アラブ首長国連邦での出産と子育て(3)

JOMF NEWS LETTER
No.224 (2012.09)
アラブ首長国連邦での出産と子育て
第 3 回 : 出産と産後 :
出産体験談、入院中の様子、産後のサポート
海外出産・育児コンサルタント
Care the World 代表
ノーラ・コーリ
【 出産 】
インド人の助産師、フィリピン人のナース、エジプト人のドクターとこのように国際色豊かな医療ス
タッフに囲まれての UAE での出産は、それだけでもちょっとした異文化体験です。そして、実際のお
産も日本とはまた違った体験だったと現地で出産された方々は口々に語っていました。
日本人が多く利用する私立の病院をいくつか見学しましたが、まず、入院が決定すると、お尻丸
出しの病院支給のガウン(病院着)に着替え、浣腸が行われ、分娩監視装置が付けられます。グル
コースの点滴は決まって行われるところが多く、それが始まると食べ物や飲み物はしばらく摂取でき
ません。破水や出血のために大人用のおむつがあてられます。そして、ペンを握れるうちに、ドクタ
ーとの承諾書にサインを求められます。
陣痛の間は痛み緩和を目的にシャワーを浴びることやバランスボールに乗ることを勧められます。
痛みには自然に対応している様子が伺える反面、いよいよ陣痛もクライマックスを迎えると、医療ス
タッフは無痛分娩を強く勧めます。その結果、多くの日本人はその段階で無痛分娩に切り替えてし
まうそうです。なお、お産の時には、夫、または身内の立会いが前提となっています。
お産に関わるスタッフは、陣痛が軽いうちはナースのみ、陣痛の間隔が短くなると助産師が加わ
り、いよいよお産という段階で担当の産婦人科医が現れ
ます。赤ちゃんが生まれると今度は小児科医が登場し
ます。ドクターがへその緒を切り、赤ちゃんのからだをチ
ェックし、異常がなければ、助産師が産湯の世話をしま
す。なお、産湯はなく、ただからだを拭くだけという病院
もあります。ビタミン K は産後すぐに与えられ、赤ちゃん
は布でぐるぐる巻きにされて渡されます。病院によって
は「カンガルーケア」を取り入れていて、そのような病院
では産まれた直後に赤ちゃんをお母さんの胸元で抱か
せてくれます。
ぐるぐる巻きにされた赤ちゃん
「早く生まれるようにショッピングモールをぶらぶらして
いたら、いつもとは違うおなかの張りを感じ始めました。
その晩、陣痛の間隔が 10 分になったので、ドクターに連絡し、病院に向かいました。陣痛の間、バ
ランスボールでホッピングしろと言われたり、他にもシャワーを浴びて痛みを逃すようにアドバイスさ
れたり、日本との違いを感じました。そして、痛みが強くなるにつれて、ドクターもナースも無痛分娩
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を勧めてきましたが、かたくなに拒み続けました。しかし、とうとう
耐えられず、エピ(硬膜外麻酔)をお願いしました。その後すぐに
麻酔医がかけつけ、ここでもまた承諾書にサインを求められまし
た。麻酔は数分後に効きだしました。モニターで陣痛が来ている
のはわかるのですが、痛みはうそのようになくなり、ずるっと生ま
れる感覚だけを経験しました。UAE でのお産はまさに余裕でし
た。」
【 病室 】
私立のほとんどの病院は全室個室です。花柄のカーテンがか
かっていたり、家具なども木調で揃えていたりと、アットホームな
雰囲気です。清潔さにおいては、朝の清掃から始まり、シーツ、タ
分娩監視装置を着用している
オル、病院着は毎日交換されます。必要なものはすべて備わっ
様子
ているので、日本での入院と比べると、少ない荷物で入院できま
す。個室なので、プライバシーも保たれ、面会時間の設定も特になく、家族が自由に行き来できたと
好評でした。また、付き添いも病室に泊まれるように工夫がされていました。
【 入院中の生活 】
1 日の流れは早朝の検温から始まり、朝食の後に回診があります。赤ちゃんの沐浴は午前
中にナースによって行われ、産婦は昼食→検温→夕食といった流れです。消灯時間はありま
せん。日本の多くの病院では授乳のために夜中でも母親を起こしますが、UAE では母体の回
