情報番号:01080601 テーマ:従業員の発明は誰が特許権をもつか 編著者

情報番号:01080601
テーマ:従業員の発明は誰が特許権をもつか
編著者:PM研究会
結論から言いますと、従業員の発明が職務発明に分類される場合であって、
会社との約束で会社に予め譲渡することになっている場合は、その発明は会
社の特許権となりますが、その場合、会社は従業員に対し、発明の価値に応
じた報償をすることが必要です。その他の場合は、従業員の発明は、従業員
が特許権を持つことができます。以下、詳細に説明します。
1)従業員の発明の種類
従業員が行なう発明の種類は、雇用との関係から次の三つに大別されます。
①職務発明
従業員が、自分に与えられている職務を行なっている過程、あるいはその
成果として得られた発明を職務発明といいます。例えば、Aさんが樹脂の成
形技術の開発研究を自己の職務としている技術職員であったとすれば、射出
成形法の発明は職務発明に該当することになります。
②業務発明
会社の業務範囲に属するすべての発明を業務発明といいます。したがって、
業務発明は職務発明に比べて広い概念の発明で、従業員の所属とか職務には
直接の関係はなく、すべての従業員が開発できる立場にあります。Aさんの
例では、職務が総務部の庶務担当であったとすれば、開発した発明は業務発
明に当たることになります。
③自由発明
雇用とは関係がなく、従業員の立場を離れて会社の業務とは無関係の対象
について開発された発明を自由発明といいます。
会社の業務に関係のない自由発明が発明者本人のものであることは容易に
理解できるでしょう。職務発明や業務発明が会社に帰属するのか、それとも
発明を開発した従業員に帰属するのかとなると、判断しにくい面があります。
2)民法上の原則
民法に定められた雇用の原則によると、使用者は従業員の労働に対して報酬
を支払わねばならず、一方、従業員は定められた労務に服しその労務から生
じた成果は、常に使用者に帰属することになっています。したがって、この
原則に従うと、職務発明も業務発明も共に会社に帰属すると考えても決して
おかしくありません。
*著作権法等に基づき、この情報の無断コピーを禁じます.
(株)ジェイ・アール・エス(略称JRS)
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3)特許法の原則
ところが特許法では、発明を開発する能力は自然人だけがもつものであって、
会社などの法人には発明能力がないという原則をとっています。このためす
べての発明は、原始的には発明した本人のものになるわけです。
いうまでもなく、従業員が行なった発明についても、それがたとえ会社の
研究費と設備を使って完成された発明であったとしても、発明によって得ら
れた特許を受ける権利は、常に発明をした従業員に帰属し、会社はなんらの
権利をもたないことになります(発明者主義の原則)。
Aさんの発明が職務発明であった場合に当てはめてみると、開発された射
出成形法によって得られる利益は会社の収益になりますが、発明から生まれ
た特許を受ける権利は、Aさん自身のものになります。
しかし、最近の特許出願の実情をみますと、その 80%以上が会社名義で出
願されていますが、これは会社が発明をした従業員から正当に特許を受ける
権利を譲り受けて出願人になっているケースが多いからです。
従業員が行なった発明の取扱いについては、特許法第 35 条に定められてい
ます。この規定は、従業員発明のうち、とくに職務発明の取扱いを中心にし
て、使用者と従業員(特許法にいう従業員には、会社の重役などの役員も含
まれている)、それぞれの立場に立って相互の利益保護をはかったものです。
その利益保護の内容を、会社と従業員とに分けて説明すると、以下のように
なります。
従業員の発明はもともと発明を完成した従業員に帰属しますから、会社が
その特許を受ける権利を譲り受けない限り、その従業員が自分で特許をとる
ことも、第三者に特許を受ける権利を売り込むことも自由にできます。
ところが、発明が職務発明である場合には、たとえ発明者である従業員、
またはその従業員から特許を受ける権利を譲り受けた第三者が特許をとった
としても、それとは無関係に会社にはその特許発明を実施できる法律上の通
常実施権が認められます(特許法第 35 条第 1 項)。
しかし会社の自由実施だけの保護では先程のAさんの例のように、従業員
が会社の設備や研究費を使って完成した発明を、勝手にライバル会社に売り
込む行為に対して会社として食い止めることができません。
そこで、特許法ではこのへんの事情を考慮して、会社は職務発明から生じ
る特許を受ける権利を譲り受けることについて、あらかじめ予約することが
できることを定めています(特許法第 35 条第 2 項)。
したがって、会社が職務発明の譲渡義務を定めた社内規定をつくっておけ
ば、職務発明は必然的に会社の所有物となり、先程のAさんが行なった不都
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合な行為を未然に防ぐことが可能となります。
会社が従業員であるという弱い立場につけ込んで、従業員が開発した発明
をなんらの補償もなしに一方的に吸い上げてしまうことがあっては、従業員
は発明を開発する意欲をなくしてしまいます。
特許法ではこのような事情を考慮して、自由発明はもとより業務発明につ
いても会社が継承予約することを禁止するとともに、従業員が社内規程など
によって、職務発明から生まれた特許を受ける権利あるいは特許権を会社に
譲渡した場合には会社に対して相当の対価を請求できると定めています(特
許法第 35 条 3 項)。
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