Kyushu Medical Center 独立行政法人 国立病院機構 九州医療センター臨床研究センター便り 平成27年度Vol.2(夏) お知らせ Kyushu Medical Center 平 成26年度の臨床研究センター研究業績がまとま りました(論文学会発表数は1800件超)。また治験 実績は国際共同研究、がん治験など新規契約が増え、国立 病院機構(NHO)143病院で第一位となりました。今年は NHO21分野の研究ネットワークグループにおいて、新 たに経営管理部門で当院がリーダー施設に指定され、 DPCビッグデータや医療の効率性などに焦点をあてた 研究の発展が期待されます。より広い分野で臨床研究の 評価が高まっています。また今年度は臨床研究倫理指針 海外視察報告 『国際学会見聞録 バルセロナ編 − European Society of Cardiology:ESC 2014に参加して −』 循環器内科 麻生 明見・中村 俊博 世 界のCardiologistが集結する欧州心臓病学会 (ESC Congress 2014)がスペインのバルセロナで開催 された (2014年8月30日∼9月3日) 。 この国際学会は毎年 約3万人以上の参加者が集う循環器領域の最重要学会の一 つであり、 臨床・基礎研究、 終了したばかりの臨床試験の結 果発表、 最新テクノロジーが紹介される場でもある。 今回我々は(循環器内科・不整脈グループ)、ここ数年の 研究テーマである 『心房細動アブレーションにおける無症 候性脳塞栓症の発生に関する検討 -周術期抗凝固療法とし て適切なのはワルファリンか? 新規抗凝固薬か?-』 の演題 を携えて本学会に参加した。現在、心房細動に対するカテ ーテルアブレーションの合併症として無症候性脳塞栓症 が比較的高頻度に発生し、 その予防の重要性が指摘されて いる。 我々はこれまでワルファリンによる周術期の継続的 抗凝固療法がこの発症頻度を低減することを報告し、 今回 はさらに新規経口抗凝固薬(NOAC)使用下における脳塞 栓症と出血性合併症の発生について検討した。発表の場 は “Rapid Fire Abstract Session” という、 その名の通りプ レゼンテーションは簡潔明瞭適切に、矢継ぎ早の質問・回 答で構成されるセッションである。 また、 その舞台 (まさし く舞台である) は巨大な円卓の上にあり、 2人の座長と360 度囲む聴衆からの “Rapid Fire” に晒されるのである (さら に頭上の巨大なスクリーン3面が演者のスライドと蒼白面 を映し出している)。決して動じてはならじ、 「NOACに比 べワルファリンの周術期継続使用は、 心房細動アブレーシ ョン中の血栓塞栓性合併症を減らしかつ出血合併症を増 やさないため、 周術期抗凝固療法としてより有用な治療戦 が発表され、倫理研修として医師全員、他のメディカルス タッフも研究参加者全員がeラーニング(CITIプログラ ム)を研修中です。九州医療の高度総合医療にふさわしい 臨床研究新知見を情報発信できるよう日々精進してまい りたいと存じます。 暑さ厳しきおり、 皆様ご自愛ください。 平成27年7月 臨床研究センター長 岡田 靖 Kyushu Medical Center 略である」と力説し激論を交わしてきた。術前は抗凝固療 法中止下にアブレーションを行うことが多い欧米では、 我々の試みは“Aggressive”である様だ。一方で、有意に脳 塞栓症の発生を抑制し、 かつ出血に対する安全性も示した 日本人の技術力の高さに賞賛を得ることもできた。 最後にバルセロナで闘牛やフラメンコは見ることがで きないことをお知らせしたい。 元々バルセロナはカタルー ニャ君主国(公国)という独立国家であり、独自の文化、言 語を有していた。 現在でもバルセロナ内ではスペイン語と カタルーニャ語が併用・併記されており、これらは全く異 なる言語といっていい。 バルセロナのカタルーニャ人はス ペイン中央政府が度々押しつけてくる無理難題や歴史的 な弾圧に対し抵抗を示し、2014年11月9日には独立をめ ぐる非公式な住民投票が行われた (独立派が8割超、 もちろ ん中央政府は反発)。この様な背景をもつ都市であるバル セロナでは、スペインの文化である闘牛(闘牛場は一つも ない) や本場フラメンコ (観光客対象のみ) を観ることはで きないし、美味しいパエリアも食すことはできないのだ。 