アラブ首長国連邦での出産と子育て(2) 妊娠中の過ごし方 現地か帰国か

JOMF NEWS LETTER
No.222 (2012.07)
アラブ首長国連邦での出産と子育て
第 2 回 : 妊娠中の過ごし方 :
現地か帰国かの迷い、暮らしの工夫、お産への希望、育児製品の準備
海外出産・育児コンサルタント
Care the World 代表
ノーラ・コーリ
【 現地で産むか、帰国して産むかの迷い 】
現地で産むか、帰国して産むかの迷いは海外で妊娠した場合、誰しも一時は考えること
でしょう。帰国すればことばの面での不安はなくなりますが、大きなおなかを抱えての帰国、
滞在先、臨月近くで受け入れてくれる病院、上の子どもの学校、小さな赤ちゃんを抱えての
飛行機の旅、などを考えるとむしろ現地の慣れた環境を選ぶ人が多くいます。特に若い世
代の間では夫婦そろって赤ちゃんを迎え、育てたいという傾向が強いです。また、アラブ首
長国連邦(以下 UAE)では医療の面では大きな心配はありません。さらにメイドの助けも得
られるということは現地での出産に踏み切る大きな要因です。
迷った場合、以下の事項を考慮するとよいでしょう。
 現地の生活にある程度慣れているか(ことば、厳しい気候、イスラム教にかかわる
習慣や価値観、土地勘、どこになにがあるか、など)
 妊娠中の経過が順調で自分の健康に自信があるか
 夫と二人で乗り切る覚悟があるか (夫は出張がちでないか)
 信頼できるよい担当医に巡り会えたか
 万が一なにか起きた場合、現地の医療を信頼できるか
 産後はサポートしてくれる人がいるか (日本からの応援、友人、メイド)
 帰国を考えている場合は、夫は休暇を出産に合わせてとれるか
 帰国した場合、最初の数ヶ月は父親の存在がないが、それでも納得できるか
【 薬 】
日本では妊娠中の薬の服用に対してたいへん慎重ですが、UAE では比較的薬が多く出
ます。妊娠初期には Folic Acid (葉酸)、Vitamin B Complex (ビタミン B 複合体)、食欲
増進剤、つわりがひどい場合は吐き気止めなどが処方されます。妊娠中期になると貧血予
防のための鉄分の薬が足されます。そのため、健診のたびにドクターは薬はまだあるかと
聞いてきます。そして出されたにもかかわらず服用していないと伝えると、必ず服用するよ
うに勧められます。
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【 暮らしの工夫 】
UAE は砂漠気候です。数ヶ月の過ごしやすい冬を除くと外を5分と歩けない暑さとなるの
で、どこへ行くにも自動車を利用します。そのため、どうしても運動不足になりがちです。現
地のドクターは体重に関してはそれほど厳しくないので自己管理になります。日本人の妊
婦の皆さんは、ショッピングモールの中を歩いたり、外を歩くのなら、日没前後、ちょうど湿
気が高くなる前の風がさわやかな時間帯に散歩をしたりして、運動不足を解消しています。
またホテルやスポーツクラブなどではマタニティースイミングやエアロビクスクラスも開かれ
ています。
外出中の注意ですが、ドバイ、アブダビにはスピード
をゆるめるための humps というでっぱりが道路のあら
ゆるところにあります。これは若くて裕福なドライバーが
直線道路などでかなりのスピードを出すので少しでも交
通事故を防ぐためです。この humps の通過時には上下
振動があって妊婦にはよくないため、なるべく humps
道路の humps
の少ない道路を選ぶように指導されます。
また、UAE は都市を少し離れると砂漠です。砂はと
ても細かくさらさらしているため、簡単に足をとられてし
まいます。バランスを崩すと危ないのでアラブの人たち
の間では妊婦は砂漠には出かけないようにと呼びかけ
ています。
食生活では生魚を食べないように指導されます。
足をとられる砂漠の細かい砂
一方、UAE の名産デーツ(なつめやしの実)は食べるように勧められます。これはプルーン
と同じ効果があり、便秘予防によいとのことです。さらにアラブ人の間ではデーツをよく食べ
ると安産が期待できるとも言われています。同様にオリーブも勧められます。
UAE で暮らす日本人の多くはイギリスへ日本語の通じるクリニックで健康診断に出かけ
たり、ヨーロッパ諸国に旅に出たり、東南アジア諸国に日本食の買出しに出かけたりしてい
ます。妊娠中でも安定期には皆さん積極的に海外に出られています。妊娠中の海外旅行
においては、航空会社によっては妊婦であることを伝えておくと、よい席を確保してくれたり、
子どもがいると空港でのサポートがあったりしますので、予約を入れる段階でその旨を伝え
ておくとよいでしょう。UAE の航空会社は、ドバイが基点の Emirates とアブダビが基点の
Etihad があります。どちらも妊婦、女性、子どもに対しては思いのほか特別な配慮があり、
イスラム教の教えが反映しているようです。
