横浜展望―田中康勝作品 (H25.7.30) 専科一期校友会 岡村昭則 7月に入って、今から4年前、専科一期校友会立ち上げでアドバイスをいただいた、18期校友会会 長の田中さんから横浜市の山手西洋館「外交官の家」の喫茶室に小生の 「横浜展望」絵画が常設展示されましたので、横浜にお出掛けの節はお 立ち寄りくださいと、作品の添付ファイル付きでメールが届いた。美術 鑑賞が趣味である私にとっては、この機会に先輩の作品を見なくてはと 心動かされた。 というのは、私の青春時代を支えてくれた、初めて建てた家が保土谷 区にあり、40数年の歳月が経ち、今にも朽ちようとしているので1年 前に売りに出しやっと買い手が見つかり、7月30日に引き渡しとなっ たことから、この機会を捉えて先輩の作品を鑑賞することができた。 蒸し暑い昼下がり、先輩が書いてくれた案内図を片手に石川町駅から歩きだしたものの、方向音痴の 私は反対方向の地蔵坂から山手本通りを東に回り込む形でイタリア山にある、「外交官の家」に汗を流 しながら着いた。何時ものように案内標識を読むと明治13年(1880)から明治19年(1886)までイタリ ア領事館が置かれていたことから「イタリア山」と名付けられたとか。目の前に私を迎えてくれる「外 交官の家」は、木造の西洋館でしっかりと整備されているので、 「古川庭園の邸宅」や「旧岩崎邸」を 思い出させてくれる。 外交官の家は明治政府の外交官内田定槌氏の邸宅として、 渋谷区の南平台に明治43年(1910)に建てられている。旧内 田邸は、当時の日本人住宅としては珍しく徹底した洋風化が 図られ、建物は木造 2 階建てで塔屋がつき、天然スレート葺 きの屋根、下見板張りの外壁で、華やかな装飾が特徴のアメ リカン・ヴィクトリアンの影響を残しているという。また、 部屋の家具や装飾はアール・ヌーボー風の意匠とともに 19 世紀イギリスで展開された美術工芸の改革運動の影響もみら れるという。平成9年(1997)に横浜市は、南平台の建物を譲り受けて、ここに移築復原し、新たな付属 棟を接続させて一般公開し、同年に国の重要文化財に指定されている。この歴史的建造物を見学するだ けでも一見の価値ありで、大勢の方々が見学に訪れている。 私も付属棟の玄関から入り、田中康勝さんの「横浜展 望」を見に来たのですがと、受付の人に声をかければ、 そこの喫茶室の壁に掛けられていますよと指さして教 えてくれた。蒸し暑い中、急坂を登り遠回りしてきたの でクタクタ。そこでアイスコーヒーとケーキを頼み、 「横 浜展望」の前のテーブルに座り一時を寛いだ。美しい庭 園の景観を眺めながらお茶を楽しむひとときはなかな かものだ。田中さんはここのテラスから作品を描いたの だろうか。 「横浜展望」は、先輩がここの庭園から見える横浜の風景を魚眼的にとらえて描いたもので、メール に添付されてファイルの絵とは大違い。本物を細かく見ていくと、空と海の空間を大地が受け止め、バ ランスが取れており、絵の中にベイブリッジ、ランドタワー、赤レンガ倉庫街、大桟橋、中華街、マリ ンタワー、外交官の家やテラスも書き込まれており、誇張された遠近感と強烈な歪みを活かした独特な 世界観を醸し出している。地球は丸いのだから魚眼的に風景をとらえる表現は、大人も子供楽しめる作 品だ。写真では魚眼レンズを利用して誰しも風景を臨場感的に撮ることができるが、絵画の場合は誰し もというわけにはいかない。先輩ならではの技である。 「横浜展望」が由緒ある歴史的建造物の喫茶室 に展示され大勢の訪問者に見ていただけることは大変名誉なことである。私も見た記念に一句詠んで鑑 賞記に残すことにした。 「横浜に 横浜に来て先輩の 先輩の素晴らしき 素晴らしき絵 らしき絵を目の前に我寛ぎぬ」 ぎぬ」 鑑賞が終わってから外交官の家の内部を見て回ったが、 整備されていることもあって木造の輝きとぬくもりが伝 わってくる。また、当時の世界に生きた外交官内田定槌 氏の写真などを見ていると、今と比較しても始まらない が、時間の流れの速さを感じずにはいられない。 さて、外交官の家の素晴らしさはもう一つある。外交 官の家の北側に一段下がると、 「山手イタリア山庭園」の メインとも言える洋風庭園が整備されている。幾何学的 なデザインの庭園を花壇の花々が彩る様子はとても美し い。中央には水路があり、それを取り囲むように花 壇が配されている。水路を中心としたシンメトリッ クなデザインの美しさは、洋風庭園の醍醐味でもあ る。庭園は根岸線の線路を見下ろす崖の上にあり、 そこからは北方へ視界が開けて横浜市街の眺望が広 がる。その昔は横浜港も見えたのであろうが、今は ビルの建ち並ぶ市街地の景色のみで、その向こうに みなとみらいの高層ビル群の姿などを見ることがで きる。コンクリートに囲まれた重い都会風景に変わ り果てているからこそ、魚眼的な横浜眺望の俯瞰図は、 現実の重苦しさを忘れさせてくれるので見ていても 夢を見させてくれるから楽しいのだ。 庭園と洋館の組み合わせは実に風情があり、「絵に なる」美しさがある。咲き乱れる花壇を前に入れて塔 屋のある洋館を撮る角度からの景観は、まさに「山手 イタリア山庭園」を代表するものなのであろう。特に 老人に優しさをもてなしているのか知らないが庭園 の各所にベンチが置かれており、開放感に包まれてい るのが最高だ。こんな素晴らしいところならば妻にも と来るんだったと思ってしまった。私個人としては人工的な美の洋風庭園よりも自然の風景を活かした 日本庭園の方がすきである。久しぶりに絵画鑑賞できたことに感謝!
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