我々はこの情報を現地の方から伺い、 一味違ったバルセロ ナを観た気がする。 一方で、 未完作品と言われていたサグラ ダ・ファミリアが、 世界中からの注目と支援により2026年 ガウディ没後100年目に完成予定とされており、 その建築 概念や東西のファサードにキリストの生涯を表現した彫刻 に感銘を受けてきた。 我々は定期的に国際 学会活動を行っている が、 今回の発表環境、 内 容、反応は特に充実し たものであり、またこ の開催の場であるバル セロナの魅力を体感で きたことは有意義な経 験であった。 TOPICS Kyushu Medical Center 消化器内科の最前線 膵癌化学療法の現況と将来 消化器科 有田 好之 日 本では毎年36万人以上が「がん」で亡くなっていま すが、なかでも膵癌は最も予後不良の消化器癌であ り、膵癌罹患数、死亡者数はともに約3万人となり右肩上 がりで増加しています。膵癌は切除例と非切除例を合わ せた5年生存率が未だに5-10%程度にとどまっており、 2013年の人口動態統計によると、膵癌は肝癌を抜いて4 番目に死亡者数の多い癌となりました。膵癌の早期発見 が困難であることから、進行膵癌に対する化学療法の重 要性は高まっています。 切除不能膵癌に対する化学療法は1997年にBurrisら がゲムシタビンと5-FUとの比較試験を報告して以来、し ばらくの間ゲムシタビン単独療法が標準治療でしたが、 その後、上皮成長因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼ 阻害剤であるエルロニチブにゲムシタビンの上乗せ効果 があることが2007年に報告され、膵癌治療にも分子標的 薬が登場しました。さらにフッ化ピリミジン系薬剤であ るS-1が本邦で開発され膵癌化学療法の標準治療のひと つとなり、特に膵癌術後化学療法において、JASPAC-01 試験の結果により、S-1はゲムシタビンにかわって第1選 択薬の地位を確立しつつあります。 オキサリプラチン、イリノテカン、フルオロウラシル、 レボホリナートカルシウム併用療法(FOLFIRINOX療法) は、2010年にフランスから報告され、2013年12月に日本 でも保険適応となった現在最も強力な化学療法(全生存 期間11.1ヶ月、無増悪生存期間6.4ヶ月、奏功率31.6%) ですが、毒性が強いため、比較的若く全身状態良好な症例 に限って行われています。本邦では副作用を考慮してこ のレジメンの一部を減量したmodified FOLFIRINOXを 用いることが多いようです。 最近保険適応となったナブ・パクリタキセルをはじめ、 今後下記のような薬剤が膵癌治療において検討されてい ます。 1)ナブ・パクリタキセル ナブ・パクリタキセルはパクリタキセルにアルブミン を結合させた径130nmのナノ粒子製剤です。パクリタキ セルは水にきわめて溶けにくいため、溶媒としてポリオ キシエチレンヒマシ油と無水エタノールが使用されてい ます。パクリタキセル投与にあたっては溶媒に対する過 敏症のためステロイドや抗ヒスタミン剤の前投与が不可 欠でした。ナブ・パクリタキセルは生理食塩水に懸濁する ことができるため、これらの溶媒に対する抗アレルギー 剤は不要であり、投与時間も短縮できるようになりまし た。さらに腫瘍組織ではリンパ組織が成熟していないた め、血中から漏れ出た高分子のナブ・パクリタキセルが排 除されにくくなるEPR(Enhanced permeation and retention)効果により抗腫瘍効果の増強も期待されてい ます。 ナブ・パクリタキセルとゲムシタビン併用群はゲムシ タビン単独群よりも有意に生存期間を延長させることが 示されています(8.5ヶ月vs 6.7ヶ月)。併用療法群の無増 悪生存期間の中央値は5.5ヶ月で、ゲムシタビン単独療法 群では3.7ヶ月、腫瘍奏効率は、併用療法で23%、ゲムシ タビン単独投与で7%と報告されています。ナブ・パクリ タキセルは本邦でもすでに乳癌、胃癌、非小細胞肺癌で保 険適応となっていましたが、昨年12月に治癒切除不能な 膵癌にも保険適応が承認されました。 当科においても進行膵癌症例に対して適応を充分に検 討した上で、重症感染症等に注意しながらナブ・パクリタ キセルをゲムシタビンと併用で投与しています。