固定電話は もう いらない 先行ユーザーに学ぶ意識改革

[特集]先行ユーザーに学ぶ意識改革
固定電話は
もう いらない
固定電話はもういらないのか ─。携帯電話が普及した結果、家庭で固定電話を利
用する機会が激減している。ここ最近、個人消費者の流行が企業に波及することも
多いが、オフィスでも家庭と同様に固定電話を使わなくなるのだろうか。一部では固
定電話をなくし、新しいワークスタイルの確立に取り組む企業も出てきている。ユー
ザー企業やベンダーを直撃してオフィスの電話の今後を見通す。
(白井 良)
迫るPBXの保守期限
攻めか守りか決断の時・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
[攻めの投資編]
電話のワークスタイルを変える
6 社の
「固定電話撤廃」の挑戦・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
[守りの投資編]
更新を低コストで済ますトレンドが台頭
鍵は
「既存資産の活用」・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24
12
NIKKEI COMMUNICATIONS June 2013
迫るPBXの保守期限
攻めか守りか決断の時
「顧客との密なダイレクトコミュニケーショ
スホンなどの内線電話システムを更新する企業
ンができるようになってきた」─こう胸を張
が相次いだ。
「2007 年から2008 年にかけてIP
るのがJSOLの池田明聡経営企画本部総務部
電話関連の投資はピークを迎えた」
(IDC Japan
長。同社は2007年に社員が利用する電話端末
の眞鍋敬ソフトウェア&セキュリティ グループ
を固定電話機から携帯電話機に置き換えた。併
マネージャー)
。
せて部門代表をなくし、営業担当者やシステム
当時投資した内線電話システムが、今まさに
エンジニアが顧客と1対1でコミュニケーション
保守切れを迎えようとしている。内線電話シス
する業務スタイルに変えた。
「部署単位の営業
テムの保守期間は5〜7年が一般的。保守の延
から個人単位の営業へ変える」という当時の社
長を交渉したり、保守切れの状態で使い続けた
長の方針にのっとったものだ。電話の刷新をワー
りする企業もあるが、保守の期限が切れた時を
クスタイル変革のトリガーにできた好例といえ
更新のタイミングと考える企業が多いはずだ。
るだろう。
日本コムシスの相田悦男執行役員ITビジネス
現在、多くの企業がオフィスの電話を検討す
事業本部副本部長営業部長は「2012 年から更
べき時期に直面している。今から8年ほど遡っ
改案件が増えてきている」と明かす。
た2005年3月、NTT東西は光ファイバーを使っ
ただ今回の電話の刷新は、情報システム部門
たIP電話サービス「ひかり電話ビジネスタイプ」
や総務部門に一つの難題を突き付ける。投資回
の提供を開始した。これを軸に低料金のIP電
収の筋道が立てづらいのだ。
話サービスが急激に普及し、☞PBXや☞ビジネ
ひかり電話の登場以来、固定電話料金は「3
June 2013 NIKKEI COMMUNICATIONS
13
[特集]固定電話はもういらない?
本文中☞の付いた用語を解説
PBX ▶ Private Branch eXchange。構内交換機。ビル
構内で内線電話網を実現す
るための交換機。内線電話
同士を接続したり、内線と
外線を接続したりする。内
線通話を重視した作りに
なっており、多数の内線電
話機を接続できる。大企業・
大規模拠点向け。
ビジネスホン▶ PBXと同様
にビル構内で内線電話網を
実現するための構内交換機。
ビジネスホンは電話機も含
めた一式のシステムを指す
ことが多いため、交換機は
「主装置」と呼ぶ。外線通話
を重視した作りになってお
り、着信した外線に応じて
異なるラインキーを光らせ
るような動作が特徴。ドア
ホンや防犯センサーとも接
続できる。中小企業・中小
拠点向け。
分8.4円」に据え置かれている。大きく料金を引
スタイルの変革に結び付ける “攻め”の方針。も
き下げるようなサービスは登場していないし、
う一つはできるだけコストをかけずに更新する
通信事業者も「これ以上の引き下げは難しい」
“守り”の方針だ。
(NTTコミュニケーションズの高山充ボイス&
ビデオコミュニケーションサービス部サービス
電話を見直してワークスタイルを変える
企画部門担当部長)と漏らす。
「これまでは
ワークスタイルの変革を狙う攻めの方針では、
ISDNやマイライン、ひかり電話、直収電話な
「固定電話を捨てる」が一つのターゲットになる。
ど、通話料を下げる回線サービスが数年おきに
具体的には、携帯電話やソフトフォンへの刷新
登場した。更新の時に回線サービスを切り替え
だ。どちらも「人が移動しても電話が付いてく
て、電話に関わるコストを減らす企業が多かっ
る」という発想である。企業によって事情は様々
た」
(フォーバルの松山哲也マーケティング推進
だが、大まかな導入パターンとしては社外での
室室長)
。
活動が多い会社は携帯電話、社内での活動が多
固定電話料金が下げ止まっている現在、従来
