† 部品調達がすべて!
パソコン市場で起きていること
† デルが強いのは一側面に過ぎない
† 本当に強いのはホワイトボックス
† デルが調達放棄した分を、ホワイトボックスとして製造会
社が販売
† 結果としてホワイトボックスの性能向上と互換性の不安の
解消
† ブランドメーカーはデルとホワイトボックスの挟み撃ちにな
る形
† ブランドメーカーはテレビ機能など付加価値で守るしかな
い
† そうした道を放棄したIBMの手が詰まったのはある種当た
り前のこと
IT業界は完全に成熟化
† 大手コンピューターメーカーの収入に変化
† IBMが儲かっているのは実は「メインフレーム」や「ミニコン」といっ
たレガシーシステムからの収入
† 代わりがいくらでもいるオープンシステム環境は価格競争で儲か
らない!
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†
†
大手ソフトメーカーの収入構造の変化に象徴
ライセンス収入が頭打ち=もはや世界の大企業向けに行き渡った
保守・メンテナンス収入が頼り
ライセンス収入の頭打ちまたは減少→ライセンス収入の値下げ→
保守メンテナンス料金依存増大→ASPサービスへの移行(=サー
ビス収入制へ)というスパイラルへ
IT業界の対応策は
† ライセンス増加は中堅中小企業で稼ぐ(オラクル、SAPが実施)
† ライバルを買収してユーザーベースを増やす(オラクルのピープル
ソフト買収)
† より専門的な企業を買収して細かな機能追加、メンテナンスをして
いくしかない(マイクロソフト、IBMが実施)
† いずれにせよM&A戦略が軸になる
† 逆説的にはベンチャー企業の「Exit戦略」が成立する環境。ベン
チャー企業=大企業のR&Dの肩代わり
† コンサルティングという形でシステム開発の減少を補う上流での収
入を確保する
† 顧客が逃げられない方法を考えるしかない
† それでも足りないところは赤字部門の売却に走るしかない→IBM
のパソコン事業売却はこの文脈
† 最悪のシナリオは「下請け」になること
IBMの本当の顔
† 付加価値の向上=システム開発からどこまで
上流(=経営)に遡れるか
† IBMがプライスウォーターハウスを買収したの
もそれが狙い
† さらにIBMは進化して最近は「システム提案」
から「ビジネスモデルの提案」へ
IBMがLinuxを応援する本当の理由
† IBMがLinuxを応援するのは、Linuxを応援
するのが自分のためになるからで、オープン
ソースの考え方を支持しているからではな
い!
† LinuxがWindowsの対抗軸になること
† Linuxの応援はライバルとなる商業ソフトの登
場を防ぐことができること(特許の公開)
† Linuxを使うことがユーザーがIBMから逃げら
れなくなる手段(ロックイン)であること
受注方ソフト産業の生き残り
† 生き残り策は・・・
† 「経営コンサルティングを手がける」「世界に通用するような得意な
分野を作る」「技術に秀でる」「圧倒的なコスト競争力をつける」
† 経営コンサルは今からできない
† 得意な分野を持つのは厳しい=日本のユーザー企業の停滞がソ
フト産業にも影響
† 技術秀でようと思っても日本にソフトウエアの最先端技術はな
い!?(コンピューターは普及していても、コンピューターサイエン
スがない国)
† 圧倒的なコスト競争力を持とうにも、中国には勝てない?
デジタル家電の問題点
† 日本しかデジタル家電は普及していない
† 世界に向かうシナリオがない
† 価格低下に対する対策が中途半端
世界はデジタル家電に興味がない
† 日本しかデジタル家電は普及していない
† 欧州も米国も薄型テレビ、DVDレコーダーに
興味なし
† デジタルカメラの購入意欲は旺盛
デジタル家電は価格がすべて
† 新し物好きの日本人と価格が大きなポイントを
占める欧米人
† 米国の普及価格のポイントは100ドル。これを
境に敏感に反応する
価格と消費行動の例
† (例)DVDレコーダー
† VTRが100ドルで買える時代に、700ドルするDVDレコーダーを
買う理由は?
† 日本人は「数十時間以上録画できるから便利」というが、米国人は
「数十時間をどうやって見るの?」
† (例)デジタルカメラ
† 400ドル前後の頃は全く反応なし。しかし、100ドル前後の機種が
主力となってきた今はデジカメは爆発的な普及期。
→日本と米国で本格普及まで3年ほどのタイムラグ
デジタル家電産業の構造(1)
† 新商品を出して、一気に普及させ市場を形成するという「垂直立ち
上げ」は世界に向けては通用しない
† タイムラグが3年あるとその間に、韓国・台湾・中国メーカーが参入
する時間ができる
† 世界的な普及期には、韓国・台湾・中国メーカー主役になる可能
性は大きい
→現在のデジカメがその典型。普及価格帯の製品は韓国・台湾メー
カーが中心。日本は価格競争にアップアップの状態。一眼レフを
持っていないと利益確保は困難
→液晶産業も同じことになる可能性大
世界の転換点は2006年頃
† 今は別々の日本のデジタル家電ブームと米国のドットコム復活が
交わるときが来る!