保険収 載となって半年に満たないため、実地臨床での長期予後 についてはまだ不明ですが短期間で腫瘍縮小効果がみら れる例を経験しています。 2)MM-398 ナノリポソーム型イリノテカン製剤であるMM-398 は、副作用が減り抗腫瘍効果増強が期待される薬剤です。 ゲムシタビン耐性例に対して、フルオロウラシル、ホリナ ートカルシウム併用療法を対照として海外で第3相試験 (NAPOLI-1試験)が行われ、前者2剤に同薬剤を加えた3 剤併用療法が有効であることが示されています。 3)NC-6004 NC-6004はシスプラチンのミセル製剤であり、シスプ ラチンの腎毒性、神経毒性の軽減が期待されています。一 次治療としてゲムシタビンへの上乗せ効果について第3 相試験が台湾、香港等で開始されています。 4)TH-302 TH-302は、低酸素状態になるとプロドラッグの状態か らブロモイソホスファミドマスタードが生成されること で抗腫瘍効果を発揮する薬剤です。一次治療のゲムシタ ビンへの上乗せ効果について本邦も含めた第3相試験 (MAESTRO試験)が進行中です。 5)ルキソリチニブ ルキソリチニブはJAK1/2阻害剤であり、骨髄線維症の 治療薬として既に使用されています。膵癌の一次治療耐 性例に対してカペシタビンへの上乗せ効果を検証する第 3相試験(JANUS試験)が海外で開始されています。 膵癌の予後は化学療法の進歩により少しずつですが確 実に改善しつつあり、膵癌診療ガイドラインも頻繁に改 訂されています。遠隔転移を有する膵癌患者の生存期間 中央値は、1990年代には4−5ヶ月でしたが、現在は11ヶ 月を超えるようになってきました。今後、新しい薬剤の登 場によりさらなる改善が期待されるところです。 ナブ・パクリタキセル、 ゲムシタビン併用療法 67歳 女性 一次治療 治療前 治療3ヶ月後 CA19-9 17690IU/ml 379IU/ml 臨床研究報告 学術賞(平成25年度) HIV感染症患者に合併する認知機能障害に 関連する因子の解析 A I D S / H I V 総合治療センター 心理療法士 麻理子 【研究の背景、目的】 近年、HIV感染症患者において、治療や生命予後への悪 影響と感染拡大の一因になりうる点から認知機能の低下 が問題となっている。その中でHIVに関連した認知機能 障害(HIV associated neurocognitive disorder:以下 HAND)は、アルツハイマー病等と同様に認知機能検査を 用い、早期(1SDの低下)の多領域(2認知領域以上)低下 が診断基準の一つとなっている。さらに、HANDは除外診 断であるため、抑うつ傾向、物質使用歴等の鑑別診断が必 要となる。そこで本研究は、HIV感染症患者に認知機能検 査を実施し、当院におけるHIV感染症患者の認知機能低 下の要因ならびに抑うつ傾向、物質使用歴、HANDとの関 連を検討し、鑑別診断とそれに基づく診療・心理支援に寄 与することを目的とした。 Kyushu Medical Center 2 .HAND 診 断 基 準( 2 領 域 以 上 1 S D 以 下 の 低 下 )と HAND、抑うつ傾向、物質使用歴との関連 ①HIV感染症が原因と考えられる患者(HAND)の特徴: この患者群の症例数は5名であり、WAIS-Ⅲは4名に実 施、2名がHAND診断基準に該当した。その他の認知機 能検査ではTMTで5名中4名に低下を認め、処理速度や 実 行 機 能 の 障 害 を 示 す こ と が 推 測 さ れ た 。ま た 、 SPECTはアルツハイマー型所見を示し、HIV関連因子 ではCD4数が低く、HIV-RNAが多い傾向であった。 ②抑うつ傾向が原因と考えられる患者の特徴:抑うつ傾 向の有無による分析では、 抑うつ傾向がある群がWAIS −Ⅲにて符号(p<0.02)、類似(p<0.05)、配列(p< 0.05)といった処理速度や推理を要する問題で有意な 低下が認められた。画像所見は一定した結果は得られ ず、 他の分析項目で有意な差は認められなかった。 ③物質使用歴が原因と考えられる患者の特徴:物質使用 歴 の 有 無 に よ る 分 析 で は 、物 質 使 用 歴 が あ る 群 が WAIS−Ⅲにて類似(p<0.02)が保たれ他の下位検査 では有意な差は認められなかった。