海外視察報告 - 国立病院機構 九州医療センター

独立行政法人
国立病院機構
九州医療センター臨床研究センター便り
平成23年度Vol.4(冬)
Kyushu Medical Center
お知らせ
春のお慶びを申し上げます。九州医療センターの臨
一方、臨床試験では国際共同研究が盛んな今日ですが、
床研究センターが5部15室に拡大しまもなく1年に
昨年12月に台湾まで視察に行ってまいりました。正直なとこ
なります。
この5年間で当院のがん診療はめざましく充実し
ろ、わが国の制度は遅れをとっており、今や一施設あたりの
てきており、がん臨床研究部においても総合的定期的なセミ
スケールもスピードも韓国や台湾が上回っている状況です。
ナー開催など、組織の発展がみられます。
さらにがん領域で
国際化に対応すべく、
よりいっそうの質の向上とスピーディ
高度医療を取り入れた多施設共同研究に参画するなど全
ーな治験の実施をめざして、今年も臨床研究センターおよ
国的な展開が期待されます。
またトランスレーショナル研究
び臨床試験支援室をいっそう発展させたいと考えています。
部では、Endovascular Therapyの充実に呼応して医学工
本年もどうぞよろしく御願い申し上げます。
新
平成24年1月
学連携など新たな技術を積極的に臨床応用する研究の推
臨床研究センター長 岡田 靖
進が期待されます。
Kyushu Medical Center
海外視察報告
フランスに留学して
リール大学神経学教室
(九州医療センター臨床研究センター客員臨床研究員)
ランス語で発表しました。
リール大学にはイタリア、
ドイツ、ベルギーからの留学生
村尾 恵
も多いのでいろいろな国の話を聞くことができます。その中
で驚いたことはみな語学が堪能で留学経験も豊富であると
初
期研修医や若手医師の方々の中には将来留学した
いうことです。
ヨーロッパにはエラスムスというEU圏内の
いと考えておられる方もおられると思います。私も以
大学院への留学制度
前から将来はヨーロッパに留学したいと考えていました。
があり、そのため多く
初期研修医として2年間、脳血管内科のレジデントとして1
の若者が大学生時代
年 半 、九 州 医 療センター に勤 務した後 、計 画 が 実 現し、
に留学を経験してい
2011年10月からフランス政府給費留学制度の奨学金生
るようです。地続きの
としてフランス北部のリールに留学することができました。
国であることも関係し
私がいるのはリール大学病院神経内科の脳卒中研究室
ていると思いますが、
で、脳梗塞発症前の認知機能低下がt-PA療法の予後に与
留学が身近であり羨
える影響を調べる臨床研究をしています。当初はフランス
ましいと思いました。
国内の多施設共同研究の予定でしたが、九州医療センタ
念願が叶いました
ーの先生方にご協力いただき、日仏共同研究にすることが
ので、
これからの1年
できました。
また、11月24日にパリで行われた学会(Société
間で様々な事を経験し、
française Neuro-Vasculaire)では今年7月に日本脳卒中学
実りある留 学 生 活 に
会総会(京都)で発表した「癌と脳卒中」の演題を初めてフ
したいと思っています。
Kyushu Medical Center
TOPICS
関節リウマチの新たな寛解基準
として定義された(図)。一方、日常診療では臨床試験のた
めのBooleanに基づくACR/EULAR寛解定義からCRPを
膠原病内科
省略した①TJC28、SJC28、患者による全般的評価の3項
宮村 知也
目が1以下、活動性評価の指数に基づく定義のSDAI≦3.3
節リウマチ(RA)に対する治療は、生物学的製剤の
として検討した。その結果、追跡1∼2年後のX線所見が安
