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教職員のスクールカウンセラー活用について
府中町立府中緑ケ丘中学校
教 諭
清 野 由 美 香
平 成 23 年 2 月 24 日
目
次
1 研究主題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2 主題設定の理由
3 研究仮説
4 研究内容
5 実践
6 研究結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
7 研究結果の分析・考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
8 成果と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1 研究主題
教職員のスクールカウンセラー活用について
2 主題設定の理由
生徒理解や保護者対応においては,スクールカウンセラーに指導助言を受けることで,教員の指導力
は高まると考えるが,実際には積極的・自発的に指導助言を受ける教員は少ない。それはなぜなのか。
また,自発的でなくても教員とカウンセラーとの面談を設定したら,教員は教育相談についての理解を
深めようと努力すると考え,本校では教育相談担当者が時間を設定し「面談をしに来てください」と依
頼する形をとっているが,実際にはどのくらい効果があるのか,忌避感情はあるのかどうかなどを調べ
ることで,より実効性のある相談体制を構築し,スクールカウンセラーを有効に活用した教員支援の一
つの方向性を見出したいと考える。
3 研究仮説
自分から積極的・自発的に指導助言を受けていない教員に対して,教育相談担当者がカウンセラーと
の面談を設定したら,教員は教育相談についての理解を深めようと努力し,結果として教員の指導力は
高まるであろう。
4 研究内容
(1)勧めるカウンセリング・勧める面談の実践
(2)教育相談に関する校内研修の実施
(3)教職員対象の意識調査の実施
5 実践
(1)勧めるカウンセリング・勧める面談
今年度は教員に対し積極的に声かけをすることで「勧めるカウンセリング・勧める面談」を多くの
教員に受けてもらうよう働きかけた。また,諸事情で直接相談に来にくい教員に対しては,相談室担
当教員 1 名と教育相談対応の非常勤講師 1 名及び教育相談員 1 名の計 3 名で,スクールカウンセラー
へ情報を提供して細かいアドバイスをいただくなどして担任に伝えるシステムを活用した。
(2)教育相談に関する校内研修
校内研修についてはスクールカウンセラーのアドバイスのもと,事前調査を行い,不登校の類型別
少人数グループにわかれてもらって,同じ悩みを持ち合うもの同士,同じ経験を持つもの同士で意見
交流を進めるという形をとった。実際には,非行・怠学型の不登校について 6 名,優等生息切れ型の
不登校について 7 名,相談室登校型の不登校について 6 名,その他として 7 名の先生方で集まって研
修を行った。
(3)教職員対象の意識調査
平成 22 年 8 月 2 日(月)に教育相談に関する校内研修を持ち,教育相談アンケートを実施した。
調査対象は本校教職員 30 名である。このアンケートでは,スクールカウンセラーと教職員のかかわ
り方について調査することを目的とした。教員はどれくらいスクールカウンセラーとかかわりを持っ
ているのか,相談しようと思った理由やきっかけは何かなどを問うことで,その実態を知るとともに,
本校で『面談を勧める形』をとっていることについて,その是非を問い今後の相談体制の充実にいか
していきたいと考えた。
6 研究結果
(1)勧めるカウンセリング・勧める面談について
1 学期のスクールカウンセラー来校日数 11 日,2 学期の来校日数 13 日のうち,担任や養護教諭
等生徒対応・保護者対応に困っておられると予想される教員に対し 1 学期にのべ 28 件,2 学期はの
べ32 件の面談を設定した。相談室担当者が面談を受けて担任等へ取り次ぐ形が1学期にのべ27 件,
2 学期はのべ 22 件で,あわせて,1 学期のべ 55 件,2 学期のべ 54 件の面談を実施した。これは,
昨年度の 1 学期の実績であるのべ 31 件,2 学期の実績であるのべ 31 件と比較しても非常に多いと
いえる。
(2)教育相談に関する校内研修について