画像所見では前頭 葉と頭頂葉に血流低下が見られた。物質使用歴がある 患者と喫煙歴(p<0.04)との関連性が認められたが、 他の分析項目では認められなかった。 【方 法】 【結 論】 平成25年10月末までに免疫感染症科を受診し、診療の 一環及び患者の同意に基づいて認知機能検査を実施した 患者175名中、欠損値を除いた168名を対象に、①認知機 能検査:改訂版長谷川式簡易知能評価スケール、ミニメン タルステーツ検査、FAB,トレイルメイキングテスト(以 下TMT)、ウェクスラー式成人知能検査(以下WAIS-Ⅲ) を 実 施 し 、② H I V 関 連 因 子:C D 4 数 、血 漿 H I V - R N A 、 CPEscore③既往歴④生活歴:職歴、喫煙歴、物質使用歴 ⑤抑うつ傾向の把握:うつ性自己評価尺度(以下SDS)、精 神 科 受 診 歴 、面 接 経 過 等 の 検 討 ⑥ 画 像 診 断:S P E C T (eZIS)との関連を分析した。 当院のHIV感染症患者ではWAIS-Ⅲを実施した患者の 68.7%がHANDの診断基準を満たす認知機能低下を示 した。しかしその患者群の認知機能低下は抑うつ傾向と 関連が認められ、認知機能の低下要因がHIV感染のみと 思われる患者は2.4%に留まった。 本研究のWAIS-Ⅲ結果からは抑うつ傾向がある患者 の、画像診断所見ではHAND患者と物質使用歴がある患 者について、一定の傾向が認められた。今後HIV感染症患 者の認知機能低下については、本研究で得られた結果や 臨床経過をもとに多角的に検討する鑑別診断を進める事で 今後の最適な診療及び心理支援が可能になると考える。 【結 果】 本稿では紙面の関係によりWAIS-Ⅲ結果との関連を中 心に述べる。 1.HAND診断基準(2領域以上1SD以下の低下)が認め られた患者の傾向 WAIS-Ⅲを実施した83名中57名(68.7%)にHAND診 断基準が認められたが、これらの患者の認知機能の低下 の有無と関連が認められた項目は、HIV関連因子ではな く、抑うつ傾向の検査であるSDS得点(p<0.05)のみで あった。57名中、抑うつ傾向は26名(45.6%)、物質使用 歴は28名(49.1%)に認められた。 HIVDrug associate CNS-OI side effectd depression Illegal Drug Original intelligence alcohol HAND(HIV-associated neurocognitive disorder) neurocognitive disorder in HIV-positive patients CPC 急速に呼吸不全が進行した 多発血管炎性肉芽腫症の一例 Psychosis Kyushu Medical Center 膠原病内科 合原 由芽・児玉 尚子・ 宮村 知也 病理 桃崎 征也・草野 弘宜 70歳代 女性 臨床診断 #.多発血管炎性肉芽腫症 既往歴 陳旧性肺結核 生活歴 特記事項なし 家族歴 特記事項なし 現病歴 死亡の10か月前に両側滲出性中耳炎に対し、近医加療 された。2ヶ月前に近医耳鼻科で耳漏からMRSAが検出 され、FOM点耳を処方された。1か月前には発熱が出現し たため、前医から当院総合診療科を紹介初診。精査加療目 的に入院した。 入院時現症 【胸部CT】 右肺尖部に浸潤影あり。両肺に結節影が散在。 【 胸 水 一 般 検 査 】色 黄 色 , 混 濁 ( + ) , P H 8 . 0 , 比 重 1.022, 細胞数 6700/μl, 白血球分画 NEUT 86.7%, Ly 10.4%, フィブリン検出 (-), リバルタ反応 (-), 総蛋 白 2.6g/dl, Alb 1.2g/dl, LDH 230IU/l, 血糖 113mg/dl, CA125 950U/ml, CEA 2ng/ml, ADA 11.8 【胸水沈渣】赤血球 (+-), 多核白血球 (3+), リンパ球 (+-), 組織球(+-), 中皮細胞(1+), 異型細胞(-) 【胸水細胞診】判定:ClassⅡ 好中球(++)、リンパ球(±)、中皮細胞(++)、組織球(+∼ ++)。多量の好中球を背景に反応性中皮と組織球を認め る。明らかな異型細胞なし。 