登場により治療ゴールである寛解へ大多数の患者
定し転帰良好であったのは、両者ともに6ヵ月後の寛解達
からCRPを除外した②CDAI≦2.8をそれぞれ寛解候補案
関
に達成可能となってきた。
しかしながら、従来使用されてい
成例で75%、寛解非達成例では51%となり、陽性尤度比も
た寛解定義は10以上あり、厳格だが到達可能で、
しかも臨
それぞれ2.6と良好な予測妥当性を示した。
こうした成績
床転帰として一律に適用でき広く用いられる寛解の定義は
から、日常診療では①Booleanに基づく定義としてSJC28、
これまでなかった。
こうした背景から、
米国リウマチ学会
(ACR)
TJC28、患者による全般的評価の3項目が1以下、②活動
/欧州リウマチ学会(EULAR)で新たな寛解定義が検討さ
性評価の指数に基づく定義としてCDAI≦2.8の2つの定義
れた。複数の多施設共同介入試験のデータに参加した
がACR/EULAR日常診療における寛解定義として定義さ
354例のRA患者において、①寛解を規定する閾値として
れた(図)。今回定義された寛解の達成率はRA患者の30
圧痛28関節(TJC28)、腫脹28関節(SJC28)、CRP、疼痛、
∼40%程度であり、15∼20%程度で寛解が持続する。
医師による全般的評価、患者による全般的評価の6項目に
SDAIとCDAIは、
ともにほぼ同様の機能的転帰をもたらし、
つ い てそ れ ぞ れ 1 以 下 の 組 み 合 わ せ による7 通りの
SDAIによる寛解達成例では、就労状況の改善により労働
Boolean(真偽値)に基づく定義、②Disease
生産性が向上することも確認されている。
Activity
Score(DAS)、Simple Disease Activity Index(SDAI)
の2種類の指数に基づく定義について、6ヵ月後の寛解が、
追跡1∼2年後のX線所見が安定する良好な転帰を予測す
るかを検討した。
まずBooleanに基づく定義では、TJC28、
SJC28、CRP、患者による全般的評価の4項目がそれぞれ
図
ACR/EULARの新しい寛解の定義
Felson et al,Arthritis Rheum.2011;63(3):573-586
Felson et al,Ann Rheum Dis.2011;70:404-413
1以下を寛解とした場合に、2年目のX線所見の転帰が良
好であった頻度は寛解達成例77%、寛解非達成例51%、
●臨床試験における寛解
●日常診療における寛解
陽性尤度比2.9と良好な予測妥当性を示した。一方、活動
✓ Booleanによる定義
SJC、TJC、PtGA、CRP1)が
すべて≦1
✓ Booleanによる定義
SJC、TJC、PtGAがすべて≦1
✓ 疾患活動性指標による定義
SDAI2)≦3.3
✓ 疾患活動性指標による定義
CDAI3)≦2.8
性評価の指数に基づく定義では、陽性尤度比はDAS28<
2.6の1.0、DAS28<2.0の1.6に比べてSDAI≦3.3では
3.0と優れ、寛解達成例で転帰良好である頻度が有意に高
かった。
こうした成績を受け、①TJC28、SJC28、CRP、患
者による全般的評価の4項目が1以下、②SDAI≦3.3の2
1)CRP(mg/dL)
2)SDAI=SJC+TJC+EGA+PtGA+CRP(mg/dL)
3)CDAI=SJC+TJC+EGA+PtGA
通りの定義がACR/EULARの臨床試験における寛解定義
臨床研究報告 優秀学術賞(平成22年度)
Kyushu Medical Center
仮面高血圧の実態と推移に関する検討
2.
「方 法」
高血圧内科
土橋 卓也・大田 祐子・清原 嘉奈子
1.
