2013年度

「麗澤の馬とふれ合う会」
∼2013 年度後期の活動をふり返って∼
左:麗峰(れいほう) と 右:麗輝(れいき) 2013 年9月から 2014 年2月までの活動をふり
返って、保護者の方に書いていただいた感想文を紹介
することで、活動報告にかえさせていただきます。
なお、プライバシー保護のため、本文中の名前等は
すべて仮名を使っていますので、ご了承ください。
(文責:「麗澤の馬とふれ合う会」代表 中野 千秋)
「麗澤の馬とふれ合う会」について
麗澤大学は、2009 年 11 月に特定非営利活動法人「日本療馬推進会議」との
間で「ホースセラピーの実施に関わる協定書」を締結し、麗澤大学馬術部を中
心に4年間ほど活動を続けました。しかし、諸般の事情により、2013 年 3 月
末をもって協定を解消することになり、その活動も一旦中止することになりま
した。
しかし、障がい児をもつ親御さんからのご希望は強く、何からの形で継続す
る方法を模索いたしました。ただ、医師やセラピストが不在となり、そのご指
導も得られなくなりましたので、
「セラピー」としての活動は出来ません。
そこで、参加を希望される方に、
「セラピーはできない。しかし、馬とのふれ
合いの持つことで、それぞれのご家庭で何かの気づきを持ち帰っていただく。
そういうことでご了解いただけるのであれば」という旨をしっかり説明させて
いただいた上で、
「麗澤の馬とふれ合う会」という名称のもとで再出発すること
になりました。
地域の障がい児や、その他の問題を抱える子供達に、馬とふれあう機会をも
つことで心身を癒してもらい、さらに自立への何がしかの手がかりを見つけて
もらうことが出来れば・・・と思っています。
本会は、月2回程度(主に土曜日)、麗沢大学の馬場で活動しています。
乗馬や馬を扱う経験の有無は問いません。
「一緒に活動してみたい」、
「ボランティアとして手伝ってみたい」
・・・という
方がおられましたら、下記問い合わせ先までお気軽にご連絡ください。
「麗澤の馬とふれ合う会」
連絡先メールアドレス: [email protected]
(以下、登場人物は全て仮名ですが、五十音順で掲載させていただきます。)
1. 久保田 亮子(誠士くんの母)
久保田 誠士くん(12 才)
広汎性発達障害(高機能自閉症)
わが子は、生まれてから3歳ごろまで発語がほとんどなく、発達の遅れに気
づいたのは小学校入学前。もっと早く発達障害があると気づき、幼児期から療
育を行っていれば・・・と後悔した日々もありました。どんなに悔いても、6
歳に気づき、障害は「広汎性発達障害」と診断され、IQも低いのは事実。
入学後は支援のため情緒通級学級へ通いました。学校生活では、朝の登校か
ら高い壁があり、毎日、本人にとって苦痛の日々だったのではないかと思いま
す。2年生のころには、思い通りにいかないと自宅で物を投げてしまったり、
坐っていることが出来ずにリビングの中を何時間も歩き続けていたり。本人に
とって、学校をはじめ社会はすべてが敵意に満ちたものに映っていたのだと思
います。当時は両親にとっても社会は敵意に満ちていた時期でもありました。
こんなに苦しんでいる子を前にしても手を貸してもらえない。変な家族だと白
い目で見られている・・・ように感じるのです。
しかし、救いは動物や乳児を彼が愛していることでした。言葉ではない感覚
で付き合うことのできる世界は本人にとって暖かく、通じる世界なのではない
かと思います。目に見えるもの、感じるもの、言葉・・・すべてが私たちとは
違う。けれど、感覚は私たちよりも鋭い!のではないでしょうか。
ホースセラピーという言葉に出会ったのは、奇しくも先生にご連絡するほん
の少し前。偶然にも古新聞の中から、以前いただいていたホースセラピーのボ
ランティア募集の広告を見つけました。
初めて、先生に御連絡をしたころ、両親は、このまま学校へ行けずとも、穏
やかに毎日を過ごしてほしい。中学校へは席を置くだけにして、やりたいこと
をやらせよう・・・と考えていたころです。小学校6年生ですが、算数は掛け
算より先に進まず、漢字はおろかカタカナを書くことも難しく、LDだと診断
されたので、漢字を正しく書くのは、よほど大変なのだとわかったばかり。
ところが、9月に初めて麗峰と麗輝に会い、ごく短い時間をともに過ごした
だけで、誠士は「これから馬に関わって生きていく」と決めたそうです。馬と