【胸水細菌、抗酸菌、遺伝子】 好気・嫌気培養 陰性, TB-PCR 陰性, 蛍光法 陰性, 小川培養(8週) 陰性 【気管支鏡検査】内腔観察:左主気管支から末梢にかけて 血管怒張。易出血性あり。左主気管 TBB:組織への好中球 浸潤あり。右B1 TBLB:軽度線維化と、リンパ球浸潤がわ ずかにあり。洗浄液培養:MRSA 1+、Klebsiella oxytoca・ Corynebacterium 少数, 結核菌培養(8週) :陰性 【胸部CT検査】右肺尖部に浸潤影があり、両肺に結節影が 散在している(Fig. 1)。 身長:146.0cm 体重:45.2kg 血圧:131/76mmHg、心拍数:116回/分、体温:37.7℃, SpO2:95% Room air 【皮膚】 発疹なし、網状皮斑なし 【頭頸部】 眼球結膜充血なし、眼瞼結膜蒼白なし 両側難聴あり、口腔内粘膜疹なし、 頚部リンパ節数個触知、甲状腺腫大なし 【胸部】 呼吸音:左肺胞呼吸音減弱、ラ音なし 心音:Ⅰ→Ⅱ→Ⅲ−Ⅳ−、心雑音なし 【腹部】 平坦・軟、腸蠕動音正常、圧痛なし 【四肢】 両下腿圧痕性浮腫あり、関節:圧痛・腫脹なし 検査所見 【検尿】PH 6.0, 比重 1.015, 潜血(3+), 蛋白(1+), ケト ン体(-) 【尿沈渣】RBC 1-4/HPF, WBC 5-9/HPF 【血算】WBC 16100/μl, (Neut 93.0%, LY5.0%, MONO 1.5%, EOSIN 0.0%, BASO 0.5%), RBC 3.24×106/μl, Hb 9.5g/dl, Ht 30.6%, MCV 91.3fl, MCH 29.0pg, PLT 37.2×105/μl 【生化学】TP 5.7g/dl, Alb 2.1g/dl, T.bil 0.4mg/dl, LDH 276IU/l, AST 36IU/l, ALT 20IU/l, γ-GTP 14IU/l, ALP 197IU/l, CK 22IU/l, AMY 44IU/l, BUN 10mg/dl, Cr 0.52mg/dl, eGFR 21.8ml/min, Na 131mEq/l, K 4.5mEq/l, Cl 95mEq/l, CRP 14.28mg/dl, BNP 541.3pg/ml 【凝固】PT 16.5秒, PT% 72%, PT-INR 1.23, APTT 41.4秒 【感染症】HBsAg判定(-), HBsAb判定(+), HCVAb判定 (-), HTLV-ⅠAb(-), RPR判定(-), TPLA判定(-), HIV1/HIV2Ab(-) 【免疫】CH50 39.2 U/ml, C3 99 mg/dl, C4 22 mg/dl, RF 2 IU/ml, MMP-3 107.8 ng/ml, 抗CCP抗体 <0.5 U/ml, 抗核抗体 ×80 (Homo), 抗ds-DNA抗体 <12.0 U/ml, 抗RNP抗体 25.4 IU/ml, 抗Sm抗体 <5.0 IU/ml, 抗SS-A抗体 <5.0 IU/ml, 抗SS-B抗体 <5.0 IU/ml, 抗 scl-70抗体 54.3 IU/ml, 抗Jo-1抗体 ≦7.0倍, PR3ANCA <1.0 U/ml, MPO-ANCA 26.0 U/ml 【細菌学検査】血液培養 陰性, β-Dグルカン 感度以下, 喀痰培養 MRSA少数, 喀痰TB-PCR 陰性, 尿培養 MRSA, C7-HRP 陰性, マイコプラズマ抗体 <4, C.psittaci抗体 <4, C.Pneumoniae抗体IgG 108(+), C.Pneumoniae抗体IgM0.0(-), アスペルギルス抗原 0.6(+), クリプトコッカス 陰性, カンジダ抗原 2倍, カ ンジダマンナン抗原 0.02未満(-), T-SPOT 陽性 【胸部Xp】 両下肺野にすりガラス陰影、 両側下肺野胸水あり Fig.1 入院後経過 (Fig. 2) 発熱、両側中耳炎があり、血液検査では炎症反応の上昇 と、急速進行性糸球体腎炎の所見を認めた。画像所見では 肺浸潤影と胸膜炎による胸水貯留があり、MPO-ANCA 陽性と併せて多発血管炎性肉芽腫症と診断した。経気管 支鏡的肺生検では肉芽腫性病変・壊死性血管炎の所見は 無く、各種細菌検査にてMRSA、クレブシエラが検出され たこと、血液検査でアスペルギルス抗原が陽性であるこ とから抗菌薬の併用を先行して行ったが、状態の改善は 無く、死亡の6日前からPSL60mg/dayの投与を開始し た。