新版・フランチャイズ・ハンドブックの解説

2012年4月号
黒
川 孝 雄
新版・フランチャイズ・ハンドブックの解説
新版フランチャイズ・ハンドブックが、2012年4月1日付けで発刊された。これは、
日本フランチャイズチェーン協会(4月1日より一般社団法人となった)の40周年記念
の一環として、ハンドブックの改訂が行われたものである。
ここで、フランチャイズ・ハンドブックの歴史について簡単に触れておきたい。
Ⅰ フランチャイズ・ハンドブックの歴史
1.フランチャイズ・ハンドブックの刊行
最初のフランチャイズ・ハンドブック(以下赤版)は、昭和57(1982)年2月1
0日に刊行された。その日付けからして、日本フランチャイズ・チェーン協会10周年記
念として刊行されたことが明確である。
その刊行の趣旨は、
「序」に次のように書かれている。
「
(社)日本フランチャイズチェーン協会の会員は、協会活動を通じていろいろ学んでまい
りました。その過去のエッセンスとも言うべきもの、特にザーとジーとの間の望ましい関
係に焦点をあて、その相互信頼関係をますます高揚するための、倫理綱領、契約の指針、
フランチャイズ用語集等、10年に亘って積み重ねた協会資料の集大成を関係判例等を含
め、一書にまとめたのが本書であります。」
この赤版は、その後部分的に改定しているものの、昭和61年第2版発行、平成3年第
3版発行、平成7年第4班発行となっており、殆ど大きな改定は行われていない。
この赤版は、書店を通して販売したものでなく、日本フランチャイズチェーン協会が直
売もしくは、通信販売をしたものであり、古本屋にも出回らない珍品である。編集発行は
協会が担当した。価格は2,000円で、送料は310円となっているので、地方からの
要望に対しては、郵送販売したことが伺われる。発行部数は不明であるが、第4販まで発
行されたことから、5 千部近い実績があるのではないかと推察している。
赤版の目次のみを記すので、凡その見当を付けてもらいたい。
Ⅰ 倫理綱領
1.日本フランチャイズチェーン協会倫理綱領
2.倫理綱領の採択の意義
3.倫理綱領の採択に寄せて(採択記念講演要旨)
4.国際フランチャイズ協会倫理綱領
5.ヨーロッパ・フランチャイズ倫理綱領
Ⅱ 契約の指針
1.契約締結時に開示すべき事項
1
2.フランチャイズ契約書の基本条項
3.フランチャイズ契約書作成の指針
4.運営規則作成の指針
5.契約書作成指針の目的と要旨
6.フランチャイジー募集の広告に関する指針
7.フランチャイジー募集担当者に対する指針
8.
「申込金」に関する指針
(注:6,7,8は後補されている。
)
Ⅲフランチャイズ用語辞典
1.索引
2.語義
3.フランチャイズ事業とは
Ⅳ 関係法令・判例等
1. 中小小売商業振興法
2. 訪問販売等に関する法律(抄)
3.商標に関する法令
4.独占禁止法
5.フランチャイジングに関連する判例
6.米国FTCのフランチャイズ開示規則
7.フランチャイズ・システムに関する経営の近代化について
(注:7も後補されている。
)
Ⅴ フランチャイズ関係年表
Ⅵ 協会の定款、規約、登録事業運営規定、マーク
(注:登録事業運営既定は後補、マークの「JFAマーク使用規定」の昭和58年改正
は後補)
内容からして、フランチャイズシステムの普及、解明を目的としたハンドブックであっ
た。
2.協会30周年記念として「フランチャイズ・ハンドブック」の全面改訂
平成14(2002)年に、日本フランチャイズチェーン協会は創立30周年記念を迎
えた。30周年を記念して、フランチャイズ・ハンドブックの全面改訂(以下黄色版)を
行うことになった。
実際に、改訂に関わった人は、次の6名であった。
弁護士
川越 憲治
弁護士
高橋 善樹
フランチャイズ研究所
黒川 孝雄
2
事務局
専務理事
瀬尾
功
協会職員
海江田 哲
協会職員
廣澤
勝
初代専務理事松崎來輔、二代目専務理事折橋泰の2氏にも、お話を伺ったことがあった。
編集委員長は川越憲治氏であり、川越先生の指示のもと、まとめたものである。
旧版と大きく異なる点は、発行を商業界にお願いし、広く市販した点である。即ち、企画・
編集は、日本フランチャイチェーン協会が行い、発行は商業界が担当した。売価は240
0円と消費税5%で、実質売価は2,520円であった。
初版第1冊のみで終わっているので、実売部数は4千部程度と推察される。この黄色版
の発行趣旨は松岡康雄会長の「序」に明らかにされている。
「フランチャイズ・ハンドブックは、昭和57年に初版を発行以来、本部と加盟店との望
ましい関係に焦点をあて、相互信頼を高めるためJFAが推進してきたコンプライアンス、
すなわち関係法令・倫理綱領・自主基準をはじめとして多くの事例・判例などの資料を一
書にまとめたものであります。
このたび,JFA30周年記念を記念に、また関係法令の改正に伴いハンドブックを全