「背景と目的」
診
1)当院高血圧外来患者のうち、定期的に家庭血圧を測
定し、記録を持参している者333名(平均年齢67歳)を対
象とした。2機会の診察室血圧と受診前3日間の起床後家
庭血圧を評価し、診察室血圧140/90mmHg未満かつ家
察室血圧は管理良好でも家庭血圧が管理不良ない
庭血圧135/85mmHg以上で定義される仮面高血圧につ
わゆる仮面高血圧が脳卒中など心血管リスクとなる
いて、その頻度と背景要因、投与降圧薬との関係について
ことが報告されており、家庭血圧管理の重要性が強調され
検討した。
ている。
そこで本研究では降圧治療中の仮面高血圧の頻度
2)
さらに継続して経過観察が可能であった262名(平
と特徴、
さらにその推移について調査を行い、仮面高血圧を
均年齢68歳)
を対象として1年後の診察室血圧、家庭血圧
呈しやすい高リスク群の検出と治療戦略について検討した。
を評価し、仮面高血圧の転帰について検討を行った。
3.
「結 果」
4.
「考 察」
1)対 象 者 の 診 察 室 血 圧 の 平 均 は 1 3 3 ± 1 2 / 7 3 ±
仮面(早朝)高血圧になりやすい病態として、高齢、慢性
10mmHgで平均2.1剤の降圧薬を服用していた。収縮期
腎臓病、糖尿病、脳卒中後、睡眠時無呼吸症候群の合併な
血圧140mmHg未満の達成率は73.0%で、家庭血圧も
どが挙げられる。
また食塩の過剰摂取、習慣的飲酒、持続
1 3 5 m m H g 未 満の 管 理 良 好 群 は 4 5 . 7 % 、家 庭 血 圧 は
時間の不十分な降圧薬の投与も仮面高血圧の要因となり
135mmHg以上を示した仮面高血圧は27.3%であった
(図
うるが、本研究でも夜間の投薬追加や利尿薬の追加により
1)。拡張期血圧も含め、診察室血圧が140/90mmHg未満
仮面高血圧の改善を認めた例が多かったこと、持続的に
かつ家庭血圧が135/85mmHg未満の管理良好者は37.3
仮面高血圧を呈した例では飲酒習慣のある男性が多かっ
%であったのに対し、両者ともに基準値を超えた管理不良
たことより、不十分な降圧治療および生活習慣の問題が仮
群は17.1%、
診察室血圧のみ高い白衣高血圧群は12.3%、
面高血圧の主たる要因と考えられた。
そして家庭血圧のみ高い仮面高血圧群は33.3%であった。
仮面高血圧群は管理良好群と比較して、年齢、性、BMIに
5.
「結 論」
差異を認めなかったが、使用降圧薬は平均2.3剤と管理良
家庭血圧測定により仮面高血圧の検出に努めるとともに、
好群の1.9剤より有意に多かったことから、積極的な降圧
積極的な降圧薬の併用療法および投与法の工夫、
さらに
薬の併用療法を行っているにも関わらず家庭血圧の管理
減塩や飲酒制限指導の強化により診察室、家庭血圧両者
が不十分である実態が明らかとなった。
が良好に管理されることを目指すことが重要と考えられた。
2)
1)の対象者のうち、継続して経過観察が可能であっ
た262名について1年後の管理状況を調査したところ、
家庭収縮期血圧
(mmHg)
仮面高血圧
27.3%
管理不良
14.1%
管理良好
45.7%
白衣高血圧
12.9%
2008年に管理不良群であった47名のうち16名(34.0%)