現在,課題を持つ生徒を担任する教員を核にして,似たようなパターンの生徒や保護者と対応し
た経験のある教員が互いにアドバイスしたり経験談を交流しあうことで,より主体的な研修になっ
たように思う。グループ内では,自分が受け持ったことのある不登校生徒及びその保護者について,
それぞれ概要を説明するとともに,自分が行った手立てとその結果について発表し情報交換及び協
議を行った。
(3)教職員対象の意識調査について
調査結果を①属性について②教員とカウンセラーの関わりについて③勧められるカウンセリン
グについての3つの観点から述べる。
①属性について
性別では男性が 20 名,女性が 10 名で,男性が多かった。経験年数による分類では教職経験 10
年未満の教員が 20%で,若手が少ない。また 10 年から 20 年の中堅職員は 23%,20 年以上のベテ
ラン職員が 57%となっている。
②教員とカウンセラーの関わりについて
教職員がどれくらいスクールカウンセラーと関わっているのかを問う質問では,カウンセラーと
何らかの関わりを持ったことのある教員は 20 名(全体の 67%)にのぼった。そのうち生徒対応・
保護者対応についての相談が 17 名で,関わったうちの 71%が生徒や保護者に対応する際の悩みや
相談であった。自ら相談を依頼した先生は,全員が「良いアドバイスがもらえるのではないか」と
いう期待感からスクールカウンセラーを頼っていた。私的な悩みや職場以外の相談がゼロであった
ことからも,教員がスクールカウンセラーに期待しているのは,教員自身の悩みや問題の解決ある
いは職場の悩みや問題への相談などではなく「不登校や問題行動など実際の生徒対応・保護者対応
に関するアドバイス」であるといえる。
勧められて相談に訪れた教員の中には,相談を勧めた担当者に対して「ありがとう」,「気にかけ
てくださってうれしい」と感じたり,面談前に「ゆとりができた」,「しっかりと話を聞いてもらお
う」と前向きに思えた教員もいたが,「まあ,いってみよう。変わるかどうかわからないが」など
半信半疑で面談に臨んでいる教員もいたことがわかった。
また「なぜ自分から相談を持ちかけなかったのか」という質問では,「時間がない」,「時間がと
れない」,「1 時間のあき時間がなくなる」など時間的な余裕のなさを要因とするものが 50%,残り
は「どんな事例で相談するのが適当なのかが,わからなかった」,「考えたことがなかった」など,
スクールカウンセラーをうまく活用するという発想が乏しいことが要因であることがわかった。
スクールカウンセラーと話をしたことがないと回答した 10 名にその理由を複数回答で尋ねると
57%の教員が「相談する時間的余裕がない」と回答した。
「悩みや心配ごとがない」とする教員や
「他に相談できる人がいる」とする教員もいたが,6 割近くの教員が「相談する時間的余裕がない」
と回答しており,相談したいことがあっても時間的余裕のなさから相談することをあきらめている
実態があるといえる。
Q:なぜSCと話したことがないのか
悩みや心配ごとがない・・・7%
他に相談できる人がいる・・・14%
時間的余裕がない・・・57%
その他・・・22%
「何をどう話すのか。」
「何について相談すればいい
のか,わからない。」など
勧められるカウンセリングについて
本校では,教育相談担当者が中心となって積極的に『カウンセリングを勧める』という形をとっ
ているが,『カウンセリング』とは,自発的に行われるのが原則であり,その原則に反している。
このことについて教員全員に是非を問うたところ,条件付き,あるいは仕方ないからなどの消極的
な意見も含めて肯定意見が 90%であった。
そのうち 10%の教員は無条件に「よい」としており,79%の教員は,膠着状態を抜けるための
ひとつの手段として,あるいは少しでも良い方向へ動く可能性を見つけるためには,自発性に頼る
のではなく勧める形もいいのではないかという意見が多かった。コメントには「ひとつのきっかけ
になると思う」,「後押しになってよい」,「新しい変化につながる」,「相談する(してもらえる)相
手がいることを知らない人もいる」
,「スクールカウンセラーを紹介するという点でもいいこと」な
どの回答があった。
また 21%の教員は,肯定の根拠として「時間的余裕のなさ」をあげていた。「無理にでも設定し