復に重点が置かれるため、夜間はナースステー
ションで赤ちゃんを預かってくれます。
また、日本では入院中に沐浴指導、授乳指導、
おむつの当て方、産後の避妊の指導などが行わ
れ、忙しいのが特徴ですが、UAE ではそのよう
な指導は特になく、授乳以外の時間は母体を休
めるように指導しています。授乳の仕方におい
ても、始めはナースがそばについて様子を見て
くれますが、その後は聞かない限り、本人に任
病院の廊下の様子
(写真提供:ドバイ情報別 CAN ブログより)
されます。そのため、初めてのお子さんの場合、
わからないことは積極的に聞くとよいでしょう。
【 入院中の食事 】
海外の病院で出る食事が日本人の口に合うかどうかはとても重要なところです。UAE での選択
肢は洋食系、アラブ系、インド系とありますが、実際にはアラブ料理とインド料理の二つが中心にな
ります。ちなみにアラブ料理には必ず豆料理とアラビックパンが添えられます。またミロというココア
のようなものが出るのも UAE の特徴です。他にもスープ、サラダ、メインディッシュとそれぞれにお
いて選択肢があったり、ミルクは温かいのがよいか、冷たいのがよいかなどの細かい選択もできま
す。ボリュームはあるものの、辛かったり、味がもの足りなかったり、コーヒーはインスタントであった
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りと日本人の間ではあまり評判はよくありませんでした。また、夕食と昼食の内容があまり変わらな
かったとやや不評でした。そこで、中には近くの日本食レストランでお寿司を買ってきてもらったり、
タイレストランでテイクアウト料理を買ってきてもらったり、自宅からおにぎりを差し入れしてもらった
りしてその場をしのいでいる人もいました。それでも希望をすれば付き添いの方への食事も出しても
らえますので、うれしいこともあります。
献立の一例として、
朝食 : パンと卵料理、牛乳、ジュース、紅茶
昼食 : 肉料理、豆料理、サラダ、フルーツ、アラビックパン、ヨーグルト
夕食 :
昼食と同じ品数で、フルーツのかわりにデザート
【 母乳 】
日本人の多くは母乳で育てることを希望するのに対して、アラブ人はさほどこだわりがありません。
そのため、母乳の出が悪いと伝えると、すぐに人工乳を勧めるナースもいます。ナースもさまざまな
国でトレーニングを受け、育った国の習慣を取り入れることもあるので、最終的にはドクターに相談
するとよいでしょう。また、赤ちゃんにお茶?と思われますが、Baby tea というハーブの香りと甘み
のあるものを与える病院もあります。
母乳育児のトラブル解決には、母乳育児をサポートするための母乳外来やヨーロッパ人が設立し
た母乳育児を推進する協会もありますので、そのようなところに相談するとよいでしょう。日本のよう
な母乳の出をよくするための乳房マッサージなどはなく、ただひたすらすわせるようにと指導されま
す。
【 入院期間 と 費用 】
入院期間は日本とは大きく異なります。早ければ出産したその日に退院する人もいます。しかし、
一般的には自然分娩で一泊二日、帝王切開で二泊三日です。退院が決まると会計の人が支払方
法について相談しに病室に来てくれます。UAE ではクレジットカードでの支払いも受け付けています
ので、大金を現金で用意する必要はありません。なお、出産費用においては、担当医、病室の差額、
分娩法、入院期間、薬や検査費用、によって多少は違いますが、日本と比較するとそれほど高くな
いという感想でした。病院によっては、個室・自然分娩・2泊というようにパッケージになっていて、こ
れに無痛分娩や付添い人の宿泊料などが加わると加算されるというように料金が設定されていまし
た。また、診察代や検査代などを妊娠時のいつから通院するかによって料金を設定しているところ
もありました。このように費用設定がドクターや病院によってさまざまなのが UAE の特徴とも言える
ため、そのシステムを理解することが大切です。
【 産後の生活 】
産後は日本から実家の母親や姉妹を呼び寄せたり、夫に休暇をとってもらったりして、皆さん産