は2009年には管理良好群へ、4名(8.5%)は白衣高血圧
群へ、
16名
(34.0%)
は仮面高血圧群へと移行し、
11名
(23.5
%)が管理不良群にとどまった。一方、2008年に仮面高血
圧を呈した79名については26名(32.9%)が家庭血圧の
改善により管理良好群へと移行したものの49名(62.0%)
は依然として仮面高血圧にとどまっていた。管理良好群へ
と移行したものでは、夜の服薬の追加や利尿薬の追加など
が要因として挙げられ、一方仮面高血圧にとどまった者は
男性が多く、59.2%が習慣的飲酒者であった。
降圧薬服用者333名
診察室収縮期血圧
(mmHg)
図1 随時血圧と家庭血圧の関係 − 収縮期血圧
Kyushu Medical Center
CPC
胸膜・腹膜播種を呈した原発不明癌の1例
14年前、右腋窩リンパ節転移;
リンパ節廓清、放射線、
ホルモン療法後
5年前、左乳癌(浸潤性乳管癌、硬癌)、
乳房切除術後
消化器内科
黒川 美穂・福嶋 伸良
現病歴
病 理
中山 吉福
85歳 女性
主 訴
食思不振、腹部膨満、食物のつかえ感
生活歴
喫煙 10 本/日×50年、飲酒なし、
アレルギーなし
家族歴
兄:肺癌、妹:胃癌
既往歴
30年前、子宮内膜癌、子宮および
両側附属器摘出術後
19年前、右乳癌(浸潤性小葉癌)、
乳房切除、
リンパ節廓清術、
化学療法後
20XX年2月、食思不振、腹部膨満、食物のつかえ感が出
現し、近医を受診したところ、炎症所見および左胸水貯留
を指摘され、精査のため、3月に消化器内科入院となった。
入院時現症
身長:153.3cm、 体重 73.2kg、 体温 36.8℃、 血圧
148/78mmHg、脈拍 78/分。
球結膜 黄染なし、瞼結膜 軽度貧血、瞳孔3mm、左右差な
し、咽頭発赤(+)、頚部リンパ節腫大なし。
胸部:呼吸音 左下肺野の呼吸音減弱、雑音なし。心音 雑
音なし。両側胸部に手術瘢痕あり、腋窩リンパ節腫脹なし。
腹部:平坦・軟、圧痛なし、腸蠕動音正常、肝脾腫大なし。下
腹部正中に手術痕あり。四肢:圧痕浮腫 (右上肢++、両側
下肢++)。右大腿部・両側膝関節に手術痕あり。神経学的
所見:異常なし。
検査所見
生化学: TP 6.4g/dl,Alb 2.7g/dl,T-Bil 0.5mg/dl,
AST 13IU/L, ALT 13IU/L,γ-GTP 83IU/L, LDH
158IU/L,BUN 17mg/dl Cr 1.4mg/dl,Na 134mEq/L,
K 4.7mEq/L,Cl 96mEq/L,Glu 93mg/dl.
血算: WBC 7800/μl, Neut 82.7%, Hb 10.0g/dl,
Ht 29.4%,Plt 267×105/μl.
凝固: PT 83sec, PT-INR 1.12, APTT 35.7sec,
CRP 10.85mg/dl.
腫瘍マーカー: CEA 2.3ng/ml, CA19-9 2.0IU/ml,
CA125 109U/ml,CA15-3 40U/ml,AFP3.6 ng/ml,
SCC 1.2ng/ml, CYFRA 6.1ng/ml, NSE 3.3ng/ml,
NCCST439 3.0U/ml.
胸部Xp: 左胸水貯留.