投与開始後、炎症反応は改善し、eGFRも下がり止ま ったが、3日から少量の喀血認め、胸部単純写真で右上肺 野に新規浸潤影が出現した。数日の経過で呼吸状態は急 速に悪化し、血液ガス分析でPCO2の貯留を認めたため、 NIPPVを開始したが、 呼吸状態の改善を認めず永眠された。 病理解剖の目的 肺胞出血疑い、急速進行性糸球体腎炎疑い 解剖所見 死後38時間での解剖となった。肉眼所見として、両肺 の出血(とくに右に強い)、両肺尖部に陳旧性結核を思わ せる病変あり。漏出性を思わせる混濁のない胸水貯留、線 維素性心外膜炎、心肥大、腎・脾萎縮、腸管の菲薄化を認め た。組織学的所見として、右肺上葉にやや時間の経過し た、線維化を伴う出血性梗塞巣を認めた。それ以外にも肺 全体に出血・うっ血水腫が存在し、含気に極めて乏しい状 態であった(Fig. 3)。腎臓には尿細管上皮の壊死を認める ものの半月体形成は見られなかった。典型的な多発血管 性肉芽腫症の組織所見は明確ではなかったが、副腎周囲 の後腹膜部小血管の壁には著しい肥厚が認められ、弾性 板の破壊も伴っており、以前血管炎が存在した可能性が 示唆された。直接死因は肺梗塞・肺出血に伴う呼吸不全。 病理解剖診断 1.肺出血性梗塞(右上葉)、肺出血(両側上葉優位)、肺う っ血水腫、2.線維素性心外膜炎、3.急性尿細管壊死、4. 低蛋白血症、四肢浮腫、5.腔水症(胸水1.4L)、6.諸臓 器うっ血、7.大動脈粥状硬化 経 過 表 SBT/ABPC 6g/day アルプミン製剤 PSL 60mg iv(1mg/kg/day) Cefcapene pivoxil 200mg/day TEIC L-AMB 100mg/day NIPPV P/F 320 128 128 99 pCO2 40.1 50.9 89.7 107.3 20 80 eGFR 60 CRP 40 15 10 5 20 0 CRP(mg/dl) eGFR(ml/min) 100 性肉下腫症と診断した。しかし、臨床症状を通して、壊死 性血管炎は証明されていない。 死亡解剖では副腎周囲に壁肥厚と弾性板破壊のある小 動脈を複数認めており、陳旧性壊死性血管炎の所見と判 断した。呼吸不全の原因は肺梗塞後出血であったが、肺梗 塞を起こした原因として、患者は血栓素因などを有して おらず、血管炎による塞栓症状だった可能性が高い。 ANCA関連血管炎患者における肺胞出血は、血管炎の 臓器病変の中で重症な合併症の一つであり、急速に進行 する呼吸不全を特徴とする。ANCA関連血管炎による肺 胞出血の相対死亡危険度は8.65と非常に高く、救命が困 難な症例が多いため、早期に治療介入が必要な病態であ る。治療としては、ステロイドパルス治療やシクロフォス ファミド大量療法、血漿交換などが挙げられる。本症例で は既にステロイド治療が開始された後の肺梗塞後出血を 呈しており、感染症合併例であることから追加の免疫抑 制剤投与を行うことができず、救命しえなかった一例で あった。 0 24日 月26日 月28日 月30日 6 6月 6 6 2日 7月 4日 7月 6日 7月 8日 10日 月12日 月14日 月16日 月18日 月20日 7月 7 7 7 7 7 7月 Fig.2 考 察 多発血管炎性肉下腫症は、副鼻腔炎や眼底腫瘤、中耳炎 の上気道症状から始まり、肺の結節様の病変など肉下腫 性炎症を伴う血管炎を呈する。進行すると腎にも障害が 及び、急速進行性糸球体腎炎となる。ANCA関連血管炎に おいて、多発血管炎性肉芽腫症は本邦では比較的少なく、 現在1500人程度の患者が厚生労働省特定疾患調査に登 録されている。 本症例は、発熱・体重減少、炎症所見の上昇があり、 MPO-ANCA上昇と併せて原発性血管炎の所見と判断し た。画像上肺浸潤影と、腎機能の経時的な低下、蛋白尿・血 尿の所見があり、Wattsのアルゴリズムから多発血管炎 委員会報告 Fig.3 Kyushu Medical Center 医療安全管理委員会報告 医療安全管理委員会 委員長 冷牟田 浩司 ゼ ネ ラルセ ー フ ティマ ネー ジャ ー 南利 朱美 医 療安全管理委員会は、当院の医療安全管理を推進 し、安全かつ適切な医療の提供を行うため、医療安 全管理規定に基づき設置されています。