何を話したのか・・・私には知るすべはありませんが、表情は今までと違って
いました。いつも泳いでいた目ははっきりと箇所を見つめ、眼光鋭く話をする
ようになっていました。
その後、2回目の騎乗の後、
「塾へ行く」と言い出しました。勉強を追い付く
ためだというのです。この先、「学校を受験するためには勉強が必要だと思う」
と話しました。
3回目には、
「麗澤大学入学を目標にする」と話しました。
4回目には、「馬術をしっかりと身に着け、競技選手になる」といいました。
誠士の眼が生き生きと輝きを増していくのを身近に感じ、両親だけでなく、
兄弟も接し方が変わってきました。今までは、とにかく関わらずに・・・と思
っていたのですが、弟が一緒に遊びをするようになり、連絡帳の読めない字を
聞いていたり、寄り添ってテレビを見ている姿も見られました。
麗輝と麗峰に会うたびに得る何かがあるようです。それは、大人が話すよう
な説教でも説得でもなく・・・しかし、人生の宝石になる原石みたいでした。
周囲に対して、理解しよう、理解されようとするようになりました。表情も豊
かになり、微笑むことが多くなったのです。
もちろん、何の障害もなく、みなさんと同じ・・・というわけにはいかない
こともたくさんあります。しかし、本人が自覚し一歩を踏み出したのは間違い
ないと思っています。この一歩は大変大きく勇気のいるもの。私たち両親は、
この半年の誠士の姿を讃えたいと思います。
そして、この勇気をくれた麗輝と麗峰に、学生の皆様に、何よりお忙しい中
お時間を割いて下さった先生に深く感謝いたします。
ホースセラピーは全国で行われていて、その効果も評価されていますが、ど
の馬より麗輝と麗峰だったからこその効果だったと思います。そのことを改め
て伝えたいと思いました。
2. 中村 有紀(玲司くんの母)
中村 玲司くん(4才)
脳性麻痺。自分で座位が取れない(座れない)。
北海道や成田で何度か乗馬を体験してみて、乗馬なら親子で楽しめるのでは
ないかと思い、「馬とふれあう会」に参加させて頂くことになりました。
昨年9月から月2回のペースで、先生や馬術部の学生さんたちの貴重な時間
を割いて乗馬をする機会を作っていただき、本当に感謝しています。
玲司のように身体にも知的にも障害があると、療育センターや病院に通う以
外になかなか外で楽しむことを探すのも難しく、家に引きこもりがちな子も多
いです。我が家も休日は自宅で過ごすことが多かったのですが、
「馬とふれあう
会」に参加することで外出を楽しめるようになりました。屋外で季節を感じな
がら先生や学生さん、一緒に乗馬を楽しむお兄さん、お姉さん、そのご家族と
ふれあいの時間をもてたことは、玲司にとってとてもよい刺激になったのでは
ないかと思っています。
それだけではなく、乗馬をはじめてから身体的にもいくつか玲司によい反応
があったので報告させていただきます。
まず 1 つ目は、以前より緊張を緩めやすくなったことです。馬に乗ると最初
は股関節を広げられて不安定な姿勢(玲司にとっては不快な姿勢)になるので
緊張が入るのですが、馬が歩き出すと緊張がどんどん取れてきてリラックスし
てきます。たまに気持ちがよくなって馬の上で眠ってしまうこともありますが、
睡眠学習でも効果があるようで、家に帰ってきてからもいつもより身体が柔ら
かく感じられます。
2つ目は、座位の姿勢が安定してきたことです。以前は座位の姿勢を取らせ
ていてもお尻の位置がよくずれてしまっていたのですが、体幹が安定してきた
おかげで、ずれにくくなりました。
3つ目は、手が以前より前に出せるようになったことです。以前は腕・手を
肩から後ろに引きこみやすく、なかなか手を前に出せなかったのですが、腕の
緊張を緩めやすくなりました。たぶん今までは体幹の不安定さを補うように腕
に力をいれてしまっていたのではないかなと思います。体幹が安定してきたお
かげで腕の緊張を緩めやすくなって、手を前で合わせるのがだいぶやりやすく
なりました。手を前に出せるようになると、リハビリや遊びの幅も広がるので、
うれしい変化です。もう少し馬上での座位が安定してきたら、手綱をきちんと
持たせたり、少し手を動かしてあげたりできたらなと思います。それには一緒
に乗る私たちがもう少し体幹を鍛えなければいけませんが・・・。
寒い季節は体調面が心配で何度かお休みしてしまいましたが、春になって暖
かくなれば乗馬はとても気持ちがよさそうなので、今から親子で再開を楽しみ