腹部超音波検査: 左腎盂・腎杯軽度拡張。
胸腔試験穿刺: TP 3.5 g/dl、LDH 98I U/l、淡黄色、混濁
(-)、比重 1.025、
フィブリン(-)、
リバルタ反応(+)、胸水培養
陰性、胸水細胞診Class II。
胃粘膜組織診:Group 1、大腸粘膜組織診: Group 1、尿
細胞診:Class II、好中球(+++)、細菌(+++)。
入院後経過
入院後、CT検査にて胸腹膜播種転移を指摘され、原発
巣について精査中であった。入院8日後、38度の発熱があ
り、両側腎後性腎不全、尿路感染症合併を指摘された。胸
水貯留は増加し、同日午前0時頃、意識レベル低下、泡沫
様喀痰あり。誤嚥性肺炎、敗血症性ショックにより、同日午
後永眠された。
左 図:胸部レントゲン写真、左胸水貯留を認める。
中央図:腹部CTでは、胃腸周囲のシート状軟部陰影がみ
られ、腹膜播種転移を示唆する。
右 図:胃内視鏡所見では、結節状、瀰漫性雛襞肥厚を
示し、スキルス胃癌との鑑別を要す。
臨床診断
1.原発不明癌の腹膜播種
2.滲出性胸水貯留
3.腎後性腎不全
4.尿路感染症
5.誤嚥性肺炎
厚し、大網前面に多数の播種性転移が認められた。腫瘍細
胞の浸潤は、腸間膜や後腹膜腔にもみられ、大腸、小腸、膵
臓、
尿管、
膀胱、
直腸が一塊となり、
剥離困難な状態であった。
尿管は、後腹膜膀胱近傍で腫瘍細胞の浸潤のため狭窄し、
腎盂(左155g、右195g)は拡張し、膿尿が貯留していた。
組織学的に腫瘍細胞は、小型均一、線状形態、個細胞性
浸潤様式を示し、免疫組織化学染色では、ホルモンレセプ
ター(ER、 PgR)はいずれも陽性で、E-cadherin陰性であ
った。
これらの所見は、浸潤性小葉癌の再発として矛盾し
ない。顕微鏡学的に、肺門リンパ節、胸腹部大動脈周囲リン
パ節、胸膜、両側肺、心嚢、心外膜、心臓、腹膜、大網、胃、大
腸、小腸、直腸、腸間膜、胆嚢、膵臓、後腹膜、左副腎、尿管、
膀胱、骨髄など、ほぼ全身臓器への転移を確認した。
病理組織所見
左 図:胃壁は著明に肥厚し、腫瘍細胞のびまん性浸潤
が示唆される
(胃割面、マクロ)
中央図:腫瘍細胞は、小型均一で、線状形態ないし個細胞
性浸潤を示す(胃、HE)
右 図:腫瘍細胞は、E-cadherin陰性である
(胃底腺組
織はE-cadherin陽性)
(胃、免疫染色)
剖検診断
1.浸潤性小葉癌、再発[右乳房切除およびリンパ節廓清
術、化学療法後(19年前)]
[右腋窩リンパ節転移、
リンパ節廓清、放射線、ホルモ
ン療法後(14年前)]
[左乳癌術後(5年前)] 転移増殖:リンパ節(肺門、胸腹部大動脈周囲)、胸膜、
両側肺(左350g、右645g)、心嚢、心外膜、心(470g)、
腹膜、大網、胃、大腸、小腸、直腸、腸間膜、胆嚢、膵臓、
後腹膜、左副腎 (20g)、尿管、膀胱、骨髄.
2.子宮内膜癌、子宮および両側附属器摘出術後(30年前)
3.胸腹水(左胸腔1200ml、右胸腔500ml、腹腔400ml)
4.膿腎症(左155g、右195g)、#1による
5.左心室肥大(470g、左室厚25mm)
6.粥状動脈硬化症、大動脈
備考:開頭なし
死因:呼吸不全(腫瘍死)
剖検総括
剖検所見
死後10.5時間で剖検。開胸すると、胸水(左1200ml、右
500ml)が貯留し、左肺下葉は縮小(無気肺)
していた。胸
腔内には、大動脈周囲、壁側臓側胸膜、心嚢周囲に広範な
播種性転移(左側優位)がみられた。腫瘍細胞の浸潤は、
肺実質内、心嚢内、心外膜および心筋内(470g)にも及んで
いた。腹腔内には400mlの腹水が貯留し、胃壁は著明に肥
本症例は、すでに癌末期状態で、胸腹膜を中心に、ほぼ
全身臓器(肝、甲状腺を除く)への転移が認められた。転移
様式としては、播種性並びにリンパ行性転移が主体と考え
られる。直接死因は、肺、胸膜の腫瘍細胞浸潤による呼吸
不全(腫瘍死)
と考えられる。臨床経過から、誤嚥性肺炎の