い会社はソフトフォンという傾向がある。
と同じ考え方では電話を更新できない。そこで
移動が容易な電話というのは、2000年代半ば
システム部門や総務部門が取り得る方針は大き
に流行した「☞内線電話のフルIP化」のコンセ
く2つある(図1)
。一つは電話の刷新をワーク
プトに近い。IP電話機は端末に電話番号が割り
図1 内線電話システムの更新期を迎える 法定耐用年数を超えて次期システムについて検討すべき時期に入った。
2005年3月
NTT東西が
「ひかり電話ビジネスタイプ」
を提供開始
8年
経過
リース切れを
迎えた
PBXの保守の
終了を予告された
PBXが更新期を迎える
電話のスタイルを見直す
設備投資を
再開できる
電話のスタイルは変えない
低コスト
での更新
ワークスタイル
の変化
FMC
ユニファイド
コミュニケーション
現場の仕事のスタイルとどう折り合いを付ける
のか、先行するユーザー企業の声を紹介
p.16∼
既存設備の活用
構内PHS
失敗しない 電話設備への投資はどうあるべき
か、電話機ベンダーの製品・ソリューションを紹介
p.24∼
PBX:構内交換機
FMC:Fixed Mobile Convergence
14
NIKKEI COMMUNICATIONS June 2013
図2 間違えない内線電話投資のために意識すべきチェック
ポイント 重点を置くポイントは企業ごとに異なるが、すべて
の事項を満たす前提で考えたい。
当てられるため、移動先でもイーサネットケー
ブルをつなぐだけで使えるようになる。ただし、
内線電話のフルIP化は数カ月〜1年に1回程度
の人事異動や、プロジェクトの発足や解散に伴
う社員の移動を前提にしている。
携帯電話やソフトフォンを中心とした内線電
話システムは、内線電話のフルIP化のコンセプ
トをさらに一歩押し進め、前提として「社員は
常に移動している可能性がある」とする。営業
担当者や保守担当者などの外勤部門はもちろん、
る
ストを低く抑え
に関わる一時コ
新
更
□
話料を安くする
電話も含めて通
帯
携
る
□
沿った投資にす
の経営計画に
ど
な
合
廃
統
□ 本支店
るか判断、
入手し続けられ
を
末
端
に
提
前
□ 長期利用を
い構成にする
用を前提としな
は長期間の利
た
ま
乱させない
などで社外を混
」
い
な
ら
が
な
□「電話がつ
内を惑わせない
を複雑にして社
作
操
□
る
の効率を高め
□ 現場の仕事
内勤部門でも日によって異なる場所で働くこと
があるというワークスタイルの変化を反映して
いる。
がある。一つは既存資産をできるだけ生かすこ
企業を取り巻く経営環境やIT環境が変わる
とだ。新規に投資する対象を少なくするほど、
ことで、短期間でワークスタイルを見直すこと
更新にかかるコストは抑えられる。
になるかもしれない。そのとき、固定電話では
もう一つは長く使えるシステムであることだ。
リース期間や減価償却がネックになって、見直
2008年のリーマン・ショック以降、多くの企業
しできない状況に陥る可能性がある。大部分の
が設備投資を先送りした。その結果、中小企業
内線電話端末を携帯電話に置き換えたUDト
を中心に、かなりの数の保守契約のない内線電
ラックスは「PBXの減価償却に縛られないよう
話システムが稼働している。投資を先送りでき
にするのも刷新の狙いだった」
(プロセス・イン
たのは、
「長期間形態を変えていない固定電話
プルーブメント/プロジェクト・マネージメント
機」と「丈夫なPBX」という組み合わせだった
プロセス&ITの風見修市氏)という。
ことも大きい。部材が供給されないと、システ
最低限のコストで電話を置き換える
内線電話のフル IP 化▶固
定電話機まで含めてIP 化す
る内線電話システムの形態。
固定 IP 電話機はイーサネッ
トに接続して利用する。
ムの長期利用はできなくなる。拠点規模の変化
に柔軟に対応できること、主流派となる技術を
一方で、取引先との関係もあり、電話に関わ
採用すること─なども重要になる。
る業務は極力変えたくないというユーザー企業
攻め、守りのどちらの方針を取るにせよ、ユー
も多いだろう。このケースでは、守りの方針を
ザー企業は「安く」
「使いやすい」という点は押
取る。できる限りコストをかけない電話システ
さえておくべきだ(図2)
。
ムの刷新を考えることになる。ベンダーから見
次ページからは固定電話を “捨てて”、ワーク
ても「電話をワークスタイル変革に向けた投資
スタイルを変革したユーザー企業6社の事例を
と位置付ける企業と、
『電話を使う業務は変わ
紹介する。電話システムを変えると社内に何が
らない』と割り切って更新コストをかけないよ
起こるのか、気になるポイントについて担当者
うにする企業で二極化している状況だ」
(富士通
の生の声を聞いた。p.24からは内線電話システ
の清水聡サービスビジネス本部ネットワーク
ムの製品やソリューションに関するトレンドを
サービス推進部シニアマネージャー)という。
紹介する。特に導入コストの低減やシステムの
低コストの更新では2つの点に注目する必要
長期利用を重視してまとめていく。
June 2013 NIKKEI COMMUNICATIONS
15