上野先生と歩こう 中国語遊歩道 『中国のことばと文化Ⅱ』 [458]“官话”の威力 『阿 Q 正伝』から(五) 成語・ことわざ雑記(56) (221)你反了 ウーマー 呉媽が悲鳴をあげて表へ飛び出してしまったあと,阿 Q はしばらくの間ぽかんとしていたが,やが てゆっくりと立ち上がり,ちょっとまずかったかなと思いながら,キセルを腰帯にはさんで米つきに かかろうとした。と, 蓬的一声,头上着了很粗的一下,他急忙回转身去,那秀才便拿了一支大竹杠站在他面前。(バン と音がして,頭になにやら太いもので一撃を受けた。あわてて振り返ると,かの秀才が大きな竹 の天秤棒を手に彼の前に立っていた。) “你反了,……你这……”(貴様,よくもふといことを,……この……) “反”は“造反”の“反”,むほんをおこすこと。 (222)忘八蛋 竹の天秤棒がまたも真正面から振り落とされた。阿 Q が両手で頭を抱えると,パンと音がして,こ んどはちょうど指の関節に当たった。これは非常に痛かった。阿 Q は台所から飛び出そうとしたが, この時またも背中に一撃をくらったような気がした。 “忘八蛋!”秀才在后面用了官话这样骂。(「恥知らず!」秀才は背後から役人ことばで,こう どなった。) “忘八”は“王八”とも。すっぽん,或いは亀の俗称。その“蛋”(たまご)ということで,すっ ののし ぽんか亀以下の見下げたやつ,つまり「恥知らず」くらいの意の 罵 りことば。“官话”は役人ことば, つまり公用語,標準語。 (223)“官话”――お偉方しか使わないことば 阿 Q 奔入舂米场,一个人站着,还觉得指头痛,还记得“忘八蛋”,因为这话是未庄的乡下人从来 不用,专是见过官府的阔人用的,所以格外怕,而印象也格外深。(阿 Q は米つき場に駆け込んで, ひとり突っ立っていたが,まだ指は痛み,“忘八蛋”という語もまだ耳に残っていた。なぜなら ウェイチュアン こんなことばは 未 荘 の田舎者は使ったことがなく,お役所に出入りしたことのあるお偉方しか 使わなかったからである。それだけに特別に恐ろしかったし,印象もとりわけに深かったのであ る。) 但这时,他那“女……”的思想也没有了。(しかしこの時にはもう,彼の「女……」という考え も消え失せていた。) (224)事件の第二幕の始まり 天秤棒で殴られ,恐ろしい役人ことばで罵られた阿 Q は,「女……」の考えも消え失せて,もう事 件は終結したものと思って,さっぱりした気分で米つきにとりかかった。 しばらく米をついて,暑くなったので,手を休めて上着を脱いでいると,外の方がたいへん騒がし い。騒ぎが好きな阿 Q が声のする方へ近づいていくと,やがて趙の屋敷の中庭まで来てしまった。夕 ツォウチーサオ チャオパイイエン 闇の中に何人かの顔が見える。例の二日も食事をしていない奥様,隣家の 鄒七嫂 ,一族の 趙 白 眼 , チャオスーチェン 趙 司 晨 ……。 そこへ若奥様が呉媽の手を引いて女中部屋から現れた。事件はまだ終結していなかったのだ。 2016/7/1 Ⓒ2016 一般財団法人日本中国語検定協会 無断で複製・複写・転載することを禁じます。
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