組織へのコミットメントではなく、 組織「目的」へのコミットメント

総括
総括
組織へのコミットメントではなく、
組織「目的」へのコミットメント
古野庸一
リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 所長
時代と共に、個と組織の関係は変わってきた。個を生かしながら組織へのコミットメントを高めるに
はどうすればよいのだろうか、という問題意識に沿って、ここまで、識者へのインタビュー、企業事例、
および弊社調査からの示唆をご紹介してきた。そこから見えてきた 3 つのポイントを整理し、本特集
の締めくくりとしたい。
アフリカのムブーティ族は、移動性狩猟採集民族
あったとしても、組織内にいることを選択する。
である。数十名の小集団でキャンプを張り、レイヨウ
などの獲物の狩りをしながら暮らしている。大型の
組織の目的や理念にコミットメント
獲物は集団で協力しながら狩りを行い、捕らえた獲
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物は公正かつ公平に分配する。優秀な狩人や首長が
狩猟採集民族のあり方を考えることは、個と組織
他人より多く肉をもらえるわけではない。平等に分け
の関係の本質を捉える上で一助になる。しかしなが
られる。いかさまやズルをする者、怠けてただ乗りす
ら、
現代社会は複雑である。組織の人員数はより多く、
る者は、仲間外れ、嘲笑、体罰といった処罰を受ける。
複数の階層がある。一方で、従業員が属するコミュニ
このような平等主義は、ムブーティ族に限らず、狩
ティは複数ある。家族、地域、趣味の集まり、学生時
猟採集民族に広く見られる傾向である。食料の供給
代の同窓生などのコミュニティである。ある企業を
が不安定で貯蔵がきかないものであれば、仕留めた
辞めて他の企業へ転職することも可能である。組織
獲物を集団で分配した方が集団全体の利益になり、
に対するぶら下がりは許されないが、狩猟採集民族
集団全体の利益は個人の利益になる。そのことが分
と比べると、組織への貢献度は見えづらく、解雇は難
かっているから、平等主義が成立している。互恵シス
しい。そういう状況のなかでも、企業は、組織に対す
テムであり、共済の考え方である。
るコミットメントを高め、貢献してほしいと思ってお
そこでの個と組織の関係は明確である。自分が食
り、高い貢献を勝ち得た組織が繁栄していく。
べるために狩りを行う。獲物は組織全体で分配する。
組織へのコミットメントを高める方法として、組
頑張った結果獲物が得られなくても、誰かが仕留め
織の目的や理念に共感させるという方法がある。ディ
た獲物にありつける。そのことに感謝し、次は自分が
ズニーやスターバックス、ジョンソン・エンド・ジョ
捕るように努力する。狩りがうまくなるよう努力す
ンソンなどの企業で実施している。取材したエー・
る。組織に対するぶら下がりは許されない。組織に対
ピーカンパニーでは、アルバイトであっても、理念に
する健全な貢献が求められる。狩りがうまい人は、組
共感させ、自らの仕事を意味づけし、組織コミットメ
織を離れた方が、より多くの食料にありつけるかも
ントを高めるための取り組みを行っている。
しれないが、獲物が見つからなければ死につながる
プロ集団のボストン コンサルティング グループ
という恐怖がある。その恐怖がある限り、しがらみが
(以下 BCG)では、組織に対する貢献がバリューとし
vol.38 2015.03
特集
組 織 コミットメント ∼ 滅 私 奉 公 で は な い 帰 属 の あり 方 ∼
て求められており、組織への貢献ができない人材は、
職場」である。目標の共有と共に、各メンバー相互の
いくら優秀でも採用されない。市場性が高いプロで
仕事の依存性を高めることによって、利他的な支援
あるからこそ、組織貢献が理念・バリューとして明示
行動や勤勉行動を促進させながら、自律的な創意工
されており、それによって、個を生かすことと組織コ
夫行動を促すことができる。
ミットメントを高めることを両立させている。滅私奉
公させていた高度成長期の日本企業と、エー・ピーカ
ンパニーや BCG とは、組織への貢献を求めている点
過度なコミットメントを求めない
では共通であるが、それぞれの個の存在を認め、自律
組織全体であろうが、小さなグループやプロジェ
的に考えることを奨励している点が違うところであ
クトであろうが、過度にコミットメントを求めること
る。
は、個と組織、双方にとって望ましくない。松山氏に
よると、過度なコミットメントは、メンタルヘルスを
グループや職場など小さい単位での展開
損なうという。自我が組織に呑み込まれ、自己性が
しかしながら、企業の目的や理念では引っ張れない
ことができなくなる。そうならないためにも、組織と
という企業も多く存在する。そのような企業が無理や
適度な距離を置くこと、あるいは、高尾氏が言うよう
り理念やビジョンを作って浸透させても、コミットメ
に、多元的なアイデンティフィケーションを積極的
ントは引き出せない。それよりは、西脇氏が言うよう
にもつことが望まれる。企業でのマネジメント経験
に、グループやチームなどの小さな組織やプロジェク
が NPO や地域活動で役立つように、企業外での経験
ト単位で、目的やビジョンを明確にして引っ張ってい
は、企業でも役に立ち、人としての成長を促すことが
くことの方が現実的である。プロフェッショナルも貢
研究でも実証されている。
弱くなる。いわゆる会社人間になり、自律的に考える
献しやすい。ワールド・ベースボール・クラシックや
フィギュア・スケートの団体戦、あるいは ER(救急救
ここまでをまとめる。これからの組織コミットメン
命室)
のような医療チームのケースでも分かるように、
トは、組織そのものへのコミットメントではなく、組
比較的小さな単位であれば、目的を媒介にして、一匹
織そのものとは適度に距離を置いて、組織の「目的」
狼的なプロであっても一体感をもつことができる。
へのコミットメントという概念で語っていくことが
、組織の「目的」に対するコ
弊社調査では( P19∼)
望ましい。それは部下マネジメントという観点から見
ミットメントが因子として抽出された。この群は、満
ても、重要である。
足度や意欲だけでなくプロ意識も高く、属する組織
今後のメンバー構成を考えていくと、年上のメン
に対して「共通の目的で集まった」と認識している。
バー、多様な価値観をもったメンバー、プロ意識が高
NPO 法人などで、思いはあるが全体が進まないと
いメンバーが増えていくと予想される。そのようなメ
いうことがよくある。そのようなケースでは、プロが
ンバーの力を発揮させ、パフォーマンスを上げるた
力を発揮する。経営のプロ、経理のプロ、営業のプロ
めには、組織そのものではなく、組織や仕事の「目的」
などが、NPO の理念に共感し、力を発揮して、全体
への共感、納得が優先事項である。マネジメントも組
が動いていく。個と組織の両者を生かしていくため
織の「目的」を最優先に考えることによって、年長者
には、目的・目標や理念が核になっていく。
やプロのメンバーに遠慮することなく、仕事が全う
職場単位でも、目的・目標を共有することで強い組
できる。一方で、メンバーも共感した「目的」に向かっ
織が実現できる。鈴木氏が提唱している「関わりあう
て、熱く、自律的に組織に貢献できると考えられる。
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