面改訂致しました。本書が、フランチャイズに関係される多くの方に広く活用され、フラ
ンチャイズの健全な発展にお役に立てれば幸甚です。」
この時評をお読みの方は,黄版をお持ちであろうから、内容の招介は最少にしたい。
第1部
フランチャイズ・システム総論
第1章
フランチャイズ・システムの歴史
第2章
フランチャイズの意味
第3章
フランチャイズ・システムの機能と役割
第4章
フランチャイズ・システムと法律
第5章
フランチャイズ・ビジネスの概要
第2部 フランチャイズ・システム関係法
第1章 フランチャイズ・システムの中核となる法令とガイドライン
中小小売商業振興法、施行規則、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
不公正な取引方法、フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方につい
て
第2章 関係法令
第3章 フランチャイジングに関する判例集
第3部 協会関係規範類
第1章 協会定款・規約・規定等
第2章 その他の規範類
日本フランチャイズチェーン協会倫理綱領、
3
フランチャイジー希望者への情報開示と説明等に関する自主基準
(略称・JFA開示自主基準)
フランチャイズ契約の要点と概説
第4部 海外の倫理綱領と規則
第5部 統計資料・年表・参考資料
第1章
統計資料
第2章
フランチャイズ関係年表
第3章
その他参考資料
データベース「ザ・フランチャイズ」、
世界各国・地域のフランチャイズ協会&団体リスト
第6部
フランチャイズ用語集
日本フランチャイズチェーン協会では、平成11(1999)年5月に、より一層の
情報開示を目指して自主開示基準を定めた。その文書を様式例に基づいて作成し、これを
「フランチャイズ自主基準の要点と概説」と題して、協会と経済産業省に自主的に届ける
こととした。
平成14(2002)年4月に中小小売商業振興法施行規則が大幅に改定され、従来の
開示事項の7項目から22項目に変更された。日本のフランチャイズの加盟者保護に関す
る重要な規約が大幅に変更され、開示書面の変更を求められた。
ほぼ時期を同じくして、公正取引員会が「フランチャイズ・システムに関する独占禁止
法上の考え方について」を平成14(2002)年4月24日に公表した。これを一般的
に「フランチャイズ・ガイドライン」と呼んでいる。このガイドラインの中の「本部の加
盟店募集について」では、次のような事項について開示が的確に実施されることが望まし
いとして、8項目の事例を挙げた。その内容は、ほぼ中小小売商業振興法施行規則の開示
事項と同じような内容であった。
そこで、フランチャイズチェーン協会では、施行規則とガイドラインの両方を満たす文
書を平成14(2002)年6月24日に発表した。
これが「フランチャイズ契約の要点と概説」であり、協会の正会員は、決算期毎に提出
が求められることとなり、協会正会員以外にも広く採用されるようになった。
新しい「フランチャイズ・ハンドブック」(黄色判)には、そのような時代背景があり、
たまたま協会30周年と重なり、
「FCビジネス発展のバイブル」として刊行されたのであ
る。
4.新版・フランチャイズ・ハンドブックへの全面改訂
平成24(2012)年は、日本フランチャイズチェーン協会の40周年であり、記念
事業の一環として、フランチャイズ・ハンドブックの全面改訂が企画された。
4
今回は、編集委員を次の3名に定めた。
学習院大学教授
小塚壮一郎
弁護士
高橋 善樹
フランチャイズ研究所
黒川 孝雄
事務局
協会専務理事
木村 知行
協会職員
大久村真澄
また、今回の改訂の大きな特徴は、協会の規範委員会(委員長・白石陽一氏)が関与し、
原稿のチェックや、希望事項、参考資料の挿入等、日常的にハンドブックを利用する立場
の関係者の意見を大幅に採用したことである。これによって、利用者には一段と利用しや
すくなったと思う。
その出版の目的は「序」に次のように記されている。
「フランチャイズ・システムの健全性は、根幹であるフランチャイズ契約に基づくフラン
チャイザーとフランチャイジーの事業者間における関係と役割を両者が十分理解し、相互
信頼を築く努力によって維持されています。
このフランチャイズの正しい理解を得るため、フランチャイズハンドブックが編纂され、
1982年の初版発行以来30年、今般JFA40周年記念の節目に本書{新版
フラン
チャイズハンドブック}を改訂、発刊させていただきました。
フランチャイズ・ビジネスは小売り・外食・サービスという業種において、その事業内
容や展開方法によりシステムが多様化しております。本書は各業種における判例、事例の
中から重要性の高いものを集約して掲載いたしました。
」
新版
フランチャイズハンドブックは2,857円、消費税(5%)合計3千円で販売
された。
5.