毎月第三週月曜 日に定例の医療安全管理委員会を開催し、インシデント 警鐘事例及び医療事故の分析評価を行い、審議された結 果や対策を院内職員に周知徹底し、医療安全の強化充実 を図っています。更に重大事例についてはその都度臨時 医療安全管理委員会で検証し、事実確認を行うことで、現 場での対応(患者家族・職員)が円滑に安全に実施できる よう、病院全体としての方針を決定しています。また、毎 週水曜日には医療安全カンファレンスを行い、タイム リーな報告と現場での問題点の確認と対策の検討を行っ ています。 H26年度の委員会としては、医療安全確保のための業 務改善計画のKey Wordを「記録について」と挙げ、各部 門で現状と課題を明確にして、改善計画と立案し実践を 行ってきました。更に、ここ数年を振り返ってみても「個 人情報の取扱い」 「針刺し・皮膚粘膜暴露」 「患者・家族から の強い苦情」などへの対応強化が求められたといえます。 個人情報の取扱いについては、医療現場では電子カルテ などの活用もでき、個人情報に関する部分でも診療に関 する部分で必要な内容であれば情報を得ることができ、 取り扱いには十分注意する必要があります。次に針刺し・ 皮膚粘膜暴露による職業感染事例は、注射針などの安全 機能付きのものの導入により針刺しのリスクは減ってき ていますが、発生件数として減少につながっていないこ とや新人だけでなく熟練者による針刺しも起こっている ことも課題といえます。これらのことは職員研修を通し て、知識・技術の向上につなげていっています。次に患者・ 家族からの強い苦情についてですが、私達職員の対応で 不快な思いをなされることもありますので、ご意見とし て真摯に受け止め対応していくことを先ず努力してゆき ますが、時に理不尽な対応を求められることもあります。 その場合は暴言暴力対応として職員一人だけでなく、病 院あげてチームとして対応を行っていくことが重要と考 えています。当院ではH26年度から患者・家族と医療者の 橋渡しとして医療メディエーター が導入されました。医療安全管理部 門としては、患者の皆様の安全を確 保することは必須でありますが、病 院の職員においても安全が確保で きるよう取り組んでいきたいと考 えています。 臨床試験支援センター 監査・GCP実地調査等での当院への指摘事項 臨床試験支援センター 若狭 健太郎 当 院における治験の品質向上を目指し、今回は治験 での監査・GCP実地調査等での当院への指摘事項 の一部をとりあげて紹介させていただきます。 ① 被験者の同意・選定に関する事例 ② 記録の保存に関する事例 ③ 症例報告書に関する事例 について、以下詳しく見ていきます。 ① 被験者の同意・選定に関する事例 同意にあたっては、GCP第50条のガイダンスにおい て、被験者に説明文書を用いて十分に説明し、治験に参加 するか否かを判断するのに十分な時間を与えることが規 定されています。今回、治験の説明日と同意取得日が同日 であった症例について、同意取得の時間等を原資料に記 載し第三者が見ても分かるようにした方が良いとの指摘 がありました。その他、治験に係る投与前検査とウォッシ ュアウトについては、何れも「同意後」に実施する必要が ありますので、 「同意前」の投与前検査とウォッシュアウ トには注意していただきたいと思います。同意は治験の 倫理的根幹を成す事項ですので、治験の実施に当たり特 に注意が必要となります。 平成26年度 院外表彰者の お知らせ e r Kyush u Med ica l C t en Kyushu Medical Center ② 記録の保存に関する事例 PS、臨床検査・ECG等の結果の評価等の医学的判断を 伴うものは、遅滞なく記録が残されていることが求めら れますが、判断を行なった治験責任医師等の記録及び署 名・日付がないとの指摘がありました。記録が保存されて いない場合は、得られた試験成績の信頼性が担保されず、 被験者のデータが承認申請資料から削除される可能性が あります。 ③ 症例報告書に関する事例 有害事象(AE)の発生で安全性を考慮し休薬された症 例に対し、該当するAEが症例報告書に記載されていない との指摘がありました。また、EDCを利用した症例報告 書の作成など効率的な医薬品開発が進められています が、不適切な運用により結果的に大きな問題となる恐れ が潜んでいます。