文学部英語A 文学部英語A J.ブロットン ブロットン『 ブロットン『ルネサンス』 ルネサンス』 担当/ 担当/竹内 翔 第6章6節:演劇―― 演劇――ルネサンス ――ルネサンスの ルネサンスの終焉 シェイクスピアの シェイクスピアの登場―― 登場――古典世界 ――古典世界からそれぞれの 古典世界からそれぞれの国家 からそれぞれの国家へ 国家へ シェイクスピアの演劇は、このルネサンスの概観の掉尾を飾るにふさわしい。何故なら 彼のキャリアは、古典主義・人文主義的な伝統からの変化を示すものだからだ。南ヨーロ ッパ・地中海世界の影響下から、より地域的なもの、そして国民的な関心物への移行―― そしてそれはルネサンスの終焉を告げるものであった。 その最初期の戯曲においてシェイクスピアはまだ、その古典主義的な伝統からの負債を 色濃く残していた。喜劇「間違いの喜劇」 (1594)、歴史悲劇「タイタス・アンドロニカス」 (1590 前後)はともに、古代ローマ世界からの影響が強い。特に「タイタス・アンドロ ニカス」では「野蛮な」ゴート族が、「文明化した」ローマ世界を圧倒する様が描かれて いる 。 *1 ムーア人 ムーア人のエアロン―― エアロン――イスラム ――イスラム交易 イスラム交易の 交易の魅力と 魅力と不安 これら 2 つの初期の戯曲は、シェイクスピアの古典的な過去からの影響を示すものであ りつつ、同時代のイギリスの、イスラム文化との接触により生じた新たな不安を如実に描 いている。例えば「間違いの喜劇」においては身分の混乱、および金銭的な困難。また「タ イタス・アンドロニカス」では、イギリスが遭遇した異文化への不安と魅力を、「ムーア 人のエアロン」 という登場人物に具現化して描いている。 *2 リチャード 2 世、ヘンリー 5 世――イギリス ――イギリスの イギリスの歴史へ 歴史へ シェイクスピアの歴史的題材への自信は、続く喜劇・史劇において、その関心をより地 域的な、とりわけエリザベス朝における問題へと導いた。彼の「リチャード 2 世」から「ヘ ンリー 5 世」までの一連の史劇においては、より最近のイギリス史における事件へと、軸 足を移している。これらの作品は、チューダー王朝の政治的正統性を正当化したものと見 なされてきたが、同時にエリザベス女王の祖先による一連の血みどろの戦いと、王位の簒 奪とを暴露するものでもある。「リチャード 2 世」にはエリザベス 1 世に対するクーデタ ーの助けとして上演された形跡があり 、「ヘンリー 5 世」はアイルランドとスコットラン *3 *1 そしてこの時点のシェイクスピアは、ルネサンス人として「ローマの価値観」から物 語を描いている、という含意が含まれていると考えられる。 *2 策謀を用いて主人公を陥れようとする、ゴート出身の王妃の愛人。 *31601 年、女王の寵臣・エセックス伯がその反乱の前夜にこれを上演させた。また、女 王はこの作品に登場するリチャード 2 世(家臣に王位を奪われる)に自分が重ねられてい ると不快感を示したという巷説があったという。 -1- ドの困難な情勢への微妙な言及のために検閲を受けている。 ジュリアス・ ジュリアス・シーザー―― シーザー――レトリーク ――レトリークへの レトリークへの探求 への探求 ソネットで表現されたシェイクスピアの言語的な自信は、喜劇作品に反映している。 「十 二夜」における台詞のような、伝統的な人文学のレトリークから外れた手法はしかし、エ リザベス朝のロンドンにおける商業劇場では既に用いられていたものであった。新たに建 設されたグローブ座*1 で上演された「ジュリアス・シーザー」では、王制への議論を巻き 起こしかねない危険なテーマを扱いながらも、その実劇作家の関心は、いかに観客をこの 政治劇に魅き込むレトリークを編むか、という点に注がれていた。現金経済への適合に苦 闘する農村社会の希望と恐れ、女性の地位と家族関係の変化、そして政治的正統性と個人 の魂の救済への関心は、シェイクスピアの劇作人生において周期的に取り上げられるテー マであった。 ハムレットと ハムレットとオセロー―― オセロー――普遍 ――普遍の 普遍の魅力とその 魅力とその同時代性 とその同時代性 「彼は一つの時代に留まらず、全ての時代のために存在した」――これはベン・ジョン ソンが、偉大なるライバル・シェイクスピアの墓碑銘に記した言葉である 。今日、多く *2 の人は、シェイクスピアの生んだ偉大な悲劇の主人公たちが、不朽のキャラクターである ことに異論を挟まないであろう。しかし一方で、ハムレットは複雑で多面的な性格を持つ 近代人の先駆けでありつつも、彼はシェイクスピアの生きた時代に特有の状況によって創 造された、典型的ルネサンス人なのである。同様に、「オセロー」の嫉妬の果ての運命的 な結末は、人々の普遍的な感情を映しているが、同時にオセローの異端者としての側面か ら考えれば、当時キリスト教に改宗したムスリムの存在は、モロッコやオスマン帝国と交 易するイギリス人にとっては、ありふれた存在であったことが指摘出来る。 テンペスト―― テンペスト――ルネサンス ――ルネサンスの ルネサンスの終焉 「テンペスト」はシェイクスピアの劇作人生の、そしてルネサンス研究の最後を飾るに ぴったりである。本作はシェイクスピアの作品中最も古典的な戯曲である。たとえばナポ リの王・アロンゾーがたどる航跡は、ウェルギリウスの「アエネーイス」のそれをなぞっ たものである。しかしこの戯曲は同時に、ヨーロッパの新大陸・アメリカへの植民地進出 と強く結びついている。この戯曲は 2 つの道を見ている。一つは、ルネサンスの思想家や 芸術家に大きな霊感を与えた東地中海と古典的世界。そしてもう一つは、17 世紀後半か ら 18 世紀に啓蒙思想を形作っていく大西洋世界である。もしこの文学、そして知性的、 国際的な展望における変化が、ルネサンスの残滓の終焉を告げるものなら、それは近代文 化と社会に対する理解の定義に、変化を迫るものではないだろうか。 *11598 年建造。シェイクスピアの戯曲が多く初演された。1642 年閉鎖。 *21572 年~ 1637 年。桂冠詩人。 -2-
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