第 11 章 建設・住宅 1.建設 (1) 建設市場環境 ① 建設投資 高水準の、高速道路整備など大型基礎施設(インフラ)投資、輸出の増加や国内市 場拡大を受けた、工場等への新規設備投資の増加、そして販売好調の続く、過熱気 味の住宅開発投資を背景に、2003 年度の固定資産投資は、5 兆 5 億元(対前年比 26.7%増)と、2002 年度の対前年比 16.9%増より更に加速、拡大した。2004 年度に ついては、不動産バブルとインフレ懸念から、昨年半ばより、人民銀行・中央政 府が、不動産貸付業務の管理強化、預金準備率の引き上げや原材料工業の投資管 理、建設国債の減額等、投資抑制の姿勢を強めているのと、又外国からの投資も足 元減速していることから、相当減速するという見方がある一方、中国経済は既に投 資主導型の高度成長期に入っており、都市化や大量消費社会化が進む為、この勢い は更に続くという見方がある。経済学的には、投資主導型の景気拡大は、中期の サイクルを持つとされており、政策的な引き締めがあっても、現在のモメンタム に若干のブレーキが掛かるに止まり、引き続き高水準の投資(20%∼15%を予測) が続くものと思われる。 固定資産投資の約 60%を占める建設投資は、現時点最終数字が公表されてない が、基本建設、不動産開発投資がそれぞれ対前年比 28.7%、29.7%と伸びているこ とから、同程度の拡大があったものと推測できる。 以上述べたような大幅に増加した投資活動を受け、建設業も更に業容拡大が続 いている。 2003 年度の建築業総施工高は、2 兆 1,865 億元で対前年比 23%増、完成工事高高 は、1 兆 4,988 億元で対前年比 9.2%増、総施工面積は、26.4 億㎡で対前年比 22,2% 増と大幅な伸びを見せた。利益面でも、総請負・専門請負の建設業者の利益は、 対前年比 23.8%の、459 億元に達している。 今年度も、足元インフレ懸念や不動産バブルの傾向を抱えながらも、建設投資 は、引き続き高水準で推移しよう。 ● 大型インフラ投資(重点工事)の進捗情況は、以下の通り。(統計局統計公報) 西電東送 広東への送電能力 500 万キロワット 西気東輸 パイプライン敷設 48%完成 南水北調 東ライン、中央ラインで 4 つの工事開始。淮河治水プロジェク ト 49%完成 156 東銭完工、華東地区へ供給開始。 長江三峡ダム 昨年 6 月湛水、航路確保、発電開始の、それぞれ目標達成(水 位標高 135m迄、最終は 2009 年) 北京オリンピック 今年始めより、オリンピック公園の陸上競技場基礎工事開 始(2006 年末完成予定) ② 建設資機材 投資活動の急激な増加は、建設資機材への需要を高め、値上がりの傾向が強ま っている。 鋼材 2 億 4 千万トン 対前年比 25.3%増 セメント 8.6 億トン 対前年比 18.9%増 木材 4,950 万立米 対前年比 11.6%増 2004 年 1 月の鋼材価格は、前月比+4.1%、対前年同月比 30.4%の上昇、又建設 資材価格(1 月)は、前月比+0.3%、対前年同月比 4.9%の上昇、その中、セメント は、前月比+0.1%、対前年同月比 11.4%の上昇と、2002 年まで比較的安定を続け ていた建設資材価格にもインフレの波が押し寄せつつある。 ○ 所謂農民工(出稼ぎ労働者)の給与未払い問題 昨年の 10 月 24 日温家宝首相が、重慶三峡地区の農村の視察に訪れた際、熊徳 明という女性(この件で一躍全国的に有名になった)が、出稼ぎに出ている旦那 の給料が貰えないで困っていると直訴した。早速温家宝首相一行は、県長にきち んと処理するよう指示したところ、その夜未払い金 2240 元を受け取ることが出来 たという話である。(人民日報 2003 年 10 月 27 日)それを受ける形で、中央より 各部門、各地区に対し未払い問題を解決するよう指示が出された。各地より未払い 問題をどう解決しているかの進展状況が報告されている。以下にいくつか例をあ げる。 四川省 毎日支払い状況の報告 月 7 日まで) 2003 年の未払い総額の 52.4%が支払済(1 3 年間で完済(副省長) 広州省 工事保証制度の推進、施工上の審査管理強化など7つの措置 南京市 公共工事の発注者、デベロッパーに契約どおりの支払いを要求 江蘇省塩城市 未払いの施工企業は、年度の優秀賞などの対象としない 湖南省南岳鎮 未払い企業は、新規に工事手続きに入れない 湖南省 1 月 15 日まで 支払った工事費 31 億元、未払い給料 11 億元 (内 2003 年分は、工事費 18.3 億元,46%、給料 8.5 億元、97%) (南京市の例が面白いところで、問題の本質に触れている。従来、施工業者が支払 いをケチるのは通例だとして、発注者から工事代金がちゃんと貰えないのが、最 大のネックとなっていたものである。) 