IDやパスワードの管理の徹底、安易な代 替行為の禁止等にご留意ください。 今回、治験での指摘事項について紹介させていただき ましたが、先般改正された倫理指針においても臨床研究 の信頼性を確保する観点からモニタリング・監査に関す る規定が新設され、モニタリング・監査への対応が求めら れるようになりました。モニタリング・監査が必要となる 臨床研究については、今回の指摘事項を参考としてモニ タリング計画書の作成、計画に基づいたモニタリングの 実施をご検討いただければと思います。 TCTAP2015(アジア太平洋経カテーテル心臓血管治療学会議) 日本口腔科学会 平成27年4月28日∼5月1日 in Seoul, Korea 平成27年5月14日 表彰者名 江島 恵美子 先生(循環器内科) 表彰者名 永井 清志 先生(歯科口腔外科・客員研究員) 演 題 C型慢性肝炎の3剤併用インターフェロン療法における Best Case Award 演 題 『Acute Coronary Syndrome Caused by Spontaneous Coronary Artery Dissection in a 32 Year-Old Pregnant Woman』 平成27年度日本口腔科学会学会賞優秀論文賞 口腔症状の評価 並びに九州大学大学院 歯学府 歯学専攻 博士(歯学)取得 平成27年3月25日授与 第308回日本内科学会九州地方会 第4回臨床高血圧フォーラム 初期研修医奨励賞 女 性研究者奨励賞 第48回日本痛風・ 核酸代謝学会総会 一般社団法人 日本放射線科専門医会・医会(JCR) 学会の 平成27年度優秀論文賞 「第29回ミッドウィンターセミナー」 平成27年5月23日 2016年 e 平成27年2月19日 nt Ce r お知らせ 表彰者名 井上 美奈子 先生(高血圧内科・客員研究員) 演 題 「妊婦における食塩摂取量の実態と適正な減塩目標の 達成に関する検討−第 4 報−」 麻生先生に海外視察報告をしていただきました。文化も 素晴らしいバルセロナですが、強いサッカーチームがある ことでも知られています。 FCバルセロナです。 かつてはクラ l 1月23日(土)、24日(日) (名本) 路花(九州医療センター 乳腺センター副センター長・放射線科医長) 世話人 松林 表彰者名 井上 (榊)美奈子 先生(高血圧内科) 玉川 光春(札幌医科大学) 、平田 秀紀(九州大学) Kyush u Med ica 会 場 福岡国際会議場 演 題 降圧薬服用者における尿酸管理の現状 セミナー案内URL:http://www.jcr.or.jp/semina/semina_fuyu.html イフ、 マラドーナ、 今はメッシ、 ネイマールなどの当代最高の プレーヤーが所属するクラブです。洗練されたパスサッ カーを披露し2014-2015シーズンのヨーロッパチャンピオ ンズリーグで優勝しました。美しい文化を有する町のサッ カーが美しいのは偶然ではないと思います。 (原田) 発 行 責 任 者: 臨床研究センター長 岡田 靖 (臨床研究企画運営部長併任) 医療管理企画運営部長 がん臨床研究部長 各研究室室長・副室長: 組織保存移植 生化学免疫病理 研究企画開発 化学療法 放射線治療開発 システム疾患生命科学推進 医療情報管理 臨床試験支援センター 独立行政法人 国立病院機構 九州医療センター 才津秀樹 楠本哲也 岡村精一 、 江 崎 幸 雄 山本政弘 、 冨 永 光 裕 中牟田誠 、 久 冨 智 朗 蓮尾泰之 、 内 野 慶 太 松村泰成 、 坂 本 直 孝 佐藤真司 、 小 河 淳 原田直彦 、 占 部 和 敬 岡田 靖 、 佐 藤 栄 梨 臨床研究推進部長 トランスレーショナル研究部長 病態生理 動態画像 情報解析 臨床腫瘍病理 先端医療技術応用 医療システムイノベーション 教育研修 〒810-8563 福岡市中央区地行浜1丁目8番1号 矢坂正弘 富田幸裕 中 村 俊 博 、 一 木 昌 郎 、 村里 嘉 信 黒岩俊郎、桑城貴弘 吉住秀之、大城英作 桃崎征也、中川志乃 小野原俊博、高見裕子 詠 田 眞 治 、 甲 斐 哲 也 、 津本 智 幸 末松栄一、山田展代 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