可能性を否定するものではないが、胸膜側から肺実質内へ
のびまん性肺浸潤、
著明なリンパ管侵襲、
肺水腫の状況から、
癌性リンパ管症併発の可能性も否定できない。
剖 検 に お ける乳 癌 の 消 化 管 へ の 転 移 は 、8 . 2 % ∼
16.4%に認められる。WHOによれば、浸潤性小葉癌の頻
度は5%∼15%で、浸潤性乳管癌より発生頻度は低いが、
遠隔転移の頻度は、浸潤性乳管癌とほぼ同様である。浸潤
性小葉癌では、
肺、
肝、
脳実質への転移は少ない一方、
髄膜、
腹膜腔、消化管への転移が多い傾向がある。浸潤性小葉癌
と浸潤性乳管癌(硬癌)およびスキルス胃癌との鑑別では、
E-cadherinやホルモンレセプターを用いた免疫組織化
学染色が有用であった。本症例は、剖検時、初回乳癌手術
後から19年が経過していた。
Kyushu Medical Center
治験ニュース
治験の現状について
ぼ同じ数の温度計を設置し温度の記録を行っている状況に
−国際共同治験とは②−
あります。
また、治験開始までの間に、様々なトレーニング(IWRS
治験 管理 室
矢川 裕子
多
(Interactive Web Response System)
システム、
EDC
(Electronic
Data Capture)
、ICH - GCPなど)
を受け、
その実施記録を
保管する必要があります。治験のスタートに際し、すべての
国間で行われる国際共同治験は、ICH - GCPという
施設の医師、臨床研究コーディネーターを一堂に会し、意見
日米EUにより国際的に統一された新薬承認審査の
の交換やそれらのトレーニングを実施するミーティングが開
基準に従い行われます。併せて、
国際共同治験の結果は様々
催されることもあります(写真1、2)。更に、
トレーニングや報
な国の承認用のデータとして使用されるため、日本を含めそ
告書など基本的に使用される言語は英語であるため、医師、
れぞれの国の規制を満たすことも求められます。
そのため、
臨床研究コーディネーターには英語力も求められます。
国内のみで実施される治験以上の対応を求められることが
これまで紹介してき
あり、国際共同治験を行う医療機関としてはそれらに柔軟に
た以外にも、国際共同
対応できる体制を整える必要があります。
治験の実施に際して
具体的には、
アメリカで申請されるお薬の場合、FDAの審
は 多くの 要 件を満 た
査に必要な医師の英語の履歴書や治験を行う製薬会社と
す必要があります。当
の利害関係を証明するFinancial disclosureなどの作成を
院でも国際共同治験
依頼されることがあります。
また、多くの場合、申請の際に必
を実 施 できる体 制を
要な書類には捺印でなく自筆のサインが必要となるため、治
整え、すでに20件以
験を実施する医師には多くの書類に署名を行ってもらうこと
上の国際共同治験を
になります。治験に関する書類の保管期間についても、通常
実施しています。今後
日本では治験の終了から3年間もしくは承認までと規定され
は日本以外の参加国
ていますが、国際共同治験の場合、全ての国で承認される期
間を想定して治験終了後15年間の保管が求められており
の 規 制 当 局 に よる
ICH - GCPの適合調
十分な書類の保管場所を確保する必要があります。
査を受 ける可 能 性も
治験薬の保管に際しては、毎日の温度管理が必要となり
あるため、更なる体制
ます。治験薬の運搬中から院内での保管時の温度が治験薬
の強化が必要になる
の品質に問題のない範囲であるか、日々確認を行う必要が
と考えられます。
あります。適切な管理のため、現状としては治験薬の数とほ
写真1
ミーティング受付
写真2
ミーティング風景
Kyushu Medical Center
委員会報告
クリティカルパス委員会報告 クリパスのすすめ(第21話)