てもらわないと時間が取れない」,「日々時間に追われ,ついつい後回しになってしまうから」,「な
かなか相談のための時間を見つける余裕が現実的にないため」,「忙しい中,自らその時間を割って
(相談に)行く人はなかなかいない」など,そのままだと相談しようという気持ちそのものが前に
進まないので声をかけてもらうとありがたいという考えが多く見られた。
そのほか 7%の教員が「受けるかどうかを本人が決定できるのなら」という条件付で『勧める形
のカウンセリング』でも肯定できるとしていた。また「スクールカウンセラーの来校日数や勤務時
③
間の関係もあり仕方ない」という消極的肯定意見,「勧められて,気にかけてもらえているとわか
りうれしく思う気持ちもあるが,やはり自分自身で気軽に相談できる雰囲気がほしい」などの中立
意見,さらに「自分から望んで受けるスタイルのほうが良いのでは」という否定的意見が一人ずつ
あった。
7 研究結果の分析と考察
教員意識調査の結果から,本校では 33%の教員がスクールカウンセラーと関わりを持っていないと
いうことがわかった。スクールカウンセラーの勤務形態や勤務時間の制約など難しいところもあるが,
今後もできるだけスクールカウンセラーと教員をつなぐ取組みを継続すべきであると考える。
ただし「相談したくても時間がない」と回答した教員が 6 割近くに上る実態があること,また『勧
める形のカウンセリング』において「勤務時間等の関係もあり,仕方ない」という消極的肯定意見や
「勧められてうれしく思う気持ちもあるが,やはり自分自身で気軽に相談できる雰囲気がほしい」な
どの中立意見,さらに「自分から望んで受けるスタイルのほうが良いのではないか」という否定的意
見があることも考慮して無理のない範囲にとどめる必要がある。
また,担任への支援という観点では,教育相談の担当者が気になる生徒について綿密な記録をとり,
細かな情報を事前に担任から聞き取ってスクールカウンセラーに伝え,簡単な見立てやアドバイスを
受けて後日担任に伝えるという間接的なコンサルテーションを行うことも有効である。12 月末までに
教員への直接面談 60 件だけにとどまらず,間接相談が 49 件に上ったことは,より多くの生徒・保護
者対応に専門家の視点が加味されたといえるのではないかと思う。
一方,意識調査に参加した教員の経験年数を見ると,若手が極端に少ない反面,ベテラン職員が 57%
にのぼるなど経験年数の構成上大きなゆがみがあることがわかった。このことから,若い教員が同世
代で悩みを相談しあうなどの関係を持ちにくい,あるいは経験年数の少ない教員にとって,同じレベ
ルで悩んでいる人が少なく自分の悩みを相談しにくいなどの実態が予想される。もともと教員は,自
分の悩みを相談したり苦しさを打ち明けたりするのが苦手であるといわれている。これらのことから
も本校が取り組んできた『勧める形のカウンセリング』は効果があると考える。
きっかけはどうであれ,スクールカウンセラーと出会い,さまざまな悩みを打ち明けること,ある
いはこれまでもち得なかった角度から生徒や保護者を見る視点を学ぶことは,教員の教育相談に関す
る理解を深め,各教員の指導力を高めることにつながると思う。
8 成果と課題
『勧める形のカウンセリング』については 90%の教員が理解を示していることから今後もこの形を
継続したい。そのためにも教育相談担当者が,スクールカウンセラーと教職員を結ぶコーディネータ
ーとしての機能を果たすことが重要であるといえる。
そのさい本来のカウンセリングの原則を考慮し,時間的に難しい場合や気が進まない場合は遠慮な
く言えるような雰囲気つくりをする必要がある。また教員側も,スクールカウンセラーに対して「直
接の解決方法を安直に得られる」と期待するのではなく,ともに考えていく姿勢を大切にするととも
に,教員とは違った視点でものをみる見方を学ぶという気持ちで面談に臨むべきであるということも,
継続的に啓発していく必要があると感じる。
いずれにしても,カウンセラーと教職員が自然に話せる雰囲気が大切で,そのための改善策として,
今後は職員室にスクールカウンセラーの机を配置するなどして,スクールカウンセラーが職員室に滞
在する時間を意図的に設定すること,そして積極的にカウンセラーの活用について広報活動をしてい
くこと,さらには,生徒対応や保護者対応についてだけでなく教員自身のカウンセリングも可能であ
ることを継続的に紹介するなどの取組みをしていきたい。