【 出産準備教室 】
出産に関しての指導は最近になって少しずつ各病院で行われてきています。そのた
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め、病院によっては、人数が集まり次第開催されるものもあるので、とりあえずその
ような指導があるかドクターに聞くとよいでしょう。Parent Education Class (出産
準備教室)はたいてい小児科、産婦人科病棟の看護師や助産師が担当しています。内
容においては妊娠中のからだの変化や気をつけること、お産のときの呼吸法、陣痛
室・分娩室・病室などの見学、新生児の沐浴や着替えの仕方などが行われます。夫婦
で参加できます。
【 どのようなお産の希望を出せるか 】
日本人は比較的自然分娩を選ぶのが一般的ですが、UAE でお産にのぞむご家族の中
には案外あっさりと医療の介入をのぞまれる方が多いのには驚きました。たとえば、日本で
はなかなか経験できない無痛分娩を選ぶ方、親が産後の手伝いに日本から来る日程や夫
の出張の時期を避けるために計画分娩を選ぶ方などは UAE に滞在してこその選択だと思
いました。
ビデオ撮影、写真撮影などの規制はゆるく、許可されています。また、夫立会いでの出産
を多くの日本人が希望していますが、これは問題なく受け入れられます。
アラブ人は子どもを 5,6 人産むのが一般的で、無痛分娩を選ぶ方が多いようです。また、
病院側ではあまり勧めないものの、あえて帝王切開を希望する妊婦が多いことには驚きま
した。
【 育児製品の調達 】
赤ちゃんに必要なものは、イギリス系の Mothercare を始め、ベルギー系の
Premaman のようなお店など選択肢はたくさんありますので、安心です。これらの店
はたいてい大きなショッピングモール内にある
ので、炎天下での移動が避けられます。
マタニティー服においては特に買う必要もな
かったという感想を多く聞きました。それはア
ラブの女性は宗教上の理由からボディラインの
目立たないゆったりとしたサイズの服を着てい
るので、そのようなもので代用できるとのこと
もっぱら屋内で使われるベビーカー
でした。また、UAE ではテーラーも気軽に利
用できますので、この機会に変化するからだ
にマッチする服を仕立ててもらうのもよいで
しょう。
妊婦用の下着に関しては、現地の人はあま
りこだわりがないため、サイズや種類が限ら
育児製品を扱うベルギー系のお店
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ています。そのため、これらのものはインターネットで日本に注文をし、実家に配送
を依頼し、そこから取り寄せている人もいました。
店によっては母乳の搾乳機や保存袋、テープ付きの母乳パッド、授乳用ブラなどが
売られているところもあります。ただしこれらのものはアラブ人の間ではあまり需要
が多くないため、在庫が切れるとある程度の期間、品物が補充されない可能性があり
ます。そこで、必要と思われるものは見つけたときに購入するとよいでしょう。
新生児の衣類に関しては、現地で売られているものは、欧米製のものが多く、それ
らは頭からかぶるタイプが多かったり、足の先までカバーされているものが多く、前
開きにこだわる場合は日本から取り寄せるとよいでしょう。また、日本のピジョン社
の製品が出回っていますので、哺乳瓶関連の品から赤ちゃん用綿棒に至るまで現地で
調達できます。新生児の紙おむつも購入可能です。
次回はお産の体験談および入院中の様子をお伝えいたします。
=編集部より=
6月よりノーラ・コーリさんによる連載を開始しました。ノーラさんには今までもオランダ、フラ
ンス、韓国、パナマ、インド等多くの地域の報告を掲載させていただきました。今回はイスラ
ム圏のアラブ首長国連邦がテーマです。妊娠、出産、小児医療等についての貴重なレポー
トをご紹介致します。
今までの記事は JOMF サイト TOP ページ右上の Google でサイト内検索をかけると多数ヒ
ットしますのでぜひあわせて読んでみてください。
プロフィールを簡単にご紹介します。:海外出産・育児コンサルタントとして、20 年以上に渡
り、世界の出産、子育て事情を調べています。精神医学ソーシャルワーカーとしては海外
在住女性のメンタルヘルスにかかわっています。日本で生まれた日本人ですが、アメリカ、
カナダ、シンガポールと海外在住 27 年。現在はニューヨークにて知的および身体障害者の
デイケア施設の管理職に就いています。「海外で安心して赤ちゃんを産む本」、「海外で安
心して子育てをする本」、「愛は傷つけない-自立に向けてのガイドブック」など多数の著書
が出ています。上記の他、医療通訳 (妊娠、出産、育児、福祉、教育 を専門とする)、バ
イリンガル教育コンサルタントとしても活躍中です。詳細は下記サイトでもご覧になれます。
http://www.caretheworld.com