にしています。今後ともよろしくお願いいたします。
3. 山口 良太(和也くんの父)
山口 和也くん(9才)
知的障害を伴うてんかん、精神発達遅滞、運動遅滞
和也は重度の知的障害を伴うてんかんで、精神発達遅滞や運動遅滞が見られ
ます。治療により発作はかなり抑制され、脳波も大分改善されたため、どのよ
うに発達を伸ばすかが今の課題です。学校や以前から行っている臨床心理士に
よる訓練の他に、鍼灸や整体による療法も一年ほど前から始めるなど、どんな
方法がよいか模索しているところです。
数年前、那須の牧場での体験乗馬のとき、和也がとても楽しそうな様子だっ
たので、障害のある子供でも乗馬可能なところを探していました。当時の和也
の理解力では馬に乗っても怖がることはなかったのかもしれませんが、きっと
楽しんでくれるだろう、バランス感覚や筋力を必要とする乗馬は訓練にも役立
つのでは・・・と考え「馬と触れ合う会」にお世話になることを希望しました。
最初は怖がって馬に近寄ることも出来ませんでした。「もう少し近寄ってみ
ようか」と、馬に近付けようとすると、強烈に抵抗して後ずさり。弟やお友達
が馬に楽しそうに乗っていても、離れて見ているのが精一杯でした。無理に近
付けたり乗せたりして恐怖感を植え付けないよう、少しずつ慣れて、自分から
馬に近寄る動 きが出るまで待つことにしました。
回数を重ねるにつれ、少しずつ馬に近付ける距離が短くなってきました。ベ
ンチで親と一緒に見ていたのが、「今日は柵の近くまで行けたね」、「柵に触
れたね」、「前回より馬に近付けたね」と皆さんに毎回声をかけて頂きました。
「今日は馬場に入ってみようか」、「乗ってみようか」と、そんな日も有りま
したが、ある程度迄は近付けても、やはり強く抵抗します。「今日は無理です
ね、また今度にしましょう」と、和也の様子を見てタイミングを計りながらの
繰り返しでした。
ある日、到着していきなり和也が自ら馬場に向かって突進していきました。
「お!? これは・・・?」、「早速乗ってみますか?」
同乗者の親がまず乗りました。和也は、いざ乗るその時こそ少し抵抗しまし
たが、エイッと持ち上げたところ、意外とあっさり乗ってしまいました。11月
23日のことでした。その後の日も乗ることが出来ました。乗っているのは10分
程度です。馬の上では、力んだり騒いだりせずに普段通りおとなしくしていま
す。疲れてくると、同乗している親にすっかりもたれ寄りかかり、和也が手で
「おしまい」のサインを出したらすぐに終了します。それを1月13日まで、3
回続けました。
そして年度の最終回、親同乗ではなく、和也ひとりで乗ることに挑戦し、一
発で成功! ひとりで姿勢を保てるか心配でしたが、何とか乗馬になっていたよ
うに思います。何回か自分で上体は起こしていましたが、座っているおしりの
位置がだんだん横にズレてきます。それでも本人は平気なので、途中で一旦馬
を止めて真ん中に座り直させたことが二回ありました。和也のおしまいの合図
で無事終了。乗っていたのは5分足らずの時間でしたが、手はずっと手綱を掴
んでました。
和也本人はどこまで楽しんでいるのか、本人の口から聞きたいところですが、
残念ながらわかりません。
何故和也が馬に乗れるようになったか、本当の理由はわかりません。徐々に
慣れていたようなので、怖がることは無いと理解するまで時間と回数が必要だ
っただけかもしれません。お馬さんの力なのかもしれません。最近の和也の成
長と変化は大きいので、日頃の治療や訓練の成果なのかもしれません。鍼灸の
担当の先生によるとその鍼灸院では鍼治療の後、馬に乗れたという人が他にも
いたそうです。
一年程前に鍼と整体を始めた頃から、和也は筋力、動き、姿勢、周りへの関
心や、やり取りなど向上の傾向が見られ、成長や変化を感じます。つい先日、
公園で和也が生まれて初めて出来たことが有りました。意識してボールを蹴っ
たり、白鳥にパンをあげたりしたことです。しかも嬉しそうな顔で楽しんでま
した。
和也にとってひとりで馬に乗れたことは大きな飛躍です。馬に乗ったことで、
本人の成長や変化が促進されるのかどうかまではわかりませんが、何らかの刺
激になってくれる筈と思っています。
普段は学校で頑張っているので、休日はのんびりと楽しむことが本人にとっ
て大切なことと理解しています。今後も本人が馬に乗ることを楽しんでくれれ
ばと考えています。
また来年度も引き続きよろしくお願いします。