後を乗り越えていました。また、UAE ならではの利点として、メイドを雇う方々も多くいました。メイド
はたいていタイ、スリランカ、フィリピン、インドからの出稼ぎの女性です。住み込みはほとんどなく、
通いで週に何日か数時間で契約しています。家の掃除、洗濯、上の子どもの世話、買物などかなり
の部分で助けてくれます。
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買物は日本でいれば、近所のスーパーやコンビニへすぐにいけますが、アブダビやドバイでは暑
さのため、外出は容易ではないため、宅配制度が発達しています。余談ではありますが、中東らしく、
水タバコの宅配もあるくらいで、デリバリー天国とまで言われています。レストランはケータリングの
メニューを常に配布し、スーパーマーケットの宅配サービスも充実しています。食料はもちろんのこ
と、水のボトルなどの重たいものも宅配してもらえるので、産後はおおいに利用したいところです。
【 誕生の登録 】
海外で生まれる子どもはすべてその国の国籍を取得できると思いがちですが、それは誤解です。
UAE では日本人の両親のもとに生まれた子どもは日本国籍しか得ることができません。まず病院
でもらった出生書を保健省に提出すると、出生証明書が発行されます。次に日本大使館に出生届
を提出し、戸籍に登録されてからパスポートを作成し、residence (在住者)ビザを取得します。病
院側の出生書には出生時間が記載されていますが、出生証明書には記載はありません。日本大
使館へ出生届を出すのは出生後3ヶ月以内ですが、UAE へはすぐに出生登録をするため、名前は
生まれる前に決めておかなくてはなりません。
【 UAE の赤ちゃんの特徴 】
女の子の場合、生後3ヶ月くらいで耳にピアスをします。そのため、性別の区別がはっきりとしま
す。また富の象徴ともいわれる金をブレスレットを何本も身につけています。これらは出産祝いなど
でプレゼントされるそうです。新生児をぐるぐる巻きにすることは前に述べましたが、アラブの子ども
ははいはいをするような年齢でも落ち着かせるという目的でやはり真四角なおくるみでぐるぐるにき
つく巻くそうです。また、太陽の光がさんさんと降り注ぐ UAE であるにもかかわらず、暑すぎて赤ち
ゃんを強い陽射しのもとには出せないため、クル病予防にあえてビタミン D が処方されます。
このようにどの過程をとっても UAE では日本とは違った出産体験です。自然と近代医療が融合し
たような印象ですが、皆さん全般的には満足されています。
さて、次回はいよいよ子育てについてご報告いたします。
=編集部より=
6月よりノーラ・コーリさんによる連載を開始しました。ノーラさんには今までもオランダ、
フランス、韓国、パナマ、インド等多くの地域の報告を掲載させていただきました。今回はイス
ラム圏のアラブ首長国連邦がテーマです。妊娠、出産、小児医療等についての貴重なレポートを
ご紹介致します。
今までの記事は JOMF サイト TOP ページ右上の Google でサイト内検索をかけると多数ヒットし
ますのでぜひあわせて読んでみてください。
プロフィールを簡単にご紹介します。:海外出産・育児コンサルタントとして、20 年以上に渡
り、世界の出産、子育て事情を調べています。精神医学ソーシャルワーカーとしては海外在住女
性のメンタルヘルスにかかわっています。日本で生まれた日本人ですが、アメリカ、カナダ、シ
ンガポールと海外在住 27 年。現在はニューヨークにて知的および身体障害者のデイケア施設の管
理職に就いています。
「海外で安心して赤ちゃんを産む本」、
「海外で安心して子育てをする本」、
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「愛は傷つけない-自立に向けてのガイドブック」など多数の著書が出ています。上記の他、医療
通訳 (妊娠、出産、育児、福祉、教育
を専門とする)、バイリンガル教育コンサルタントと
しても活躍中です。詳細は下記サイトでもご覧になれます。
http://www.caretheworld.com