「新版・フランチャイズ・ハンドブック」の改訂部分の説明
(1)第1部 フランチャイズ・システム総論
黄色版では、全面的に川越憲治弁護士の「フランチャイズ・システムの法理論」に依っ
ていたが、新版では川越憲治氏、小塚壮一郎氏、小嶋正稔氏、金子秀文氏、川端基夫氏等
の文献を参考にした。
第2章第4節の「フランチャイズ・システムの類型」では、従来「製品・商標型フラン
チャイジング」「ビジネス・フォーマット型フランチャイジング」「コンバージョン型フラ
ンチャイジング」の3種類を上げていたが、更に「ターン・キー型フランチャイジング」
「エ
リア・フランチャイジング」
「マスター・フランチャイジング」の3種類を追加した。
第3章フランチャイズ・システムの機能と役割では、第3節の社会的・経済的な機能に
6
社会インフラとしての機能、社会貢献を新規に追加した。フランチャイズ・システム
の最大の機能として、社会インフラが強く叫ばれる昨今の動きを取り入れたものである。
5
第5章 フランチャイズ・ビジネスの概要については、10年の時間が経過しているため、
全面的に更改して、新しい数値に置き換えた。
第2節
フランチャイズ・ビジネスに関する相談とトラブル解決の章も、実体が変わった
ため、大きく変更した。
1.日本フランチャイズチェーン協会による相談センターの設置は、平成21(2009)
年より、従来の苦情センターを衣替えし、「フランチャイズ相談センター」を設置し、その
相談内容や、受付方法等を明記した。
2.相談の実態として、2010(平成22)年4月から2011(平成23)年3月ま
での相談状況をフランチャイズエイジの記事を基にして数字を挙げて説明した。
4.ADRによるフランチャイズ・トラブルの解決の一文を設けた。
第3節
フランチャイズを巡る事業については、2.フランチャイズ比較サイトを取り上
げた。この10年間で、加盟店募集の方法が、紙媒体から「フランチャイズ比較サイト」
に大きくシフトしていることが大きな要因である。
第4節で、フランチャイズ・ビジネスの国際化を新設した。主としてフランチャイズエイ
ジの記事を基にして、
「海外展開状況に関する質問」のアンケート集計をまとめた。川端基
夫氏の「国際フランチャイジング」を引用して、
「やはり現地でのサブ・フランチャイジン
グを行うことが本来の姿と言える」という文言を参考に述べておいた。
第2部フランチャイズ・システム関係法では、第1章は黄色版を継承した。しかし、第2
章の関係法令(商標法、特許法、不正競争防止法等)はすべてカットした。六法全書を見
れば良いとの判断であった。
新しい第2章はフランチャイジングに関する判例集となった。黄色版と大きく異なる点は、
節で区分し、細分化したことによる使い易さである。
第1節
商標の使用
第2節
ウ・経営指導・研修関係
契約締結
第5節
第3節
金銭の支払い
契約終了後の競業禁止
第6節
第4節
経営ノウハ
契約の終了
第7節
その他 の分節になっており、調べ易くなった。
採用された判例は比較的新しい判例がある。最高裁判決2例、公取委1件は貴重である。
第3部 協会関係規範類は、黄色版と同じ内容であるが、フランチャイズチェーン協会が、
2012年4月1日より、社団法人から一般社団法人に変わったため、協会定款、協会規
約が変更されたので、新しくなっている。
第4部 海外の倫理綱領と規則
第1章倫理綱領は
国際フランチャイズ協会(IFA)倫理綱領、ヨーロッパフランチャ
イズ連盟(EFF)の倫理綱領 には変化はない。
しかし、第2章
規則はなくなり、新しく海外の法律と自主規制が加えられた。今回の新
版の最大の特徴であるので、是非ここは精読して頂きたい。詳細な内容は次の節の区分で
ご理解頂きたい。
第1節 海外のフランチャイズ法
6
1.フランチャイズ法の歴史
2.フランチャイズ法の分類
3.国際機関の動向
(1)ユニドロワ(私法統一国際協会)
(2)その他の国際組織
第2節
先進国のフランチャイズ法
1.アメリカ
(1)連邦法
ⒶFTC規則の位置づけ
ⒷFTC規則の特徴
ⒸFTC規則の内容
(2)州法
Ⓐ背景
Ⓑ開示義務型の法律の内容
Ⓒ関係寄生型の法律
2.フランス
(1)立法に至る経緯
(2)内容
3.オーストラリア
(1)フランチャイズ規則の位置づけ
(2)フランチャイズ規則の内容
第3節
アジア・新興国のフランチャイズ法
1.韓国
2.中国
3.ロシア
4.マレーシア