出稼ぎ労働者の賃金未払い問題は、都市部と農村部の所得格差の是正が政府の 157 重要な政策課題になっている背景があり、一方徹底してやれば財政問題に突き当 るという矛盾を抱えている中で、中央でも放って置けないとの認識になったよう である。年末の帰省に合わせ、如何にも中国流の問題の取り上げた方をしたとい うところであろう。中央の熱心な姿勢を民衆にアピールし、重慶の例を突破口と して全国へ展開という筋書きである。重慶の話は決して偶然ではない。 (2) 令 113 号問題 中国建設市場の急拡大が続く中、日系ゼネコン始め外国の建設業者は、元々参入し にくい中国建設市場への事業展開を図る上で新たな問題を抱えている。対外経済貿易 合作部(旧)・建設部令 113 号は、WTO 加盟後の約束として新たに出された『外商投資 建築業企業管理規定』のことであり、外国建設業者の中国国内の建設請負事業活動に かかわる法律である。問題は、加盟以前は、ケースバイケースで、例えば日系企業の 中国での工場建設を、日本の建設会社が直接請け負うことが認められていたもの(建 設部令 1994 第 32 号『中国国内において工事を請け負う外国企業の資質管理暫定規定』 プロジェクト毎に資質を申請・取得することで、外国の建設会社が施工許可をもらえ た。)が、廃止されたことであった。昨年 10 月 1 日より実施されることになっていた 令 113 号は、外国の建設会社が中国で工事を施工するには、現法を設立し、資質証を 取得することを要求している為、昨年中国に事業展開している日本のゼネコンは大い に慌てさせられ、多くのゼネコンは昨年中国現法を設立し、新たに資質を取得した。 令 113 号は、表向き SARS があったためという理由で今年 4 月 1 日まで発効が延期さ れたが、多くのゼネンは、現法設立したものの、独資の場合は、受注対象工事や工事 受注金額に大きな制約があり、事業継続の可能性について悩ましさを抱えたままにな っている。令 113 号に関しては、懐の深い中国のことなので、何らかの現実対応が有 り得るのではないかとも期待されるが、令そのものは本質的に中国の建設業者の利益 を守る為、外国建設業の参入・事業展開を阻害するものであり、そのことは、中国建 設産業の発展又発注者の利益に必ずしも合致するものではないとの見方も無いわけ ではなく、又、欧米の建設会社も事実上の参入制限であるとして中国政府に改善を強 く要求しており、何れ WTO のレビューの中でも検討されていくものと期待されるが、 日系ゼネコンは、中国では暫く現法での対応を続けざるをえないこととなる。 (3)不動産開発 不動産開発投資は、2003 年度は、中国経済の急速な発展(2003 年 GDP9.1%成長)、 可処分所得の大幅な向上などを背景にした旺盛な住宅需要、商業ビルに対する需給バ ランスの改善などを背景に、2002 年度の対前年比 21.9%増から更に加速して、対前年 比 29.7%増の 10,106 億元と初めて一兆元を超えた。2000 年の 4,984 億元からわずか 3 158 年で実に倍増となっている。不動産開発投資の全固定資産投資に対する割合は、18.3% であった。 旺盛な需要は、投機的な動きを含め、既に一部で不動産バブルの傾向を引き起こし ている。統計局と国家発改委による、35 都市を対象にした不動産市場調査によると、 2003 年の不動産価格は前年比で 4.8%の上昇となったが、上海市では、昨年第 4 四半 期、対前年同期比 29.1%の上昇、沿岸都市部でも二桁の上昇率となっている。 住宅販売価格は、前年同期比 5.2%上昇、投機の主な対象となっている商品住宅で 7.6%、一般住宅で 7.3%、経済住宅で 2.5%の上昇となった。商品住宅の販売額は、対 前年比 34.1%増の 7,671 億元、そのうち個人購入分が、対前年比 35.8%増えて、全体の 92.5%を占めるにいたっている。一方、全国の住宅空室率は、西部地域を中心に上昇 が続くなど不動産市場はマーケット変調の兆しが見えてきている。 足元過熱気味の不動産市場であるが、2004 年度は、特に年前半はこのユーフォリ アが続き、高い水準の需要が続くものと見られるものの、北京では、昨年後半より大 幅に増加した、住宅を中心とした開発案件が市場に供給され始めたことから、Grade A の住宅、特にオフィスでは、分譲、リースとも値下がり傾向にある。上海でも、特に 住宅価格(分譲・リースとも)に、高止まり傾向が出てきており、又、オフィスでも、 absorptionrate の低下、それに伴って空室率に反転の兆しが出てきていることから、 2004 年度の不動産価格は、high-end のものを中心に、若干低下するというのが、専門家の 見方になっている。 159
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