広がる地域連携クリティカルパス
地
クリティカルパス委員会委員長
療機関で共有するクリティカルパスです。当センターでは平
江崎 幸雄
域連携クリティカルパス
(連携パス)は地域医療連
携を切れ目なく円滑に行うために用いる複数の医
成19年7月より大腿骨頚部骨折連携パス、20年4月から脳
血管障害連携パス
(旧脳卒中連携パス)
を運用し、主に急
性期治療後のリハビリ医療連携に活用してきました。連携医
多数回出席する必要がありましたので、医師会方式連携パ
療機関数も平成23年7月時点で39施設まで増加し、大腿骨
スの福岡市内での共同使用は特に回復期病院の負担軽減
頚部骨折に28施設、脳血管障害に31施設が連携パス使用
につながりました。今回の医師会方式では回復期病院退院
に参加いただいています
(表1)。
後の維持期医療機関との連携パス使用が追加され、維持期
最近、連携パスにも新しい動きがあります。大腿骨頚部骨
医療機関での外来リハビリ、骨粗鬆症の治療などにより骨
折では運用開始以来
3年間当センター独
自の連携パス(浜の
表1 九州医療センター
地域別
連携保険医療機関の名称
早良区
大木整形・リハビリ医院
おがた整形外科医院
福西会南病院(旧川浪リハビリテーション病院)
牟田病院
吉村病院
博愛会病院
松本整形外科医院
溝口外科整形外科病院
今津赤十字病院
早良病院
シーサイド病院
西福岡病院
白十字病院
福岡リハビリテーション病院
福岡和仁会病院
聖峰会マリン病院
南川整形外科病院
村上華林堂病院
友愛病院
新吉塚病院(吉塚林病院より名称変更 H23.9)
貝塚病院
香椎丘リハビリテーション病院
香椎原病院
たたらリハビリテーション病院
原土井病院
八木病院
さくら病院
長尾病院
松永病院
寺沢病院
那珂川病院
原病院
夫婦石病院
糸島医師会病院
井上病院
篠栗病院
誠愛リハビリテーション病院
福岡青洲会病院
宗像水光会総合病院
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
39
28
中央区
成22年7月からは、
当センターを含む福
西 区
岡市内の6急性期病
院と福岡市医師会を
中心に作成した福岡
市医師会方式大腿骨
頚部骨折地域連携パ
博多区
東 区
スを使用しています。
回復期病院では複数
の急性期病院と連携
パスを使用している
城南区
南 区
施設が多く、
これまで
各急性期病院が独自
に作成した複数の違
った連携パスを使用
し各連携パス会議に
平成23年度
r
院外表彰者の
お知らせ
Kyus
hu Med
ic a
e
l C
nt
e
もう1つの新しい動きとして当センターでは急性心筋梗塞
平成23年7月1日現在
町 病 院と共 同 )を使
用してきましたが、平
折の再発の減少が期待されます
(図1)
。
地域医療連携パス 連携保険医療機関一覧
市 外
大腿骨 脳卒中
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
連携パスと5大がん(胃がん・大腸がん・肺がん・乳がん・肝
○
○
がん)の連携パスの運用を開始しました。急性心筋梗塞連
○
携パスは脳血管障害・大腿骨頚部骨折と同様に福岡市医
師会方式を作成、試行を経て12月1日より本格的に運用を
○
○
○
○
○
○
○
○
開始したところです。九州医療センターでは連携パス使用
をひとつの足がかりとして地域医療連携をさらに充実させ
たいと考えています。
患者の流れ:紹介元 → 急性期病院 → 回復期病院 → 維持期医療機関
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維持期
紹介元
C
B
医療機関
A
C
B
入院から退院までの
全情報を記載
回復期
病 院
C
A
を作成
B
入院日から術後13日ま
での情報(左半分)を記載
C
転院日から退院までの
情報(右半分)を記入