5.ベトナム
第4節
フランチャイズ協会の活動とフランチャイズ法
1.イギリス
2.オーストラリア
3.フランス
4.アメリカ
第5節
世界各国・地域のフランチャイズ協会団体リスト
これは、黄色版の第5部
第3章の第2節で
世界各国のフランチャイズ協会&団体リ
ストと同じであるが、黄色版は40協会であったのに対し、43 協会に増加している。
第5部 統計資料・年表・参考資料は、黄色版と比較すれば、10 年のデータが増加して
7
いる。また、最後に日本フランチャイズチェーン協会歴代会長一覧が、新しく掲載され
た。
第 6 部 フランチャイズ用語集は拡大を図った。
黄色版が182単語であったが、新版では247単語となり、単純に計算しても65単
語増加している。
用語集は、編集委員と規範委員会が別途に行い、最後に事務局が統合した。赤版の用語
集が、外食向け単語が多かったことを考え、新版ではコンビニエンスストア、サービス
業用語を増やすように努力した。
但し、メガフランチャイザーの如く、必ずしも熟していない用語は、取りあえず除いた。
第6部の最後に参考資料を掲載した。
参考資料1は、川越先生が書かれた(フランチャイズエイジに発表された)次の文章で
ある。
フランチャイズ店の販売価格(エイジ 1997 年 7 月号掲載)
フランチャイジーの団体と労働組合(エイジ 2009 年 11 月号掲載)
参考資料2は、赤版にあって黄色版から削除された、次の重要文章を採用した。この採
用については規範委員会のご意見が貴重であった。
フランチャイズ・システムの経営の近代化(昭和 57 年 7 月 5 日)
フランチャイジーの募集の広告に関する指針(昭和 57 年 5 月 21 日第 10 回通常総会採択)
フランチャイジー募集担当者に関する指針(昭和 57 年 5 月 21 日第 10 回通常総会採択)
「申込金」に関する指針(昭和 57 年 5 月 21 日第 10 回通常総会採択)
参考までに、下 3 つは、筆者は協会の倫理綱領と並ぶ重要な指針と考えている。黄色版
にも採用を提言したが、その決定日時が不明であったため、断念した経緯がある。今回
掲載できたのは、規範委員会の白石委員長のご努力の賜物である。ここで、厚くお礼申
し上る。
6.新版フランチャイズ・ハンドブックの利用方法
編集委員としては、校訂までが責任であり、そこから先の利用方法は、この本を買って
いただいた皆さんにお任せするのが常識であろう。
しかし、私の意見として、次のような利用方法が一番効率的であると考えている。
(1)読本として読んで頂きたいのは、次の部分である。
第1部
フランチャイズ総論
フランチャイズの基礎知識として、是非通読して頂きたい。黄色版と比較して読んで頂
き、この 10 年間のフランチャイズの基礎知識の変化を感じて頂ければ、幸いである。
第 4 部 海外の倫理綱領と規則の第 2 章の第 1 節から、第4節は読み物として、書かれ
ている。小塚壮一郎先生の力作である。
フランチャイズ企業の海外進出が続く時代に、絶対必要な記事であり、是非精読して頂
8
きたい。
第 6 部の参考資料には、是非目を通して頂きたい。協会の諸先輩の苦闘の跡を理解して
もらいたい。
(2)辞書的な利用
第 2 部 「フランチャイズ・システムの中核となる法令とガイドライン」
これは言うまでもなく、今日の日本のフランチャイズ本部を運営するための基素となる
教養であり、しっかりマスターして頂きたい。
その第 2 章の「フランチャイジングに関する判例集」は、高橋善樹弁護士の力作である。
判り易く 7 節に区分されているので、これは読むというより、利用をしていただきたい。
過去の判例は貴重な体験であり、同じ過ちを犯さないためにも、先人の努力を活用して
頂きたい。
第 6 部フランチャイズ用語集は、協会として権威ある定義をしたものであり、不明な用
語は、日常的に辞書としてご利用頂きたい。
(3)フランチャイズチェーン協会の 40 年の生き字引として活用して頂きたい。
日本フランチャイズチェーン協会 40 周年記念として編集・出版されたものであり、先輩
各位の 40 年の知恵とノウハウが凝縮したものである。
更に、海外の倫理綱領と、海外の法律と自主規制も書き加えた。海外進出するフランチ
ャイズ本部にとっては、当面の参考書になるであろう。
日常的に机の上に置いて、利用されることを期待している。
本文の無断引用は禁止致します。
9