† それは2006年∼2007年
=デジタル家電の価格が十分下がる
=デジタル家電はデジタルネットワーク家電になる
=2006年はワールドカップ、2008年は北京オリンピック
=先進国のブロードバンド比率が40%を超える
=ブロードバンド前提のサービスが多数登場する
=モバイル高速通信も整備
=XMLを中心に機器を問わないデータフォーマットも普及
デジタル家電産業の構造(2)
† デジタル化の負の部分
† 新製品開発サイクルが大幅に短縮
=6ヵ月→3ヵ月→1ヵ月
† 利益の源泉はコストがすべて
† キーデバイスを確保することで、利益を維持するとい
うのは、理屈では分かるが・・・。
† 現実にはコスト上は、標準部品を採用していくしかな
い。パソコン産業と同じ構造になるのは宿命
† サムスン電子は12カ月で価格半分が目標。( 18カ
月で集積度2倍のムーアの法則を上回るペース)
デジタル家電産業の構造(3)
† デジタル家電の鍵を握るのは実は「ソフトウエア」
† インターネットにつなげて、オンラインで機能アップす
るのが中心
† デジタル家電は、OSとメモリーとハードディスクを内
臓せざるを得ない=アーキテクチャーとしてはパソコ
ン
† デジタル家電からネットワーク家電化を指向すればす
るほど、標準化の波が襲いかかる
→逆に言えばデジタル家電のキーデバイスは「CPU」と
「OS」
キーデバイス戦略の問題点-1 CPU
† ソニーのデジタル家電用CPU「Cell」戦略
† Cellの優位性はパソコン業界で圧倒的な力を持つイ
ンテルのCPUを大きく上回る処理能力
† 理屈では納得。しかし、それは今必要な処理性能な
のか?(パソコンの世界ですら必要ない)
† ゲーム機として必要か、ハイビジョン映像編集用で必
要か
† ゲーム機として必要でも、そのソフトはどうやって作る
のか?
† ハイビジョン映像編集を普通の人がする時代はいつ
来るのか?
キーデバイス戦略の問題点-2 OS
† 家電用OSとしてLinuxを採用する戦略
† Windowsを採用しない(ライセンス料を支払
わなくて良い)という点で効果が大きいと期待
されたが・・・
† GPL問題を機に、セキュリティとメンテナンス
の不安が急浮上
LinuxのGPL問題
† GPL=General Public License
† ソフトウェアは必ずソースプログラムとともに頒布、複製される。も
しソースプログラムを付けずに配布する場合は、ソースプログラム
を確実に入手できる手段を提供することが義務付けられる
† ソフトウェアを、使用、複製、変更、頒布したり、新しいフリーソフト
ウェアの一部として利用できること
† 変更、改良されたソフトウェアはGPLに従って頒布されること
† プログラムの全部あるいは一部を用いて作られたソフトウェアは
GPLに従って頒布されること
† 組み込み型のLinuxもGPLとして公開しなければならない→セ
キュリティ面はどうする?→デジタル家電などにも影響は必至
ソフトウエアが理解できない日本
† CPUとOSの相互依存はキーデバイスの普及に不可欠
† インテルのCPU=最も販売台数が多いと同時に、
Windowsが最もうまく動くCPU
† マイクロソフトのWindows=最も普及しているOSと同時に
最もソフトウエア開発環境が整っているOS
† その点、日本ではそれに対抗する組み合わせについて十
分練られたのかどうか疑問
あまり意味のないシナリオ
† 新技術を強調し、優位性を主張するが・・・
† Blu-rayなど次世代DVDはしばらく意味がな
い
† ハリウッドが映画をハイビジョン化するのは
2007年以降だから
デジタル家電 vs. パソコン
† デジタル家電とパソコンの激突がこれか
らの最大のテーマ
† 日本では家電の圧勝に見えるが、欧米
では全く勝負はついていない
† 日本と欧米の環境の違い
日米の環境の違い
(日本)
† テレビは地上波。居間だけでなく、個々の部屋にもテレビがある。
† ゲームはゲーム専用機でする
(米国)
† テレビは基本的にケーブルテレビ。個々の部屋にはテレビはなく、
あるのはパソコン(パソコンで映画も見る)
† ゲームをやるのもパソコン(ゲーム専用機は子供のもの)
→家電が優位とは言えない
普及シナリオの違い
(日本)
† 基本は居間のテレビが中心。テレビを軸にDVDレコーダーを配置
し、それを家庭内ネットワーク経由(仕様はDLNA)で個々の部屋
にあるテレビやパソコンでも見ることができるようにする
(米国)
† テレビが中心だがケーブルテレビを見るセットトップボックスを進化
させればよい(DVDレコーダーは不要)。個々の部屋にあるパソコ
ンにはTCP/IPで配信すればよい
→日本はテレビが優勢だが、米国はむしろパソコンが優勢!
環境の違いは案外大きい
† iPodのような情報機器がなぜ日本で登場しなかったか
† 日本に普及していて、米国になかったものがあった。
† それはMD(ミニディスク)。米国にはMDは普及してい
なかった
† 米国はウォークマン、ポータブルCDしかなかったので
iPodのようなものに移行しやすかった
† 日本はMDがあるために、MDを捨ててiPodのようなも
のに行くことをためらった
日本の電機産業はどこで儲ける?
† 標準化せざるを得ない分野での「ものづくり」
にこだわると良いことはない
† 次の本命は「人体」、バイオニクス
† 人体に入れるのだから、むしろクローズドな方
が良い。そここそ付加価値が高い!
まとめ
† 半導体、コンピューター産業、デジタル家電の
あらゆる分野で日本の不利なトレンドが進ん
でいる
† デファクト市場で戦うシナリオの再構築、ない
いし、非デファクト市場を作るしかない
† 皆さんは日本の閉塞状況を打破する技術と経
営を身につけ日本を変える必要がある