回復期病院を退院した日の
翌月までに診療情報を提供
紹介状
A
入院から退院まで
の全情報を記載
B
B
転院先が決定したら送付
または、転院時に持参
入院日から術後13日までの 情報(左半分)が記載されたパス
C
○
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○
○
○
急性期
病 院
○
○
○
○
A
A
ABC表全てに、共通の
医師会報告Noを記入
A
を作成
B
入院日から術後13日まで
の情報(左半分)を記入
C
診療情報提供書(原本)
診療情報提供書(コピー)
医師会
B
B
B
入院から退院まで
の全情報を記載
C
B
福岡市医師会へのFAXは
C
092−852−1510
医療従事者用パスシート
(原本)
医療従事者用パスシート
(コピー)
C
C
医療従事者用パスシート
(原本)
医療従事者用パスシート
(コピー)
図1 大腿骨頚部骨折地域連携パス(医療従事者用)の運用フロー図
31
第15回日本肝臓学会大会(JDDW 2011)福岡 第15回日本肝臓学会大会(JDDW 2011)福岡 第98回日本消化器病学会九州支部例会(長崎)
ポスター優秀演題賞
ポスター優秀演題賞
研修医発表 研修医奨励賞
2011北米放射線学会(RSNA)シカゴ
Certificate of Merit賞
平成23年10月20∼21日
平成23年10月20∼21日
平成23年11月27日∼12月2日
表彰者名 大石 裕樹(薬剤部)他
表彰者名 福嶋 伸良(消化器内科)他 表彰者名 黒川 美穂(消化器内科指導)、他 表彰者名 古谷 清美(放射線科)
平成23年11月18∼19日
学会演題 日本人原発性胆汁性肝硬変の 学会演題 原発性胆汁性肝硬変において抗gp210 学会演題 スキルス胃癌と鑑別を要した
OCT-1遺伝子多型の解析
抗体および抗セントロメア抗体は薬物治
療効果の予測因子となり得るか
昨年は東日本大震災など大変な年でしたが、
コンピューター
「京」が演算速度世界一になり、
なでしこJAPANも女子ワール
ドカップサッカー優勝し、日本人の力を世界に見せることがで
きた年でもありました。今年も素晴らしい成果がきっとあるは
乳癌の腹膜播種症例
学会演題 Thymic masses in uncommon
sites:imaging findings
ずです。
本号では、
フランス、
リールからの村尾 恵先生の留学記
を掲載しています。
フランスで活き活きと研究している姿が目
に浮かびます。若い人には是非世界で活躍して欲しいと思い
ます。新しい年のスタートにあわせ種々の研究もスタートする
と思います。世界一を目指して頑張りましょう。素晴らしい年に
なることを祈念いたします。
(原田)
発 行 責 任 者: 臨床研究センター長 岡田 靖(臨床研究企画運営部長併任)
医療管理企画運営部長
がん臨床研究部長
各研究室室長・副室長: 組織保存・移植
生化学・免疫
研究企画開発
化学療法
放射線治療開発
システム疾患生命科学推進
医療情報管理
治験管理
独立行政法人
国立病院機構
九州医療センター
才津秀樹
竹尾貞徳
岡村精一 、 宮 原 寿 明
末松栄一 、 山 本 政 弘
中牟田誠 、 久 冨 智 朗
蓮尾泰之 、 内 野 慶 太
松村泰成 、 坂 本 直 孝
佐藤真司 、 小 河 淳
原田直彦 、 占 部 和 敬
岡田 靖 、 石 橋 誠
臨床研究推進部長
トランスレーショナル研究部長
病態生理
動態画像
情報解析
臨床腫瘍病理
先端医療技術応用
医療システムイノベーション
教育研修
〒810-8563 福岡市中央区地行浜1丁目8番1号
矢坂正弘
富田幸裕
中村俊博、一木昌郎
矢坂正弘、安森弘太郎
吉住秀之、吉弘和明
藤井輝彦、桃崎征也
小野原俊博、高見裕子
詠田眞治、瀬戸口秀一
土橋卓也、石原尚美
TEL:092-852-0700(代)
FAX:092-846-8485